自殺した電通の新入社員・高橋まつりさんが労災認定された事件をきっかけに、全国の労働基準監督署の動きに注目が集まっている。高橋さんの労災認定を受け三田労働基準監督署は今月に電通本社などに立ち入り調査をしたそうなのだ。労働基準監督署は電通に対し高橋さんが自殺する前の年とその前の年の二ヶ年にも、長時間労働を減らすよう是正勧告を出していたそうなのだが少しも改善されていなかったという。この労働基準監督官は労働分野の法令違反について事業所に立ち入り調査をして指導するほか、必要なら逮捕などの強制捜査もできる国家公務員だ。そこまでの権限があるのになぜ長時間労働は根絶できないでいると、労働基準監督署の役割を果たせているのかが問われているという。
労働問題に詳しい明石弁護士は「長時間労働について通報しても、労働基準監督署がなかなか動いてくれない、という指摘をよく耳にします。その大きな原因の一つが、人手不足でしょう」と分析している。厚生労働省の資料によると労働基準監督署の監督官は 2500 人程度とされており、管理職などを除くと現場に立ち入り調査をするのは実質 2000 人未満とされる。厚生労働白書によると労働基準監督署は年間およそ 17 万の事業所に立ち入り調査をしているとされているが、これは 400 万以上ある全事業所の 4 %程度しかならないという。このうち約 68 %の事業所で何らかのルール違反が見つかっており、このペースのままだとすべての事業所に立ち入るには単純計算で 25 年かかることになるという。
労働問題に詳しい明石弁護士も「この体制では、十分な検査ができません」と指摘するが、労働基準監督署もただ手をこまねいているわけではないみたいだ、たとえば昨年の 4 月~ 12 月にかけ労働基準監督署は「長時間労働」の疑われる 8530 事業所を集中的に監督指導しているそうなのだ。違法な時間外労働は 4790 事業所もあったというが、月 100 時間~ 150 時間の時間外労働が 2860 事業所で、 150 時間超えが 742 事業所で確認されたそうなのだ。時間外労働は月 80 時間が「過労死ライン」と呼ばれており、脳出血や心筋梗塞で亡くなった人が過労死として労災認定されやすくなるラインだ。このように労働基準監督署が調査を行い対処するケースとしないケースの違いは明確にあるそうなのだ。
労働問題に詳しい明石弁護士は「ポイントをあえて一つ挙げると、長時間労働を証明する証拠があるかないかでしょう。いくら捜査をする権限があったとしても、一から証拠を集めるのは大変です。すべての事件を扱いきれない中、どうしても『証拠がある事件』が優先されることになると思います」と分析している。今回の労災認定となった電通の社員の場合は勤務表をパソコンで入力しており、始業と終業の時間を自己申告し上司が承認して管理している。申告に基づく労災認定された高橋さんの残業は、自殺する直前の昨年10月が「69・9時間」で同じく11月が「69・5時間」となっており、「 36 協定」と言う労働組合との取り決め上限である「70時間」のぎりぎりで記載されていたそうなのだ。
しかし遺族側弁護士が、自動的に記録される入退館ゲートのデータを基に集計した残業は、月に130時間を超えることがあったことがわかっているという。弁護士は「残業が70時間を超えると正確に申告がなされなくなっていた。会社側の指導があったとみられる」と指摘する。長時間労働の証拠とは例えばタイムカードの記録があるが、ただタイムカードがあっても会社の指示で実態とは異なる時間に打刻をさせられているケースがあるというのだ。自殺した高橋さんは労働時間を過少申告するよう指導され実際より減らして申告していたという。三田労働基準監督署は高橋さんの残業時間が約 105 時間に及んでいたと判断し労災を認めたわけだが、電通は月の残業を「70時間」と届けていたが11月から5時間引き下げたという。
キーワードサーチ
コメント新着