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~第6鬼・心の鏡~容姿端麗な女がいた。外を歩いただけで男を惑わす魔性の女。俺なんて口も訊いてくんない。仕事をするわけでもないが、色んな大企業の社長と知り合いで、食事に付き合うだけで百万ぐらいの金をくれるんだとか。宝石やブランドが大好きで、一度袖を通した洋服はどんな高価なものでも二度と着ないそうだ。政財界・芸能界では、その女と食事することが一つのステイタスとなっていた。イベントや映画の試写会があると、セレブとして招待される。その美しさを豪華な装飾品や、ドレスがさらに引き立たせた。どんな女優よりも誇らしげに、堂々として見えた。当然のことながら他の女達からは嫉妬の目で見られたが、そんなことは気にしないしする必要も無かった。さらにその女はたち居振る舞いも華麗で、それがさらに優雅な雰囲気を演出していた。気配りも上手で、男達はその気遣いにも心が癒された。名前は美香という。イタリア製の宝石やインテリアを買い漁っていた時に、ある鏡が女の目に留まった。額には宝石が鏤(ちりば)められていて、鏡に映るその顔をさらに美しく幻想的に見せていた。部屋に戻っても、女は飽きずにその鏡を見て、念じ続けた。自分に見惚れながら、「私は綺麗、誰よりも綺麗。もっと綺麗になれよ私、もっと綺麗になぁれ」すると鏡に映った顔が勝手に動き出した。唇は腫れ、肌は荒れ、頬は膨れ、目は飛び出して、悪魔のような醜い顔に変貌していった。念じ続けた鏡には、心が乗り移っていたのだ。この鏡のタイトルはイタリア語で書いてあった。日本語で「心の鏡」という意味であった。気が狂った女は、シャンデリアの紐で首を吊った。死んだ女の顔は元に戻っていた。 完。
2009年07月23日
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第5鬼・スナックのカウンター俺は酒が好きでよく飲みに行っては、仕事の鬱憤(うっぷん)や憂(う)さを晴らす。部屋(うち)の近くのスナック『念』で飲んでいた時のこと。その店は少し変わっていて、カウンターの奥の壁に無数の釘が刺してあった。その釘は藁(わら)人形を貫いていた。面白くないことがあると釘を金槌(かなづち)で叩きながら、ストレスを発散するんだ。決して褒められた行為ではないが、それがこの店の売りのひとつになっていて、入ってくるなり千円で買った藁人形に嫌いな奴の写真や名前を貼り付け、怨念をぶつけるのが恒例になっていた。「この野郎ッ死にやがれー!!」お決まりの愚行を働いた後、店で知り合った常連達と駄弁(だべ)りながら飲んでいた。一番奥のカウンターに座っていた奴が、さっきから耳を澄ましていたのに気付いた。俺はそいつの隣だったから気になって聞いてみると、カウンターの裏側から何か変な音がするという。でも俺には何も聞こえない。そいつの気色が変わった。「シーッ、みんな静かにしてくれ」店の中でカラオケやドンちゃん騒ぎをしていた奴らが静かになると、確かに何か聞こえてきた。金槌で、小まめに釘を打ち込む時の音に似ていた。カウンターの中にいたママが、その奥の中を覗いても何も見えないらしい。そこの空間には何も置いてなくて、真っ暗闇なんだと。でも音は少しずつ大きくなってきた。静まり返った店内に、その音が響く。まるで心臓に突き刺さるような、嫌な音だ。ママが何気にその闇に左手を伸ばすと、突然悲鳴を上げた。手が何者かに引っ張られていたのだ。「誰か助けてー!!」しかし、ママは自力で踏み止まり事なきを得た。「はぁーっ」安心したのも束の間、ママの左手は肘から先が紫色に変色していた。俺は、カウンターを思い切り蹴飛ばした。それは、自分の中で芽生えた恐怖心を追っ払うためでもあった。「コラーッ誰かいるのか、出て来い!!」すると電気が放電する音がして、地鳴りがしたと思ったら店が大きく揺れだした。棚からボトルやカラオケのモニターTVも落ちて、店の中は大混乱になった。しばらくすると揺れが無くなったから、怖くなって外へ出た。しかし店の外は普段と何も変わらない光景で、人々も普通に歩いていた。あの音は店の中に溜まった怨念の警鐘(けいしょう)で、地震は崇(たた)りであろうか。カウンターの奥に何かがいるとしたら、それは人間の念が生み出したものかもしれない。完。
2009年07月19日
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