多くの企業が最高益を更新し人手不足も深刻という報道もなされているし、政府に至っては安倍首相自ら賃上げを先導しているとなれば給与は上がるのが道理だが、一向にその気配はないという。上場企業の今年度上期決算では軒並み最高益を更新する企業が続出し、その多くは来年 3 月期決算では過去最高水準の収益を達成する見込みとなっている。好業績を背景に企業の採用意欲も旺盛で、 9 月の有効求人倍率は 1.52 倍と 1974 年以来の高水準で推移し正社員も 1.02 倍に達し、求人数の拡大は働く人の選択肢が増えることで離職・転職を促進されているというのだ。総務省の労働力調査でも昨年の転職者数は一昨年より 8 万人増えて 306 万人となり、 10 年前と比べると 320 万人以来の高い水準となっている。
人手不足も深刻で 9 月発表の日銀短観では大企業はリーマンショック前の人手不足のピークを越え、中小企業はバブル期の 1992 年以来の水準に達しているという。大手企業が最高益を更新し人手不足がこれだけ高まっていれば誰もが給与も上がるだろうと考える。ところが給与の上がる気配はないし来年も上がる見込みは薄いという。厚生労働省の賃金構造基本統計調査では一般労働者の賃金はアベノミクスが始まった 2014 年は前年比 1.3 %増の 29 万 9600 円で一昨年の 1.5 %増の 30 万 4000 円と微増傾向であった。しかし昨年は 30 万 4000 円と前年と同じ賃金にとどまっている。企業は利益を上げているのに給与が上がらない事実は「労働分配率」の低下からも確認できると言われている。
労働分配率とは企業が稼いだお金から「労働者に支払った報酬」の割合で、厚生労働省労働政策担当参次官室が作成した資料によれば、アベノミクスによる景気回復期においてもなお下がり続け一昨年はついに 62 %と今世紀になって最低になっている。国税庁調査の昨年の給与所得者の平均給与は約 422 万円と前年比 0.3 %増で一昨年の 1.3 %増を下回っているというのだ。うち正規労働者は前年比 0.4 %増の約 487 万円で、非正規労働者は 0.9 %増と伸び率は大きいが正規の半分以下の約 172 万円にすぎないという。昨年の3月期決算では上場企業の純利益が前の期に比べて 21 %増の 20 兆 9005 億円に達したが、昨年の春闘の賃上げ平均額は定期昇給込みの 5712 円と賃上げ率は前年よりも低い 1.98 %と低迷している。
企業の儲けはどこにいっているかというとひとつは企業利益の蓄積である「内部留保」で、もうひとつは株主配当などの「株主等への分配」であるという。内部留保は毎年積み上がり昨年度は 406 兆 2348 億円と過去最高を更新している。また株主等分配率は上昇し続けており、昨年の株主への配当金の総額は 20 兆円を超え純利益に占める割合は 40 %を超えている。つまり給与を抑えて内部留保と株主への分配に回しているという構図で、給与を上げるには内部留保を取り崩して給与に回すか株主への分配率を引き下げるしかない。政府もため込んだ内部留保を賃金に回すように要請しているが経済界の抵抗が強く、そのうえ経営に対する株主の力が強くなり株主への利益還元への圧力も年々高まっているという。
みずほ総合研究所の徳田秀信経済調査部主任エコノミストは「株主から配当を増やせという圧力が高まり、株主への分配比率が上昇しています。それでも今の日本企業の株主分配比率はドイツやアメリカに比べても低く、今後も上昇は避けられないでしょう」と指摘している。残された手段は内部留保を賃金に回すことだが、内部留保率を下げていく余地はあるが、ストックで見ると日本企業の株式資産など比率は欧米企業より低く、欧米並みにエ株式資産等を増やしていくとなるとまだしばらくは内部留保比率を下げにくいというのだ。労働分配率が下がりやすい傾向がしばらく続くみたいで、企業は株主への配当を抑えるつもりはなくしばらくは内部留保から賃金に回すことは考えてもいないというのだ。
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