草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2019年02月03日
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第 四百一 回 目

 前回の続きで、戯曲類の読みの難しさについて解説します。日本の近代劇は大半が外国の翻訳劇

であります。シェークスピア、イプセン、チェーホフなどの有名なものは当然ながら、原語ではな

く翻訳者の日本語訳に依っています。翻訳という厄介な仕事に少しでも真剣に取り組んだことがあ

る方なら、御理解頂けるでしょうが、シェークスピアの日本語訳は既にして、原作者の物とはまる

で違っている。似ても似つかない代物になっている。と言うよりは、そうならざるを得ない宿命の

下に置かれている。

 しかし、現実にはあたかも原作その物を演じるが如くに、公演され、受容されている。しかし、

然しながら、特殊な演出家と、風変わりな役者と、似非観客以外には心から、心底からは受けてい



台上で演じられているのですから。

 更に日本の近代劇の運動を推進した新劇が好んで取り上げた戯曲は、ヨーロッパの思想劇や問題

劇ばかりであった。日本には歌舞伎の伝統はあったが、欧州に於けるような well made plays

( 佳くできた芝居 )という近代劇の伝統が皆無だったところに、それに輪をかけるような難解

な戯曲ばかりが輸入され、強引な形で人々の前に提示された。普通にこうしたお芝居見物が楽しか

ろう筈も無く、失敗に帰した。極めて当然の現象が起こったに過ぎない。

 ここで私・草加の爺はクルアーン(通常はコーラン)の事を考える。クルアーンはアラビア語で

書かれているが、外国語に翻訳された物はどのような立派な訳でも、クルアーンとは認められない

そうですが、宜(むべ)なるかなと首肯されます。

 もう一つ、私の拙い経験をお話しなければならない。シェークスピアのソネット・十四行詩に

関する事です。御承知の方も多いと思いますが、この沙翁のソネットは英語で書かれた詩の中でも



語学力ではまるで歯が立たなかった。そこで、翻訳で仕方なく読んだのですが、案の定ちっとも

魅力を感じなかった。翻訳者が悪いのではなく、翻訳そのものがそもそも不可能だったから。

 詩の翻訳はいずれにしても全く不可能事なのだ。直訳にせよ、意訳にせよ。序でにと言ってはな

んですが、暫らく前にブログ上で私は無謀にもこの不可能に挑戦した、つまり、沙翁のソネットに

インスピレーションを受けて「創作的翻訳」を試したが、ある種の手ごたえを得た。自我自讃め



フ劇の台本の中で、再挑戦、再々挑戦のチャレンジ精神を発揮してみたいと、心密かに野望を抱い

てもおります。その意味からも、是が非でも計画全体を成功に導きたいものと、意欲を新たにして

いる。

 こうして日本における近代劇の不作が主として何に起因しているかを、極めて大雑把に説明しま

したが、そういう意味からも今度のセリフ劇立ち上げの試みの持つ意味・意義は極めて大きいと

声を大にして吹聴しなければいけない。そういう次第であります。お解り頂けたでしょうか。


 ババもの   「 夢の 中で 」

 時代:不明

 場所:何処か

 人物:卑弥呼  ババ  秘書  その他

 始め周囲は深く濃い霧が立ち込めている。ババが一人の少女に手を曳かれてその霧の海に漂う

小舟の様に姿を現した。

 ババ「まだ着かないのですか、お嬢ちゃん」

 少女「もうすぐですよ、お婆さん」

 やがて、さっと視界が開けて美しい湖が忽然と見え始めた。

 ババ「どこかで見たことがあるような湖だこと」

 少女「ほら、あそこにヒミコさんが出迎えにお見えですよ」

 二十代の若い娘がにこやかにババを見迎えた。

 ヒミコ「さぞお疲れのことでしょう。この椅子に腰を掛けて、休息を取って下さい」

 ババ「御親切に有難うございます」と勧められた椅子に腰を下ろしてしばしの休憩を取る。

 すると感じの好い青年が洒落たお盆に水を入れたコップを載せて運んで来た。

 青年「先ずはこの水で咽喉を潤して下さい」

 ババは勧められた言葉の通りに素直にコップの水を一気に飲み干した。

 ババ「あーあ、本当に美味しい水だこと。すいませんがもう一杯いただけませんかね」

 ヒミコ「気に入って戴けて幸いです。遠慮などなさらずにどうぞ召し上がって下さい」とババに

気さくに応対する。

 ババ「早速ですが、吾の気懸りな相談事の件ですが、占いの方はどうなりましたでしょうか?」

 ヒミコ「はい、その件ですが非常に珍しい結果が出ております」

 ババ「はァ、珍しい、結果、と言いますと…」

 ヒミコ「これは前以ってお断りしておきますが、私を介して高天が原の神々の女王、太陽神が

下された判断ですので、紛れもなく真実を言い当てていることです。そしてまた、それを信じるも

信じないのも同様に貴女の自由裁量にゆだねられていること。ですから、私の仕事はそれをお伝え

するだけです」

 ババ「はい、分かりました」

 ヒミコ「貴女は稀に見る瑞相、つまり素晴らしい幸運に恵まれる星の下に産まれ、素晴らしい人

生を送られ、今まさに倖せの絶頂にいらっしゃる。悩みなどは一切ない筈。そんな風に神のお告げ

は申して居られます」

 ババ「ひえーっ、たまげたよ、ほんとに本当のことですか? 吾、とても信じられない」と

頭を抱え込んでしまった。そのババの様子をヒミコは優しい微笑みの表情で見ている。先程から

ヒミコの傍らに控えていた青年が、ババの様子を見兼ねたように口を開いた。

 青年「私はお嬢様の秘書の山彦と申しますが、柴田様のご質問に出来る限り分かりやすく、お答

え致しますので、ご遠慮なく何なりとお尋ね下さい」

 ババ「それはどうも御親切に有難う御座います。何しろあの事前の約束事がありましたから、ヒ

ミコ様には一切質問の類をしてはならない。そう固く禁じられていましたから、吾は今のお告げを

聞いた途端に目の前が真っ暗闇になってしまったようで。困った、困ったと心の中で繰り返して

いたのですよ、吾は人一倍頭が悪いので…」

 青年「どう致しまして、誰だって貴女様のお立場でさっきの様な謎のお告げを耳にされたなら、

困惑してしまうに相違ありませんから」

 ババ「あんたさんは、顔がイケメンなだけではなく、ハートもとびきりハンサムな若者なのです

ね」

 青年「大変お褒めに預かりまして、恐縮で御座います」

 ババ「いえね、実際の話が、吾がもう少し年齢が若かったら、抛ってはおかないのだけれど。あ

んたさん、さぞかし女性達に持てるでしょうね?」

 青年「恐れ入ります、私は異性にはさっぱり持てませんで…。ところで、お告げの件ですが」

 ババ「ああ、そうそう、大事な話を忘れる所でした。ねえ、あんたさん、吾はもうシルバー世代

もいいところの糞婆あですよ。人生で一番の絶頂期にあるだなんて、冗談も休み休み言って貰いた

い、あっ、これはつい口が滑ってしまった。御無礼を申しました」

 青年「いえいえ、どういたしまして。確かに柴田様は現在老齢にいらっしゃいます。しかし、ど

うして老人が倖せの頂点にいては、いけないのでしょうか」

 ババ「何故って、恋をするにも何をするにも、若いあなたの様な花の盛りの方が、文句なく幸せ

になれるでしょうが」

 青年「果たしてそうでしょうか、少なくとも私はそうは思いません。私の事で恐縮で御座います

が、今柴田様は恋を例に挙げられましたので恋の事で申し上げましょう。実は私はヒミコ様に強い

恋心を抱いて居ります。ヒミコ様もその事を重々御承知でいらっしゃいます。ですが、ですが私達

二人は結ばれる事に関しては最初から諦めて居ります。ヒミコ様には大切な使命が、大勢の人々の

命運を左右する重要な役割が神々によって授けられて居ります。私はその様な使命を授かったヒミ

コ様がなお一層愛おしい、愛さずには居られない。ですから、こうして姫の介添え役として進んで

奉仕致して居るのです。そして二人は、私共は最高に倖せであります」

 ババ「(大きく頷いている)…」

 ヒミコ「山彦さん、もうその事には触れないで下さい。私も人の子の一人です。この身内には熱

い血潮が滾り立つように流れています」

 青年「分かりました、今後は二度と禁忌・タブーを破るような言動は厳に慎む様に致します」

 ババ「タブーですって。するとあなた様は吾の為に、その禁止されている掟を敢えて破ってま

で、吾の、老人の愚かな発言を窘めて下さった」

 ヒミコ「実はそうなのです。山彦はとても冷静で、任務に忠実な人間ですから、先程のような発

言は通常ならとても考えられない、異常とも呼べる失言だったのです」

 ババ「そうですか。それは申しわけもない事を年寄りがしてしまいました。ですが、頭の悪い

年寄りの身としては、納得の行かないことは納得が行かないわけで、御親切の序でと言っては申し

訳がないのですが、もう少しお訊ねしても宜しいでしょうか」

 青年「はい、どうぞ、何なりと質問して下さい」

 ババ「三十代までは自分の生活の為に追われ、四十代からは両親の介護で手一杯の生活、そして

気が付いたらシルバー世代などと言われる老人の仲間入りをしていた。そんな吾が、瑞相と言うこ

とは素晴らしい人生を約束されていた、という事でしょうが、吾には全く理解出来ない」

 青年「仰ることは分かりました。そう仰るお気持ちもよく理解出来ますね。そういう貴女の人生

の何処が一体悪かったというのでしょうか。どこも悪くはなかった。苦しみには満ちていたかも知

れませんが、充実して、生き甲斐に溢れた生活だった筈…」

 ババ「そう、言われてみれば、無我夢中でその時その時を精一杯生きられた、それだけは間違い

ないけれど」

 ヒミコ「私も、勿論山彦も、全てにおいて満ち足りている生活を送っているわけでは、決してあ

りません。けれど、充実した時間を精一杯楽しむことは、それだけは間違いなく出来ている。それ

を幸福だと感じないのは、勿体無いことだと、正直思いますわ」

 ババ「勿体無い、ことですか…」

 公園のベンチでうたた寝から醒めたババ。ジジが急ぎ足でやって来た。

 ジジ「ごめん、ごめん、すっかり遅れてしまった」

 ババ、ベンチから立ち上がると、ジジの手を取って静かに歩き出した。ジジはいつものババの態

度が違うので、ちょっと不思議そうにしたが、直ぐに上機嫌になり、

 ジジ「今日も好い天気だね」と隣のババに軽く声を掛けた。

 ババ「分かった、吾は最高に倖せ者だった」と優しくジジの顔を見た。

 ジジ「吾も、最高にいい気分だよ」とババの顔を見返した。

 二人は若いカップルに劣らない倖せ感一杯の姿をみせて、静かに立ち去って行く。

                              《 おわり 》





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最終更新日  2019年02月07日 23時44分35秒
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