草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2019年03月07日
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第 四百十二 回 目

   「 かんにん 袋 」 (試作としてのコント)

 人物:若い夫婦、その友人 A と B 、ババ、ジジ

 場所:或る家の客間

 日曜日の昼下がり、この家の妻が友人の A と仲良く話をしている。

 妻「私、倖せ過ぎて何だか怖い位なの。でも、その癖に時々急に、発作的に死にたくもなるの。

こんな話をするのは初めてだし、あなた以外には話せない事だけれども」

 A「(黙って相手の顔を見詰めている)」

 妻「そりゃあ、平のサラリーマンの身分でローンとは言え、こんなに立派な家に住めて本当に



 A「何だか訳の分からない不満があるのね」

 妻「そうなのよ、少しは理解してもらえる」

 A「分からない、私には。だって貴女少しも不満があるようには見えないし、見るからに倖せ

そのものだって顔をしているもの」

 妻「そうでしょう、自分でもそう感じることがある。そう言う時にわたし、鏡で自分の顔を

覗いて見ることがあるのよ。そうすると、鏡の中の私の顔は少しも不満がある様には見えない、

あなたが今言ったように」

 A「そうだわよ、だから貴女は何のかんのと言っても、倖せそのものなのよ。周囲の皆から心底

羨ましがられる」

 妻「厭だわ、そんな風に誤解されるのが」

 A「わかった、分かった」



 A「貴女は結局惚気ているのだわ、お人が悪い。真面目に、本気で聴いているこちらが馬鹿なの

だわ」

 すると、玄関の方のドアが開けられて、夫とその友人の B が姿を現した。

 妻「あら、早かったのね。今お茶の用意をしますからね」と台所の方へ去った。夫も B もそれ

ぞれに席に着いた。



 A「それがどうも怪しげな調子なのです」

 夫「と言う事は一体どういう事なのでしょうか、妻はやはり一種のノイローゼの様な状態なので

しょうか」

 A「それがどうにも判断がつかないのです、私には」

 夫「家内の子供の頃からの付き合いのある貴女がそう仰るのですから、その通りどっちともつか

ない心理状態なのでしょう」

 B「君の最終的な判断は、どうなのだろうか、本音の所では」

 夫「さっきも話した様に、病気だとも言えないが、そうかと言ってこの儘放って置くことは出来

ない、一種微妙な所にある様な気がしている」

 そこへお茶の用意を終えた妻が戻って来て、それぞれにお茶やお菓子などを勧める。

 夫「ねえ、君。どうだろうか、彼女も彼も一様に勧めるのだけれど、一度柴田さんに会ってみな

いかい、試しに」

 妻「あら、その柴田さんて方、私は初耳ですけど、一体どんなお方ですか」

 A「それについては私が説明した方がよいかしら。柴田さんというのは年輩の御婦人で

とても評判の良い方なの。色々と困った事があると相談に乗って、親身に解決法を教えて

呉れたりするの」

 妻「あら、そうなの。でも私は今特別に困った事などないけれど、さっきもお話したように」

 Bに促されて夫が再度妻に語り掛けた、

 夫「実は、僕が二人に相談を持ち掛けたんだよ。僕たち夫婦は特別に問題があるわけではないけ

れど、ちょっとした倦怠期とでも言うのか、主として僕の方が気にし過ぎている面が確かに

多いのだけれども」

 B「それで、出過ぎた事をするようですが、実は勝手ですがその柴田さんをお呼びしていて、家

の外で待ってもらっているのです」

 夫「どうだろうか、此処は友情に甘えることにしては」

 A も B も同時に頷いている。

 妻「仕方ないわね、外でお待ちいただいているのでは、お願いするしかないわね」

 時間経過。元の応接室に夫婦とババの三人がいる。

 ババ「この布で出来た袋は見た所は何の変哲もない、安物の袋ですが、実はとても不思議な性質

があるのです」と、布製の小さな袋を夫婦二人に示した。妻も夫も興味津々といった面持ちでババ

の話を聞いている。「この紐を緩めて口を広げ、何か思った事を袋の中に言葉として吐き出すと

その声は本人以外には、近くに居る人にさえ聞こえない」

 このババの言葉を耳にした妻も夫も同様に、信じられないと言った表情をした。

 ババ「試しに奥さん、何でもいいですから袋の中に大きな声で言ってみて下さい」

 妻は袋を受取ってから暫らく躊躇していたが、やがて意を決したように言った。

 妻「この私の、おおばかものめが!」、言い終わってからババの顔を確かめるように見た。

 ババ「えっ、何ですって、何か仰いましたか?」

 妻は一瞬信じられないと言う表情になった。そこでババがすかさず、夫に訊いた。

 ババ「ご主人は何か聞こえましたか?」

 首を横に振る夫。しばらくはとても信じられないといった面持ちでいた妻が、

 妻「私、ほんとうの本当を言えば、不平や不満、言いたいことが沢山あった」と言葉を一度切っ

てから、ババと夫の顔を確かめるように見た。ババも、そして夫も何も聞こえないという事を

目顔で伝えながら、同時に首を横に振った。妻はそれに勇気を得たように続ける。「わたし毎晩

寝床の中で泣いていたよ、昼間は、明るい裡はそれでも家事やら育児やらで気が紛れて、自分の

気持ちに向き合わないで済んだ。でも、夜は夫が、あなたが直ぐ横に寝ているから余計に自分が

此の世で独りぼっちだって、強く、強く感じた。寂しかった、切なかった…。ご近所の親しい女性

達がみんな羨ましかった、だって、だって、仕事や子育てで楽しそうに輝いて見えたから。自分だ

けだ、上辺は何気ない風をしていても、いつも何か不足で、何か分からないけれども不満で、そん

な自分を誰も分かってくれないのだって……」


 数日後。大衆食堂のテーブル席に座って仲良く食事をしているババとジジの姿がある。

 ババ「ここの味噌ラーメンは何時食べても美味しいね」

 ジジ「本当だ、世界一旨いよ」

 ババ「吾は世界一の果報者だと、しみじみ思うよ」

 ジジ「俺もだ、食う物は飛び切り旨いし、あんたは別嬪さんだし、いう事ないよ。所で例の

若い夫婦の事だけど、どうなったの」

 ババ「ああ、その事、その事。ついうっかり報告するのを忘れてしまっていた。お蔭で大成功

だった」

 ジジ「そう、それはよかった。やはり何か目には見えない原因があったのかな」

 ババ「原因という程の事ではないけれども、当事者にとっては些細な事では済まされないから

ね、まかり間違えれば命取りにもなり兼ねない」

 ジジ「そうだね、他人から見ればゴミ程に小さな事でも、それで悩んでいる者にとっては山位に

大きな問題なのだから」

 ババ「それにしても、おめえのアイディアは素晴らしかった。子供だましで効果なんか期待でき

ないって、内心でひやひやものだったけど」

 ジジ「結構、簡単に騙されたのかい」

 ババ「いいや、騙されたのではないね、あれは。何もかも承知とまでは言わないが、半分以上は

分かっていて、こちらの仕掛に乗ってくれた。そんな所かも知れない」

 ジジ「賢いね、その若い人たち」

 ババ「賢いのは若い者ばかりじゃないよ。おめえもなかなかの知恵者と感心したよ」

 ジジ「いつもお褒めに預かって、恐縮至極にぞんじまする」

 二人は顔を見合わせて朗らかに笑う。


 次の日曜日。前の若い夫婦の家の応接室。夫婦とババ、それにジジの姿がある。

 夫「先日は大変お世話になりまして、有難う御座います」

 ババ「どういたしまして、お二人共にお元気そうにしていらっしゃるので、吾もこちらの佐藤さ

んも心から喜んでいるのです」

 妻「あら、お二人は御夫婦ではなかったのですか。てっきり仲のとてもよいご夫婦かと思って

いましたのに、ねえ、あなた」と夫を見遣った。

 夫「そうだよ、僕もてっきりご夫婦とばかり」

 ジジ「(頭を掻きながら)面目次第もありません。私に甲斐性がないものですから」

 ババ「そんな事はないよ、あんたは素晴らしい男性で、吾のような詰まらない女には高値の

花でしかない」

 ジジ「これですから、私などには太刀打ち出来ない手強い相手なのです、このババさんは」

 夫婦が同時に「どうも、御馳走さまです」とババとジジの惚気に応じた。

 ババ「所で、奥さんの方は一応あの袋の効用で気持ちが晴れたようですが、御主人の方はどうな

のでしょうか。念の為に一応こうして魔法の袋を持参して来ましたが」

 夫「はあ、有難う御座います。お蔭様を持ちまして夫婦の間でも密接な意思の疎通がとても

大切だと、御親切に気付かせて頂きましたので、僕の方はマジックを介さなくとも、率直に

自分の思いを妻に語れるようになっています」

 妻「そうなんです。私も何でもない、何でもないと自分を無意識に押さえつけていた、それが

積もり積もってストレスになって鬱(うつ)状態に陥っていた。そう気づきました」

 ババもジジも嬉し気に頷いている。

 夫「ですから、あれから僕たちは少しだけですが、自分の思いや感情を相互に吐露するように

努力出来るようになれています」

 妻「そうなんです、お陰様で私達は表面だけでなく、本当に仲のよい元の中に戻れそうですし、

将来も努力し合えると、確信が持てるようになりましたの」

 夫「そうです、改めてお二方には感謝をもうしあげます。有難うございました」

 満足そうに微笑むババとジジである。


                           《  完  》





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最終更新日  2019年03月07日 11時45分44秒
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