九州の玄関口である福岡市のJR博多駅前で起きた道路陥没事故の復旧工事は、通常なら数カ月を要するところ、市はわずか1週間足らずで道路の通行再開がなされた。特殊な工法を用いて作業の効率化を図り市内外のミキサー車や作業員を総動員し、異例の「スピード突貫工事」を実現させたわけだが、その背景には「1分1秒でも早く安全に復旧させたい」という福岡市トップの高島宗一郎市長の早期復旧を目指す強い意志があったという。陥没事故で発生した穴は道路いっぱいにわたる30メートル四方で深さは15メートルで、すぐ下を通る地下鉄工事のトンネル天井の一部に空いた穴から、砂時計の砂が落ちるように流出した土砂は3千立方メートルに及んだといわれている。
強固に埋め戻すにはミキサー車約1750台分の約7千立方メートルの土砂が必要と試算されたが、通常は数カ月の工期を要するといわれていたにもかかわらず高島市長は強気の姿勢を崩さなかった。「道路を一刻も早く通行可能にする。目指すは14日だ」と開かれた会議でそう明言し集まった職員や工事関係者は息をのんだという。異例のスピードを要求された工事で選択された工法が、土と砂にセメントを混合した「流動化処理土」による埋め戻しだ。この土は水の中でも固まる性質で、破損した下水道の水などが大量にたまっていた現場には最適だと考えられた。この工法では水を抜くまでセメント注入を待つ必要がなく、水の中に流し込むだけで固まるため作業を効率化できるというのだ。
福岡市交通局の担当者は「通常は地盤を強固にする際に用いている工法。一刻も早く作業を終わらせるためだった」と説明していたという。福岡市交通局の担当者は「本来なら数ヶ月はかかってもおかしくない工事」は、事故を誘発したとされる地下鉄工事を請け負っていた大成建設も汚名返上とばかりに復旧工事に邁進したそうなのだ。必要なミキサー車は近隣営業所を通じるなどして手当たり次第動員したほか、ピストン輸送を継続し千台以上に及ぶ土砂などを短期間で現場に集めたというのだ。福岡市によると職員や作業員らを合わせて1日100人以上の態勢で夜通し作業を続け数日で水道管や送電線などが通る地下3メートルの高さまで埋め戻したというのだが、現場に投じられた人員は 1 日あたり 60 人、のべ約 420 人だったという。
今回の崩落は国内最大級のものだったのだがとても早い復旧がなされたとされ、行政とゼネコンが一体となって復旧に専念されたのが良かったというのだ。また犠牲者が出なかったことに関しても現場の対応がすばらしかったというのだ。短期間で成し遂げた復旧工事だが、肝心の安全性は確保されるのかということでも、福岡市交通局工事事務所の岸本信恭所長は「関係機関と相談しての適切な工程。無理はしていない」と安全性を強調していたし、現地視察にも加わった地盤工学が専門の東北工業大・今西肇教授は「流動化処理土は、地盤の中が複雑な状況になっているところに、マヨネーズのようなものをうまく充填もの。つまり、隙間にも入っていける。処理土自体はかなりの強度を持って支えになる」と語っていた。
福岡市の高島市長は「安全第一と最速、二律背反の復旧ができた。県内の色んなところから部隊をたくさん送ってもらい、『オール福岡』が発揮できたことに感謝したい」と語ったが、福岡市によると今回の復旧は仮復旧で下水道などの管はゴムやプラスチックといった簡易型を使い工期を短縮し、「市民生活の早期復旧を優先させた」としている。今後再び道路を掘り返しコンクリート製の本格的な下水管に交換する工事を行うというのだが、地下にインフラが集中するのは全国共通で、老朽化や地盤の緩みによる「空洞」も各地で懸念されていることから、現場の空洞調査を実施したインフラ調査会社「ジオ・サーチ」の冨田洋社長は「根本的な原因も不明なことから市は国と協力しながら究明を急ぐ」としているそうなのだ。
そもそも「リーダーの資質とは」と問われたとき、一つは「決断力や誠実さ、他者を鼓舞する、お互いを支え合う、といった行動特性がある。つまり人望が厚く、チームをまとめる能力」だとされている。もう一つは「役職上のリーダーとしてチームの進路を定める、予算をつくる、戦略を立てる、部下の育成を行う。いわゆる管理職が備えていなければならない能力」だとされる。実はこの二つの能力を備えている人こそが真のリーダーとなれるのだが、ただ単に人をまとめるのが上手いとかチームの中で信望が厚いとか、あるいは計画を立てて実行する力が秀でているというだけではリーダーとしての役割は務まらないが、今回の福岡市高島市長の行動はリーダーとしての資質が垣間見えた事件だと言えるだろう。
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