草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2018年07月08日
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第 三百二十 回 目

 私の俳優論の六回目ですが、少し横道に逸れた話から始めますよ。

 今月の五日と六日に青森県に行ってきました。青森県上北郡野辺地町の五十嵐 勝弘氏を訪ねるのが

目的でした。八戸までは新幹線で、青い森鉄道に乗り換えて四十数分で、私にとって既に心のふるさと

とも呼ぶべき存在となっている野辺地の町の玄関口と称すべき、閑散とした野辺地駅にただ一人で下り立

ちました。7月だと言うのに冬を思わせるような「寒さ」なのです。

 駅前でタクシーに乗り、亡妻の生まれた土地である馬門(まかど)に向かってもらう。遍照寺という

家内の実家の墓地があるお寺の庭にタクシーを待たせたまま、私は氷雨の如き寒冷な雨が降る中で、

大急ぎで義父や義母の眠る墓前に線香を手向けて、傘を差しながら合掌する。墓地に居るのは勿論



た小さいながらも神さびた趣き深い御社・熊野様。二礼二拍手一礼。これは言ってみれば今は亡き妻の悦

子の導きの賜物。いえ、いえ、愛妻は私に命令など一度たりともしたことはありませんよ。もっとも、命

令した所で、自分で心の底から納得しない事は、断じて拒否する、私の頑迷この上ない性格をとことん

知りぬいていたから、無駄な事を最初からしなかったまでのこと。

 それは兎も角として、このような行動をとったについては、深い謂れがありまして、私にとっては

珍しい行動のパターンなのです。と、申しますのも、本はと言えば旧姓柴田悦子との出会いから発した

今回の町興しミッションですので、筋から言ってもこうあらねばならなかった。

 タクシーの運転士さんにはとんだ御足労をおかけしたのですが、彼は非常に快く私の勝手な指示に従っ

て、車を走らせて下さった。そして目的地の中央公民館に到着したのは、午後の一時三十分頃のこと。

 館長には直ぐお目にかかることが出来た。名刺の交換をする。名刺の一番上に「野辺地町教育委員会」

とあり、中央公民館長(図書館長・歴史民俗資料館長 兼務)と肩書が記されていました。



会談の最後の頃に、これを差し上げますと、御親切に『野辺地方言集』を贈呈して下さった。これには

感激しましたね、なにしろいずれは方言の事で、御相談を持ち掛ける折も、先に行ってから適当な時期に

作らなければと、考えていたものですから、有難かったのであります。

 今回は、直接にお目に掛かっての御挨拶が目的で、会話の内容は電話で予め御聞きしていた範囲を越え

る事項はなかったのですが、何か安堵感の様なものが、私の中に生まれて居ました。そいう意味で有意義



いて、焦りや焦燥感のような物は正直のところ無かった。

 話を終えて、中央公民館から徒歩で駅前の宿泊先の旅館に向かう。途中で学校からの帰りらしい小学生

たち五六人と出会う。閑散として賑わいのない町中でも、子供たちの姿は活気を感じさせてくれて、なん

となく嬉しい。宿に着いて、部屋に入り、着替えをしてから、翌日に挨拶で訪れる予定の熊谷(くまが

い)礼子さんに電話する。ご不在とのことなので、電話に出られた女性に明朝九時から十時の間に伺いた

いが御都合が悪ければ、その旨をご一報願いたいと伝言する。

 翌日、午前六時に朝食を摂った私は時間を持て余して、義妹夫婦が住む家から徒歩で十分程の場所に

ある港湾自動車工業㈱まで、散歩がてらぶらぶらと歩いてみようと、急に思い立ちました。

 前回に野辺地を訪問した際には、馬門公民館まではタクシーで十五分ほどの感じでした。12月中旬

の日曜日でして、馬門の自治会長さんで馬門公民館の館長さんである、柴崎民生氏にお会いする目的でし

た。柴崎氏はお休みの日にも拘わらずに、私一人の為に公民館を開けて、対応して下ったのでした。確か

81歳という御高齢と御聞きしました。三時間近くに渡って私が一方的に話をするのに合わせて、熱心に

耳を傾けて下さった。そして、帰りは御自分の車で義兄夫婦の家までわざわざ送って下さっています。

 果報は寝て待て、という諺がありますが、私に欠けていたのはズバリ心のゆとりでありました。それ

も、俯瞰して客観視してみれば無理もないことと、自分でも自然に思うのですが、さにあらず、私の

付け焼刃の信仰心が不足していたから、余裕が、平静さが持てないでいたのでした。

 悦子は私と今は「一身同体」ならぬ「一身同魂」でして、絶対者・神の御意思を、その声なき声を私に

仲介・媒介・翻訳する役割を演じ続けている。言葉では神の無制限な慈愛をこの私も受けている、しかも

ダイレクトに、と言いながら、本当の所では狐疑逡巡を度々繰り返している為体(ていたらく)ぶり。

それを悦子は私にだけ通じる仕方で、これでもか、これでもかと念を押し、諭し導いてくれています。

 いったんは旅館を出て、徒歩一分の距離にある野辺地駅に向かう。温かな暖房のよく利いた待合室

で休息を取る。まだ午前の八時前なので電車通学の高校生たちが十人ほどスマホなどをいじりながら

電車の到着を待っている。青森市内に出かけると言う年配の婦人も数人混じっている。私は最初

此処で持参した小林秀雄の翻訳書を読んで時間をつぶす予定でいたのだが、前夜殆ど睡眠がとれて

いないせいもあって、読書に集中ができない。

 それで、冷たい雨がそぼ降る中を、礼子さんの居る港湾自動車まで歩いて行こうと、ふと決めていた。

 昨日の歩きを入れて、この土地での歩きでの場所移動は、距離が極端に限定されている。しかし

延べの時間数というか、ここで過ごす日数は相当の日数になるので、何となく大体の土地勘があるような

気になっている。しかし、念の為にスマホを取り出して町の地図で道順を確認してみる。サラリーマン

の現役の時にはフジテレビの能村庸一氏と、日本各地の田舎道を闊歩した記憶がある。体力維持の為にも

一人での徒歩旅行を楽しむのもまた一興とばかり、八時過ぎには駅舎を後にしていた。

 地図で見ると簡単な道順なのだが、車で連れて行ってもらうのとは全く感覚が違っている。途中で

予定していた心算の道順を間違えてしまっていた。しかし、気楽な一人散歩である。全く慌てたりはしな

い。余り早く着いて礼子さんに迷惑をかけるよりは、たっぷりと時間をかけたほうが却って好都合と

考え、強行突破した。それでも全行程、かなり遠回りをしたが、九時過ぎには目的地にたどり着いてい

た。

 熊谷礼子さんは亡妻悦子の幼い頃からの無二の親友である。当初、私はせいぜい一時間ほどで失礼する

心づもりでいたのだが、ついつい長居をして昼食まで御馳走になってしまい、果ては駅まで車で送って頂

く仕儀になってしまった。言い訳をするわけではないが、親友悦子の永遠の不在を深く嘆き、未だに心の

整理が完全にはついていないと語る礼子さんの姿を目の前にして、私以上に悦子の魂が感動している様が

如実に伝わって来る。私は安んじて礼子さんの厚意に甘えることにした。妙な表現になるが、不思議な

心地善さを味わう時間であったから。「もっと居たい。克征さんも今日は許してあげるから、彼女の望む

儘に応対してあげて…」、そう耳元で呟く声なき声が伝わって来る、確かに…。

 悦子は最後の最後に当たって、自分の「我儘」を貫き通した。野辺地や青森の親類縁者はもとより、あ

んなにお世話になった浅草今半の社長にさえ「お見舞いに来ないで下さい。私が永眠した際には、既に

書き終えて夫に預けてある手紙がお手元に届きますので、元気な私の姿を記憶に留めて置いて下さい」と

見舞いや葬儀への参列をきっぱりと拒否していた。これは悦子の優しさがたどり着いた究極の形。我儘の

仕納めでもあった。

 よくも悪くも、私と悦子の夫婦は似た者同士で、お互いに強烈な影響を与え合って、今日に至ってい

る。馬門出身の田舎娘は東京一の老舗料亭の看板御姐さんへと変貌を遂げた。克征は克征で、自分の

ことしか考えられないエゴイストから脱皮して、世のため社会のために身を捧げる覚悟を固める、ナイス

ボーイに変貌を遂げることが出来た。

 ―― こんな風に書いて来てふと我に返ってみると、私・草加の爺は74歳という老齢をも顧みず、

ぬけぬけと「惚気(のろけ)ばなし」を始めていた。私は息子たちから屡々こう言われていた、「

結局は、お父さんの昔話って自慢話ばかりなんだね」と。自分では自慢している意識は全くないのだが、

悦子以外の誰かが聞くと目一杯の自慢話の類に聞こえる、実際に。

 宜しい、もうこうなったからには、居直ってしまおう。意識してもしなくても結局は自慢話やらおのろ

け話になってしまうならば、堂々と自慢し、惚気倒してやろう。何を血迷ったのかこの耄碌爺さんが、

いい齢をして駄法螺を吹いていること。それで、大いに結構。所詮は「駄法螺」の類(たぐい)に類する

ものなのでありましょうから。

 ここで遠慮なく申し上げましょう。悦子は類まれなる名女優であったと。自分を常に厳しく鍛え上げ、

努力に努力を重ねて、しかも、驚くべきことにそのプロセスを楽しみ、謳歌しながら、目一杯精一杯に

生きた。六十四年の人生を百メートル走の如くにダッシュして終えた。見事の一語に尽きる、ただもう

凄いと唸るだけ。しかもしかも、古屋克征(ふるや かついく)という「稀代の名優」をとことん、

徹頭徹尾、愛し抜いて、愛し抜いてなのだから猶更なのだ。うーんと、思わず知らずに絶句してしまう。





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最終更新日  2018年07月08日 20時58分54秒
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