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お久しぶりです。明日から12月、師走です。今年も残すところあと1ヶ月となりました。最近新聞の社会、芸能欄では、某歌舞伎俳優が暴行を受けた件が紙面を賑わせていますね。ことの経緯はhead&neckにとってどうでも良いことなのですが、気になったのは顔面の外傷を負って、東京の病院で手術を受けたという報道の内容です。以下、2010.11.30サンケイスポーツより抜粋です。自分を殴った犯人に逮捕状が出た29日、●●●●●(32)は東京・港区の総合病院で顔面整復手術を受けた。 関係者の話を総合すると、手術は午後5時ごろから2時間半ほど。左目の下の陥没骨折部分の修復と、殴られて顔の空洞部分にたまった血液などをメスで取り除くもので、耳鼻科部長が執刀した。術後は顔が腫れるため10日間の入院が必要で、その後は自宅療養しなければならず、完治には6週間かかるという。 詳細については不明だが、世田谷井上病院の井上毅一理事長は「海老蔵さんが受けた手術は、上顎洞(じょうがくどう=眼球の下にある空洞)の根治手術が中心と思われます。頭蓋骨(とうがいこつ)を軽くする機能を持つ顔の空洞部分に、殴られて血液がたまってしまったのでしょう。そのまま放置すると化膿(かのう)してしまうので、それを取り除く手術です」と説明。「形成外科医や眼科医が立ち会った可能性もあります」と語る。 気になるのは、市川家伝統の「にらみ」ができるようになるまでに、どれくらいの期間を要するかだが…。井上理事長は「私も歌舞伎をよく見に行くのですが、『にらみ』は両目を内側に寄せたり、斜めに動かしたり、かなり目の筋肉を使う。今回の手術と目の部分も殴られたことを考えれば、少なくとも1カ月半から2カ月はかかるでしょう」と指摘する。うーん。一般の方が誤解するといけないので、まず顔面外傷の治療について簡単に説明します。人間の顔の骨の中には副鼻腔という空洞があります。頭蓋骨を軽くするとか、声の反響をよくするとか色々と役割はありますが、構造上そうなっていると思ってください。このうち、ほっぺたの中の上顎洞と呼ばれる部分が一番大きく、他に篩骨洞、前頭洞、蝶形洞があります。顔面を骨折すると、この空洞も一緒に骨折しますが、一番問題になるのはこの空洞ではなく、眼窩といって、目玉を入れている窪みです。目玉には眼球を動かす筋肉がひっついていますが、これが上顎洞や篩骨洞に飛び出したり、骨折部分に引っかかったりすると眼球は左右対称に動かず、ものが二重にみえます。したがって、骨折の治療だけではなく、眼球の周りの修復も必要になることが多いのです。残念ながら、この分野の専門家は日本国内には少なく、head&neckの知る限りでは数名です。ちなみに、head&neckの病院の先生がこの分野の日本の第一人者で、日本全国から紹介患者がやって来ます。「左目の下の陥没骨折部分の修復と、殴られて顔の空洞部分にたまった血液などをメスで取り除くもので、耳鼻科部長が執刀した。」とありますが、この部分はまともに読んではいけません。上顎洞の中の血液など自然に排出されて滅多に感染は起こしませんし、左目の下の陥没骨折というのは恐らく上に述べた眼窩壁骨折で、これをブローアウトといいます。恥ずかしい話で、専門家が極めて少ないため耳鼻科医が片手間に治療して後遺症が残ってしまう症例が非常に多く、手の施しようがなくなってから当院へ紹介される症例も散見されます。この分野に関しては、日本の耳鼻科医の多くが勉強不足と言い切って過言ではありません。 報道は不完全かつ不勉強な内容でしたが、それでもそこから察するに、恐らくこの歌舞伎俳優の「にらみ」は簡単にはなおりません。(自慢でなく、早い段階でうちの病院に紹介されれば別ですが) 梨園の至宝が、医療情報の不足でその輝きを失おうとしていると危惧するのでした。
2010.11.30
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さて、前回の更新からしばらく時間が過ぎ、気がつけば11月も半ばです。 このところ、head&neckは色んな資格試験の受験やら講演やらであちこちに出かけ、ばたばたとしていました。普段はもっぱら病院で診療をする毎日ですが、一生懸命やっているからなのか、はたまたそういう年代なのか、最近は医療以外の勉強会や学会で講演する機会が増えてきました。 一口で学会発表といっても、いくつか種類、というか難易度があります。まず、医師になって誰しもが最初にする学会での経験は、一般演題の発表です。これは、地方・全国にかかわらず学会が開催されるときに公募されるもので、申し込めばほぼ誰でも発表することができます。もちろんその学会に所属していなければなりませんし、ある程度学会のテーマに沿ったものであるのは言うまでもありません。例えば耳鼻科の学会で整形外科の発表をすることはありませんし、内容はそれなりにup-to-dateなもので、何年も前から分かっていて珍しくないようなものに関しては学会本部からお断りを受けることがあるようですが、少なくともhead&neckとその周囲の医師で断られたというのは聞いたことはありません。 次に来るのが海外での学会発表でしょう。head&neckが初めて外国で発表したのは台湾での国際学会でした。この発表はポスター演題といって、自分の発表内容をポスターにして会場の定められた場所にぺたっと貼り付けるだけなのですが、国際学会の場合はまず間違いなく英語での内容です。この作成に四苦八苦しますが、出来上がってしまえばあとは気楽なものです。ところが、たまに学会場でうろうろしていると目ざとく発表者を見つけて質問を受けることがあり、いきなり英語で聞かれたりして、どぎまぎすることもありました。幸い、過去数回のその経験は何とか乗り切ることができました。 少し勤務医としての経験年数が増えて、それなりに発表もこなしていると、頼まれごとの講演が入ってきます。最初は、小さな研究会の教育講演とか、違う分野の人たちの前で分かりやすく専門分野を紹介するという内容が多く、これにはそれなりの経験とアドリブが求められます、時間も学会の一般発表の10分程度のものとは違い、1時間前後しゃべらなければなりませんから、それなりに内容のボリュームが必要になってきます。若い頃は専ら聞くほうでしたが、最近この類の仕事が多く、準備に苦労したりします。 だんだんと年をとるにしたがって、仕事の種類が変わっていくのは仕方ないことですが、これもまた医師の責務としてこなしている今日この頃なのでした。
2010.11.15
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