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昨日で一応、今季のフィギュアねたは最後にしたつもりだったのですが、偶然にも先ほどビアンケッティさんからメールが届きましたので、ご紹介しておきます。今回はイタリア語で来ました。Grazie per avermi contattato e per pubblicato alcune mie lettere sul tuo blog. Mi fa molto piacere che tu condivida le mie idee ed e importante che anche in Giappone si possano leggere le critiche e i suggerimenti al nuovo sistema di giudizio. 貴ブログで私のメールを紹介していただき、またそれについてのご連絡をいただき、ありがとうございました。あなたが私と同じ考え(注:ダウングレード判定による減点がバカげていること。5つのコンポーネンツからなる演技・構成点の点が大きすぎること。ジャッジの匿名性がファンの疑念を招いていること)であることを嬉しく思います。日本でも皆さんが、新採点システムに対するこうした批判や提言を読めるというのは重要なことです。このようにフィギュア界でも、長いものに巻かれるだけない、不合理な部分は不合理と指摘して、よりよいルールを作ろうとしている人もいるんですね。彼女は、自分の批判や提言をより多くの人に読んでもらい、オープンな議論を促したいと考えています。ビアンケッティさんは、スポーツはファンあってのものであり、ファンが理解できないようなルールで競技を行っていては、スポーツそのものが衰退してしまうことを理解していて、ご自身の著述でもそう明言されています(てか、もう欧州ではフィギュアの人気凋落は目を覆うばかりのようですね。「日本と韓国では事情が違うでしょうけれど」とビアンケッティさんは、昨今の欧州でのファン離れを大変に危惧していらっしゃいます)。世の中、まだまだ捨てたものじゃありませんね。「これからも私の『闘い』を支援してほしい」というのがビアンケッティさんの弁です。ダウングレード判定による減点1つを見ても、多くの場合、ほんの少しの回転不足が回りきっての転倒より点数が低くなるなど、「無理が通れば道理がひっこむ」を地で行くような非常識な規則を非常識と指摘することさえ、「闘い」になるんですね。それが組織というものです。しかし、こんなにもルールや判定への疑問・批判がファンから相次いだシーズンはありませんね。毎年少しずつルールに手を入れ、返って問題山積になってしまったフランケンシュタイン・ルール。大幅なルール改正は、あるにしろ、オリンピック後になるでしょう。どっちが勝った負けたに関しては、旧採点から異論や反論はしばしばありましたが、あの6点満点の採点法が長く続いたのは、やはりファンの支持があったからだと思います。ファンは基本的に、ジャッジの「目」を信頼していたんです。旧採点では、素人でもそれなりに納得できる順位になっていましたね。長野五輪のクワンvsリピンスキーのように、ジャッジの判断が割れて、微妙な差で勝敗が決したときも、「やはりクワンは少し、失敗を恐れて慎重になりすぎていたかな」と思ったものです。逆に「非常に丁寧に滑った」とも言えるわけですが。個人的には、実績のあるクワンに取らせてあげたいようにも思いましたし、実際クワンを1位にしたジャッジもいたのですが、3ループ+3ループ(今の基準じゃ回転不足ですが)をフリーで決め、元気よく滑ったリピンスキーに軍配があがりましたね。あの舞台で、より魅力的で印象的な演技をしたのは、やはりリピンスキーのほうだったでしょう。オリンピックというのは、確かに選手にとって夢の舞台ではありますが、フィギュア競技にとっては、オリンピックがすべてではありません。むしろ、オリンピックにしか注目しないファンやメディアが多いのは、非常に残念なことですね。オリンピックは、あくまで、「1つの大きな大会」にすぎません。カート・ブラウニングはオリンピックのメダルこそありませんが、彼が史上もっとも優れたスケーターの1人であることには変わりはないんですね。ファンも選手たちもそれを知っているし、実際オリンピックのメダリストの多くがプロ転向後、ほどなくウエイトオーバーになり、氷に立ってもお客を呼べなくなっていったのと対照的に、ブラウニングのショーは抜群に高い人気を長期間維持しています。デニス・ビールマンも非常に長い間、徹底したウエイトコントロールで体重を管理し、プロとして活躍した選手です。あの年齢であの筋肉質なボディ――驚異的ですよ、マジで。ビールマンもオリンピックでのメダルはないし、世界チャンピオンになったのも1度だけです。クリスティ・ヤマグチは、アルベールビルで金メダルを獲ったとき、歴代の米国女子オリンピック・チャンピオンに比べて「稼げていない」、それは「彼女がアジア系だから」とハッキリ米国の新聞に書かれました。でも、今では彼女の名前を冠したイベントも多く、米国でもっとも尊敬されているスケーターの1人になっています。それはヤマグチ選手の「スーパー・ヒューマン」と称された人柄のおかげなんですね。そういえば、クワンとともに、ロスの世界選手権に姿を見せていましたね。今の日本は男子・女子ともに、それぞれ個性的で才能あふれる選手が多くいます。まさに黄金時代。ファンにとっては幸せな時代です。単に一個人が仕事の合い間にやってるだけの拙ブログのフィギュアねたで、1日数万件のアクセスがあること自体、日本の過剰ともいえるフィギュア人気を反映してるんでしょうね。それともちろん、昨今の不可解な点数の出方。演技・構成点について、ビアンケッティさんは、「即座に5つのコンポーネンツの点を出すなど、そもそも不可能」と本当のこと(苦笑)をおっしゃっています。だから2つに減らせと。そして、基本的にジャッジができるのは選手同士の比較だけで、今の採点システムでジャッジがつけるコンポーネンツの点差には客観的・合理的な根拠はまったくないと。ただ、そうやって演技・構成点での点差を広げたい勢力がいるわけですよね。あらためまして、フィギュアねた連載中は、数多くの応援メールをありがとうございました。「メールを控えて」などとトンデモなことまでお願いして(苦笑)、ど~もど~もすいませんでした。世界選手権後のパニックのようなアクセスはもうだいぶ落ち着き、今は1日2万~3万件のアクセスになっています。月並みな表現ですが、Mizumizuも読者の皆さんから、パワーをもらいました。楽しんで読んでいただいているのがよく伝わってくるメールが多く、こちらも楽しく、また励まされる気持ちになりました。これがブログの醍醐味でしょうね。世界選手権の女子シングルの点数を見たときは、もうこの競技は見放そうと決めたのですが、翻意させてくださったのは、日本選手を支えようと願うファンの皆さんの熱意です。これだけ多くの人に愛されている今の日本のスケーターは幸せですね。ルールや判定に対する割り切れなさやフィギュアスケートから個性的な美が消えていくことに対する残念な想いは、ニワカファンの方もオールドファンの方も、温度差こそあれ、皆かかえていらっしゃいます。「私だけ?」と思っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、決して1人ではありません。不可解な判定に対して説明を求めたり、公平性や合理性を欠くと思われるルールに対して提言するのは、フィギュアを愛するファンとしては当然の行為です。ただし、くれぐれも特定の選手贔屓の感情的な意見にならないように注意しましょう。浅田選手の3Aに対するダウングレードで、多くのファンがその減点の苛烈さに驚いたようですが、この減点自体は中野選手だって、昨季の世界選手権もそうでしたが、さんざん食らってきています。中野選手のほうが、目に見えて回転不足のことが多かったのは事実ですが。でも昨季は実は、中野選手の3Aは多少回転が足りてなくても認定された試合もあるんですね。しかし、ここまで「疑惑の判定」動画を使っての非難の応酬になるようなルールを運営をしているのは、本当に恥ずべきことです。単に贔屓の選手が勝った負けただけの話なら、ここまでファンのストレスはたまらなかったはず。こうした事態を招いたISU幹部の罪はつくづく大きいと思いますね。数の多かったご質問については、なるたけブログでお答えするよう努力しましたが、あまりに多く、全部にお答えできなくて、申し訳ありません。明日以降は、またお気楽ネタに戻りますので、お時間あるときにのぞきに来て下さい。
2009.04.15
<きのうの続き>第1戦:3F+3Loの3Loがスッポ抜け(連続ジャンプに入るときの勢いがなかったという感じでした)第2戦:勢いよく跳んだところ、3Fの軸が傾いたので単独に留めました。第3戦:今度は最初のジャンプの力をおさえて、セカンドの余力を残そうとしたところ、思った以上に最初のジャンプの高さが出なくて、回転不足のまま転倒第4戦:体力を温存して、3F+3Loを降りましたというように、1つ試合で「失敗した理由」を考えた上で、次の試合でまずかった部分を修正し、最終的には成功にもっていってるんですね。こういうことができてしまうのが浅田真央の凄いところです。ところが、第4戦では、ダウングレード判定がきて(あれで本当に4分の1回転以上の不足でしょうか? そうは見えませんが)、セカンドの3ループはもはや、危険すぎて使えないことがはっきりしたんです。こういった状況でも、4大陸のフリーでは、セカンドにもってきていた3ループをサルコウのところに入れて単独とし、3F+2Loを決めて、フリーの最高点を出しました。でも、このときはまた、単独の3Tがスッポ抜けちゃった。世界選手権での失敗は皆さんご存知のとおり。ただ、これ自体はジャンプ構成を下げればいいことで、そんなに落胆すべきことではないんです。「まだジャンプ構成を下げられる」――これが浅田選手の強さです。浅田選手の課題は引き続き、ルッツとセカンドの3Tなんですね。今季は3Aを確実なものにしましたから、昨季から比べると、間違いなく進歩しています。そうは言っても、今季はだんだん「ジャンプだけは決めなくっちゃ」になってしまったのも事実。ルッツと並んで今一番気になるのは、「突然のジャンプのスッポ抜け」でしょうか。これが案外、どこで起こるかわからなかったのが今季の浅田選手の不安点です。が、これはジャンプ構成を落とせば起こらなくなると思います。ルッツはジャンプ自体に問題がありますが、他の「ときどきスッポ抜けるジャンプ」は、ジャンプ自体には問題ありません。キム選手がサルコウ自体に問題がないのに、今季失敗が目立ったのと同じ理屈です。ジャンプ構成に無理があるので、普段なら跳べるジャンプにしわ寄せがいくんですね。ただ、やはりどうしても言っておきたいこと。ジャンプなどのエレメンツも大事ですが、それにとらわれるあまり、「音楽を忘れてはいけない」――これはビアンケッティさんからの伝言でもあります。日本男子で言えば、小塚選手は今回、ジャズ+映画音楽で表現の面でも新境地を切り拓いたと思います。ああいった現代音楽がピタリと合う選手は、世界広しといえども、そうはいません。佐藤有香の振付も小塚選手の個性を際立たせる、素晴らしいものだったと思っています。相性もよいのではないでしょうか。佐藤有香のもっていたフットワークの技術を小塚選手にそのまま伝承できるという意味でも、佐藤有香の振付師としての可能性を感じさせたという意味でも。どうして小塚選手のトランジション(つなぎ)の点が低く出るのかわかりませんが(苦笑)、ジャッジに何が悪いのか聞いて対策を練るのもいいのでは? 採点の傾向を見て早めに対策を練り、来季は挑戦型ではなく、プログラムの完成度に注力した勝負型の戦略で、戦って欲しいですね。小塚選手は、織田選手よりスピンのレベル評価が安定して高いです。ステップもレベル3に加点がつく選手。ステップはさらに「魅せるもの」にできる能力があると思います。小塚選手のステップで会場が沸く日を夢見ています。彼こそ4回転に固執せずに、「自分は、チャンとはまた違った世界を表現できる」と自分自身で信じてほしいですね。エッジ遣いも今季は、これまでになく深くなりました。もともとクリーンでシャープな身体の使いかたのできる素晴らしい選手なので、表現する世界観にも期待しています。エッジ違反やダウングレードを狙われてるジャンプもないです。ループには気をつけないといけませんが、これは全体的な傾向。チャンとロシェットのカナダ2選手は、フリーで3ループを2ループに変更してました(苦笑)。今のルールは小塚選手のような、欠点のないタイプに非常に有利だと思います。小塚選手が滑っていくと、シャープなターンのたびに、会場の照明を集めてエッジが一瞬キラッと輝いて見えるんですね。あれはフィギュアファンにとっては至福の瞬間です。シーズン後半は、あのエッジさばきが陰ってしまいました。試合数のことは、本当に周囲がもう少し配慮してあげるべきですね。山田コーチが「みどりが年間1~2試合にしたいと言ってきたことがある」と発言しましたが、その意味を考えてほしいです。小塚選手のもっている清潔で誠実な雰囲気は、それはそれで得がたい個性なんです。今季は男性的な力強さも出てきました。ジャンプに関しては、今回回避策を取って、課題の後半の3Aは2連続にして成功させました。ただ、他の部分に失敗が出た。これは1戦目で異常なダウングレード攻撃を知って構成を下げたライザチェックの第2戦目も同じ状態だったんですね。ライザチェックのほうが、早くから回避策を準備していたので、世界選手権で結果が出たのだと思いますね。ライザチェックと対照的にシーズン後半、沈没してしまったのがアボットでした。いかに疲労とシーズン途中でのジャンプ構成の変更が選手の調子を乱すかということです。アボットが4大陸で、もともとは跳べる4回転を入れてジャンプ構成を上げようとして失敗し、世界選手権で力尽きたのと対照的に、小塚選手はアボット選手より点を出しています。3枠も確保して、自力でオリンピックへの道を広げました。立派じゃないでしょうか。織田選手は、とうとう4回転を成功させましたよね。個人的には4回転は規制すべきだとう意見に変わりはありませんが、選手が大技に挑み、完成させたいという情熱には敬意を払います。しかも、織田選手はもっとも緊張する舞台で初めて成功させ、最高の評価を得る4回転を見せました。今、回避策を取った選手が勝っているのは、結局は、4Tを入れると他のジャンプまでまとめることができないから、とも言えます(意図的にジャンパーの点をサゲてるのも、まぁ、明らかですが)。4Tと2つの3A、それに後半のジャンプ、これらを全部クリーンに決めることができた選手はいません。エレメンツ要件が厳しく、異常なダウングレード判定がある今のルールだと、4回転だけで勝つことはできないんです。ビアンケッティさんじゃないですが、「人間の身体はそんなに多くのことをこなせるようにはできていない」んですね。織田選手は世界選手権でも演技・構成点がずいぶんサゲられました。ただ、織田選手はかなりのレベルにいると思います。4Tを降りて、次の3Aの着氷は乱れましたが、あとのジャンプはきれいに降りてます。4T、3A+2T(3Tでなくてもいいのでは?)と3A、これらをクリーンに降りることができれば、やはり強いと思います。スピンのレベル取りよりこちらに注力すべきかもしれませんね。ただ4Tを1度やるのと、3Lz+3Tを決めるのと、点から言ったら変わらないんですよね(ライザチェックの3Lz+3Tが11.4点、ジュベールの4Tが11.2点)。織田選手は今、ルッツを1つにして4T入れてますが、4回転の成功以上に、それにともなう他のジャンプのパターンミスでの減点に気をつけなければいけない今の減点主義のジャッジングでは、4Tの部分に3Lz+3Tを入れるという方法も可能性としては残っています。4回転を成功させるのが目的ではなく、すべてのジャンプを総合して一番点が出るように構成を組まないといけません。そのために、4Tを入れたほうがよいなら入れるべきでしょう。4T入れると、他のジャンプが低くなります。パターン化したミスも出ます。といって、回避策は早めにやっておかないとすぐにうまくいかないこともあります。モロゾフとよく相談してほしいですね。高橋選手もいよいよ復帰してきますね。コーチをめぐるゴタゴタでは諸説飛び交っていますが、ハッキリいえることは、「コーチは金の卵は決して手放さない」ということです。コーチは慈善事業じゃありません。「モロゾフは自分が有名になるために、日本選手を利用してる」なんて悪口叩く低レベルのファンがいますが、そんなこといったら、日本選手は成績あげるためにモロゾフを利用してるとも言えるわけです。優れた選手は優れたコーチを魅了し、優れたコーチは優れた選手をひきつけるんです。優れた映画監督が優れた俳優を必要とするのと同じですね。モロゾフは常に結果を出しています。日本選手にとってモロゾフはあくまで恩人です。彼はスーパーエゴの持ち主ですが、物事を正しく見ることができるんです。だから結果が出るんですね。オリンピックチャンピオン、世界チャンピオンを出し、今回もキムとロシェットは台ほぼ確実のお膳立ての中、浅田選手を引きおろして(実際に「引きおろした」のは、もはや思惑で点を出しているとしか思えないジャッジですが)、安藤選手を台にのせました。初戦から演技・構成点が12点近くもジャ~ンプしてしまうという「呆・呆・呆・笑」の点の出方はどうあれ(アメリカ大会52.16、世界選手権63.92)、結果としては素晴らしい手腕でしょ。安藤選手の演技が悪かったら、いくらどういう思惑があろうと、台にはのれません。今回の世界選手権で台にのった日本人選手は、モロゾフの教え子だけでした。連盟もモロゾフに批判されたら、彼と真正面から議論すべきです。日本人選手を勝たせたいという目的では一致しているのだから、協力できるはずです。自分たちの言い分を出入りのライターに書かせてモロゾフを叩くなど、やり方が違うでしょう。モロゾフに言いたいことがあるなら、直接言うべきです。モロゾフ+高橋の組み合わせを「天国で結ばれた2人」と評した外国人記者もいました。その世界的コーチが、結論から言えば高橋選手より織田選手を選んだんです。モロゾフは高橋選手のエージェントを批判しましたが、Mizumizuも高橋選手のアイドル化には非常に危機感をもっていました。周囲のバカげた持ち上げの果てに、高橋選手はこれまでにない大怪我に見舞われ、大切なプレOPの1シーズンを棒に振りました。高橋大輔は間違いなく、日本スケート界が生んだ最高の才能です。17歳ぐらいのときの彼の滑りを見たときはビックリしましたね。ちょっと滑ってるだけでしたが、彼の周りだけ氷が柔らかいように見えました。そして、昨季の実績で言えば、ジャンプとスケーティングのスキルを高い次元で両立させている稀有な選手でした。おまけに見た目の魅力、つまりは雰囲気もあります。ただ、精神力が弱いんです。ここ一番の大勝負で自滅します。モロゾフは織田選手の精神力を讃えていますが、あれは暗に高橋選手に欠けているものを批判したのではないでしょうか。才能がある人が必ずしも世界一になるとは限らないんです。だったら、高橋選手がやることは? 「モロゾフの選択は間違っていた。世界一になるのは織田信成ではなく、自分だ」と自分の力で証明することです。逆に織田選手は、「モロゾフに選ばれたのは自分だ。自分こそ世界一にふさわしい」と証明することです。連続ジャンプの挿入回数でミスってどうしますか、まったく。長々と引っ張りましたが、これでいったんフィギュアねたは終わらせようと思います。では、皆さん、来季も日本選手が怪我なく、自分の納得のできる演技ができるよう、精一杯応援しましょう。最後は、アメリカでプロとして成功した、数少ない日本人スケーターである佐藤有香の言葉で締めくくりましょう。「氷の上では、いつも自分が一番だと思って滑っている」
2009.04.14
<きのうから続く>ルールといい、ジャッジといい、もはや絶望的という思いに変わりはありませんが、皆さんとともに、日本選手の応援だけは続けようと思っています。「書くのをやめないで」というメールを数百通もいただき、驚くとともに感謝の気持ちでいっぱいです。あっちこっちに爆弾投げてるブログ(笑)を楽しみにしてくださっている読者の方が、これほどたくさんいるとは、まったく思ってもいませんでした。みなさんのご期待に添えないかもしれませんが、フィギュアについて今度も書く機会は、自分で閉じないようにしようと思います。ただ、もうあまり書くこともない気がしますが…もともとは主にプロトコルを分析して、各選手の今後の課題などを書いていたブログでしたが、ジャッジの信頼性がここまで地に落ちてしまうと、いまさらそれもむなしいですね。それと、OPシーズンに入ったら、ファンがあれこれ主観的な印象論でプログラムを批判するのは、選手のためにならないと思っています。Mizumizuが、爆弾をあちこちに投げるのもこれで終わりです。緊張状態にある選手は、ちょっとしたことで動揺します。動揺しはじめると、さらにちょっとしたことで集中すべきことに集中できなくなります。何かのきっかけでネットでの書き込みを選手が見て、気持ちの面で悪い影響を受けては元も子もありません。常に励ますようなことが書ければいいのですが、書いてるほうは励ましてるつもりで、読んでるほうは落ち込む、なんてこともあるんですよね。商業主義にまみれていると批判の多いオリンピックですが、選手にとっては、世界中のより多くの人に見てもらえる夢の舞台であることに変わりはありません。周囲からの過度な期待にさらされ、なんとか勝ちたいという意識だけに支配されると、選手はその夢の舞台からも逃げたくなってしまうんですね。伊藤みどりがアルベールオリンピックの前、山田コーチに、「もうオリンピックに出たくない」と言ってきたという話は有名ですよね。小さいころから憧れてきた舞台に立つ権利を自力で得た選手が、みな雑念のない落ち着いた気持ちで演技に入っていけるように、ファンも暖かく見守る必要があると思います。オリンピックは出たくても出られない選手がたくさんいる、選手にとっては最高の場所なんですよね。そこに出られることの喜びを選手が忘れてしまうようなプレッシャーを周囲がかけてはいけないんです。本当は追跡取材もインタビューも、もちろんイベントも全部シャットアウトして練習に集中させてあげるべき。ところが選手をダシに商売する人たちは、「オリンピックで勝てなかったら、スケート人気は終わりだし、今のうちに稼いでおこう」といわんばかりの態度ですね。何でOPシーズンにこんなにショーや試合があるんでしょうか。選手は「結果」や「採点」を気にしていたら、「オリンピックに出ることの喜び」を感じられない状態になります。OP前の試合で失敗したといって、過剰に心配したり、叩いたりするのはもってのほかです。逆に勝ったからといって有頂天になるのも意味のないことです。一発勝負の本番では何が起こるかわかりません。OP前になるとどうせメディアがまた、下世話な話題で盛り上げようとするのは目に見えていますから、ファンのほうで監視しましょう。新しいプログラムについては、好き嫌いは出るでしょうけれど、基本的に選手と振付師、それにコーチが表現しようとする世界を理解し、それを後押ししなければいけないと思います。ファンも自分のイメージと違うプログラムを選手が滑っても、「彼/彼女の新しい面を出そうとしている」と積極的に評価してあげてください。まずいと思えば、チームが対策を立てるはずです。荒川選手は音楽だけを変えて成功しましたね。表現力はある程度「評判」で作られます。点が出ない、それはここが悪いから、と誰かが言い出すと、みんなで悪いと思い込む傾向がありますね。何度も言いましたが、要はものの見方、芸術は結局は嗜好なんですね。採点の方向性を見ると、もうフィギュアで凝った振付や高い芸術性を追求するのは無理。「ある程度」ならできるかもしれませんが。ランビエールがコンディションがよくなっても戻ってこないのは今のルールのせいです。それは先日ご紹介したドイツ語の記事にも書いてあります。本当なら、年齢的には今がピークの世界最高のスケーターなのに。欧州での人気低迷は、目を覆うばかりのようですね。加えて金融危機で、大会の開催さえあやぶまれる国が出るしまつ。当然でしょう、誰も理解できない点を見せられ、演技からはどんどん個性的な美しさが消えていく。Mizumizuもアイスダンスを見なくなりました。旧採点のころは大好きだったんですが。ランビエールの「ポエタ」、今季の浅田真央の「仮面舞踏会」は、その選手だけがもつテクニックと美しさを生かすための細かな振付を隅々にまで施し、フィギュアスケートの醍醐味である芸術性と難しいジャンプを両立させようとした最後の試みだったかもしれません。キム選手がレベル取りと加点のために不自然な動きを入れて、身体の硬さが見えてしまうのと対照的に、柔軟性・体力・脚力・細かなエッジさばきのすべてでキム選手に勝る浅田選手の素早い動きはすべて自然なんですね。そこにエレガンスと美が宿るんです。キム選手は肩の可動域は広いのに、最近はコケ脅しのようなポーズばかりで、「あげひばり」のころのような、繊細な腕の動きの表現を追求しようという気持ちがなくなっていますね。ああした振付は体力を使いますから。キム選手の演技自体が劣化してるという人は、おそらく、彼女が可能性としてもっていた、バレリーナのような腕の繊細な表現を追求しなくなったことも気になっているんでしょう。最近は、素早いターンと大きな腕の動きを入れたポーズにニヤニヤ顔を加えてごまかされてるようで、見てて不満なんですがねぇ。それでも、あの銀河点が出るのでは、振付もどんどん劣化しますね。そうやってフィギュアの美がなくなるわけですね。ただ、今のルールだと、何かを捨てて何かを選ばなければならないと思うんですよね。そのバランスがキム選手にせよ、ライザチェック選手にせよ、一番うまくいったんじゃないかと。演技・構成点はもはやテキトー点で、根拠はまったくないんですよね。ライザチェックは全米選手権、つまりは国内大会でフリーでの演技・構成点が73.78点。普通は国内大会のほうが高く出ます。ところが世界選手権では、フリーの演技・構成点が79点と、5.22点も国内大会より上がってるって…。まったく意味不明です。傾向としては、ショートを鉄壁にして順位を上げ、フリーではジャンプミスを極力減らしてエレメンツをしっかりこなし、きれいに滑った選手に高い演技・構成点が出る、という感じでしょうか。ジャンプも1つ1つを「なんとか降りる」のではなく、「完璧に回りきってピタッと降りる」のが大事。大技を入れてしまうとこれが難しくなるんですよね。今季、キム選手のフリーが彼女の欠点をなるたけ補い、無駄なことせずに得点を稼ごうという意図が見え透いていたのと対照的に、浅田選手のフリーはあらゆる面で、自分の極限に挑戦しようとした難度の高いものです。しかも、全日本までに、かなりの完成度にもってきました。世界選手権で順位が出なかったからといって、日本人が今になって叩いてどうしますか。 カナダや韓国が点が出ないと、「評価が低すぎる」と批判するのに対し、日本人は点が出ないと「表現力が課題」などと、すぐに選手を叩きます。こんなに試合によって、同じ選手の演技・構成点をドラマチックにアゲサゲしてるジャッジの点の出し方になぜ疑いの目を向けないのでしょう?「キム選手は演技力が抜群」と意味不明の演技・構成点を根拠に褒め称える前に、「演技力には定評があり、かつキャリアも長い村主選手の演技・構成点がなぜあそこまで低いのか」と疑問を呈するべきではないですか? 村主選手の全日本での採点(モロのエッジ違反を甘く判定し、回りきってないフリップを認定。中野選手のフリップはスローで見ないとわからない程度のグリ降りをダウングレード)には、いまだに怒りを覚えていますが、世界選手権では表現にも非常に気を使い、安藤選手とはまた違う、可憐さを残した大人の情感を見せていました。よい出来だったと思いますよ。村主選手はジャンプは決まらなくなりました。エッジに気をつけるとどうしてもフリップもしくはルッツの着氷が乱れるし、サルコウを入れると他のジャンプに影響が出ます。ただ、その他のエレメンツの底上げはきちんとやってきています。つまり、ジャンプ以外のスケートのテクニックは向上させているんです。キャリアも抜群に長いです。過去世界選手権で台にのぼった実績もあります。そのベテランに対し、あの演技・構成点の点数は納得いきませんね。どこが悪いのかジャッジに説明していただきたいです。ダウングレード判定についてはもう昨季から、何度も批判してきています。今のルールはモロゾフじゃないですが、健全なスポーツの発展を妨げています。ビアンケッティさんとはメールでやり取りしましたが、今のダウングレード判定を「スケーターとスポーツにとってアンフェア」と書いていらっしゃいます。いいこといいますね。全日本の浅田選手のフリーを会場で見た人は幸運でした。点は出ませんでしたが、出来は今季最高だったでしょう。2つの3Aと後半の3F+3Loも降りました。演技を終えた浅田選手を迎える、タラソワの歓喜の表情を見ればわかりますね。あのときの採点で、ジャンプと芸術の両立としてのフィギュアはトドメを刺されました。もちろん、それは個々人のジャッジのせいではないです。そうはいっても、実のところ浅田選手が今季3A2度に挑戦したのは、むしろ3A2度に頼らなければいけなかった、という見方もできるわけです。ルッツに不安があり、3F+3Tの3Tは回転不足気味。本当なら、ルッツができ、3F+3Tができてこそ、その上のレベルの大技である3Aが生きてくると思うんですよね。男子だったら3Aを2度決める力があってこそ、4回転が大きな武器になるのと同じ理屈です。ところが、浅田選手の場合は、大技の3Aがむしろ一番確実に跳べるジャンプだった。だからルッツやセカンドの3Tがなくても大きな点を稼げる3Aに頼らざるをえなかった… ただ、大技は大技になるほどリスクが高くなります。体力も消耗します。年が明けてからはフリーでは、1度しか成功してませんよね。本当は、ルッツ、3F+3Tが確実なら、3Aは1度でいいはずなんです。3Aが苦手だったランビエールが、4回転2度に頼ろうとしてうまくいかなかったことがあります。同じことだと思うんですよね。今季、浅田選手のルッツに道筋がもう少しついていれば… とそれが残念なのですが、サルコウへの挑戦という自分自身に課した課題、それに3F+3Loのループに対する執拗なダウングレードという思わぬ課題に直面し、なかなかルッツ克服に注力できなかったのではないでしょうか。そうはいっても、浅田選手の課題克服力というのは、実は群を抜いているんですね。最後の世界選手権での3F+3Loは、まさに針の穴をとおしましたし(といっても、やはり着氷時に少しエッジが回っています)、ルッツも昨年12月までは試合で決めてるほうが多かった。ただ、あっちがよくなればこっちが元に戻る状態… やはりなかなか難しいですね。フリーの3F+3Loだって、年が明けてからは3F+2Loに変更しましたが、あれは気違いじみたダウングレード判定が揺るがない以上、当然の選択です。昨年12月までの浅田選手は、体力的に非常にきついフリー後半の3F+3Loをなんとか入れようと、毎回毎回努力していました。そして、全日本ではついに入れたんですね。まったく立派です。<あ、また文字制限、続きます>
2009.04.13
<きのうから続く>このとき、ちょっと不思議だったんですよね。メディアというのは、日本の記者の無知加減を例にあげるまでもなく、普通はフィギュアについては何もわかっちゃいません。かなりマニアな日本のファンだってそもそも、「安藤選手のフリップの質がキム選手のフリップより劣る」とは思っていないと思います。ところが、韓国メディアは、ジャンプの「質」を強調し、映像を見ると、エッジについてもかなり「わかって」放送してるんです。メディアにエッジのことや、ジャンプの質(あくまで現在の基準でGOEがたくさんもらえるかどうかで言っている)についてレクチャーしてる人間がいるんです。やはり、それは、どう考えたってオーサーでしょう。安藤選手のフリップのエッジがやや中立に近いことや、村主選手のルッツが今季、かなり曖昧でも最初はマークがついていなかったことに気づくなんて、オーサー以外に考えられません。世界選手権の結果を見て、キム+オーサー陣営がなぜあれほどまでに、安藤選手を叩いたのかわかりました。ループが入れられなくなり、サルコウもスッポ抜けてしまったキム選手に対し、安藤選手はすべてのジャンプをちゃんと降りた、ただ1人のトップ選手なんですね。ロシェット選手もかなりよかったですが、3ループを2ループにしてました。安藤選手は3ループをダウングレードされましたが、肉眼で見た出来では着氷に問題はありませんでした。フリーで3回転+3回転こそありませんでしたが、2A+3Tの3Tの回転は文句つけようもなく完璧。完全に回りきって降りてきてました。浅田選手のような、突然のスッポ抜けもない選手です。本当に彼女はすごいです。ジャンプの難度と精度(降りたかどうか)のバランスで見たら、キム選手、ロシェット選手、浅田選手を抑えてトップでしょう。しかも、このエレメンツ重視のルールの中で、表現に新境地を切り拓いたのは特筆すべきことですね。世界選手権でのショートは特に、涙が出そうになりました。ああやってどんどん音楽に入っていければ、ファンも感動できますね。これからはもっと自分の世界に自信をもって、投げキスするときは、「本気で誘惑するつもりで」やることです。チャン選手やキム選手の態度を見ると、常識的なスポーツマンシップなどかなぐり捨てて、メディアぐるみ(使うメディアはさすがに自国メディアですが)で、世論を誘導し、あちこちに圧力をかけていると考えるべきだと思います。で、クレームされると、「一種のハプニング。本人の発言とは違う話が広まった。このようなことは二度と起こらないことを望む」なんて、北朝鮮の言い草みたいなことを言って責任逃れをするんでしょう。チャンは今シーズン最初は、まだ謙虚でしたが、今は「オレがゴールド、ゴールド」ですからね。つくづくバトルは素晴らしい選手だったと思いますね。彼はエレメンツは正確にこなせますが、ジャンプが弱かった。4回転はダメで、ルッツも苦手。この欠点のために何度もチャンスを逃しましたが、不遜なことは言ったことがありません。常に勝者を讃えてきましたね。そして、自分のジャンプのレベルを向上させ、ジャンプでも他のトップ選手に並べるように努力しました(それは、結局は成功しませんでしたが)。今は「回避策」を取った選手が勝つようなルールです。難度の高いジャンプは足りなくなりがちだし、ちょっとでも足りないといつダウングレードされるかわからない。それに難しいジャンプを跳ぶと他のジャンプが低くなりがちです。これまたどこでダウングレードされるかわからない。世界有数のジャンパーが自信を失い、そもそも難度の高いジャンプ跳べない選手が「フィギュアはトータル・パッケージ」と自信満々になる… 異常としかいいようがありません。ジュベールは世界選手権で最後にダブルアクセルからの連続ジャンプをやろうとしてモロコケしましたが(カナディアンプレスは「3Aで失敗」と書いてましたが、それは違います。ジュベールは前半に3Aを2つ集めて、今回跳んでます)、あそこで2Aだけでも跳んでおけば、たとえスピンが1つレベル1で、あとはレベル3でも、チャン(スピンはオールレベル4)より上に行ったんですよね。チャンがどんなにスピンでレベル4を並べても、やはり難度の高いジャンプを跳べる選手は強いんです。ジュベールのレベル1のFSSpの点が1.94でチャンのレベル4のFSSpは3.4。たったの1.46点の差にしかなりません。スピンのレベル取りを捨ててもジャンプを決めれば、技術点はもっと出ます(後半の2Aは基礎点だけで3.85点)。だから、さかんに「ブライアンもスピンがよければね」だの「演技・構成点をオレ様に出せ」だの言っているんです。少なくとも、「これは意図的な挑発」と考えて、感情的にならないよう注意すべきです。義憤にかりたてられて、我を忘れ、ファンが相手方と同じレベルに落ちたり、選手が動揺して自分の演技ができなくなったら、相手の思う壺です。ただし、理不尽な言いがかりをつけられたら、きちんと抗議する姿勢は忘れずに。黙っているのは、相手の言ってることが正しいと認めたということです。少なくとも、日本の外ではそれが常識です。点数が低いと思ったときにブーイングするのは、お金を払って見に来たファンの当然の権利です。NHKの『情熱大陸』では、デニス・ビールマンの芸術性を評価しないジャッジに対して、観客がブーイングしている様子が映っていましたね。ときに素人の観客のほうが、専門家のジャッジよりも芸術性を直感的に高く評価できるものなのです。非常識な態度を取る選手に対しては、「沈黙の抗議」をしましょう。ブーイングは、たとえばワザとあたりに来てたとか、よっぽどの場合のみに。ブーイングや演技中の大声ではなく、観戦拒否(演技が始まる前に席を立つ)や拍手なしで不快感を伝えましょう。無礼な人間にまで礼節をもって接しようとして、最終的にはブチ切れて感情を爆発させ、返って周囲から非難を浴びてしまうのは、日本人の悪いクセです。日本スケート連盟もファンに抗議されて腰をあげるのではなく、強い態度で外部に対峙してほしいものですね。連盟のやってることといえば、相変わらず人気選手をダシに商売することばかり。意味不明の点差をつけられたら、選手のせいですか? なぜ説明を求めないのでしょう? キム選手の回転不足気味のジャンプにGOE加点されるのは、おかしくないですか? ダウングレード判定されなくても着氷乱れがあるなら、減点とするのが正しい判断では? ジャッジはメキシコだとか、台湾だとか、フィギュア後進国のジャッジも混ざっています。正しくないジャッジングがあったら指摘し、議論し、より公平なジャッジングを促す必要があるのでは?これからもファンは連盟を監視しましょう。そもそもカナダ陣営が、ここまで何もかもかなぐり捨ててチャンに金メダルを獲らせたいのは、カナダの男子スケーターがオリンピックで常に不運だったということがあると思います。まずはキム選手のコーチであるオーサー(2009年殿堂入り)。最初のオリンピックでアメリカ人のハミルトン(1990年殿堂入り)に敗れて銀。次のオリンピックでは、OP史上初となる3Aを決めたにもかからわらず、ボイタノ(1996年殿堂入り)に負けて銀。それから、フィギュア史上もっとも優れたスケーターの1人であるカート・ブラウニング。ブラウニングは世界選手権で初めて4回転を成功させたスケーターでもあり、ステップも最高に巧み。もちろんすべりも滑らか。世界最高峰の技法派スケーターでした。ライバルにロシアのペトレンコがいましたが、世界選手権の実績では圧倒にブラウニングのが上。ところがブラウニングは、アルベールビルOPでは、腰を痛めて本来の力を出せませんでした。2年後に行われたリレハンメルOPに復帰したときは、ハミルトンをして、「カートのプログラムはもっとも難しく、振付も凝っている。本当に素晴らしい」という、レベル違いのプログラムを用意して、金を狙ったんですが、ふつうはなんでもなく跳べるジャンプでまさかの転倒。インタビュー(日本では放送されませんでしたが)で、「どうして、オリンピックはボクを好きになってくれないんだろう」と泣いていて、インタビュアーもほとんどもらい泣きしてましたね。そして、カナダの生んだ最高のジャンパーの1人であるストイコ。長野OPでのライバルはなんとまぁ、タラソワの育てたクーリックでした。下馬評ではストイコ有利。前年の世界選手権では4回転ジャンプの安定度でクーリックを圧倒していたストイコだったんですが、本番のオリンピックの直前練習で負傷してしまい、根性で滑りきったものの銀でした。クーリックのほうは、それまでさんざん失敗してきた4回転決めちゃって(ちょ~豪華な毛皮をまとったマリー、じゃねぇ、タラソワ、このとき全身でガッツポーズ)、大きなミスもなく無難に滑って金。このときのクーリックのフリーは、「ラプソディーインブルー」でしたが、ハッキリ言ってプログラムはかなりスカスカでした。おまけに、途中で「考えこむポーズ」まで入れちゃって、つまりはフリーの途中で、「お休み」して疲労を取っていたんですね(苦笑)。あれはスタイルのいい美青年のクーリックだからサマになるんです。テクニック的には難しいことをしなくても、氷上で「走ったり」、両手を広げて片足をあげ、ゆったりカーブを描いて滑ったりするだけで、美しくて絵になるんですよね。一方のストイコは、「氷の上でカラテをやってる」などと批判されました。ストイコの男性的な振付は、密度が高く、彼にしか出せない個性的な魅力があったと思いますが、芸術性では評価はされなかったんですね。カナダの男子スケーターは伝統的に、ジャンプの技術で世界の頂点に君臨してきたんですが、オリンピックでは不運。そもそも伊藤みどりもそうですが、難しいジャンプを跳ぶ選手はそれだけでリスクを引き受けているということ。これについては日本が生んだ最高のジャンパーである本田武史も言ってますね。極度の緊張の中で転倒の危険の高い大技に挑むのは、それだけで勇気がいるし、大変なんです。今季のような異常なダウングレード判定がなくても、です。今のバンクーバーのカナダの星はチャン。ジャンプに弱い選手です。そして、昨今、ルールと判定両方からジャンパーにかかる異常なプレッシャー。大技を入れると他のジャンプが低くなるので(安藤選手のファイナルがそうですね)、他のジャンプで減点される確率も高くなってしまう。さらに、ジャンプを決めると、今度は「ジャンプばかりに集中してる」かなんか言って、演技・構成点を出さない手だってあるんです。しかも、演技・構成点の点差はジャッジの自由裁量で広げることができる。世界トップ選手の5つのコンポーネンツの点が8.5だろうと9だろうと9.5だろうと、どれが「適切か」なんて誰も言えないですから。今回は、あの出来のコストナーにあの演技・構成点ですからね。バトルは引退してしまいましたが、ここまで汚い思惑があからさまになってきた世界から身を引いたのは、今となっては潔く見えますね。<いよいよ、フィギュアねたも明日で終わりです>
2009.04.12
「なぜ日本選手が活躍しはじめると、ルールを変えて勝てなくしようとするんでしょうか」というメールもいただきますが、なぜもなにも、自分たちが勝ちたいからですよ。世界が公平なものだと思いますか? 違います。世界は不公平で差別意識にあふれているんです。日本というワクを越えて海外でも活躍する人は、そうした中で自分の才能を認めさせてる人なんですね。だから、「ルールは公平、ジャッジは公明正大」なんて寝言にしがみついて「ガマン」するのではなく、ジャッジングが不公平だろうと不正があろうと、自分の力でねじ伏せるぐらいの気概をもって戦えばいいんです。不平や不満に心がとらわれると、何もできません。結果ばかりを気にする欲も注意深く避ける必要があります。なんといっても大切なのは、心身ともに本番に向けて準備することです。「自分自身が納得できる演技をすること」それが一番大切で、かつ一番難しいことでもあります。ルールでつぶしにきたのなら、つぶされないよう戦略を立てればいいんです。「なんでこんなことするの」「イジメじゃないの」なんて泣いてるヒマはもうないんです。フィギュアに限らず、世の中、才能のある人はつぶしてやろうという無数の無能な人の嫉妬にさらされるものです。社会に出てみればわかります。より高いレベルで成功しようとすれば、足をひっぱる人はさらに増殖します。ある意味、結構なことでしょ。無能な人を誰もつぶそうと思いません。安藤・浅田選手には勝たせないぞルールは、昨季から始動してました。従来どおり「まともに」採点してると、浅田選手はどんどん高得点を出します。シニアにあがってすぐにファイナルで優勝したのを見てもわかりますよね。それが、昨季からいきなり総合得点が20点も下がり始めたんですね。昨季の第2戦で浅田選手は、出された点を見て1人で泣いていましたね。あれは、見てるこっちも泣けました。あまりに減点がひどすぎました。でも、浅田選手は決して採点についての不満など口にしませんでした。「泣いたわけは?」と聞かれて、「ジャンプを失敗してしまったから」。こういうふうに言えるところが天才の天才たるゆえんです。昨季は、それでもまだ勝っちゃっていた。ファンは勝ってる浅田選手を見て、それがどれほどすごいことかに気づかずにいたんです。世界選手権では3Aを跳ぶ前にコケてマイナス点からスタートし、後半の3F+3Loのループはダウングレード。それでも総合で一番の点を出したんです。マスコミはジャンプを失敗する浅田選手を見て、「精神力が弱い」などと叩きました。逆ですよ。あれほど精神力の強い選手は、ほとんど見たことがありません。何があってもスケートへの愛を失いません。まさにフィギュアの神様に選ばれた人ですね。よく、伊藤みどりが今いたら、すごく強いんじゃないか、などと言う人もいますが、なんのなんの、伊藤みどりがいたら、またみどり包囲網のルールが出来てきます。彼女は殿堂入りもしてますが、成績で見たら、世界選手権優勝1回、オリンピック銀メダルと、そんなに抜群のものじゃありません。伊藤みどりが世界選手権の2連覇をのがしたとき、勝ったのが誰だか知ってますか? トレナリーというアメリカの選手です。誰もおぼえていないんじゃないでしょうか。このときも伊藤選手はちゃんとフリーでトリプルアクセルを決めています。出来はよかったんです。優勝できなかったと知ったとき、伊藤選手は控え室でわんわん泣いて、「あたしが負けたのは、先生のせいだ!」と、八つ当たりしたと山田コーチが後にインタビューで公けに語っています。採点競技というのは、常にそうした理不尽な悔しさがつきものなんですね。どういうシステムにしても、結局不透明感や不公平感はある程度あるものです。トリノ・オリンピックのフリーで、スルツカヤが実力を出せなかったのも、ショートでの演技・構成点が予想以上に低く、割り切れない思いに動揺したせいもあると思います。ショートの点数が出たとき、電光掲示板を指差して、「おかしいじゃないの」みたいな、呆れ顔でコーチで何か言っていましたね。あのときはヨーロッパと北米から2強が出ていたために、この2つの勢力がお互いにサゲあっちゃって、結果「よくて銅メダル」と思われていた荒川選手がトクをした、という側面があるかもしれません。コーエン選手はフリー直前の練習でジャンプに高さが出ていないことに気づき、完全に冷静さを失っていましたね。荒川選手はコンディションもよかったし、何の欲もなく、一番音楽に入って最高の演技ができていたんじゃないでしょうか。ああいう状態にもっていくのが理想なんですね。それはそれとして、ここまで思惑でルールを動かし、フィギュアの一番大切なものを失くしてしまったISUの幹部には本当に腹が立ちます。ランビエールに近い消息筋からの記事↓「1つのスポーツがいかにして壊されるか」http://www.tagesanzeiger.ch/sport/weitere/Wie-ein-Sport-kaputt-gemacht-wird/story/19608226gemachtwird/story/19608226でも、「要件詰め込み」フリーへの批判が展開されています。フリーは基本的に、選手がそれぞれもっている個性と美で勝負すべきだと(だから「自由演技」のハズですよね?)。今の「試合で勝ってるフリー」が、なぜみなスカスカで、同じような演技になってしまうか、わかりますよね? エレメンツの要件をきちんとこなし、レベルと加点を取るためなんです。Dasselbe bei der Finnin Laura Lepistö, sie wurde im Januar Europameisterin, ohne dass sie einen Dreifach-Flip oder Dreifach-Lutz zeigte - das wäre vor Jahren noch unvorstellbar gewesen.そして、ジャンプの技術は大幅に劣化。上記の記事は指摘しています。「今季の欧州女王は3フリップも3ルッツも回避(レピストはちなみに、世界選手権ではルッツは跳びました)。こんなことは数年前なら考えられないこと」――これにはダウングレード判定が大きく関わっていることはみなさんご承知のとおりですよね。ここまでフィギュア本来の基準をゆがめ、魅力をなくしてしまったISU幹部の罪は重いです。「このルールの改正はないんでしょうか」と聞かれますが、あるでしょう。ただし、大ナタを振るうとしたら、それはオリンピック後になります。オリンピックさえこのルールで押し切っちゃえばいいと考えている人がいるんですね。日本のファンは、今になってジタバタしてますが、まったく手遅れです。今回世界チャンピオンになったライザチェックのジャンプ構成は、実際のところまったくたいしたことないんですね。ルッツ2つ(1つには3Tをつける)にトリプルアクセル2つ(1つには2Tをつける)、フリップ(2回転をつけて3連続に)、ループ、サルコウが1つずつ、2Aが1つ。チャンにいたっては、これで銀メダリストか? というような構成です。ルッツ2つ(1つに2回転をつけて3連続に)、トリプルアクセル2つ(1つには1Tをつけたものの減点)、フリップ1つ(これに3Tをつける)、ループ(は3ループのはずが2ループに)、サルコウ1つ、2Aが1つ。この程度のジャンプの地力しかないのに、チャンの強気ぶりは目に余りますね。カナディアン・プレスで、ジュベールを批判しまくりです。http://www.google.com/hostednews/canadianpress/article/ALeqM5ghmTdfIy9Jt84lo0qNDY6rnP-doA記事も、「チャンの演技・構成点がオリンピックでこんなに(ジュベールより)低かったら、彼はもうガマンしないだろう」なんつって、チャンの演技・構成点アゲを後押しです。こうやって圧力かけるのは、キム+オーサーと同じ手法ですよね。メディアぐるみなのも同じです。チャンは確かに素晴らしい選手ですが、記事の最後のほうの発言は、目を疑いますね。"If you don't have a quad in, it will guarantee a close match. If you put a quad in, you can blow away the competition only if you deliver the rest of the program, which unfortunately Brian didn't," Chan said. "I bet if Brian had a better program, and better spins and worked on his spins better, and had that quad he would have definitely taken it home with a big lead."言ってることは確かに当たってます。ジュベールは特に、4回転を入れているがために、プログラムが「竜頭蛇尾」になるんですね。今回はスピンもよくありませんでした。そういう他のエレメンツも取りこぼしなくできてこそ、大きな武器になるのが4回転なんです。4回転を入れて、残りのプログラムをきれいにまとめるのは非常に難しいし、現段階では、ジュベールはそれができていません。しかし、現役の選手が試合の後に、他の選手(しかも自分よりはるかに先輩)の演技を批判したり、スピンをバカにしたりするのはマナー違反もはなはだしいですね(確かにジュベールのスピンはレベルは取れませんでしたが)。チャンは、まったく何様のつもりでしょう。ランビエールが他の選手のスピンを上から目線でコケにしたことがありますか? 同じカナダの先輩バトルはあれほどまでに紳士に徹したスポーツマンだったのに。チャンは次のシーズンは4回転を入れるつもり、などと言っていますが、無理でしょう。4回転なしで3A2度もほとんど決まらないのに。フィギュアスケートの理念や方向性について自論を戦わせるならともかく、このような個人攻撃は「選手の風上にもおけない」態度です。結局、後ろ盾に権力者がいる選手がこういう態度に出てくるわけです。そして、標的はジャンプの地力で自分にまさる選手なんですよね。このパターンは、キム+オーサーの安藤選手に対する攻撃と同じなんですね。今季第2戦で、キム選手が「E」判定とルッツのダウングレード判定されたとき、キム選手は韓国メディアに、本当は減点されるべきなのは他の選手(暗に安藤選手を指している)だという意味のことを言いましたが、韓国メディアも安藤選手や村主選手のビデオまで出してきて、「日本選手はエッジ違反してるのに、取られていない!」と騒ぎ立てたんです。日本ではこのことは報道されず、世界選手権前の、「日本選手が妨害している」発言のときのような騒ぎにはなりませんでしたが、韓国の某メディアは、安藤選手のフリップの映像を流して、「キム・ヨナとの質の違いはあきらかです」「エッジもこのように中立です(←ご丁寧に後ろから踏み切りを撮った映像流している)」とすごい剣幕。<いつまで続く、文字制限でのひっぱり・・・>
2009.04.11
先日も某ブロガーさんへのビアンケッティさんのメールをご紹介させていただきましたが、別の読者さんも彼女にメールしたところ、お返事が来たそうです。ブログをお持ちでないとのことですので、拙ブログで一部ご紹介させていただきます。もちろん、ビアンケッティさんご本人の了解を得ています。まずは、E.Sさんへのメールから。ダウングレード判定への私見の部分をご紹介させていただきます。As to the rule about downgrading of the jumps is a real aberration of the IJS. The skaters are penalised twice : by the Technical Panel that down grades the jump and by the judges who must assign a negative GOE. This idea has created a lot of criticism and I can tell you that it has been discussed in Los Angeles and there will be an improvement for next year. I do not know exactly how the new rule will read but I hope it will make things a little better at least. What is sure is that . The beauty and the art of figure skating have been killed by the new system. ビアンケッティさんも、ダウングレード規定は常軌を逸していると言っています。彼女のサイトでも、「少しだけ回転の足りないジャンプが、回りきっての転倒より低く評価されるなどばかげている」と批判していますね(つーか、当たり前のことですよねぇ)。こんな非常識なことがまかりとおっているのが、今のルールなんですね。絶望的です。このメールでは、回転不足判定されると、スケーターはダウングレード(ジャンプの基礎点をその下のジャンプのものにされる)され、GOEでマイナスにされることで、「2度罰せられている」と書いていらっしゃいます。Mizumizuが何度も指摘している、2重の減点のことですね。このダウングレード判定の考えについては、非難の嵐ですから、来季は改善されるであろうとのことです。新しい規則がどうなるかはわからないけれど、「少なくとも、多少はよくなることを望んでいる」と、ビアンケッティさんの言葉はとても頼りないです(苦笑)。そして、彼女が感じる一番の問題。「新採点システムによってフィギュアスケートの芸術と美が殺されてしまった」――これについては、細かな要件を満たすことで点が出る今のシステム、そうした要件を満たそうとすると個性的な美がなくなる(評価されないから)ということで、拙ブログでもすでに説明しましたね。「フュギュアは終わった」とMizumizuが考えているのも、昨今の「評価されるプログラム」のつまらなさです。今季はそれが決定的になりました。オールドファンなら納得していただけるでしょう。Mizumizuの意見では、ダウングレード判定は、廃止されない限り、「改善」はないと思っています。そもそもジャッジの良識にまかせるのではなく、ダウングレードするジャンプの線引きを厳密にしようとして、さらにめちゃくちゃになってるわけですから。4分の1回転という明確な基準を設けても、それを判断するのが人間である以上、見ているファンが納得できる公平で透明な判定などできないことは今季の「血祭り」が証明しました。事態はむしろ逆になったんです。ルールの読み替えでは、一部の選手が不利になる状況は変わりません。別の読者さん、K.I.さんに送られたビアンケッティさんからのメールでも、ダウングレード判定の愚に対して触れていらっしゃいます。回転不足のジャンプをダウングレードするのは本当に深刻な問題… それ以下はビアンケッティさんのサイトでの主張(そしてMizumizuが昨季から繰り返し主張してきたこと)と同じです。こちらも双方の了解を得て転載させていただきます。The problem of downgrading the under rotated jumps is a very serious one..I wonder how can any one even envisage that a triple or quadruple jump, slightly under rotated can be considered as a failed double or triple and gets less points than the same triple or quadruple fully rotated by marred by a fall. A real aberration! I have been fighting against this rule since it was adopted. Let's hope that somebody will listen.My only wish that the ISU will finally accept the idea that the system must be revised, must be symplified and the scoring made understanble and open to the public. 「採点はもっとシンプルに、わかりやすく、そしてオープンでなくてはいけない(つまり匿名にするなということ)」――もっともです。この常識が通じなくなるのがつまりは、政治力なんですね。K.I.さんはジャッジの匿名性について批判されたそうですが、ビアンケッティさんも以下のように返事をされています。I fully agree with your comments on secret judging. In my opinion, this was the worst decision taken by the ISU in the last one hundred years . But of course Ottavio Cinquanta, the ISU President, just wants to prevent any possible control on the judging to protect his image and that of the ISU. To me, it is just the opposite. Secret judging can only increase the feeling that it protects deals and miscunduct of a few dishonest judges. As to the random draw, you are right. The results could very depending on which judges have been drawn. This has been proven mathematically. And it is completely unfair to the skaters. この匿名ジャッジング採択は、ISUのここ100年の歴史の中で最悪の決定だった――ビアンケッティさんがもっとも批判しているのは新採点システムのこの部分です。ジャッジの匿名は疑念を招くだけなんですね。ランダム抽出も公平さを欠くのでダメです。Mizumizuは匿名のジャッジングに関しては、これまでそれほど批判的ではありませんでした。GOEを大盤振る舞いするジャッジや逆にしぶいジャッジがいるらしいことはわかっていましたが、それはむしろダブルアクセル以上のジャンプへのGOEの反映割合が大きすぎることのほうが問題だと思っていましたし、何より、タテマエ上は絶対評価でも、実質的には比較による主観点で出されてきた「演技・構成点」が、選手によってあまり差がなく、それなりに納得できる点を出してきていたからです。つまり主観点への抑制がそれなりに効いていると思っていたからなんですね。でも、今回の世界選手権女子シングルで「パンドラの箱」が開きました。やはり、匿名性は、ヤグディンも最初から批判していましたが、最大の問題点だったわけです。また、ジャッジの待遇の悪さも驚きますよね。この記事↓オーサーのお友達が、経費節減のためにジャッジの数を減らしたという話なんですが…http://sports.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20081011.wspt_skating11/GSStory/GlobeSportsOther/homeAn event organizer must pay the costs of judges' transportation, accommodation, meals and a per diem, which works out to only about $25 a day per person. 大会組織委員会がジャッジに払う手当てが、1人1日あたり25ドルって…ジャッジが実際に手にする報酬とは違う可能性はありますが、いまだに「250ドル」の間違いじゃないかと思ってます(苦笑)。よくジャッジはボランティアのようなものだから清廉、という方がいますが、それは違うでしょう。本物のプロはそれなりの報酬で遇せられて初めて、誇り高く、独自性を保った仕事ができるんです。Mizumizu自身、仕事仲間はその人の能力で判断してます。それなりの人はそれなりの報酬を要求します。「ボランティアのような賃金でいいから、働かせて」と言ってくる人もいますが、使いものにならないので、仕事のお願いはしませんね。ジャッジの数が減ってから、意味のわからない演技・構成点のアゲ・サゲが始まったと思います。このオーサーのお友達は、今の採点システムを操作するのは、優秀な数学者でないと無理だと言ってますが、だ・か・ら、異常な演技・構成点の爆アゲが突然起こったんでしょ。優秀な数学者じゃないから、演技・構成点で極端な差をつけておかないと、うっかりすると別の誰かが勝ってしまうかもしれないから。そしたら意味不明の点差になって、みんな驚愕。プロトコルをフォローしてるコアなファンは呆れて、ジャッジを見放しました。ジャッジはくじ引きで選ばれ、選手がほとんどいないようなフィギュア後進国のジャッジも格式の高い試合のジャッジに入ってくる。当然経験が問題になる。そこで…"I'd like to say they're better educated than the inexperienced ones in the past," Dore said. "I think we have better education now. We have more visual education. We have a seminar every summer that has 120 people in it."毎年セミナーを開いて、ジャッジを教育するわけですね。資金不足なのに、セミナーは大々的に開く。ジャンプの評価の指針を決めているのは誰でしょう? 幅跳びジャンプばかりにGOEがつくのは? 飛距離の出ないサルコウやループにはそもそも加点があまりつきませんよね。それも変な話でしょう。で、一定の基準と要件を満たした、美しくもなく、たいして芸術的でもないプログラムに高い点を出すように刷り込まれる、と。そうやって「よりよく」ジャッジが教育されていく、と。よくわかりました。<う、また文字制限>
2009.04.10
<続き>ですから、矯正はフリップの状態に気をつけながらやるのが大事だとしか言えません。コーチ交替の噂もありますが、とんでもないことです。去年3ルッツを奪われ、今年はセカンドの3ループを奪われました。こんな内堀まで埋められたルールで、今コーチを替えるなど無意味です。出来る限りのことをやるしかないのだから、誰よりフィギュアのことをわかっているタラソワにまかせるべきです。タラソワ+浅田真央にまかせて、それでもオリンピックに間に合わなかったら? 仕方ないと思います。ファンも「真央ちゃんは、キム・ヨナに勝てるでしょうか」「金メダルとれるでしょうか」という、せせこましく、俗っぽい考えは捨てましょう。結果だけを気にするのは、心が「欲」にまみれた状態。どんな状況で安藤・浅田選手が戦ってきたか、今回ようやく理解できたはず。これは2季かけてじっくりカナダ陣営が作り上げてきたルールによる包囲網なので、今ごろ気づいてギャーギャー泣いてもどうにもなりません。浅田選手は、それを2度までも正面突破して、大きな大会で実力で勝ってきた。それがどんなに凄いことだったかわかりましたか? そしたら、今回はとうとう、「パンドラの箱」まで開けました。どんな状態でも、人間はできることをできるかぎりやることです。浅田選手は、それができる人です。「また課題ができたので、頑張りたい」こんなふうに言えるのが、浅田選手の強さです。ダウングレードされれば、それがどんなに理不尽でも、「次は認定してもらえるジャンプが跳べるよう頑張りたい」。認定されれば、「認定されて嬉しい」。まったく理想的な受け答えが、教え込まれたわけでもないのにできてしまう。まさに天才ですね。ファンも結果ではなく、その過程を応援しましょう。ジャッジが出す点を、こちらがどうにもできませんよ。OPシーズンに入ったら1試合1試合の出来で、ああでもないこうでもないと浅田選手の心配をしないこと。浅田選手のもっているよさをいつでも見つめましょう。一番大事なのは、日本選手が自分の夢の舞台で落ち着いて演技をし、音楽の世界に入って感動を表現できるように、完全な準備をさせてあげることです。今回の世界選手権では、まったくそれができませんでした。日本スケート連盟の罪は重いですね。全日本で、ダウングレード判定がある限り浅田選手の3ループが認定されないこと、3Aも非常に難しいことがわかったのだから、年明けに無駄な試合やショーに出さず、対策を練る時間を与えてあげるべきでした。2月末になって、山田コーチがようやく、浅田選手のハードスケジュールを批判しましたが、元コーチが口を出さざるをえない状況というのが異常です。ファンも、今年はショーも試合もできるだけ浅田選手が控えられるよう後押ししましょう。落ち着いて練習する時間、自分の世界を見つめる時間が必要です。ショーはオリンピックの後でいいはずです。安藤選手もジャンプ構成を落として、今回ちゃんと台にのぼりました。ダウンレード判定がある限り、安藤選手に4回転をやらせてはダメです。もうファイナルで見せてもらいました。あれで十分です。安藤選手は満身創痍。怪我がちですし、なんとかオリンピックまで身体をもたせなければなりません。マスコミや連盟の態度も、ファンの声でだいぶ変わってきたと思います。判定に疑問があれば、ISUに「質問」を出しましょう。抗議ではなく、質問や進言をすることですね。「ダウングレード判定が理解できない。判定のビデオで説明してほしい」こういうことを言うだけで、監視されていると知ったISUはプレッシャーを受けます。浅田選手の振付からローリーをはずすのも今は反対。カナダでは「月の光」の受けはよかったんですよ。カナダはローリーが大好きです。今までずっとやってもらってきたのだから、次もお願いすべきです。今季のプログラムはフリーにスローパートがない分、ショートがスローパートの練習だったと思います。スローな曲は表現が難しいんですね。「月の光」は結局、浅田選手がストロークののび「だけ」は、キム選手には及ばないという欠点が見えたのかもしれません。「浅田選手のスケーティングには、伸びやかさが失われている」とバカの1つ覚えのようにリピートしてる新聞記者がいますが、それだけ難しい曲で滑ったんです。スピード感のあるキム選手の曲とは難度が違います。何度も言いますが、スケートの技術といってもどこに着目するかなんです。選手の持ち味は、それぞれ違うんです。ただ、ダウングレード判定やエッジに気をとられすぎて、浅田選手は最後はまったく「音楽の世界」に入ることができませんでしたね。月の精、悲劇の貴族夫人になりきるには、浅田選手には心理的な夾雑物が多すぎました。これが一番いけません。それは男子選手もそうでした。最後はジャンプ、ジャンプ、ジャンプ… これでは振付もうまく表現できません。今小塚選手の振付を佐藤有香がやっていますが、佐藤選手が世界女王になったときのVSボナリーのフリーはまさに、フィギュアのスケートの技術のどこを評価するかという試合でした。ボナリー選手は結果に不満で、台にのらず、涙で抗議しましたが、あれはMizumizuは間違いなく佐藤選手の勝ちだったと確信しています(そもそも採点にどんなに不満でも、結果が出たら笑顔で勝者を讃えるのが選手のマナーです)。難度の高いジャンプをどんどん跳んだボナリー選手に対し、ジャンプを1つ失敗しながらも、最後に素晴らしいステップで魅せた佐藤選手。2人には対照的な長所と短所がありました。ボナリー選手は難度の高いジャンプを跳びますが、着氷がすべてピタッと決まることがない。要するに、雑なんです。足首がやや硬いし、ランディングの流れがよくないんですね。そして、そもそもストロークがのびない。浅田選手の比ではなく、何度も何度も「漕いで」スピードを出さなければなりません。しかもルッツは助走が長すぎました。佐藤選手は逆に非常に柔らかなスケーティングをします。身体的なプロポーションには必ずしも恵まれていませんが、滑りがエレガントなんです。そして、最後のステップ。フットワークだけで満場の拍手をもらえる唯一の女子選手と言われていました。素晴らしいエッジさばきでまるで氷上から浮くように回転し、滑走していく佐藤選手のフットワークはいまだに目に焼きついています(←実は録画して何度も観賞しました♪)。ただ、佐藤選手はなんといってもジャンプが弱かった。前半にジャンプを集めているので、構成も偏っているといえばそうです。でも、誰ももっていないフットワークでジャンプの弱さを補ったんですね。開催地が日本だったという幸運もあるいはあったかもしれません。ただ、ジャッジは佐藤選手のもっている技術と表現力に軍配をあげたんです。ボナリー選手はいまだに納得していないかもしれませんが、結局フィギュアの採点とは、どの選手のもっている長所をより評価するかという競技だともいえます。その佐藤選手が振付師になって小塚選手のプログラムを作っているので、なんとなく懐かしいんですよね。佐藤有香が氷上に戻ってきたようで。佐藤選手も世界女王になるだけの強さと信念をもっている人でしたね。伊藤みどりのジャンプばかりがチヤホヤされるなかで、「私にはみどりちゃんのようなジャンプはない。でも他のところで見せられる部分があると思う」といい続けました。そして世界女王になったときは、「他の選手のことは気にならなかった」と明言しましたね。そういう準備ができていたから、よい演技ができたんです。そのすぐ前に行われたオリンピックでは、佐藤選手は直前の練習でジャンプが決まらず、「氷上で考え込んでいた」と五十嵐さんが言ってました。ジャンプの調子というのは、ちょっとしたことで乱れてしまうんです。オリンピックではショートの連続ジャンプを失敗して最終グループには残れませんでしたが、フリーではジャンプをなんとかまとめて順位をあげ、次の世界選手権につなげたこともよかったと思いますよ。佐藤選手はその後アメリカでプロとして成功しました。今、地に落ちてしまった採点に対する信頼性は置いておかないといけないでしょう。それに心がとらわれると、自分自身が先に進めなくなります。採点に対する不信感ばかりを募らせ、オリンピックでジャンプ失敗したら、禁止技のバックフリップやったボナリー選手のようなみっともない真似を選手にさせてはいけません(まあ、日本選手にあんなのはいませんが)。ジャッジが裏でやってることは、ファンも、選手もどうにもできません。キム選手じゃないですが、「ときどきとても公平でない」ことは、選手もわかっているんですね。自分にどうにもできないことで悩んだって、ラチあきませんよ。ファンができるのは、不審な採点が行われたときに、質問することぐらいでしょう。「匿名をやめて、オープンにすべき」という提言でもいいでしょうね。英語ができない、なんてことは気にせず、とにかく下手でもなんでも、自分の言葉で意見を伝えることです。ただし、感情的になってはいけません。チェーンメールは、組織活動を疑わせるのでよくないです。選手のほうは、やはり男子、女子ともにジャンプ構成を再検討して、もっと振付を見せる演技を心がけないと、感動が伝わりません。音楽の表現といいますが、実際にはちょっとした部分の音の拾い方だったり、腕や顔の表現だったりします。日本男子は特に、「自分には表現力がない。だからジャンプで」と思いこむ傾向があるのではないでしょうか。演技・構成点で勝てないからジャンプで勝とうとして、難度を上げ、結果自分で失敗して、演技・構成点もサゲられる。やり方が逆だと思うんです。ジャンプの難度は下げて、エレメンツの取りこぼしをなくし、プログラムの振付にも余裕をもたせて、ところどころメリハリをつける。そうやって「自分のもっているもの・自分が表現できるもの」で勝負すべきだと思います。フィギュアというのは結局、その世界に入り込んで演じることが、結局は一番大切なんですよね。そこまでもっていくには、不安をかかえたままではだめ。不安がないように準備すべきなんですね。ジャッジへの不信感も、選手がもってはダメ。そうした雑事は、忘れる強さが必要なんです。世界王者になったライザチェックだって、別に表現力に圧倒的な評価のある選手じゃありません。ファイナルを制したアボットだってです。自分と、音楽と、感情を伝えたい誰か――それだけになったときに、本当に人を感動させられる演技ができるんです。もちろん、これはかなり「後からつけた理屈」という部分もあります。ジャンプが決まってくれば気持ちも乗るし、余裕もできる。だから、やっぱりジャンプだという言い方もできるんですよね。ただやはり、ジャンプ跳ぶだけ、では、人を感動させられないのも事実。ライザチェックはいち早くジャンプ構成を下げてきました。Mizumizuは、「アメリカ選手はすでに対応を始めているのに、日本男子だけ大技に固執している」と批判しました。ライザチェックは、すぐに結果は出ず、ファイナル落ちしましたが、最後の最後の世界王者に。振付もだいぶそぎ落として、あれじゃタラソワの振付とはいえないのじゃ、と思いましたが、結果は優勝でした。
2009.04.09
浅田選手が昨季かかえてしまったジャンプの大きな問題とその克服具合を見ると…1) 3Aの確率の悪さ、決めても着氷時にフリーレッグを「こする」こと。→これは克服したと思います。今季3Aが跳べるかどうか、実は心配していたのですが、より高く、より軸が確実になり、安定してきました。別に3Aは、2度入れる必要はないんです。2) セカンドに跳ぶ3回転の回転不足問題→世界選手権のショートの3F+3Loは確かに見事でした。針の穴をとおしたと言っていいですね。しかし、認定されたのは、今季あれ一回。もう危険すぎます。やめるべきだと思います。あの素晴らしく完璧な3Loだって、スローでアップでみたら、着氷時に少しエッジが回っています。あれでダウングレードされたって文句は言えないし、そもそもあんな驚異的な連続ジャンプは続けられないでしょう。ダウングレード判定がある限り、自爆の心配もある3Loは武器ではなく、博打です。浅田選手は、セカンドに3Tをつけることもできます。これを今季まったく試さなかったのは、本当に残念。読者の方からいただいた雑誌記事によれば、タラソワは練習を指示していたようですが、要はきっちり回りきって降りてこれるかなんですね。(現状では)ルッツに3Tをつけられない安藤選手と違い、浅田選手はフリップに3Tをつけられるのですから、こちらを磨いていくべきだと思います。3F+3Tは3A+2Tと基礎点は同じ。難度から言ったら3A+2Tですが、浅田選手の場合は、実は3F+3Tより3A+2Tのほうが回りきって降りてこられる確率が高いのではないでしょうか。しかし、消耗する体力が違いますね。それを最初に教えてくれたのは、伊藤みどり。「3Aを2度入れるのがどんなに大変か」と言っていました。確かに、浅田選手の今季の滑りを見ると、3A+2Tと3Aがいかに体力を消耗するかわかりました。3) ルッツの矯正→実は、これがかなり頭の痛い問題。今シーズン12月までの試合での確率を見ると、実は成功させている試合のが多かったんですね。「さすが浅田真央」と思いました。しかも、ルッツあるいはフリップを矯正すると、フリップまたはルッツにも影響が出るのに、浅田選手のフリップは不動です。でも、今シーズン12月までの試合で成功させたルッツは、ちょっと不思議な跳び方をしていたんです。ショートなので、ステップからになりますが、浅田選手の場合、スピードがグンと落ちる。まるでいったんスピードを止めるような感じになり、浮き足を交差させて「重し」のように使い、踏み切りの足のエッジをアウトにのせる。足を交差させる――まるでループのような跳び方でした。それで、そのとき思ったんですね。多くの、というかほとんどの選手は「自分にとって跳びやすいエッジに入ってしまう前に跳ぼう」として、矯正がうまくいかないのに対し、浅田選手は従来の自分のルッツとはまったく違った跳び方をしてるのではないか、と。そして、それはループの応用ではないか、と。男子のトップ選手、たとえばウィアー選手はフリップがwrong edgeで、今季は徹底的にこれを狙われて苦しみました。最後に3Aの調子まで崩してしまったのは、このエッジ違反に対する執拗な減点に悩んだせいもあるかもしれません。ウィアー選手の場合も、エッジを気にして、「アウトに入る前に踏み切ろうとする」ので、高さが出ず、着氷が乱れるんですね。で、浅田選手は、フリップと並んでループも不動です。セカンドにつけられるぐらいですから単独はまったく問題ありません。ところが、今シーズンの初め、ちょっとだけその不動のループが乱れていたんです。初戦に単独ループ(3Aのところを入れ替え)で失敗している姿を見たときは、凍りました。昨季までは、ほとんど助走なしでも、スパイラルの脚を降ろした直後でも跳べて、しかも失敗皆無の絶対の確率をもっていたループで、真央ちゃんが失敗…練習でも、シーズン最初はプログラムに単独のループを入れていなかった(年が変わってから3Sをはずして3Lo単独を入れました)のに、さかんにループを練習してました。12月までの浅田選手のループ応用のような不思議なルッツは、試合では失敗より成功のほうが多かったのですが、練習ではしばしば、着氷が乱れてました。着氷乱れはジャンプの勢いがなくても、ありすぎても起こりますが、浅田選手のルッツの練習での失敗は、明らかに前者。回りきってることは間違いなかったですが、降りたあとフラッとなってします。跳躍力だけで跳んでるからだと思います。やはりルッツですから、助走のスピードを生かせる跳び方をしたいですね。で、年が明けて、浅田選手はルッツの入り方をまた変えたのではないかと。いったんスピードを止めて、足を交差させるループ応用のような不思議な入り方ではなく、通常のルッツになったように見えました。ところがこれが2度続けて失敗。しかも、スッポ抜け。しかも、最後の最後は「!」マークまでついて、初戦のときと同じくらい悪い失敗になりました。つまり、ルッツ矯正という問題は克服できずに終わったんです。進歩があったのかといわれると、それも結果としては、「ない」と言わざるを得ないかもしれません。浅田選手の今季の連続ジャンプの構成は3F+3Lo 10.53A+2T 9.53F+2Lo+2Lo 8.5です。これに3A(8.2点)がつく。対してキム選手は3F+3T 9.52A+3T 7.53Lz+2T+2Lo 8.8です。これに単独のルッツ(6.6点)がつく。わかりますか? 3A+2T自体は、体力を使うわりには、3F+3Tと基礎点が同じ。3連続ならルッツに2回転を2度つけられるキム選手のジャンプのほうが高い。実は浅田真央、絶対勝利のシナリオを完成させるためには、2つの3Aに、3F+3Loが必要なんです。3F+3Loが一番基礎点が高い。これを成功させてしまえば、キム選手の3F+3Tにいくら加点がつこうと、浅田選手には追いつけないんですね。2つの3Aと、3F+3Loさえあれば、たとえルッツの矯正が間に合わなくても(つまりフリーに入れられなくても)、全然問題ないんです。ところが、同じ3F+3Tに落とすと、2人が決めた場合、加点でキム選手に0.5点ぐらい負けることになる(昨季の世界選手権の実績から)。それで浅田選手としては、どうしても正面突破したいんです。今回本当に正面突破してしまったのだから、凄い選手なんですが、むしろこれは来季も浅田真央に3F+3Loという「危険技」を続けさせるワナだと考えるべきだと思います。「天上の神様からの啓示」めいた兆候もありますよね。つまり、キム選手につきはじめたフリップの「!」。これがつくと、加点が制限されるので、もし2人が同じように3F+3Tを決めた場合、多少なりとも浅田選手が上に行く可能性が出てきたわけです。(今回の世界選手権でのフリーのキム選手の得点は9.9点、浅田選手の昨季の世界選手権での3F+3Tの得点は10.93点。ちなみに昨季の世界選手権でのコストナー選手の3F+3T+2Loが12点)。この「天上の神様からのお告げ」を無視しないでほしいと思います。体力的にも3A+2Tよりラクだし、セカンドに難しいループをつけると自爆がありますが、トゥループなら自爆はありません。あとは、「回りきれるかどうか」です。今季の全日本で、浅田選手はフリーで、2つの3Aに、3F+3Loを決めましたが、3Aと3Loの一番の大技を全部ダウングレードされたので、技術点は悲惨なものになりました。年が明けてから、フリーの後半は3F+2Loにしてきました。つまり、フリーからセカンドの3回転がなくなってしまったんです。ですから、フリーから3F+3Loをはずした時点で、3Aを2度というのは、リスキーなだけの大技になってしまいました。本当は来季を考えて、3A+2Tを3F+3Tにすべきだったんだと思うんですが、浅田陣営の決断はそのまま正面突破でした。たぶん、それは、3F+2Loにおとしてもまだ、勝ってしまう可能性があったからだと思います。今回のフリー、キム選手はサルコウとスピンのキックアウトの失敗、浅田選手は3A転倒と2Loダウングレード、そのほかスピンやスパイラルでレベル取りの失敗がありました。キム選手が全部のジャンプを決めるのは非常に難しいので、基礎点の低いサルコウの失敗だけにおさめたのは、相当よかったんですね。対して浅田選手は命綱の2度の3Aを決められず、その他のエレメンツにも取りこぼしがあった。で、キム選手の思わぬスピンのキックアウトがなく、浅田選手が2度の3Aだけを決めていたら(スピンとスパイラルのレベル落としはそのままです)、どうなったかというと・・・技術点 キム選手63.19+3.6(スピンは4大陸の実績からの加点こみ)=66.79点 浅田選手60.15+8.8(3Aは過去の実績からの加点こみ)=68.95点ね? また浅田選手が上に行っちゃう(苦笑)。つまり、他のエレメンツにレベル4を並べ、ジャンプの失敗を最低限におさえ、加点テンコ盛り(と言ってるのはまあ、キム選手のプロトコルを監視してる日本のファンですが)にしてる「いっぱいいっぱい」のキム選手に対し、ループを2回転にしてダウングレードされ、スピンやスパイラルでちょこちょこレベルを落とし、さらに今回はステップの加点でも負けてるのに、それでも、3Aを2度決めてしまうと、やっぱり浅田選手の技術点のが上に行くんですね。4大陸フリーでも、浅田選手は3Aを2度決められなかったのに、後半の2ループを決めると、もう1つジャンプをミスしても、キム選手がうっかりダウングレード3つも取られると、やっぱり浅田選手が上に行っちゃうんです。演技・構成点を爆アゲしなきゃならない理由が見えてくるでしょう?これからこの「演技・構成点の爆アゲ」はカナダの男子、チャン選手に対して起こるのではないかと思います。今突然女子に「9」点がいくつか出て、みんな驚いていますが、徐々に出していけばそれが常態化してしまいます。チャンはジャンプが弱いですからね。銀メダリストが、シーズン通して4回転入れてないのに、3A2度を1回しか決められず、しかも決めた1回も連続は3A+1Tなんですから。まさに今回のキム選手に対する演技・構成点は、「パンドラの箱」を開けたと思っています。9だろうと8だとうと、どちらが適当かなんて誰も言えないし、9と8の差が正しいのか、9と7の差が正しいのかも、誰も答えようがないですから。さて、浅田選手ですが、ルッツの矯正に対してコーチをつけるべきか――というような質問も読者の方からいただきました。これについては答えようがないです。矯正というのは2季前から始まったもので、それまでは、誰もやったことがありません。だから適切な指導メソッドをもっている人はいないでしょう。メソッドもってるコーチがいないから、女子のトップ選手はみな、ルッツとフリップをペアで乱してしまい、困っているんですね。ジュベールやウィアー選手ですら、フリップで「!」を取られる状態から脱していません。「やってみたら相当難しい」とみんなわかったところなんじゃないでしょうか。安藤選手は落ち着いてきました。さすがですね。オリンピックに完全に間に合います。ロシェット選手もエッジに違反がないのが強いです。キム選手は「矯正しない」と言っていますが、それが正解でしょう。今から直そうとすると、非常に危険。あとは単独のフリップだとエッジはどうなのか、ですね。チャン選手は相当疑わしいと思うんですがねぇ… 特にショートでしばしば。彼は常習性がないのに、突発的にかなりモロにwrong edgeになるという不思議なクセがあります(というか、そう見えます)。浅田選手に対して、あまりいろいろな人がいろいろなことを言うのはよくないと思います。浅田選手は、今のところフリップに乱れがありません。この不動のフリップのエッジが来季の試合で曖昧になったり、乱れたりしたら、すべて終わりです。浅田選手の3回転+3回転はフリップにしかつけられませんから。<続く>
2009.04.08
<きのうから>ただ、浅田選手に対する最大の不安は、ルッツです。昨季からエッジ違反を厳しく減点するようになりましたが、このルール改正でも、日本スケート連盟の対応は非常ににぶかったですね。昨季始まったばかりのときは、「実際に試合をやってみないとどのくらい減点されるのかわからない」などと発言し、いざ減点されはじめると、予想以上の厳しさに驚いてる始末。2007年11月5日の毎日新聞の記事からの引用です。国際連盟ジャッジの加藤真弓・日本連盟理事は 「着氷の回転不足の確認はビデオの再生ができるが、踏み切りの確認はできない。よっぽどじゃないと マークは付かないのに」と言った。 (中略)日本連盟関係者は世界選手権女子で「日本の2人がワンツー を占めたため、厳しくなった“政治的”な側面もあると思う」と日本つぶしに警戒感を強めている。連盟も、ルール改正に強すぎる日本女子をサゲたいという意図があるのは、もちろんわかっているんですね。いつの時代も、ルールを決めるのは「より数の多い勢力」なんです。いくらある国で選手が強くても、政治力のない国は不利なルールで戦うことになります。さて、このエッジ違反の減点をもっとも警戒したのは、モロゾフだったんですね。モロゾフはシーズン前から、徹底して安藤選手に矯正をさせました。「容赦なく減点してくる」とわかっていたんでしょう。それがモロゾフのしたたかさです。「よっぽどじゃないと…」なんて甘くは考えていなかったんです。それで昨季は安藤選手はジャンプが乱れまくり。それでも矯正は続けました。一方の浅田選手のコーチのアルトゥニアンは、「この突然のルール改正はあまりにアンフェア」と抗議。浅田選手は当初「入り方をかえて(それなりに)対応した」つもりだったんですが、入り方ではなく、やはり踏み切り時のエッジを厳しく見られて徹底的に減点され、非常に不利な状況に立たされました。あそこで外堀を埋められた状況だったんですね。それを実力で突破して、エッジ減点されながらも、世界一の点を出して世界女王になったんです。しかも、3Aで跳ぶ前にコケて、マイナス点になりながらです。いかにすごいかわかりますか? 「相手のミスに助けられて勝っている」なんて、メディアの論評を見ると腹が立ちますね。浅田選手に対抗するためには、難度の高いジャンプ構成にしなければならない、そうすると実力を超えたものになり、ミスが出る。それだけの話です。さて、昨季の2人のコーチの対応は、昨季は浅田選手に吉と出て、安藤選手には凶と出ました。では、今季は? 世界選手権では安藤選手はショートでフリップを見事に決めて加点をもらいました(フリーでは回避)が、浅田選手はルッツで失敗しました(フリーでは回避)。では、来季は? 安藤選手のフリップはより安定してくると思います。ただ、懸念もあって、かなりエッジはフラットなんですね。アウトに入ってないのは間違いないですが、かなり中立に近い。「!」マークは、not obvious、つまり「エッジ遣いがそれほど明確でない」場合にもつけられるから、「!」がついてしまう可能性もあります。ただ、「E」はないでしょう。キム選手のフリップはかなり疑わしく、アウトに入って見えますので、今後も「!」、場合によっては「E」(今季一度だけ出ましたね)もあるかもしれません。エッジ判定は昨季、ルッツが正確なキム選手には有利でしたが、彼女のフリップはずっと疑わしかったんです。昨季Mizumizuは日本スケート連盟と国際スケート連盟に、そのことについて「もっと正確に、公平にジャッジングすべき。もしインで踏み切るのがフリップの定義とするなら、キム選手のフリップもエッジ違反ではないか」とメールしました。そしたら、今季になって「!」が導入され、エッジ違反の範囲が広がりました。当初キム選手にはマークはつきませんでしたが、あまりクレームがくるのか(笑)、とうとうマークがつき、今年に入ってからは、4大陸、世界選手権でも!判定ですね。キム選手が突出して強くなったので、ここらでサゲようと思ったのかもしれませんが、来季はこれがキム選手の不安材料です。現在でも!がつくと、加点が抑制されます。あの最大の武器で加点が抑制される、あるいはつかなくなるとキム選手には痛いです。読者から、キム選手は「来季は3Lz+3Tを跳ぶ」と発言したという情報をいただきました。つまり、今までフリップにつけていた3Tをルッツにつけるということです。実はこれは、世界選手権の前に韓国紙が伝えていて、「ショートでフリップに3Tをつけられなかった場合は、次のルッツに3Tをつけるリカバリー構成を用意している」と書いてました。連続ジャンプは単純に基礎点の足し算ですから、フリップにつけようと、ルッツにつけようと点は同じです。ジャンプ構成をあげるわけではなく変更するというだけ。小塚選手は全日本のショートでルッツからの3Tがつけられなかったので、すばやくフリップにつけましたね。ちょっと回転不足気味で、完璧ではありませしたが認定はされました。2Aから3ループにかえるなら基礎点は上がりますが、フリップにつけていた3Tをルッツにつけても点数は変わりません。難度から言えばルッツにつけるほうが難しいですが、個人差もあり、基本的には本人が跳びやすいかどうか。もし本気でキム選手が3F+3Tから3Lz+3Tへの転換を考えているとすれば、それは、フリップへのwrong edge違反への対応ではないでしょうか。世界女王になったら足をひっぱられることは、オーサーも予想してるでしょうし。以前も書きましたが、キム選手は基本的にはアウトの踏み切りのが得意なんですね。フリップを踏み切るとき、その前の軌道ではインに入っていたエッジが、タメてる間に中立に戻ってきてしまいます。だから、連続ジャンプに不安があると、どうしてもタメが長くなり、アウトに「より長く」入ってしまうのではないかと。韓国のジャッジもそのようなことを言っていたと思います。ただ、テレビで見てる分には、いつもあの跳び方で大差なく見えるんですが(苦笑)、なにせテレビ画面では、カメラの方向によってずいぶん違って見えるので、Eが適当なのか!が適当なのか、Mizumizuにはわかりません。だから、今のルッツとフリップを入れ替えて、フリップの負担を減らしてエッジ違反を取られないようにしようということかもしれません。ジャッジから踏み切りの足が見にく~い場所でフリップ跳んだりね(←ホントにやりそう・苦笑)。ただ、単独にすれば必ずフリップをインで踏み切れるかと聞かれると… 負担のかかる連続ジャンプにするからタメが長くなり、アウトに入りがちなのか、そもそもクセで単独ジャンプでもそうなってしまうのかは、見たことないのでわからないですね。普通は、踏み切りというのはその人のクセなので、単独ジャンプでも跳びやすいほうに入ってしまうと思います。浅田選手は2試合連続でルッツを失敗した――つまりは今、ルッツが跳べなくなってしまった状態ですから、「アタシは、簡単にルッツからの3Tが跳べるの! それだけジャンプの力はついてきたの!」と、ジャンプでの優位性を強調して、さらにどん底に落とす意図があるかもしれません。キム選手のジャンプは、現実には劣化が始まっています。ループは入らなくなった。ルッツやセカンドの3Tが回転不足気味になる。あの状態から、19歳という難しい時期に入る来季に、特にフリーでのジャンプの確率をさらにあげるのは大変だと思います。EXで試合で失敗したサルコウを「跳べる」ことを見せたあとに、ダブルアクセルばっかりやってるのを見てもわかりますね。しかも失敗しちゃいました。しかし、浅田選手の一番痛いところをついてくるとは、さすがにあのオネエが後ろにいるだけあります(笑)。浅田選手はもともとエッジでの厳しい減点が始まる前から、ルッツを連続ジャンプにすることはできない(やろうとしない?)選手でした。そのかわり、2Aにも3Aにもセカンドジャンプをつけられるし、フリップはフリーで2度連続ジャンプにしてもイケる選手ので、やる必要がないといえばそうですが。チャンも世界選手権の試合後に、カナダのメディアを使ってジュベールにさかんにプレッシャーかけてるし。カナダ陣営の作戦でしょうね。どこまで汚いのやら(呆)。キム選手がいろいろ仕掛けてくれるので、結果としてロシェット選手は、日本でのイメージも損なわず、得してますね。こういう発言にある種のウラがあるとしても、ほっとけばいいんですよね。キム選手が連続ジャンプを組み替えようと、浅田選手の課題は変わりません。人間は気持ちが弱くなると、いろいろな「揺さぶり」に動揺するようになります。凡人は、悪意を向けられるとすぐに感情的になって、自分が泥沼に陥るんですが、浅田選手は凡人ではありません。天才です。といっても、あまりに浅田選手を取り巻く環境は商業主義のご都合主義ですから、精神的な支柱になってもらうためにも、フィギュアスケートの世界の汚い部分をよく知っているタラソワのそばに、なるたけいさせてあげたいですね。ライバルが何を仕掛けてこようと、ジャッジが公正でなかろうと、それは選手にはどうにもできないことですし、選手は自分の課題を克服することに集中すればいいんですね。ただ、これは私見ですが、実際にはキム選手の連続ジャンプの組み換えは難しいと思います。3Lz+3Tだけなら問題なくできても、それを入れてまたプログラムをまとめるというのは別問題になりますからね。それとフリップのエッジのクセ。単独にすればキチンとインで跳べるのか。結局は、その兼ね合いで、連続ジャンプを組み替えるか否か、オーサーが判断するでしょうし、来季の初戦を見てみないとわかりませんね。「!」に対する加点ですが、ルールでは「GOEはジャッジの自由裁量で」とあるので、加点しても不正ではありません。ただ、常識的には「Eは減点しなければいけない。!はジャッジの自由裁量にまかせる」とあれば、!は「減点してもしなくてもいい」と読むのではないでしょうか。普通は「加点もできる」とは考えないと思います。今のルールは減点主義なので、2連続ジャンプをやって、セカンドの着氷が乱れれば、単独ジャンプより点が低くなるというバカみたいなことが起こります。減点至上主義ともいえますね。その原則論でいくなら、いかにキム選手の3F+3Tが素晴らしい質をもとうと、エッジに「!」があるなら、加点をするのは、少なくともおかしいです。「!」がついた場合は、加点してはならない。ただし、減点するか否かはジャッジの裁量にまかせる――このようにガイドラインを明確化すべきですね。「2Aの挿入回数を2回とし、!マークは加点なし」――これはMizumizuがキム選手をサゲるために、考え出したちょっとしたルール改正です。それぞれにもっともらしい理屈がついています。「2Aは点数上、3回転扱いのジャンプだから3回転同様フリーの挿入回数を2度に。そうやってジャンプの偏りをなくし、選手のバランスのよいジャンプ力を見るようにしましょう」「現在!マークには明確な規定がなく、加点される選手と減点される選手が出て不公平です。ガイドラインを明確にして、加点はなし、ただし減点するかしないかはジャッジの裁量にまかせましょう」。これをやるだけで、キム選手にはとても痛いんです。今の構成でさえ、サルコウ失敗するかルッツが回転不足になるのに、これで2Aが2度となると、どうしてもループを入れないといけない。瞬時の判断で3Sを2Sにしたり、3Loを2Loにしたりできないキム選手にはプレッシャーがかかります。ルール改正とはこうやって、もっともらしい理由をくっつけて、強い選手を弱くしたり、弱い選手を強くしたりできるんですね。あとは政治力です。さて、浅田選手のルッツです。
2009.04.07
<きのうから続く>個人的にはダウングレード判定をなくし、2Aはフリーで2度までにすべきだと思っています。2Aは加点も含めれば3回転と同様の点が得られる、つまり3回転と同様の評価が与えられます。ならば3回転ジャンプと同様に2度とするほうが筋がとおっていますね。しかも、今回世界女王になった選手はループをはずし、サルコウを失敗した選手です。ループとサルコウがなく、2Aを3度入れる、と言ったら全日本の村主選手と同じじゃないか、と思うかもしれませんが、決定的に違うのは、セカンドに3回転をもってこれることです。ロシェット選手もシーケンスで3+3が跳べます。ただ、キム選手のジャンプ構成のバランスが悪いのは確かで、ロシェット選手までループ回避で2Ax3をやりだしたら、ますます女子のジャンプの技術は劣化します。逆に村主選手は世界選手権では全日本では回避した3サルコウを入れて2Aを2つにする、(彼女にとっては)難度の高いジャンプ構成にして、失敗が出ましたね。ロシェット選手のフリーのジャンプはループが2回転になった(というか、2回転にしたというか)だけで、他に大きな減点になるミスがないんです。つまり、サルコウが2回転の回転不足の失敗になったキム選手(しかも、キム選手はルッツと3Tがやや足りなくなることが多い)よりジャンプのまとめはよかった。これが現在の採点では強いと思います。スピンやステップやスパイラルでレベルを落とさず、加点ももらえる演技をしつつ、ジャンプのミスをしない。これがまさしくトータル・パッケージです。ロシェット選手は、踏み切り時の判断で2回転に落としてジャンプをまとめることがわりとできる人で、すっぽ抜けの失敗は少ない。今回2ループで加点もついてます。(かつての荒川選手)、安藤選手もすっぽ抜けの失敗が少ない。キム選手、浅田選手は、なぜか3回転ジャンプが、すっぽ抜けか転倒になる選手なんですね。伊藤みどりが、ショートの浅田選手の3F+3Loのループがシングルにすっぽ抜けるのを見て、「あ~、ここはせめてダブルにしないと。真央ちゃんならできると思うんですが、なぜ…」と言ってました。実におもしろい発言ですね。つまり伊藤みどりにとっては、3回転のつもりを踏み切りのときの一瞬の判断で2回転にすることは、わりあい簡単にできたんです。「せめて」という言い方にそれが表われていると思います。伊藤みどりの「すっぽ抜け(パンクともいいますが)」の失敗などほとんど見たことがありません。アルベールビル・オリンピックのフリーでは3Lz+3Tのつもりを、やはり一瞬の判断で2Lzにして、セカンドを3Tにもっていってましたからね。このジャンプのフレキシビリティ(と一応言っておきます)がない選手は、今のルールでは、3回転のところが2回転の失敗やら、1回転の失敗やらになってしまうので、失う点が多いんです。キム選手と浅田選手はこの失敗の可能性が高いんですね。ロシェット選手はループを入れても、他のエレメンツに取りこぼしがないので、プログラムの完成度は実はキム選手以上ともいえます。しかもループをはずしてダブルアクセルにかえることもできる(つまりまだ難度を落とせる)。個人的にダブルアクセルを苦手とするトップ選手もたまにいますが、ロシェット選手の場合は得意です。特に着氷時のフリーレッグのあげ方は女子のレベルを超えています。あそこまで脚を持ち上げられるのは、脚の筋力だけでなく、腹筋・背筋の力が抜群だということでしょう。だから、3ループで危険をおかすより、2アクセルで加点を狙ったほうが点はのびるかもしれませんし、ループをアクセルにかえて、「本当にノーミス(かつ他のエレメンツも高レベル)」で滑れる可能性は、実はキム選手より高いんです。ただ、キム選手と比較した場合、セカンドに3回転をもってこれない(今のところは。ただ年齢的にも来季にできるようにするのは難しいと思います)というのが痛いんです。そのかわり3Tと3Sをシーケンスでつなぐことができます。ただ、やはり連続ジャンプで3Tをルッツかフリップにつけられないと、その年の「絶対的世界女王」にはなれないかもしれませんが、キム選手だって神様じゃありません。セカンドの3Tをダウングレードされたり、失敗したりしたら、ロシェット選手のほうが上に行く可能性は大きいんです。表現力だって、今はあまり評価は高くないですが、今季で銀メダリストですから、来季、彼女の個性に合うプログラムを作れば、もっと高い点が出るはずです。彼女だって、素敵な個性をもっています。EXのボンドガールなんていいですよね。ああいったモダンな振付は、キム選手や浅田選手には合いません。それで来季、ジャッジが徐々に演技・構成点を上げていけば、五輪で金メダルも十分あります。つまり、難度の高いジャンプを他のエレメンツのレベルを落とさずに決められる力がある、ということなんですね。それがロシェット選手の強さで、これを支えてるのは、苦手な3回転ジャンプがない、というバランスのいいジャンプの力です。3ループだって跳べないわけじゃないです。キム選手は、ループは危険すぎる、サルコウも確率が悪くなってきた… つまり劣化してるんですね。これを来年19歳という女子にとっては難しい時期に上げていくのは非常に大変で、逆にチャレンジしたら失敗する(他のジャンプにもっと影響がでるなど)可能性のが高いです。今季の傾向を見ても、難度の高いプログラムにしようとすると、点が逆にさがってしまいます。アボット選手は、4回転入れようとして4大陸で自滅、キム選手は4大陸でループに挑戦して点を落としてしまいました。ですから、キム選手はループには挑戦せず、ダブルアクセル3回で行くハズです。そのほうが点が出ますから。あとは劣化との戦いです。日本スケート連盟としては、フリーで挿入可能なダブルアクセルの数は2つにすべきだと主張することです。ダウングレード判定をなくし、2Aを2つにする。そうすればルールは今よりずっとフェアで、バランスのよいジャンプ力を見ることのできるものになりますね。「来年のキム選手はどうなりますか?」と聞かれることも多いのですが、もちろんわかりません。わかりませんが、いいシナリオと悪いシナリオがあります。いいシナリオは現状キープです。ジャンプ構成の難度を上げてくることは、ほぼ考えられません。今であの銀河点ですからね。むしろ、来年も同じプログラムで来て、サゲられたらまたあのカナダの英雄オネエ… じゃない、ミスター・トリプルアクセルが、「去年と同じことやって、完成度高めてるのよ! 点が低すぎるわ!」なんつって文句言ったりね(笑)。このいいシナリオにもっていくためには、ウエイトコントロールと筋力トレーニングですね。19歳は非常に危険な年齢です。跳べてたジャンプが跳べなくなる人も多い。キム選手もすらりと長い手足をもっていますが、普通はああいったスタイルのいい選手はすぐに跳べなくなることが多い。でも、キム選手はジャンプに関しては、ジュニアから今まで「年齢にともなう大きな乱れ」に遭遇してないと思います。1つには、ジャンプ構成を変えずにきたのが大きいと思います。昨季の不調は怪我が主ですので、年齢にともなうものとは違います。この「大きな乱れ」がいつ起こるのか… 来年なのか、再来年なのか、わからないんですが、女子選手はほぼ必ず、この乱れに遭遇します。キム選手の身体の変化を見ると、来年にそれが重なる可能性が高いんです。去年から今年、キム選手はすらりと美しい女性らしい体形になってきましたよね。あれで腰から下に肉がついてくると大変です。ですから、ウエイトコントロールと筋力トレーニングを並行してやって、この「乱れ」をなるたけオリンピック後までのばすのがキム陣営の最大の課題。この時期に新しいジャンプ(つまりはプログラムにループを入れること)に挑戦すると、逆にダメになってしまうので、それはやらないと思います。マイズナー選手は世界女王になったあと、シニアに上がってくる浅田選手対策として、トリプルアクセルに取り組んで、結局他のジャンプまでダメになりました。そこにエッジ違反が重なり、これに引っかかったためますます泥沼に。マイズナー選手の場合はむしろ、「トリプルアクセルが練習では跳べる」能力があったために、これが凶と出てしまったんですね。年齢的には浅田選手も同じなんですが、浅田選手の乱れは、むしろ去年だったんじゃないかな、と思います。今年は3Aが抜群に安定してきました。2度は難しくても、1度ならまず入る。ルッツはエッジ違反にともなうものなので、別に劣化したわけではありません。浅田選手は、3A着氷時の「フリーレッグのこすり」をほぼ克服しました。ツーフットになったのは、最初のフランス大会だけ。トレーナーをつけた結果が出てると思います。あの浅田選手のそばにいるお兄さんは、たいしたものです。世界選手権の結果が4位だったからといって、成果が出なかったなどと誤解してはいけないと思います。むしろ、筋力トレーニングの成果は、思った以上に早く出たと見るべきです。あのお兄さんには、ずっと頑張ってほしいと思います。同じく難しい19歳に差し掛かりますから、筋力トレーニングはしないと。連盟が横からクビだとか、言わないといいんですが…<続く>
2009.04.06
浅田選手が女王になったときも、セカンドにもってくる2種類の3回転ジャンプ、ルッツがありました。浅田選手はフリーではルッツが1つしか入りませんでしたが(ルッツからの連続ジャンプがないため)、そのかわりに不動のフリップ、ループがありました。なんで、トリプルアクセルは失敗、ルッツはエッジで減点でも、勝てたんですね。安藤選手を世界女王にしたのは3ルッツ+3ループと言っていいでしょう。4回転ではないんです。むしろ4回転を入れようとすると安藤選手は負けるんです。それはやはり、今季も同じ。浅田選手も3A失敗しつつも、3F+3T、ショートで3F+3Lo、それにエッジ減点されながらルッツを決めて女王になりました。ルッツはだいたいトップ選手は跳びます。だから、セカンドに3回転が跳べるかどうかで、世界女王になれるかどうかが決まると言っても過言じゃないわけです。それが今年は、セカンドのループ認定しない攻撃で、今は奪われてしまったんですね。安藤選手、浅田選手とも。で、今季始まってすぐに、Mizumizuは「今年はキム・ヨナの年」だと書きました。今回世界選手権での結果を見て、「どうして今季の浅田選手の演技を見ないうちにわかったんですか」というメールを数多くいただきました。そりゃ、もちろん日本人ですから、日本人選手に世界女王になってほしかったですよ。今年はキム・ヨナのもの――そう思ったのはいくつか根拠があります。まずは昨季のジャンプの調子。昨季、実は浅田選手は物凄く多くの課題をジャンプに抱えてしまっていたんですね。まずは最大の武器、トリプルアクセルの確率が悪い。これはその前、つまり女子としてはジャンプが難しくなる時期にステップからの3Aなどという無謀なことをやってしまったのが一番の原因だと思いますが、とにかく、浅田選手は3Aが不安定で、決めたとしてもツーフットになりやすいのが、Mizumizuは非常に気になってました。ツーフットといっても、両足で着氷してしまう(回転不足ということ)ほどではないんですね。ただ着氷時にフリーレッグが「こすって」しまう。この原因は身体的なものです。腹筋・背筋が弱いから浮き足を持ち上げてキープできない。今季3Aが跳べるのか、跳べなくなるのか、実は昨季の浅田選手はギリギリのところにいたと思います。それから、ルッツ。エッジの減点が始まって、矯正を迫られました。昨季はこれを正面突破することにして、あえて本格的な矯正はしませんでした。つまり今季に入る前に矯正しないといけなかったんですが、これがちょっとやそっとじゃできないことは他の選手を見れば明らかでした。それを教えてくれたのが、昨季に入る前にいち早く矯正に取り組んだ安藤選手だったんですね。去年彼女はルッツとフリップが不調で、コケまくりでした。「フリップを矯正してるんだけど、そしたら(元来彼女が得意である)ルッツも乱れちゃって…」と言った安藤選手を、「まだ安藤が言い訳してるよ」などと叩く人がいるのが悲しいですね。ああいう無用のバッシングをするから、安藤選手は精神的に不安定になり、インタビューで何を言っていいのかわからなくなるんです(でも、世界選手権でのインタビューを聞くともう大丈夫だと思います)。彼女の言ってることは本当です。逆に考えるべきでした。「安藤選手ほどのジャンパーですら、矯正というのは難しいんだ」。実際に、アメリカ選手を始め、矯正はなかなか進みませんでした。ルッツを直したらフリップが曖昧なエッジになる。逆もそうです。ルッツとフリップはペアで乱れてしまうんですね。浅田選手は安藤選手と違って今季に入る前からの矯正になりました。これがまた非常に難しい課題です。それと、セカンドにもってくる3ループと3トゥループの問題です。3ループは昨季はちゃんと降りればわりあい認定されてましたが、ショートでの自爆が多かった。3トゥループはいつも回転不足です。ダウングレードされるのは3Tのが多く、回りきって降りてこられる確率で言ったらキム選手のほうが圧倒的に上でした。よく「キム選手のセカンドの3Tの回転不足は見逃されてるんじゃ」というメールをいただきました。たしかにちょっと足りてないのが認定されていたのは確かですが、あくまで確率で言ったら、浅田選手のセカンドの3Tのほうが回りきって降りてくる確率は低い、というか、いつも不足でした。昨季の世界選手権のフリーでは後半の3ループはダウングレードされましたが、最初の3Tは認定してもらって助かりました。もう言ってしまったことですが、あの3Tは回転が足りてませんでした(4分の1以下だとジャッジが判断したということですね)。3A、ルッツ、セカンドの3回転にこれだけ多くの問題をかかえたまま浅田選手はそれでも女王になったんですね。一方のキム選手は、個々のジャンプには問題はなかったんです。ただ、滑りきる体力がなかった。日本のメディアは浅田選手が勝つと「相手のミスに助けられた」と書き、浅田選手が失敗して負けると、「浅田は精神力が弱い」などと叩きますが、まったくの見当違いです。ジャンプミスというのはシステマティックに起こります。昨季は、浅田選手に対抗するために組んだジャンプ構成を、他のエレメンツをこなしつつ跳ぶ力がキム選手にないから失敗してたんです。つまりキム選手の最大の問題は「体力」だったんですね。で、今季。入れなければいけないエレメンツが1つ減ったことで、体力に不安のあるキム選手は助かりました。そして初戦。3ループは失敗しましたが、これは2Aでカバーできる、つまり今年は去年よりジャンプ構成を落とすことができたんです。来年はもう落とすことはできませんね。落とすとなると世界女王になるための最大の女子の武器、セカンドの3Tを2Tにしなければなりません。そして、今季のキム選手のプログラムの振付。これが非常によかった。キム選手の最大の長所は「のびるスケーティング」です。それと連動しますが、「氷をつかむ力」が抜群です。これは安藤選手と比較するとわかります。安藤選手は脚のバネではキム選手に勝りますが(ループが得意なことで証明できます)、実は氷をつかむ力が弱い。だから、安藤選手は思わぬところで転倒したり、つまずいたりします。あの失敗がキム選手にはないでしょう?つまり、キム選手は水平方向に滑っていくときのスキルが非常に高いのです。しっかり氷をつかんで進み、ストロークが長く、スピードを自由にコントロールできる。さらにエッジ遣いも深い。キム選手が滑ると、エッジが氷に張り付いているように見えます。これを「スネーク・ストローク」と個人的に呼んでいます。まるで蛇が進んでいくように見えるからです。このスネーク・ストロークが一般の人に「美しく見えるか」というと、それはまた別問題です。ただ、スケートを見てる人間なら、滑るテクニックが非常に高いことはわかるはずです。では、短所は? 実はキム選手は動的で細かいステップを長く踏んだり、回転動作を交えながら素早く移動していくことができません。これは浅田選手に圧倒的に劣っている点です。キム選手のスケートの技術は荒川選手に似ているかもしれませんね。荒川選手にも同様の短所と長所がありました。浅田選手はあの驚異的なステップを長く続ける体力と技術があります。「あんな難しいステップを最後にもってきたら、ジャンプを入れると、ステップでコケる」と今シーズン予言しましたが、ありがたいことに(苦笑)、ハズれました。最後の世界選手権では、心身ともに疲れ果て、かなりステップは劣化してしまいましたが、とりあえず、あの難度の高い、長いステップのパートを、コケたりつまずいたりせずに滑りきりました。本当に浅田選手の体力と技術は凄いです。スケートの技術と一言で言いますが、何に着目するかで、高い低いはかわってくるんですね。今季のキム選手の振付は、彼女のスケートの長所を活かし、短所をなるたけ補うように工夫されていました。それはステップの部分。細かく動的なステップを長く踏めないキム選手は、たとえばストレートステップのときは、深く弧を描きながらスピードの緩急をつけて滑ってきて、緩めたところで、腕のふりを使った上半身の動作を入れ、次に素早いステップを入れていました。このときのステップの時間は長くありません。でも、長くなくていいんですね。レベルが取れれば。スピードの緩急に、短いけれども細かなステップを組み合わせる。これはキム選手の長所を活かし、短所を補う見事な振付です。そこに、ジャンプをしたり、素早いターンを入れたりして、得意のポーズを見せます。このポーズは、実はわりとワンパタで、腕を大きく使いながら、ぐっと素早くターンし、肩越しに振り返り、片足を曲げて、別の足は伸ばす。この基本動作に、腕のポジションを変えたりするなど、少しバリエーションをつけたものなんです。バレエ好きとフィギュア好きはわりと重なりますが、バレエ好きの方が「あればっかりで退屈」と言うのは、バレリーナのようには、腕そのものの動きもあまり続かず、躍動する動作の美しさがなく、ポーズの美に頼ってるからなんですね。ただ、エッジ遣いを含めた氷上の表現としては、高く評価できると思います。それと新しいプログラムを見せるときに、必要なのが、「新鮮さ」。昨季までのキム選手は、東洋的な憂いを含んだ振り付けが多かった。今季のショートは、いわば「疾走する死」がテーマ。キム選手はエレガントさには欠ける選手です。表現力はありますが、どこか「いびつな」感じがします。それを好む人も嫌う人もいると思いますが、とにかく独特の個性であることは間違いありません。キム選手のショート『死の舞踏』では、「恐怖」が表現できていたと思います。対してフリーはアラビックな妖艶さを出していました。これも得意のポーズの美しさを活かしながら、ショートとは違う世界を表現するのに成功してましたね。2つともキム選手の長所を活かし、短所を補う素晴らしい振付です。振付全体には、太田選手やクワン選手の影響は顕著ですが、それでもショートとフリーのコントラストはうまくいっていましたし、ちょっとした音の使いかたも、振付全体に余裕があるので、うまく見せていました。むしろ、これ以上のプログラムを来季に作るのは大変です。そしてジャンプの調子もいい。去年のように後半明らかに体力がなくなり失速することもなくなっていました。ループはダメですが、あれははずせばいいことです。浅田選手のように多くの課題はもともとなかったし、別に新しいジャンプをやっているわけではない。つまり、とても安定した、減点ポイントの少ない演技だったんです。浅田選手が克服しないといけない課題を考えると、今年はキム選手の年だな、と思ったんですね。浅田選手の今季のプログラムは「挑戦型」で、あれはあれでよかったと思いますよ。昨季ジャンプでかかえていた問題の克服具合も、予想よりずっとよかったです。ただ、ルッツが心配ですねぇ… それとセカンドの3回転を回転不足なくもってこれるのか。ちょっと情報筋はまだ明かせませんが、ダウングレード判定に関しては、内部からも非難・批判の嵐だそうで、来季はどうなるか、まだわかりません。今より緩くなるのかもしれませんが、そうなったとしてもループは依然として危険です。で、ロシェット選手に話を戻しますが、現在女王のキム選手が構成を下げられないのに対して、ロシェット選手の場合、フリーのジャンプの構成をまだ下げることができるんです。つまり2回転になってしまったループのかわりにダブルアクセルを入れて、ダブルアクセル3回の構成にする。今の採点では、ミスして点を失うと負けます。だからスピンとステップとスパイラルのレベル取りに失敗しないぐらいのジャンプ構成にしないといけません。<続く>
2009.04.05
読者の皆様へこちらのブログを運営していらっしゃるTMRowingさんが、先日ビアンケッティさんにメールを送ったところお返事が来たそうです。TMRowingさん、およびビアンケッティさんご本人の許可を得て、拙ブログにも転載させていただきます。全文はMRowingさんのブログをご覧ください。最初の1段落目でビアンケッティさんは、「スポーツが生き残るためには、ファンの意見は絶対欠かせないものだ」と説きます。彼女はファンの考えや提案、批判を受け取ることが「大いなる喜び」だとしています。It is always a great joy for me to receive letters from fans expressing their thoughts, their suggestions or critics. The opinion of the fans is vital because you are the lymph for any sport to survive. 本当の一流のプロはファンを素人と侮ったり、ないがしろにしたりしません。それは世界のトップ選手もそうですよね。彼らは自分たちを支えてくれるのは、一部の専門家やマニアではなく、一般のファンだということをわかっているんですね。根拠のわからない点数を見せておいて、「ジャッジ様がやったことだから無知な素人は黙って納得しろ」と言ったって無理。信頼してもらるように努力すべきなんですね、それが本当のプロ。2段落目は、ロスの世界選手権に対する私見です。順位についても採点結果と自分の判断の違いに触れていらっしゃいますが、これは特段現在のジャッジ批判ではありませんし、不正があってこうなったということでもありません。「自分としてはこう思う」ということで、それがそもそもジャッジの仕事なんですね。誰が誰より優れているか。要求されてエレメンツをどの程度こなしているか。選手のスケートの力量はどのぐらいのものか。それは本来は、ジャッジが自分の責任において判断すべきものなんです。優れた眼をもつジャッジによるフィギュア・スケートの採点。ヨーロッパで長くフィギュアが根強いファンに支持されてきたのは、基本的にファンがジャッジの採点に信頼をおいてきたからだとMizumizuは思っています。もちろん、根回しのような部分はありましたが、出てきた順位は、わりあい誰にとっても納得できるものが多かった(もちろん、そうでない場合もありますが)。そのジャッジへの信頼を新採点システムが壊してしまったのです。どこかの個人ブログ(普通のフィギュアファンの方のブログですが、大変に力のこもったよいブログでした)で、ビアンケッティさんの文章を引用されている方がいて、1つ誤訳がありました。「陰謀や裏取引があるのを、一般人がわかっていて…」というように訳された部分があったんです(ウロ覚えですいません)が、そうではなくて、ビアンケッティさんは、「匿名での採点というのは、陰謀や裏取引を隠すための方法だと(大衆やスケート関係者の多くから)思われている」、つまり信頼されていない、ということを言いたいわけなんですね。陰謀や裏取引があるともないとも言っていません。残念ながら、サーフィンしながら、あら? と思っただけで、指摘させていただくのを忘れました。どなたのブログかわかったら(すごく抽象的で曖昧な記憶ですいません)、ブログ主さんに教えてあげてくださいね。ブログ自体は、本当によくできたブログです。ただ、拙ブログでもビアンケッティさんを紹介したので、サーフィンしてあのブログを見つけた方が、「ビアンケッティさんが不正を認めてる」と誤解してはいけないので。さて、一番重要だとMizumizuが思うのは、演技・構成点に関する意見です。As I say in my article the number of Program Components is much too high and all the requirements listed in each one just make it impossible for any judge, in my opinion, to properly assess the marks. And it is totally useless, because, as you can see, there is no difference from one mark to another. The marks of the PC are mainly based on the reputation of the skaters and previous competitions. A real scandal. Besides nobody in the arena and at home can understand the marking now, which is one of the main reasons of the loss of interest in the sport. Since the introduction of the new system the popularity of figure skating has gone downhill! This is why I make the proposal to reduce the PC to two and judge on a relative scale, using marks from 0 to 6. I am very happy to hear that you agree with this proposal. ここでビアンケッティさんは、演技・構成点は、コンポーネンツを2つにして(Note:現在は5つ)、0から6の比較値とすべきだと主張されています。現在の演技・構成点は高すぎること、点差に意味がないこと、その点が適切かどうか検証不能であることが問題点です。そもそも演技・構成点というのは、だいたいが、その選手の評判とか、それ以前の試合の評価をもとにして出されている。おかしなことです。そのうえ、今や、家でテレビを見ている人も、会場で見ている人も、だれも出てきた点数を理解できない。それが競技に対する興味を失わせる主な原因なんですね。新採点システムになったから、フィギュアの人気はもう、どん底だということです。適正かどうか検証不能な点差をどんどん匿名でつけられる。これがMizumizuが、「もうフィギュアの採点は終わった」と思った一番の理由ですから、まったく同感です。5つのコンポーネンツなんて、いりませんよ。スケートの技術全体と振付全体を評価する2つぐらいで十分でしょう。今のやり方だと、天井値をどんどん引きあげることで、無意味な点差をどんどん広げていけるのです。爆アゲ、爆サゲの温床にしかなりません。今みんなが「9」と言う点を見て驚いてるのは、今まで見たことがなかったから。だから異常だと感じる。でも、それが常態化すれば、誰も異常とは思わなくなります。で、9を9.25に9.5にというようにだんだんに引きあげる。そうなると印象点の演技・構成点で、技術点をないがしろにさえできてしまうんです。また、今回のように特定の選手があまりに高い点を出してしまって、見てるほうはしらけます。フリーを見なくてもショートで1位が確定、ではね。しかも、誰もできない技をやったんならともかく、「どうしてそこまで点がでるのか理解できない」――これじゃ、ファンはついてきません。理解できなくても、受け入れろ、なんてのは無理な話です。人は、理解できるから受け入れるんです。日本は今、浅田真央人気で、沸騰中のフィギュア人気ですが、ヨーロッパではもう死に体のようですね。選手のほうからも旧採点システムに戻してくれという要請が出てます。見てるほうも耐えられないですが、やってる選手はもっと耐えられないんです。ISUがどうしても、コストナー選手をアゲたいのもわかりますよね。ジャンプとにかく決めれた、ファイナルで台にのぼっちゃいましたからね。それに対して、今回のコストナー選手がまるで反抗するような無気力フリー。彼女はわかってるんです。どうしたって、ISUはコストナー選手が必要なんですね。次のイタリア開催のビックイベントのことを考えたって、3F+3Tを跳べる可能性があり、それが無理でも3F+2Tなら決められて(実はこれだって大変なんです)、かつ2A+3Tも(最近はコケが多いですが)入る、ヨーロッパでは稀有な選手です。前の日にあれほどマトモに3回転ジャンプ跳べてたヒトがいきなりアレ。しかも同国人の会長の前で。急な体調不良とかですかね。まあ、なんとでも言えますね。会長としても、あんまりな銀河点出ると選手がヤル気なくすと知れば、どうにか動いてくれるかもしれませんからね。さすがヨーロッパのイケメンキラー女王です。男を動かす方法を知ってますね。枠取りのこともあるから頑張れなんて言われて、どの試合も素直にまっすぐに全力で戦い、やたらルールの包囲網を作られてる日本選手とはしたたかさが違うでしょう。カナダのロシェット&チャンは逆に韓国のファイナルで力を抜いていましたよね。その分、世界選手権では照準ピタリでした。さて、きのうの続きで、ロシェット選手は本当に強い、という話ですが…現在の採点はジャンプ、スピン、ステップのテクニックで選手の力量を判断するわけです。ロシェット選手は、世界選手権では、スピンもステップもスパイラルも、レベルを高く揃えています。このエレメンツの部分にキズのない選手なんですね。カナダ選手権のときは、ここまでレベル4を取れなかったので、キチンと強化して結果を出したってことです。素晴らしいですね。あとはジャンプのバランス。ショートとフリーで上位4選手の跳んだダブルアクセル以上のジャンプの数を、基礎点の高い順に比較すると安藤選手ルッツ(3つ)、フリップ(1つ)、ループ(2つ)、サルコウ(1つ)、トゥループ(2つ)、ダブルアクセル(2つ)。キム選手ルッツ(3つ)、フリップ(2つ)、ループ(0)、サルコウ(1つ入れて2回転にすっぽ抜けに)、トゥループ(2つ)、ダブルアクセル(4つ)。浅田選手トリプルアクセル(1つ、もう1つは転倒失敗)、ルッツ(1つ入れて2回転にすっぽ抜け)、フリップ(3つ)、ループ(2つ)、サルコウ(0)、トゥループ(1つ)、ダブルアクセル(2つ)。ロシェット選手ルッツ(3つ)、フリップ(2つ)、ループ(1つ入れて失敗ではないダブルになった)、サルコウ(2つ)、トゥループ(1つ)、ダブルアクセル(3つ)。上の数には、あのアホらしいダウングレード判定入れてません。ちゃんと降りたかどうかで判断。もうループへの執拗なダウングレードは、日本女子つぶしとしか、Mizumizuは思っていませんから。ジャンプは難度の高いものを跳べたほうが有利です。でも、跳べるジャンプの種類が限られるとそれは不利な要素です。たとえば、キム選手はループが跳べなくなりました。オーサーとしては、本当はフリーにループを入れてダブルアクセルは2つにする方向にもっていきたかったはずです。去年は、今年よりフリーの要素が多かったはずなのに、ループが決まることもありました。ところが今年は2回やって2回失敗。成功率ゼロです。そして、サルコウの確率も落ちてきました。でも、キム選手はサルコウをはずすことはできません。つまり、もうこれ以上ジャンプ構成を落とせないんですね。それでも、ほぼどこか1つ以上のジャンプに失敗が出る。今回はサルコウでしたが、ルッツの着氷、2A+3Tの3Tの着氷に乱れがありました。これがキム選手の危うさです。これ以上ジャンプ構成を下げるとなると、セカンドに跳べている3Tを2Tにかえるぐらいしかない。キム選手を世界女王にしたもの、それは3つのルッツとセカンドに跳べる3回転です。安藤選手を世界女王にしたのも、ルッツとセカンドに跳べる3回転(ループ)でした。2人とも世界女王になったシーズンは、特に3回転にもっていく連続ジャンプの確率がシーズン最初から安定してよかった(キム選手のアメリカ大会でのグリ降りのことは考えに入れないことにしています。とにかく降りてるということで)。<続く>
2009.04.04
コストナー選手はキム選手のあとに滑りましたが、点数が異常な銀河点だったことはわかったハズです。Mizumizuは、コストナー選手のあのヤル気のなさは、むしろ間接的な抗議表明じゃなかったかと思います。いくら前の点見てショックでモチベーションがなくなったからって、いきなりあんなに跳べなくなるものでしょうか。つまり、彼女は跳べなかったのではなく、跳ばなかったのではないかと。キム選手とコストナー選手は、昨シーズンからいろいろあります(苦笑)。昨シーズンの世界選手権では、某韓国紙はこんなこと書いてます。↓http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=97733&servcode=600§code=600笑うでしょう? この記者は「私はドイツ人だが、この採点はひどすぎる。 コストナーと金妍兒の点差がこれだけしかないとは、審判は恥じるべきだ。 裁量で付けられる芸術点数でいたずらをしている」と声を荒げた。 出た! いきなり「私はドイツ人」だとわざわざことわる謎の名無しのドイツ人記者! しかも「審判は恥じるべきだ」とまで周囲に言ったそうです。ふつうありえないことだと思いますけどねぇ。コストナー選手の芸術点(つまり演技・構成点)が高くて、キム選手のが低いと言いたいんですね。キム陣営は一貫して、「キム選手の点は低すぎる」と言いつづけて来ました。今回ぐらいの銀河点じゃないと、次元の違うスケーターであるキム選手は満足しないんでしょう。なにせ、あのショートの点数、男子の演技・構成点に換算しなおすと、84.3点でなんとなんと1位のジュベール(84.4点)についで2位に入っちゃうんですよ! チャンの82.7点より高くなります。4回転もトリプルアクセルもいりません。演技・構成点の完成度を高めるだけで、キム選手なら男子に勝てちゃう!で、話を戻すと、昨季のファイナルは逆に「コストナーはサゲられた」とヨーロッパファンは思ってたんですね。結構コストナーとキム選手はインネンあるんです。1つにはこの2人のスケーティングの特長が似てるってことがあります。2人とも非常に1つ1つのストロークがのびます。ストロークののびだったら、女子の中で1、2を争うと思います。ストロークがのびるというのは、一生懸命「漕がなくても」、スピードが出せるということなんですね。だからあの2人の3F+3Tはタイプがとても似ています。助走のスピードがすごい。その勢いで大きな3Fを跳び、次の3Tは今度は高く跳んで回る。キム選手と比較した場合、浅田選手はストロークののびでは勝てません。この差が実はスパイラルのレベル取りと加点の差になってると思います。浅田選手はスパイラルでときどきレベル取りに失敗します。早く脚をおろしてしまうんですね。ストロークがのびるキム選手は、スピードを落とさず片足で滑っていけるので、レベル取りに失敗することなく、安定した片足のポーズを維持することができます。浅田選手のスパイラルは美しさだったら世界一です。でもレベルと加点は、人が一般的に感じる美しさとは別のところで出されるんですね。これはレイバックスピンにも言えます。ビールマンポジションでは、柔軟性に優れた浅田選手のほうが圧倒的にきれいだと思います。スピンは昨季はキム選手のほうがいつも勝ってましたが、今季はむしろ浅田選手のほうが点が高くなった。ところが唯一、圧倒的に美しいビールマンをもつ浅田選手のレイバックだけは、キム選手にレベルで負けてるんです。人が感じる「美しさ」とレベル取りと加点が違うこと――これが、ビアンケッティさん、そしてランビエールも同じことを言っているのですが、「フィギュアから芸術が失われていく」一因になっています。昨季、浅田選手のフリーのスピンがいつもキム選手に負けていたのは、浅田選手が自身の美しさを引き立てるビールマンスピンにこだわったせいなんです。今年はフリーからビールマンポジションをはずし、ディフィカルトポジションのバリエーションでレベル4を取るように構成を変えてきました。そしたら、あっという間にキム選手以上になってしまった。年が明けてから、そして最後の世界選手権ではスピンのレベルを落としましたが、まあ、世界選手権はもう3Aが2度決まらなかったので、がっくりきたのもあるでしょうし、無理にレベル取りしなくても身体のことを考えたら、あれでよかったと思います。不自然な形に身体をひねるので、現行ルールのものでは、スピンも怪我の原因になってます。ただ、キム陣営は、昨季勝っていたスピンで、下手したら負けるという事実にあせったと思います。そのかわり、キム選手はステップを強化して、浅田選手に並んでいます。ステップで下手したらキム選手のが点数が上というのも奇妙に聞えるかもしれませんが、これも結局エレメンツの要件を満たしたら、そうなるという話なんですね。美しさとレベルとは直接関連がないんです。フィギュアを芸術と考えるランビエールはこれを強く批判しています。つまり、フィギュアのフリーは元来、その選手がもっている強み(美しさ、個性)で勝負すべきものだと。今のフリーはエレメンツの要件を満たすために(つまりはレベル取りをするために)、さまざまなことをやらなければならず、選手の個性で勝負することができなくなっている。確かにもっともです。ランビエールのように難しいポジションで美しくスピンを回れる選手はいくらでもやったらいいですが、レベル取りのためにみんな無理に身体ひねったり、ポジションかえたりするものだから、美しくなくなりました。だんだんみんな同じことをするようになる。たとえば、荒川選手は「旧採点システムのときは、スピンは私にとって休む場所だった。ところがルールがかわって、いろいろなことをしなければいけなくなって… スピンのときのチェンジエッジなんて昔はしちゃいけないって言われてたから(←仏頂面)」。Mizumizuとしては、その「休む場所」だったという荒川選手の世界女王時のゆったりとたレイバックスピンが一番美しかったと思いますね。まさに花が咲くよう。太田選手の「ミラクルスピン」も旧採点システムのときのが圧倒的にきれいです。荒川選手の凄いところは、ルールが変わってもすぐに対応してレベル4を並べるようになったことです。一方で村主選手はなかなか対応ができず、オリンピックではレベルが取れませんでした。これはつまり、2人の身体能力の差、もっといえば、ポジション取りをするための柔軟性を荒川選手が備えていたということです。だんだん「同じことをするようになる」という意味で、よい例が今回の世界選手権のフリーの安藤選手とキム選手のストレートラインステップじゃないでしょうか。カーブの描き方、スピードのメリハリのつけ方、それにともなう上体と腕の動き、ターンのバランス… なんか似てきちゃいました(苦笑)。肩に問題のある安藤選手が腕の表現をするのは大変だと思いますが、ちゃんとステップのレベルは3が取れて、加点もそこそこもらってます。レベル取りを考えると結局みな、同じようなことをするようになるんですね。そうした要求事項をこなすのにいっぱいいっぱいになって、1人1人の個性を生かした芸術性が消えていく。たとえば、ライザチェックはシーズン初めはかなり密度の濃い、難しいプログラムにしてました。でも、それだと今の採点だと点がでない。逆に減点ポイントが増えちゃうんでしょうね。なんでかなりプログラムをスカスカにして、エレメンツの条件を満たすことに注力したら、点がのびてきました。すぐに対応させた彼も素晴らしいですが… これを見ると、プログラムの密度を薄くしてエレメンツのレベル取りに徹するのは、案外トップ選手ならすぐにできるみたいですね。安藤選手もですが。もちろん、「世界のトップ選手」だけです。でも、プログラムは密度が薄くなり、おもしろくはなくなりましたね。よくキム選手の演技について、「いつも同じように見える」「つまらない」とメールをくださる方がいます。それが皆ほとんど共通して、バレエが好きな目の肥えた人に多いというのも興味深いことなんですが、なんとなくわかります。つまり今のシステムで点を出そうとすると、どうしてもああいった演技になるんですね。ところがファンは、個性的な美しい振付を見たいと思っている。フィギュアの演技自体が全体的に「つまらなくなった」と言う人も多い。どちらも同じ背景があります。あれこれ詰め込んだエレメンツのレベル取りのための要件を満たすための演技になってしまうんですね。ランビエールは怪我は状態がよくなったみたいですが、一部で囁かれている現役復帰はないとしています。やはりレベル取りのための要求条項が多すぎて、芸術性の高いプログラムをもはや作れないことが一番の理由。ビアンケッティさんの言ってることも同じです。この要求条項自体は、もともとはそれを満たせるかどうかでフィギュアのスキルを客観的に判断しようと導入したものなんですね。それはそれで一理あったんですが、結局「人間の身体はそれほどまでに多くのことをこなせるようにはできていない」とビアンケッティさんも言うように、詰め込んだ条件が、フィギュアから芸術を奪い、さらには最近顕著なように、ジャンプの技術を劣化させ、ファン離れを招きました。フィギュアを芸術としてとらえてきたヨーロッパでもファン離れは深刻のようです。採点システムは複雑で、出てきた点はわけわからない。コストナー選手はヨーロッパ選手の中では3+3も跳ぶ力があり(あった、というべきか… もはや3+3よりイケメンのほうがいいのかもしれませんね。ランビエールにもう一度脚もませれば、跳べるようになるかな?)、ルックスもよく、滑りもきれいなので、なんとかアゲてファン離れを防ぎたいんでしょうね。今年のなりふりかまわないコストナーあげもある意味凄いです。昨季のコストナー選手は技術点61.88点、演技・構成点58.52点でした。1年で技術点が30.94点も下がったのに、演技・構成点は58.48点と昨季と変わらない。ここまでやられると、ジャッジは頭悪いのか、と思っちゃいますよね? ファンはプロトコルを見ないと思っているんでしょうか。プロトコルを分析すればするほど、暴走する特定選手への爆アゲがバレてしまうのに。これがオリンピックについでフィギュア・スケートではもっとも格式の高い大会である世界選手権の先鋭ジャッジのやることですか。オリンピックを睨んで、メダル獲らせたい選手が「強い」というイメージを作るために、もはやなりふりかまってない感じですよね。オリンピックでこの「演技・構成点」マジックをどう使うか? まず選手としては、ミスはダメです。ミスしないためには、メダル候補の選手は、ジャンプ構成を落とし、きれいに滑ります。そして、ジャンプのたびに地元の大声援。キム選手の2Aに大拍手を送ってましたよね、ロスでの韓国系のファン。ロシェットVSキム選手の応援合戦でしょう。カナダの思惑としては、ロシェット爆アゲで金ということでしょう。今はキム選手が強いですが、いざとなれば、カナダはロシェット選手に金を獲らせたい。実際、ロシェット選手は非常に努力して、すべてのエレメンツを磨いてきています。あのシェイプされた筋肉質な身体を見れば、どれだけ努力してるかわかりますよね。「キム選手にロシェット選手は勝てないんじゃ」と思いますか?それがそうでもない、ですよ。だって、浅田選手がロシェット選手に負けると皆さん、思ってました?ロシェット選手は、本当に強いんです。それは跳べるジャンプの数で比較してもわかります。跳べるジャンプのバランスで言ったら、キム選手、浅田選手に勝っています。
2009.04.03
先日ご紹介した、ビアンケッティさんは、演技・構成点に「絶対評価」などナンセンスだと主張しています。絶対評価の新採点システムに対し、旧採点システムは、6点満点での相対評価、すなわち、他の選手との比較で点を出していました。たとえば今回の世界選手権のフリーの芸術点が、キム選手5.9、浅田選手5.7だったとしたら、ファンは怒ったでしょうか?2人の出来を比較した場合、今回の世界選手権に関してはキム選手のほうがよかったと思います。では、旧採点システムでは5.9と5.7の0.2の差は何かというと、答えようがないんですね。ただ、比較での評価ですから、全体の出来でどちらが上だったかを決める。それに対して、新採点システムでの演技・構成点の5つのコンポーネンツは「絶対評価」。その試合の他の選手との比較ではなく、「スケートの技術」「つなぎ」「パフォーマンス/演技」「振付」「音楽との調和(解釈)」を、10点を満点としたときの絶対的な価値を数字にするという考え方で行われるのです。ですから、自分自身が「パフォーマンス/演技」の完成度を高めていけば、点がそれだけもらえるという考え方になるんですね。それに対して、ビアンケッティさんは言っています。「10点の価値をもつ『パフォーマンス/演技』の定義はどこにありますか? どういう手法をもってすれば、完璧な『美』というものを定義できますか? どんな点を出したらよいのかといったガイダンスがほとんどないのに、前に滑ったスケーターとの比較を禁じられたら、どうやって正しい点を出せますか? そして、どんな基準によって、その得点が正しいのか間違っているのか判断できるのでしょう?いろいろなプログラムをそれぞれ比べることによってしか、ジャッジはどちらがより価値をもつかという判断ができないのです。ですから、特にプログラム・コンポーネンツの『絶対』評価の得点など無意味なのです」。これはそのとおりだと思いますね。たとえば、去年の世界選手権の男子フリーの演技・構成点。1位になったバトル選手78.78点。2位になったジュベール選手79.36点。今年の世界選手権1位になったライザチェック選手79点。2位になったチャン選手76.10点。大差がないのがわかるでしょう? 絶妙なところで出しています。絶対評価と考えて、私たちがこれを見て理解するのは、「演技・構成点」の絶対的な価値は、昨季のジュベール→昨季のバトル→今季のライザチェック→今季のチャンの順だということです。そう言われれば納得できる順位だと思います。ただ、その場合、私たちが納得しているのは、実は点数の比較によってなのです。79.36と76.10の絶対的な価値の差が何なのかと言われれば答えようがないですが、わずかな差ではあっても優劣があり、その順番がこれになる、と言われると何となく納得する。これはある程度の範囲の中に「演技・構成点」の得点をおさめてるからなんですね。「調整」とも言えますが、むしろジャッジの「良識」だったと思います。そして点数づけは実際には比較によって行われている。ところが、たとえば誰かがこう言い出したとします。「男子の5コンポーネンツの点は、現状では8.5ぐらいを天井にして、それ以上は出さないような自己規制がなんとなくある。これは絶対評価という点から考えていけないことではないか。完成度が高いなら、それによって各ジャッジの判断でもっと点を出してもいいんじゃないか」。これは一見もっとものようです。10点まで出していいのに、いつも8.5ぐらいでおさめてしまうのは理屈に合わない。完成度が高いなら、もっと自由にジャッジの裁量で出していいはずだ。「完成度が高い」という言い方はよくしますよね。では、「完成したもの」とは何でしょう? 「完成されたスケートの技術」「完成されたパフォーマンス」「完成された振付」とは?つまり完成度が高い振付という言い方はしても、実際に「完成された振付」の定義はどこにもないのです。完成された振付、あるいは完璧な振付といってもいい、そんなものはないのに、どうやって完成度の高い低いで点をつけられるのか、ビアンケッティさんの指摘はもっともです。たとえばモーリス・ベジャールのバレエ「ボレロ」の振付とローラン・プティのバレエ「ボレロ」の振付は、どちらが完成度が高いでしょう? どちらも一流の振付師による作品です。「完成された(あるいは完璧な)ボレロの振付」というものが何なのか、誰もわからないのに、それをどうやって点数化できるでしょう。今のシステムは、それを10点満点で点数化しろ、といっているのです。絶対的な価値の点数化は無理でも比較はできます。ベジャールのほうが「神がかり的」な振付で、プティのほうが「モダンな」振付。「芸術性ではベジャールのほうが完成度が高いんじゃないか」「いや、斬新さではプティのほうが優れている」。それぞれの見方があっても、どちらがバレエ作品として優れているかと思うか聞かれれば順位はつけられる。「演技・構成点」とは本来そういうものなんです。「完成されたもの」の定義がなく、点数をつけるためのガイダンスもないのに、「完成度が高いとジャッジが判断したら、9点でも9.5点でもつけていい」。そうやって出てきたのがキム選手の点だとします。では、この9点というのは、正しいのでしょうか? 間違っているのでしょうか?誰も答えは出せません。ただ見るほうは慣例的な比較によって、「とんでもない点」だと感じます。これまでそんな点を出したスケーターはいない。キム選手の音楽の解釈が9点の絶対的な価値をもつというのか。これは今まで見た最高の点数ではないか。つまり見るほうは、やはり、他の例との比較によって、その点が妥当かどうか判断しようとしているのです。昨季の世界選手権フリーの浅田選手とキム選手の演技・構成点は浅田選手60.57点、キム選手58.56点。このくらいを皆はなんとなく「妥当」だと思ってきたのです。つまり、女子のフリーでは、60点を越えてくるとかなり高い。今回の点は、浅田選手62.88点、キム選手68.4点。63点近い浅田選手の点も、実はかなり「高い」点です。ところが、キム選手の場合は、もう発狂してるとしかいいようがない。それはこれまで見慣れた点とかけ離れているからです。といって、では、その点が間違っているのか、と聞かれれば、答えようがありません。なんでこんな点をつけたのか。マトモな絶対評価では理解できなくても、「できるだけ点をあげるため」だと邪推すればよくわかります。フリーの技術点は63.19点(キム)、60.15点(浅田)。ね? 加点テンコ盛りといわれるキム選手でも、ミスはします。ミスの数によっては、すぐひっくり返る点差しか、実はつかないんですね。浅田選手が3Aをもう1度決めていれば加点がついて9点ぐらい追加になっちゃいます。そして、フリーの演技・構成点は、男子の場合、最後に得点化されるとき2倍になりますが、女子では1.6倍です。ショート同様、女子のほうが主観による演技・構成点は抑制されているのです。これはやはり、新採点システムを作ったときに、主観点に、あまり極端な差がでないようにという「良心」だったと思います。加えて、女子の点の最高は8.25点ぐらいまでに、なんとなく自主的に規制されていた。ただ、こうすると、どうしても得点差になりにくい。差を出すためには、自主規制的な最高点である8.25点を9点まで引きあげる。そうやって出てきたのが、キム選手の高い点。男子以上に高くなっちゃいました。ただ、これを見て、「もう競技としてのフィギュアスケートは終わり」だと直感した方は多かったと思います。Mizuizuもその1人。つまり、技術点のエレメンツなら、磨くことは具体的に指南可能なんですね。ジャンプだったら、完全に回りきってピタッと降りる。スピンは1ポジションでの回転数を規定どおりきちんとこなす。加点・減点もある程度、具体的に「こうしろ」と指南できます。スピンは軸がぶれないように、とか、ステップではターンを正確に、とか。ところが、演技・構成点のほうは? 「完成度を高める」とはどうやるのでしょう? 旧採点システムでは、6点満点で0.1刻みの狭い幅だった。ところが新採点システムでは0.25刻みの広い幅の点をつけることができるんです。しかも、フリーではその点が1.6倍になる。8.25とつけていたのを9点とつければ、要は1.2点かさ上げできる(加点できる)ということです。相対的に全員があがるなら、全員の点がインフレになりますが、そうではなくて、「なんとなくあった下限」はそのまま、あるいは下げることもできるんです。最高出ても8.25点だったのが、9.25点になり、最低が5.75点だったら、その差は4点から5.6点に広がることになります。ところが、この点差が何なのか誰にも説明がつかないんです。説明のつかない点差を、自主規制的な天井値を上げることで、どんどん広げていけるんですね。実際には、8点もらった振付と7点もらった振付があったとしたら、8点もらったほうが高いというのはわかる。では、8点もらった振付と6点もらった振付は? 1点の差と2点の差は何なのか誰にもわからない、適当か不適当かもわからないままに、点差だけは広げることができる。「完成度が高いか・低いか」というジャッジの主観的な判断によってです。しかも「完成したもの」の定義もないのに、ですよ。この場合、つまりは「完成されたスケート」「完成された振付」のイメージがジャッジの中にあるとして、それが10点満点だとしたら、この演技は9点か、8.25点か、というようなつけ方になるわけですね。まさにナンセンスです。だから、そのナンセンスな点の差があまり出ないよう、不文律のような自主規制の「幅」があったわけなんです。旧採点システムでは、こうした意味不明な点差は、今よりずっと抑制されていました。トップ選手が3人滑ったとしたら、5.6から5.9までの間ぐらいで「順位点」をつける。点差はそれほど広がらず、かつ順位はきちんと出る。今回のキム選手の演技・構成点で出た、「9点」などという点、誰もが驚いたのは、「見たことがなかった」からで、それが妥当か妥当でないかは、誰も言えないんです。そうやって、一度これまでの「天井」を引き上げて、自主規制的な5コンポーネンツの幅を広げれば、アゲたい選手をかなりアゲることができるんですね。今回キム選手はやりすぎで銀河点が出ちゃいましたが。たとえば、一貫してジャッジがアゲたがってる選手にイタリアのコストナー選手がいます。みんな、忘れているかもしれませんが、彼女は昨季の銀メダリスト。今季はもしかしたら金と期待された選手です。国際スケート連盟の会長と同国人ですよね。コストナーも3F+3Tをもっていて、ヨーロッパでは「世界一美しい」と言われているんですね。昨季はこれを決めましたが(しかもヨロヨロしつつも3連続に)、今季はさっぱり決まらない。だから、キム選手ばかりが突出しましたが、本当はコストナーをアゲてあげたかったのもあると思います。で、今回の世界選手権のフリー、コストナー選手はもはやヤル気ゼロ。彼女が跳べた三回転は、なんと3Fの1つだけ。なのに、演技・構成点の「振付」で8.75点、「音楽との調和(解釈)」で8.5点などという爆アゲ点がついて、最終的な演技・構成点は58.48点。技術点が32.9点の選手がですよ。ロシェット選手の4大陸のフリーでの演技・構成点が58.56点なのに、ですよ。もうこのコストナーのプロトコル見て、吹いちゃいました。アゲようと思えば、ジャンプ決まらなくても、こんな点を出すことができるんですね。ちなみに、「演技力」「顔の表情」では定評のある村主選手が、技術点51.46点、演技・構成点54.72点。3回転1回しか跳べなかった選手より低いんです。脱力でしょ。こんなジャッジがまともでしょうか? <続く>
2009.04.02
読者の皆様へ:ものすごいアクセスと雪崩のようなメールありがとうございます。なんと、1日のアクセスが5万6000件にのぼるという、信じられない事態…みなさん、いったいどこからいらっしゃるので?(苦笑)お気楽旅行ネタ、オールドムービーネタで1日7000件ぐらいの拙ブログ(それでも僻地ねたのわりには多いと思うんですが)ですので、はっきり言って異常事態です。それと、いただくメールのほうは、「フィギュアねたをやめないで」というものが1日数百件。こんなにも拙ブログを愛してくださる読者がいるなど、想像もしていませんでした。望外の幸せです。書いている本人がビックリしています。本当にありがとうございます。「一緒に日本選手を守ってください」という悲鳴のようなメールも多くありました。皆さん、本当に選手のことを考えていらっしゃるんですね。競技としてのフィギュアスケートは終わったと思っていますが、選手の演技は素晴らしかったですね。今後とも1ファンとして皆さんと一緒に応援していこうと思います。選手にはきっとファンの気持ちは伝わっていると思いますよ。支えてあげるためには、それぞれのファンの選手にメールなりお手紙をあげて、演技のよかった点や感動した点を具体的に書いてあげるとよいと思います。何がよかったのか、見てるファンから褒めてもらえれば、選手にはとても励みになります。採点のことについては、選手に感情をぶつけてはいけません。選手はすべてわかってますから。納得のいかない採点というのはしばしばあり、政治的な思惑に支配されていることも。それでも一流選手というのは、「じゃあ次は認めてもらえる演技をしよう」と頑張るものです。ただ、メールが多すぎて、読むのさえ大変になっています。大変申し訳ありませんが、しばらくメールを送るのを控えてくださいませませ。暖かいメールをいただきながら、勝手なことを言って申し訳ありません。ただ、毎日仕事も忙しいですし、ブログというのはあくまで趣味でやるべきことだと自分でセンビキしています。自分の仕事をないがしろにしてまで、のめりこんではいけないというのが信念です。それと、メールを拝見すると、皆さんお気持ちはだいたい同じなんですね。だからMizumizuにメールを送ろうと思った方は、「あ、もう同じコト書いている人がいるんだな」と思ってくださいませ。ただ、中にはいろいろな情報を送ってくださる方もいるので、私書箱だけは開けておきます。海外の記事(ドイツ語の記事で、「1つのスポーツがどうやって壊されるか」という現在のフィギュアスケートのありかたを厳しく批判した記事もいただきました。元世界のトップスケーターからの貴重な批判の声です。これはとても面白かったので、また皆さんにご紹介しますね)。いつも読者の皆様からは貴重な情報をいただいています。雑誌記事や内輪の暴露話まで(苦笑)。引き続きお待ちしております。さてさて、今回皆さんが一番ショックを受けたのは、「点差」だと思います。一部メディアもキム選手と浅田選手に大差がついたことで「ライバルの背中が遠ざかった」とか、アホなことを書いていますが、点差を見てうろたえるのは、何度も言うように愚の骨頂です。ちょっと別の見方で考えてみましょう。選手から要望が出されて今年の6月に話し合うことになっている「旧採点システムへの回帰」。選手側からこの要望が出されたのは大きく分けて3つの理由があると思います。1つは、「結局のところ、フィギュアの点を絶対評価で出すことなど不合理かつ不可能」だったということ。今回の演技・構成点が証明したと思います。2つ目は、不透明すぎること。3つ目は、現在の方法だと点差が思いがけず大きく出すぎることがあり、たとえば今回のショートのような結果、あるいはキム選手のフリーの点数を知ったら、他の選手には勝つチャンスがまったくなくなってしまうということでしょうね。今回フリーでは、コストナー選手やレピスト選手は、もはや全然ヤル気なかったですもんね。これが旧採点方式だと、相対評価、つまり順位点ですから、ショートの順位が3位(場合によっては4位)ぐらいまでなら、フリーの結果次第では1位になるチャンスもあります。まじめな方は、「もうあの点数を見て泣いています」とおっしゃっていますが、一方で、プロトコルをよく見てるオールドファンの方は、「あまりにミエミエで、しかもやりすぎで、爆笑しました」という意見も。そうなんですね。今回の採点、演技・構成点が「カラスの勝手でしょ」ならぬ「その試合のジャッジの勝手でしょ」になってしまったという点では、絶望的な悲劇です。これについてはビアンケッティさんも懸念していましたね。明確な基準がないうえに、匿名。ということは、5点つけようが9点つけようが、ジャッジの判断なわけです。どうにでもつけられる。それを今まで防いできたのはジャッジの良識だったと思います。「慣例」としてだいたいの基準があり、それを絶対評価として前の試合と比較したり、同じ試合のライバルの評価と比較したりして、今後の課題を決めていく。一方で、今回なんで急にここまで爆アゲしたのか、直前の4大陸の結果から推測すると、意図がミエミエなんですね。4大陸のフリーを思い出してください。キム選手はショートでぶっちぎって、絶好調。ついに「3ループに挑戦する」と宣言。韓国紙も事前に「3ループ跳ぶ、キム・ヨナ。練習ではほぼ成功しているようで自信があると話す」と盛り上げました。一方の浅田選手は、絶不調。トリプルアクセルは1度しか決まらず、1つはシングルアクセルにすっぽ抜け、後半の3Tも2Tに。ただ、ダウングレードを避けるために後半の3F+3Loを3F+2Loに変更して、3Loを単独にして決めました。キム選手は、非常に身体のキレもよく、3ループでは回転不足で転倒しましたが、これまで2度入れて1つ失敗するのはお約束だった3Lzも2つ入りました。ところがなんとなんと、出てきた点は絶不調の浅田選手のほうが上! ショートで点差が出すぎたせいか、いつもはなぜか認定されるキム選手の回転の足りない3ルッツがダウングレード。最後につけた2Loまでダウングレード。3つも派手にダウングレードされたため、浅田選手 技術点58.58+演技・構成点60.08=118.66キム選手 技術点56.95+演技・構成点60.88=116.83で浅田選手が勝っちゃった。浅田選手も苦笑いですよね。ね? 演技・構成点はあまり変わらないでしょう? 体調も思わしくなく、ジャンプ構成が落ちてしまった浅田選手なのに、キム選手が1つ回転不足で転倒し、ダウングレードをマトモに(というか厳しくというか?)取られると、技術点は浅田選手のほうが上になってしまう!で、今回の意味不明の点差がついた世界選手権浅田選手 技術点60.15+演技・構成点62.88=122.03キム選手 技術点63.19+演技・構成点68.4=131.59ね? 技術点では、やっぱりそんなに差がつかない。キム選手は「次元の違うスケーター(韓国紙)」なのに。前回、演技・構成点を拮抗させたら、あらあら、浅田選手が勝っちゃったので、今回クレージーな爆アゲに出たら、みんなの目が点になる差になっちゃったってことで辻褄が合いませんか?「爆笑した」って方は、たぶん同じように考えていると思います。演技・構成点(5コンポーネンツ)のうち、キム選手に対するSS(スケートの技術)のジャッジの点のつけかたを2つの試合でくらべてみると、4大陸 SS 7.75、7.25、7.75、7.5、7.25、7.75、7.75、7.5、7.5 結果7.65ジャッジ間のバラツキ、たったの0.5点世界選手権 SS 8.5、8.5、8.75、8.5、8.5、8.75、8.25、8.5、8.5 結果8.5ジャッジ間のバラツキ、たったの0.5点ま~。なんとなんと、バラツキがきれいに0.5点以内におさまっている!これを見て、事前の打ち合わせ以外に説明がつきますか?もし、本当に「各ジャッジの勝手でしょ」でつけたら、こんなことにはならないはず。9点に爆アゲする人もいるでしょうし、6点ぐらいの人もいるかもしれない。5.5点だっていいんです。つまり、トランポリンみたいに試合ごとに上下する5コンポーネンツですが、各コンポーネンツは、試合の前に話し合ってある程度決めているとしか思えないんですね。そのときに出てきた点が、「その試合のジャッジの勝手でしょ点」になるわけです。じゃ、なんでまたこんな爆アゲしちゃったのか。結局、フリーの技術点でキム選手が圧倒的な点差をどうしてもつけられないからでしょうね。4大陸では演技・構成点をキム、浅田で拮抗させましたが、そうすると、ジャンプの出来によっては、いかに不調とはいえ浅田選手が勝っちゃうこともある。キム選手は「次元の違うスケーター(韓国紙)」ですからねぇ。今回、ショート&フリーともキム選手を勝たせるためには、3サルコウで失敗しようが、スピンがダブってキックアウトされようが、このくらいは出す。ところが思った以上に浅田選手が悪かったので、ファンが呆気に取られる点差になっちゃった、とこう考えると、あまりに辻褄が合いませんか? ジャッジも忙しいので、他の選手(浅田選手が最大のライバルではありますが)の実際の点を見て、器用に調整はできなかったんでしょう。合掌(チーン)。まさに茶番です。こうやって一度、パンドラの箱が開くと、あとはもうどうなるか、想像できますよね? 前の試合で「スケートの技術」で何点出ようが、次の試合では関係なし。「絶対評価」のはずが、派手に上がったり下がったり。「各ジャッジの判断」ですから各試合のジャッジによって、同じ選手に対する「絶対評価」が派手に違っても、別に不正じゃないわけです。そのくせ、なぜか同じ試合の1つのコンポーネンツのジャッジ間のバラツキは2点もない。つまり、フィギュアの演技・構成点を「絶対評価」でつけるということは不可能なんですね。ビアンケッティさんの主張が証明された採点です。オリンピックで何が起こりうるか想像してみましょう。メダルをあげたい選手、ロシェット、キム、チャンにはできるだけ演技・構成点を出す。もちろん、あまりに調子が悪いとダメでしょうけど、試合の出来は公式練習見てればだいたい予想がつくもんなんです。明確な基準のない、各試合ごとのジャッジの主観による絶対評価ですから、誰も文句言えません。今回の世界選手権は、爆アゲの最初だったせいか、あまりに稚拙でしたが、次はもっとうまくやるでしょう。今回世界選手権なのに、グランプリ・ファイナルよりはるかに視聴率が悪かったとか。ISUも金づるの日本のファンに離れられたら困りますからね。ヨーロッパでの人気はすでにもう「息も絶え絶え」状態。アメリカもかつてほど強い選手がいないので、人気は衰えてます。あとは日本と韓国から、絞れるだけ絞らないと。1つには、オーサーの殿堂入りに合わせて、絶対にキム選手を世界女王&世界記録樹立にもっていきたかったんでしょうね。そもそも何で今オーサーが殿堂入りするのか? 優れた選手あるいは優れたコーチが殿堂入りするのですが、オーサーは選手としては、世界選手権優勝1度、オリンピック2度銀。選手としての実績は殿堂入りにはいまひとつ。優れたコーチとして、だとするとモロゾフのが実績上でしょう。世界チャンピオンって育てたことありましたっけ? でも今回キム選手を世界チャンピオンにしたので、選手時代の実績と合わせ技なら、殿堂入りも(あとからですが)、納得ですよね。いやいや、たいした政治力です。<続く>
2009.04.01
さすがのモロゾフもシーズン初めは、ここまでされるとは思わず、安藤選手のジャンプ構成を組み立てました。ところが、今季の異常な判定を見て、途中で戦略を180度変え、最後に安藤選手を台にのせたんです。その転換を短期間でこなしてしまった安藤選手もすごいですが。モロゾフは最初、できるならフリーで4Sを成功させたい、それにセカンドにもって来れる3Lo、プラス2つ入れられる3ルッツで「安藤美姫絶対勝利の方程式」を書きました。シーズンインする前は、ジュニア時代終わりからジャンプ構成に進歩のないキム選手が、まさかここまで圧倒的な点を出すとは思っていなかったはずです。それに3ループがここまで執拗にダウングレードされることも予想外だったでしょう。たぶん、モロゾフの頭にあったのは3A+2Tと3Aの2つのトリプルアクセル、それに3F+3Loを後半に持ってこれる浅田真央、そしてジャンプの跳べる長洲選手のポテンシャルじゃなかったかと。初戦のアメリカ大会での安藤選手の成績と今回世界選手権での成績を見てみましょう。(<)はダウングレード判定。アメリカ大会3T+3Lo(<)←最初のジャンプがふだんの3Lzでないことにご注目。簡単な3Tにして負担を減らしたんです。でも結局セカンドのループが認定されない。3S←前の連続ジャンプの負担を減らして、シーズン途中から4Sを入れて完成させるつもりだったところ。回転不足判定の厳密化が、その理想の方程式を安藤選手から奪いましたが。3Fスピン(レベル1)スパイラル(レベル2)後半3Lz+2Lo3Lz3Lo2A+2Lo+2Loスピン(レベル3)ステップ(レベル3)スピン(レベル3)GOE後の獲得点数 58.46+演技・構成点52.16=110.62今回の世界選手権3Lz+2Lo2A+3T3Sスピン(レベル4)スパイラル(レベル4)3Lo(<)3Lz3T+2Lo+2Lo2Aスピン(レベル3)ステップ(レベル3)スピン(レベル4)GOE後の獲得点数 62.34+演技・構成点63.92=126.26初戦と今回で、技術点のアップが3.88点、演技・構成点が11.76点アップ振付を変えましたし、今回のほうが初戦のジゼルよりはるかによかったのは確かですが、それにしても同じ選手の演技・構成点が11.76点もアップしてしまうのですから、今回の演技・構成点の上がりようがいかにすごかったかわかると思います。注目ポイントはまずはスピンのレベル上げに成功してること。当初は高難度のジャンプを決めることが優先だったと思いますが、途中から、エレメンツの取りこぼしはダメだと気づいたのだと思います。そこできっちりレベルを取れるスピンにしてきた。そして、安藤選手はきちんと取った。肩に問題のある安藤選手はスピンのポジション取りが大変だと思います。それでもレベル4を2つにレベル3を1つ。実はオーサーは、安藤選手のスパイラルに関してもイチャモンつけていて、膝を曲げて脚の上がりをごまかしてる、あれでレベル4はないだろう、みたいな(苦笑)――ほんっと、よくまあアラさがししてくれるよ、と思いましたが、スパイラルのレベルは安定してキープできるように調子を戻しましたね。ただ、今回台にのってきた安藤選手の実力を見ると、オーサーが目の仇にして叩いた理由がわかりました。選手としても一流だったオーサーは、現役時代「ミスター・トリプルアクセル」と言われたぐらいのジャンパー。天才は天才を知る、なんです。安藤選手のジャンパーとしての能力の高さをよく知ってるんですね。ループが跳べなくなり(去年まではなんとか入ってましたが、今年は試合での成功率0%)、サルコウ劣化中(ファイナルに続いて今回も跳ぶ体力なし)のキム選手と違い、安藤選手はアクセル以外の全部の3回転が跳べます。弱いとすればエッジを矯正したフリップ。フリップはちょっと足りなくなることが多く、グランプリ・シリーズではダウングレードされたり、GOEで減点されたり、非常に厳しく判定されました。実はMizumizuが一番心配していたのは、安藤選手のフリップ。セカンドのループが認定されないことは、もうモロゾフはほぼわかってるはずだし、そうなると問題はフリップの高さ不足。フリップはアクセル、ルッツについで基礎点の高いジャンプだから、できれば入れたい。でも安藤選手に対しては、ふつうなら気にしないようなわずかな軸の傾きですぐGOE減点してきましたからね。荒川静香が「流れのあるいいジャンプでした」と言ったフリップまでGOE減点ですから。「狙われていた」ジャンプです。グランプリ・シリーズでは、ショートとフリーで2度入れて、基礎点の高さを生かせないような減点をくらうことが多かった。これが、ショートとフリーで決まるかな、と思っていたんですが、さすがにモロゾフ、フリーから狙われたフリップをはずしてきました。そして、大きなチャレンジ、それは2A+3Tです。これはシーズン途中から、後半に入れようとして3Tがダウングレードの餌食になったもの。それを絶対に決めるよう、前半にもってきました。そして、見事に成功。セカンドに3Tをもってこれたのは、大きな大きな収穫です。しかも完璧に回りきって、ピタッと降りました。キム選手の2A+3Tは、実は今回は相当疑わしかったんですね。ビデオを撮ってる方は見ていただきたいのですが、3Tの着氷で、相当氷が飛んでます。エッジでベタ降りしたときの現象で、あそこまで氷がえぐれるのは、回りきってないということ。もちろんキム選手ですから今回はダウングレードはなし。でも、GOEをマイナス1にしてたジャッジが1人いたので、回転が足りてないのに気づいたジャッジもいたということ。加点は0から2でした。安藤選手のほうは加点は1から2で、0や(もちろん)マイナスはなし。オーサーは、あのセカンドの3Tをみてあせったと思います。セカンドに3Tがもってこれると、奪われたセカンドの3Loをカバーできますから。そして、執拗な回転不足判定に対抗するために、シーズン初めには後半に2つの連続ジャンプを入れて10%アップを狙う作戦を放棄して、最初に2つの連続ジャンプを跳んでしまう。そして、スピンとスパイラルに注力したあと、後半に入ってからは、ふつう連続ジャンプをもってくるのですが、前のエレメンツの負担を考えてあえて単独ジャンプの連続(1つ「狙われたループ」を厳しく回転不足判定されましたが)、そしてジャンプ構成の最後に入れていた3連続を最後から2つ目に移して、最後のジャンプは一番負担の軽い2Aに。ここまでシーズン途中で構成いじって、しっかり対応してきた安藤選手は、やはり天才ジャンパーです。これができたのは、1つには4大陸がなかったことも大きかったと思いますね。1つ試合が入ると、そこでいったんピークを作らなければいけないので、大変なんです。年が明けてからの浅田選手の不調の理由を、2月になってようやく、元コーチの山田氏が、「試合数が多すぎる。みどりは年間1~2回にしたいと言ってきたことがある。なのに、真央は…」と発言しましたが、見かねてだったと思います。もう、本当に、連盟の浅田選手のコキ使い方は異常でしょう。Mizumizuは「強化部長」じゃなくて、「選手消耗部長」と呼んでます。モロゾフが連盟を声高に批判しましたが、まったく120%同感です。浅田選手がキム選手と大差をつけられたから、コーチまかせにせず連盟がアドバイスするって…?(呆)。この意味不明の点差をみてオロオロなんて、バカ丸出しでしょう。ここでアセって、愚かな連盟が余計な口はさんだら、もっと悪くなります。冷静に考えてください。浅田選手がルッツとトリプルアクセルを失敗したのは確かだし、全体的に身体が動いていませんでしたが、あんなアホらしい点差がつくような演技ですか? 後半の2ループがダウングレードされましたが、3S跳べなかった選手に演技・構成点で、プルシェンコを上回る銀河点出されたら、天上の神様だって手も足も出ませんよ。そもそも、昨季から、もう浅田選手はキム選手に勝てないルールを作られています。去年はルッツを奪われ、今年はループです。ところが、それでもまだ浅田選手は勝ってしまう。どうやっても勝利を確定的にするためには、演技・構成点の爆アゲの意識合わせしかない。そしたら、思った以上に点差が出ちゃった。こんなところでしょう。ここであせって連盟が口出ししたら、それこそタラソワも怒ってしまいます(実はモロゾフだけではなく、タラソワもめちゃくちゃ連盟には怒ってるんです)。浅田選手がどれほどタラソワに精神的に頼っているか、演技後に浅田選手がタラソワの胸にとびこんでいったのを見ればわかるでしょう。2人を引き離してはいけません。そもそも、モロゾフやタラソワ以上にフィギュアを知っている人が連盟にいますか? 金儲けイベントの国別対抗に「日本の至宝」の女子2人を出すなど、意味不明のことをして休ませもせず、何か強化ですか。国内大会パス、ショーもなるたけパスして調整してきたキム選手と環境が違いすぎます。「安藤・浅田には勝たせないぞルール」を突破して、バンクーバーでメダルなど、常識的にはほとんど無理です。メダルを獲るのは、ロシェット選手とチャン選手なんです。オーサーのからんだキム選手も、もちろんです。今回の、これまでの慣例を破る演技・構成点のバク上げは、バンクーバーの前夜祭だと見るべきです。当日の選手の出来によっても変わるでしょうが、彼女たちはジャンプ構成落としてミスをなくせば、テンコ盛りの加点と演技・構成点の爆上げが待っているからラクなんです。一方の日本選手は、絶対にミスできません。今回安藤選手のショート、3ループの認定を試す意味もあったと思いますが、結果はやっぱりちょっと足りなくてダウングレード。あれ以上跳べといってもほぼ不可能でしょう。男子のセカンドの3Tと3Aの認定の緩さを見たら、もしかして今回は… と思いましたし、恐らくモロゾフも賭けてみようと思ったと思いますが、やはり認定しませんでした。安藤選手の単独の3ループさえダウングレード。あれで4分の1以上足りてないって? うそだろ! と思うようなジャンプがです。もう今さら言うまでもないですね。昨季、「ジャッジは一応、基準に基づいて判定してる」なんて、書いてしまった自分が甘かったと思います。今シーズン途中から、どうやらそうでないことにだんだん気づいてはきましたが、長年のファンとしては、やはり、どこかでジャッジを信じたかったんですね。昨季は、プロトコルの演技・構成点を見るのが楽しみだったのに、1度こういうことがあると、もう2度と信頼する気にはなれませんね。当然でしょう。プロの仕事とはそういうものです。3ループが跳べなくなった選手って誰でしたっけ? まったくすごい偶然です。これでまた、来年、誰かの3Sが決まらなくなってきたら、今度は安藤選手の3Sをダウングレードですか?こんな露骨な手法に挑戦するのだから、長年汚いフィギュアスケート界で生きてきたベテランのコーチを信頼してまかせなくてはダメ。「妨害報道」にも、ファンの苦情が殺到してやっと腰を上げるような、脳タリンの連盟に何ができますか。あげく、「もう終わった話」だと「大人の対応」をしたつもりになってます。だから、ナメられるんですよ、いいかげん気づいてください。点差が開いてオタオタするのではなく、「なんでこんな男子以上の、史上最高の演技・構成点が出たんだ。説明しろ」とISUのジャッジに圧力をかけるのが連盟の関係者の仕事でしょう。この点をへぇへぇと野放しに認めたら、いつでもまた、やりたいときにやってきます。う、また文字制限
2009.03.31
読者のみなさまへあまりにたくさんのメールありがとうございました。多少の温度差はあるとはいえ、みなさんが採点についてお感じになったことは、メールを拝読しますとほとんど同じ。Mizumizuもみなさんと同じ気持ち。正直、もうフィギュアねたを書くのはやめようと思ったのですが、ブログを開けてみるとなんとまぁ、こんな個人ブログに1日で3万2000件ものアクセス。きのうも2万件でしたので、やはりエントリーを期待されている方が多いとわかり、最後にあと数回だけ書こうかという気になりました。それをもってMizumizuはフィギュアの世界から出て行こうと思います。長く愛好してきましたが、「もう付き合いきれない」という気分です。ブランケッティさんの言う「消えた観客」の1人になるときが来たようです。多くの方が呆れたキム・ヨナの銀河点。加点については、客観的な数字で奇妙さが示しにくいので、一番わかりやすい演技・構成点に焦点を当ててみましょうか。今回の異常な点数は、もはや発狂したとしか思えない演技・構成点なくしては説明できません。まずは、日本中のファンの目が点になったショートのキム選手の得点のうち、ジャッジがつけた演技・構成点。キム・ヨナ選手自身の直近の4大陸と比べてみると、その異常な爆アゲぶりがわかります。スケートの技術 (4大陸)7.6→(世界)8.45 0.85点もアップつなぎのステップ (4大陸)7.1→(世界)7.75 0.65点もアップ演技(パフォーマンス) (4大陸)7.65→(世界)8.5 0.85点もアップ振付 (4大陸)7.55→(世界)8.05 0.5点もアップ音楽との調和(解釈) (4大陸)7.65→(世界)8.15 0.5点もアップ今回総じて、点数は高く出ました。では、他の選手はどうでしょうか?ロシェット選手スケートの技術 (4大陸)7.3→(世界)7.55 0.25点アップつなぎのステップ (4大陸)7.0→(世界)7.35 0.35点アップ演技(パフォーマンス) (4大陸)7.25→(世界)7.7 0.45点アップ振付 (4大陸)7.55→(世界)8.05 0.4点もアップ音楽との調和(解釈) (4大陸)7.65→(世界)8.15 0.3点アップ浅田選手スケートの技術 (4大陸)7.4→(世界)7.75 0.35点アップつなぎのステップ (4大陸)6.85→(世界)7.15 0.3点アップ演技(パフォーマンス) (4大陸)7.2→(世界)7.6 0.4点アップ振付 (4大陸)7.25→(世界)7.64 0.4点アップ音楽との調和(解釈) (4大陸)7.25→(世界)7.55 0.3点アップどうですか? ロシェット選手と浅田選手の「あがり具合」がかなりきれいに拮抗しているのに対し、キム選手の爆アゲぶりがわかりますね。つまりキム選手は、わずか1ヶ月の間に、演技・構成点の5つのコンポーネンツを抜群に磨いてきたのですね。素人目にはほとんど、いやまったくわからないのに、さすがに選ばれたジャッジの目は違います。スケートの技術は1点もあがっちゃったんですね。いやぁ、すごいです。こんな選手はフィギュア史上初でしょう。天才ですね。タテマエ上は、演技・構成点も他の選手と比べた「相対評価」ではなく「絶対評価」。どういうことかというと、5つのコンポーネンツの点数が「絶対的にどのくらいの価値をもつか」を数量化したものということです。たとえば100点満点のテストでは、80点取った人より90点取った人のが優秀です。ですから、ある選手とある選手の「スケートの技術」の点数を比べれば、その数字の差で、優劣がわかるわけです。「キム選手のスケート技術って男子並みなんですか?」というメールもいただきましたが。いいえ、キム選手のスケート技術は男子以上なんですね~。男子ショートで4+3を跳び、トリプルアクセルを決め、スピンもステップもレベル3から4で加点ももらってトップになったジュベール選手とらべてみましょう。カッコ内がヨナ選手です。7.8(8.45)、7.3(7.75)、7.75(8.5)、7.7(8.05)、7.85(8.15)スケートの技術はジュベールでさえ、8点台は出ていません。つまり、ヨナ選手の技術は、男子を上回っているんです!4回転も、そのコンビも、3Aも跳べないヨナ選手が、なぜ?それは・・・トータル・パッケージだからです! そして、そうジャッジが点を出したからなんです!そのココロは? 素人のワタクシにはわかりません。ただ、演技・構成点をそこまで爆アゲしたかった理由は、「なんとかできるだけ得点を上げたかった」と考えれば辻褄が合います。ショートの場合、男子の演技・構成点は実際の得点にそのまま反映されますが、女子の場合は8掛けになります。そうやって、もともと主観でつける演技・構成点の差をなるたけ少なくしようという、採点システムを作ったときの良心なんですね。8掛けにしかならないので、よっぽどジャッジが点差をつけないと、実際の得点の差になってきません。テレビで言ってましたよね。キム選手は過去に10点差を浅田選手にひっくり返されたと。だったら、10点以上ぶっちぎっておけば、かなり安心ですよね。では、女子と男子の演技・構成点というのは、どういうふうに出てくるのがこれまでの慣例でしょうか?昨季の世界選手権のショートで一番評価された高橋選手と浅田選手とキム選手自身の点を比べてみましょう。高橋(浅田)キム7.86(7.43)7.21、7.64(6.89)6.71、7.79(7.36)7.00、7.89(7.21)7.14、8.07(7.21)7.11これが事実です。男子は総じて、女子より高く出ます。高橋選手でさえ、音楽の解釈でわずかに8点を上回っただけです。今回のキム選手の8.45、7.75、8.5、8.05、8.15という点がいかに、これまでのフィギュアの常識をくつがえすものかわかるでしょう。この点を見たとき、「フリーはどうするんだ?」と思いました。普通の点に戻して知らんふりするのか、このまま突っ走るか。ジャッジの判断は後者でしたね。さすがに、ショートで1人だけ8点台では、いかにバカな素人でもおかしいと気づくと思ったのか、他の選手にも適当に8点台を与えるという「一緒アゲ」になりました。キム選手のフリーの演技・構成点8.5、8.25、8.7、8.6、8.7安藤選手のフリーの演技・構成点7.95、7.65、8.15、8.05、8.15ちなみに安藤選手の初戦のアメリカ大会(このときもキム選手が1位)は、6.95、5.65、6.85、6.6、6.55安藤選手はシリーズ序盤、ずっと低くつけられ、モロゾフがジャッジに説明を求めに行っています(要は圧力)。5.65ってのが、ふるってると思いませんか? 今季はこんなに異常に上がったり下がったりするんですよ。これを「表現力」で説明できますか?Mizumizuにはできません。では、男子の世界王者となったライザチェックのフリーの演技・構成点は?7.7、7.7、8.1、7.9、8.1これが男子フリーで最高でした。4大陸(カナダ開催)は、7.5、7.05、7.65、7.55、7.6。またまたキム選手の演技・構成点は男子王者をはるかに凌いでいるのです! スケートの技術に関してはぶっちりでライザチェックを見下ろしています。2度目のルッツは回転不足気味で着氷の軸が傾き、3サルコウは跳べずに2サルコウでも回りきらなかったキム選手が、です。この発狂点がどのくらい発狂してるか、トリノでジャンプでもステップでもスピンでも表現力でも「他の選手とは次元の違う」演技をしたプルシェンコ選手に登場していただきましょう。あのときのオープニングの4T+3T+2Loはすごかったですね~。それからすぐに3A+2Tを跳んでしまいました。ステップの速さも度肝を抜かれましたね。プルシェンコのトリノのフリーの演技・構成点(カッコ内が今回のキム選手)。8.46(8.5)、7.75(8.25)、8.39(8.7)、8.18(8.6)、8.43(8.7)トリノの男子フリーではバトル選手が8点台を1つ出しただけですから、プルシェンコがいかに傑出していたかわかるでしょう。そのプルシェンコを…スケート技術で上回り、つなぎのステップでも上回り、演技・振付・音楽との調和でも上回っていたのです! 去年までそこそこ跳べていた3ループも跳べなくなり、サルコウも劣化したキム選手がです。ジャンプ跳べなくなっているのに、どんどん点が上がる… あ、トータル・パッケージだからですか、なるほど。申し訳ありませんが、もはや理解不能です。いや~、凄すぎます。ぜひトリノでプルシェンコとガチンコ勝負してほしかったです。そうやって現場でくらべれば、Mizumizuのような素人でも、キム選手の「表現力」が理解できたかもしれません。昨日紹介したビアンケッティさんが、演技審判の人数が12人から9人に減ったことで、さらに採点の信頼性が損なわれるのではと危惧していましたが、まさにそのとおりになりましたね。演技・構成点が派手に上がったり下がったりというのは、今季から顕著になりました。ビアンケッティさんは、ジャッジは匿名ではなく記名で点をつけ、各ジャッジの点についてあとで裏で評価して、他と違った点をつけたからといってジャッジを罰したりしてはいけない。そのかわりに自分で出した点は自分で責任をもて、と言っています。ランダム抽出もだめ、上下を切って平均するだけでいい、とも。つまり、演技審判は意識合わせをしてはいけない、と言ってるんですね。ただ、そうなると本当に各ジャッジで点がバラバラになるし(基本的に好みが入る採点は、それが本来なんですが)、ある程度の意識合わせは、せざるをえなくなるのじゃないかとは思いますが。昨季までは、演技・構成点として出てくる点は、相当まともでした。ある程度の意識合わせはあったでしょうが、プロトコルの5コンポーネンツの評価を見るのが案外楽しみだったのですね。たとえば、昨季のファイナルのランビエールVS高橋選手のプロトコルはおもしろかった。芸術性の高いランビエールに対して、4回転2度をにらんで、プログラムの密度をあえて落とした高橋選手。僅差でランビエールに軍配が上がりましたが、振付や曲の解釈などのわずかな2人の差が絶妙で、「そういわれれば納得せざるをえないな、さすがプロの評価」とうなったものです。昨季までのMizumizuブログを読んでいる方ならわかると思いますが、基本的にMizumizuは、ジャッジの採点を信頼していました。ダウングレードについても「ルールがおかしいのであって、ジャッジは基準にもとづいて判定してるだけ」という立場でした。しかし、今季の「厳密化」。そして実際の試合で起こる露骨な特定のジャンプ殺し。世界選手権では、安藤選手の3ループは決して容赦しなかったですね。他の選手の微妙な不足ジャンプは認定されてるのもありましたが。モロゾフは狙われているジャンプに気づいて、フリーからはずしましたが、3ループの単独さえ回転不足を取られました。たしかに少し足りなかったかもしれません。つまり、3ループを安藤選手から奪わなければ、勝てない選手がいるんです。「安藤・浅田には勝たせないぞルール」の正体、そろそろ納得していただけましたか?こんな判定や出てきた点数を見て、まだルール・ジャッジは公平などと思うおめでたい人は、せいぜい田舎でイタチでも追いかけていてください。したたかなモロゾフは、そんなことは信じてません。世界で勝負してる彼は、ルールはあくまで人為的なもので、意図的な判定がしばしば行われることを熟知しています。ISUが、安藤・浅田にはもう2度と決して勝たせないつもりでいることも、今季身にしみたでしょう。彼らは日本からお金を引き出そうとしているだけですから。最後の世界選手権での日本選手の低得点を見れば、わかるでしょう。3人いたら、そのうちの1人は決して点を出してもらえませんでしたね。国別対抗なんて茶番、まだ皆さん、見たいですか? 浅田選手のあの消耗ぶりを見ても? インタビューでは、もう声が出てなかったじゃありませんか。国別対抗で日本に金メダルなんて、意味のないお手盛りをしてもらって、嬉しいですか?続く
2009.03.30
読者の皆様へ女子ショートプログラムの地上波での放送が終わり、拙ブログへのアクセスが2万件近いという突発的事態になっています。おそらく、みなさま、この結果に関する拙意見にご興味があるのだと思いますが、正直、まったく理解できません。もっとも格式の高い世界選手権ですから、良識のあるジャッジングを期待していましたが、この意味不明の数字の累積は、プロトコルで「謎とき」する気にもならないぐらいです。 オーサーが殿堂入りしますので(世界選手権後に記念のパーティがあります)、そのご祝儀ということでキム選手の点があがってくること、カナダのロシェット選手もアゲられることは、ある程度予想していましたが…ロシェット選手の点が出たときは、一瞬、3+3をやったっけ? と思ってしまいました。全体的に皆どんどんSBを更新して、点は高めではありましたが… キム選手の演技は確かにすばらしかったですが、あの銀河点には言葉がありません。トリノのプルシェンコならともなく、あの内容で、あの出来で、フリーをやる意味をなくすような点が出るなど、もはや滑稽としかいいようがありません。点が出ると後づけで褒めまくる(褒めまくらなければいけない)解説者が、いっそ気の毒です。日本選手についていえば、村主選手の点が、なぜあそこまでサゲられなくてはいけないのか? 浅田選手は認定される3+3ループを跳んで、すごい! と言いたいところですが、やはりあれはちょっとだけ足りていません。あれでは、今後も認定されるかされないかギリギリのといころで博打に出なければいけません。安藤選手のほうは微妙なところで「地獄の」ダウングレードです。確かに浅田選手よりは回転不足の度合いが大きかったかもしれませんが。スローで再生して初めて、不足の度合いが大きい「かもしれない」とわかる2つの「やや足りてないジャンプ」の点を天国と地獄の差にする意味がありますか? 何度も繰り返しますが、回転不足を厳しく取ることには、反対しません。問題はその減点の度合いです。とは言え、安藤選手の演技は素晴らしかった。点数稼ぎの技術ばかり発達し、「訴えかけるもの」がなくなってしまった昨今のフィギュアのプログラムですが、今回のショートには、安藤選手にしか出せない味、深い情感がありました。しかし、出てきた点は不可解かつ不合理なもの。40年にわたってフィギュア・スケート界に貢献してきたレフリー資格をもつパイオニア、ソニア・ビアンケッティさんが、今季の欧州選手権を見て絶望した気持ちがよくわかります。ビアンケッティさんの「絶望的な気分が反映された採点システムへの意見書」↓http://www.soniabianchetti.com/writings_hope.html「芸術性は消え、スケーターは消え、観客もいなくなる」「3回転や4回転の回転不足が回りきっての転倒より低くなるなどナンセンス」「選手はできるだけ点数を稼ごうとするだけ(そこに芸術はない)」「(GOEや演技・構成点の)ジャッジングが匿名で、かつランダム抽出されるため、誰も責任を取らず、一般人は匿名なのは陰謀や取引のためだと見なし、スポーツそのものの信頼性を損なっている」「演技・構成点に5つのコンポーネンツなどいらない。演技・構成点を絶対評価などできない」、だから結局は「旧採点システムに戻すしかない」(以上、ビアンケッティさんの意見書からの引用)… こんな意味不明の累積数字の羅列を見せられるのは、もういくらなんでもご免です。もちろん、プロトコルを見れば、それなにり筋はとおっているでしょう。ジャッジはみな、一定の基準に基づいて点を出していますから。しかし、スポーツのジャッジングというのは、人々から信頼されなければ成り立ちません。「オレたちは専門家。専門家が判断して点をつけたのだから、シロートのお前らは黙って納得しろ」と言われて、みなさんは理解できますか? この点を? 実際にジャッジしている審判より長い経験をもつ専門家が、「あまりにひどい」とさまざまな弊害を指摘しているのですよ。一方で、日本の「専門家」は長いものに巻かれてるだけ。ルールは神聖、ジャッジは公平という盲目的な信仰で何でも論じている。変だと思いませんか?改悪に改悪を重ねたフランケンシュタイン・ルールは、もはやちょっとやそっとの手直しでは、どうにもなりません。昨季までは、ある程度ジャッジの肩をもってきましたが、もはや限界です。ビアンケッティさんの言う、「最初はいくらか長所もあった、演技の技術的な部分を数量化するという考えは、いまや不合理の頂点に達した」という言葉に全面的に賛成です。みなさん1人1人の良心と良識に尋ねたいと思います。今の(特に多くのスポンサーの絡む)女子フィギュア・スケートの採点が、マトモだと思いますか?
2009.03.29
<きのうから続く>大一番で急にジャンプ構成を変えることの怖さがここにある。普通に考えれば、今まで4回転でコケて流れが止まっても、必ず連続ジャンプにできていた。そのくらい確実に成功できる連続ジャンプだったのだ。しかも今回、オープニングを簡単なダブルアクセルに変えた。非常にきれいに決めて、加点を稼ぐという目的は達したが、いままでできていた次の連続ジャンプにミスが出た。同じような現象は全米のウィアー選手にも起こった。連戦で疲れのあったウィアー選手は3Aが不調に陥った。そこで全米フリーでは構成を大幅に変更。最初の4Tをはずして、3Aを入れ、ゼッタイに決める構成できた。普通に考えれば跳べるジャンプなのだ。だが、それがまたも失敗に終わった。小塚選手は織田選手とは違って、セオリー通り、最初の3Aを連続にできなければ、2回目の3Aを連続にしようと考える。今まで単独でさえ決まっていないのだから、連続となると負担は返って増してしまう。だが、今回は、完璧ではないが、なんとか連続にして決めて10点近い点を稼ぎ出したので、「後半のトリプルアクセルを決める」という目標自体は達成した。これまで4回転を入れて、1度しか成功してないジャンプを連続にできたのだ。4回転がどれほど体力を奪うか、ジュベールじゃないが、4回転を入れて後半までまとめきるのは、至難の業だということだろう。ジュベールがパターン通りの失敗に陥ったのは、すでに彼に全盛期の体力がないことの証左かもしれない。それともう1つ、後半の3Aをゼッタイに決めるために小塚陣営が考えた小さな工夫。後半の2度目にくる3Lzからの3連続をはずし、1つ前の3Sからの連続ジャンプに変えたのだ。このほうが負担は軽いハズだ。実際、この3Lzからの3連続、よくいつも決めてるなぁ、と感心していた。同時に、あれが見えない負担になって後半の3Aに影響しているのかもしれないと思っていた。佐藤陣営も同じように考えたのか、3連続は後半の最初にもってきた。ところが、これまた失敗。小塚選手はワンシーズンとおして、常に同じジャンプ構成を繰り返すという戦略で戦ってきた。ある程度までうまくいったのだが、どうしても最後の最後の難関、後半の3Aが決まらない。そこで今回ジャンプ構成を少しいじったのだ。負担を軽くしたはずだが、これまで同じことをずっと繰り返してきた体はときに、急には変化に対応できないことがある。そこで失敗が出たのだろうと思う。ジャンプ自体の調子がいまひとつだったこともあるかもしれない。ループは回転不足を取られやすい。たとえ2ループでも、ダウングレードされると、やらなかったほうがマシというような点になってしまう。それに、今回の小塚選手のジャンプには加点があまりつかない。グランプリ・シリーズが大盤振る舞いだったといえば、それまでだが、実際に小塚選手のジャンプはこれまでに比べ、全体的に高さがなくなってしまった。気持ちいいぐらい回りきって降りてきたハズのジャンプが今回はギリギリ。試合数が多すぎるシーズンをフルに戦うことの難しさが出たと思う。全米まではミスのない演技で勝ってきたアボットも、4大陸からは自滅コースに入ったことを見ても、これは小塚選手の責任ではない。小塚選手はアボット選手より若い分だけ体力があり、もったと言えるかもしれない。チャン選手は韓国のファイナルでは明らかに手を抜いていたし、カナダの国内大会は日本ほど厳しくはない。とにかく、日本選手は国内での代表争いも熾烈だし、国際大会のタイトなスケジュールに加えて、ショーだのイベントだの、まるで奴隷のようにこき使われている。ここ数年の日本の現役フィギュア選手のスケジュールは異常ではないか。健気な日本選手は文句も言わず、ショーでもイベント試合でも、足を運んでくれる一般のファンに満足してもらおうと常に全力投球。小塚選手のジャンプが、これまでのようにピタッと気持ちよく決まらなくなったのは、明らかに疲労がある。それでもここまでまとめた。スピンやステップも取りこぼしなく大一番を戦った。その根性と精神力には拍手を送らないといけないだろう。あとは、選手をサポートする側の責任だ。「強化」してるのか「消耗」させてるのか、わからないような態勢で結果だけ求めるのでは、選手があまりに気の毒だ。織田選手へのレクチャーも徹底すべきだろう。今季試合で1度も成功していない4回転をここ一番の、最後の大舞台で決めるなど、普通の選手では到底できない。普通は逆なのだ、特に日本男子は。Mizumizuはかつて「織田選手は日本男子には珍しく精神力が強い」と指摘したが、今回織田選手はそれを証明してみせた。しかも、他の選手と比べても、今季最高の4+3コンビネーションではないかと思わせる完成度だった。すべてのジャッジから1~2の加点をもらって出た点がなんと15.2点。ベルネルも4+3をかなりきれいに決めたが、それでも14.8点だ。こんなに勝負強い選手が、ルールの理解不足で何度も大きな点を失い、教えられたわけでもないのにもっている、自身の稀有な強みを生かせないなど、愚の骨頂だ。かつてプルシェンコが同じくザヤックルール違反でファイナルの勝利を逃したとき、コーチは愛弟子を公けの場で叱りつけた。以来プルシェンコは同じ過ちを繰り返さなかった。このミスだけは、もう2度と繰り返してはならない。
2009.03.28
男子フリーが終わり、結果とともにプロトコルが出た。きのう書いたショートでの判定予想は、「チャンのフリップにwrong edge判定が出たかもしれない」以外は当たっていた。今回混戦の男子を制したのは、昨シーズンの怪我が響いたのか4回転の成功率が落ち、今シーズン初めは成績が出ず、「世代交代」などと囁かれていたアメリカのライザチェック選手だった。思えば、ライザチェックの今シーズンは、本当に可哀相だった。執拗なトリプルアクセルに対するダウングレード(これは4大陸にいたるまで、毎試合毎試合ダウングレード判定された)、ときどき思い出したようにつくフリップへの!判定、そしてカナダに行ったとたんに爆サゲされる演技・構成点。アメリカ選手はそもそも日本選手同様、非常に品行方正でライザチェックもその例にもれないが、さすがにこのときはライザチェックもブチ切れて、「審判は採点について説明すべき」と声を上げた。いや、本当にごもっとも。今回はライザチェックのトリプルアクセルに対するダウングレード判定が1つもなかった。スローで見たが、降りてからエッジが微妙に回っているように見えるジャンプもないわけではなかったが、あの程度なら本来ダウングレードなどすべきではない。ベルネル選手の復活も嬉しいニュースだ。もともと地力のある選手なのに、自爆を繰り返して結果が出なかった。ここに来て調子を戻してきたのはさすがというべきだろう。だが、ベルネル選手、ジュベール選手を見て、つくづく4回転を入れて後半までジャンプをミスなくまとめることの難しさを実感した。ベルネル選手は後半のジャンプが2回転になってしまったし、ジュベール選手は4回転を入れると起こる失敗のパターン、「2つの3A(4回転の次に難しい)のうちの1つで失敗。後半の普段なら跳べるジャンプでの失敗」に見事にはまった。4回転を回避してミスなくすべった今回のライザチェックの演技・構成点は、79点とものすごく高い(ちなみにカナダでは、70点そこそこまで爆サゲされたのだ)。今回ちょっと高すぎる感はあるが、80点は越していないこと、開催がアメリカで地元だったこと、それにライザチェックの実績と今日の素晴らしい出来を考えれば、このくらい出して選手に報いるのはフィギュアの伝統だと言える。明暗を分けたのは、全米までは非常に高い点を出していたアボット選手。アボット選手はもともと、ライザチェック選手より3Aが得意で、3Aをステップから跳んでしまうほどの実力なのだが、その彼がショートで3Aでダウングレードされてしまった。本人も、「長いシーズンで疲れている」と言っていたらしいが、さもありなん。今シーズンの選手の疲労は、試合数やショーの回数に見事に比例している。最初に全米でウィアー選手が力尽き、今回はアボット選手。そんななかでは、日本の小塚選手はよくやったと思う。今回は全体にジャンプの高さがなくなり、着氷がギリギリになってしまうジャンプが多かった。最初は上半身を大きく使った表現ができていたが、後半は明らかにスタミナ切れ。それでもアボット選手のような崩れかたはしなかった。さて、今回の男子の結果だが、点数から見れば、期待はずれだったことは確かだ。3枠確保はできたのでめでたいが、本当は織田選手か小塚選手が台にのぼることをMizumizuは期待していた。バンクーバーを控えてチャンがアゲられることはわかっていたし、アメリカ選手にも有利な点が出ることも予想できたが、日本選手は思った以上に点がもらえなかった。一番衝撃的だったのは、4T+3Tをついにきれいに決めた織田選手の驚くような低得点だろう。演技・構成点が最終グループでないにせよ低すぎたのは、昨季を棒に振ってしまったツケが出たかもしれない。チャン選手は、「今回の世界選手権の点は過去の実績に左右されている」と指摘したが、確かにグランプリ・シリーズとは違って、特に演技・構成点がかなり過去の実績重視だったように思う。これはフィギュアの世界では伝統のようなもので、むしろグランプリ・シリーズの派手に上がったり下がったりする演技・構成点の出方が変だったのだ。さすがに、もっとも格式の高い世界選手権では、チャン選手の演技・構成点は76.1点、75点の壁を少し越えたところというのは非常に妥当だった。カナダでのオリンピックを控えて、盛り上げるためにもオリンピック開催地の選手を多少アゲるというのは、よくあることだし、そもそもチャン選手は東洋的な繊細さと西洋的な優雅さをもった、得がたい表現力のある選手だ。それでもいきなり80点を越える点を与えるなど、あからさまで下品すぎた。一方、織田選手の点が出なかったのは、演技・構成点がおさえられたことに加え、ジャンプの回数規定にひっかかって、連続ジャンプが1つまったく点にならなかったことが最大の原因だ。キス&クライでも、感激の涙にむせっていた織田選手が、点が出て「あれっ」という顔になり、それからモロゾフに何か囁かれて、そこで気づいたらしい。本田氏の解説がすべてを語っているのだが、分からない人のために、もう1度説明しよう。織田選手のフリーのジャンプの構成と得点。 (基礎点)GOE後の実際の得点4T+3T (13.8)15.23A (8.2)5.43S+3T(8.5)9.3ここから後半3A+SEQ(7.22)8.42 (SEQとは連続ジャンプにしなければいけない箇所を単独ジャンプにしたということ)3Lo(5.5)6.53F+2T+2Lo(0)03Lz(6.6)7.22A(3.85)4.65ジャンプの挿入回数の規定、それは「3回転以上のジャンプは2種類まで2度入れることができる。ただし、そのうち少なくとも1つは連続ジャンプ(コンビネーションもしくはシークエンス)にしなければならない」「フリーでジャンプを入れられるのは8回、連続ジャンプを跳んでいいのは、そのうち3回」。さて、では、織田選手のフリーのジャンプはこの規定のどこに引っかかったのでしょうか?答えは「連続ジャンプの挿入回数」。実際に織田選手が跳んだ連続ジャンプは3回。それだけ見れば規定違反はしていないように見える。ところが!3Aを2度入れる織田選手は、どちらか1つを連続ジャンプにしなければいけないところを両方単独ジャンプにしてしまった。この場合、2つの3Aのうちの1つはたとえ単独だったとしても強制的に連続ジャンプの回数としてカウントされてしまうのだ。つまり織田選手は、4T+3T、3S+3T、3F+2T+2Loの実際の3つの連続ジャンプに加え、後半の3A+SEQで幻の連続ジャンプを行ったことになる。計4つ。3つしか跳べない連続ジャンプを4回挿入したために、3F+2T+2Loはキックアウトとなり、0点になってしまった。やはり最初の4Tを連続ジャンプにしたのが失敗だった。通常織田選手の前半の連続ジャンプは4T3A+3T3Sという構成になっている。これがベーシックな構成だ。このまま行けば問題なかった。連続ジャンプは基礎点の単純な足し算なので、4Tにつけようが3Aにつけようが変わりはない。なんでそんなことしてしまったのか??正直、わからない。わからないが、1つ絡んでいそうなのが、織田選手が2つの3Aをどうあっても決めるために編み出した不思議なリカバリー方法。すでに書いたが、織田選手は最初の3Aを連続にできなかった場合、あえてルールを無視して、後半の3Aも単独にするという作戦をとっていた。NHK杯での織田選手のフリー4T(失敗)3A(着氷乱れで連続ジャンプにできず)3S+3T(後半)3A+SEQ(あえて単独に留めた2度めの3A)3F+3T+2Lo3Lz3Lo2Aという方法だ。つまり3A+3Tの3Tをすぐ次の3Sにつけるという方法。これなら、見かけ上連続ジャンプは2回だが、ルール上は3度入っていることになり、ギリギリで問題はないということになる。ただこれはあくまで最初の4Tが単独だった場合に有効であって、4Tを連続にしてしまったら、3Sは単独に留めて、あとは意地でも3Aを連続にするか、あえて3Aを単独にして連続ジャンプの回数を2度(それでルール上は3度になる)に留める必要があった。ちなみにチャン選手とベルネル選手は2度目の3Aにむりやり1Tをつけて連続にしている。そもそも織田・高橋選手は挿入可能なジャンプ回数での勘違いによるルール違反が多すぎる。織田選手はこれで3度目じゃないだろうか。高橋選手もオリンピックと昨季の世界選手権でやっている。今回は連続ジャンプの挿入可能回数の勘違いだが、同じ種類のジャンプを3度入れてしまったと(見なされた)いうこともあった。小塚選手にはこうした失敗はない(と思う)。いったい何回やれば気がすむのよ。信じられないバカな失敗だ。もちろん、織田選手本人の頭が悪いといってしまえばそこまでだが、モロゾフに加えて、ジャッジの資格もある城田氏がついていて、なんでこんなことになるのか。日本スケート連盟は、不祥事で辞任した城田氏をわざわざ復帰させ、安藤・村主・織田選手のバックアップスタッフとして試合に同行させた。じゃあ、佐藤陣営の小塚選手と浅田選手はバックアップしないのかよという、連盟内の亀裂ぶりをうかがわせる変な決定だし、そもそも城田氏が復帰したあとの今季の全日本で、中野選手(佐藤陣営)・浅田選手へのジャッジが非常に厳しく、村主選手には甘いという気分の悪いことが起こった。彼女が権勢を振るっていたトリノ五輪直前の全日本でも、3Aを2度決めた浅田選手が2位、村主選手が1位、しかも直前のファイナルで台にのぼった中野選手をはずして、当時調子の悪かった安藤選手がオリンピック代表になるという不快な選考が行われたのだ。男子に関しては、あろうことかジャッジのミスで織田選手のザヤックルール違反を見逃し、高橋・織田の順位が後から入れ替わるとなんていうことが起こった。このときも城田氏が「やり直し」の表彰式で織田選手に何か説明していたっけ。多少ダーティな部分があっても、国際舞台で日本選手が活躍できるようお膳立てができるなら文句は言わない。日本スケート連盟は彼女の人脈を復帰の理由にあげている。ところが、ジャンプの挿入回数規定のルール違反での減点など、基本的なところでバックアップしてる選手がミスってどうするのか。しかも、何度も。城田氏はトリノで高橋選手がザヤックルールに引っかかったときも、キス&クライで一緒にいたのだ。織田選手は、「リカバリーの方法は何種類も作っている」と言っていたが、今回の勘違いには間違いなく、ルールを無視した3A2度決めるための作戦が絡んでいると思う。あまりひねったリカバリーは危険ではないか。そもそも、今まで決めたことのない4Tをせっかく決めたのに、そこをわざわざ連続にしたあげく、3F+2T+2Loの大きな点をキックアウトで失うなんて、アホとしかいいようがない。一方の小塚選手だが、こちらも世界選手権でいきなり4回転回避策に転換したことが裏目に出てしまったようだ。今回の小塚選手のフリーのジャンプ2A(3.5)4.93A(8.2)7.083F(5.5)6.3後半3S+2T+2Lo(<)(6.93)5.733Lz+2T(8.03)8.033Lo(5.5)5.53A+2T(10.45)9.893Lz(6.6)6.6合計点54.034大陸での小塚選手のフリーのジャンプ4T (9.8)5(転倒により、これからマイナス1の減点で4点)3A+3T(12.2)133F(5.5)6.7後半3S+2T(6.38)6.983Lz+2T+2Lo(9.68)9.883Lo(5.5)6.13A(<)(3.85)1.893Lz(6.6)7.4合計点55.95今回非常に痛かったのは、これまで鉄壁だった最初の3A+3Tを連続ジャンプに出来なかったことだ。4大陸ではこの最初の連続ジャンプで13点もの点を稼ぎ出している。全日本でも13.8点。大一番で急にジャンプ構成を変えることの怖さがここにある。普通に考えれば、今まで4回転でコケて流れが止まっても、必ず連続ジャンプにできていた。<う、また文字制限>
2009.03.27
ロスで行われているフィギュア・スケートの男子ショートプログラムが終わった。たった今フジテレビ地上波の録画中継を見終わったところなのだが、「これまでのグランプリ・シリーズは何だったんだ?」と思うような点数だった。気の早い記者は、グランプリ・シリーズで上位に来る男子選手のメンツを見て、「男子は世代交代」と書いたが、結局今回のショートの順位を見ると、1 ジュベール(46+38.4)2 ライザチェック(44.4+38.3)3 チャン(45.6+36.95)4 ベルネル5 小塚と、今シーズン始まる前に予想された実力者が上に来た。チャンは若手だが、もともと昨シーズンの世界チャンピオンを国内大会で破った選手だ。ジャンプが不安定で昨シーズンは大きな大会で結果が出なかったが、ジャンプを決めてくれば世界トップを争える。一方で、グランプリ・ファイナルと全米を制したアボットは中継さえされず(苦笑)、順位だけ確認したら10位。上位選手の点を見ると、4大陸で下品ともいえる爆アゲされたチャンが、見た目のできのわりには案外点が伸びずに82.55点。そのチャンとの対戦で、カナダ大会でサゲられまくったアメリカのライザチェックが、今度は演技・構成点でチャンを1.35点上回る評価を得て、82.7点で2位。そして、連続ジャンプの4回転で手をつき、続くセカンドジャンプの3回転トゥループでは、本田武史をして、「回転不足判定にされそうなジャンプ」と言わしめる不足ジャンプのジュベールが、案外点が下がらずに84.4点で1位。まだプロトコルを見ていないのだが、あえて見ずに予想すると、ジュベールのセカンドの3Tはダウングレード判定されず、認定されたのではないか。着氷があれだけ乱れると、GOEでは当然減点になるが、回転不足判定されなければ点がガクンと下がることはない。何度か指摘したが、セカンドの3Tは総じて認定されやすい。キム選手がこれまで何度か3F+3Tの3Tでグリ降り(降りてからエッジがグイっと回ること。多少足りないジャンプに見られる現象)をしたが、いずれもダウングレード判定されず、認定→加点になっている。そして、チャンはフリップのエッジがアウトだったように見えた。ここでwrong edge判定されてしまったのではないか。それと4大陸ではレベル4にテンコ盛りの加点のついたストレートラインステップがレベル3に留まったのかもしれない。チャンの「4大陸と比較すると、出来のわりには低い点」はやはり気になった記者もいたようだ。「ジャッジは今回チャンに88.90点のシーズンベストには程遠い82.55点という点を与えた」と4大陸の点を引き合いに出して書いた英語の記事があった。4大陸はあまりにひどかった。あのような地元選手の爆アゲは、大会の格式をキズつける。一方で、今回の82.55点というのは、ややおさえ気味かもしれない。もう2点ぐらい出てもおかしくない出来だったと思う。男子シングルは、ジュベールとチャンの「舌戦」がアメリカ人記者の話題にのぼっていた。日本では報道されなかったが、仕掛けたのは、もちろん「永遠の不良少年」ジュベールのほう。「男子のチャンピオンは4回転も跳べないようなヤツがなるべきではない。(チャンへ)4回転入れてみろよ。そうすればどれだけプログラムをまとめるのが難しくなるかわかるから」と攻撃すれば、チャンは、「プログラムはトータルのパッケージだと考えるべき。ジャンプだけではなく、他の要素も大事」と返す。こうした互いに一歩も引かない2人の対決は見事だと思う。人は誰でも自分が正しいと思ったことを主張する権利がある。フィギュアの選手は特に、我こそは世界一と自分に言い聞かせてリンクに上がらないと、気持ちで負けてしまう。ジュベールの意見もチャンの意見もそれぞれに一理ある。今季のグランプリシリーズは、3回転ジャンプやダブルアクセルにやたら加点し、トリプルアクセル(女子ではセカンドの3ループ)のダウングレード判定がやたらと厳しいなど、大技に挑戦するジャンパーのモチベーションをあえて阻害するような採点が続いたが、今回ジャッジはジュベールに技術点、演技・構成点とも最も高い点を与えた。だが、ジュベールは自分の出来に満足していなかったはずだ。演技終了時の暗い顔を見ればわかる。一方のチャンは大満足で、出てきた点数に落胆していた。Mizumizuも今回はチャンの演技が一番華があったと思う。何より、フィギュア・スケートでもっとも好まれる「優雅な色気」があるのがいい。小塚選手も思った以上に点がでなかった。だが、出来は素晴らしかった。小塚選手は今シーズン、フルに戦い、しかもどの試合でもフリーでは高難度のジャンプ構成を組んできた。疲労はピークだと思うし、ジャンプに若干高さがないのが気になるが、ここまでまとめきるのは見事。クリーンでシャープなエッジ遣いと若々しく清潔な表現力は、チャン選手とは別の意味で見ていてうっとりさせてくれる。フリーではようやく、「4回転回避して、後半のジャンプを決める」と明言した。中京テレビ公式サイトから小塚選手のインタビュー引用:「今回は(オリンピック)3枠確保が優先なので、ただ挑戦するだけじゃなくて挑戦するなら必ず成功する。そうでなければ四回転はやらないと、“ケジメ”をつけてやら無いといけないと思うので、四回転にこだわらず、その後のジャンプがカギを握ると思うのでそっちに力を注ぎたい。」本当はもっと早く方針転換するべきだった。繰り返し指摘してきたが、小塚選手のプログラムは、後半の後半に勝負のトリプルアクセルが来る。それを成功させたのは1回だけ。今季は4回転を入れてそのたびに点を失い続けた。4回転に挑戦するなと言っているのではない。まだ試合で入れるのは早いと言っているだけだ。チャンや織田選手は後半の初めに2度目のトリプルアクセルを入れている。ジュベールは後半に入れるのをさけ、前半に2つ跳んでしまう(今回は構成を変えてくるかもしれないが、少なくとも欧州選手権ではそうやって2つのトリプルアクセルを決めた)。彼らと比較しても、小塚選手の場合、2度目のトリプルアクセルを決めるのが難しいのだ。跳べない4回転にいつまでも「果敢に挑戦」している場合ではない。そのあたりも本人はわかっているようで、「挑戦するなら必ず成功しなければならない」とハッキリ言っていた。決められないものは回避して、より優先順位の高いジャンプに注力する。当然のことだ。4回転のかわりに3Tではなくダブルアクセルにするというのもいい判断だと思う。なるたけ負担を軽くしないと、ジャンプをミスなく決めるのは難しい。後半のトリプルアクセルは加点を考えると10点近い点が稼げるジャンプなのだ。だが、やはりちょっと戦略転換が遅かったのが気になる。4回転回避策は、これまでやっていないことだ。これで今回、構成上難しい位置にある2度目のトリプルアクセルを決められるかどうか、まだ微妙だと思う。2Aの加点も、グランプリ・シリーズほどはもらえないかもしれない。どうもダウングレードやwrong edgeの判定、GOEのつき方、演技・構成点での評価が、試合(開催地によって、というのかジャッジによって、というのか)によってあまりに違いすぎて、戦略を立てるのが難しい。今季のジャッジングはフィギュア・スケートの審判に対する信頼を大きく損ねたと思う。織田選手の壁激突は、いかにも残念。7位でフリーを最終グループで滑れないということは、台にのぼるのはほぼ絶望的だ(もちろん、試合なので何があるかわからないが、最終グループに残らないと、演技・構成点がおさえられてしまうのだ)。4回転に挑戦すると言っているし、これが吉とでるか凶とでるかはやってみないとわからないが、これまでも「練習では9割決まっている」と言っている4回転、試合では一度も決めたことがない。ルッツを2つ入れている小塚選手以上に織田選手はジャンプ構成を落として、4回転と2回のトリプルアクセルにかけてきている。4回転と3Aに失敗が出ると、3枠確保が難しくなるかもしれない。それが最悪のシナリオ。3枠取れないとなると、高橋・織田・小塚の素晴らしい選手のうちの1人が、一番いい時期にオリンピックに出られないという悲劇が起こる。なんとか3枠確保に、頑張って欲しい。期待したほど点が出なかったが、それはそれ。仕方のないことだ。目標は3枠確保! 何より自分がオリンピックに出るために、自分の力で取ってほしい。
2009.03.26
松本に行く途中のラジオで、「キム・ヨナ選手が練習を妨害したとの報道に対し、日本スケート連盟が抗議」というニュースを聞いた。今回はさすがに、あの事なかれ主義の連盟でも看過できなかったんだな――と思っていたのだが、ネット上の、「当初(日本スケート連盟)は報道をやり過ごす方針だったが、ファンから『なぜ抗議しないのか』などの電話やメールが相次ぎ、対処することを決めた」というスポニチの報道を見て(見たのは松本のホテルのフロント・笑)、複雑な気持ちになった。キム・ヨナ発言に関しては、情報の早い読者のかたから「キム・ヨナが日本選手に練習を妨害されたと言ってますが、どう思いますか?」というメールを複数いただいていたのだが、実際にMizumizuが見たインタビューでは、キム選手は、「日本選手が妨害」とは言っていなかった。だが、韓国紙の報道では、「妨害したのは日本選手だとキム・ヨナが言った」とあり、どっちなのかウラが取れずにいた。だが、日本の読売新聞が、「キム・ヨナの練習を日本選手が妨害したと韓国メディアが伝えた」という報道を読んだときには、すぐに日本スケート連盟に以下のようなメールを送り、抗議するべきではないかと意見している。以下がそのメールだ。XXXX3月15日付け日本スケート連盟あてメールXXXXXX> 前略> > 「キム・ヨナ選手の妨害を日本選手がしている」という記事が読売に出ました。> You TUBEには以下のような> > http://www.youtube.com/watch?v=zfyAh0ekqCU> 明らかに恣意的に編集された「キム・ヨナ選手妨害現場」の動画がアップされ、> 日本選手があたかも汚い妨害手段を使っているかのような> 印象を世界中に広めようとしています。> 抗議するべきではないんですか?> XXXXXXXXXXご覧のように、ごく簡単な切り口上の意見メール。Youtubeの悪質な映像もつけた。この動画は現在は削除されているが、「日本選手はスポーツマンシップにのっとった行動をせよ」などと字幕をつけて、キム選手に日本選手が接近して(ときにキム選手が、「キャー」といった顔をしている)いるように見える部分だけを切り取った、非常に手の込んだ作為的な映像だった(よくここまで悪質な動画作るよ、まったく)。「スポーツマンシップ」という言葉だが、朝鮮日報は、「日本スケート連盟は19日、公式ホームページに『フィギュアスケートに関する一部報道について』という文で、『日本選手はスポーツマンシップにのっとって競技を行っており、意図的に妨害行為をした事実はない』と述べた」と報じた。これを見ても日本スケート連盟に、「日本選手はスポーツマンシップがない」とデッチアゲの告発した悪質なビデオの存在を知らせたことは意味があったのではないかと思っている。また、日本スケート連盟に「なぜ抗議しないのか」「なぜ日本選手を守ろうとしないのか」という電話や抗議メールが殺到したという記事を読んで、心強い思いだった。ご存知のとおり、Mizumizu自身は、この問題に関してブログで抗議メール送付の呼びかけを行っていない。自分だけで抗議メールを送った。今こうやって明かすのは、信じられないことだが、そうやって呼びかけたりすると、「ネットで扇動してる人がいる」とか「ファンが過剰反応してキム選手を叩いたりすれば、日本選手の迷惑になる」などと、トンチンカンなことをネットで主張する輩が出てきて、そのたびに心を痛めてメールをくださる読者の方がいるからだ。「複雑な思い」というのは、連盟が当初この問題を「やりすごす」つもりだったという報道に落胆したこと。このような日本選手が大迷惑をこうむる問題は、日本スケート連盟が率先して抗議すべきなのだ。ところが、ファンからメールや電話が殺到したために重い腰を上げた、という感じだ。逆に、事なかれ主義の日本スケート連盟を動かした名もない多くのファンの努力には、本当に感動した。日本のファンが激怒したのは、過剰反応でもなんでもない。とんでもない言いがかりをつけられたら誰でも怒る、当たり前の話だ。キム選手が「日本選手」と名指ししたのかしないのかはハッキリしないが、そもそも「私の練習を他の選手が妨害した」などと選手が口に出して言うなど言語道断。これが日本選手なら、コーチから「リンクはみなで使うもの。お互いさまなのだから、そのようなことは口が裂けても言ってはいけない」と厳しく叱責されるだろう。伊藤みどりを育てた山田満知子コーチは、「選手というのは成績がよくなると、日ごろの態度に傲慢さが出てくる。それを強く戒めるようにした」と言っている。そう、日本選手はスポーツマンシップと謙虚さを厳しくしつけられるのだ。村主選手と安藤選手が接触したときも、どちらも「相手がぶつかってきた」などと言ってはいない。日常生活でも、ぶつかりそうなったとき、あるいはぶつかってしまったとき、人間はだいたい「相手のせい」だと思うものだ。だが、表面的には「すいません」と言ってやりすごす。どちらかが大怪我を負うような衝突でない限り、これは最低限のマナーだ。そして、そうしたマナーは、親なり教師なりが教える。ところがキム選手をコントロールすべきオーサーときたら、率先して「言ってはならないライバルに対する悪口」を自分で炸裂させている。安藤選手の判定に対する文句はすでに紹介したが、「浅田選手が世界選手権で3Aで転倒しながら優勝なんておかしい。点が高すぎる」なんてことも、今シーズンになってからカナダメディアに言っているのだ。これが世界選手権直後ならすぐ反論できる。3Aは跳ぶ前にコケたから、マイナス点になった。最後の3F+3Loのループもダウングレード判定で減点された。そこまで減点されても総合得点でトップになるくらい浅田選手は凄いのだ、と。ところが時間がたってしまうと、みなそういう細かい点は忘れてしまうから、「コケても優勝か。点を操作したのか?」という反応だって出てくるかもしれない。キム選手が世界選手権直前になって、四大陸で妨害された、などというのもコーチの発言に似た部分がある。これが妨害された(とキム選手が思い込んだ)直後ならわかる。ところが、日本スケート連盟によれば、キム陣営から抗議されたことはないというではないか。それを今になって邪魔されたなどと… 美川憲一の昔のCMに、「もっとはじっこ歩きなさいよ」というのがあったが、まさにそんな感じの傲慢きわまりない神経だ。「アタシが練習してるのよ。アタシの軌道に入ってくるなんて、ワザと? リンクではアタシが中心。アタシの邪魔にならないように、もっとはじっこで練習しなさいよ」。こんな発言を「やりすごして」しまっては、精神的負担を強いられるのは、またも日本の選手のほうだ。そういわれてしまっては、やはり気になる。相手は「今度は妨害されても(ジャンプを)跳ぶ」などと言っているようだし、下手に当たってこられても大変だ。そうなると自分の練習に集中できなくなるかもしれない。「何があっても集中しろ。できないのは自分の責任」――さんざん選手をコキ使い、金儲けのイベントに引っ張り出しているくせに、日本スケート連盟の態度ときたら、こんなふうだ。まさに、「なぜ自国の選手を守るべく、全力であらゆる手段を尽くさないのか」と言いたい。こうした根拠のない「口」撃は許さない、そうした態度を組織がキッパリ示すだけでも、選手個人の精神的負担は軽くなる。当初、韓国紙は次のように伝えたのだ。XXX中央日報、3/16の記事からXXXXX‘ライバル’の日本選手のけん制があまりにもひどかったからだ。キム・ヨナは14日、現地練習地のカナダ・トロントでSBSのインタビューに応じ、「国際スケート競技連盟(ISU)主催大会の公式練習で日本選手から集中的にけん制を受け、練習を妨害された」と明らかにした。キム・ヨナは「特に今回の4大陸大会では少しひどいという印象を受けた。そこまでしなければいけないのか思うことが多かった。しかしそれに負けたくないし、それに負ければ競技にも少し支障が出るかもしれないので、対処方法を考えている」と語った。キム・ヨナを指導するブライアン・オーサー・コーチは最近、ある日本選手がキム・ヨナのジャンプの進路ばかり徘徊している、と抗議したりもした。ISU主催大会の公式練習映像にはキム・ヨナの悩みがはっきりと表われている。舞台衣装を着て行う最終練習で、中野友加里・安藤美姫・浅田真央ら日本選手はキム・ヨナの演技中にかなり接近し、練習の流れを遮っている。何よりもヨム・ヨナが後方に滑走して後ろの状況が見えない時、日本の選手たちがキム・ヨナを見ながら前進している点が疑惑を増幅させている。XXXXX「ある日本選手がキム・ヨナのジャンプの進路ばかり徘徊している」なんて、被害妄想もいいところだ。日本からは3人も選手が出る。全員世界のトップ10に入る実力の持ち主。フィギュアは自分との戦いだから集中できなければいい演技ができない。当たり屋・ユベールのような3流選手じゃあるまいし、貴重な練習時間をキム選手の邪魔で浪費するようなヒマな選手など日本にはいない。もっといえば、日本は抗議はなかったと言っている。じゃ、オーサーは誰に抗議したのよ?そしてご丁寧に、作為的に編集された「証拠」動画をテレビで流すという暴挙。あの動画自体は、ちょっと詳しい人がみたら変だとわかるはずだ。だが、記事の内容や動画の不自然さを指摘する冷静なファンや専門家は韓国にはあまりいないようだ。韓国のファンは見事に扇動され、日本バッシングが巻き起こった。「まるでカミカゼ」「韓国スケート連盟はなぜ抗議しないのか」などと激怒する韓国ファン。この騒ぎで日本が黙っていたらどうなるか?日本選手はキム選手の練習を妨害している――このトンデモ話が、韓国で既成事実になってしまうのだ。今回日本のファンが騒ぎ、日本スケート連盟が正式に抗議(韓国では「報道について調査を依頼」となっている)したことで、韓国紙の報道もコロリと変わった。「キム・ヨナ選手はインタビューで特定の国名に言及していない」「キム・ヨナの発言が本人の意図の有無とは関係なく、韓日間の議論に巻き込まれた」(いずれも朝鮮日報 3/21付け記事)と火消しに躍起だ。一方的に言いがかりをつけ、悪質なビデオまで作り、日本への反感を煽っておいて、いざ抗議されたら、「韓日間の議論に巻き込まれた」などと、よく言えたものだ。議論もへったくれもない。言いがかりと悪質な証拠デッチアゲではないか。テレビ局の動画の作成にキム選手やオーサーがかかわっていたかどうかはわからないが、そもそもキム選手がフィギュアスケーターにあるまじき発言をするからこういうことになった。キム選手が日本と名指ししたかしなかったかなど、実のところたいした問題ではない。「妨害された」と言えば、暗に日本選手を指しているのは誰だって察するところだ。こうした基本的なマナー違反の発言はしてはいけない。してはいけないことをしたら、非難される。ときに自分の想像以上の事態を引き起こす。トップ選手は、特に自分の発言には気をつけなければいけないのだ。
2009.03.21
<きのうから続く>織田選手はしきりに「ステップを強化してきた」「4回転を決めたい」と口にする。どうしても彼は天才・高橋大輔に正面から勝ちたいのだ。織田選手は常にそれを意識している。母親がフィギュアスケート教師という恵まれた環境で育った優等生の織田選手と違い、高橋選手の親はもともと、息子にフィギュアスケートをやらせるつもりはなかった。ダイアモンドが輝くように、その卓越した才能によって見出された高橋大輔というスケーター誕生のエピソードは、映画「リトル・ダンサー」そこのけで、まぎれもない天才の物語だ。織田選手が4回転を回避して1度や2度結果を出しても、それは(怪我前の状態では)4回転をマスターし、かつ美しいスケーティングでもステップでも表現力でも高い評価をもらう高橋選手より上に行ったことにはならない。小塚選手のほうは、ジュニア時代からのライバル、チャン選手を意識している。小塚陣営は多分こう考えてる。「チャン選手もルッツ2つに、トリプルアクセル2つを跳んでくる。同じジャンプを決めただけでは、演技・構成点で勝てない。だからプラス4回転をどうしても決めたい」。結果、今季の小塚選手のフリーのジャンプ構成は、ジュベール以上に難しいものになった。ところが、この4回転を入れるプログラムでは、世界中の男子のトップ選手が軒並み全滅といっていいほどの不調に陥っている。個人個人にそれぞれ特有の理由があるにしろ、「シーズンが進んでもジャンプ構成は完成に近づかずに一進一退、そのうちに跳べていたはずのトリプルアクセルがダメになる」という、4回転を入れる男子のトップ選手に蔓延している現象の原因は、実のところよくわからない。わからないが恐らく、次の3つが大きく影響しているのではないかと思う。試合数やショーの増加による疲労。スピンの回転数やステップのターンなど、思わぬところでレベルを落とされるので、そちらに神経が行くこと。加えて、異様に厳しかったり、突然甘かったりするダウングレード判定のもたらす精神的負担。逆に4回転を入れないチャン選手は絶好調だった。実際には、「フリーで3Aを2つ入れられない選手がチャンピオン??」と疑問をもたないでもないが、一番ミスが少なかったのが彼だったのも事実。ジャンプ構成を落とせばミスが減るのは当然なのだが。ここに織田・小塚選手のジレンマが起こる。バンクーバーはカナダ、チャン選手に有利。演技・構成点では勝てないから、やはりジャンプで上に行きたい。チャン選手は、バンクーバーまでにはトリプルアクセル2回は必ず仕上げてくるだろう。同じことをやっては、チャン選手が失敗してくれないと負けるだけ。だから絶対に「プラス4回転」を決めなければ――そうなると、織田・小塚選手は、プレ五輪シーズン終盤の今になっても、まだ跳べてない4回転を完成させつつ、トリプルアクセルを2度決めなければいけなくなる。非常に険しい道を行かなければならないうえに、異常ともいえるダウングレード判定が待っている。今季の厳しい回転不足判定は、すさまじいプレッシャーになって難度の高いジャンプに挑戦する選手の肩にのしかかる。逆にチャン選手は非常にラクになる。ショートを完璧に滑れば、加点ももらえる。フリーでは3Aを2度決めるだけ。4回転はもともとまったくできないから、迷いはない。4回転を入れる他の選手は、五輪という異常な雰囲気の中で、恐らくどこかで必ず失敗する。失敗すると演技・構成点も下げる口実になる。ジャンプ構成の低いチャン選手は失敗の可能性が低い。そして、全体をきれいにまとめれば演技・構成点も出てくる。そもそもスケートの技術は、チャン選手は文句なく高いのだ。そして、トリノの荒川静香のような勝利が生まれる。あのときも、ジャンプでは荒川選手を凌ぐ力をもったスルツカヤ選手とコーエン選手が2人とも普段はやらないようなジャンプミスをして自滅した。トリノの荒川選手の金をアメリカの玄人筋は、ほとんどまったく評価しなかった。公式練習ではバンバン跳んでいた3+3を回避したうえに、3ループも2ループにしたからだ。「こんなレベルのジャンプしか跳ばない選手が金メダルか」とハッキリ批判した解説者もいた。コーエン選手の失敗がくやしかったということもあるとは思うが。一方で、「コーエン選手の銀はおかしい。あれだけ失敗したのだから。むしろきれいにまとめた村主選手がメダルを取るべきだった」と言った解説者もいたのがアメリカ。ここがアメリカのいいところだ。日本のように「いっせいに」誰かをバッシングしたりはしない。一時的にそうなったとしても、必ず別の意見を述べる人が発言の場を与えられる。アメリカのほうが多様性を許容するという意味では、メディアの懐はずっと深い。ともあれ、普段ならやらないようなミスをしてしまうのがオリンピックなのだ。オリンピックでは失敗しない選手が勝つ。だから、難度の高いジャンプをもった選手より、確実性の高い選手のほうが勝つことが多い。もちろん、難度の高いジャンプを確実に決めるトリノのプルシェンコ選手のような存在がいれば話は簡単だ。だが、プルシェンコ選手でさえ、その前のオリンピックではショートでミスが出た。17歳ですでに4回転をほぼ確実に決めていた選手でさえ、大舞台となるとそうなのだ。ましてや、織田・小塚選手は? あとは高橋選手の状態次第だが、5月から本格復帰して、どこまで以前の調子に戻せるのか、過剰な期待はかけれらないのが本当だろう。そうやって、パトリック・チャンに金メダルを獲らせるつもりなのだ。ジャンプの技術の低い選手を勝たせるための異常なダウングレード判定は、こうやって成就するというシナリオになっているということ。この汚い企みに、ジャンプの技術を高めることに心血を注いできたヨーロッパの男子トップ選手も反発しているはずだ。彼らは基本的に、失敗しても4回転を入れ続けている。ヨーロッパ選手権は、四大陸選手権より全体的にジャンプ構成の難度は高い。4T+3A2回を成功させている選手もいる。ジュベールは4回転と2つのトリプルアクセルを降りたが、4回転の着氷で乱れ、3A以外の3回転ジャンプが2回転になったり、着氷が大きく乱れたり、ロングエッジで減点されたりして、結局フリーの点が145.11点(技術71.51+74.6)と伸びなかった。ヨーロッパ選手権では、四大陸のチャン選手の演技・構成点の爆アゲのような、下品で露骨な得点操作はない。フリートップのポンセロ選手の点が技術点81.46+演技・構成点70.40で151.85点だった。ダウングレード判定も、明らかに点を操作するために使われている。今回の四大陸の男子フリーでは、それが如実に出た。ショートでチャン選手がブッチ切りの1位(88.9点だって… オイオイ!)になると、さすがにこりゃやりすぎたと思ったのか、フリーの最終グループで最初に滑った2位(81.65点)ライザチェックのあからさまな回転不足4回転が、なんとなんと認定されてしまったのだ。解説の本田武史が、思わず「エッジが後ろを向いていた」と本当のことを言い、どう考えてもダウングレードだと判断して、「3回転ジャンプになってしまう(実際には3Tの失敗と同じになってしまう、が正しい)」と説明してしまった。ところが、認定されてると知って、あわててCMの前に「4回転と認定されてます」と訂正。これまではスローにしなければわからないような、ライザチェックの3連続ジャンプの最初の3Aを非常に厳しくダウングレードしていたのに、今回は普通に見ていてもわかる4回転の回転不足を認定とは。最初に本田氏が言ったことは、全部正しかったのだ。着氷時にエッジが後ろを向いている、つまり2分の1回転不足に近いぐらいの明らかな回転不足着氷。あれで認定は「ありえません」。ところがムリクリ認定。GOEは加点と減点が入り混じり、基礎点9.8に対して加点の10.4点(呆)。最も大きい点になる4TがキチンとDG(つまり、3Tの失敗に)されてしまうと、4Tをやらない、したがってこの部分での失敗のないチャン選手との点差はもっと開き、見てる人間はさらに白ける。韓国のジャッジが漏らしたように、トップの2人を拮抗させるというのは、ありがちな演出だ。女子の場合、この拮抗させるべき「2者1組」は浅田選手とキム選手だが、男子は試合(つまりショートの出来)によって変わってくる。これまでの大会もそうだが、ショートで3位以下だと、フリーで演技・構成点が出てこないのも、この裏話と辻褄が合う(もちろんフリーでの失敗の数にもよるだろうが)。これで解説者はまた、本当のことを言えなくなってしまう。常に「回転不足に見えましたが、ジャッジはどう判断するでしょうか」。それだったら誰でも言えるぞ!(笑)小塚選手の転倒4Tも、ライザチェックの4T認定と辻褄を合わせるためか、またも認定。オイオイ! ウィアー選手は両足(気味)着氷で立ってもダウングレード判定ばかりされてきたのだ。両足(気味)着氷になってコケた小塚選手の4Tがなんで認定されてるわけよ。「足りてないからコケた」んですよ。あ、4分の1回転以下ね、それはそうかもしれません。ライザチェックよりは回っていたかも。だったら、これまでのウィアー選手は? 両足(気味)着氷で立ってたウィアー選手が、両足(気味)着氷でコケた小塚選手より回ってないって? 「ありません」そのくせ、小塚選手の両足(気味)着氷トリプルアクセルは、コケてもないのに、「回りきって転倒」より悪いダウングレード判定。後半だから決めれば10点前後の点が期待できる後半のトリプルアクセルで、もらった点が1.89点。そりゃそうなる。だって、トリプルアクセルのダウングレード判定は、ダブルアクセルの失敗と同じになるのだから。でもって、トップ選手全員がすべり終わり、最終滑走になった織田選手の4回転は、もはや救う意味がないのか、やや不足のまま着氷して吹っ飛び、コケてしまったように見えたら、ちゃ~んと回転不足判定。試合をやればやるほど、ボロが出てくる「ダウングレード判定の厳密化」。今回はヨーロッパの審判が入ってこないので、偏った(というより、もはややり方が稚拙な)判定の酷さが際立った。もっとも格式の高い世界選手権では、さらにいろいろな国の思惑が入り混じるので、逆にここまでのことはないだろう(と期待している)。今回の男子フリーの採点は、本当に呆れ果てて物も言う気にならないほど白けました。とはいえ、国際スケート連盟にはメールで抗議しました。キム選手のフリーの3F+3Tの3T、ライザチェック選手と小塚選手の4T。これは4分の1回転以上不足のDG判定が適当のはず。勝負に大きく影響するDGは、審査を公平に。一般のファンは最近の「奇妙な」判定をちゃんと監視していることをお忘れなく。チャン選手は素晴らしい選手だが、Program Components(演技・構成点)のスコアは高すぎる。今回の演技が、昨季の世界選手権でカナダの偉大なスケーター、バトル選手の出した78.78点のフリーの演技を上回ったなどありえないし(←まあ、実際は完全な絶対評価ではないので、これはあまり根拠にはなりませんが、「史上最高点」といって記録扱いしてる以上は、こういう論旨展開も必ずしも完全に無理なものというわけではないでしょう)、これまでの国際大会のフリーで2つの3Aのうちの1回を必ず失敗してきた、ジャンプにウィークポイントのあるチャン選手を優勝させるために、Program Componentsをコントロールしているように見えた、と。フィギュア・ネタは本日で終わりです。では、みなさん、世界選手権での日本選手のよい演技に期待しましょう。織田・小塚選手は、3枠確保できなければ、自分がオリンピックに行けなくなる可能性があるわけで、「自分で自分のオリンピック枠を取りに行く」という位置づけになる大会です。
2009.02.13
<きのうから続く>このルール違反はもちろん減点になる。3Aの基礎点が2割引かれてしまうのだ。ところが、ここからが現行の変なルール。たとえば、ルールどおりに2度目の3Aを連続ジャンプにするとする。織田選手の場合、3Aはやや苦手。しかも後半。さらに一度失敗してあせっている。その状態で無理に3Tをつけて連続にしても、回転不足を取られてしまうと、「単独ジャンプ以下の点」になってしまうのだ。この変なルールを逆手に取ってルール違反し、後半の3Aも単独に留めてきれいに着氷させれば、加点がつく。木を見て山をみない今のルールはジャンプだけをみて加点・減点をするので、単独のほうが簡単な分、当然加点がつきやすいのだ。NHK杯では織田選手は2度目の単独アクセルをきれいに決めて、加点をもらった。得点は8.22点。きれいに跳んだ単独3Aの10点超には当然かなわないが、まずまずの点だ。そして最初に失った3Tの点は次の3Sにつけることでカバーした。連続ジャンプの点は結局単純な足し算だから、3Aにつけようと3Sにつけようと同じこと。無理に3Tを後半の3Aにつければ、10%増しの基礎点にはなるが、失敗の可能性が非常に高くなる。ダウングレード判定になれば、連続ジャンプにしないほうがマシという点になってしまうのだ。この作戦はうまく行き、織田選手はまったくダウングレードがなく、失敗が目立ったにもかかわらず、点は大きく下がらなかった。織田選手は、点がいいと、「ジャッジの方が思ったより評価してくれて」と思いっきり「いい子」の顔で答えているが、実際には、ここまで「現行の採点システムとジャンプの個人的な得手・不得手を考慮した減点の防ぎ方」を工夫しているのだ。もちろん、織田選手の後ろにいるのはニコライ・モロゾフ。そこまでして、モロゾフは織田選手のフリーの3Aを2度何としても決めるつもりで来ている。ルッツが2つ入る小塚選手よりジャンプの基礎点が低い分、失敗は許されないのだ。ところが今回は、小塚選手が4Tで認定をもらい、織田選手はダウングレード転倒になってしまった。さらに、絶対に決めたかった2度目の3Aでも大きく乱れ、9.02の基礎点に対して、GOEで減点されて6.22点。きれいに決めれば加点がついて、10点近くになるのが後半に跳ぶ3A。だから、ここで織田選手は実際には4点近く失った。4Tもダウングレード転倒だと0点になってしまう(ジャンプそのもの点が1点、最後に1点の減点)。認定さえされれば、たとえ転倒しても、4点。合計で8点。つまり、4回転をたとえ転倒してもなんとか回りきり、しかも2つのトリプルアセセルを2つ決めるという織田選手の目標からいえば、8点近く低い点なのだ。加えて、演技・構成点は露骨に下げられ、小塚選手とピッタリ同じ70.60点。トータルで146.22点。ジャンプがもう少しよければ、演技・構成点もつられて多少上がったかもしれないが、それを考えなくても、ジャンプの現実的な想定点(4回転は認定転倒、3Aは2つ成功で8点アップ)を加えれば、153.22点という点が出たはずで、このあたりが、「最低の目標」だったハズだ。だが、結果は、勝負ジャンプの2度目のアクセルを着氷乱れで失敗してしまった。フリー前の予想で、Mizumizuはこの展開を「悪いシナリオ」だと思っていたが、それが現実になってしまった。リンクの幅が狭いこともあって、織田選手は直前の練習で3Aの調子を崩したようだ。せっかく「あとは4回転を決めるだけ」のところまで仕上げてきたつもりが、ここ一番の大きな試合で、もっとも悪い結果になる。実はこのパターンは小塚選手も同じなのだ。小塚選手は2戦目のフランス大会で、4回転以外のジャンプはすべて決めた。「あとは4回転を決めるだけ」のところまで、早い段階でもってきていたのだ。ところが、プレッシャーのかかるファイナルで大崩れ。あのとき、せめて4回転回避策さえ取っていればと何度も書いたが、小塚陣営の描く青写真は、「同じことを繰り返し、徐々に欠点を克服して完成させる」というパターンだ。これはこれで、基本的には悪くない考えのハズなのだ。ずっと同じ構成で行き、失敗したら、次はその部分を課題として克服するよう努める。すると徐々に選手も慣れて、技術も向上し、最後にはすべてできるようになる。小塚選手と同じコーチの中野選手も基本的にこの方法だ。シーズン初めには3Aをはずして、他のジャンプはかなりまとめ、ほとんど「あとは3Aを決めるだけ」のところまで仕上げて、ファイナルへ。ところが、結果は大崩れ。次の全日本ではショートは完璧の出来。フリーでは3Aをはずしてまとめる作戦に出たのに、結果はこれまで不安があった部分が全部失敗として裏目に出て、代表落ち。最後の3連続ジャンプはシーズン当初は何も問題なくピョンピョンときれいに決めていたのに、シーズン後半にきたら、着氷が徹底的に乱れた。この悪いパターンはアメリカのウィアー選手もそうなのだ。全米では4回転ははずしたのに、もはや調子は戻らず、肝心のトリプルアクセルも決まらなくなった。ファイナルまでは台にのぼってきた選手が国内大会で台落ち、代表落ち。今季特にこの現象が顕著に見られる。そして、調子が上がったところでジャンプ構成の難度を上げると返って点を下げてしまうのは、キム・ヨナ選手が証明した。ヨーロッパではベルネル選手が難度の高いジャンプ構成にして、やはり自爆を繰り返している。彼もまた4回転がなかなか決まらないうえに、元来は跳べていたトリプルアクセルが乱れてしまった。欠場するほどではないが、怪我を抱えているというような個人的な事情はあるにしろ、パターンとしては全部同じ。調子を落としてくると、もともと跳べていたジャンプがダメになり、調子を上げてジャンプ構成の難度を上げると、今度は点が落ちる。織田選手は小塚選手のファイナルと同じようなパターンになっている。「もうあとは4回転を決めるだけ」のところに来たのに、ここ一番で逆戻り。本人がものすご~く暗い顔になるのは当然だろう。ベルネル選手やウィアー選手に起こったことが、小塚選手・織田選手に起こりつつあるのが非常に気になるのだ。ウィアー選手も解説の本田武史をして、「彼はショートを失敗しない選手」と言わしめていたのが、徐々にショートでの細かい失敗が増え、全米ではとうとう大失敗をして、代表落ちをしてしまった。このときの最大の大失敗が、決めなくてはいけない3Aのすっぽ抜けだったのだ。小塚選手・織田選手も今回、ショートが乱れた。まだ細かな乱れだが、次の大きな試合が世界選手権で、約1ヶ月ほどしか時間がないのが気になる。そして両者とも3Aが不調になってきている。「4回転+2度目のトリプルアクセル失敗」という2つの失敗のパターンにはまった2選手が約1ヶ月でやってくる本当の大一番までに、両方の課題を見事に克服できるかと言うと――確率から言えば、大変に低いと言わざるをえない。だから、確実に点を上げるためには、やはり4回転はやめて、2つの3Aを確実に決めるという方向にシフトすることなのだが、恐らくもう2人ともその手法は見えていない。というのは、今回チャン選手が演技・構成点で爆アゲされ、10点近く差をつけられたからだ。これを見て、日本の2選手は、「やはり4回転を跳ばないと勝てない」とますます思い込む。実は逆で跳べない4回転に挑戦して3Aを失敗してるから、演技・構成点を下げられているのではないかとも思うのだが。それにまあ、今回のこの演技・構成点の差はちょっと「操作しすぎ」だ。それは2選手の陣営ともわかっているとは思うが。80.1点なんて国内大会みたいな演技・構成点が出てしまったのは、明らかに失敗。返って四大陸選手権の権威を落としてしまう。同じカナダのバトル選手が長年の集大成ともいえる、ミスのない素晴らしい演技で優勝した昨季の世界選手権だって、演技・構成点は78.78点だった。18歳かそこらで、偉大な先輩スケーターの選手生活での最高の演技を凌ぐ点を与えてはいけない、いくら試合の「格」が違うといっても。今季のチャン選手と小塚選手の演技・構成点の変遷を見ても、フランス大会で、チャン76.9点、小塚72.10点と5点ぐらい。ショートでチャン不調・小塚好調のファイナル・フリーでは、チャン73.2、小塚73.3と拮抗している。その前のカナダ大会ではチャン77.4点、ライザチェク70.7点(アメリカ大会で76.3点だったライザチェクが、カナダに来てショート4位と出遅れたら、いきなりフリーの演技・構成点が70.7点にサゲられて、余りの露骨さにアメリカファンの怒りを買った。70.7点というのは、今回の織田・小塚選手の70.6点とほぼ同じ。ホント、カナダでの大会は露骨すぎる。ちなみにショート2位で折り返した今回のライザチェックのフリーの演技・構成点は74.7点で、80.1点のチャンとは5.4点の違い)。どうもショートで3位以下の選手は、フリーの演技・構成点は全般的に下げられる傾向にあるようだ。もちろん、ミスの数にもよるだろうが。演技・構成点で10点差は露骨すぎるとしても、元来、織田・小塚選手はチャン選手には芸術性ではかなわないのだ。その理由は、テクニック的なことを細かく言えばいろいろ挙げられるのだが、ありていな言い方をすれば、「セックス・アピール」があるかないか。色気のある選手と清潔感のある選手が演技をした場合、たいていフィギュアでは前者を芸術性が高いとみなす。フィギュアスケートという競技が好む「芸術性」をチャン選手は18歳という若さですでに備えている。これは努力してどうなるものでもない。織田・小塚選手には欠点がない。チャン選手はジャンプが弱いという欠点がある。だから、試合によって成績にムラがある。平均的にミスを少なく抑えることのできる織田・小塚選手と違って、チャン選手はジャンプが崩れるとバタバタッと連続してダメになる。だが、上半身の動きと見事に連動させた色気のある高難度のステップを踏めるという突出した才能がある。そして、スピンにも取りこぼしがなく、オール・レベル4を並べることができる。加えて優雅な表現力と雰囲気。織田選手の今季の振付もローリー・ニコルだが、同じ傾向の振付をチャン選手がやった場合、織田選手はチャン選手ほどの高い芸術面での評価を得ることは出来ない。今季はテイストがダブってしまった。ニコライ・モロゾフの振付はニコルより「やや重」なので、シーズン初めは、織田選手の個性とは違うような気もしたが、チャン選手を意識するとなると、身体の大きさからくるスケール感や身のこなしの華麗さ、指先までしなやかに動く繊細な表現力で負けてしまう以上、チャン選手の個性と「張り合わない」振付をモロゾフに考えてもらうしかないかもしれない。織田選手は高橋選手について、「ぼくが持っていないものをすべて持っている選手」と評価している。それは的確な表現だ。4回転の確実性やステップのテクニックなどの技術的な面で織田選手を凌駕しているということあるが、なんといっても高橋選手は、セックス・アピールのある選手なのだ。これは投げ込まれる花束の数が証明する。高橋選手は実は、身体のプロポーションでは必ずしも、日本人の中でも恵まれているとはいえない。本田・高橋・織田・小塚と世界トップの才能をもつ日本男子の中では、一番見劣りするかもしれない。だが、滑り出せば、それをおぎなって余りある「魅せる色気」が彼にはあるのだ。こうした艶っぽい個性は、嫌う人にはひどく嫌われるが、好む人のほうが多い。これも練習で身につくものではなく、持って生まれたものだ。「バロック」な高橋選手の個性は、これでもかというぐらい過剰にスパンコールをつけたり、細かな縁飾りをあしらったりした衣装で引き立つ。こういう衣装が似合う選手は、あまりいないのだ。他方、織田選手はヨーロッパ的な正統派で上品な衣装、小塚選手はユニクロで買ったみたいな(笑)さっぱりした衣装を着ているが、3人3様の個性をもった日本選手の衣装はこの路線で皆成功しているのだ。<続く>
2009.02.12
御礼:「国別対抗戦反対」への署名、たくさんの方にご賛同・ご参加いただき、誠にありがとうございました。発起人のsindoriさんよりご連絡があり、1.258人分の署名を本日、日本スケート連盟、IMG、OLYMPUS、新聞各社あてに郵送されたそうです。また、先に締め切られました「フィギュアスケートのおかしな採点をなんとかしたい」は、最終的に1,797名分の署名が集まり、2月2日にすでにテレ朝、JOC、新聞各社等に郵送ずみだそうです。こちらもご賛同・ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。sindoriさんによりますと、「おかしな採点~」の報告の件は、『成果報告』には1度しか投稿できないことを知らずに、目標署名数の1,000件を突破した時点で「引き続き募集」と投稿してしまったため、署名を締め切り、郵送した旨を報告できなかったそうです。すでに郵送ずみですので、署名してくださった皆さん、どうぞご安心を。sindoriさん、おつかれさまでした。今回はお忙しい中、ファンの声を各方面に伝える機会を作っていただき、ありがとうございました。また、別のアイディアとして、「フィギュアスケートのおかしな採点をなんとかしたい」の主旨文を英訳して、チェーンメール形式で国際スケート連盟に送る件についても、本当にたくさんの真摯なご意見をいただき、感謝しております。「是非、抗議の意思を伝える意味でもやってほしい」という賛成意見も多かったのですが、反対意見も半々ぐらい。といっても、「ルール/ジャッジの判断は公平」だと思って反対している人は1人もいませんでした。そうではなくて、これだけフィギュア人気の高い日本国内ですら、この複雑なルールに隠されたカラクリを理解するのが難しいのに、チェーンメールで抗議したり、ルール改正を求めたりすれば、「一部の日本のファンが、自国の女子選手に優位になるように、ルールを変えるよう国際スケート連盟に圧力をかけている」などと、悪意で歪められて報道されないとも限りません。ただでさえ、自国の選手のことを信じられないぐらい貶めて報道する日本の巨大メディアです。どんな悪意をもって偏向報道されるか、まったく信用できませんし、それがまた海外メディアに曲解されて伝わっては、日本選手が窮地に陥ってしまいます。フィギュアスケートの世界では、「ジャッジに歯向かったら、採点で報復」というのも、決して珍しいことではないのです。「点を出してもらえない」と暗黙のうちに知らされると、選手は精神的に動揺し、失敗が増え、ますます結果が出ないという悪循環に陥ります。私たちファンの目的は、選手がベストな演技ができるよう常に応援してあげることです。そうしたわけで、チェーンメールでの「活動」はしませんが、個人的に公平でないと思ったジャッジングに抗議するのは、違法でも妨害行為でも何でもありません。たとえ、間違った英語でも、簡単な英語でも、自分の意思を伝える行動を取るのを、ためらう必要はありません。ただ、「日本選手びいきで感情的に言っている」というふうに取られないよう表現には注意してください。XXXXX四大陸選手権の男子。個人的にはアボット選手と織田選手に注目していたのだが、フタをあけてみれば、アボット選手は疲労の色が濃く、あまり参考にはならなかった。かわって、ライザチェック選手のほうが調子を上げてきている感があった。この2選手の明暗は、本来の実力どおりといえば、それまでだが、実はこれまでの「試合数」が影響しているのではないか。ファイナルのなかったライザチェク選手は、アボット選手より1試合少ないことになる。ファイナルまで戦って、直前にはショーまでこなしたウィアー選手が全米で不調に陥り、ジャンプを決められなかったのと同じような現象がアボット選手にも起こった。これまでミスのない鉄壁のショートで優位に立ち、4回転を捨ててジャンプをできるかぎりまとめて勝ってきたアボット選手がショートでジャンプミス。勝利の方程式が崩れてしまった。チャン選手のブッチ切りのショートの点を見ると、もはや他の選手は、チャン選手にはない4回転をやるしかない。放送でも言っていたが、公式練習ではアボット選手の4回転が一番決まっていたという。そう、アボット選手は実は、4回転を跳べない選手ではないのだ。昨季の世界選手権(ライザチェック棄権により出場)では、4回転はきれいに決めて加点ももらった。ところが、そのあとのジャンプがボロボロ。年齢的にも若くなく、2年連続全米4位ともはや崖っぷち。それで、今年は4回転を捨ててジャンプ構成を落としたら、あ~ら、不思議。ファイナルでも全米でも勝ってしまった。今回は今季初めてフリーに4回転を入れた。だが、もともと体調が悪いせいか、久々で試合に入れたせいか、2回転にすっぽ抜けた。「4回転を入れると乱れやすい」トリプルアクセルは3A+3Tも含めてなんとか降りたが、その次に難しいルッツでダウングレード転倒。演技・構成点は73点と、今季のアボット選手にしては抑えられ気味。メダルを狙って4回転にチャレンジしたら、返って点を落とすという、「むずかしいことをしたら落とされる」今季の傾向そのままに終わった。いつものように、4回転を捨てて、ほかのジャンプでの減点を避けたほうが、やはりアボット選手も強い。といっても、今回はチャン選手との点差がありすぎたので、4回点回避策では、どちらにしろ優勝はなかった。織田選手も鉄壁のショートでミスが出てしまった。小塚選手もそうだが、どうも四大陸での日本の2選手は、年明け前の「ピタッ」と気持ちいいほどクリーンに決まる着氷がない。織田選手のフリーは、演技後の彼のとんでもなく落ち込んだ表情を見ればわかると思うが、ほぼ「最悪」と言っていいものだった。つまり、織田選手は全日本までは、わりと順調に仕上げてきていたのだ。トリプルアクセルを2度決めて、あとは「4回転を決めるだけ」のところまでもってきていた。今回こそ、と思って織田選手が意気込んでいたのは、試合前のインタビューを見てもわかる。そして、もう1つ。たとえ4回転を失敗しても、2つ入れるトリプルアクセルだけは、絶対に2つとも決めたい。いや、決めなければいけない。これが織田選手の至上命題だ。4回転をできれば決めたい、それが無理でも、トリプルアクセル(特に後半)は絶対に失敗したくない――織田選手のジャンプ構成は、その意思がはっきりわかるものだ。フリーの振付はモロゾフではないが、ジャンプ構成はモロにモロゾフ方程式に基づいたもの。つまり「後半の前半」にジャンプをかためて点数稼ぎをするのだ。後半はジャンプの基礎点が10%増しになるからだ。そして、その筆頭にもってきたのがトリプルアクセル。つまり、後半に入った直後、一番体力のある時間に2度目のトリプルアクセルを跳んでしまう。要素の順番で言えば6番目。ここに2度目のトリプルアクセルをもってくるのは、実は3A2つをどうしてもフリーで決められないチャンも同じ。ちなみに小塚選手の2度目のトリプルアクセルは要素から言うと、なんとなんと11番目。振付上仕方がないことで、振付師はこの3Aを決めるために、直前に「お休み」を入れるなど工夫をしている。だが、やはり小塚選手の3Aも決まらない。今季これが決まったのがフランス大会1度だけ。四大陸でも「お約束の失敗」に終わった。4回転を入れているというのもあるが、この2度目のトリプルアクセルの位置(つまり、曲の終わりも終わり、要素としても最後から2番目)が小塚選手の失敗の原因にもなっているように思う。チャン選手や織田選手に比べて、疲れきったところで2度目のアクセルを跳ばなければいけないのだ。だから、全然決まらない。何度繰り返しても。一方の織田選手は、トリプルアクセルを決めるために、もう1つ隠れた工夫をしているのだ。それは、ルッツの数。小塚選手はルッツが2つ入っている。織田選手のほうはセカンドの3トゥループを2つにして、ルッツは1つにおさえている。織田選手はルッツが苦手なのか?それが違うのだ。織田選手はルッツは得意。なんなら4回転ルッツを跳ぼうかというぐらい。どちらかといえば、苦手なのはトリプルアクセル。今回のショートは3ルッツが乱れてセカンドを2Tにしかできなかったが、あれは本当に織田選手にとっては珍しいのだ(だから、ショックも大きかったはずだ)。飛距離の出る織田選手のルッツは軸が傾くこともあるが、膝の柔らかさでそれを吸収して着氷にもってくることができるのだ。もう一度、ジャンプの難度を見てみよう。アクセル→ルッツ→フリップ→ループ→サルコウ→トゥループ当然難しいジャンプを複数入れたほうが基礎点は高くなる。そしてフリーで2度入れられる3回転ジャンプは2つ。だから、3Aを2つに3ルッツを2つ、プラス4回転を入れている小塚選手のジャンプ構成のほうが、実は織田選手より難しいのだ。織田選手はトリプルアクセル2つに、セカンドの3トゥループを2つ、プラス4回転だ。だんだんモロゾフの意図がわかってきましたか?得意のルッツをはずしているのは、そうやってジャンプの難度を下げても、できれば4回転、それが無理でも2つの3Aを「絶対に」決めるためだ。逆に「4回転回避策」もモロゾフは明らかに考えている。小塚選手の場合は、4回転をはずしたら、その部分に3回転トゥループを入れるしか(ほぼ)ない。トリプルアクセルより1つ上の4回転トゥループを回避すると、3回転としては一番簡単な3トゥループに単純に落とすだけ。これは同じコーチの中野選手が最初に3Aを入れ、やらないときは2Aにするのと同じ。でも、これだと基礎点がぐっと下がってしまう。4回転は認定さえされれば、コケても4点にはなる。3回転トゥループの基礎点と同じだ。だから、小塚選手はどうしてもここに4回転を入れたい。一方の織田選手。ルッツを1つにしているということは、4回転を回避した場合、ここに3ルッツを入れればいいのだ。そして、後半のルッツを連続にするか、あるいは最初のルッツを連続にする。そのかわりセカンドに2つ跳ぶ3Tのうちの1つを2Tにする。このジャンプ構成の変更は織田選手にとっても負担ではないし、わかりやすいはずだ。3ルッツからの連続ジャンプはショートで慣れているし、3Tのうちの1つを2Tにしてルッツ2つにすれば、基礎点も4回転を入れた場合とそれほど(でもないが、少なくとも単純に4Tを3Tにした場合より)下がらなくてすむ。4回転を回避した場合、4回転から一番簡単な3回転にしなければいけない小塚選手と違い、アクセルに次ぐ難度のルッツに入れ替えることができるのが、モロゾフのジャンプ構成なのだ。実際モロゾフは、「織田は4回転にややこだわりすぎている」と言っている。回避策で行くことも考えていたはずだが、織田選手の仕上がりは案外好調で、「あとは4回転だけを決めればいい」ところまで全日本でもってきていた。もう1つ、織田選手が見せた「不思議なリカバリー」がある。3Aを2度入れる場合、どちらかを連続にしなければいけない。織田選手の場合は、前半の3Aに3Tをつける。だが、NHK杯では、3Aを連続にできなかった。すると、ふつうはこう考える。「大変だ! 失敗しちゃった。次の3Aを必ず連続にしないと」実際、伊藤みどりは解説で、連続ジャンプ予定がシングルになると、「あ~、2つのうち1つは必ず連続にしないといけないですから」と切羽詰った声(苦笑)で言っている。彼女は、ああ言いながら、現役時代に戻り、自分も一緒に跳んでいるのではないかと思う。伊藤みどりの解説はジャンプを跳ぶ側の心情の説明が非常に多い。一般人にはわかりにくいと思うが、Mizumizuには彼女が言っていることは、とてもよくわかる。で、予定されていた最初の3Aを連続にできなかったNHK杯での織田選手は、なぜかその直後の単独の3Sに3Tをつけた。そして、元来連続にしなければならない2度目の3Aを単独に留めたのだ。これは、明らかに意図的にルール違反をしている。<続く>
2009.02.11
<おとといのエントリーから続く>キム選手が中国大会で1度ロングエッジを取られたとき、韓国のジャッジ資格をもつ人物が、「今回は調子が悪くて曖昧なエッジを使ったようだ」と発言した。その後韓国メディアでは「理解できないロングエッジ判定」「誤審」などという論評が幅をきかせていくが、この「調子が悪いと曖昧なエッジに」というのは1つのヒントになる。つまりキム選手の3F+3Tの3Tは、わりあいちょくちょく回転不足になる。なぜか認定されているのだが、ネットなどで「あれは回転が足りていない」と言われているのを、恐らく本人は知っている。初戦のアメリカ大会ではショートもフリーも回転不足だったのを認定してもらって加点までもらっている。だから、回転不足にならずに完璧に降りたい。キム選手は安藤選手と同じくアウトエッジ踏み切りのほうが得意だ。セカンドが回転不足になるのを避けようとすると、エッジが元来跳びやすいアウトに入ってしまいがちになるのかもしれない。逆にファーストの3Fのエッジに気をつけるとセカンドへの勢いが足りなくなり回転不足になりやすいのではないかと思う。今回の四大陸、ショートでは3F+3Tを回りきっていたが、フリーでは3Tが回転不足だった(認定されてはいるが)。それも、ショートで「!」を取られたので、フリーでエッジに気をつけたら多少勢いがなくなり、セカンドがやや回転不足になってしまったと考えると辻褄が合う。だが、フリーでもやはり「!」はついてしまった。ちょうど、村主選手が、モロにエッジ違反をした全日本のフリーでは後半のルッツも決めることができたのに、エッジに注意した今回の四大陸のフリー後半でルッツの勢いがやや足らずに着氷で乱れたのも同じことだ。村主選手は、ショートの「E」判定を見て、あの跳び方が通用しないことに気づいたはずだ。フリーでも「E」がついてしまうと、2回のルッツで3点ぐらい減点になり、基礎点の高いルッツを跳ぶアドバンテージがなくなってしまう。村主選手も一応矯正はできている。全日本以前の国際大会では正しいエッジで跳んでいる。跳んではいるが、跳びきることができずにいただけだ。今回もちゃんと気をつけてフリーにのぞんだ。だが、そうするとやはり2つ入るルッツを両方きれいに着氷させることができないのだ。これは全日本以前の国際大会でもルッツもしくはフリップに出ていた現象で、実のところこれが村主選手の実力なのだ。ついでに言ってしまうと、フリーの単独フリップも回転ギリギリだった。ルッツに気をつけるとフリップも乱れるという定石どおり。村主選手もむしろ、サルコウを入れるのをやめて、ジャンプ構成を下げ、ダブルアクセル3つで点数稼ぎをしたほうが強いのではないか。とにかく、ミス(つまり減点)を減らすことだけ考えるのだ。そうすると演技・構成点が心配なのだが、結局、ここまで「真っ黒」な採点手法では、まともな評価は望めない。「ルールがおかしいのであって、ジャッジは基準にそって点を出している」とある段階まではジャッジの肩をもってきたMizumizuだが、今回の四大陸のハチャメチャな認定と演技・構成点の操作を見ると、もはやジャッジをかばいようもない。プレ五輪の今シーズンになって、採点はどうにもならないぐらい異常になってきた。男子フリーでは、4回転など問題外でトリプルアクセル2つも入れられないチャン選手の演技・構成点が80点超えなどと、あり得ない爆アゲをやっている。いや、元来ジャンプと演技・構成点は連動していないというタテマエなのだが、去年までは明らかに連動していたのだ。誰もが認める不世出の名プログラムで勝負したランビエール選手の演技・構成点が、ジャンプが決まらないと、75点ぐらいに下がってしまったのを見れば明らかだ。それにチャン選手はジャンプが不調だったグランプリ・ファイナルのフリーの演技・構成点は73.3点だった。それが、ホップステップ… なしでジャ~ンプしてしまい、いきなり80点の壁を突破。まるで国内大会みたい(苦笑)。ジャンプ構成を下げてジャンプミスを少なくし、振付に気をつかって丁寧に滑ったほうが、逆に点が出るかもしれない。とりあえず、点を「サゲ」る理由を与えないことが肝要かもしれないということだ。全日本での村主選手への大甘ジャッジには怒りを感じたが、今回の村主選手への評価は思った以上に厳しく、逆の意味で落胆した。演技・構成点が54.64点と55点以上にならなかった。演技・構成点が課題といわれるジャン選手の53.04点と大差がない。浅田選手以外の日本選手は演技・構成点でもっている実力以上に「サゲ」られる傾向がある。中野選手も安藤選手も同じだ。村主選手はフリップでの加点もあまりもらえなかった。エッジに問題のない村主選手のフリップは高さもあり、とてもいいと思う。ショートのフリップは当然加点がつくと思ったが、逆にマイナス1にしてきたジャッジが2人もいた(浅田選手に対しても、こういうことをする2人のジャッジがつきまとっていたのだが、なぜか今回は謎のサゲ・ストーカー・ジャッジ2人は姿を消し、逆に示し合わせたかのようにww、浅田選手へのあからさまなGOEでのサゲがなかった)。フリーではなんとか0.8プラスにはなったが、もう少しついてもいいジャンプではないか。ロシェット選手に対するジャンプの加点の気前のよさを見ると、やはり「日本選手には厳しい」と感じる。村主選手は、ルッツはフリーでもエッジ違反と着氷乱れの減点をされたので、これでは点がのびるところがない。ただ、スピンはオールレベル4でキム選手や浅田選手の評価を上回っている。トリノ当時の村主選手はスピンでのレベルが取れなかった。努力で底上げしてきたが、全盛期のようなジャンプは、もう決まらない。全日本では決まってないフリップを決まったことしてもらって点が出たが、国際大会では、決めたジャンプにさえあまり加点がつかない。鈴木選手も期待したほどの点が出なかった。理由は明らか。フリップのエッジに気をつけたのだ。そうしたら、得意のルッツのほうのエッジが曖昧になり、かつ乱れてしまった。フリーでは、苦手のフリップに「E」はないが、ルッツ2つに「!」がついてしまった。ルッツを2つ回りきることができるのが鈴木選手の最大の武器だったのに、これではアドバンテージを生かせない。むしろ1つしかないフリップは「E」のままでもよかったのだが、マジメにフリップのエッジ矯正に取り組んだのだろう。これまでいつも乱れて、課題だったフリップでは違反がなく、加点ももらって着氷を決めたのに、元来得意のルッツで2つ「!」を取られ、2つとも減点されてしまって点が伸びなかった。ルッツの「!」判定は予想外だったと思う。このようにルッツとフリップはペアで乱れる。どちらかを直すと元来問題なかったほうにも影響が出てしまうのだ。中野選手もこのパターン。思わぬところで「!」判定が出て、減点されている。ジャン選手もそう。フリップにアテンションをつけられ、次注意したかと思えば、今度はルッツ。例外はルッツを矯正してもフリップがまったく乱れていない浅田選手だけだ(乱れないのにはワケがあると思う。これについてはまた別の機会に)。こうなると、やはり安藤選手のフリップも気をつけないと「!」マークがつく可能性がある。安藤選手はフリップを矯正してから、エッジ違反こそないものの、ジャンプの高さがなくなり、回転不足判定を取られたり、着氷乱れでGOEで減点されたりする。回転不足判定になると、3フリップを降りても2フリップの失敗と同じことになってしまうので、それならば違反を承知でロングエッジで跳び、着氷をピタリと決めて、エッジ違反のGOE減点だけに留めたほうがよくなってしまうのだ。鈴木選手は、回転不足を取られやすい2A+3Tジャンプは回避策。これ自体はいい判断だったと思うのだが、点になりやすいダブルアクセル2つのシーケンスを入れて、これがうまくタイミングが合わなかった。直前にあれこれジャンプ構成をいじると、普通に考えればできることもうまく行かなくなってしまうということだろう。全日本で見逃してもらった回転不足の3ループは不安があったためか、1ループになってしまった(これは浅田選手やキム選手と同じパターンだ)。このように、さまざまな減点ポイントに対処しようとした結果、別の問題が起こってしまったということだ。全日本から四大陸まで時間がなかった。この結果はある程度仕方がない。これまでの鈴木選手もダウングレード判定に苦しめられた。今回はダウングレードこそなかったが、別の問題が生じて結局あまり点が伸びなかった。鈴木選手の大人の表現力は素晴らしいものがあると思うが、これもまったく評価されず、フリーの演技・構成点は51.2点。これまでの実績がないと、やはり演技・構成点は出にくいし、今回の浅田選手以外の日本選手に対する演技・構成点「サゲ」は露骨すぎる。特に男子のフリーの演技・構成点は、絵に描いたような「操作点」だった。あそこまできれいにトップから5点ずつサゲては、返って、「得点操作は、やはり明らかに行われている」ということを印象づけてしまう、むしろ下手くそなやり方だ。韓国のジャッジがインタビューでバラしていたが、こういう意識合わせはどの試合でもあるのだ。ただ、今回はあまりに「真っ黒」すぎて、ますますファンを白けさせただろう。だが、結果は結果。世界選手権のある村主選手と違って、鈴木選手にとっては今回が今季最後の、いや唯一といえる、大きな大会でのチャンスだったが、結果は思った以上に悪かった。技術面の減点ポイントに対処しようと神経がそっちにいったこと、それに会場が「し~ん」としていたこともあってか(苦笑)、見せ場のステップの盛り上がりも感覚的にもう1つ(得点自体はちゃんとレベル3に加点が1から2と、出てはいるのだが)。これまでの試合ほどの「世界に入り込んでの」感情表現ができなかった。今回の51.2点という低い演技・構成点を見て、日本の連盟関係者が「大きな国際大会に鈴木を出しても点が出ない」と判断してしまうと、国内大会でも点を出してもらえなくなる。とても、残念。<明日は男子です>
2009.02.10
すいません、急遽別のエントリーを載せます。昨日の続きは、また明日に。Mizumizuは基本的に新聞は読まない。取ってもいない。ネットのニュースで十分間に合うからというのが一番の理由だが、そのほかにも、記者の不勉強の目立ついい加減な記事や、先に「偏向した結論ありき」のムリヤリな論法の記事が多く(たいがい反権力、反大企業)、読んでいてウンザリさせられるからだ。フィギュア関連の記事の酷さは目を覆うばかり。これだけ層の厚い、フィギュア王国アメリカを凌ぐ優れた選手を多くかかえながら、メディアのアタマにあるのは相変わらず「表現力VSジャンプ」の伊藤みどり時代の評価手法。なんでもかんでもそれに当てはめて、順位を説明しようとするから、一般人は混乱するばかり。単に個人ブログにすぎない拙ブログに、フィギュアネタとなると、1日2万件近いアクセスがあるのだって、元来メディアが伝えるべき、年々少しずつ変わり、結果わけのわからない点数が出てくるようになった採点システムの奇妙なカラクリを、大手メディアがどこも追及しようとしないからだろう。ただ「宿命のライバル対決」でファンを煽り、ハラハラドキドキさせて注目だけ集めさせようとしている。それだけならいいのだが、キム選手と浅田選手に関して、信じられないくらいキム選手贔屓のメディアが多く、必死に「キム選手は表現力が抜群」「実力ではキム選手のほうが上」などと一般ファンを洗脳しようとしている。キム選手自身は、本当に素晴らしい選手であるにもかかわらず、こうした変に偏向したメディアの姿勢が、逆に普通のファンの疑惑と反発に火をつけていると思う。動的で華麗なステップのテクニックをもち、柔軟性では明らかにキム選手を凌ぐ美しいビールマンスピンを見せ、スパイラルでのすらりと長い脚のラインも惚れ惚れするほど。キム選手にはないエレガントで明るい雰囲気があり、ジャンプでは女子では誰もやったことがないフリーでの3A2回という快挙をなしとげた。それでも、なぜ点数が出てこないのか? 日本人だったら誰でもいぶかしく思うのではないか? そういう部分に疑問をもって、現行の採点システムがどんなふうに作られてきたかやそれによって生じた矛盾を調査しようとする記者がただの1人もいないというのは、いったいどういうわけなのか。複数の読者の方から怒りを込めて情報をいただいたのだが、毎日新聞の来住哲司記者の四大陸選手権の記事。これはもう、偏向などというレベルではなく、浅田選手に対する悪意すら感じる、信じられないものだ。http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/news/20090208k0000m050026000c.htmlhttp://mainichi.jp/enta/sports/general/figure/news/20090208k0000m050064000c.html記事の内容とは別に、まずは、選んだ写真の失礼さを見て欲しい。浅田選手の写真、韓国系の新聞ですら、浅田選手がもっとも美しく見えるスパイラルの写真を使ってくれているというのに、自国のメディアがたくさんある浅田選手の写真から、わざわざ選んだ1枚がこれですか? キム選手の写真はとても可愛い。でも浅田選手は?かつてフジテレビが浅田選手が世界選手権で転倒したときの写真を大伸ばしにして使い、一般人の大顰蹙を買ったことがあったが、それに匹敵するぐらい、礼を欠いている。さらに内容。右ひざが本調子でないなか、ジャンプ構成を落としながら、それでもフリーで1位となり、6位から総合で3位に食い込んだ浅田選手を肯定的に伝えるのではなく、「浅田真は運が強い」「そうそう何度も、運に頼るわけにはいかない」??運が強いから勝った? 冗談も休み休み言ってください。運がいいのは、浅田・安藤選手の欠点を狙い撃ちにしたかのようなルール改正(ロングエッジ減点、回転不足によるダウングレード判定の厳密化)に助けられて、なんら新しいジャンプに挑戦しないのに、抜群に強くなったキム選手でしょう。突然、これまでの強い武器をハンディに変えられながら、常に真っ向勝負でここ大一番で勝ってきている浅田選手は、やはり実力が図抜けている、と考えるのが普通ではないですか? どうして素直に自国の大天才を褒めずに、一生懸命貶めようとするのですか?さらに「だが、ライバルたちも本調子ではなく」??気が狂ってませんか? ハードな国内選手権を戦い、年が明ければイベント試合やショーにひっぱりだされ、オーバーワークからくる右ひざ痛で練習がつめず、それでも何も言わずに出場した浅田選手が一番の絶不調。逆にライバルたちは絶好調。グランプリ・ファイナルでは力を抜いていたロシェット選手も、明らかにこの大会に照準を合わせてきて、銀メダルという彼女としては最高の成績をおさめたし、全米でサゲられたジャン選手も根性の会心の演技で全米女王を凌ぐ4位。国内大会すらパスして調整してきた最大のライバルのキム選手の好調ぶりは、インタビューでも本人が語っているし、朝鮮日報もこんなふうに伝えているんですよ。「たまにはすごく上手にできる時もなくちゃ」キム・ヨナ(18)は6日、こんな言葉を口にした。それほど調子がいいのだ。http://www.chosunonline.com/article/20090207000019キム選手の調子のよさは、ショートの出来を見ても明らか。フリーでこれまで徹底的に回避してきた3ループに挑戦したのだって、調子がよかったから。不調だったら苦手のジャンプに挑戦などしません。あるいは試合前の公式練習で、キム選手が3F+3Tや3ループを失敗しているのを見て、「本調子ではない」と思ったのでしょうか? だとしたら、それが彼女の実力です。キム選手は本番に強く、ほとんど必ずといっていいほど3F+3Tを決めてきますが、練習ではときどき転倒します。3ループは本来苦手なので、本調子であっても練習で、いつも完璧に決めることはないのです。キム選手の得点がのびなかったのは先日書いたとおり。滅多にやらない(苦笑)挑戦が、ダングレード判定を呼び込み、連鎖的に回転不足が生じて減点されたから。さんざん日本女子選手が苦しめられているルールが今回はキム選手に凶と出ただけ。さらにさらに、キム選手は、「流れるようなスケーティングは格段の美しさで、表現力などを問うプログラム構成点はSPに続いてトップ」、浅田選手のことは「滑り自体にもスピード感や伸びやかさが失われている」??。実際には演技・構成点の差はたった0.8点。1点もない。点の拾われ方によっても違っているような誤差。しかもカナダはオーサーの地元、キム選手の準ホーム。なのに、キム選手は格段の美しさで、浅田選手は伸びやかさがない? ではお聞きしますが、そんなにスピードもなく、スケートも伸びないにもかかわらず、演技・構成点の差が1点にもならなかったというのは、浅田選手がそれだけ健闘したということではないんですか? それなのに、点差のことは無視して、「(キム選手は)プログラム構成点はトップ」? まるでフリーで浅田選手が1位となり、キム選手が3位に沈んだのが悔しいかのような書き方ですね。毎日新聞はNHK杯で織田選手が高得点を出したら、織田選手の「思ったより点が出た」という控えめなコメントを根拠にして、「地元へのサービスがすぎた」などと暴論を書いたメディア。謙虚な日本選手が、高得点をもらったからといって「オレなら当然」などと言うわけないでしょう。それより、ファイナルでさんざんだったロシェット選手やチャン選手が、自国開催の四大陸でいきなり加点てんこ盛り・爆アゲの演技・構成点をもらったことについて、「地元へのサービスがすぎた」と批判しないんですか?締めくくりは、「18歳同士の浅田真とのシニアでの対戦成績を3勝3敗のタイに戻し、次の勝負は来月の世界選手権」「ライバルから世界女王の座を奪うつもりだ」――完全にキム選手・必勝祈願の心情が出ていますね。こんな偏向した視点にこりかたまった記者に、浅田選手の出場する大きなフィギュアスケートの大会の取材はしてほしくありません。Mizumizuにメールをくださる読者のみなさん、本当に、大変に不愉快な記事ですが(苦笑)、教えていただいてありがとうございます。自国の選手をここまで貶めるメディアって日本以外にはありません。しかも、ライバルが韓国選手となると、変な人が沸いて出るのは一体どういうワケなんでしょうね(って、みんなもう、そんなことは知ってるか)。怒りを感じた方は、声を届けることが肝要です。コチラ↓https://form.mainichi.co.jp/toiawase/index.html追記:「おかしなルールを改正すべき」の署名サイトの主旨を英訳して国際スケート連盟に届ける件、やめる結論に至った理由も、想像していただけると思います。自国の選手を守ろうとしない大手マスコミに変にゆがめて伝えられたら、返って日本選手が窮地に陥るからです。たとえば、「ルールを変えろと一部日本のファン、国際スケート連盟にチェーンメール攻撃――自国の選手に不利だとクレーム」とかね。それに尾ひれがついて、アメリカや韓国で悪意をもって喧伝される、という展開だって予想できます。オマケこれも酷いね、イヤハヤ…http://news.www.infoseek.co.jp/topics/society/n_mainichi__20090209_3/story/20090209jcast2009235631/毎日記者、「ゲイは気味が悪い」 コラムで謝罪 前回のコラムでは、ゲイの男性の取材後に、「かくしごと、ないですか?」と聞かれたことを明かしたうえで、「ゲイは繊細だというから、何か特別な感覚で察したのか。そうだとしたら気味が悪い」などと書いていた。実際はこの男性は「書く仕事」と言っていたという。
2009.02.09
緊急のお願い:浅田選手が右ひざを痛めていたことがようやく公けになりました。http://www.sanspo.com/sports/news/090207/spm0902071946015-n1.htmすでに本田武史、太田由希奈という天才の選手生命を怪我で終わらせ、高橋大輔の右ひざもプレ五輪にメスを入れるという大失態を繰り返している某国の某連盟。このまままた、天才を使い捨てにさせていいのでしょうか?実は浅田選手の右ひざは、ほぼ「定期的に」悪くなっているのです。去年も2月に痛め、公表しないまま世界選手権にのぞみました。以下、去年の3月21日付け毎日新聞の記事:「関係者によると、転んだ時に靴のブレード(刃)で左足付け根を切った。2月の4大陸選手権後には右ひざを痛めていた。だが、報道陣には一切明かさなかった」トリプルアクセルは右足で着氷しますが、体重の4倍とも5倍とも言われる加重が足首にかかる過酷な技なのです。浅田選手の右ひざが悲鳴をあげているのが聞えませんか? 聞える方は、こちらに署名をお願いいたします。http://www.shomei.tv/project-608.html四大陸フィギュアの女子フリーが終わった。あまり自分の不調のことは口にしない浅田選手でさえ、「入る前からベストでなかった」と言わざるをえないぐらい疲労が蓄積した身体でのぞんだフリー。日本中が心配していたと思うが、ジャンプが2つそれぞれシングル、ダブルになった以外はトリプルアクセルも1度決め、転倒もなく、最後のステップも根性で踏んで、なんとか滑りきった。だが、全体としてはやはり精彩を欠いた演技だったと思う。ところが、点が出てみたら案外いい。いや、118.66というのは決して浅田選手としてはよくないのだが、他の選手の点が意外とのびない。結果、なんとフリーでは、1位浅田、2位ロシェット、3位キム・ヨナ。「ええ?」と思った方も多かったのではないだろうか。3ループに挑戦してモロコケしたとはいえ、セカンドに3Tを2度入れ、ルッツも2度入れて(しかもお約束の「1つは失敗」もなく)、全体的に元気よく滑ったキム・ヨナ選手。コケても高得点のキム・ヨナ選手の点が120点に行かない?Mizumizuブログを読んでる方なら、推測ができると思う。「どこかでダウングレードされた」1つは明らかだ。コケてしまった3ループ。これは完全に回転不足で降りてしまってコケた。だが、それだけではこの点数は、ない。Mizumizuが真っ先にアヤシイと思ったのは、最初の3F+3Tの3T。認定こそされているが、キム選手のセカンドの3Tは2回入るうちのどちらか1つは必ずといっていいほどアヤシイ。グランプリ・ファイナルのときは2A+3Tがアヤシかった(つまり、「降りてから若干回った」ようにもみえたのだ)。ファイナルの場合は何度か見てみたが、「ギリギリセーフかな」という結論だったが、本当にギリギリだった。今回のフリーの3F+3Tの3Tもスローで再生してみたが、こちらはやっぱり「足りていなかった」。これは間違いない。ただ、4分の1以上足りていないのかと聞かれれば、わからない。もう1つアヤシイと思ったのはモロコケしたあとの3連続ジャンプの3ルッツ。こちらも着氷したあとエッジが回っていた。スローで見たら、これも明らか。キム選手のダウングレードはこの2つだな、と思ってプロトコルを見たら…違った!(苦笑)最初の3F+3Tの3Tはダウングレードされていなかった。アメリカのジャン選手のセカンドの3Tだって、そうとうギリギリのところを厳しくダウングレードされていたから、キム選手の認定をみたら、ジャン選手としてはおさまらないところだろう。だが、ジャン選手というのはあれこれジャッジに質問して、相当「報復」ともいえる厳しい採点をされている。ジャッジに選手サイドからあまりクレームをつけるのはタブーなのだ。ただキム選手の連続ジャンプは、3Fに「!」がついて、加点が抑えられ(加点されるのが、そもそもおかしいと思うが)9.5点の基礎点に対して10.1点。「!」がついて加点というのはおかしいとは思うが、この「!」判定自体がちょっと厳しいようにも思った。ショートは確かに、よくよく見たら一瞬エッジがアウトに入っていた。フリーのほうは角度も悪くてよくわからなかったが、中立に入っているだけのようにも見えた。これで「!」がつくとなると、安藤選手のフリップも警戒しなければならない。安藤選手は矯正以来、違反は取られていないが、相当に中立のエッジだ。3ループのダウングレードは、まあ当然。続く3ルッツもダウングレードされ、さらになんと3連続の最後の2ループもダウングレードされていた。「ループには異常に厳しいダウングレード判定」を証明したような結果だ。スローで再度見たが、言われてみれば、足りていないかもしれない。本当にループはダブルでさえ、非常に危険だ。ここでキム選手は2つもダウングレードされたので、3連続ジャンプを跳んで3.22点にしかならなかった。一方、3Fから2Loを2つつなげた3連続をきっちり降りた浅田選手は加点ももらって9.3点もの点を稼ぎ出している。こちらは文句なく、ピタッピタッと2ループを降りている。キム選手のルッツからの3連続がなぜ2つも回転不足になったのか? もちろん、その前に試みた3ループの転倒が響いている。ループに不安のあるキム選手は、今季初戦の直前練習でコケて(本番では1ループに回避)以来ずっと回避してきた。そしてダブルアクセルを3つも入れるという露骨な得点稼ぎ。今回は大会前から、「今回は3ループを入れる」と韓国系のメディアには公言していた。キム選手は練習では3ループを跳べないわけではない。ただ、失敗すると減点が厳しい現在のルールでは、避けたほうが有利だと判断したのだ。そして、回避したほうが点が出た。今回もやはり、結果として、「3ループにはチャレンジしないほうがよかった」のだ。キム選手というのは、助走のスピードでジャンプを跳ぶ選手だ。3F+3Tも、ものすごいスピードで滑ってきて、その力を利用して大きな連続ジャンプを成功させる。これは1つにはストロークが非常に伸びるというスケート技術の巧みさがある。中野選手はストロークがあまり伸びない。だから、スピードをつけるために何度も「漕がなければならなく」なり、かつ油断するとスピードが落ちてしまってジャンプを失敗するのだ。だが、ループはむしろ離氷時の跳躍力が必要とされるジャンプ。上に跳びあがるための強靭な脚の筋力が必要なのだ。キム選手はそのループまで助走のスピードを利用して跳ぼうとする。だから、エッジが抜けて、スピードがうまくジャンプの力に変換されず、逆に「コケる力」として働いてしまう。結果、キム選手がループを失敗するときは、本当に派手な転倒になってしまうのだ。アメリカ大会のときに直前練習のときの3ループのコケも、会場がどよめくぐらいモロに転倒していた。この転倒が痛かったのだ。転倒して立ち上がり、もう一度スピードをつけるのは至難の業だ。ちょうど浅田選手がサルコウで転倒したフランス大会で、次のフリップからの連続ジャンプが跳べなくなってしまったのと同じ。連続ジャンプの前に苦手なジャンプを入れるのは危険なのだ。転倒してしまったため、いつものスピードがないまま3ルッツに入ったキム選手は案の定回転が足りないまま降りてしまい、そのまま予定どおり3つジャンプを入れたために、最後のループがやや足りなくなった。「ループには異常に厳しい」目を光らせているジャッジは、それを見逃さなかったということだ。すべて、「苦手な3ループへの挑戦」が招いたこと。いかに今のルールが、「難しいことをやったらダメ」な変なルールかわかると思う。浅田選手の点を見ても、それが言える。全日本の浅田選手は3Aを2つ、後半に渾身の3F+3Loをもってきて、きれいに降りた(ように見えた)。ところが、3Aは2つともダウングレード、3F+3Loの3Loもダウングレード。ダウングレードというのは、何度も言っているが、トリプルアクセルを跳んでダブルアクセルの失敗と見なされ、3ループを跳んで2ループの失敗と見なされるということだ。だから、全日本での浅田選手の技術点は54.67点。今回は3A2つどころか、1つはシングルアクセルにスッポ抜け、後半の3F+3Loは3F+2Loに変更し、さらに確率の悪いサルコウはやめて、得意の(実は今季少し乱れているのだが)単独3ループに変えた。3トゥループは2トゥループになったが、これだって3Tを跳んでダングレード判定されたら、2Tの失敗と同じだから、初めから2Tのがいいのだ。実際、後半の2TはGOEでの減点なし(そりゃそうだ、もともと2Tだから)で1.43点に留まった。で、技術点の合計が58.58点。トリプルアクセルは1回だけにして、セカンドの3Loを2Loにしたのが成功したのだ(苦笑)。浅田選手にとってはチャレンジングなジャンプのない今回のフリーは、1つもダウングレード判定がない。逆にキム選手は、得点差もあったせいか、チャレンジした3ループが足かせになって3つもジャンプをダウングレードされた。もう1つある。それはスピンのレベル取り。ショートでは、浅田選手は2つのスピンがレベル2に留まった。これはポジションに入ってからの回転数が不足と見なされたのだと思うが、実は日本男子の小塚選手もこれをやられてしまった。小塚選手はショートのスピンで、コンスタントにオールレベル4を取れる選手なのだが、今回は2つのスピンでレベル3に留まった。本人は「ちゃんと回った」つもりだったはずだ。浅田選手もそうだったと思うが、選手自身は「ここでポジションを決めた」と思っていても、ジャッジは「ポジションチェンジをしている途中」と判断することがある。どうも今回のジャッジはスピンのレベルに非常に厳しい。ショートでレベル取りに失敗した浅田選手は、フリーでは気をつけたのだろうと思う。レベル4を3つ、レベル3を1つ。一方、スピンのレベル取りでめったに失敗しないキム選手が、フリーでレベル4が2つ、レベル3が1つ、レベル2が1つ。本人はこれには驚いたはずだ(浅田選手や小塚選手同様)。こうした思わぬ厳しい判定が、「ジャンプ構成を簡単なものにした」浅田選手に軍配をあげさせる結果になった。実は、キム選手の3F+3Tの3Tほどではないが、浅田選手のトリプルアクセルもほんのちょっとだけ足りていなかった。ただ、こちらは明らかに4分の1回転以下。だが、4分の1回転以下だろうがなんだろうが、足りないと見るとさっそくダウングレード判定してくるスペシャリストもいるので、今後はもっとピタッと降りたい。とはいえ、調子の悪いなかでもちゃんとトリプルアクセルを成功させ、最後のステップでは加点2と3がずらりと並ぶ成績を出したのだから、立派だろう。ジャンプ構成をあげて、点を落としてしまったのは村主選手も同様。村主選手は全日本ではサルコウ回避の2A3つ、おまけにルッツはモロにロングエッジという酷いものだった。今回はサルコウを入れて最後に2Aを2つ連続させるという、本来のジャンプ構成でのぞんだが、結果は、サルコウまではなんとか決めたが、後半がダメ。勝負ジャンプの後半の3F+2Tは連続ジャンプにできずに、回転不足、もちろんダウングレード判定。全日本ではロングエッジに戻して決めた2つのルッツも、エッジに気をつけたら後半の単独ルッツで大きく乱れてしまった。グチるわけではないが、後半の単独のルッツはエッジはちゃんとアウトだったと思うのだ(そうやってエッジに気をつけたから、きちんと着氷できなかったのだ)。なのに「!」を取られてしまった。ショートのもろロングエッジが響いているのだと思う。一度目をつけられると決め付けられてしまう部分もある。
2009.02.08
<きのうから続く>全日本では大甘の「!」で若干加点までされた(とはいっても、さすがにプラス2はない)から、点はのびた。だが「E」判定でそのたびに減点では点が出てこない。しかも、村主選手の全日本は、後半の3F+2Tの3Fも回転不足だったのを認定してもらって助かっている。国際大会であれでは、間違いなくダウングレード。日本選手のフリップを甘く認定する理由はないのだ。村主選手は、他のエレメンツの底あげはかなりできている。だが、ジャンプは跳べる種類が少ない。だからルッツのE判定は非常に痛い。しかも、演技・構成点は26.48と「演技・構成点が低くて有名な」ジャン選手の25.76と0.72しか変わらない。ううむ、予想できたこととはいえ、もうちょっと評価してほしかった。フリーでの持ち直しに期待しよう。後半の3F+2Tの3Fが跳べますように! 同じ振付師の安藤選手がいないから、得意の情感をたっぷり出してステップを踏んでほしい。逆に、さんざんエッジ違反を取られてきたジャン選手が今回は「!」もなし。ただしセカンドの3Tがダウングレード。ただ彼女、3F+3Tでなんと両方ダウングレード(苦笑)されたりしていたので、技術的には向上しているといえるだろう。浅田選手は、案の定、連続ジャンプがダウングレードされて5.4点、ルッツすっぽ抜けが0.9点で点になっていない。それとスピンが2つレベル2に留まっている。これが点がのびない理由。浅田選手のセカンドジャンプについて浅田選手のセカンドジャンプについて、読者の方からメールをいただきました。Number誌によれば、タラソワ・コーチは浅田選手にセカンドの3トゥループの練習をするよう指示しているそうです。貴重な情報をありがとうございました。しかし、指示されても、本格的に腰をすえて練習する時間なんてないでしょ、あんなハードスケジュールでは。浅田選手から落ち着いて練習する時間を奪うとどうなるか、身にしみたかたは、http://www.shomei.tv/project-608.html↑こちらに署名をお願いいたします。プルシェンコが選手生命にかかわる怪我を負ったのは、日本でのショーだった、ということをお忘れなく。それに無駄なイベント試合に時間を取られると、またタラソワ・コーチと過ごす時間もなくなります。昨年は、エッジでルッツを奪われ、今年は回転不足厳密化などというお題目(実際には甘く判定されているジャンプもあり、キム選手じゃないですが、「ときどき公平でないことがある」のは事実)でセカンドのループを奪われ、憤懣やるかたないですが、もともとの欠点といわれればそのとおり。その小さな欠点に対して、ここまで苛烈に減点してくるというのは問題ですが、フィギュアの採点というのは、いつの時代も何を評価し、何を評価しないのかは、政治的な思惑によって変わるもの。ルール作りの段階で負けてしまった以上、対応していくのがトップの選手だと思いましょう。ライザチェックは今シーズンはじめ、連続ジャンプにつなげる3Aをダウングレードされて、コーチのほうが驚いているような状況でしたが、持ち直してきました。本当に力のある選手は必ず対応できるはずです。 男子のショートの速報演技はまだ見れていませんが、チャンがぶっち切りの88.90点!?すごい点ですね。この人は4回転がありません。ただ、ジャンプ(特にトリプルアクセル)は決まれば加点「2」がつく人。ステップやスピンも素晴らしく、ショートは特に強いのですが、88.90点とはまたすごい銀河点が出たもの。この人と小塚選手は10代の2強。チャンという芸術性に優れたライバルに勝つために、小塚選手はどうしてもフリーで、3Aを2つ、3ルッツを2つに4回転を跳びたいのです(それでこれまで自滅してますが)。四大陸が一番大事な意味をもっていた織田選手は残念ながら、出遅れ。これをフリーで巻き返せればいいのですが、4回転を跳んでダウングレード判定、2つのトリプルアクセルのどちらかを失敗… というのが一番ありがちな悪いシナリオ。女子のフリーはいつなんでしょうね。見る前に結果がわかってしまうので、浅田選手が不調となると、フジは視聴率が稼げずさぞやガックリしているでしょう。XXXXXと、書いてるうちにプロトコルが出ました。これからテレビ中継ですので、今からテレビを見る方は、男子ではやはり、パトリック・チャンの演技に注目。プロトコルの成績、スゴイです。ジャンプ3AはGOEで加点が「2」が8人、「3」が1人(これは完璧に決めたときの高橋大輔のトリプルアクセルと同等かそれ以上の評価です)で基礎点8.2点に対して得点が10.2点!たった1つのジャンプで10.2点でっせ。他のジャンプもすべてきれいに決めたらしく、のきなみ加点がついています。スピンは当然ながらオール・レベル4。圧巻は最後のストレートステップです。今はステップでレベル4がなかなかでないのですが、なんとなんとチャンはここでレベル4、加点も1から3までついて5.9点!! ライザチェックも頑張っていますが、それでも4.2点、小塚選手と織田選手が3.9点。チャン選手、おそらくこれまでの選手生活の中での最高の出来だったのではないかと。西洋的な華麗さと東洋的な繊細さをあわせもった得がたい個性とともに、これだけ技術的に完璧だと、もう4回転は不要ですね。織田選手は連続ジャンプのセカンドが2Tになってしまったようですね。これは非常に珍しいミス。連続ジャンプの点が6.1点とトップ選手が11点以上稼ぐ中、ここで5点以上負けてしまったということ。実はあとはそれほど悪くないのですが、加点大盤振る舞いのチャンにはずいぶん点差をつけられました。毎日新聞は、「地元の選手にサービスしすぎ」と批判しないんですか?(苦笑) チャン選手が素晴らしい選手であることは認めますが、2位の選手を7点以上ブッチ切るほどの演技なのか? 実際、今季は、加点を大盤振る舞いしすぎていて、点差が極端になる傾向に拍車がかかっていますね。誰を強くしたいのか明らか。バンクーバーもこれでしょう。まさに採点の「前哨戦」。ジャッジは試合前に採点基準の意識合わせをしますが、別の意味で意識合わせがうまく出来ていると思います。見ていて白けると思いますが、こんな採点システムでもまだ、日本のファンは素直に「熱く」なれるんでしょうか。チャン選手は素直にこんなふうに言っているし。http://sankei.jp.msn.com/sports/other/090207/oth0902071040006-n1.htm今さら連盟の人間が否定しても、ジャッジが「いろいろな要素」に左右されて点を出しているのは、出てくる変な点数を見れば明らかでしょう。「素人にはわからない、公正なジャッジを厳密な基準にもとづいてやっている」などというウソでは、もう一般人は騙されないと思いますね。小塚選手はトリプルアクセルで「若干」乱れたよう。全日本までの小塚選手はショートのジャンプは完璧だったのですが、どうも後半は少しずつ乱れてきていますね。彼はどうしてもフリーのトリプルアクセル(特に後半、2度目)を決めたいので、ちょっといやな雰囲気です。点数はともあれ、ファギュアの楽しみは、選手のよい演技を見ること。もうじきテレビ放送が始まるので、みなさんチャン選手、ライザチェック選手、そして日本の選手(は最高の出来ではなかったようですが)を堪能しましょう。女子では、浅田選手は残念でしたが、キム選手は今季最高の演技でしょう。アメリカ大会では若干回転不足気味のジャンプを認定してもらったうえに2Aが乱れたり(でもなぜか加点)、中国大会ではルッツが回転不足判定されたり、ファイナルではそのルッツがすっぽぬけたり。実はキム選手もショートでなかなか全部のジャンプをきれいに決めてこなかったので、今回は会心の出来でしょう。「死の舞踏」はキム選手のダークで妖しげな雰囲気をうまく出しているよいプログラムです。見ていて「怖い」と思わせる演技ができる選手はなかなかいません。不気味さが前面に出ていて、エレガントさに欠けるので、嫌う人もいるとは思いますが、それはしょせん嗜好の問題。
2009.02.07
パリから帰ってきたばかりだったこともあり、昨日のエントリーを書いているときは、四大陸が始まっていることに気づかなかった(苦笑)のだが、記事をアップした直後にフジテレビで女子のショートプログラムの模様がニュースで流れているのを偶然見た。浅田選手の結果はみなさんご存知のとおり、最悪。トップのキム選手:技術点42.2、演技構成点30.04=72.24点浅田選手:技術点29.1、演技構成点28.76=57.86点さすがにもう「表現力の差」でないことに気づいた女性アナが、解説の伊藤みどりに「演技構成点はそんなに差がないんですよね。なのにこの点差は… 一体何が悪かったんですか」と聞き、伊藤みどりは浅田選手の心理面から説明をしてしまい、おそらく一般人には理解不能の解説になってしまっていた。何が悪いって、簡単な話だ。3Loのダウングレードと3ルッツの2回転へのスッポ抜け。一方のキム選手はミスなし(つまり加点がもらえるジャンプを跳んだ)。フジテレビの映像はちょっと流れただけだったが、キム選手のセカンドの3トゥループにも3ルッツにも回転不足はなかったと思う。フリップのロングエッジだけはよくわからなかった。もちろん採点では、回転不足もロングエッジも取られていないのは明らかだ。点数を見ればわかる。今回の四大陸のショートのプロトコルはまだ見ていないのだが、グランプリ・ファイナルを参考に説明しよう。グランプリ・ファイナルのショートの技術点がキム選手:35.5点(今回42.2点、プラス6.7点)、浅田選手:35.7点(今回29.1点、マイナス6.6点)ほぼ6.6点の差が双方にある。キム選手はプラス6.7、浅田選手が6.6。このときはキム選手がルッツがすっぽ抜けてシングルになってしまい、失敗した。浅田選手は成功させた。このときのルッツの得点が…キム選手:0.3点、浅田選手6.8点。差が6.5点。3ルッツを成功させるか、失敗させるかでこのくらい点が違ってくる。今回の浅田選手の点は、グランプリ・ファイナルで成功させたルッツを失敗してしまったこと、あとは別のエレメンツでのレベル取りの失敗がいくつかあったと推測できる。出てきた点でだいたいわかるのだ。そして、一番大きいのが、なんといっても最初の連続ジャンプのセカンドの3ループのダウングレードだ。着氷でオーバーターンが入って乱れたので、「あの程度の失敗でこんなに差がつくの?」と思った人はまだダウングレードの恐怖をわかっていない。オーバーターンが入ったから点がのびなかったのではなく、回転不足を取られてしまったから点が出なかったのだ。もちろん、あれだけ着氷で乱れるとGOEの減点も厳しくなるから、さらに点が出なくなる。再びグランプリ・ファイナルの連続ジャンプの点を見てみよう。キム選手:11.5点、浅田選手5.2点、差が6.3点。(このときは浅田選手はきれいに3F+3Loを決めたように見えたが、実はダウングレード、つまり3ループが2ループの失敗にされていた)。ジャンプの失敗(連続ジャンプの3ループのほうは、今季から「失敗にさせられた」というのが正しいが)で、これだけの差が出てしまうのだ。あとはスピンの回転がポジションに入ってからしっかり規定数回っていなかったとか、あるいはスパイラルの脚上げの時間が足りなかったとか、なにかレベルの取りこぼしがあったのだろう。そして順位の悪さ。これは全日本でのショートのトップが中野選手だったことを考えても予想がつくと思う。中野選手は3+3はないが、それでもエレメンツの取りこぼしがなかったため、60点台の半ばを出した。つまり、3+2しかない選手でも、きちんとエレメンツをこなして加点をもらえば、マックスでそのくらいは行くのだ。みんなもう、そういう採点の傾向はわかってきたから、きちんとエレメンツをまとめて、加点をもらえるように滑っている。だから57点では、メダル圏外に落ちてしまう。3+3でダウングレードということは、3+2を失敗したということになる。3+2をみんなが跳んでまとめていれば、ダウングレードされてる浅田選手の点はそれより低い。基礎点の高いルッツで失敗すれば、点はもっと低くなる。当然のことだ。ちょうど、「シズニー選手だって浅田選手がダウングレードされ、ルッツで失敗し、サルコウがすっぽ抜けてくれれば、勝てるかもしれない」と書いたら、なんとまぁ、見事に浅田選手はショートでループがダウングレード、ルッツ失敗で、シズニー選手に対して技術点では負け、合計点でもたった2.24点の点差と(シズニー選手は55.62点)、まさに「どっこいどっこい」になってしまった(苦笑)。まさしく、「安藤・浅田には勝たせないぞルール」が本領発揮というところだ。だが、3+3を跳べるキム選手がノーミスで回転不足もエッジ違反もない場合は、70点台を超えてくる。これもまた当然のことだ。浅田選手にとっては、3ループは何度跳んでもほぼ認定されないことが、ますますハッキリしただけだ。あとほんのちょっとだから、何とか正面突破したい浅田選手の心情はわかるが、もう、無理だと思う。これまでだってスローで見たら、常にちょっとだけ足りないことがほとんどだった。それは安藤選手も同じ。肉眼ではわからなかっただけだ。今年になって突然回転不足になったわけではない。これまである程度認定されていたのはジャッジの良識が働いていたから。だが、厳密に判定しろと言われれば、ジャッジはそれに従う。ループをセカンドに跳ぶためには、並外れた跳躍力が必要だ。当然踏み切る右足の足首やふくらはぎにかかる荷重は過酷なものになる。このまま、なんとか「認定されるループを跳ぼう」と過酷な練習を続ければ、待っているのは怪我しかない。まさに高橋大輔の悪夢の二の舞だ。四大陸ショートでの浅田選手のセカンドの3ループはNHK杯やファイナルのときより悪かった。全体的に疲労の色が濃い浅田選手の演技を見るのはつらい。だいたい、こき使いすぎでしょ。グランプリ・ファイナル、全日本、それが終わって年が明けると今度はイベント試合にショー。アイドルなみにひっぱり回す。浅田選手を壊したいのでしょうか、まったく。今回勝てば国際試合10冠で伊藤みどりを抜くなどと、くだらないことを言うのもよしてください。伊藤みどりの時代にはグランプリ・ファイナルも四大陸もなかった。グランプリシリーズを銘打って、トップ選手は少なくとも2度はどこかの試合に出る、なんてこともなかったのだ。国際試合の数が違うのだから、勝ってる回数を比べるなんて、まったく意味がない。フリーで3フリップ+3ループを跳ぶのもやめてほしい。これは国際スケート連盟がしかけてきた汚いワナ。跳ぶたびに「3+2の失敗」にされるのは、すでにお約束なのだ。まぐれで1度か2度どこかで認定されたとしても、オリンピックで使うのは危険すぎる。だが、浅田選手のあまりにきついスケジュールでは、3トゥループにシフトする余裕はなかったと思う。もし3トゥループが回転不足にならずに跳べるなら、3トゥループに逃げているはずだ。3ループをやり続けているということは、やはり3トゥループをセカンドにもってくると回転不足になる、という傾向は克服できていない(というか、セカンドの3トゥループは練習していない)のだろう。だが、Mizumizuは依然として、たとえ世界選手権に間に合わなくても、セカンドの3回転は3トゥループにシフトすべきだと思う。今年はキム・ヨナの年。それはシーズン初めにすでに書いた。キム選手はジュニア時代からやり続けたことを今年完成させようとしているのだ。今年が彼女のピークであることは、かなり明らかだ。来年になると、体形がさらに変わり、ジャンプが劣化してくる可能性が高い。一方の浅田選手のほうは、女子としては例外的に理想的ジャンプ体形を維持し、作ってきている。バンクーバーの前哨戦のハズが、フタをあけてみたらリンクのサイズが違うって…(呆)。本当に、浅田選手は何のために出てるんでしょうか、四大陸。ジュベールあたりなら、とっとと「怪我しました」と言って棄権するだろう。今のエレメンツ重視の採点システムでは、「疲労」は選手にとって大敵だ。昨季の世界選手権銅メダリスト、今季のファイナル銅メダリストのウィアー選手が全米で台落ちしてしまったことからもわかる。ふつう、試合をこなすうちに、じょじょに調子をあげてくるのがトップ選手なのだが、あっちこっちで減点が待ち受けている今の採点システムは精神的な負担が大きく、疲労のある状態では、いい選手もいい演技ができずにジャンプを失敗し、実力では勝ってる選手にも負けてしまうのだ。世界選手権が最も重要であることは、すでに書いたが、こうやって四大陸にも出ると、そこでピークを作らなければいけない分だけ、世界選手権に向けての調整がまた難しくなる。ジュニア時代から変わらないジャンプ構成でくるキム選手と違って、難度の高いジャンプを入れている浅田選手にとって、特に疲労は大敵なのに、こうやって試合のたびに「ライバル対決」で煽られ、勝つことを求められると精神的にも負担が大きい。今回は3+3に加えてルッツの失敗と、不安のあるジャンプで失敗、つまり弱い部分が全部出てしまった。実は浅田選手はルッツもトリプルアクセルも、ついでに言ってしまうと単独のトリプルループも、練習での調子は必ずしもよくないのだ。サルコウは練習では確率が高いが、試合ではこれまで半々。それをこれまでの大一番では、根性でかなり決めてきた。それだけでもたいした精神力だ。彼女が生身の人間だということを忘れてはいけない。しかも、ルール上は絶体絶命に追い詰められている。そういう状況で、ジャンプを毎試合毎試合、全部決めろなんて無理な話。神風は3度は吹かない。XXXXXさて、そうこういっている間に、プロトコルが出た。なんと意外なことが判明。キム選手のフリップには「!」(wrong edge short)がついていた。言い訳するわけではないが、「ロングエッジ判定はないのでは」と思ってしまったのは、「減点されていない」と思ったからなのだが、なんとまぁ、アテンションがついたのに、「2」などというGOE加点をしているジャッジが2人いた。(マイナス1が1人、プラス1が1人)、結果、プラスのほうが拾われたようで、9.5点の基礎点が9.9点に「加点」されてしまっている。「!」がついた場合のGOEは「ジャッジの判断にまかせる」という規定があるので、「2」をつけても違反ではないが、やはりスペシャリストがアテンションをつける判断をしたのに、GOEジャッジが「2」などという加点をつけるのは、相当に違和感がある。心配なのは、実は村主選手。点数では4位でメダル圏内なのだが、内容をみるとかなり危うい。全日本で指摘した、「村主選手のロングエッジはあの跳び方では、国際基準では!ではおさまらない」という予感が当たってしまった。ルッツに「E」(wrong edge)がつき、GOEでマイナス1.2の減点。Mizumizuが村主選手のwrong edgeを心配するのは、彼女の場合、フリーで2つもルッツが入るからだ。きちんと跳べば加点されるジャンプを跳ぶことのできる力があり、全日本以前の国際大会では違反を取られなかった(だから成功すれば加点された)のだが、エッジに注意すると、どうしても他のジャンプ(つまりはフリップ)にも影響が出てしまうのだろう。だから、違反を承知で跳んでいるのかもしれないが、ショートとフリーで3回もルッツが入るのだから、そのたびに減点されてしまったら、ルッツを跳べるアドバンテージがなくなってしまう。<文字数制限に引っかかりました。続きは明日のエントリーで>
2009.02.06
<きのうのエントリーから続く>アメリカの新聞は逆に、ジャンプの技術の低いシズニー選手の優勝を驚きをもって伝え、「この全米女王では、浅田選手やキム選手には勝てないのでは? これほどアメリカの女子選手の技術が後退したことはない。フィギュア王国の危機だ」と伝えた。だが、本当は、アメリカの女子選手の技術が後退したのではない。高い技術をもつ選手のちょっとした不完全さを苛烈に減点するから、技術の低い選手が勝ってしまい、全体として後退したように見えただけだ。シズニー選手が浅田選手やキム選手に勝てない――というのは、常識的には正しい。だが、全日本での浅田選手のフリーは、ルッツもフリップも跳べない武田選手とどっこいどっこいだった。トリプルアクセルやセカンドのトリプルループがどんどんダウングレードされ、エッジ矯正で調子のあがらないルッツで失敗し、今のところ試合での成功率が半々のサルコウがすっぽ抜けてくれれば、シズニー選手だって浅田選手に勝てるかもしれないのだ。「でも真央ちゃんは、勝っている」と、ファンの人は言うかもしれない。そう、世界選手権でもグランプリ・ファイナルでも浅田選手は勝った。だが、もともとの実力から言えば、圧倒的な「浅田真央時代」を築いてもおかしくない才能の持ち主なのだ。たとえば、プルシェンコのように。だが、浅田選手は女プルシェンコにはなれていない。それどころか、セカンドには3トゥループだけ、トリプルアクセルは跳べず、3ループはどうにも苦手で回避ばかりしているキム選手――つまり、ふつ~に考えれば、明らかに実力では格下――がミスしてくれないと勝てないような状況だ。なぜか?もちろん、過去に繰り返し述べたように、それは浅田選手の小さな欠点を狙い撃ちにされているからだ。昨季はエッジ違反。今季はとくにセカンドの3ループに対する容赦ないダウングレード。エッジは昨季までは、減点されながらも極力失敗をしないという方針で切り抜けた。そして、世界選手権ではライバルのキム選手が得点源のルッツで失敗するという、神風が吹いた。今季はルッツのエッジをきちんと矯正した――のだが、ルッツを跳ぶのは今のところショートだけで、フリーには入れていない。ルッツはアクセルに次ぐ基礎点の高いジャンプだ。この「フリーになかなかルッツが入れられない」というのも、点が伸びない一因になっている。加えて、昨季までは、きちんと跳べばほぼ認定されていた強い武器であるセカンドのトリプルループがまったく認定されない。これは簡単なことで、もともと浅田選手(安藤選手も)のセカンドのトリプルループは、本当の意味で「完璧に」3回回りきっていないからだ。ジャンプというのは、基本的にまず空中にあがり、回転し、回転を終わって降りてきて着氷するのが基本だ。肉眼では安藤選手も浅田選手もセカンドのトリプルループをちゃんと回りきって降りてきているようにも見える。だが、スローで再生してみるとそうではないことがわかる。これは、昔からそうだ。今に始まったことではない。では、厳密に4分の1回転以上の不足なのかと問われると、実際のところはよくわからない。キム選手のコーチのオーサーは、わざわざ「プレローテーションで4分の1回転稼いでいる」という意味のことを言って、安藤選手のセカンドの3ループを批判したが、安藤選手が着氷を決めるために、空中にあがる前に上体から先に回ろうとするのは事実だ。だが、それで本当に「4分の1回転ズルしてる」かどうかまでは、いくらスローで見ても厳密にはわからないはずだ。だが、それはあくまで「ジャッジの判断」。野球のボールとストライクの判定をジャッジにまかせているのと同じなのだ。セカンドに3ループを跳ぶのは、フラット選手・安藤選手・浅田選手だけ。連続ジャンプに3トゥループをもってくるのは、キム選手、コストナー選手、レピスト選手、ロシェット選手。だから、3トゥループの認定を甘くする理由は十分にある。もうすでにバラしてしまったことだが、昨季の世界選手権のフリーの浅田選手の3F+3Tの3Tはちょっとだけ足りないのを認定してもらい、加点ももらって命拾いした。3トゥループはあくまで、「お互いさま」なのだ。一方、少し足りない3ループを認定してあげる理由はまったくないのだ。たとえば、前回のグランプリ・ファイナルでも、中野選手のショートの3ルッツは足りなくても認定された。そのあとにコストナー選手、キム選手が控えていたからだと考えると、変に辻褄が合う。しかも、フリーのロシェット選手のルッツもやはり、ちょっと足りなかったが認定されている。このように「お互いさまの」ジャンプは奇妙に認定されやすいのだ。トップ選手では安藤選手と浅田選手しか跳ばないセカンドの3ループは、だから認定される可能性は非常に低い。スローで見て、ちょっとでも足りないと判断されれば、容赦ないだろう。そして、その正面突破は、トリプルアクセルを完璧に着氷するより遥かに困難だ。「セカンドの3ループから3トゥループにシフトすべきだと思いますか?」という質問を多く受けるが、Mizumizuの見解は完全に「イエス」だ。もともとトップ選手はセカンドに3トゥループを跳ぶことができる。たとえば、日本男子のトップ選手、織田選手にせよ、小塚選手にせよ、ルッツのあとだろうが、フリップのあとだろうが、サルコウのあとだろうが、ほぼ自在に3トゥループをつけることができるのだ。これが本来のトップ選手の姿だ。女子でも、伊藤みどりやクリスティ・ヤマグチは3ルッツ+3トゥループの連続ジャンプを跳ぶことができた。一方で、浅田選手はセカンドに3トゥループを跳ぶことはできるが、やっぱり回転不足になりやすいのだ。また、浅田選手には「ルッツからの連続ジャンプがない」という欠点もある。安藤選手やキム選手は2回転とはいえ、ルッツを連続にすることができる。だからフリーに基礎点の高いルッツが2つ入る。浅田選手はルッツに不安があり、かつ連続ジャンプにできないので、トリプルアクセル2度に頼らなければいけなくなる(3回転ジャンプはフリーでは2回跳べるのは2種類まで。かつそのうちの1回は連続ジャンプにしなければいけない)。ところがトリプルアクセルはハンパじゃなく、体力を消耗するらしい。これは今季、浅田選手のフリー後半での3フリップ+3ループがなかなか入らないことで、わかった。昨季の浅田選手は後半に3フリップ+3ループを軽々と入れ、かつ高率で認定されていた。今季は全日本まで来て、やっと1度入った。しかも3ループはお約束のダウングレード判定。浅田選手がセカンドの3ループを跳び続けるということは、非常に確率の悪い博打を続けるということ。今回は認定されるジャンプが、「もしかしたら」跳べるかもしれない。だが次は…? セカンドに3ループをもってくるということは、常に「2ループの失敗にされる」危険性と隣り合わせの一か八か。いや、むしろほとんど、わざわざ「2ループの失敗にされる」ために跳ぶようなものだ。3トゥループのほうが一般的に簡単だし、完璧に跳べる選手はいくらでもいる。3ループをセカンドにもってきて完璧に跳べた選手は歴史上ほとんどいないのだ。男子のトップ選手はセカンドの3ループなど、はなっからやらない。安藤選手と浅田選手にとっては、個人的には3ループのが跳びやすかったのだろう。しかも、跳べば強い武器だった。だが、もうその強い武器は奪われていると思ったほうがいい。浅田選手がセカンドの3ループに固執し、3トゥループをやめてしまったことが、今季最大の誤算だと思う。だが、これは仕方がない。予想もつかないことだったからだ。安藤陣営も同じ。モロゾフは4サルコウ、セカンドの3ループ、それに得意のルッツを活用したジャンプ構成を組んで、安藤美姫絶対勝利の方程式を書いた。一方のタラソワは3アクセル2度と3F+3Lで浅田真央絶対勝利の方程式を書いた。ところが、試合が始まったら、安藤選手の3ループは認定されない。3フリップはことごとく狙われて、ダウングレードもしくはGOE減点(解説の荒川静香が「流れのあるいいジャンプ」と言ったフリップさえ、実はGOEで減点されていた)。モロゾフは大幅な戦略の見直しを余儀なくされた。浅田選手にも3Aとセカンドの3Lに対する厳しいジャッジの目が待っていた。今季の異常な採点には、男子のトップ選手、特にアメリカのライザチェック選手とウィアー選手も非常に苦しめられた。ライザチェックはプログラム密度を濃くすることで自分自身をグレードアップしようとした。ウィアー選手は4回転の高さを獲得することに時間を割いた。ところがシーズンが始まってみると、ロングエッジは範囲が広がって厳しく取られ、回転不足も思わぬところで狙われてダウングレードされる。2人の戦略は完全に裏目に出て、点がのびなくなった。2人の戦略と採点の流れが完全に逆に行ってしまったのだ。ウィアー選手は、トリプルアクセルまで不調になり、全米では台にものぼれず、四大陸にも世界選手権にも行けなくなった。日本では中野選手が全日本のフリーで、これまでにない自爆をやってしまって代表の切符を逃したが、この2人に共通していたのは、「疲労の蓄積」だ。ウィアー選手は全米前にショーで海外に出ている。ライザチェック&ウィアーが負けて、アボット選手が勝ったことで、「男子は世代交代」などというのは的が外れている。この3人は全員同世代だ。アボット選手は過去2年連続全米で4位だった選手。今季は4回転を捨てて、急に強くなった。それは本人にとっても予想外だったはずだ。彼はもともと世界トップを目指せる器ではなかった。ライザチェック&ウィアーのような華やかさもないから、人気もない。年齢的にももう若くはない。むしろ崖ッぷちの選手だったのだ。だから、本当は跳べる4回転を捨てて他のジャンプをきれいにまとめ、せめて全米で3位以内に入ろうとしたのだ。そしたら、なんとグランプリ・ファイナルでも全米でも優勝してしまった。ライザチェック&ウィアーは逆に世界トップを狙う選手だった。彼らは、プログラムの密度を上げる、4回転の精度を上げる、という高い目標をかかげてシーズンインした。ところが、試合をやってみると、ロングエッジで減点されるわ、思いもかけないところでダウングレードされるわ。演技・構成点はまったく思惑だけで出てるような「テキトー点」になりさがり、試合によって派手に上がったり下がったりする。カナダ大会なんて、無理アゲされたチャン選手自身が恐縮するありさま。この異常な採点が選手にかけた精神的負担は非常に大きい。シーズンが進むにしたがって、どの選手もミスが増え、精彩を欠いた演技が多くなった。ウィアー選手同様、浅田選手も当然、疲労していることは間違いない。韓国の国内大会さえパスしてるキム選手とは大違いだ(これはいくらなんでも問題だろう)。年末のハードな全日本のあと、ショーやらイベント試合やら、CM撮影やら、まったく落ち着いてルール対策できる時間はない。四大陸はロシェット選手のホーム、キム選手の準ホームだし、浅田選手を大きな大会で連勝させてあげたいと思うジャッジはまずいない。つまりは、その程度のイベントだということ。ファンの皆さんも、あまり熱くならないで見ましょう。浅田選手に怪我のないことを祈っています。
2009.02.05
浅田真央という稀有の才能を得て、空前の沸騰を見せている日本でのフィギュア人気。メディアもさかんに浅田選手の試合直前の様子を伝え始めた。個人的には浅田選手は四大陸選手権は休んで、世界選手権に向けて調整すべきだと思っていたが、もちろんそんなことは許されない。バンクーバーの前哨戦などと銘打っていたが、フタをあけてみれば、リンクが五輪用に改装されておらず、横長楕円形のまま。慣れない選手にとっては非常にジャンプのタイミングがとりにくいサイズ。これじゃ、五輪リンクのテストの意味なんて、皆無。浅田選手にとっては、ただバンクーバーで滑る――ということ以外には、あまり意義が見出せない大会になった。もともと四大陸なんて、歴史もないし、格式もたいしたことはないのだ。それはグランプリ・ファイナルも同様なのだが、にわかファンを煽って儲けたいメディアは、さかんに「大一番」を強調している。そう思って燃えているのは、日本と韓国の女子フィギュア・ファンだけ。あとは地元のカナダではちょっとぐらいは注目されているだろうが、それ以外の国は、アメリカも含めてたいした関心はないだろうと思う。フィギュアスケートにとって最も格式の高い大一番は、今も昔も世界選手権。四大陸を取ったからといって、「世界チャンピオン」のタイトルが取れなければ、ほとんど何の意味もない。高橋大輔選手は昨季、四大陸で4回転2度を含む史上最高の演技を披露し、世界を震撼させたが、結局、世界選手権ではジャンプミスを繰り返した。四大陸でよかったからといって、世界選手権でもいいとは限らない。逆もまたしかりだ。昨季、ジュベール選手はシーズンをとおして怪我や病気に悩まされ、さっぱり調子が上がらなかったが、世界選手権ではあわや金かという銀メダルを手にした。逆に昨季、ランビエールを抑えて欧州王者になったベルネルはその後、ことごとくジャンプで自爆して、今季は欧州選手権でもショートのよい出来をフリーで台無しにした。回転不足判定での理不尽ともいえる減点のある採点システム、つまり一発勝負のジャンプの出来に勝敗が大きく左右される現在のフィギュアの試合では、勝者を予想するのはほとんど不可能になった。浅田選手が出てくる前は見向きもしなかった四大陸を、「大一番」などとさかんに盛り上げている日本のメディアの軽薄ぶりにはウンザリだし、浅田選手自身にとってもたいした意味のない大会だが、男子の織田選手にとっては、この大会でよい演技を披露できるかどうかが非常に大きな意味をもっている。すでにグランプリ・ファイナルに出た小塚選手と違い、織田選手にとっては、復帰後それなりのタイトルがかかった初めての試合。ふつ~に考えれば、「到底負けるハズない」グランプリ・ファイナル覇者&全米王者のアボット以上の点が織田選手に出せるのかどうか、Mizumizuはそれが今大会の一番の注目点だと思う。ふつ~に考えれば、負けるはずのない相手に負けてしまうのが今季の採点システムだ。ランビエールは選手時代の末期、もっと言えば引退直前に、さかんに採点手法を皮肉り、批判を繰り返した。ジュベールも同じ。今年はそうした批判を受けてマトモに戻るかと思いきや、流れは完全に逆。「もう、やってられね~よ」という気持ちがトップのベテラン選手の間にはびこっている。見てるほうも同じだ。ハッキリ言って、ここまで「数の多い勢力」「政治力の強い存在」の意図丸出しの真っ黒の採点システムは、フィギュア史上初めて。プレ五輪になってここまで露骨になったのは、偶然とは到底思えない。そんな中で選手は本当によくやっている。特に日本選手の健気さには涙が出そう。今季の全米の前に、「プレ五輪になると、なぜか全米選手権ではアジア系が落とされることが多い」と書いたら、まさにそのとおりになった。これは、クリスティ・ヤマグチ選手が台頭してきたころからのアメリカでの奇妙な伝統なのだ。不完全とはいえ、ジャンプで浅田選手やキム選手に対抗できる潜在能力のあった長洲選手は、ジャンジャン回転不足を取られて今季絶不調。ダブルアクセルまで回転不足を取られた(つまりシングルアクセルの失敗にされたということだ)。結果、昨季の全米女王は台にものれなかった。ヤマグチ選手(対ハーディング選手)、クワン選手(対リピンスキー選手)が台頭し始めたときもそうだった。そして、五輪直前になると、もともと実力のあるアジア系の選手が逆境をはねのけてくる。クワン選手が「そうした目」に遭わなくなったのは、大きな国際大会で連勝を続け、アメリカでの人気が揺るがなくなってからだ。強くなり始めたころのクワン選手は、家族のお守りであるペンダントヘッドまで、「あんな安っぽいものをつけて」と嘲笑された(それでも、彼女はおばあさんからもらったというお守りペンダントを決してはずさなかった)。実況というのは日本でもかなりお調子がいいが、今回の全米の実況も、優勝したシズニー選手を、「美しさの勝利です」などと讃え、ダウングレード判定が具体的にどれほど致命的な減点になるのか、それによってアメリカの若手選手がどれほど萎縮してしまったのかまでは説明しない。たしかにシズニー選手は惚れ惚れするほど美しいスケーター。だが、「美しいから勝った」などと実況でいうのは、聞きようによっては他の選手に対して失礼だし、フィギュア競技の採点に対する偏見をまた助長させる。もともと3回転ジャンプがやや足りなくなりやすい女子の場合は、フィギュアはもはやダウングレードの数を競う競技になったといっても過言ではない有様。美しいとか表現力があるとか言うまえに、「回転不足を取られないこと」これが至上命題なのだ。それが一番点に影響するからだ。本当に、バカバカしい。この採点の異常性を覆い隠そうとでもするかのように、「XXは表現力が優れているから勝った」などと、印象論にすぎない論評が幅をきかせている。さすがに元選手の伊藤みどりやアメリカのハミルトンなどは、「採点が基本に忠実な技を評価するようになっているから」とか、「本当に完璧なジャンプだけを認定するようになっているから」と言っているが、実のところ、こうした「解説」は間違ってはいないが、現行の採点システムの説明としては正確ではない。「基本に忠実であることを評価すること」「確実なジャンプを認定すること」自体は異常でもなんでもない。その方針は大いに結構だ。だが、スローで見なければわからないような回転不足を、あからさまな(回りきっての)転倒やお手つきやオーバーターンより低く採点することと、基本に忠実であることを評価することは同じではないはずだ。ダブルアクセルが加点されると、それより遥かに難しい3回転ジャンプ以上の点が出てしまうのだって、「正確な技を評価する」ことと同じではないはずだ。質の高いジャンプは評価はすべきだが、今の主観による大盤振る舞いの加点や難しいジャンプに対する容赦のない減点は、客観的な点数設定である基礎点をないがしろにするものだ。つまり、どう考えたって、実力に劣る選手を勝たせるために、手を加えて徐々に作り上げた真っ黒なルールなのだ。<続く>
2009.02.04
旅行ネタはちょっと中断させてください。フィギュアスケートの試合が終わったにもかかわらず、連日1万件近いアクセスをありがとうございます。フィギュアファンの読者の皆様のご意見を拝借したく、急遽フィギュアネタでのエントリーです。署名サイトにたくさんの署名をありがとうございます。賛同していただく方の人数の多さに、呼びかけたほうもビックリしているような状態です(わずか数日で1000名突破)。が、数名の方から、「テレ朝や日本スケート連盟に署名提出しても、もみ消されるだけでは」というご意見が寄せられています。特にテレ朝に対する視聴者の不信感は高いようですね。署名サイトのコメント欄を拝見しても、そのような意見がありましたね。「実際にテレ朝に抗議したが、まったく蛙のツラにションベン」とおっしゃる方もいます。またファンの方のご意見として、「国際スケート連盟にメールで抗議したいが、英語が書けない」とおっしゃる方も多いようです。実際には、自分の言葉で書くことが大事で、100%正しい英語である必要はないのですが、確かに英語で意見するのは日本人にはハードルが高いかもしれません。「署名プロジェクトの詳細」の立案にかかわったのはMizumizuなのですが、この内容を英訳し、Mizumizuが国際スケート連盟に送り、そのあとで拙ブログにのせ、賛同できる方が、個々人で「私はフィギュアスケートの1ファンとして以下の意見に賛同します」というような内容(これもこちらで英訳します)を文頭につけ、国際スケート連盟のCotact先にメールを送る、というようなことはどうでしょうか。国際スケート連盟のCotact先には名前とメールアドレスを入力して意見を送ることができるようになっています。文面は同じになってしまっても、送っている方が違えば、多くの意見であるということが国際スケート連盟にも伝わるかもしれません。個々人が自分で書いた英語を送るより、多少チェーンメールの匂いがあっても、この方法のほうが「意見を伝える」ということでは、効果があるかもしれません。これについて、皆さんはいかがお考えですか?賛成・反対(特に想定される問題点など)のご意見を募集しますので、メールでお寄せいただけませんでしょうか。「こうした方がもっといいのでは」というような意見でもかまいません。お待ちしております。Mizumizu拝
2009.01.10
「おかしなフィギュアスケートの採点をなんとかしたい」に、たくさんの署名をありがとうございます。1日もたたないうちにすでに350人以上の署名が集まっています。いかに今季の採点に疑問をもっているファンが多いか改めて実感しました。コメント欄に一言、思いを書いていただくのもよいことだと思います。引き続き、署名を募集していますので、ご賛同いただける方は署名をお願いします。http://www.shomei.tv/project-603.html今回のプロジェクトを立ち上げたsindoriさんから、新たな署名募集のメールが届きました。世界選手権の後、オリンピックシーズンに入った4月に行われる国別対抗戦などという無意味なイベントに、日本シングルのトップ選手の派遣を見合わせるよう要請するための活動で、今回の提出先は日本スケート連盟になります。浅田真央人気を当て込んだ商売であることはミエミエですが、私たちファンはこういう無意味なお祭りイベントより、選手のコンディションを何よりも大切に考えているということを伝えることが目的です。そもそも今の日本のフィギュア選手のスケジュールは過密すぎます。グランプリシリーズ、ファイナル、全日本、4大陸、世界選手権、その間にショーが入り、どのイベントでも選手は常に全力で、足を運んでくれるファンに満足してもらおうと頑張ります。だからこそ選手を、人気があるときに金稼ぎをさせる消耗品のように扱ってほしくありません。もう少し休ませてあげないと、ただでさえ短いフィギュアスケート選手の選手生命が、またもっと短くなってしまいます。こちらの署名は、以下からできます。http://www.shomei.tv/project-608.htmlあるいはこちらから。http://www.shomei.tv/→「呼びかけ一覧」→「フィギュアスケート国別対抗戦反対」ご賛同いただける方の署名をお待ちしております。
2009.01.08
読者の方からの呼びかけで、オンライン署名サイトの「おかしなフィギュアスケートの採点をなんとかしたい! 」という署名プロジェクトの立ち上げに協力させていただきました。是非お読みいただき、ご賛同いただけるかたは署名をお願いいたします。今回の提出先は「団体戦」なる無駄な試合を放送する予定のテレビ朝日ですが、スケート連盟への要請としても文章が活用できると思います。諸悪の根源はなんといってもダウングレード判定。これには「回転不足ジャンプなのに認定されたりされなかったりする」という判定への不信感、および「ダウングレードされるとGOEでも減点となるため、失う点が多すぎる」という制度上の問題があります。この制度上の問題はもともとあったものですが、今季から判定が厳密化されたため、本来のジャンプの評価とかけはなれた点が頻出し、採点の正当性をゆがめています。もうひとつはGOEによる加点・減点です。GOEにからめた詳細説明の3のcがちょっとわかりにくいかもしれませんが、ジャンプの加点・減点については、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%AE%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%A8%E5%BE%97%E7%82%B9をご覧ください。つまり、トリプルアクセル以外の3回転ジャンプはマイナス3からプラス3まで、GoEジャッジがつけた点がそのまま反映されてしまうため、「異常な加点」と見てる者が思う点数が与えられてしまうのです。一方でトリプルアクセルや4回転は減点が過剰(ジャッジがマイナス1とつけてもマイナス1.4、マイナス1.6というように減点される)なため、難しいジャンプを跳ぶ選手には不利になっています。一方で、2回転ジャンプは加点も減点も過小であるため、大きな影響がないのです。3回転ジャンプの加点・減点もこれ(2回転ジャンプの加点・減点の反映のしかた)にならうべきです。現在のアクセル以外の3回転ジャンプの加点・減点は、客観的であるはずの基礎点を匿名の主観点であるGOE点でないがしろにすることにつながります。それぞれのジャンプの質を評価して点に反映させることに反対はしませんが、程度の問題です。ダブルアクセルは加点のみ3回転ジャンプと同じくジャッジの点がそのまま反映されるのに対し、減点は2回転ジャンプに準じる程度に過小です。ですから、ダブルアクセルをきれいに跳ぶと、それよりはるかに難しいはずのトリプルループの基礎点である5点以上の点が与えられるなど本末転倒な現象が起こっています。こうした例は枚挙にいとまがありません。主観による加点・減点にこれほどの点数を幅を与えるのは、ジャンプの正当な評価という意味においてもきわめて不適当です。もう1つの問題点は、GOEや演技構成点を「誰が何点つけたか」が匿名で、公表されないことです。この不透明性がファンの不信感を招いています(参加したジャッジの名前自体は、技術審判、演技審判とも公開されています)。演技構成点も、匿名で採点が行われるため、特定の選手に対して他のジャッジとあまりにかけはなれた点をつけるジャッジがいるなど、責任をもった審査が行われているのかどうか、ファンは疑いの目を向けています。「誰が誰に高い点をつけ、誰が誰に低い点をつけたのか」を明確にすべきです。署名は実名のみですが、「匿名希望」にチェックしていただければ実名が公表されることはありません。署名サイトは・・・http://www.shomei.tv/の左端のカテゴリーの「その他」→タイトル「おかしなフィギュアスケートの採点をなんとかしたい!」です。あるいは、こちらから直接いけると思います。↓http://www.shomei.tv/project-603.html「そういうことして何になるの?」と思われるかもしれません。しかし、意見を伝えることはそれなりに意義があります。Mizumizuは昨シーズン、エッジ問題で、キム選手のフリップが中立に入るクセがあり、ときにアウトに入っていることもあるのでは、と疑いをもっていました。それを日本スケート連盟と国際スケート連盟にメールで意見しましたが、今季1度だけですが、違反判定がでました。曖昧なので、はっきりwrong edgeだとは言い切れないこともあるのですが、少なくともジャッジが注視するきっかけの一助にはなったかな、と思っています。私たちはできるかぎり客観的で正当だと多くの人が納得できる採点の競技を見たいだけです。今のフィギュアの点の出方は誰が見たって異常です。
2009.01.07
<きのうから続く>浅田選手はグランプリ・ファイナルでは最初の3A+2Tと3Aを「誰も文句つけられないぐらい完璧に回りきって」着氷も決めた。「ちょっと回転不足気味なジャンプ」が認定されたりされなかったりといったグレーゾーンはあるが、ここまでピタッとおりれば、ダウングレードされることはない。「疑惑の判定」はあくまで、足りてないのに認定されたり、スローで見てもわからないくらいなのに認定されなかったりすることだ。で、全日本ではこの2つのトリプルアクセルが「ちょっとだけ回転不足」でダウングレードされた。そうなると実際に点数がどうなってしまうか見てみよう。(グランプリ)3A+2T 基礎点9.5 (GOEプラス2が1人、プラス1が6人、ゼロが2人) 得点10.3点(全日本)3A(<)+2T 基礎点4.8 (GOEでマイナス1が6人、マイナス2が1人) 4点つまりこの1つの連続ジャンプでファイナルのときより6.3点も下がった。(グランプリ)3A 基礎点8.2 (GOEプラス2が3人、プラス1が5人、ゼロが1人) 得点9.6点(全日本)3A(<) 基礎点3.5 (GOEでマイナス1が6人、マイナス2が1人) 2.7点この1つのトリプルアクセルでファイナルのときより6.9点も下がった。合計で13.2点も下がった!つまり、このファイナルのように「もうちょっとだけ回って」完全に回りきっていれば、13.2点上がり、単純にいって130.35点(117.15+13.2)という点が出たのだ。これは後半の3F+3Loのダウングレードはそのままだ。つまり、後半の3Loをダウングレードされても、3Aを2つに、後半の3Fだけを決めてもそのくらいの点が出るということ。しかもこのときはサルコウを失敗している。この計算はファイナルの点にも当てはまる。ファイナルのフリーの点は123.17点だったが、後半の3F+3Loの3Fでコケたため、この部分の点は3F(<)基礎点1.87(←これが2Fの基礎点)、GOEは全員マイナス3で点が0.87点。ここから最後のマイナス1がくるから、マイナス0.13。マイナス点なのだが、まあ、単純にゼロ点として、この微妙にマイナスのゼロ点ジャンプを含んでの点が123.17点。3フリップだけを決めていれば、基礎点の6.05点(フリップの基礎点は5.5点、後半に跳ぶと10%増し)が入る。実際に決めれば加点も入るので、実際はもっと点が出る。単純に基礎点の6.05点を123.17点に加えれば、129.22点。ほら、やっぱり130点近いでしょう?トリプルアクセルを2度決め、後半に単独3フリップだけでも入れれば、国際大会での基準でも130点近くは出るプログラムだということだ。3F+3Loの3Loをダウングレードされたり、失敗して1Fになったりすると、かえって3F単独のジャンプのほうが加点もつきやすいから点数は出たりする。だが、浅田選手はどうしてもここに3Loをつけたいのだ。なぜか?キム選手がセカンドに2度3トゥループを跳ぶからだ。一方、浅田選手がこの後半の3Loを省いてしまうと、結局3回転+3回転のないプログラムになってしまう。基礎点からいったら、5回転半にしかならない3A+2Tより、点数が高いのだ。昨シーズンまではこの3F+3Loは、キム選手の3F+3Tに対抗する連続ジャンプとして使い、成功すれば大きな点数を稼ぐ強い武器だった。昨シーズンの世界選手権でのショートの連続ジャンプを見てみよう。浅田選手 3F+3Lo 基礎点10.5点、ここに加点がついて12.07点(加点1.57点)キム選手 3F+3T 基礎点9.5点、ここに加点がついて11.36点(加点1.86点)わかりますか? キム選手というのは「加点が命」の選手。しかもこの3F+3Tが最大の武器だ。ここで11.5点前後などという破格の点数を稼ぎ出す。だが、その「最大の武器」も、浅田選手に3F+3Loを跳ばれてしまっては、いかに加点を大盤振る舞いでもらっても、絶対に勝てない。キム選手だけではなく、セカンドに3Tを跳ぶ選手は、コストナー選手。それにカナダのロシェット選手もまだ試合では成功していないが、用意している。彼女たちにとっても同じことなのだ。あとはトップ選手とはいえないが、レピスト選手も3トゥループ+3トゥループをもっている。だが、それも浅田選手と安藤選手に3ルッツ/フリップ+3ループを跳ばれてしまっては、手も足もでない。だったらどうするか? 決まったジャンプも決まってないことにすればいいのだ。ループとトゥループを比較した場合、当然ながら簡単なトゥループのほうが完璧におりやすい。ジャンプの難易度は難しいほうからアクセル→ルッツ→フリップ→ループ→サルコウ→トゥループだからだ。セカンドに3ループが跳べる安藤選手と浅田選手は、以前は3トゥループを跳ぶ必要がなかった。より基礎点の高いループを強化すればいい。だから、彼女たちはセカンドのトゥループに力を入れなかったのだ(浅田選手は今季は入れていないが、昨季は入れていた)。浅田選手はトゥループのほうがセカンドにつけると回転不足になりやすかった(去年は)。逆に3F+3Loについては、昨シーズンまでは、「しっかり跳べば認定してもらえる」と浅田選手は思っていたはずだ。ところが今シーズンは、認定されて12点もの点になっていた3F+3Loの3ループがまったく認定してもらえない。今季成功した(そしてダウングレードされた)浅田選手の3F+3Loは、どれも去年認定してもらって加点をもらったものより完成度が高い。リンクサイドのプロ中のプロ、タラソワ・コーチでさえ「クリーンにおりた」と思っているはずだ。だが、セカンドに跳ぶ2ループというのは、肉眼では見えなくても、どうしても小さなキズ――角度をかえてみれば、常にちょっとだけ足りない――がつきまとうのだ。それがスローで再生するとわかってしまうというわけ。オーサーがたった1度認定された安藤選手のセカンドの3ループをスローでコマ送りさせて、「ほら! 足りてない!」と勝ち誇っている映像をご紹介したが、肉眼ではわからない不足が、どうしてスローを再生させる前からオーサーには察しがついていたのだろう? 恐らく彼は知っているのだ。セカンドの3ループというのがスローで見れば、そう見えるジャンプだということを。それを狙って今季厳しくしてきたんだから。彼はキム選手がwrong edge判定されたとき、「お友達を通じて、非公式に抗議する」と言った。そのお友達というのが、カナダ人の例の有力者。思い出してください、今季のNHK杯のショート。浅田選手のセカンドの3ループを、解説の荒川静香が「見てみましょう」と角度をかえたスロー再生を見て、「大丈夫そうですね」と言っている。あれが、昨季までの、普通のプロの感覚だったのだ。それが今季からクレイジーな感覚になった。安藤選手もそう。彼女は3ルッツ+3Loで12点前後の高い点を稼ぐ選手だった。ところがダウングレード判定になると、それがいきなり6点、7点と下がってしまうのだ。今季のグランプリ・ファイナルのショートでのキム選手と浅田選手の連続ジャンプの点を見てみよう。このとき2人とも見た目にはクリーンに連続ジャンプを成功させている。浅田選手 3F+3Lo(<) 基礎点7点、ここから減点されて5.2点(減点1.8点)キム選手 3F+3T 基礎点9.5点、ここに加点がついて11.5点(加点2点)これがショートでの点が僅差でキム選手のほうが上になった、すべてのカラクリといっていい。世界選手権では勝っていた点が、回転不足判定によるダウングレードで、いきなり大負けになる。お互いに成功させた(ように見える)連続ジャンプ、それも自分のほうが難しいジャンプを跳んでいるのに、6.3点もの差をつけられては、「相手が相当失敗してくれない」と太刀打ちできない。そしたら、ショートでキム選手が得意のルッツでスッポ抜けをやったのだ。だから僅差で助かった。このカラクリがわからない素人は、ファイナルのショートで、「明らかにジャンプを1つ大失敗した」キム選手が、「ノーミス(に見える)」浅田選手に僅差で勝ってるのをみて、ビックリする。そこで、わずかな演技構成点までもちだして、「キム選手は、ジャンプの失敗をおぎなえるほど芸術性が高い」などというトンデモな論評がはびこる。あるいは「キム選手は審判を買収して高い点をもらっている」という噂話が広まる。「回転不足はダングレードせず、GOEでの減点のみに留める」というまっとうな方法なら、こんな点差はつかない。つまり回転不足の3回転ジャンプは、「2回転の失敗(まわりすぎた2回転)」ではなく、あくまで「3回転の失敗(足りなかった3回転)と考えるべきなのだ。つーかさー、ふつう誰だってそう考えるでしょ。だから回転「不足」というのだ。ふつうじゃない理屈をつけてダウングレード判定を導入したのは、すでに何度も説明した「4回転を規制するため」だった。まっとうな、「回転不足は3回転の失敗、だからダウングレードはせず、GOEでの減点だけにする」とどうなるか?浅田選手 3F+3Lo 基礎点10.5点、ここからGOEで、たとえば1.5減点されたとしても9点キム選手 3F+3T 基礎点9.5点、ここからGOEで、たとえば1.8点加点されたとしても11.3点これなら2.3点の差。このくらいなら、浅田選手のループには「回転不足がありましたから」といわれれば、見てるファンもそれほど違和感はないはずだ。まさか、同じように決めてるように見える1回の連続ジャンプで、加点・減点も含めると6点も7点も違っているなど、ふつうは想像もしないだろうと思う。その想像もできない減点をしてるのが、今のダウングレード判定なのだ。回転不足というのは、肉眼ではわからなくても悪いジャンプには違いない。だから減点されることは当然といえば当然なのだ。問題はその程度だというのは、このことを言っている。ジャンプが不足気味になりやすい若い選手にも影響は甚大だ。アメリカの長洲未来選手は昨季の世界ジュニア選手権では162.89点を出したのに、今季のNHK杯(全日本で女子のスペシャリストをつとめた天野氏がアシスタントスペシャリストだった)で124.22点!。40点近くも下がってしまったのだ。もはや笑うしかない。ジャン選手もジャンプをあっちこっちダウングレードされるので、のびざかりのはずが、今季はいきなり弱くなった。アメリカというのがまた、有色人種(アジア)系の選手と白人の選手が強いと、必ず白人の選手を「あげ」ようとする。あるいはアジア系の選手を「さげようとする人が多い」というべきか。さんざん「フィギュアは表現力」と言っていたくせに、中国人系のクワン選手のライバルとして若い(ほとんど幼児体形だった)リピンスキー選手が出てくると(それもちょうどプレオリンピックシーズン)、あの回転不足気味の3ループ+3ループを高く評価し、クワン選手はリピンスキー選手に負け続けた。クワン選手は「ミス・パーフェクト」と呼ばれ、3+3はないものの、フリーでは2つのルッツを含めた5種類のジャンプを安定してすべて決めることができ、表現力に高い評価が与えられる選手だった。そこに3+3を跳ぶ若い選手が出てきたら、いきなりそのジャンプをやたらと評価したのだ。フィギュア・スケートの採点というのは、こういう世界で行われているということだ。<フィギュア・ネタはいったんここで終わりにします。明日からは、お気ラク日常ネタ、美味しいものネタ、旅行ネタなどに戻ります。よろしければ、また気晴らしにのぞきに来てください。では、みなさん、4大陸選手権での日本選手のよい演技に期待しましょう。浅田選手には休んで欲しいですが>
2009.01.03
<きのうから続く>グランプリ・ファイナルを見てください。なりふりかまわず判定基準を変えて必死こいて日本女子を「さげ」ようとしてるのに、結局ヨーロッパの選手(何カ国あるんだか、まったく)は1人しか入ってこなかった。判定の厳しさにみんなビビってしまってミスばかりするからだ。日本からは3人も出てる。キム選手のコーチがオーサーが、「日本の選手の点は高すぎるわよッ!」と叫べは、プロトコルを分析できない日本人以外の素人なら真に受けて、「そうなんだ。日本の女子って不正に高い点をもらってるから強いんだ」などという事実とまったく違うイメージが世界に定着してしまうかもしれない。回転不足判定されるとたいていの場合、「回りきっての転倒」より低い点になるなんて、素人は誰も想像していない。そして、それが他国の選手には跳べない「トリプルアクセル」「4回転サルコウ」「セカンドのトリプルループ」にとっていかに大きな壁となって立ちふさがるか、日本のメディアでさえ、まるで示し合わせたように黙っている。ようやく「回転不足判定があり…」ということは、日本の新聞も書くようになった。だが、それがまったく理屈のとおらないひどすぎる減点になることはなぜか誰も追及しない。それどころか、「浅田真央は3回転+3回転を過去の試合ではいずれも失敗」なんて書いている。確かに自爆やフリーでのコケもあったが、「どうみたってきれいに決めたように見えた」NHK杯やグランプリ・ファイナルのショートの3+3Loの3Loを回転不足判定で「2回転の失敗」にされていた、ということまでは書いていない。そして、冴えたるものが今回の全日本のフリー。浅田選手は「ダブルアクセルを2度も失敗し、3フリップにダブルループをつけて失敗する選手」にされてしまったから、ルッツもフリップも跳べない武田選手の技術点とどっこいどっこい。ね? 国際スケート連盟の黒い意思がわかりましたか? つまり、武田選手と同レベルの女子選手なら、ヨーロッパにもいるのだ。彼女たちは、マトモなルールでは浅田選手には絶対に勝てない。だが、難しい、苦手なジャンプを回避してミスなくまとめて(きれいに決めれば加点がつくから、リスクをおかして失敗する可能性のあるジャンプに挑戦する意味はないということ)、ジャッジが浅田選手のトリプルアクセルと3ループを計3つダウングレードしてくれれば、あ~ら、不思議。みんな浅田選手と同じ点が出る!まさにミラクル・ルールのダウングレード判定。特にセカンドの3ループをダウングレードされるのが、浅田選手にとっては致命的ともいえる痛手になるのだ。なぜか?単純に基礎点の問題。トリプルアクセル+ダブルトゥループは基礎点が9.5点。これがダウングレードされると基礎点4.8点。ここからGOEで減点されるから4点前後にしかならない。つまり一挙に5.5点もの点がなくなる。トリプルフリップ+トリプルループは基礎点が10.5点。難度から言えば3A+2Tのが難しいが、単純に3回転+3回転は6回転、3回転半+2回転は5回転半なので、その分点が低い。フリー後半にとぶ3F+3Loは、基礎点が10%増しになるので、5.5点(3フリップ)+5点(3ループ)=10.5点x1.1=11.55点もある。3ループが認定されさえすれば、この点が入るし、たいていの場合加点になる。ところが、3ループが回転不足となると、基礎点が5.5(3フリップ)+1.5(2ループ)=7点x1.1=7.7点に下げられ、そこからGOE減点(2回転ジャンプの「失敗」だから)がくる。今回全日本でGOEジャッジの減点は控えめだったから、浅田選手のフリーのこの連続ジャンプは結局6.5点という点になったが、国際大会のGOEジャッジはもっと辛辣だから、点はさらに下がる。単独の3フリップだって後半に1つ跳べば5.5x1.1=6.05点。ふつう決めればこれに加点がつくから、結局連続ジャンプを入れた意味がないということになる。GOEジャッジの減点のつけ方によっては、単独より悪い点になる。ここでもやはり、11.55点の基礎点に対して約5.5点なくなるということになる。3A+2Tと後半の3F+3Loの2つの連続ジャンプをダウングレード判定されるだけで、一挙に11点以上(以上、というのは、決めればたいてい加点がつくからだ)なくなっているということだ。単独の3Aまでダウングレードされるともっと失う点は多くなる。「3回転ジャンプで回転不足判定されるより、2回転ジャンプをきれいにきめたほうがいい」というのも、たとえば3F+2Loの基礎点が7.7点でも、3Loが回転不足と判定されるとここから減点になるのに対し、もともと2Loにしておいてきれいに決めれば、ここから(たいていの場合)加点されるからだ。その判定が、「肉眼ではきれいにおりているように見えても、スロー再生で見るとちょっとだけ足りない」ジャンプにジャンジャン下されているのだ。誰が考えたってクレイジーでしょ? この採点。スローで見ないとわからないような3回転ジャンプの回転不足まで、「2回転ジャンプの失敗」などと強引なことを言っているんだから。すでに書いたように、もともとはこれは男子の4回転を規制したくて入れた理論だ。男子は、どんどん大技に挑戦する選手が増え、4回転を跳ばないと勝てないような状況になり、それとともにトップ選手が次々悲劇的な怪我で選手生命を絶たれるという事態に陥った。ところが、このダウングレード判定、2季前から、むしろ女子の3回転ジャンプを「さげ」るために利用されるようになり。今季からは、いよいよ「安藤・浅田選手には勝たせない」という黒い意思が、これ以上ないくらい明確になった。安藤選手、浅田選手(そしてジュニアの世界トップになったアメリカのフラット選手)は、セカンドに3ループをつけられる世界で稀有な存在なのだ。2季前に安藤選手が世界女王になったのは、女子では最高難度で、安藤選手しか跳ぶことのできない3ルッツ+3ループをショートでもフリーでも決めたからだ。だが、安藤選手にせよ、浅田選手にせよ、セカンドの3ループというのは、常にちょっとだけ回転不足になる。そこに目をつけた誰かが、手を回したということだ。このルール基準運営の変更が狡猾なのは、オリンピックのプレシーズンである今季にいきなりものすごく厳しくしてきたということだ。これが最初から、それでなくても数年前からであれば、セカンドを3トゥループにかえて強化するなど、対策は十分取れた。だが、もうオリンピックは次のシーズン。いまからセカンドを3トゥループに変えて完成させるのは、非常に難しい。浅田選手はもともと昨シーズン3F+3Tをやっているから、できるかもしれない。だが、それは、彼女にとっての大きな武器を放棄して、わざわざキム選手には質の面の評価で負けるとわかってる技に落とすことを意味する。浅田選手がなんとしても、3F+3Loでこのクレイジーなルールを正面突破したい(つまり3ループを完璧にクリーンにおりること)のは、3F+3Loのほうが3F+3Tより基礎点が高いため、認定さえされれば、キム選手に対して優位に立てるからだ。安藤選手は浅田選手以上に難しい3ルッツ+3ループを武器にしてきた。これで12点以上の点を稼いできたのが、アメリカ大会ではダウングレードにGOE減点で6.5点。基礎点が下がることに加えて、加点と減点の幅もあるから、一挙に6点以上の点を失うのだ。一方のキム選手は、セカンドの3Tが足りなかったのに、認定されて(これも「ジャッジは4分の1回転以下の不足だから認定した」と言われればそれまでなのだ)、加点をもらい3F+3Tで10.7点。さすがに、グランプリ・ファイナルほどの大盤振る舞いの加点ではないが、1回しかないショートでの連続ジャンプで4.2点もの差をつけられてしまうのは非常に痛い、致命的に近い。セカンドに3ループを跳ぶトップ選手が安藤選手と浅田選手。セカンドに3トゥループを跳ぶ、あるいは用意してるトップ選手が、キム選手、コストナー選手、ロシェット選手。で、国際スケート連盟の会長と副会長ってどこの国の人よ?ココミテ↓http://www.isu.org/vsite/vcontent/page/custom/0,8510,4844-161657-178872-20148-73966-custom-item,00.htmlセカンドに3回転が入るか入らないかは点数に大きく影響する。ジャンプの基礎点は単純に足し算されるから、連続ジャンプの2回目に3回転が入れば、3回転ジャンプの数が増えるからだ。ね? どうしてセカンドの3トゥループはときどき回転不足気味でも認定されているか、わかるよね。たとえば、こんなふうに↓氷におりてからエッジが回ってるセカンドのトゥループでも。http://jp.youtube.com/watch?v=c2GuzcjWn5c&feature=related(これをアップした人はキム選手のファーストジャンプのフリップのエッジがアウトに入っているということを言いたいらしい。確かにそうも見えるけど、まあ、村主選手の全日本のルッツのインに入って踏み切ってるのよりははるかに曖昧)。3Tに関しては、お互いさまなのだ。3Tまで3Loのように容赦なくダウングレードしては、「あげ」たい選手まで下がってしまうというワケ。気分が悪くなるほど、あからさまな話だ。<続く>
2009.01.02
明けましておめでとうございます。年末もたくさんのアクセスありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。<きのうから続く>「浅田真央優勝」は華々しく伝えるくせに、「なぜ浅田選手のフリーが村主選手より点が低いのか」については、見事にスルーするフジテレビ。解説のジュンジュンまで一緒になって、「プログラムコンポーネンツ、ダントツですねぇ」なんて、技術点の異常な低さから素早く話をそらせている。村主選手の121.27点などありえないスコアだ。後半の3F+2Tをちゃんと厳しくジャッジし、ダウングレードすれば、それだけで3点以上下がり、エッジをちゃんとE判定にすれば、今回の加点0.2点(!マークだとGOEはジャッジまかせになる。Eだと減点しなければならない)がなくなった上にルッツ2つで平均3点(あの跳び方ではもっと引かれるかもしれない)の減点なので3点以上は下がる。合計6点以上下がるから115点以下。演技構成点の「無理あげ」を引かなくても、結局この程度の点数しか出なかったはずの演技なのだ。この点ならまだ納得だし、後から滑った浅田選手のフリーの点(117.15という信じられない低スコア)の下に来るから、全国民が「はあ~?」と驚くようなことにはならなかったのだ。「ファンなめ」の恥ずかしいジャンプ構成の選手が、世界一レベルの高いハズの日本女子のフリーで1位なんてこともなかったということ。浅田選手の「狙われている」トリプルアクセルとセカンドのトリプルループは異様に厳しい基準でダウングレードしてるのに、明らかな回転不足ジャンプを認定したりするからおかしなことになる。おまけに、全世界に向って、「浅田真央が3Aを2回入れようと、3F+3Loをおりようと、ちょっとでも足りないところをスローで見つけたら、どんどんダウングレードしてください」と自国のジャッジが宣言したようなものだ。何度も言っているが、3Aの回転不足ならなんとかできる。だが、「4分の1以上回転不足の場合」原則などお構いなしでセカンドの3Loをダウングレードされたら、完璧におりるなど針の穴をとおすようなものなのに。逆に村主選手は3サルコウを抜いても、やっぱり後半の3F+2Tの3Fが回りきらなかったということだ。つまり、3回試合をして全滅だったということ。次の試合では、どうにか後半の3Fだけでも回りきってほしい。2Tはつけられなくても、単独3F2つなら、違反減点はたいしたことはない(同じ種類のジャンプを入れるときは必ずどちらかが連続にならなければいけない)。3サルコウ挿入より当然こっちのほうが優先。エッジは負担であってもズルをせず、きちんと直した跳び方で跳ぶことだ。海外で参加した過去2試合では矯正したエッジでちゃんと跳んでいる。そしてちゃんと跳べば、逆に村主選手の3Lz+2Tは必ず加点がもらえる。1度こうやって以前のやり方に戻してしまうと、またクセが出て、それこそ直したエッジで跳んでるつもりでも「!」がつくような曖昧なエッジになってしまうかもしれない。3サルコウより、やはりこちらが優先。みなさんは、次の村主選手の試合では、後半の3フリップ(+2T)のところで、伊藤みどりばりに、「回って~」と叫びましょう(笑)。しかし、全日本女子は、疑わしい採点と意図的な選手選抜が結託した、いやな試合だった。浅田真央で思い切り潤っているくせに、彼女が絶体絶命の縁に立たされても助けようともせず、長いものに巻かれてるだけの連盟。競技大会をショーとしてしか考えていない、歪んだ日本のフィギュア・スケートを取り巻く環境。ダウングレードの不条理には触れもせず、「キム・ヨナとのライバル対決」で煽るメディア。こんなにまで人為的に不利にされたルールのもとで浅田選手は戦っているのだ。韓国でキム選手相手に、堂々と正面突破で勝ったということが、どんなに凄いことか想像できますか?フィギュアの商業化は、もちろんいい面だってある。以前は家族がモノを売ってまで選手の競技生活を支えなければいけなかったフィギュア・スケート。今では選手が稼げるようになった。ところが、それと同時にタレント扱いが始まり、大技でファンの目を惹きたいスポンサーの演出にそって、選手がやたらと大技への挑戦を力強く叫んでいる。大技はすでにエレメンツの1つに過ぎず、それをやれば勝てるものではなくなっているというのに。織田選手が全日本後に、「世界選手権では4回転絶対やる」などと宣言する必要はまったくないのだ。あんなことをいってしまっては、後に引けなくなる。4回転は必要な場合もあるが、不必要な場合もある。本人のジャンプの調子もある。ケースバイケースで判断すべきなのだ。4回転「だけ」決めても、ほかのジャンプを連鎖的にミスしてはまったく意味がなくなる。全日本の大一番で、織田選手は4回転を失敗しても、後半のトリプルアクセルを含めて他のジャンプの失敗がゼロだった。小塚選手はやはり後半のトリプルアクセルを失敗した。4回転を武器にできる選手とできない選手の境界線上に織田選手がいるとすれれば、小塚選手は武器にならない領域にいる選手なのだ。大技を入れるかどうかはそうやって合理的に考えるべきものだ。今季は日本男子が世界王者になるのに、絶好のチャンスがめぐってきている。もっとも世界王者に近いのは、客観的に見て織田選手だ。小塚選手も今季世界で上から4番目の成績をもっている。小塚選手は織田選手よりスピンでレベルを高く取れる選手だ。さらに、減点の少ない素晴らしいプロトコル――ジャンプでも加点、スピンはレベル4がずらりの上に加点、ステップでも加点――こんなに傑出した才能をもった選手は世界でもそうそういないのだ。減点ゲームの今季のルールのもとでは、こうした選手が絶対的に強い。それなのに、小塚選手は「最終グループに入るのが目標」などと自分を過小評価し、「4回転を決めたい」などと誤った目標にとらわれている。日本男子は無茶な大技に挑戦する一方で、自分をひどく過小評価している。控えめな性格もあるが、逆に言えば冷静さと客観性が欠けている証拠だ。小塚選手の最重要課題は4回転ではなく、フリー後半の2度目のトリプルアクセルだ。この最大のヤマ場に向うため、振付では3連続ジャンプとイーグルからの3ループのあと、少しポーズを入れて「お休み」をさせる。そして、息を整えたあと、ニーノ・ロータの切ないメロディーにのってトリプルアクセルへと滑走し、音楽が盛り上がるのとシンクロして高くジャンプし、バーンと決める――つもりの素晴らしい振付。なのだが、これがなかなか決まらない(トホホ)。今のところ1勝3敗。あまりに確率が悪い。実際のところ、この部分の助走の音楽が少し足りないのかもしれない。ニーノ・ロータがもうちょっと音符を書いていてくれたらもっと滑走時間が長くなり、スピードがつくので、決めやすいのかも。ただ、それは音楽との調和なので、もうどうにもならない。ここのクライマックスのジャンプが決まれば、プログラムの感動は一挙に増幅される。小塚選手の次の試合では、みなさん、伊藤みどりになってこの後半のトリプルアクセルで、「跳んで~」と叫びましょう(笑)。3連続と3ループのあと、少し「お休み」が入った直後です。お忘れなく。安藤選手はファイナルで4サルコウを久々に跳んだが、コケもせず、伊藤みどりが「トリプルサルコウ」と言ってしまうほど自然に着氷した。もちろんスローで再生すれば回転不足だったが、他のジャンプも大きなミスなくまとめた。つまり、一応そのレベルまで高めてから試合で使ったのだ。にもかかわらず、今季のルールでは認定されないのだ。これはシーズン前に安藤陣営が立ててきた戦略のミスでもなんでもなく、突然ルール基準が変えられてしまったために起こった悲劇だ。トリプルアクセルより難しい4サルコウとセカンドの3ループを武器として使うつもりだった安藤陣営には予想外の大打撃。今季のルール基準の変更にともなう最大の被害者が安藤選手だというのは、こうした理由だ。拙ブログに寄せられる多くのメールを読むと、むしろ一般のファンのほうが、すでにそのことをよくわかっている。同時に、難しい技にちょっとでもキズがあるとすぐ減点する今季の異常な判定の理不尽さも。この「ふつうの人」の賢さが、やはり日本という国のよさだと心から思う。そして、やはり今季の試合の最大の問題はルール基準の解釈、つまりはジャッジングの不透明さだろう。試合をやればやるほど、いかに判定がバラバラか、wrong edgeといってもその判断が適当か、わかってくる。回転不足にいたっては、ライブで見ていても肉眼ではわからない。テレビで解説者とアナウンサーが、「いいジャンプでした」「これはきれいに決まりましたね」と言ってるジャンプが実はダウングレードで、転倒より低い点になっていたりする。一方で肉眼でもわかる回転不足が認定されていたりする。しかたないので、解説者は、「ジャッジがどう判断するかですからね~」なんて投げてしまうしかない。人数の多いGOEジャッジがそれぞれ回転不足とwrong edgeを判断したら、さぞやメチャクチャになるだろう。それはそれで、いかにフィギュアの採点がテキトーかわかって、おもしろかったりしてね、アハハ(←乾いた笑い)。韓国のあの異常な雰囲気のファイナルを戦ってきた浅田選手は、全日本ではやはり疲労が色濃かった。だが練習ではだいぶジャンプは不安定だったのに、フリーでは3Aを2つおりて、課題だった3F+3Loも入れたのだ。本当にすごい根性。ほぼ2週間に1度の試合を4回なんて、殺人的だ。もうお願いだから真央ちゃんを休ませてあげてください。これでさらに4大陸にも出すのですか? 「セカンドの3ループ認定しないぞ攻撃」に対する対策を立てる暇もない。「4大陸までに直したい」という浅田選手のコメントをそのまま載せて、新聞は「修正可能」と簡単に書いているが、3Aの回転不足は確かに直せる。だが3Loのほうは、ものすごく難しい。確かに「ちょっとだけ足りない」だけだから簡単そうに見える。だが、その「ちょっとだけ」がほとんど宿命的なものだからだ。だって、肉眼ではわからないんですよ。その程度のエッジの動きを複数のカメラで監視し、スローで見てダングレードしてくる(しかも、ほとんど4分の1基準は無視してるとしかおもえない)なんて、シーズン前は想像もしていなかった。4大陸は最初こそ、男子の本田武史のようなトップ選手が派遣されていた(というか、日本男子には他に世界レベルで戦える選手がいなかった)が、その後は世界選手権とは別の選手が行くようになった。再びトップ選手が派遣されるようになったのは、国際スケート連盟からの要請があったということだが、浅田選手が出れば視聴率が稼げるスポンサーの意向とも合致しているように思う。国際スケート連盟が日本のトップ選手を4大陸に出させ「たい」気持ちはよくわかる。ヨーロッパ選手権は伝統のある格式の高い大会。もともと4大陸なんて大会はなかった。そうすると、ヨーロッパの選手がハードなヨーロッパ選手権を戦ったあと、世界選手権を戦うのは、同じグレードの大会のないアメリカ選手や日本選手のトップに対して不利になる。それでヨーロッパ選手権に匹敵する大会を非ヨーロッパ選手向けに作った。それが4大陸。ヨーロッパの思惑としては、非ヨーロッパ選手を試合で疲れさせたいのが一番なのだ。けどねぇ、全米選手権も全日本選手権も、ヨーロッパの国内選手権とは比べ物にならないくらいハードなんですよ。昔は世界一過酷な国内大会は全米選手権で、全米で1位だった選手が世界選手権で2位、全米で2位だった選手が世界選手権で1位、なんとこともあったし、ロシアが強かったころは、前年世界選手権でメダルを獲った選手が翌年代表になれないなんてこともあったが、今は日本が世界一レベルが高い。
2009.01.01
<きのうから続く>フジテレビは中野選手の昨季の世界選手権のフリーに関して、「ノーミスで滑って、スタンディングオベーションをもらった」と放送した。これは後半は正しいが、前半は正しくない。世界選手権の中野選手は、確かに見た目ノーミスで、会場は大感激した。ヨーロッパの観客が立ち上がって中野選手をたたえたのだ。だが、出てきた点数は、解説のジュンジュンが「あれ~?」と思わず言ってしまうほど低かった。理由はもちろん、ダウングレード判定。ノーミスどころか、中野選手はトリプルアクセルと3フリップを回転不足判定でダウングレードされてしまった。つまり、中野選手はトリプルアクセルを跳んでダブルアクセルの失敗、3フリップを跳んでダブルフリップの失敗と判断された、大きな失敗が2つもあったのだ。これは「ノーミス」ところではない。点数上は、「回りきっての転倒」より低い点になる大失敗なのだ(回転不足判定されての転倒は、もっと低い。ジャンプによってはマイナス点)。だから、中野選手はフリーで順位を落としてしまって表彰台に立てなかった。中野選手の世界選手権のフリーに言及するなら、このカラクリを説明しなければいけないのではないだろうか?女子のフィギュア・スケートは、もはや回転不足判定によるダウングレードの数を競う競技になったと言ってもいい。しかも、微妙なものを認定する・認定しないは少人数のジャッジ次第。全日本女子フリーの順位は、トリプルアクセルどころか、3回転+3回転もなく、3回転エッジジャンプも跳べず、後半の連続ジャンプで肉眼でもはっきりわかる回転不足とセカンド着氷でオーバーターンし、個人としてのジャンプの力量も衰えている村主選手が1位(しかも121.27点という驚異的な点数)。女子では世界で他に誰もできないトリプルアクセルを2度跳び、3フリップ+3ループの連続ジャンプを跳んだ浅田選手が2位。ファンの方から、「今回の奇妙なダウングレード判定を言うなら、村主選手と中野選手のトリプルフリップ+2トゥループに触れないのはおかしい」とご指摘をいただいた。そのとおりでした。全日本のビデオを録画している方は、再度見ていただきたいのだが、村主選手の後半の3フリップ+2トゥループと次に滑った中野選手の後半の3フリップ+2トゥループ。これほどわかりやすいものはない。何といっても同じ連続ジャンプだ。村主選手は明らかに回転不足で降りてきたから、エッジがグルンと弧を描き、セカンドをつけるのが「やっと」になった。ジュンジュンが「2トゥループ、なんとかつけましたね」と言っている。ところがこのジャンプ、認定されたので、基礎点は7.48点のまま(セカンドで乱れたため、GOEでは減点されて6.08点)。そして次の滑走の中野選手。後半に根性で3フリップ+2トゥループをつけた。こちらはスムーズにおりた(ように見え)、すぐにセカンドジャンプに移っている。ところがこの3フリップはダウングレードされて、フリップにも「!」がつき、基礎点は3.3点、さらにGOEで減点されて3点。どうして、村主選手がセカンドの2トゥループをつけるのが大変だったのか?簡単な話だ。ファーストジャンプが回転不足だから。一方の中野選手は、たしかにスローでみたら少し回転が足りなかったようだが、その回転不足の度合いが少ないからすぐにセカンドジャンプをつけることができた。ジャッジだって、人間だから見逃しはあるかもしれない。だが、特定の選手へのあからさまなエッジ違反への甘い判定、回転不足の3フリップ認定、バランスを欠いたジャンプ構成のプログラムへの演技構成点の高得点――ここまでそろうと、むしろ「採点による順位操作はこうやるんです」の見本に見える。もちろん、色眼鏡かもしれない。だが色眼鏡をかけると妙に辻褄のあうところが気分が悪いのだ。キム選手の「エッジ違反見逃し疑惑」「回転不足のジャンプ認定疑惑」「進化しないジャンプ構成」について日本人は批判しているファンが多い。なのに、その日本で、ジャッジはこの3つを見事に兼ね備えた選手をフリーで1位にしたのだ。今回の村主選手のルッツのエッジ違反はキム選手の微妙なフリップなんてもんじゃなく、あからさまにインに入っていた。回転不足もあからさま、中野選手の同じ連続ジャンプと比べればよくわかる。ジャンプ構成はキム選手の比ではなくレベルが低く、「いつも同じ」どころではなく、「ジャンプの衰えを如実に示すもの」だった。村主選手が今回「ファンをなめたジャンプ構成」にしたのは、実のところある程度仕方がないとMizumizuは内心思っている。というより、本音を言ってしまえば、「すぐりんは3サルコウぐらいまだ跳べるのでは」と思いたいのかもしれない。モロゾフの村主選手のフリーのもともとのジャンプ構成の構想は、今回2A2回の部分に3Sを入れ、最後に2Aを連続させるというものだ。これなら、ジャンプ構成のバランスもよくなり、点ももっと稼げる。だが最大の鬼門後半の3F+2Tを決めるには、やはり3Sは今の村主選手の実力ではあまりに負担なのだろう。ロシア大会では、この構成をやろうとして自爆したのが伺える。そうなると3S回避にダブルアクセル3つの「ファンなめ」構成になるというわけ。このようにシーズン中でも選手の調子に合わせて、ジャンプ構成を比較的容易に入れ替えて組みなおせるようにするところが、実はモロゾフマジックの秘密でもある。選手にとっても比較的覚えやすく、しかもジャンプを入れ替えても点数をできるだけ失くさないようにする。その構成の組み方がうまい(これについては、また後日)。モロゾフは常にその選手にとって「どのジャンプを決めることが一番大切か」を見失わない。それが村主選手の場合は後半の3F+2T。そのために省かなければいけないものを省いたのだ。過去の村主選手の名プログラムといえば、何と言ってもベートーベンの「月光」が思い浮かぶ。浅田選手の「月の光」も素晴らしいが、村主選手の「月光」の表現もそれに負けない。彼女が胸に手を当てて天井を仰ぐと、それだけで氷の上に青白い月の光がさしてくるのが見えるようだった。まさしく村主選手にしか作れない世界。ピアノの音の1つ1つを大切にした繊細で情感のこもった動作。ああした静謐で透明感あふれる世界を作るには、技術も必要だが、年齢、そして本人のもっている雰囲気も大切だ。あまりに少女ではいけなし、といってあまりに大人でもうまくいかない。少女めいた可憐さをもちながら、幼くてはダメ。セクシーな肉体美をもった成熟しきった女性でもダメ。そうした条件に見事にハマった村主ワールドは確かに世界を魅了したのだ。だがそれも、ずいぶん過去の話になってしまった。モロゾフの振付はワンパタに陥っていて、村主選手の誰にも負けない個性を作るまでには至っていない。もっとも今はエレメンツでの点数稼ぎが何より大事なので、プログラムの雰囲気は必ずしも重要な要素ではないが。あまりに露骨な点数稼ぎと偏ったジャンプ構成は、それはそれとして批判されるべきだが、だからといって跳べなくなった3サルコウを入れて失敗してしまっては、現在のルールのもと、この厳しい全日本で勝ち抜ける確率は低くなる。村主選手の目的は、世界で一番層の厚い全日本でトップ3の一角を崩すことだった。全盛期のようなジャンプが跳べなくなった村主選手にとっては、あの戦略しかなかったかもしれない。だが、最大の問題はそれに対する今回のジャッジの評価なのだ。国際基準で判定せず、カナダのパトリック・チャン選手もびっくりの「無理あげ」したのでは、オリンピック直前の全日本選手権の再現でしかない。あのときも全日本で1位だった村主選手が3位だった荒川選手よりオリンピックでは演技構成点を含めたすべての評価で下だった。そうなることはわかっていたのだ。こういう、見たくなくてもそう見えてしまう「無理あげ」をしてる一方、「安藤・浅田には勝たせないぞ」ルールには見事に追随し、浅田選手の微妙だったセカンドの3ループは認定しなかった。中野選手の隠れた「失敗のお約束」、3F+2Tの3Fの回転不足もちゃんとダウングレードだ。中国大会で、キム選手のショートのフリップに「E」がついたとき、韓国でジャッジ資格をもつ人物が、「あれは、つけるとしても!で十分。自分がその場にいたら抗議する」と発言した。フィギュアの採点とは、そうしたものだ。繰り返しになるが、厳しく判定するなら、同じ試合で、少なくとも誰に対しても公平に厳しくなくてはならない。ところが、今回は明らかに回転不足のジャンプが堂々と認定されている。村主選手以外だと鈴木選手。鈴木選手のダウングレードはセカンドの3Tと最後の3Sの2つだったが、後半の2Aに続ける3ループもスローで見たら回転が足りていなかった。ところが3ループは認定。ダウングレードが3つか2つかで、点は大違いだ。こういうふうに同じ選手に対しても「取ったり取らなかったりできるんですよ」とバラしてしまったようなジャッジングだ。フリップへの認定に一貫性がない一方で、セカンド以降のループ(安藤選手の2ループさえダウングレード)とトリプルアクセルへのダウングレード判定は容赦がなかった。浅田選手に対しては、1) トリプルアクセル+ダブルトゥループ→ダブルアクセルの失敗にダブルトゥループをつけたものです。2) 単独のトリプルアクセル→ダブルアクセルの失敗です。3) 後半のトリプルフリップ+トリプルループ→トリプルフリップにダブルループをつけてダブルループを失敗しました。という評価が下されたのだ。こんなに失敗ばかりしているから、浅田選手の技術点は、54.67点と、3フリップも3ルッツも跳べない武田選手の54.59点とどっこいどっこになってしまった。会場のファンが見ていたのは、女子では世界で他に誰もできない、これまで誰もやったことのない、フリーで3Aを2つ決め、3F+3Loの難しい連続ジャンプを決めた姿だったのに。常識ではまったく理解できない判定でしょ。怒りをとおりこして脱力感しか感じない。何のためにファンは高いチケット代を払って会場に観戦に行くのだろう? リンクサイドのコーチですらわからず、プロの解説者がビデオで見ていてもわからないような回転不足を、回りきっての転倒やお手つきやステップアウトやオーバーターンといった、誰でもハッキリわかる失敗より大きく減点するなど、クレイジーだし、まさしく会場まで足を運んでくれるファンをあざ笑っているかのようなルールだ。<続く>
2008.12.31
昨日のエントリー、あまりに反響が大きかったので、もう少し詳しく。浅田選手については、明日になります。フィギュアの女子選手の3回転ジャンプというのは、微妙に回転が足りなくなりやすい。ギリギリでおりてくるものが多いと言ったほうがいいかもしれない。男子のトップ選手のように空中で完全に回りきって、着氷時にピタッとエッジが止まる選手は本当に少ない。「キム・ヨナ選手はジャンプが正確」とさかんに宣伝されているが、実は彼女のジャンプもセカンドのトゥループはギリギリの場合が多いし(足りないこともある)、最後のサルコウは回転が足りずに着氷していることも多い。だが、回転不足判定でダウングレードされることは本当に少ない選手だ。微妙な着氷をどう判断するか。それを決めるのがスペシャリストを中心とした3人のジャッジなのだ。これとは別にGOEで加点・減点したり、プログラムコンポーネンツの点数をつけたりするジャッジがいる。グランプリ・シリーズでは9人。世界選手権では12人。全日本は7人。全日本のジャッジの名前については、以下を参照。http://www.skatingjapan.jp/National/2008-2009/fs/national/J/data0250.htmGOEでの加点・減点も点数の出方に大きく関係するが、なんといっても大きいのが、回転不足判定によるダウングレードだ。これをやられると基礎点が一挙に下がり、さらにGOEでも減点されるから、非常に大きい。そして、このダウングレード判定が昨シーズンから乱用されて、女子の点数の出方は、もはやぐちゃぐちゃになっている。厳しい判定をするなら、少なくともその試合で公平に審査が行われることが前提だ。ところが、どうもそうではない――ということを、フィギュアの熱心なファンが多い日本人は気づき始めている。もっとも典型的なのは、アメリカ大会でのキム選手のトリプルフリップ+トリプルトゥループだった。このジャンプのセカンド、つまり3トゥループはショートでもフリーでも回転が足りていなかったが、ちゃんと認定されて加点ももらっている。「4分の1以下の不足でしたから」と言われればそれまでなのだが。一方で、「異様に厳しい」のが、安藤・浅田選手の大きな武器であるセカンドのトリプルループだ。これに関しては、ちょっとでも着氷時にエッジが回るともう認定されない。安藤選手のセカンドの3ループは、1度だけ認定されたが、それもキム選手のコーチのオーサーが、コマ送りで再生させ、「ほら! ここでエッジが氷についてるワ。足りてないじゃない。ヨナのルッツと同じよ。なのに、ヨナのルッツはダウングレードされて、ミキ・アンドーは認定されて加点がついてるじゃないの!」とケチをつけた。セカンドの3ループというのは、そういう着氷になりがちだ。2ループだって、コマ送りで見たら、微妙な着氷が多いだろう。「降りてからエッジが回ったか」「回りきってから降りたか」の判断が微妙で、たいていの場合、というより、ほとんどの場合、セカンドにつけた3ループは「降りてから多少エッジが回っている」だろうと思う。回転不足判定は、今季から厳密化(という名の乱用)されたが、セカンドの3ループに対する認定は、セカンドの3トゥループに比べて異常に厳しい。この厳しさが心理的に影響したのか、浅田選手のショートとフリー(後半)のトリプルフリップ+トリプルループの3ループはしばしばすっぽ抜ける。ショートで跳んだ3ループはこれまで、肉眼で見て何も問題なくても、スローで不足が「発見」されて、まったく認定されていない。フリーのトリプルフリップ+トリプルループはこれまですべて失敗してきて、認定具合を見ることができなかったが、今回の全日本でついに入れることができた。会場のファンは「お~!」と沸いた素晴らしいジャンプだったが、案の定、というか今回もジャッジは認定しなかった。足りてないといえば足りてないが、4分の1以上不足かといわれれば、とてもそうは思えない程度の不足だったのに。さらに驚くのは、安藤選手に対するダウングレード。安藤選手の後半のジャンプ構成とダングレード判定(<マーク)を見てみると、3Lz+2Lo+2Lo(<)3Lz3Lo(<)2A+2Lo(<)と3つもある。このうちハッキリ肉眼でもわかるのは、コケた3ループだけ。2Loに対する2つのダウングレードは、スローで録画を再生してみてもまったくわからなかった。コマ送りで見てみたら、なるほど、もしかしたら「降りてから回って」いたかもしれない。ループに関しては、こんな、コマ送りでみないとハッキリしないものまでダウングレードしてるのだ(もちろん、角度によって違って見えるから、ジャッジの見てたビデオは別だった可能性もある)。ところが!明らかに肉眼でわかる回転不足ジャンプを跳びながら、ダングレードされなかった選手がいる。それが先日、Mizumizuが厳しく批判した村主選手なのだ。村主選手にとっては、後半のトリプルフリップ+ダブルトゥループが最大の鬼門だ。彼女はこの連続ジャンプをほとんどいつも決めることができない。なぜか?村主選手というのは、ルッツ2つにフリップ2つという特殊なジャンプ構成でくる。ループが苦手で入れたくないので、得意のトゥジャンプ(トゥをついて踏み切るジャンプ)を2つ入れているのだが、これは相当に無理な構成だ。男子のトップ選手でさえ、ルッツ2つにフリップ1つで来る。女子もそうなのだが、浅田選手だけはフリップ2つだけで、今季はフリーにルッツを入れることを回避している。で、なぜ、トップ選手でもルッツとフリップを計3つに留めるかというと、単純に言ってトゥジャンプを計4つも入れるのは負担が大きい(同じジャンプを2度跳ぶ場合は、少なくとも1つは連続ジャンプにしなければいけない)ということと、あとはジャンプ構成が偏ってしまうことを避けるためだ。ジャンプの難度はアクセル→ルッツ→フリップ→ループ→サルコウ→トゥループとなり、当然ながら難しいジャンプを入れたほうが基礎点が高いから点が稼げる。男子のトップ選手のフリーは4回転を考えないとすると、3アクセル2つ、ルッツ2つ、フリップ1つというのが普通だ。そしてあとのジャンプはサルコウとループを入れ、全種類のジャンプを跳ぶことができる技術をもっていることを証明する。女子は3アクセルがないのが普通なので、ルッツ2つにフリップ1つが、最高難度だと考えていい。この2つの基礎点の高いトゥジャンプのルッツとフリップを跳ぶことのできない選手、たとえば武田奈也選手は、ジャンプ構成が村主選手とは違う意味で偏り、かつ基礎点の低いジャンプだけになるから、点が伸びない。村主選手は基礎点の高いルッツとフリップを2つ入れるのだが、こうなるとどちらのジャンプも1つは連続ジャンプにしなければならない。たいていオープニングに3ルッツ+2トゥループを跳び、次に単独フリップを跳ぶ。さて問題はここから。村主選手がどういうジャンプを跳んできたかを説明するのには、トリノオリンピックでのジャンプを紹介するのが一番いいだろう。3Lz+2T3F3S3Lz2F+2T3T2A+2Tどうですか? 今季とたいしてかわらないでしょう? 違っているのは3サルコウはなんとかオリンピックでは決めたということ。だが、後半に入れたかった3F+2Tはやっぱり失敗して、2F+2Tになっている。なぜか?単純な話。ルッツとフリップ計4つというジャンプ構成は村主選手にとって「実力を超えた構成」なのだ。オリンピックのころから入れようとして入らない後半の3F+2T。でも3ループは苦手なので回避したい。今季も過去2試合は3Fがすっぽ抜けて1Fになっている。必ず連続ジャンプにしなければならないし、無理に跳べば回転不足でダウングレードが待っているからプレッシャーも大きいのだ。「フィギュア・スケートは他人との勝負ではなく、自分との戦い」とよく言われる。自分の欠点を克服し、技術を高め、確実に決めていくことが大事だということだ。だが、全日本で村主選手がやったことは、オリンピックではチャレンジして成功した3サルコウを回避し、ダブルアクセルという簡単だけど点はわりと高いジャンプを2つも入れ、なんとか後半の3F+2Tを入れるというやり方だ。そのために、ルッツの矯正も放棄してしまった。アウトにのってすべってきて最後にインで踏み切るモロwrong edge。エッジ矯正で苦しんだ安藤選手同様、村主選手も去年はジャンプがめちゃめちゃだった。だが、安藤選手は昨シーズン、試合で転倒に転倒を繰り返しながら、フリップのエッジを矯正し、昨季もそうだが、今季もエッジ違反を取られていない。その分フリップの着氷がうまくいかず、GOEで減点されたり、ダウングレードされたりしている。だが、去年よりは確実にジャンプが安定してきている。つまり、安藤選手はエッジ問題を克服したのだ。村主選手も努力してエッジを矯正したはず、なのだ。ところが、そうするとどうしても後半の3F+2Tまでジャンプをもっていくことができなかった。それが過去の2試合。過去の実績からいっても、2つ目の3Fが回転不足になるのはほとんど「お約束」だ。「回転不足判定が怖いジャンプはシングルにすっぽ抜ける」のパターンどおり、キム選手はルッツですっぽ抜け、浅田選手はセカンドの3ループですっぽ抜け、そして村主選手は必ず連続ジャンプにしなければならない後半の3フリップですっぽ抜ける。それが過去の2試合。今回の全日本は、まるで示し合わせたように、村主選手はエッジ違反承知でルッツを跳び、回転不足になるのがほとんどお約束の後半の3フリップも跳んだ。♪エッジ違反なんて、気にしないわ(←「キャンディキャンディ」のメロディーで)、ファンにルッツとフリップの違いなんてわからないし、お客様の暖かい拍手で「!」認定にしてもらうの。→そして、あのあからさまなwrong edgeに大甘の「!」マーク。フリーのGOEは2回ともマイナスが1人でプラスが1人という、これまた事前に示し合わせたような同じ数字。♪ダブルアクセル3つなんて、気にしないわ。ファンにジャンプの種類なんてわからないし、2つ連続させれば5.6点ももらえて、お・ト・ク。♪エッジジャンプ無視なんて、気にしないわ。サルコウなんて入れて失敗したらイヤだし、ダブルアクセル2つのがラクだもの。すべてはジャンプの種類なんてわからないお客様のため。→こういうのをファンをなめてるというのだ。オリンピック当時は、一生懸命練習して決めた苦手の3サルコウ。あのころの村主選手はどこに行ったのだろう?♪回転不足なんて、気にしないわ。鈴木選手の作ってくださったイイ流れにのって、とにかくおりて、認定してもらうの。→そして、あのあからさまな回転不足の3フリップが認定。安藤選手の2ループなんて、肉眼ではまったくわからず、スロー再生しても微妙なのにダウングレード。村主選手の場合は、スローにするまでもなく、肉眼でハッキリわかる回転不足なのに、認定。ありえません。いいですか、村主選手はオリンピック当時は跳べた3サルコウが跳べなくなったということなのです。そして、最大の課題、後半の3F+2Tも結局、跳べば回転不足でオリンピック当時と変わらないということなのです。もちろん、昔から一番苦手な3ループは最初っから回避です。ジャンプはオリンピック当時からまったく進歩していないどころか、明らかに衰えている。これが今季3試合を見た結論だ。なのに、フリーの技術点は、62.63点と浅田選手の54.67点を8点近くもブッチ切っている。それもこれも、「ダウングレードされなかったから」なのだ。<続く>
2008.12.30
女子フリーを総括する前に一言(なかなか本論に入れない)。村主選手のフリーのジャンプ構成は、キム・ヨナなんて吹っ飛ぶぐらい酷い。ルッツ2つにフリップ2つ! 村主選手という人は3ループがとにかく苦手で、旧採点システムでバランスよくジャンプを跳ばなければいけないルールのもとでは常にこれが足を引っ張ってきた。そして、その次に苦手なのが3サルコウなのだが、この苦手なサルコウとループの3回転2つを今回完全に回避し、ダブルアクセルを3つも入れ(しかもそのうちの2つはシーケンスで連続ジャンプにして点数を稼ぐという露骨さ)、3回転はルッツとフリップ以外だとトゥループ1回だけ。さらにさらに、ルッツは完璧なwrong edge。今季過去の2回の国際大会では注意して跳んで違反なしだったが、「ルッツに気をつけるとフリップも乱れる」の定石どおり、後半のフリップで乱れてきた。それでなのか、今回はもはやエッジ矯正は振り捨てて、昔どおりの「ルッツ軌道→最後にインサイド踏み切り」のルッツを堂々と2回。にもかかわらず判定は大甘の「!」。逆にちゃんとインに入って見えた中野選手の回転不足フリップに「E」がついている。今季過去の国際試合での中野選手のフリップには「!」はあっても「E」はない。(おさらい:ルッツ=アウトサイド、つまりエッジの外側踏み切り、フリップ=インサイド、つまりエッジの内側踏み切り)これじゃ、なんのために浅田選手や安藤選手は苦労してエッジの矯正をしたのだろう? 中野選手のフリップとルッツの不調だって、エッジ矯正にともなうものだ。それなのに、こんなあからさまなことをする選手をフリーで1位にしていいのだろうか? 本当に恥ずかしいし、信じられない。全日本選手権での「見ていて最高に恥ずかしい採点」は、オリンピック直前の1位村主、2位浅田だったが、あのころを彷彿とするような奇妙な採点だ。今回の村主選手のジャンプ構成を見てみよう3Lz(!)+2T3F2A+2A+SEQ3Lz(!)3T3F+2T(ここのフリップなんて肉眼でさえハッキリわかる回転不足。なのにダウングレードなし。ありえません)2Aこんな偏り方でプログラムコンポーネンツが58.04点?。ありえません。もちろんプログラムコンポーネンツは他の選手も高めで、それは国内大会ではどこでもそうなのだが、村主選手の場合は、このバランスの悪いジャンプ構成をほとんど無視した採点だとしか思えない。過去2つの国際試合での村主選手のジャンプ構成を見てみよう。カナダ大会3Lz+2T3F2A3Lz3T1F2A サルコウとループ回避のこんな構成でいったためか、プログラムコンポーネンツは53.92点しかもらえなかった。ロシア大会3Lz+2T3F3S(<)3Lz2T1F2A+1A+SEQ初戦のプログラムコンポーネンツの点を見て、サルコウとループを回避するのはやはりまずいということになったのか、サルコウを入れるものの、ダウングレード判定。それでも初戦よりはプログラムコンポーネンツがあがって56.48点。だが、苦手のサルコウをダウングレードされたので全体の点は落ちてしまった。フリーの点の推移をみてみよう。105.94点(カナダ大会)→103.74点(ロシア大会)→121.27点(全日本)カナダ大会でのロシェットの点にも(実は)かなり驚いたが、今回は腰が抜けるかと思いました。 過去2試合とも最後のフリップがすっぽ抜けて(3Fのつもりが1Fに)点がのびなかった。なぜフリップで失敗するのか? 中野選手と同じ理由だ。ルッツのエッジを気をつけているとこういうことになる。ルッツとフリップの調子はセットで乱れる。今回はだから、エッジを気にするのをやめたとしか思えない。こんなルッツの跳び方では、国際大会では間違いなく「E」判定で平均1.5点の減点になる。しかも3ルッツと3フリップを2回ずつ計4回入れるなんていう無理な構成にしてるから、3ルッツも3フリップも必ず1つを連続ジャンプにしなければいけない。オープニングに3ルッツの連続ジャンプを入れるから直後のフリップで連続を跳ぶのは難しい。だから後半の3フリップはどうしても連続ジャンプにしなければいけない。そのプレッシャーでスッポ抜けてしまうという面もあるだろう。しかもダブルアクセル2つのシーケンスだって、冗談じゃないよ。ここまでファンをなめてる選手も珍しいんじゃないですか。こういう演技で一般のファンは感動できるんですか? ふ~ん。ループ回避、ダブルアクセル3つのキム選手だってルッツ2つ、フリップ1つにして、サルコウを入れている。ジャンプにはトゥをついて踏み切るジャンプ、すなわちトゥループとフリップとルッツがある。これに対してエッジで踏み切るのがアクセルとサルコウとループだ。3アクセルは跳べる選手が女子では浅田選手だけなので、実質的に3回転のエッジジャンプはサルコウとループの2つということになる。それぞれ苦手なジャンプがあるとしても、3回転のエッジジャンプ2つを両方とも回避してしまうのは、ジャンプ構成のバランスの面で悪いのだ。村主選手は昔からトゥジャンプのほうが得意で、エッジジャンプが苦手な選手だ。それにしてもあからさまにサルコウもループも回避とはひどすぎる。こういう選手は国際大会では、評価されません。わかっているのに、1位にするんですか???そこへ行くと鈴木選手は偉い。3ルッツ、3フリップ、3トゥループ(セカンドに入れてダウングレード判定)、3ループ、3サルコウ(ダウングレード判定)の5種類のジャンプをすべて入れている。しかも、村主選手が4大陸と世界選手権に行き、中野選手は4大陸にも行けないんですか?ハア?オリンピックの前の全日本選手権では、安藤選手より順位が上だった中野選手が、「過去の実績(それも1シーズン前)が安藤選手のほうが上」だという理由で、選出されなかった。ここのところの実績だったら村主選手より中野選手のほうがはるかに上だ。村主選手は3回試合をして、1回しか安定してジャンプを跳んでいない。しかも、安定させるために、あからさまなwrong edge回帰、ウエルバランス無視のジャンプ構成。中野選手は2週間前にグランプリ・ファイナルを戦ったばかりで疲労がある。グランプリ・ファイナルでは一応安藤選手より順位は上だった。それなのに、過去の実績無視で、今回の1発勝負で中野選手を落とすのですか?ああ、どこからかお金の腐臭がプンプンと漂ってくる。ここまで汚い国も珍しいのでは? もうジャッジの不公平もキム選手の露骨な点数稼ぎも日本人は批判できませんね。タラソワもこの腐敗ぶりにはビックリだろう。いや、ロシアの腐敗も凄かったらしいから(そしてフィギュア王国ロシアは崩壊し、あれほどチャンピオンを量産した国から、もういい選手が出ない)、慣れたものかもしれないな。言っておくが、村主選手は素晴らしい選手だったのだ。今は荒川選手ばかりがチヤホヤされているが、国際大会で長く安定して活躍したのは村主選手のほうだった。ジュニアからシニアにあがったばかりのころ、国内では3回転+3回転がなんとか跳べる荒川選手のほうが評価されがちだったが、海外の大会で村主選手は結果を出して自力で評価を高めた。20歳前後のころは一時期ウエイトオーバーでジャンプも跳べなくなり引退も考えていた荒川選手があそこまで頑張れたのは、同年代の村主選手の活躍という刺激があったことは間違いない。そして、村主選手もエレメンツの底上げには努力してきた。今季はスピンもスパイラルも安定して高いレベルを取っている。あとはジャンプだけ、なのだが、そこは若い選手とは違う。年齢的に安定してジャンプを試合で跳ぶのは難しいのだ。今回はあまりに露骨でひどすぎる。一言のはずが長くなってしまった。読者のみなさんの多くが待っているであろう浅田選手については明日にまわします。ゴメンナサイ
2008.12.29
全日本フィギュア女子フリーが終わった。村主選手と安藤選手の間に、とんでもないアクシデントが起こってしまったので、恒例のプロトコル分析は明日に譲って、急遽こうした選手同士の衝突について書くことにします。放送席の芸能人は、「見たことがない」と言っていたが、それは彼がにわかフィギュア鑑賞者だから。ああいうことはいつ起こっても不思議ではない。だから試合は危険なのだ。だからオリンピックシーズンに入った4月に団体戦など無意味なことをやってはいけないのだ。たとえば、トリノオリンピック。荒川選手とコーエン選手もあわやという場面があった。フリー直前、ジャンプの調子が悪いと気づいたコーエン選手が、完全に周囲が見えない状態になり、荒川選手の軌道をボー然としながら横切っていった。荒川選手が驚いてブレーキをかけている顔がテレビにハッキリ映った。ぶつからなくてよかったが、ヒヤリとする場面だった。たとえば、リレハンメルオリンピックのバイウル選手とシェフチェンコ選手。この2人はモロに激突し、バイウル選手は足を3針縫う怪我、シェフチェンコ選手もぶつかったあとずいぶん長く氷から立ち上がれずにいた。そして、フィギュア史上もっとも悪名高い「当たり屋」として、その汚名をさん然と輝かせているのがフランスのユベール選手。ジュニア時代から「練習中にぶつかってくる」と有名だったのだが、1991年に彼女がターゲットにしたのが伊藤みどり選手だった。http://jp.youtube.com/watch?v=FXr_xViLs-A↑これがその映像。カメラは伊藤選手のほうを追いかけているので、どうしてこんなふうにぶつかってしまったのかビデオだけ見てるほうはよくわからない。会場にいた人は気づいた。つまり、伊藤選手がバックスケーティングに入って前方に死角ができた瞬間を見計らって、ユベール選手が伊藤選手の軌道上に勢いよく滑り込んできて、「あたかも偶然のように」ぶつかったのだ。ぶつかるほうのユベールは、当たるのがわかってやっている。なにせジュニア時代からの筋金入り。わざとだから心身ともに(苦笑)準備ができている。だからダメージは受けない。ぶつかられたほうは、突然視界に入ってきた当たり屋に驚いて、慌ててよけようとするが、当然何の準備もできていないから、ダメージが大きい。ユベールの伊藤選手への当たりはまさにその典型。勢いよくぶつかって平気で去っていったユベールに対して、伊藤選手はしばらく立ち上がれなかった。よく見ると衝突の瞬間、ご丁寧にも腕で思いっきり伊藤選手をハネあげている(これについては後で紹介するビデオのほうがよくわかる)。さすがにネンキが入っている、ふつうじゃできない裏技だ。映像を見ると、伊藤みどりに嫌がらせばかりしていた同じフランス代表のボナリー(黄色いコスチューム)が「わざとらしく」接近してきて、さりげなくダメージの具合をうかがっている。いいですか、フィギュアというのは、これほどまでに汚いことをする人がいる世界なんです。だから、無駄な試合で選手を疲れさせてはいけないんです。このときの観客はユベール選手の滑走になると、大ブーイングをあびせ、ユベール選手はすっかり萎縮していい演技はできなかった。さらに、これを機会に当たり屋稼業から足を洗ったらしく、その後こうしたアクシデントは聞かない。だが、伊藤選手の演技への影響は甚大だった。このあとの演技がコレ↓http://jp.youtube.com/watch?v=bzeRTyHtnSw&feature=related何があっても最後まできちんと滑りきり、さらにカメラマンに謝罪に行くという伊藤みどりのこの礼儀正しさ。さすが日本人です。さて、全日本女子フリーの結果だが、やはり浅田選手のフリー後半のセカンドの3ループは認定されず、ダウングレードされた。今回は3Aも2つともダウングレード判定だった。詳しくは明日に譲るとして、浅田・安藤・中野の女子トップ3人の疲労は見ていて気の毒なほど。なんとかならないのですか、このハードスケジュールは。<ここからきのうの続き>一方、日本の小塚選手、織田選手はジャンプが非常に正確だ。織田選手の「氷をいたわるような」ソフトなランディングは、膝や足首が柔らかいことに加え、空中で完全にまわりきっておりてきているからこそできる。あの驚異的な着氷は、強力な武器といっていい。小塚選手も着氷が気持ちいいくらい「ピタッ」と決まる。この2人はだから、ジャンプでしっかり加点され、高得点を出している。どうも今シーズンは、男子の3回転に対する加点が相当に大盤振る舞いだ。4回転ジャンパーになるたけ勝たせまいとしているようですらある(バンクーバーに向けての「チャンあげ」ですか?)。織田選手のNHK杯でのフリーの得点154.55は、今季歴代3位の高得点だが、それより高い点を出したアボット選手とチャン選手は、4回転を入れなかった選手だ。アボット選手は昨シーズンは4回転を入れていた。昨季の世界選手権では4Tはきれいに決めたが、「大技を入れると連動して起こるミス」のパターンどおり、2つ入れた3Aの1つで転倒して連続ジャンプにできず、最後のサルコウでも転倒した。つまり4Tは跳べるが、4Tを入れてしまうと他のジャンプをまとめることができずに成績が出なかったのだ。だからアボット選手は、今季は4Tを入れない作戦で来てこれが見事に成功したのだ。チャン選手はハナっから入らない。つまり、彼らはリスクの高い大技を回避して減点を減らし、自分のできるジャンプを最大限決めて高い点を出しているのに対し、織田選手は4回転を入れて、認定失敗(まわりきっておりてきたのでダウングレードはされなかったが、着氷で乱れてGOE減点されたということ)になり、そこで点を失いながら高得点を出しているということ。続いて高い点を出した小塚選手も4回転を全部ダウングレード失敗で、ほぼゼロ点になっている。にもかかわらず、フランス大会のフリーで153.78点という高得点を出して、アボット(159.46点)・チャン(156.70)・織田に続いている。織田・小塚選手の強みは、ジャンプの地力でアボット選手と互角かそれ以上、チャン選手には勝っているということ。加えて織田選手は演技構成点でも75点の壁を破っている。去年までなら、実力で勝てなかったウィアー選手は4回転が決まらずwrong edgeで苦しみ、ライザチェックはルールの運用改正で弱くなった。ジュベールはコンディションが悪く、ベルネルは大技にこだわってジャンプが乱れている(4回転だけでなく、トリプルアクセルが決まらないのが痛い)。つまり、新旧のはざまで、今季は明らかにこの2人が突然強くなったのだ。「安藤・浅田選手には勝たせないぞ」ルールの思わぬ副産物だと言ってもいい。こんな展開は誰も予想していなかった。安藤・浅田選手には極めて不利なルールが、日本の男子選手には追い風になっているのだ。Wrong edgeもない、3回転ジャンプも正確で見事な着氷。スピンやステップといった他のエレメンツも正確にこなす。つまり、この2人は「減点するところがない」のだ。それが減点のための減点を躍起になってやっている今のルールでは、なんといっても強い。ジャンプは織田選手は4回転がほぼ完成しているし、小塚選手ももうちょっと。フリーで4回転を入れつつ(たとえそれが失敗しても)トリプルアクセルを2度決める力もある(と、言っておこう)。4回転を、1度ならまず間違いなく入れることのできた高橋選手ほどの安定感は残念ながら今のところはないが、それならば、世界相手の頂上決戦では、ショートをまずミスなくこなして85点近い点をもらうように努力し、なるたけフリーを後から滑ることができるようにすることだ。そして、「4回転を入れるか入れないか」をライバルの点と滑走順によって適切に、冷静に判断できるようにすること。回避策はライザチェックのカナダ大会をみてもわかるように、あらかじめ戦略として準備していないと案外難しい。バトル選手の優勝を単に偶然だと思わないほうがいい。4回転はエレメンツの1つ。「4回転を入れなければ、完璧にジャンプをまとめられる」ようにしたうえで、4回転を入れた練習もすべき。「4回転を少なくとも1度は決めなければ世界王者になれない」というのが今季に入る前の大方の事前予想だったが、どうもはずれるような気がする。4回転を使うか使わないかを、グランプリ・ファイナルの男子シングルのフリー同様、戦略的に判断すべき場面がきっとまた来るように思う。少なくともモロゾフは、「4回転回避」も視野に入れてジャンプ構成を組んでいる(それについては後日に詳しく)。特に今季が織田・小塚選手にとって世界王者になる絶好の機会といってしまってもいいと思う。ジャンプの地力と表現力で小塚選手にまさる織田選手が優勝候補の筆頭といってもいい。来季になればトップ選手はwrong edgeを直してくるだろうし、4回転ジャンプも、もともと織田・小塚選手以上にジャンプの地力のある選手が調子を戻してくるだろう。そもそも実績のあるトップ選手はバンクーバーにむけて、今季の世界選手権はそれほど重要視していないはず。そして、何より今季は、織田・小塚選手にとっての最大最強のライバル――ジャンプの実力でも、努力してもなかなか身につけられない雰囲気という面でも2人にまさっている高橋大輔がいないのだ。
2008.12.28
全日本フィギュアスケート。女子のショートプログラムが終わった。3+3Loを見た目きれいに決めた安藤選手(今回はスローで見てもほぼ回りきっておりてきたようにも見えた)が、連続ジャンプのセカンドを失敗した浅田選手の下、3回転+3回転のない中野選手が1位。この不思議な順位、もうおわかりでしょう。安藤選手がやはりセカンドの3ループで回転不足判定、ダウングレードされたのだ。回りきっての転倒より減点される恐怖のダウングレード。やはり悪い予感はあたった。すでに安藤選手・浅田選手のセカンドの3ループは「奪われてしまった」のだ。早めに「安藤・浅田選手には勝たせないぞ」ルールへの対処法を考えないと。歴史上、日本に神風が吹いたといわれるのは2度だけだ。女子について、詳しくは明日。そして男子。織田選手と小塚選手のジャンプの実力がはっきり出た。つまり4回転を入れることによって連動するジャンプミス。「4Tを入れると次に難しいジャンプであるトリプルアクセルを失敗する」→このパターンに、また小塚選手ははまった。後半のトリプルアクセルでミス。織田選手はこのパターンにはまらなかった。4Tを入れても3Aが2度入るかどうかは大きなポイントになる。織田選手は一応はそこはクリアしているのだ。「4Tを入れると後半のふだんなら跳べるジャンプでミス」→このパターンには2人ともはまらなかった。拍手! パチパチ! ただし、織田選手は3箇所で入れられる連続ジャンプが2箇所になってしまった。といってもセカンドに3トゥループを2度入れたので、これはこれでそれほど問題はない。あとは、どこかで2トゥループや2ループをつけてもいいのだが、2回転ジャンプは1回跳んで1点ちょっとの積み増しにしかならないし、下手に乱れると減点だから加点をもらいやすい単独のがよかったりする。小塚選手もトリプルアクセルが2度決まらなかったのは痛かったが、連続ジャンプは3箇所で入れて回転不足判定もなく、非常によかった。ステップのレベルも落とされることなくきちんと3を取った。スピンは小塚選手に軍配。3つ全部レベル4。本当に素晴らしい。織田選手はスピンはレベル4が1つにレベル3が2つ。これは強化すべきだ。スピンでは今シーズンは常に小塚選手のレベルまで行かない。4回転は小塚選手には、やはり武器にはならない。これで4回続けてダウングレード。今回のコケかたは見ていて、心臓が冷えた。あんなに足首をひねる転倒を繰り返していては本田選手の二の舞になってしまう。お願いだから、意地にならないでください。4回転はエレメンツの1つ。「なにがなんでも決めたい」という気持ちにとりつかれてしまうと、他が見えなくなる。これで4回試合でトライして、連動するジャンプミスがなかったのもわずか1回と、非常に確率が低い。今は相当に完成度の高いジャンプでなければ、すぐにダウングレードされて武器にならないルールだ。足を引っ張るだけの大技に固執するのは、それだけでもう試合に負けているということ。現実と実力を冷静に見きわめる強さをもってほしい。そして、自分の強みを見失わないで欲しい。小塚選手の武器はなんといっても、珠玉のスケーティングにある。織田選手も今回はダウングレード転倒で0点。ジャンプへの影響が小塚選手ほどないのはジャンプの地力の差。織田選手の場合は、3Aを2度成功できている分、「4回転はもう少しで武器になる」という微妙な線だ。<ここからきのうの続き>その分、「E」ではなく「!」であれば、減点は少なくてすむようにしたということだろう。だから、今季からは、チャン選手のように、試合によってwrong edgeを取られたり取られなかったりする選手が出てきている。まさに「ジャッジの判断しだい」ということだが、キム選手に対する1度の試合でのwrong edge判定も、韓国メディアがさかんに宣伝しているような「ミスジャッジ」ではなく、中立に戻るクセのあるキム選手は、今後も取られる可能性はあると理解すべきだ。ちなみにキム選手は中国大会のフリーでは!判定されている。ヨーロッパ選手権ではジュベールもベルネルもwrong edge判定されなかったのに、カナダの選手と争うことになった世界選手権では「なぜか」ジュベールとベルネル(はショートだけだったが)がwrong edge判定されてしまったというのも、奇妙といえば奇妙な話だ。ちなみにこのときのチャン選手はショートでもフリーでもwrong edge判定はなかった。もちろんバトル選手もない。それだけ微妙な男子のwrong edge判定だが、そもそもエッジが微妙な選手は、チャン選手も含めてかなりいたということだ。それが「E」判断だけだとなると、問題も大きくなる。微妙な「!」を入れればクッションにもなる。そして、「!」が導入された今シーズンからは、 wrong edgeは昨シーズンより幅広く取られるようになった。昨シーズンは明白なwrong edgeをもっていた特定の女子選手がお約束のように引かれていたが、今シーズンは試合によって問題をかかえている選手が取られたり取られなかったりしている。厳密になったのか、曖昧になったのかよくわからない(苦笑)、まさにツギハギだらけのフランケンシュタインルールの産物だが、一度違反を取られると選手は非常に気になるだろうと思う。Wrong edgeでの減点は、Eだと「GOEではマイナス1からマイナス3をつけること」、!だと「GOEジャッジの裁量にまかせる」という規定がある。E判定されてしまうと、だいたい1.5点ぐらいの減点になってしまい、非常に痛い。!判定でも加点が抑制され、場合によっては少し減点になるから、やはり選手としては気になる。「加点が命」のキム選手にとっては影響は甚大。だから国をあげて「中国大会でのwrong edge判定は、理解できないミスジャッジ」「教科書ジャンプのキム・ヨナにかぎって、wrong edgeなどありえない」と報道しまくり(この身びいきの強さは信じがたい。日本のマスコミとは対極の意味で、事実を見ようとしない)、オーサーが、「アタシがお友達(←明らかに国際スケート連盟のカナダ人有力者のこと)に話すからねッ!」とまで言って神経質になっているのだ。オーサーは、ついでに日本女子の点が高すぎるなどと、ありえないことを言って(高すぎるのは韓国人以外なら誰が見たってキム選手だよ)、世間さまを洗脳しようと必死。そういっておけば、負けたときも自分の責任を免れるしね。ライバルである日本選手をあそこまであからさまに侮辱するコーチがみてる選手を、なんで日本のテレビ局は自国の選手以上にヨイショするわけ? まったく信じれらない。日本のメディアが放送しなくても、英語が読めて、インターネットが使える日本国民なら、オーサーの日本女子と彼女たちに与えられた得点に対する失礼な発言の情報などすぐ手に入る。だが、1つ言えるのは、この韓国、特にメディアの態度は、現行のルールでどこが重要なポイントか理解していることの証左だということだ。いまだにフィギュアといえば「難しいジャンプVS表現力」だと思い込み、前者だけにムリヤリ浅田選手を後者にキム選手をあてはめて論評してる日本のマスコミよりよっぽどわかっている。ネットのニュースは目を覆いたくなるほど酷い。全日本といえば、「小塚、4回転跳ぶ」「安藤4回転VS浅田トリプルアクセル激突」などといった見出しが躍る。ただ、今回のフジテレビの放送はだいぶ抑制されて、マトモになってきたように思う。また話が脱線した。不正エッジに話を戻すと、選手にとっては、この「エッジの違反が気になる」というのが、実は一番怖い。「気をつけよう」とすると回転不足になったり、ジャンプがスッポ抜けたり、着氷が明らかに乱れてしまったりするのだ。伊藤みどりが、今シーズンの浅田選手のルッツで、「あまり気にせず、真央ちゃんのリズムで跳んでくださいよ」と言っていたが、あれは、エッジに気をとられるともっと大きな失敗をしてしまう危険性があることを言っている。浅田選手のルッツは初戦の失敗ジャンプだけ!がついたが、その後2戦、違反がなく加点もされていた。そして、さっそく韓国紙が「浅田選手のルッツの加点は納得できないという声もあった」などと牽制コメントを載せた。昨シーズンはキム選手はルッツで加点、浅田選手はエッジで減点だったから、浅田選手のルッツが加点されてしまうとなると自国の選手にアドバンテージがなくなるということを、実によく理解している。だが、浅田選手もやはりタメが長くなると、ちょっと中立に戻ってしまう気がする。キム選手のフリップほどではないが、まだ完璧にルッツをものにしたとはいえない状況だろう。今季ジュベールは戦線離脱したが、彼はwrong edgeを指摘されているフリップを極力避けている。ウィアー選手はだいたいいつもwrong edge違反を取られ(ファイナルのフリーでは取られなかった)、ジャンプが乱れてしまった。このようにwrong edgeは、実際に減点されるという以上に、それをかかえている選手の精神面にかなり影響を及ぼす案外深刻な問題なのだ。一番深刻なのは、アメリカの選手だろう。昨シーズン安藤選手とマイズナー選手がいち早く矯正に取り組んで、別のジャンプまでボロボロになってしまったのを目の当たりにした若い女子選手は特に、矯正に消極的になった。結果、アメリカのトップ選手の矯正は中途半端で、日本の安藤選手や浅田選手のように違反を取られなくなった選手はほとんどいない。男子のトップ選手もそうだ。特にウィアー選手(彼は昨シーズンから)、そしてライザチェック選手も今季から「!」判定されてしまうようになった。ヨーロッパの男子トップであるジュベール選手とベルネル選手にもwrong edgeは足かせとなっている。その証拠にこの2人はなるたけフリップを避けようとしている。フリップはアクセル、ルッツについで基礎点の高い、点の稼げるジャンプだ。その3フリップの数を減らすと基礎点の低いダブルアクセルを代替に入れたりしなければならなくなり(3回転ジャンプは1種類を2度までしかフリーで入れられない)、ジャンプの点が稼げなくなる。だから点が伸び悩む。言うまでもなく、誰でも知ってる明々白々なwrong edgeの持ち主は、安藤選手と浅田選手だったのだ。この2人を狙い撃ちしたとしか思えないwrong edge減点は、欧州選手権と世界選手権での男子に対する判断の違いを経て、2シーズン目に「!」判定で範囲が拡大されたため、男子のトップ選手が次々引っかかってくるという思わぬ結果になった。ところが!この目立たないけれど案外深刻なwrong edge問題にひっかからない男子のトップ選手をもつ国がいることが、いみじくも明らかになったのだ。それが日本。高橋選手は今季戦線離脱したから、「!」マークについても、絶対つかないとは断言できないが、少なくとも彼にはベルネル選手のような曖昧エッジ問題はないと思う。そして、小塚選手。昨シーズンwrong edgeで減点されてから、今シーズンしっかりそれを直した。フリップはショート&フリーとも必ず入れて、加点までもらって点をのばしている。できるだけ回避してるヨーロッパの2人とは対照的だ。そして、1季おいて復帰してきた織田選手。彼にも「!」も「E」もつかない。もしかしたら鵜の目鷹の目で探せば曖昧なときがあるかもしれないが、少なくともベルネル選手やウィアー選手のようにジャッジから狙われているようなことは(今のところ)ない。加えて、今シーズンから女子で猛威をふるっている「回転不足判定の厳密化」。男子でこれが一番痛かったのは、ジャンプが低いライザチェック選手なのだ。ライザチェック選手は潜在的なwrong edgeと回転不足判定という気になる2つの問題をかかえたことになる。4回転の調子も落としている今、昨シーズン前半までのような活躍は期待できない。ジャンプに関して言えば、ヨーロッパの誇るジャンパー2人、ジュベールは怪我、ベルネルは4回転からの連続ジャンプでしつこく自爆を繰り返し、トリプルアクセルまで調子をおとしている。<明日へ続く>
2008.12.27
全日本選手権の男子ショートが終わった。これまで3試合続けて完璧な演技を披露してきた小塚選手がミスを連発。織田選手は完璧、これまでで一番完成度が高かった。これが21歳の織田選手と19歳の小塚選手の間にあるジャンプの地力の差だ。常に失敗をせずに練習どおりにやるというのは非常に難しい。経験と地力に劣る選手はシーズン後半、それも是非勝ちたいと思う試合になるとミスが出始める。知らず知らずのうちに、自信が過信になるのだ。ただ、これも小塚選手にとってはとてもいい教訓。ショートの怖さを勉強したはずなので、ぜひとも世界相手の試合では、この失敗を「2度と繰り返さない」という強い気持ちをもってのぞんでほしい。彼にはもうその力は十分にあるはず。さて、2季前に安藤選手が世界女王に輝いたとき、男子シングルで世界を制覇したのは、当時絶好調で4回転を決めまくっていたフランスのブランアン・ジュベールだった。そして、これまたできすぎた話なのだが、安藤選手ほど明白でないにせよ、ジュベール選手もフリップにwrong edgeを抱えていたようだ。だが、wrong edge減点が採用された昨季の欧州選手権ではジュベール選手はwrong edge判定されなかった。なのに、カナダの選手と争うことになった世界選手権では、フリーでいきなりフリップにEマークがつき、減点されてしまったのだ。ちなみにこのときのスペシャリストはアメリカ人のScott DAVIS氏。昨季の世界選手権、男子シングルのフリー。ジュベール選手は体調不良(と言っているが、怪我もあったとMizumizuは睨んでいる。ただのウィルス性疾患にしては、試合欠場が長かった)で出遅れたシーズンの締めくくりを、かなりよい調子で終えた。4回転も1度だけだったが成功させた。だが、wrong edge減点は予想していなかったらしく、フリーでは3フリップを2度跳び、2度とも減点されてしまった。加点がものをいう現行のルールでは、このイチャモンで点を引かれてしまうのは非常に痛い。一方、最後に登場したカナダのジェフリー・バトル選手は、4回転は完全に無視し、すべてのジャンプを正確にまとめる戦略で来た。もともとバトル選手はどうしても4回転を完成できずに、世界の頂点に立てずに来た。おまけに彼には、トップ選手ならなんなくこなす3ルッツが非常に苦手という大きすぎる欠点があった。昨季のバトル選手はフリーで、その苦手の単独3ルッツを最後にもってきていた。なので、この最後の最後のジャンプで失敗し、結果が出ないという試合が続いていた。カナダ選手権では若いチャン選手にも負けていた。Mizumizuはこのジャンプ構成に懐疑的だった。「なんで、ちょ~苦手な3ルッツを最後にもってくるのよ? 最初にやってしまったほうがいいじゃん」と思っていたのだが、ともかく、世界選手権のフリー。最後の滑走になったバトルが、世界王者になれるか否かは最後の3ルッツをちゃんとおりられるかどうかにかかったといってもいい。そして、彼は根性でおりたのだ(見ているこちらも緊張した)。スピンやステップといったエレメンツ1つ1つも丁寧にこなした、まさに「減点するところのない」最高の演技だった。もちろんバトル選手にwrong edge問題はない。ジュベールは4回転は跳んだが、3箇所で入れられる連続ジャンプが2箇所になってしまっていた。連続ジャンプが単独になるということは、それだけ点数の大きいジャンプの点がなくなるということで、これは案外痛いのだ。それに最後のほうの連続ジャンプが2A+1Tなどという、またもやオンナノコ構成になってしまっていた。そこへいくとバトル選手は4回転を入れないものの、連続ジャンプはしっかり最大の3箇所で入れ、3A+2T+2Lo3F+3T3Lz+2Tとすべて正確に決めて、無駄なくジャンプの点を稼いだ。このときのジュベールVSバトルの一騎打ちでは、演技構成点は実はジュベールのが高かった。開催地がヨーロッパだったから、GOEジャッジによる多少の「ジュベールあげ」があったのかもしれない。だが、技術点では、ジャンプでコツコツ点を稼ぎ、スピンはすべてレベル4、ステップもレベル3と、欠点のないバトルが各エレメンツでまんべんなく加点ももらい、4回転を入れたジュベールをなんと10点以上もぶっちぎった。バトル 技84.29+演78.78=163.07ジュベール 技74.11+演79.36=153.474回転を入れなくても、3箇所で入れられる連続ジャンプをもれなく入れ、基礎点の高い3アクセルを2度、3ルッツを2度きちんと正確に決めて加点をもらえば、84.29点もの点が出るのだ。これこそ、バトル選手タイプの正確性をもった選手、たとえば日本の小塚選手がまずは目指す領域ではないだろうか? ここまでできてから4回転を入れたって19歳の選手にはまったく遅くはない。まだ完成してない4回転を連続3回も試合で入れてすべてダングレード判定され(つまりここの部分は点にならない)、もっとも大事な試合では、他のジャンプも連動してミスり、もっとバラすと、せっかく2試合かけて底上げしてきたステップのレベルも2つとも落とされてしまった。ステップのレベルが落とされるということは、ターンが不完全だったと見なされたということだ。アセっているとこういうことになる。一方、ファイナルでの浅田選手は3Aを2度も入れ、後半は見た目かなり疲れていたにもかかわらず、ステップのレベルは落としていない。きちんとレベル3をとり、加点ももらっている。大技を2度も入れ、きれいに決めたうえに、他の「メディアには注目されない」エレメンツもきちんとレベルを取る。地力のある選手とない選手はこういうところに違いが出る。「なにがなんても4回転を」というのは、減点主義がさらに徹底した今季のルールでは、明らかな戦略ミスになりがちなのだ。その証拠に、アメリカのトップ選手、ライザチェックとウィアーはすでに4回転回避策で来ている。今の男子シングルは、「4回転を入れる入れないでゲームをしているところがある」と井上怜奈選手が発言したが、そのとおり。4回転は「なにがなんでも入れなければ勝てない技」ではなくなっているのだ。だいたい日本のマスコミは何ですか。自国の選手には、「4回転」「トリプルアクセル」にばかり注目して無駄な挑戦を煽るくせに、新しいジャンプに挑戦せず、フリーでは3ループさえ回避して2Aを3つも入れて、露骨な加点稼ぎ戦略でくるキム選手のことは、「浅田選手より実力が上」だの「完成度が高い」だのとおだてている。キム選手のことも、たまには、「ジュニア時代からまったく同じジャンプ構成というのはトップ選手としてはいかがなものか。3ループぐらいはせめて、1度失敗したからといってすぐに回避せず、挑戦する気概がほしい」ぐらいのことを書いて批判したってよさそうなものだ。自国の選手に対しては、ときに「ばんざい攻撃」でしかない果敢な挑戦ばかりに注目して煽っているくせに、おかしな話だ。断わっておくが、キム選手もチャン選手も素晴らしい選手だ。だが、ルールの運用基準を変えることで、実力以上に点が与えられている面も否定できない。こういう展開になることを、実は新採点システム導入時にヤグディンはすでに見抜いていた。さまざまな基準(それ自体はいかにもしっかりしている)を作りながら、実は主観でどうにでもなる部分が多く(たとえばジャンプが4分の1回転以上不足かどうかなんて、角度によっても違って見えるし、正確にはわからないのだ)、全体に非常に不透明。さらにバンクーバーに向けて毎年毎年少しずつルールを変えて特定の選手を強くする。この2年の間に行われた改正は実に露骨だ。フィギュアでは伝統的に、回転不足気味でも器用におりる選手のほうを評価してきた(そのほうが見た目にきれいだからだ)ハズなのに、いつの間にやらジャンプはとにかく回りきったほうがよいことになってしまった(呆)。日本のメディアはどうしてもこの事実を見たくないようだ。無知なのか、わざと「みざる」を決め込んでいるのか、ここまでくるともはや霧の中。諸悪の根源はダウングレード判定による信じられないような減点なのに、「キム選手はスピードもあり(←主に最初の連続ジャンプに入る助走のことを専門家は言っているのに、なぜか「全体のスピード」が浅田選手にまさっているというトンデモな話になっている)芸術性が高いので、トリプルアクセルを浅田選手が2度跳んでも勝てないくらい実力がある」などと、事実と違うイメージを日本国民にせっせと広めようとしている。どうして、こういう変なことになるのか理解できない。浅田選手の芸術性が低いなんて言ってるのは、韓国と日本のメディアだけだ。話が横道にそれた。さて、昨季から始まったwrong edge減点だが、やってみると問題が起きた。つまり安藤・浅田選手のように明白ではないものの、エッジが曖昧な選手というのは、案外たくさんいることが改めてクローズアップされてしまったのだ。男子の欧州選手権と世界選手権でのスペシャリストの判断の違いも主にここに理由がある。もちろん、スペシャリストがある程度「操作」して、曖昧なエッジの選手を見逃したり、E判定で減点対象とすることもできるということだ。女子では言うまでもなく、キム・ヨナ選手のフリップ。You TUBEでさんざんお祭りになっていたが、彼女はルッツは疑いようもなく正確なアウトエッジで踏み切る。おそらくアウトで踏み切ったほうが彼女にはラクなのだろう。安藤選手も同じなのだが、安藤選手のフリップのほうは、キム選手ほど曖昧ではない、明白なwrong edgeだったということだ。だが、キム選手のフリップも、最後の最後にエッジが中立に戻ってしまうクセがある。それがタイミングによっては最後の踏み切りでアウトに入って見えることもある。実際にアウトに入っていることもあるだろうと思う。昨シーズンでのキム選手の3フリップの踏み切りはいつもテレビではよく見えなかった。今シーズンのアメリカ大会や中国大会では、これまでとは違う角度から再生してくれるようになった。だが、やっぱりよくわからない。アウトに入ってしまって踏み切っているようでもあるし、踏み切ったあとにそう見えてるだけのようでもある。このようにエッジが曖昧な選手というのは案外いるのだ。突発的にwrong edgeになってしまう選手もいる。それがカナダのチャン選手だ。チャン選手もルッツは非常に正確にアウトで踏み切る。フリップもだいたいはちゃんとインで踏み切るのだが、調子が悪くなるとどうも自分にとってやりやすいアウトのほうに入ってしまうクセがあるようだ。毎試合ではないのだが、今季はときどきそれをジャッジに取られている。キム選手やチャン選手が引っかかってくるようになったのは、今シーズンから、Eをつけるほど明白ではないものの、微妙にwrong edgeになっている場合に警告の意味でつけられる!判定が導入されたことがある。これは昨シーズンから始めたE判定減点に対して、「じゃ、アイツはどうなのよ」という厳しい目がお互いに向けられたせいもあると思う。今季の中国大会でキム選手のショートのフリップにいきなり「E」がついたときは、いつもあの跳び方をしてるキム選手なのに、「なぜ昨シーズンはつけなかったのか」と思ったが、つまり、今季はwrong edgeの範囲が広がったということなのだ。
2008.12.26
さてさてため息をついたあとは、ダウングレード判定に話を戻そう。キム選手のセカンドの3Tについては、よく回転不足が「見逃されている」と非難される。今季だと、You TUBEで槍玉にあげられているキム選手のアメリカ大会でのショートとフリーの3F+3T(最初の連続ジャンプ)の3T。もし録画している方がいたら、再度見ていただきたいのだが、このときのキム選手の3Tはちょっとだけ回転不足だ。ことにフリーのほうはアメリカの放送局が足元を何度も何度もスロー再生してる(わざと?・苦笑)から、よ~くわかる。明らかに「着氷したあと氷の上でエッジが回っている」のだ。このときのキム選手は回転不足判定されなかったため、GOEでも加点され(つまり3Tの回転不足気味の着氷にはGOEジャッジは目が行かなかったということだ)、大きな得点を稼ぎ出した。「ちょっとでも不足したらダウングレード」だというなら、中野選手の3ルッツ、キム選手のセカンドの3トゥループはこの判定は不正もしくは見逃しということになる。だが、そうとも断定できないのだ。なぜか? Mizumizuブログをお読みの方ならわかると思う。「4分の1回転以上足りない場合にダウングレード」というルールの基本は実はずっと変わっていないからだ。ダウングレードするかどうかを判定するジャッジは、スペシャリストを中心として基本的に3人、GOEで加点したり減点したりするジャッジはこの3人とは別に10人以上(試合によってかわる)。これだけの人数がかかわっているのだが、ダウングレード判定自体は基本的にスペシャリスト次第だということになる。そしてこの少人数で行われるダウングレード判定こそが、選手にとって致命的になってしまうのだ。回転不足になる可能性は、難しいジャンプにチャレンジする選手のほうが高い。その典型が、安藤選手・浅田選手が強力な武器にしてきたセカンドのトリプルループ。これが「回転不足判定」されると、3ループ基礎点5.0→2ループ基礎点1.5と、いきなり4点も下がってしまう。ここからGOEでの減点がくるから、ほとんど点がなくなってしまうのだ。ルッツより基礎点が低い分、ダメージも大きい。そして、この回転不足認定が、試合により、ジャッジにより、同じ選手に対してもバラバラ。たとえば、グランプリ・ファイナルの中野選手のショートの3ルッツにはえらく寛容だったが、フリーの3フリップその他には容赦がなかった。そして、アメリカ大会のキム選手のセカンドの3トゥループ。実はMizumizuはグランプリ・ファイナルのキム選手の3Tも少し疑っている。特にフリーの2A+3Tの3Tは、角度を変えたカメラでスロー再生したら、実はちょっとだけ氷上でエッジが回っていたのが見えたかもしれないと思う。一瞬完璧に「ピタッ」とはエッジが止まっていなかったからだ。スロー再生は一方向からしか出なかったので、正確にはわからない。キム選手のフリーの3F+3Tのカメラの角度も、一番wrong edgeがわかりにくい左後方からだった。もっと真後ろか、あるいは左前方からだと、キム選手のフリップの踏み切りはちょっとだけアウトに入って見えることが多い。回転不足も角度によってそう見えたり見えなかったりするのだ。解説者がよく、「角度によっては足りなく見えるかも」といっているが、あれは正しい。それだけ微妙なものなのだ。もちろん、疑いようもなくピタッとおりれば文句ない。男子の織田選手や小塚選手はこのタイプだ。だが!3Tに関して言えば、実は昨季までの試合での認定具合を見ると、「肝心な試合で不足気味のセカンドの3トゥループを認定してもらって命拾いした」のは、明らかに浅田選手のほうなのだ。確かにグランプリ・シリーズではキム選手の3Tはちょっと足りてなくても認定され、浅田選手の3Tはダウングレードされることが多かった(で? グランプリ・シリーズの責任者って国際スケート連盟の誰よ? 調べてみるといい)。だが、昨季までの(あくまで昨季までだ)グランプリ・シリーズ以外のここ一番の大事な試合では、浅田選手の「ちょっと回転が足りてないかな」と思う3Tが認定されて助かっているのが、Mizumizuの見るところ、少なくとも2度はあった。「セカンドの3ループに比べて、3トゥループのほうが認定されやすいのでは」とMizumizuが書いた根拠はここにある。セカンドに3ループをもっているのは、アメリカのフラット選手、日本の安藤・浅田選手だけといっていいが、セカンドに3トゥループをもっているのは、キム・コストナーを始め、ヨーロッパにもまだいる。だから3トゥループの認定が少し甘くても、「お互いさま」の部分があったのだ。だが、今季浅田選手はセカンドに3トゥループを入れていない。自分にとって得意で、基礎点も高い3ループだけで勝負に来ている。これがアブナイ、とMizumizuは思うのだ。明らかに国際スケート連盟は、安藤・浅田選手のセカンドの3ループを「角度をかえたスロー再生で執拗に見て、回転不足判定で認定せず」の態度できている。そして、セカンドの3ループをどこからスロー再生で見ても不足なく完璧におりることは、非常に難しい。トリプルアクセル以上に難しいだろう。安藤・浅田陣営は、練習中に四方八方からカメラで撮り、それを再生してみて、完璧におりきる割合を冷静に分析してみなければいけないと思う。肉眼では不可能だ。なにせ、肉眼で回転不足に見えないジャンプまで回転不足判定されているのだから。さて話をグランプリ・ファイナルに戻すが、中野選手のショートの3ルッツに対する寛容な認定。疑い深い色眼鏡で見れば、あれは次にすべるコストナー選手と地元のキム選手へのエールだったのではないかと思えてくる。なぜか?実はキム選手は、公式練習でジャンプの調子がいまひとつだったのだ。3F+3Tは決めてはいても、3Tが回転不足で上体が傾いてしまっている映像が流れた。韓国紙によれば、3Fで転倒もしていたという。そして3ルッツも同様。一応おりてはいるが、詳しい人間が見れば「回転不足だな」というジャンプがあった。その映像につけたナレーションで、「キム・ヨナ選手は見事にジャンプを決めていました」なんて日本のテレビが言っていたので笑ってしまった。オイオイ、明らかに回転不足ジャン。あのジャンプじゃ、最悪のダウングレード判定はどうしたって免れないよ。つまり、キム選手は連続ジャンプと3ルッツの調子がいまひとつだったのだ。試合直前の練習でも、キム選手はさかんにルッツを気にしていた。そんなルッツと連続ジャンプがいまいちのキム選手だったが、韓国開催のファイナルで、彼女に花を持たせたいという意思はどこかで働いていたのではないか。キム選手のショートの前に滑った中野選手の回転が足りない3ルッツの認定には、どうもそんな気配がある。ところが、そのあと滑ったキム選手は3ルッツを跳ぶどころか、みずから自爆の1ルッツになってしまった。あれでは認定してあげようがない。コストナー選手も今季はジャンプの調子は全般的に悪い。案の定中野選手のあとに登場したグランプリ・ファイナルのショートでは、大きな武器である3+3の連続ジャンプで転倒、3ルッツも着氷時に上体が傾いていて、回転もちょっとだけ足りないようにも見えた。だが、コストナー選手の3ルッツもちゃんと認定され、GOEだけの減点に留まったのだ。まったくできすぎている。中野選手のショートの3ルッツ(そして、続いて滑ったコストナー選手の3ルッツも同様)の寛大な認定から考えると、フリーでの中野選手や安藤選手に対するダウングレード攻撃は、これが同じスペシャリスト(P. UNIMONEN氏)かと疑いたくなるくらい、まったく容赦がなかった。とくにショートで3位だった中野選手を、「誰かのために」よっぽど「さげ」たかったのだろう。カナダ大会のライザチェック選手(VSチャン選手)のパターンと同じ。小さな欠点を大きな減点にされ、ビックリするような低得点に留まった。さて、そこまでルール改正(というより、ルールの運用改悪)に助けられたキム選手、それにカナダのチャン選手なのだが、肝心のファイナルで、みずからのジャンプミスで自爆した。普通に3回転を跳びさえすれば、手をつこうが、着氷でふっとぼうが、回りきっているから認定してもらえるのがこの2人(とロシェット選手)だ。だが、自分からコケたり、すっぽ抜けジャンプにしてしまったのでは、アゲてあげようがない。チャン選手はもともと、4回転を入れていないのに3Aをフリーで2度どうしてもきれいにまとめることができない。まだ17歳だし、ジャンプの実力はその程度なのだ。ショートでは強かったが、ファイナルではそのショートから自爆してしまった(ライザチェックの呪い?)。アボット選手はチャン選手にとって怖い存在ではなかった。4回転を入れないこの2人は、表現力でチャン選手のほうがまさっているので、ノーミスで滑ればチャン選手に軍配が上がるのだ。ライザチェックはチャン選手にとってもっと怖い選手だ。だが、カナダ大会での厳しいダウングレード判定と、なにより、露骨ともいえる演技構成点での「さげさげ」ジャッジで、ファイナルへの道は完全に絶たれた。キム選手のほうは、昨シーズンから浅田選手に対してルッツのエッジ問題で優位に立った。この2人がルッツを跳んだ場合、キム選手の場合は大盤振る舞いの加点、浅田選手のほうはエッジでの減点。だから、必ず1回のルッツで3点もの差がつくことになってしまった。世界選手権の前のエントリーで、Mizumizuは、「この点差はどうやっても埋めることができない。だから、浅田選手が勝つためには、キム選手にルッツで失敗してもらうしかない」と書いたのだ。すると、まさしくそのとおりになった。そして、今回のファイナル。「3ループ認定しないよ」攻撃で、浅田選手は非常に不利な立場だった。事実、ショートの3ループは認定されず、結果、2人のショートでのジャンプの得点はまったくの同点になってしまった。キム選手は見た目にはっきりわかるジャンプミスし、浅田選手はノーミスだったのに、キム選手が僅差でトップに立ったのは、「ジャンプミスを補うほどキム選手の芸術性が高かった」からではない。浅田選手のほうが、肉眼ではまったくミスしてるように見えないジャンプを回転不足判定でミスにされてしまった(それも大きなミス。2回転の失敗ジャンプ)ことが大きいのだ。だが、逆にこの僅差で2位というのも幸いだった。キム選手のフリーのあと、リンクに投げ込まれた異常ともいえるプレゼントの数。あれには本当に呆れ果てた。グランプリ・ファイナルは、キム選手のソロコンサートの場ではない。 もし、浅田選手がショートで順当にトップに立ち、キム選手のあとの滑走だったら、あのプレゼントで汚されたリンクをきれいにするのに、おそろしく時間がかかっただろう。待たされる時間が長くなると選手には微妙に精神的に影響する。あの気違いじみた応援が始まる前に滑れたのは幸いだったのだ。そしてフリー。浅田選手には「是非跳んで」と書いた後半の3フリップ+3ループだったが、3フリップでの転倒でもう1つのジャンプを入れることができなかった。つまり、浅田選手のジャンプの失敗は、1つではなく2つなのだ。キム選手も同じくルッツとサルコウで失敗し、失敗ジャンプの数が同じになった。その結果、浅田選手が勝ったのだ。まるで、神風が吹いてキム選手のサルコウを倒してしまったようだった。昨シーズンの世界選手権と同じだ。普通にルッツをおりていれば、浅田選手はキム選手に勝てなかった。ところがショートでもフリーでもそのルッツがキム選手から取り上げられてしまったのだ。2回も神風が吹いたのだ。ルール基準を次々変えてなんとか浅田選手に勝たせまいとしてる人が地上にいるのに、2回続けてこの結果。今回はカナダ大会でライザチェックを「無理さげ」して優勝したチャン選手にも同じようなことが起こった。これを見て、Mizumizuは思っている。「天上のフィギュアの神様が怒っている」。
2008.12.25
素人のファンにまで採点の異常性が知れ渡った今季のフィギュアスケート。お手つきしたり、着氷したあとオーバーターンしたり、目立ったミスをした選手の点が案外高かったり、特に目立ったミスのない選手の点が異様に低かったりする。Mizumizuブログを辛抱強くお読みの読者ならもうわかったと思うが、諸悪の根源は「回転不足判定によるダウングレード」にある。これが今季から乱用ともいえる厳しさで猛威をふるい、見た目にまったくわからないちょっとだけ回転が不足しているジャンプまでジャンジャン引かれている。いうまでもなく、ダウングレード判定が怖いのは、その減点が苛烈なことにある。お手つきや着氷時のオーバーターンはGOEだけの減点になる。ところが回転不足判定されると、基礎点がその下のジャンプの点に下げられたうえで、GOEでも引かれてしまうから、ダメージが大きくなるのだ。3回転ジャンプの点が大きい現状では、ダウングレード判定は選手にとって致命傷となりかねない。解説者は思わず、「ちょっとでも足りないとすぐダウングレードされますから」と言っている。ここに誤解が生まれる。では、「ちょっとでも足りないジャンプは本当に全部ダングレードされているのだろうか?」。実は、違う。たとえば、グランプリ・ファイナルの中野選手のショートの3ルッツ。あれは肉眼でもわかるほど、回転が足りずにおりてきていた。スロー再生ではもっとハッキリわかった。ところが、ダウングレード(3回転ジャンプの基礎点が2回転ジャンプの基礎点に下げられること)されずに、GOEでの減点のみに留まった。あれでダウングレードされていたら60点にのせることはできなかった。3ルッツがダウングレードされると3ルッツ基礎点6.0点→2ルッツ基礎点1.9点と、なんと4.1点も失うことになる。ここからさらにGOEで引かれるから、せっかく3ルッツを跳んでも、1点ちょっとの点にしかならないのだ。中国大会のキム選手のショートはこれをやられた。「とても気分が悪かった」とキム選手が韓国国内向けのプレスに語っていたが、ダウングレード判定はショックが大きいのだ。転倒したわけでもなく、着氷で目だって乱れたわけでもない、もちろん2回転になったわけでもない――それなのに、減点が大きすぎるからだ。浅田選手は昨シーズンからセカンドの3ループをみずから失敗することが多くなり、今季の初戦でも1ループにすっぽぬけてしまった。それを浅田選手は、「失敗したくないという気持ちに負けた」と自分の弱さのせいにしたが、なぜそんなに「失敗が怖く」なったのか? 回転不足判定が厳しくなった時期と浅田選手のセカンドの3ループ自爆の時期はぴったりと重なる。今季の浅田選手の初戦は遅かった。フランス大会の時点ですでに安藤選手のセカンド3ループが4回のうち1度しか認定されず、昨季よりさらに認定が厳しくなったのは浅田選手も気づいていたはずだ。そして、キム選手。中国大会でほとんど決めたはずの3ルッツがダウングレードされた次の試合は、グランプリ・ファイナル。ここで彼女はショートでもフリーでも同じような3ルッツの1ルッツへのすっぽぬけを2回もやった。まさしく、浅田選手のセカンドの3ループと同じパターンだ。「キム選手は精神力が強く、浅田選手は弱い」などと言う人がいる。だが、それが多分にルール改正とかかわっていることを指摘する人はほとんどいない。浅田選手自身、「これまでと基準が全然違う、イジワルとしか思えない厳しい判定をいきなりされて、ショックでした」なんてことは、決していわない。そこが彼女の凄いところだ。実際には、その前のシーズンまでは何も言われなかった彼女の武器(それがちょっとキズのあるものだったのは、確かだ)に、どんどんイチャモンがつき、ジャンジャン減点されていたのだ。昨季はエッジ、今季は3ループ(昨季も厳しかったが、今季はもっと厳しい)。選手が何もいえないからこそ、周囲が理解してあげるのが当然なんじゃないんですか? ところが、日本のメディアときたら、浅田選手や安藤選手でさんざん商売しているくせに、この2季にわたって彼女たちがどれほど不利な状況に追い込まれたか見ようともしない。ルールが変わって、ジュニア時代から同じジャンプばっかりしてるキム選手が突然、異様なほど強くなってしまった。なのに、マスコミは「完成度のキム・ヨナ」ともちあげ(本当は、ジュニア時代から毎年毎年、毎試合毎試合、同じジャンプ構成できてるのに、ほとんど1度もジャンプミスなくショート&フリーともまとめたことがない)、浅田選手との「ライバル対決」で煽り、キム選手は「表現力が浅田選手より優れている」などといまだにいう「識者」も多い。グランプリ・ファイナルではたまたま、演技構成点がちょっとだけキム選手のほうが高かった。日本で日本選手がこれなら「地元へのサービス」などと自国の選手を貶めるようなことを書くのが日本のマスコミだ。ところが韓国開催で演技構成点がちょっとだけ高く出たキム選手に対して同じことを言ってるメディアはほとんどいなかった。それどころか、このわずかな差をとらえて、「浅田真央は表現力に課題」説(←完全にこれが間違いだということは、昨シーズンから拙ブログで実際の点をあげて説明してる)がまた復活するありさま(呆)。キム選手のホームだったのに、演技構成点はわずかな差しかなかった。ならば、「地元開催で圧倒的にキム選手が有利だったにもかかわらず、演技構成点での得点は僅差に留まった。それほど浅田選手の表現力の高さが認められているということだろう。しかも、ファイナルまでの時間があき、調整の時間がたっぷりあったキム選手に比べ、2週間に1度のペースで試合を3回続けなければいけない浅田選手は体力面でも不利な状況におかれていた。にもかかわらず、トリプルアクセル2回という女子では超絶技巧のプログラムを見事に演じきった」と書くのが本来じゃないのか。ライザチェックの点をみてもわかるとおり、演技構成点など、一番どうにでもなるテキトー点なのだ。ホームなら高く出やすい。ライバルの本拠地なら下げられやすいそれだけのことだ。ちなみにキム選手、浅田選手のこれまでのフリーの演技構成点はキム選手=60.00点、61.68点、60.72点(ファイナル)浅田選手=58.88点、62.24点、59.60点(ファイナル)いずれも、点の拾われ方の誤差程度の僅差なのだ。最初の58.88点というのは、フランス大会での「凄すぎる自爆」のとき。ジャンプを次々失敗し、それでも59点近い点をもらっている。いかに表現力の評価が高いかこれだけでもわかろうというもの。ファイナルではキム選手がホームだったのに、2人の差は1.12点しかない。これをもって「表現力ではキム選手のほうが上」などというのは完全に間違っている。もっとも格式の高い昨季の世界選手権でのフリーの演技構成点は浅田選手60.57点、キム選手58.56点で浅田選手のほうが高かったのだ。トリプルアクセルで大コケし、技術点でキム選手に負けた浅田選手が、ショートとの合計点でキム選手を上回ったのは、この演技構成点の評価のおかげなんですよ。これはMizumizuの印象でもなんでもない。数字が示す事実だ。それをまだ自分の好みや思い込みで、「キム選手は浅田選手より表現力が優れている」などとテレビでさかんに宣伝する人がいる。いいかげん、事実に反することを放言するのはやめてください。 日本で出版されているフィギュア関連の雑誌は、こぞって浅田選手のスパイラルを表紙の写真に使う。韓国紙も浅田選手のスパイラルの写真を記事に載せていた。浅田選手のスパイラルは本当に、世界一美しい。単に柔軟性だけならジャン選手のほうがまさっているかもしれない。だが、すらりとした脚の長さを含めた総合的な美しさなら浅田選手にかなう人はいない。一方キム選手のほうは、ポーズを決めて一瞬静止したときの写真が多い。彼女が顔の表情や腕の表現を含めたポーズに美しさがある選手だからだ。だが、どちらがフィギュアにしかない表現ですか? よく考えてください。まったく信じられない。繰り返すが、キム選手は非常に素晴らしい選手だ。だが、浅田選手はもっと素晴らしい選手だ。ルッツ、セカンドの3トゥループまでは跳べる選手はこれまでもしばしば出ていた。だがセカンドに3ループを跳び、かつ3アクセルまで跳べる選手は伊藤みどりしかいなかった。さらに伊藤みどりにはない長所も兼ね備えているのが浅田真央という天才スケーターなのだ。キム選手が強いのは、そのトップ選手なら跳べるジャンプに過剰ともいえる加点がついているから。つまり「加点制度」というルールが彼女に味方しているのだ。さらに2年越しで、ルールは「難しいジャンプに挑戦しないキム選手」に有利になった。それでもなお浅田選手はキム選手に勝っている。ほとんど奇跡みたいなことだ。今回は完全アウェイの敵地でトリプルアクセルを2度完璧におりた。新聞は「最後は暖かな声援」なんて、むりやり韓国をヨイショするが、あのキム選手オンリーマンセーの雰囲気がそんなものでしたか? あそこまで異常な雰囲気の中で戦い、勝利した自国の選手をなぜ手放しで賞賛しないのだろう? 現実問題として、「安藤選手が世界女王になったとたんに、wrong edge違反を取って安藤選手のジャンプをボロボロにし(安藤選手も明白なフリップの不正エッジをもっていた。ルール改正が安藤つぶしだと見抜いたモロゾフはすぐに矯正に入ったのだが、間に合わなかったのだ)、浅田選手のルッツを減点しまくり」、さらに翌年これらの逆境をはねのけて浅田選手が世界女王になると、さっそく「回転不足判定を異常に厳しく」してきたのだ。これで安藤・浅田選手のセカンドのトリプルループは武器どころか足を引っ張るものになり、安藤選手が情熱をかたむけた4サルコウもほぼ認定は無理になった。実際、浅田選手はNHK杯、グランプリ・ファイナルのショートと、2回非常に完成度の高いセカンドの3ループを跳んだが、角度をかえたカメラのスローモーションで回転不足が発見され、いずれも認定されなかった。これが意図的な「安藤・浅田には勝たせないぞ」ルール作りでなくてなんだろう? こんな露骨なことをしてくる国際スケート連盟は、だが日本のフィギュア人気に目をつけた商売には余念がない。オリンピックシーズンに入ってからの「団体戦」なんて、本気ですか? 本来ならメディアの取材もシャットアウトして、静かに調整に入る時期を試合で乱すことに何の意味があるだろう? バンクーバーで勝たせたくない日本の選手を余計な試合で疲れさせたうえ(うまくいけば怪我をしてくれるかもしれない)、カネ儲けもできる。まさに一石二鳥。こういうのに加担してるのが、カネ儲けに目がくらんだ日本人自身だというのが、また情けない。そして、「オリンピックの正式種目になることも期待されます」なんて、意味もないことをさも意味ありげに言われて、真央ちゃんが見られると盛り上がって押しかけるファン。「バンクーバーの前哨戦です」とかなんとか、的外れなウソをまことしやかに叫んで視聴率を稼ごうとする(であろう)テレビ局。ため息。<ため息をついたあとは、ダウングレード判定に話を戻します。続きは明日>
2008.12.24
注:本日より急に拙ブログにアクセスしようとすると「危険なサイト」の警告が出るようになりました。なんら危険な情報は入れておりません。詳細は楽天に問い合わせ中です。今シーズンの男子シングルでの最初の「異変」は、スケート・アメリカ(アメリカ大会)で起こった。絶対的な優勝候補だったライザチェックとウィアーを蹴落として、日本の新鋭小塚選手が優勝してしまったのだ。日本人としては大いに喜ぶべき結果だったが、ボーゼンとなったのは会場のアメイカ人ファンだった。見た目の出来で言えば、どう考えたったアメリカの2人のトップ選手のほうがよかったのだ。小塚選手は4Tでダウングレード転倒したうえに、2度目の3Aで目立ったミスをした。ウィアー選手は4Tでコケはしなかった。そして全体的にうまくまとめた。ライザチェックは4Tで同じくダウングレード転倒になってしまったが、そのほかはノーミス(に見えた)。ライザチェックの武器はなんといっても大技。昨シーズン前半までの彼は、4回転+3回転の連続ジャンプをかなりの高確率で決めることができる選手だった。だが、世界選手権の直前に怪我をして今シーズンはジャンプの調子が戻っていない。さて、では昨シーズンまでのライザチェックのフリーの欠点はというと、「難しいジャンプを入れつつ、エレメンツはきちんとこなすが、プログラム構成がスカスカ」だったことだ。特に濃密なプログラム構成でくる高橋選手と比べると全体的な「軽さ」が非常に気になった。「ライザチェック、頑張りましたけどね~。高橋君のほうが難しいことしてますから」というのが解説者の見解だった。これはまったく正しい。そこで今季のライザチェックはプログラムの密度を上げてきた。エレメンツの間にさまざまな身振りや激しい動作を入れて、重くドラマチックなプログラムを作った。アメリカ大会でフリーを終えたライザチェックは勝利を確信しているように見えた。ところが、点が出てビックリ。信じられない面持ちでいたのは、選手本人よりもむしろコーチ。電光掲示板を凝視したまま、しばらくは立ち上がれなかった。「何かの間違いでは?」という顔だった。フリーの3選手の得点を振り返ってみよう。1 小塚選手 技術点75.88+演技構成点71.20(転倒によるマイナス1)=146.08点2 ウィアー選手 技術点69.75+演技構成点74.90=144.65点3 ライザチェック選手 技術点66.61+演技構成点76.30(転倒によるマイナス1)=141.91点「プログラムの密度を上げる」というライザチェックの戦略はプログラムコンポーネンツの76.3点という評価で、一応達せられたと見ていい。70点そこそこの小塚選手に対して、5点以上上回っている。だが、驚くのは技術点の低さだ。Mizumizuブログの読者なら、このカラクリがわかると思う。そう、「どこかでダウングレードされた」のだ。はっきり言って、どのジャンプが足りなかったのか、まったくわからなかった。プロトコルを見てやっとわかった。3Aからの連続3ジャンプの3A。つまり「4回転を入れると次に難しいジャンプであるトリプルアクセルを失敗する」というパターンにはまったのだ。見た目はまったく普通におりたように見えたにもかかわらず。もう1つ。ウィアー選手ほど明白ではないが、ライザチェックもwrong edgeを潜在的にもっていたようで、3F+3Tの3Fに「!」判定がある。ここでアテンションをつけられたために、加点がつかず、3F+3Tは基礎点の10.45点に留まった。4Tのダウングレード転倒で得た点がゼロになったのは、小塚選手と同じなのだが、もう1つの得点の高いジャンプのダウングレードとエッジ違反が痛かった。日本のファンはNHK杯での浅田選手の3A+2Tのダウングレードで出てきた点を見て、初めてこの異常な点の下がり方に気づいた方も多かったと思うが、アメリカのファンはその前にライザチェック・ショックを受けていたというわけ。「まったく失敗したようには見えない」という点でも同じ。ライザチェックの3Aの単独とコンビの点は以下のとおり。3A 8.8点(基礎点の8.2に加点)3A(<)+2T+2Lo 5.81点 (3Aが2Aにダウングレードされたので、基礎点が6.93。ここからGOEでの減点がくる)単独の3Aで8.8点もらいながら、3Aを入れた3つのジャンプを跳んでもらった点が5.81点。まさに「無理がとおれば道理がひっこむ」ダウングレード判定の恐怖だ。アメリカ大会で狂気のダウングレード判定の犠牲者となったライザチェックは、自身の第二戦であるカナダ大会では、さっそく対応すべく、「4回転徹底回避策」に出た。もともと4回転が武器だった選手だが、怪我以降はどうも4回転の調子は悪いようだ。今季は最初からショートには入れていないし、アメリカ大会の「モロ」コケを見ても、今の状態では完璧な4回転を回っておりてくることは難しい。もともとライザチェックの4回転は、「ちょっとだけ回転不足」になるジャンプだった。さて、そのカナダ大会。前試合の判定に動揺したのか、ライザチェックはショートの連続ジャンプでミスをした。大技4+3をはずしたのだが、3ルッツからのコンビネーションがうまく決まらず、4位と出遅れる。そして、フリー。今回は4回転にトライせず、3ルッツにして、ジャンプをすべてまとめる作戦に出た。そして結果は?技術点67.17+演技構成点70.70=137.87点なんと4回転を回避して点を稼ぎに来たハズが、アメリカ大会以上に下がってしまったのだ。「またどこかでダウングレードされた」――プロトコルを見ると、2つもある。3A(<)+2+2 5.65点3Lo(<) 1.05点(普通に3回転するとループは基礎点は5.5点)この2つが痛かった。おまけにプログラムコンポーネンツをアメリカ大会より5.6点も下げられてしまった。アメリカはライザチェックの「ホーム」。カナダは期待の新鋭チャンの「ホーム」。「チャンあげ」をしたいジャッジが強引に「ライザチェックさげ」に出た、とでも疑いたくなるような下がり方だ。プログラムコンポーネンツが「テキト~点」だとMizumizuが言う理由はここにある。このダウングレード判定とプログラムコンポーネンツさげさげ攻撃で、見事に地元カナダの新鋭チャンが浮上する。チャンのフリーのジャンプは相当にひどいものだった。最初の3Aは連続ジャンプに出来ず、2度目の3Aも乱れ、3ルッツはスッポ抜けて1回転、2Aでも乱れた。見た目はボロボロだったが、ダウングレード判定のジャンプはゼロ。チャンのフリーの得点は技術点61.58+演技構成点77.40=137.98点技術点ではさすがにダウングレード攻撃2つ受けたライザチェックより悪い。ところが、演技構成点で高評価。もちろん彼が75点の壁を突破して高い評価を受けること自体に異論はない。チャン選手の表現は独特の美をたたえている。スケーティングもきれいだし、上半身の動きも優美だ。といっても、あの出来で77点以上というのはちょっとばかし出すぎだとも思うが。一方、アメリカ大会では75点の壁を突破して高い評価を得たライザチェックがいきなり5点も「さげ」られた。だからジャンプゆらゆらのチャンが逃げ切ったという腑に落ちない成り行き。総合結果は、1 チャン(カナダ)2 ブラッドリー(アメリカ)3 ライザチェック(アメリカ)だった。ちなみにブラッドリーはジャンプで高い点を出したものの、プログラムコンポーネンツが70点にも届かない65点台。これでは、どうやってもチャンには勝てない。ライザチェックはなぜこうもダウングレード判定をされてしまうのか? そう、実は中野選手と同じく、彼はジャンプが低い。どこかしら回転不足になりがちの選手なのだ。カナダ大会では4Tをはずしたにもかかわらず、アメリカ大会のときと同じ3Aからの連続ジャンプ、おまけに単独のループまでダウングレードされてしまった。相当ジャッジに「狙われている」のだろう。フリップの!マークはカナダではなくなった。気をつけたのだろうと思う。ジャンプが回転不足気味でも器用におりてしまう――これは、これまでは必ずしも欠点ではなかった。もちろんほめられたことではない。回転不足は回転不足だからだ。ところが、回転不足判定の厳密化という「狂気」が始まった今季からは、この小さな欠点をもつ選手が大きな減点をくらい、軒並み討ち死にしている。繰り返すが、回転不足は素人ファンにはわからなくても悪いジャンプであることは間違いない。だが、肉眼ではわからない回転不足までビデオのスローモーションで探し、いきなりダウングレードしたうえにGOEで引くのは行き過ぎだし、完全に間違っている。3回転の回転不足は「回りすぎた2回転、だから2回転の失敗」などと強引なことを言うのではなく、あくまで「3回転ジャンプの失敗」と見なして、GOEでの減点に留めるべきなのだ。そして、このダウングレード判定の暴走によって、強くなった選手が、着氷でしょっちゅう手をついたり、ステップアウトしたりするものの、ジャンプを回りきっておりてこられるタイプのチャンとロシェットの2人のカナダ選手、それにキムとコストナーというのが、あまりに露骨すぎる(そして男女ともに悲惨なことになってるのがフィギュア王国アメリカのトップ選手。昨シーズンまで強かった選手が、全員超さげさげ状態だ)。ライザチェックのこの小さな欠点が大きな減点になったために、ジャンプを正確におりることのできる小塚選手はトクをした。だが、それでもやっぱり、「このルール運営は狂っている」と思う。
2008.12.23
<きのうから続く>中野選手のように単独ジャンプですら減点される選手、しかも年齢的にも限界に近づいている選手が、「3回転+3回転を」などと、できもしない挑戦をするより、今ある技をミスなく決めるよう努力したほうがずっといいのだ。シリーズをとおして、中野選手は3フリップと3ルッツが常に不安的だった。2回転になったり、回転不足を取られたり。今回のファイナルでは「!」もついてしまった。このエッジ判定自体が適切かどうかはハッキリいえないが、少なくともフリップのエッジがやや曖昧だった、ということは認めなければいけないだろう。ルッツに気をつけるとフリップがおかしくなる、というのはどの選手にも共通のことなのだが、安藤選手や浅田選手は少なくとも、今までEも!ももらっていない。イチャモンのような判定でも、1つだけはっきりしてるのは、「きっちりインで踏み切れば、どんなにイチャモンをつけたいジャッジでもフリップに!はつけられない」ということだ。現在のルールではそれを目指すべきだろう。浅田・安藤・中野の3選手は程度の差こそあれ、それぞれルッツあるいはフリップにwrong edge問題をかかえていた。昨シーズン、この不正エッジで一番減点されていたのは浅田選手だった。安藤選手はいち早く矯正に取り組み、不正エッジ判定はなかったが、ジャンプがめちゃめちゃだった。中野選手は浅田選手ほどは減点されず、安藤選手ほどはジャンプで転倒しなかった。ところが、今シーズンになったら、浅田選手はしっかりとルッツを跳び、加点までもらった。ルッツを直そうとするとフリップにも影響が出るのが普通だが、浅田選手はそれもなく、しっかりフリップを跳んでいる(ファイナルのフリーのフリップの転倒はエッジ矯正とは関係ない失敗だ)。安藤選手はやや回転不足を取られているが、転倒はなくなり、しかもやはり不正エッジはない。中野選手だけが中途半端。Wrong edgeも取られたり取られなかったり。ジャンプも2回転になったりちゃんと跳べたり。この不安定さが中野選手の弱いところなのだ。つまり、矯正も不完全なままジャンプも不安定になってしまっているということ。同じコーチについている小塚選手は、エッジを矯正したうえに、加点までもらうジャンプ(彼の場合はフリップのほう)を浅田選手以上にコンスタントに跳んでいる。大技を入れた場合でも、エッジが曖昧になることもない。さて、大技を入れた場合に連動するジャンプミスだが、中野選手と安藤選手--そして小塚選手、織田選手もだが--のフリーでのジャンプのミスはまったくパターンが同じなのだ。安藤選手は大技4Sを入れることで、次に彼女にとっては難しいフリップ(一般にはルッツだが、安藤選手はルッツが得意なのだ)で回転不足、後半の3連続ジャンプの最後の2Lo(つまり、いつもなら難なく跳べるジャンプ)でも回転不足。それにもう1つ2A+3Tの3Tが回転不足を取られ、見事に中野選手と同じパターンにはまったのだ。モロゾフは4Sを入れることのリスクを十分考慮してジャンプ構成を組んだ。4S(<)3F(<)2A+3T(<)(ココから後半)3Lz+2Lo+2Lo(<)3Lz3Lo2A3+2+2の連続ジャンプは、中野選手は一番バテてる後半の後半、エレメンツでいえば後ろから2番目に来るが、安藤選手の場合は後半の一番最初に入れた。これは後半の後半にもってくると、高さがなくなるという体力面でのリスクを考慮したうえでの決定だったはずだが、それでも安藤選手は3つのジャンプを全部きちんと回りきることができなかった。またルッツの失敗にも考慮して、連続ジャンプの入るルッツの直後に単独ルッツを並べている。つまり、最初のルッツで失敗しても、すぐに次のルッツでリカバリーできるようにしてあるのだ。これがルッツが離れてしまうと、選手は最初のルッツで失敗すると「次のルッツで必ず連続ジャンプにしないと」という心理的な負担が大きくなる。ルッツが連続していれば、失敗してもすぐにリカバリーできるし、成功した場合は、そのままのリズムで同じジャンプを跳べばいいので、選手の心理的な負担はずっと軽くなる。モロゾフが後半に単独ジャンプを連続させるのは、「またかよ」とファンには不評だが、あれも合理的な理由がある。後半に入ったところで10%増しの加点がもらえるジャンプを「後半の前半」に集中して片付けてしまって、最後にスピンとスパイラルにしておけば、選手は連続ジャンプのところではジャンプだけに集中し、それが終わって体力が限界にきても、あとはスピンとステップだけ片付ければいいからだ。そこにいくと中野選手のフリーの構成は、後半にジャンプ→スピン→ジャンプ→スピン→ステップ→ジャンプ(しかも3連続)→スピンとエレメンツがバラけている。これはどちらがいいとは一概にはいえないが、少なくともモロゾフは、「ジャンプミスをなるたけ少なくする」構成で来たことは間違いない。それでも、厳しい判定によって連鎖ミスを取られてしまったのだ。現在の日本の女子は、どの国より選手層が厚い。安藤選手、中野選手といえど、日本代表の座が約束されているわけではない。全日本でもまだ大技に固執するつもりなら、ジャッジは国際基準に合わせて、すべてのジャンプの回転不足を厳しく判定すべきだ。何度も無駄にチャレンジさせて他の選手のチャンスを奪うのは公平ではない。フリーで100点前後の点しか取れないなら、4回転もトリプルアクセルもハナっからないが、難しいルッツジャンプを安定して回りきることのできる鈴木明子選手に世界挑戦のチャンスを与えるべきだろう。村主選手は2つのグランプリ・シリーズでそこそこの成績を出したが、ジャンプがあまりに不安定で、あの状態では層の厚い日本女子の代表として世界選手権に出すわけにはいかない。一方鈴木選手は、フリップにwrong edgeがあるという大きな欠点がある--そして、気をつけようとすると失敗する状態だ--が、ジャンプを回りきる力は中野選手以上のものがある。「着氷でステップアウトしていても、ちゃんと回りきっている」のが鈴木選手。「(3Aを入れるととくに)見た目の着氷はきれいだが、実は回転が足りないジャンプがあちこちに出てくる」のが中野選手。現在のルールでは3Aを入れた中野選手より鈴木選手のほうが明らかに強い。中野選手が3Aを入れずにすべてのジャンプを安定させれば、中野選手の勝ちは揺るがない。中野選手はショートで60点以上出せる実力があるし、3Aをいれずにミスを減らせば180点近い点を出せる選手。鈴木選手にはそこまでの地力はない。ところが、中野選手は今季はルッツとフリップが不安定で、よく2回転になってしまう。これだと、wrong edge減点があっても3回転回りきる力のある鈴木選手のほうが強い。つまり、2人の実力は拮抗しているのだ。鈴木選手はステップに魅せる力があるし、スパイラルやスピンでも安定している。成熟した大人の女性の独特なムードもある。10代のころは、ジュニア時代から傑出した美しさで世界で驚嘆させた1つ年下の太田選手の陰に隠れていたが、もともと鈴木選手は実力のある選手だった。中野選手も太田選手の怪我で国際大会への出場がまわってきて、自分の力だけで現在のポジションを築いた選手だ。そして、世界の誰もかなわないようなエレガントな表現力を備えていた太田選手はもういない。鈴木選手のNHK杯での3A+3Tの3Tはダウングレード判定だったが、これだってまだ始めたばかりですでに「肉眼ではまったくわからない」程度の回転不足。もう少しで完璧におりられる。中野選手の「何年たっても、いつも肉眼でわかるぐらいあからさまな回転不足でおりてくる」トリプルアクセルより、ずっと完成させられる確率が高い。不完全な大技にいつまでもしがみつくのは、幻想に逃避するのと同じだ。中野選手のファンだって、「ゆかりタンがトリプルアクセルを跳ぶからスキ」だということではないはずだ。彼女の清楚な雰囲気や可憐な笑顔、常に努力する姿勢、軸のきれいなスピン、向上してきたステップ、厳しすぎる判定をされても品行方正な態度を貫く健気さなどを愛しているはず。目立つ話題のほしいメディアの煽りにのって、すでに武器にならないトリプルアクセルに中野選手を駆り立ててはいけない。スピンをすべてレベル4にし、ステップもレベル3にする。3回転予定のジャンプはキッチリ回りきり、決して2回転にならないようにする。そしてそれを安定して試合で続けること。この目標に向かって努力するべきではないかと思うが、どうだろうか。
2008.12.22
中野選手のグランプリ・ファイナルのフリーの得点は衝撃的だった。トリプルアクセルで失敗し、ステップでつまずいたとはいえ、100点に満たない99.85点。もちろんこれはどこかでダウングレードされているからだ。フリップからの連続ジャンプのスロー再生のときに、解説の伊藤みどりが、「あ、フリップがちょっと… こういうところをジャッジは見てるので、どう判断されるでしょうか」と心配していた。そしてもう1つ最後の3+2+2のところ。最後の2Loが完全に回転不足でおりてきてしまったのを、スロー再生ははっきり映し出していた。案の定プロトコルを見ると、3Aにくわえて、3F、2Loの3つがダウングレード。3FにはNHK杯に続いて「!」マークまでついてしまった。中野選手のフリーのステップはなかなかレベル3がつかない。今回もレベル2で、そこからつまずいた分GOEで減点されたので、ますます減点が多くなった。初戦のアメリカ大会のフリーでは、中野選手はトリプルアクセルを回避してダブルアクセルにし、今回と同じ構成で115.07点を出した。それより15点以上下がってしまったということだ。アメリカ大会はやや認定が甘かったかもしれないが、とにかく、これは現実に中野選手が出した点だ。もちろん、点が大幅に下がった原因は大技トリプルアクセルを入れたことだ。以前から書いている「大技を入れると連動して起こるジャンプミス」。これに見事にはまっている。中野選手のジャンプのプロトコル(成績表)を見てみよう。右の点はGOE後の実際の獲得点数3A(<) 1.36点 (アメリカ大会では2Aで3.7点)3F(<)(!)+2T 2.52点 (アメリカ大会では同じジャンプで回転不足やエッジ違反がなく6.8点)3S+2T 6.2点 (アメリカ大会6点)2A 4.1点 (アメリカ大会3.9点)2Lz 1.66点 (アメリカ大会では3Lzを跳んで、若干GOEでのみ減点され5.6点)3F 5.85点 (アメリカ大会では6.05点。NHK杯ではこの3Fでダウングレード)3T+2T+2Lo(<) 4点(アメリカ大会8.28点)大技を入れると連動して起こるミスのパターン1 次に難しいジャンプを失敗する(4回転を入れるとトリプルアクセル、トリプルアクセルを入れると3ルッツ)2 後半の「いつもなら難なく跳べるジャンプ」を失敗するこれに見事に当てはまっている。つまり3Aを入れることで、そこで集中力を使い、トリプルアクセルの次にむずかしいルッツが2回転になってしまった。さらに後半の最後のジャンプ2Loを回りきる力がなくなり、ダウングレードされた。これにさらにフリップの回転不足判定が重なった。ステップでもつまずいた。つまり「大技を入れることで起こるミス」のパターンを見事に現実化したうえに、もう1つジャンプの回転不足を取られてしまったのだ。そのうえトリプルアクセルも決まっていない。「減点されたら負け」のルールでは、最悪のパターンにはまった。もう1つ。中野選手が3Aを跳ぶと3Fが回転不足気味になるというのは、昨シーズンからしばしばプロトコルを通じて指摘されていた。3Aを入れない場合でさえ、3Fでダウングレードされることがある。3Aを入れればなおさら体力がなくなってそのリスクが高まる。だから、「特に3A入れると3Fが足りなくなる」というのは、中野選手の隠れた「お約束の失敗」なのだ。それをやはり、今季も克服できなかった。中野選手はグランプリ・ファイナルのショートで3位につけ、フリー滑走に入る時点では106点出せば表彰台だった。過去の実績から考えても3Aをやらなければ3位はキープできた。では、中野選手の3Aは「やってはいけない愚かな挑戦」だったのだろうか。それは違う。まずは、大技を入れるときの過去の実績。大技は他のジャンプを決めてこそ大きな武器になる。中野選手はすでに今季、3Aを入れないフリーですべてのジャンプをきれいにまとめるという課題をクリアした試合もあった。ただ、不安要素もあった。それは「フリップ」と「ルッツ」。安藤選手の昨シーズンほどではないにせよ、エッジの矯正にともなって中野選手はこの2つのジャンプが不安定になっている。3Fのつもりが2Fになったり、3Lzのつもりが2Lzになってしまっていた。3回転+3回転のない中野選手にとって、この不安定さは大変に痛い。連続ジャンプのファーストや単独3回転ジャンプで、それが2回転になるのは、3+3のない選手にとっては「やってはいけないミス」なのだ。もう1つの不安要素は、中野選手のトリプルアクセルの完成度。中野選手は3Aで転倒までしてしまうことはないのだが、ほとんど常に「ちょっとだけ回転不足」だ。安藤選手や浅田選手のセカンドの3ループ以上に、「肉眼でわかるほどの回転不足」なおりかたをしてしまう。これは何年かけても中野選手がまったく克服できなかった問題点。結果認定度が低い。昨シーズンの世界選手権でもそうだったが、ダウングレード判定が非常に多いのだ。認定されたジャンプも、スローで見ると「ちょっとだけ足りていない」ことがほとんど。大技の認定がさらに厳しくなった今年、認定される3Aを中野選手が跳べる確率は高くなかったと思う。だが、どこかで試さなければ、認定されるかどうかなどわからない。過去2試合で跳んでいない3Aをここ一番の大きな試合で入れることのリスクは?これについても、問題はなかった。中野選手はすでに世界選手権のような大きな試合を何度も経験してきている。ショートで3位という好位置につけたからには、トリプルアクセルをここで試すのは非常に合理的な判断だ。このあとに4大陸や世界選手権が来る。より大きな大会に向けて、出来と認定具合を見るには絶好のチャンスだった。うまく決まれば(上位2人の出来次第では)もっと上の位置に行けるかもしれない。そして、3位を守りきるという面から見ても、3A挑戦は決して無謀ではなかったのだ。3Aなしで他のジャンプをきれいにまとめて中野選手が得た得点は115点。そのうちの2Aの得点が3.7点。3Aで転倒する確率が非常に低い中野選手がダウングレード転倒(つまりマイナス点になるということ)することはほとんど考えられないが、たとえ3Aで失敗してそのジャンプの得点がゼロ前後になったとしても、失敗がそれだけなら、110点前後は出せるのだ。ところがやってみたら、ほぼ最悪の結果になった。「大技にともなうパターン化したミス」をやってしまったうえ、中野選手のお約束の「3A入れると3Fが回転不足に」もやってしまった。スピンはレベル4が3つにレベル3が1つ、スパイラルもレベル4と申し分ないのだが、ジャンプで起こった連鎖的なミスとステップでの失敗が痛かった。中野選手が3Aを成功させつつ、これらの連鎖的なミスを克服できる可能性は非常に低いと思う。フリップの回転不足は去年からジャッジに「狙われている」お約束なのだ。それをまたやっている。つまり、中野選手のジャンプの力に対して、3Aは負担が大きすぎるのだ。「実力をこえたジャンプ構成をとると、こういう悲惨なことになります」の見本みたいなもの。だから、中野選手は「トリプルアクセルを入れないほうが強い」のだ。2Aの基礎点3.5点に対して、3Aの基礎点は8.2点。4.7点しか違わない。この4.7点を上乗せしようとして、15点もの点を失ったのが、今回のグランプリ・ファイナル。このやり方は明らかにナンセンスだ。それより、中野選手のフリーにはまだまだ「現実的に向上させられる部分」がある。1 3Aをいれずにすべてのジャンプを成功させること(アメリカ大会で達成)2 スピンですべてレベル4を並べること(NHK杯でのみ達成)3 ステップでレベル3を取ること(これもNHK杯のみで達成)すべて中野選手は一度はできていることだ。それをどの試合でもできるようにすること。3Aほどの大きな点の上乗せはできないが、博打のような3Aをいつまでも試合で使って、そのたびにダウングレードされるよりははるかに合理的な戦略だと思う。大技を入れなければ、スピンやステップに力をさくことが可能になる。大技ばかりに執着するから他のエレメンツの底上げができないのだ。3Aに関しては、中野選手は年齢的な限界もある。すでに彼女は「世紀の天才ジャンパー」伊藤みどりが現役引退(のちに一度現役復帰するが)した年齢を超えている。ジャンプの高さは18歳がピークといわれるなかで、努力に努力を重ねて3Aをおりる力を維持してきたが、高さがないジャンプで無理やり3回半まわっても、着氷は常に不安定なままになる。大技認定が異常に厳しい今季のルールでは、まず認定されるジャンプを跳ぶことは難しい。中野選手はジャンプで加点がなかなかもらえないのだが、2Aだけにはそこそこ加点がついていた。だが、その加点も今シーズンはとても小さい。アメリカ大会では基礎点3.5点に対して3.7と3.9。グランプリ・ファイナルでは4.1。あまり高い評価ではない。つまり高さ(それに飛距離)がないということだ。2Aの質もそれほど高くないのに、むりやり回転力だけで3Aを回っても高い評価はしてもらえない。3Aは減点幅も大きくなった。仮に回転不足判定されずにおりたとしても、GOEでの減点が待っている。中野選手は単独の3回転ジャンプでもGOE減点が多いのだ。こういったさまざまな点から考えると、中野選手はむしろ、「トリプルアクセルを跳んではいけない」というのが今回のグランプリ・ファイナルでの教訓だ。そうなると、中野選手は何点取れるのだろう?結論から言うと、180点ぐらいは取れる選手だ。中野選手のショートの評価は非常によくなってきた。3回転+3回転のない選手としては、グランプリ・ファイナルでもらった62.08点というのは非常に高い。スピンでレベル4を3つ、レベル3を1つ、ステップでレベル3、スパイラルでレベル4というのは、「素晴らしい」としかいいようがない。しかも、このショート、フリップに!判定があり、基礎点から0.8点減点されている。3ルッツもダウングレードこそされなかったが、0.8点減点された。この2つのジャンプを完璧にするだけで、64点に近い点が出るのだ。これにアメリカ大会で3Aをいれずにジャンプをまとめて出したフリーの115点を足せば、179点。このラインを常にコンスタントに出すことを目指せば、何が起こるかわからない試合では、3位以上をキープできる可能性が非常に高い。たった4.7点の上乗せにしかならないトリプルアクセルを今後も意地になって跳び、ほかの連鎖的なミスを引き起こして大量の減点をくらうなど、もはや愚の骨頂。今回の挑戦でそれがハッキリしたはずだ。「中野といえばトリプルアクセルぅ~!」などという周囲の煽りには耳を貸さず、現実的な戦略を立てるべきだ。<明日は「大技にともなう失敗はパターン化する」ということを安藤・中野選手のフリーから再度見ていきます>
2008.12.21
<きのうから続く>安藤選手はどういう選択をするのだろう? すべて彼女次第だ。だが、4サルコウの今のルールでの「完成」は「ほとんどできない」と思うし、セカンドの3ループも「非常に分の悪い博打になってしまう」と思うMizumizuだが、他の課題(ダウングレードの標的となっているジャンプを完璧に着氷すること)の克服は、「安藤選手ならできる」と断言できる。昨シーズンはフリップの矯正にともなってルッツも失敗しつづけたが、あのときと比べれば今のほうが断然ジャンプは安定してきている。誰も注目しないし、誰もそのチャレンジを褒めないが、エッジの矯正は非常に難しいのだ。安藤選手は昨シーズンからいち早くその矯正に取り組んだ。同じく早くから矯正に取り組んだマイズナー選手でさえ、まだときに「!」判定を食らうし、そのほかの若いアメリカの有力選手は軒並み矯正ができていないというのに、安藤選手には「E」も「!」もつかない(かなり中立のエッジで、アブナイと思わないでもないのだが、とりあえずアウトに入るクセはなくなったということだ)。素晴らしい進歩ではないだろうか? そうそう、もう1人、男子でキチンと矯正してきた選手がいる。それが小塚選手なのだ。昨シーズンはフリップでE判定をくらったが、今シーズンはショートでもフリーでも逃げずに跳んで、まったく違反なし。「!」(Eよりは軽度の「警告」の意味でつけられるマーク)さえつかない。それどころか、各ジャッジから加点を1から2点もらっている。ジュベールは昨シーズンE判定されたフリップをなるたけ回避するためにフリーは後半に2A2つなどというオンナノコ構成になっているし、1度だけ抜き打ちのように跳んで判定の目をかいくぐった感がある。ウィアー選手もしみついたwrong edgeのクセを直すことができず、毎回毎回必ずEやら!やらつけられて、点が伸びずに非常に苦しんでいる。それを小塚選手はキチンとやりとげたのだ。こういうマジメなところが小塚選手の素晴らしいところなのだ。昨シーズン、ジャッジから「良くない」と言われた部分をしっかり直してシーズンインした。ところが日本の新聞ときたら明らかに戦略ミスの4回転のことばかり「手ごたえ」などと書き、wrong edge矯正という地味だけれど難しいチャレンジにはまったく関心を払おうともしない。安藤選手の場合は、矯正にともなってフリップの高さが出なくなった。つまり、まだ矯正は十分にできていないのだ。矯正が不十分なうちに、さらに難しい技を入れようとして失敗した(判定が厳しいから「失敗」にさせられたというべきか)ということなのだ。失敗は失敗として認めたうえで、今後の戦略を立てるべきだし、モロゾフ&安藤なら、それはできるはずだ。ファンも安藤選手に4回転サルコウばかり期待し、そこに感動を求めるのではなく、地道にエッジを矯正した安藤選手の努力を褒めるべきではないだろうか? 安藤選手のフリップは以前は相当露骨なアウトエッジだったのだ。最後の最後にグッとアウトに入って力を入れて跳ぶ。それをきちんと直してきた。しかも、それにともなう不調で昨シーズンあれほど転倒で苦しんだ選手がここまで持ち直してきたのだ。日本のファンは基本的に賢い。なにも4サルコウに挑戦しなくても、ミキちゃんには他にも十分な魅力があることをすぐに理解するはずだ。それはタカヒコ君だって同じことだ。4回転に挑戦しなくたって、彼のスケートには見所がたくさんある。インタビュアーが大技のことばかり聞き、新聞が「4回転に手ごたえ」とばかり書き立てるのがおかしいのだ。手ごたえも何も、小塚選手の4Tは3試合続けてダウングレード、そのうえ極度のプレッシャーのかかったファイナルでは、大技を入れることによって連鎖的に起こるミスを予想以上に引き起こした。現行ルールで勝つためには、あれは明らかに、「やってはいけない挑戦」だったのだ。今はジャンプを「おりたかどうか」ではない。「回りきったかどうか」が評価の分かれ目なのだ。今季グランプリ・シリーズに初めて出てすぐに4回転の認定をもらった織田選手とはジャンプの地力が違う。そして、4回転「だけ」を決めたところで、他のジャンプが乱れて減点されれば、勝てないのが今のルールだ。今のルールでは、認定されるかどうかの可能性を見極めたうえで、ジャンプ構成を組まなくてはならない。小塚選手の4T完成は--怪我さえなければ--時間の問題だが、安藤選手の4サルコウ(と場合によってはセカンドの3ループ)はやはり、捨てなくてはいけないと思うのだ。それでも、依然として安藤選手には世界トップ3で争う力があることは間違いない。個人的には角度をかえてスローで見なければわからないような回転不足までダウングレードするなど狂ってると思う。3回転と2回転では基礎点が違いすぎるからだ。Wrong edgeと同じくスペシャリストが判定したら、GOEでだけ引くべきだ。そうすれば、この見た目の印象とまったく違う、目を疑うような低得点もなくなるし、一方で不完全なジャンプは減点するという原則も守ることができる。これは去年から主張してきた。去年ならまだルールをマトモに戻す可能性があったからだ。だが、今年はこのダウングレード判定の暴走にブレーキがかかるどころか、拍車がかかった。いくら狂ってると思っていても、いったんそのルールと基準が確立してしまったら、もはや対応するしかない。この「安藤・浅田には勝たせないぞルール」は、日本女子の悪い側面を突いてきたのも事実なのだ。それは、日本の女子トップ選手が、「それぞれの技が不完全でややいい加減なところがあるのに、派手な大技ばかりやりたがる」ということだ。日本女子のこうした態度は、大技ばかりやれやれと囃し立て、そこにばかり感動したがるメディアとファンにも責任がある。あなたは、安藤選手がこのまま怪我ととなりあわせで、かつジャッジはほとんど認定する気のない4サルコウに挑戦しつづけ、見た目にほとんど決めたジャンプにまでイチャモンとしか思えないような(<)マークをつけられて、キス&クライでムリに笑顔を作る姿が見たいのだろうか? このクレイジーな採点システムの最大の犠牲者は安藤選手だ。「まったくひどい。許せない」--それはそのとおりだ。だが、そう叫んで、認定される可能性がおそろしく低い4サルコウへ挑戦しつづけ、認定されなくても「降りた。えらい。あれは旧ルールなら成功だ(←これは事実だ)。試合に勝つことより大技に挑戦することに意味があるんだ」とでも言っているのが美しいことだろうか? それではただの自己満足だ。世界相手に戦うなら、勝たなければいけないし、少なくとも勝つつもりで最大限有効な戦略を合理的に立てるべきだ。いくら理不尽で狂った(ように見える)ルールでも、ルールはルール。それを忘れて無謀なチャレンジを美化してはいけない。大技を決めれば勝てる時代は終わった。ジャンプはエレメンツの1つにすぎない。Mizumizuは安藤選手がオリンピックで表彰台に立って笑う顔が見たい。手薬煉ひいて減点するのを待ち構えている採点システムに対してでも、まだまだ安藤選手にはそれに対応して点を伸ばす力はあるはずだ。<明日は中野選手です>
2008.12.20
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