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2009年12月02日
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 アシュヴィンは千尋の部屋のドアを勢いよく開けた。

「騒がしいですね。」

 一番見たくも聞きたくもない姿と声がアシュヴィンをとがめた。アシュヴィンはかまわず、千尋の枕元へ行った。
 千尋は目におびえたような色を浮かべたが、すぐにつんと目をそらした。

「私の従者だから、私のいいようにする。」

 アシュヴィンの顔にさっと怒りの色が上った。

「そういうわけにはいかないな。」
「どうして!」
「根宮の秩序が乱れる。」

「そういう問題じゃない!」

 ふふと余裕の笑い声が聞こえるから、アシュヴィンのいらいらはますます増大する。

「すぐに下がらせろ。」
「いやよ。」
「お前の世話は釆女たちがする。」
「風早じゃないとできないこともあるのよ。」
「ふうん、例えば?」
「……」
「こういうことですよね、千尋。」

 風早が千尋の手を取り、自分の頬に押し当てた。開いた片手で千尋の額に触れ、熱を計った。

「千尋が一番欲しかったのは、遠夜の薬でも釆女の差し出す滋養のある食事でもない。愛情ですよ、アシュヴィン。」

「わかっているなら、どうして側にいてあげなかったんです? そうすれば、千尋が俺を喚ぶこともなかったでしょうに。」

 風早のすることはいちいち気に障るが、もっともだから仕方がない。釆女の懇願を冷たく退けている己の姿が瞼に浮かんだ。あの時すぐに出向いていればと、悔やまれた。

「言ったはずですよ。千尋を泣かせたら承知しないと。」

 風早の言葉は容赦ない。本気の怒りを感じる。逆らいがたい怒り。鎮めなければこちらの身が危ないと思えるほどの。

「……風早、やめて。」



「どうして止めるんです? 千尋。」
「いいの。もういいんだから、やめて。」
「千尋が言うなら、やめますよ。でも、それなら……」

 風早はそっと千尋の髪をすくい上げ、頭の後ろに手を当ててそっと抱きしめた。

「千尋は選ばなくては。こうして俺の腕の中にいるか、アシュヴィンの手を取るか。」
「……!?」

 これで千尋がアシュヴィンの手を取るなら、風早はもう二度と人界へは降りて来られないのだった。それが白龍との誓約だった。千尋の声に矢も楯もたまらず降りていこうとする白麒麟が交わした。誰にも告げることはできないが。

 千尋は迷った。どちらも千尋には大事だった。そして、風早とはもう二度と会えない予感がした。しかし、アシュヴィンは……。

 中つ国の未来。それは千尋の未来。アシュヴィンと歩く未来は、中つ国の平穏へと続いている……。

 千尋は知っていた。アシュヴィンが、千尋の熱にとても戸惑ったことを。どうしていいかわからないとき、アシュヴィンはことさらにいつも通りに振る舞おうとする。アシュヴィンが自分を愛しているのを千尋は心の底から感じていた。おそらく、自分がいなくなったら生きていけないほどに深く、愛されていることを。


 千尋はそっと、風早の胸から頬を離した。静かに身を起こし、アシュヴィンの方へ手を伸ばした。アシュヴィンはもう意地を張らなかった。差し出された手を取り、引き寄せ、堅く抱きしめた。

「すまなかった……」

 風早が寂しそうに笑ったようだった。そしてあたりはまばゆい黄金の光に包まれ……






 夜明け。
 千尋の苦しげな息づかいがアシュヴィンの眠りを妨げた。

(どうしたんだ……)

 触れてみると、火のように熱かった。

(奥方?)

 アシュヴィンはそっと体を起こした。天蓋の帳を少しだけ持ち上げ、呼び鈴を鳴らした。すぐに近寄ってきた釆女に遠夜を呼ぶよう言いつけた。

「それからリブに、今日の執務はお前が代わりにやれと伝えろ。」

 アシュヴィンはそれだけ言うと帳を下ろし、熱い千尋の体をそっと抱きかかえた。

(俺が、治してやる……)

 こんな千尋を置いて出かけても、きっと仕事など手につかない。中つ国との戦も終わり、禍日神が去った常世には恵も戻って、あとは辺境の小うるさい連中を黙らせるだけだ。そんな仕事はわざわざアシュヴィンが手を下さずとも、リブやシャニ、ナーサティヤが取り仕切る。平和な世で、皇がすべき仕事は少ない。皇の最も大切な仕事は、皇妃の幸せを守ること。
 アシュヴィンは燃える千尋の唇に口づけた。病など、全部己の身に吸い込んでしまおうと思っていた。





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最終更新日  2009年12月02日 21時19分19秒
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Re:【アシュ千】 発熱 その3(終)(12/02)  
あやめのめ  さん
アシュヴィンもっと素直にならないとダメですね、というより、不器用なんですね。

風早が行ってしまいましたね、少し寂しい感じがします。 (2009年12月03日 19時43分04秒)

Re[1]:【アシュ千】 発熱 その3(終)(12/02)  
美歩鈴  さん
あやめのめさん

 どうやって自分の感情をあらわしたらいいのかよくわからない、不器用なところがアシュの可愛いところですね。
 どうも、この手のツンデレには弱いらしくて(^^;

 時の螺旋でぐるぐると自分の都合のいいところへ出没するでしょうから、大丈夫ですよ、風早。
 きっと、千尋が自分の腕の中を選ぶ運命に出かけてます♪
 常世の皇室には、夫婦水入らずがよろしいようで。 (2009年12月04日 21時13分52秒)

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