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2009.11.16
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カテゴリ: Essay
某有名ブランドが日本撤退を決めたことに関して、イコール日本経済の衰退、というような論調で語られることが多い。

確かにそういう側面も否定できない。目覚しい発展を遂げている(らしい)中国経済に比べると、すでに成熟しきった日本市場に今後拡大の余地はたいしてない。

中産階級の崩落が始まり、貯蓄もままならないような貧困層が増えている。日々の生活で手いっぱいの家庭では、ブランド品への興味なども湧かない。

だが、果たしてそれだけだろうか、とも思う。

Mizumizuはガラス瓶のデザインを見るのが好きで、海外旅行に行くとよく免税店の香水売り場をウロウロする。買うための品定めではなく、ただ香水瓶のデザインを見て歩くのが楽しいのだ。

だが、最近どうもそれが楽しくない。有名ファッションブランドがフレグランス分野に乗り出すのはお決まりのパターンなので、各社ともこぞって新作の香水・オードトワレを宣伝してはいるのだが、瓶がとても安っぽくなってしまった。

デザイン自体は新奇なものが多いのが、蓋などに使われるメタル素材がえらくちゃちだ。メタル部分には、たいてい銀あるいは金のメッキが施されているのが、ごれがまたひどく薄そうで、安そうだ。

宝飾品で名をなした有名ブランドの香水瓶に使われている、ブランドロゴを象った蓋の金メッキ仕上げがあまりに安っぽくて、思わず手にとってしげしげ見てしまったことがある。買おうかどうしようか迷っていると思われたらしく、店員が近づいてきて売り込みを始めたのには閉口した。

いや、ガラス瓶も薄くて加工が簡単に見えるものが多い。ガラスそのもののデザインに注力しているとはとても思えない。かわりに、やたらと目立つのは、ブランドのネームやロゴ。



だが・・・

それじゃ、高級ブランドじゃないでしょ!

エッフェル塔の硬水瓶
これは大昔にパリで買ったオードトワレ。瓶のデザインが、「いかにも」のエッフェル塔なのだが、つくづく見るとシンプルだが工夫されている。香水瓶としては、かなり厚手のガラスを使い、すりガラスになった部分と透明な部分がうまく組み合わされている。すりガラスで建築物のどっしり感を出し、透明な部分で置物としての軽さを演出する。そのバランスが絶妙だし、2種のガラスを通すから、中の液体の見え方にも変化が出る。

エッフェル塔を象ったカーブの造形も洒落ている、模様は最小限だが、「塔」の構造を簡素化しつつ暗示しているところが、まさにデザイナーのセンスだ。

瓶の底には「手作り」とプリントしてあった。デザイナーらしきフランス人の名前も入っている。念のためにグーグル検索してみたが、ヒットしてこない。

特に名のあるデザイナーのものではない、どちらかというと安価なお土産品(あるいは、フランソワ・トリュフォーのような、エッフェル塔グッズマニア向けか?)なのだが、これだけ手のこんだ、洒落た小物が街角にあった。それが昔のパリだ。

今パリに行くと、巷に溢れているのは見るからに中国臭のする安価な大量生産の土産品ばかり。もちろん、昔だって大量生産のちゃちなお土産品はあったが、こういうちょっとしたセンスの光る、間違いなくフランス人の職人が作った「価格手ごろな」小物も同時に存在していた。今こういうものを買おうとすると、えらく高くつく。

イタリアでも、昔は家内制手工業のように革製品を作っていて、それが案外安く品質がよかった。

そもそも西欧の高級ファッションブランドが日本人の心をとらえたのは、品質の高さと流行に左右されない保守的なデザインだったはず。値段は高いが、長く使える。

それが今は、くるくるとデザインが変わる。あまりに「イン」なものを買ってしまうと、その分それが「オシャレ」である期間が短くなる、つまりすぐに「アウト」になってしまうようだ。インな物を持ち続けたいと思ったら、新しい物を買い続けるしかない。

この戦略が、日本の消費者に見放されたのではないだろうか。

あまりに売り手に都合よくできすぎている。



革製の財布などを見るとよくわかる。たとえば縫製。悪くはないがよくもない。というより、財布程度では、縫製の技術の高低など、たいした意味を持たないのかもしれない。革そのものの質も、悪くはないが突出しているとも思えない。そして金具部分の安っぽさ。これはどんどんひどくなる。ロゴには金具を使い、しかもロゴはやたらと目立つようにデザインされたものが多いから、革素材の上質感(もない合成素材も、近ごろは多いのだが)を台無しにしている。

それでいて、やたら高い。これはもちろん、ユーロ高のせいもあるかもしれない。

そして目につくのは、デザインの豊富さだ。確かに選択肢は増えている。目新しいデザインも多い。だが、これは実は、諸刃の剣ではないかと思う。選択肢が多いと、案外人は何も選べなくなるのだ。「今年のモデルはこれ」と自信をもって絞り込んだほうが、あるいは少なくとも絞り込んだフリをしたほうが、高級ブランド然として見えるのではないか。

デザイン力を過剰に自己評価しながら品数を増やすことで希少性を低下させ、それと並行して、「素材」がブランド内で占めていた地位も相対的に低くし、コストコンシャスの原理に従って安価な素材を使い始めた。

そして実際に商品を作るのはそのブランドおかかえの職人ではなく、人件費が安く、そのわりには仕事のいいアジアの下請け工場。



いいモノなら高くてもいい。だが、たいしたモノじゃないのに、名前やイメージだけで売ろうとしてもダメ。さんざんたいしたことないモノに、喜々として高いお金を払い、しかも売り手から敬意をもって扱われもしなかった日本人がそれに気づいたとすれば、むしろ喜ばしいことではないかと思う。

オマケ:

グッチの財布
こちらはだいぶ前にイタリアで買った、某有名ブランドの財布。オーソドックスなブラックカーフ。革の上質感を前面に出したシンプルなデザイン。留め具も黒のラッカー仕上げで、けっしてちゃちではない。ブランドネームは留め具のところに控え目に入っているだけで、ほとんどわからない。ブランドネームなんて見えないほうがいいと思うMizumizuの嗜好にも合っている。ユーロ導入以前のイタリアでは、こうした上質な革製品もたいして高くはなかった。

革の3連財布
こちらも大昔にイタリアの革職人の店で買った3連の財布、折り返し部分がボタン留め。余った革で工夫して作った、というような遊び心のあるデザインだが、サイズもカードがぴったり入るし、ジーンズのポケットにも入れられる。重宝して長く使っている。とても丈夫で使いこむにしたがって味が出てくる。もちろん、値段も手ごろだった。

値段のワリには品質のいいものを見つける――こういう買い物の楽しみが、いつの間にかヨーロッパからはなくなってしまった。今はむしろ、東南アジアに、「価格が手ごろで、質もそこそこな掘り出し物」がある。









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最終更新日  2009.11.17 06:13:53


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