草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2021年09月15日
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B 社・応接室 (数日の時間経過あり)

B 社の専務  貴方の仰ることはいちいち尤ものような気は、一応はするのですが、私にはもう

一つと言うか、何かこう、心の奥底にズーンと来る物がないような気がして…。

一太郎  私共では様々なデータを駆使致しまして、ええ、勿論諸外国での最新の事例なども逐

一取り入れました万全の資料を解析致し、ええ、その中にはアメリカ合衆国の著名な学者の学説

なども入っておりますが、それらを参酌した上で、我が国独特の企業風土なども勘案した完璧な

セオリーと自負しております。どうか、弊社の月刊誌の御購読だけでも――

専務  成程、成程、貴方の仰ることは、繰り返して申し上げると、ご尤もだと聞きました。

唯、私としては何かこうしっくりと来ないのです。決定的な何か、ハートの、つまりは琴線に触



一太郎  琴線に触れる物、ですか……。

専務  そうでっす、つまり、その通りなのです。正にその通り。

一太郎  …… (絶句している)

   C 社・事務室の一隅 (数日の時間経過がある)

   衝立で仕切られただけの応接コーナーで、向かい合って座る一太郎と町工場の経営者。

経営者  経営と言うものは理念や理屈だけではどうにもならないもので、懸って実践だと儂は

思っているのだ。行動力や実行するパワーを授けると言うのなら、その、儂も少しくらい高い授

業料を払ってもよい思うのです。

一太郎  ですから、ですから、何度も申し上げましたように、その行動力や実践の源となるパ

ワーを発揮する為にも、行動の指針をきちんと整え、行動に対する自信をより深めまして…。

経営者  いや、いや、やっぱり儂は逆だと考える。実践して、しかる後にデーターを収集して



一太郎  はい、お説ご尤もで御座います(力なく頷いている)

経営者  (至極得意げに)そうでしょう。儂には立派な学歴こそないが、実体験から獲得した生き

た学問が、そう言うと少し語弊があるりますが、つまりは自分なりの流儀があります。あんたの

方にその気がお有りなら、何時でも格安でレクチャー、講義の事は英語でレクチャーでよかった

ですよね……。



   D 社の重役室 (数日の時間経過がある)

   若手の重役に対して熱心にセールストークを開陳している一太郎、汗だくである。

重役  うん、うん、それで――

一太郎  ですから先程も申し上げました様に、ですね……。

   相手は一太郎が何を言っても「うん、うん、それで」を繰り返すのみ。何とも張り合いが

ないのである。

重役  あッ、君、所でお子さんはいらっしゃいますか?

一太郎  はい、お蔭さまで娘一人と、男の子が二人、都合三人の子供がおりますが。

重役  ほう、それはそれは、ご家庭はご円満にいっていますか、御夫婦仲は睦まじくて……。

一太郎  はあ、お陰様をもちまして、一応は幸福に暮らしておりますが、そのぉ……。

重役  色々と問題を抱えてもいる。そうでしょうね、どこの家庭も傍目には幸せそうに暮らし

ているように見えても、中に入ってみると様々な悩みがある。それが常識と言うものでしょうな

あ。因みに、我が社が某調査機関に依頼してリサーチしたデーターを分析した結果でも、誠に興

味深い事実が判明しているのですが、君、それを知りたいとは思いませんか――

   こうして、一太郎は仕方なく聴き役に廻らざるを得ないのである。

   街角 (翌日)

急ぎ足で歩く一太郎の肩をポンと叩いて、呼び止めた女性が居る。

女性  一寸あんた…、えーと、名前、あんたの名前何といったっけ?

一太郎  (困って)あのォ、僕先を急いでいますので。

女性  間違いない、あんた絶対にあたしの師匠に弟子入りしたいって、無理難題を持ちかけて

来た…、そうそう思い出して来た、ひのもとナントカさん。

一太郎  (も、ハッキリと思い出した) 貴女は付き人の……。

女性  そうよ、やっぱりそうだった。

   近くの 公園 (数分後)

女性  そうだったの、今は真面目にセールスの仕事に打ち込んでいるんだ。

一太郎  所で、貴女の方はどうなっているのですか? どう見ても有名タレントのお付きさん

には見えないけれど。

女性  私の方も色々とあったのよ、有為転変は世の常って言うけれども。先生、急に仕事の量

が減ってしまって、お酒浸りの毎日。前からあった借金も莫大な物に膨れ上がってしまい…。

   この時、自称ライバルの鬼田が向こうからブラブラとやって来た。一太郎は慌てて顔を隠

そうとするが気付かれてしまう。

鬼田  おいおい、昼日中から仕事をサボって、御気楽なご身分で御座いますね。

   と、隣の女の顔を一瞥した。

女性  あらッ、こちら日本さんのお友達! 素敵な方ね。私、元大物タレントの付き人で、現

在はフリーターの橘 小鳩と申します、どうぞ宜しくお願い致します。

鬼田  (最初から相手に飲まれてしまい、辟易している)……。

   その隙にこっそりとその場を逃げるように立ち去る一太郎である。

   鉄道の ガード下 (別の日)

   一人のホームレスが数人の中学生達に襲撃されている。と言っても、中学生達の態度は遊

び半分、明らかに一種のゲームを楽しむような軽い乗りである。通り掛かった一太郎が止めに入

ると、中学生達は散り散りに去って行った。

ホームレスの男  御親切にどうも――

一太郎  どこにも怪我はありませんか?

男  大丈夫です。いや、連中も本気でやってる訳ではないのです。謂わば、顔馴染みへの挨拶

って所なのですね。でも、これがこんな境遇に落ちた者にとっては、思いの外に効くのですよ(と

半分は涙ぐんでいる)。

一太郎  ……。

男  皆んな自分のことだけで精一杯で、誰も他人の事なんか…、見ても知らんぷり。それに比

べてお宅さんは…、本当に有難う御座います。

一太郎  いやいや、別に。(と、行こうとする)

男  あの、失礼だとは思うのですが、一寸だけお礼の真似事みたいな事がしたいのです。い

や、お時間は取らせません、ほんの一時間、いやいや、三四十分で結構なのです。

   と、一太郎の手を押し頂かんばかりに掴んでいる。

   料理研究家 の屋敷・居間

   バスルームから小ざっぱりとした衣装に着替えたホームレスの男が出て来て、一太郎に声

を掛けた。

男  どうです、姉さんの料理の味は、美味しいでしょう?

一太郎  (感に堪えたと言う様に) 素晴らしいです、本当に……。

男  そうでしょう。専門の料理屋さんの味とは別物の、家庭料理の、謂わばお袋の味なのです

が、天下一品でしょう!

   その時、キッチンから別の料理を運んで来た料理研究家の姉が、

姉  まあまあ、遊ちゃんたら初対面のお客様の前で、そんなに手放しでお世辞を言われたら、

私、決まりが悪くて仕方がないわ。

   と、本当に顔を赤らめている。料理を一太郎の前に置いた後で、やおら居住まいを正し、

姉  本日は遊太郎、いえ、弟をお連れ頂きまして、何とお礼を申し上げたら良いのか…。

弟  姉さん、此処へお連れしたのは僕の方だってば。

姉  (笑って) そうでしたね、兎に角本当に有難う存じます。

一太郎  私は何も致してはおりません。お礼を申さなくてはならないのは、私の方です。こん

なに美味しいお料理を口にするのは、生まれて初めてです。


弟  (同時に)有難う御座います。

   姉と弟は顔を見合わせて、本当に嬉しそうである。

姉  二人きりの姉弟(きょうだい)なのです。さっき聞いたら半年も前から、目と鼻の距離の所に

寝泊りしていたって言うじゃありませんか…。寂しがり屋の癖に、妙に頑固なんです、この子。

   一太郎の回想 ( 二十数年前 )

   花屋の前でバラの花束を横目で睨みながら、思案している一太郎。何かを思い詰めたよう

な表情である。





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最終更新日  2021年09月15日 19時16分40秒
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