先日メンタルヘルスの研修を受講したのだが、「うちの人事関係者はメンタル不調など個人の問題だと、本心から思っています。二言目には、『残業しても元気なヤツは山ほどいるじゃないか』とストレスに強い人を持ち出します。メンタル不調はすべて、個人の資質が原因だと信じて疑わないのです」という意見が数多く聞かされたのだ。それに続くのはどこでも同じで「なので長時間労働が改善するわけもなく、メンタルを低下させる社員が後を絶たない。あきらかに人員不足ですが首長が認めるわけもなく、どんなに効率化を図ろうとしても限界があります」と職員数が約 230 名の公務員職場の男性が話してくれたことだが、これがどうやら私の住む自治体の実態のようなのだ。
講師も「ウツは広がっていくことが数多くあります。ひとりが休むと周りがカバーするのですが、もともと抱えている仕事が多いのにさらに仕事が増えて疲弊していきます。でも自分が処理しきれないとさらに周りの負担が重くなることがわかっているから無理して来てしまうのです。その上司も本人から『大丈夫です』と言われればつい任せてしまう。情けないはなしなのだが、本当はもっと休ませるべきなのに……」と語っていた。さらに「するとやはり本人の生産性が下がっているからポカしちゃうわけです。そこで余計に手間がかかって本人はまた落ち込むし、周りもイライラして人間関係も悪くなる。悪循環です」というように、いずれにしても講習会では円渠胃の内容は講師も頭を抱えるようにメンタル不調は拡散するようなのだ。
特に日本ではこのような傾向が強いとされており、「おそらくうちのトップは、メンタルが何なのかも、残業の何が問題かもわかっていない。『残業しろとは、自分は一言もいったことない』って平気で言います」というのだ。そして「経営者を対象にした講演会や懇談会にいくと、必ずといっていいほどいてその度に唖然とします。いまだに『最近の人は本当ヤワになったな』という人はいるし、『メンタルだのなんだのいうけど、新型ウツとかいって、会社を離れると元気になるのだろ、ただ仕事イヤイヤ病でしょ』と本気で聞いてくる人もいるというのだ。多くの会社で「このご時世に仕事があるなんて嬉しいことだ」とのん気なことが言われ、うつ病だと判断される人のうち 7 割もの人が適切な対処することなく無理して会社に通い続けているというのだ。
言う人もいる。
ある調査によると日本は欧米にくらべ「メンタル低下=使えない人」とされ、「メンタル低下=弱い人」となってしまい、「メンタル低下=性格的に問題のある人」といった偏見のまなざしでみられがちだというのだ。「メンタル不全ではないか?」と周りから疑われたくない。「あいつ、うつじゃないか」と偏見のメガネ越しに見られたくない気持ちから不調を隠し、医療機関に相談することさえも躊躇、一人きりで抱え込んでいる人が多いとされている。健康状態が悪いにも関わらず出社するとやる気もでないしミスが増え、「ボ~ッとする」・「頭の回転が鈍る」などで生産性が落ちる。いわゆる「プレゼンティズム」状態で出勤しているが、心身の不調などによりパフォーマンスが低下する状態となってしまっているのだ。
この「プレゼンティズム」は欠席や休職を指す「アブセンティズム」より深刻な状況で、企業側の損失も大きいということがいわれている。大企業が負担する従業員の健康関連コストのうち 7 割超が「プレゼンティズム」で 15 %が医療費とされ、残りが「アブセンティズム」と労災と分析するデータもあるというのだ。同僚などへのマイナスの影響も「アブセンティズム」より高いと考えられているそうなのだが、残念ながらまだ定量的に捉えた調査はないという。休んでいる同僚の仕事をカバーしている場合と、出社している同僚のミスで突発的に仕事が増える場合とでは、心の準備ができていない分後者のほうが手間だしイラつくというのだ。
単に労働時間が増えるだけでなく心理的にも負の影響が及び、メンタル不全が拡散していってしまうのだ。メンタルが低下する社員を「個人の問題」と片付けるトップには、「ウツとか言ってもどうせ 100 人いて 1 人なるか、ならないかくらいの確率だろ」という感覚を持っている人が多いというのだ。長時間労働の話題になると「国の責任」を追及ということになってしまうのだが、長時間労働を本気で改善するには国が徹底的に違法な残業を取り締まるべきだし、インターバル規制を義務づけるべきだといわれている。日本には「 36 協定」という抜け道があるし欧州の残業が人権問題や健康問題とセットで考えられているのに対し、日本は賃金とセットになってしまっている点で明らかにおかしいのだ。
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