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「大伯皇女哀歌」
(高岡市万葉歴史館 S元館長)
伝言 (
つてごと )
を 告ぐる使ひに咎 (
とが )
なけど
終 (
つひ )
にうらみぬ 辛 (
つら )
かりしかば
弟人 (
おとひと )
の 雲隠れにし有様を
つぶさに告げて 使ひは去りぬ
百 (
もも )
伝ふ 磐余 (
いわれ )
の池に住む鴨は
魂 (
たま )
振り鳥と いふにあらずやも
朝毎に 見て魂振りし 鴨すらに 君を離れて
飛び立ちけるや
西山に 陽は斜めなり 刻 (
とき )
告ぐる
鼓 (
こ )
はにはかにして 君を逝かしむ
弟 (
おと )
の妃 (
ひめ )
山辺皇女の髪乱し
素足に走り殉死 (
ともにし )
すと聞く
弟の後 追ひ逝きしとふ義妹の
面の記憶は いと幼かり
暁 (
あかとき )
の 露に濡れつつ弟人を
都へ遣りしは いまに悔しき
秋山を 一人越え行き如何ばかり
さびしかりけむ 弟人よあはれ
大神 (
おほかみ )
の もとに居ましめもろともに
死なば安けむ いまに悔しも
竹河の 橋の端 (
つめ )
なる花園に
君にたぐへる 少女 (
めざし )
あれかし
父君は いかに思 (
おぼ )
すや皇祖神 (
すめかみ )
と
なりたる父は 御言 (
みこと )
問はさず
十余り 三 (
み )
つの歳より大神に 仕へ奉りて
今日のかなし
十余り 三つの歳より十余り 三つの歳月
神に仕へしを
斎宮と なり清め来し己が身を
今日にはじめて 憂しと思へり
昨夜 (
きそ )
よりは 月の障りの身となりぬ
大神すらも 我をいとふや
御代 (
みよ )
替はり 斎宮の任解かれるれば
都へ帰る わが身となりぬ
退出 (
まかで )
ゆく 我のたどれる大和路の
仮穂 (
かりほ )
の霜の 取れば消 (
け )
につつ
弟人を 身まからしめし人の住む
都へ向かふ 馬荷も重く
見まく欲 (
ほ )
り 我がする君を死なしめて
安眠寝 (
やすいぬ )
るらむ 人を憎しむ
大神に 仕へ奉りて生き来たる 我にはじめて
湧きし憎しみ
馬な行き 早くな行きそ到りても
我が欲 (
ほ )
る君の ありといはなくに
都への道の長手 (
ながて )
をくれくれと
山越えて来ぬ 馬疲るるに
君の居ぬ 都へ向かふ道遠し 行きて安らぐ 我ならなくに
弟人を 移し葬 (
はぶ )
れる二上の
青きを見れば 我 (
あ )
を音 (
ね )
し泣くる
二上に 向かふ道辺の磯の上の
馬酔木 (
あしび )
の花は いま盛りなり
磯の上に 生ふる馬酔木の悪しからず
我 (
あ )
が思 (
も )
ふ君を 誰か率 (
ゐ )
にけむ
命ある 日に見せましを磯の上に
生 (
お )
ふる馬酔木のすべもすべなさ
うつそみに 君はあらねば葬 (
はふ )
り処 (
ど )
の
二上山を 君として見む
黄泉 ( よみ ) にある 君を思へどうつそみの 人なる我や 逢うこともなし
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