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2016.07.09
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カテゴリ: エッセイ
小説の技法や自分の作品について語ったエッセイと対談と用語集とエルサレム賞の受賞講演。1986年刊行のL'art du romanの全訳。

●個人的に面白かったところのまとめ
・認識の情熱が人間を捉えるのが人間が人間の具体的な生活を探求し、存在忘却からこの具体的な生活を守るためであり、生の世界に絶えず照明を当てておくためで、小説だけが発見できるものを発見すること、これだけが小説の存在理由だとヘルマン・ブロッホがいう態度をクンデラは共にする。今まで未知のものであった実存の一部分すら発見することのない小説は不道徳で、認識こそ小説の唯一のモラル。

・小説の精神とは複合性の精神と連続性の精神で、それぞれの作品は先行する作品への回答であり、それぞれの作品には小説の過去の経験がすでに含まれている。小説は全体主義的世界とは両立不可能で、クンデラは差し止め、検閲、イデオロギー的抑圧による小説の死を見届けた。共産主義国ロシアでは小説がたくさん発行されているが、もはや存在掌握の範囲を拡張せず、実存の新しい一片を何一つ発見せず、すでに語られたことを確認しているだけで、クンデラが小説の歴史と呼ぶ発見の継続にもはや参与しておらず、歴史の外に存在しているか、あるいは小説の歴史のあとの小説である。

・小説は現実を探るのではなく実存を探る。実存は生起したものではなく、人間がなりうるあらゆる状態の、人間がなしうるすべての事柄の、つまりは人間の様々な可能性の領域であり、小説家はあれこれの人間の可能性を発見することで実存の地図をかく。小説の登場人物と世界はともにもろもろの可能性として理解する必要がある。カフカの世界は人間の世界の実現されていない可能性そのもの。

・近代世界における人間存在の複合性を把握するためには省略、要約の技術が必要。人間学的な記憶の限界があるので、本を読み終えるときに始まりのところが覚えていられるべきで、そうでないと構成の明晰さが曇ってしまう。クンデラの至上命令は小説から小説的技術、小説的駄弁という自動装置を取り除いて密度の濃いものにすること。

・フローベールによると小説家とはその作品の背後に身を隠したいと思っている者のことで、公的人間の役を放棄する。公的人間の役を引き受けることで、作品は作者の行為、声明、立場の選択などのたんなる付録とみなされてしまう危険がある。小説家はだれの代弁者でもない。

・「人間は考え、神は笑う」というユダヤの諺がある。小説の知恵は哲学の知恵とは別のもので、理論的精神からではなくユーモアの精神から生まれた。現代の愚かさは無知を意味するのではなく、先入見の無思想を意味する。キッチは先入見の愚かさの美と感情の言葉への翻訳で、私たちが考え感じ取る凡庸さの上にそそぐ感動の涙から私たちを切り離す。アジェラスト(笑わない者)、先入見の無思想、キッチは神の笑いのこだまとして生まれた小説という芸術の敵。

●感想

クンデラはロシアが小説の歩みを止めたと共産国家の例として挙げたけれど、知識人がごっそり処刑された中国のほうが小説の歩みを止めた例としては深刻なのかもしれない。日本は共産化しなかったのに小説が歩みを止めてしまったのはなんでなのかと考えてみると、戦後に芥川ショー直木ショーを中心に商業主義になったのと、老害選考委員に認められて賞をとらないとまともに作家扱いされないという権威主義になったせいで、すでに語られたことを確認するという段階から抜け出せなくなってしまったのだろうか。部署がころころ変わって純文学の専門家でもないサラリーマン編集者には文学を見る目がないがゆえに、編集者の責任逃れのために作家が選考して賞を与える仕組みがどうしても必要なのだろうし、本が売れなければ出版社もやっていけないので、いまさら商業主義と権威主義を覆すのは無理である。文学新人賞の傾向と対策みたいなくだらない本がわんさかあるし、もう日本では文学は芸術じゃなくて、作家のライセンスをとるためにお手本を真似してえらい人からお墨付きをもらう受験のようなものでしかないのかもしれない。そんでそうやって二匹目のどじょうの養殖に成功して売れっ子作家になった人が王様のブランチに出ておしゃれな作家をきどって、それを見てどじょうの養殖をしたがる人がますます増えて、どじょうだらけになってしまってどうじよう。←このギャグで笑わなかったあなたは芸術の敵である。

★★★★☆







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最終更新日  2016.07.10 03:28:22
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