原発の耐震設計の根幹となる想定する最大の揺れである「基準地震動」について、政府の地震調査委員会が「地震の規模や揺れを小さく見積もる恐れがある」として使用を避けた計算方式を、原子力規制委員会や電力会社などが未だに使い続けていることが分かったという。府の地震調査委員会は2009年に改良した新方式を採用しているが、原子力規制委員会は「現行の方式を見直す必要はない」と主張するが、地震調査委員会の専門家は「原子力規制委員会の判断は誤りだ」と批判し疑問符を突き付けた格好となっている。「基準地震動」を巡っては原子力規制委員会の前委員長代理の島崎邦彦氏が、関西電力大飯原発などで過小評価を指摘したが、原子力規制委員会は現行の計算方式の維持を決めているのだ。
現行方式は大飯原発以外でも使われており、この方式への疑問は他原発の安全審査や再稼働にも影響しそうだというのだ。地震調査委員会は地震の研究などを担う政府機関で、断層の幅と長さから地震の揺れを計算する方法を公表しており、原子力規制委員会や原発を有する各電力会社が基準地震動の計算に採用していた。ところがこの方式には断層の規模や地震の規模であるマグニチュードを小さめに算定し、揺れを過小評価する場合があるとの指摘が出たため、断層の長さなどから揺れを計算する新方式を7年前に公表し各地の地震の揺れを計算してきたというのだ。地震調査委員会作成の計算マニュアルでは両方式が併記されているが地震調査委員会は、計算マニュアルを新基準に改定する検討を始めているというのだ。
これに対し原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁は「前の計算マニュアル方式は断層の詳細な調査を前提に使う方法。電力会社が詳細に調査しており、原発の審査では適切だ」と言っているし、原子力規制委員会も定例会で関西電力大飯原発での想定される地震の揺れである「基準地震動」について、見直す必要はないとする見解をまとめている。そして高浜原発の危険性が「社会通念上無視し得る程度にまで管理されている」と認定し、それを理由に再稼働を認めているというのだ。原子力規制委員会の現在いる5委員の中には地質学者はいるが地震動の専門家は不在で、田中俊一委員長も会見で専門性の不足について「反省点としてはある」と認めているというのだ。
地震調査委員会の「強震動評価部会」の纐纈一起部会長は「活断層が起こす揺れの予測計算に、地震調査委員会は最新の方式を使う。原子力規制委員会が採用する方式の計算に必要な『断層の幅』は詳細調査でも分からないからだ。これはどの学者に聞いても同じで原子力規制委員会の判断は誤りだ」と指摘している。原子力規制委員会が原発の「基準地震動」で採用する計算方式に、その「開発元」である政府の地震調査委員会メンバーが疑問符をつけたわけなのだが、「基準地震動」は原発が想定し耐えるべき最大の揺れで耐震設計の根幹で、原子力規制委員会はその指摘を機に計算方法を見直すべきだというのだが、原子力規制委員会は現行の計算方式を使い続ける方針だというのだ。
地震動の専門家がいない原子力規制委員会が専門家ぞろいの地震調査委員会側の意見を一切聞かず、改良された方式を却下するのは無理があるし、しかも基準地震動にはそれ以前の問題もあって、原発の建物は「起こり得る最強の揺れ」に備えるのが望ましいが、実際の基準地震動は揺れの「平均」に若干の上乗せをした値に過ぎないといわれている。悪条件が重なれば平均を大きく上回る揺れもあり得るというのだ。藤原広行防災科学技術研究所社会防災システム研究領域長らによると、地震の1~2割は平均の1.6~2倍強い揺れを起こし、3~4倍の揺れもあるということがわかっており、どの程度「上乗せ」するかについて今の基準には規定がないことから原子力規制委員会と電力会社が調整して決めているというのだ。
政府の地震調査委の専門家「原子力規制委員会の判断は誤りだ」と批判しているため、昨春に関西電力高浜原発の運転停止を命じた福井地裁は「基準地震動は理論的にも信頼性を失っている」と断じているのだ。藤原広行防災科学技術研究所社会防災システム研究領域長は「原子力規制委員会の5委員の中には地質学者はいるが、地震動の専門家は不在だ。地震の1~2割は平均の1.6~2倍強い揺れを起こしており、上乗せをどれだけ取るか、リスクをどの程度許容するかについての社会的議論が必要だ」と指摘しているのだ。これからも原発再稼働の運転中止裁判が行われるが、根拠のない安全神話だけで原発の再稼働などは許してはいけないという判例がこれからも示されるだろう。
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