大手建設会社でつくる日本建設業連合会は残業時間の上限規制を設け、9月にも会員の約140社に適用すると発表したという。政府は2019年度から新たな残業規制を導入する方針を定めてはいるが、建設業界は特別に5年間の猶予が与えられているのだ。ところが東京五輪のメイン会場となる新国立競技場の工事を請け負う建設会社に勤務していた都内の男性が、3月に自殺していたことが分かり、遺族の代理人弁護士が直前1カ月間の残業は200時間を超え、遺族らは過労でうつ病を発症し自殺したとして上野労基署に労災申請したことところ、工事現場のセキュリティー記録などを調べたら失踪する前の1カ月間は211時間56分の残業が認められて労災認定がなされたというのだ。
深夜労働が常態化し徹夜勤務もあったとし代理人は「工期が遅れる中、五輪に間に合わせるため作業日程は極めて厳しかった」と指摘した。男性は遺書に「身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」などと記しており、代理人らは東京都など関係機関に労働環境改善を要求するという。このこともあって建設業の長時間労働の是正に向け政府は工事の発注者と受注者が守るべき指針をまとめたわけなのだが、建設業者の週休 2 日確保を明記したほか運送業者には違法な長時間労働を行った場合の行政処分強化を盛り込んでいる。作業員が「週休2日」を確保できる工期にすることが柱だが、指針に強制力はなくどこまで実効性があるかは不透明だともいわれている。
建設業と運送業の「働き方改革」に関する政府の関係省庁連絡会議は、長時間労働の是正に向けた指針を策定したわけなのだが、建設業と運送業は他の業種に比べ労働時間が長く人手不足が深刻化しているとされている。野上浩太郎内閣官房副長官は指針について「長時間労働是正に向けた取り組みの第一歩。関係行政機関や業界団体に周知徹底したい」と強調したそうなのだ。指針は国土交通省や厚生労働省に内閣官房などの関係省庁が集まる会議でつくったとされるが、発注者・受注者の双方に対し資材や労働力を調達したり、雨や雪で作業ができなくなりそうだったりする期間も考慮して工期を定めるよう明記し、予定した期間内に工事を終えるのが難しくなれば工期を変えるよう求めている。
受注者は下請けに工事を委託する際にも同様に工期に配慮する必要があるとしており、これから発注する工事が指針の対象で、公共工事の発注者になる省庁や不動産会社や建設会社などが加入する業界団体に守るよう促している。ただ違反しても罰則はなくすでに発注した工事は対象外だという。国内の建設現場の約65%は「週休1日以下」とされ、建設業界の年間総労働時間は全産業平均より2割長い。このため就職先として若者から敬遠されがちで就業者の約3分の1が55歳以上となっている。発注者側ができるだけ早く工事を終えるよう求めそれに応じようと受注者側が競い合うことが背景にあり、長時間労働の削減は「永遠の課題」と否定的な見方もあるがこの重いテーマから目を背けることはできないとされている。
政府が残業時間の上限規制を「月 100 時間」で検討し「長時間労働」が大きな社会的テーマに浮上しているわけだが、全国の企業を対象に「長時間労働」に関するアンケートを実施し結果では、 9 割の企業で残業が存在し 8 割の企業で残業削減に取り組んでいるという。しかし大企業に比べ中小企業等では受注や賃金の減少への影響が大きく、「長時間労働」削減に向けたハードルが高いことがわかったという。運送業などで日報や運行記録による労務管理把握は徹底されているようだが、把握していない企業の是正をどうするか今後の法令改正のカギになる可能性もある。大企業は従業員の心身の健康面への配慮もうかがえるが、中小企業等は残業削減により今後の受注減少や従業員の賃金など影響を強く懸念しているそうなのだ。
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