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2009.06.22
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正直私も、皆目見当もつかず、もしかしてビルや電話、車もないかも…なんて思っていた。
しかし到着して驚いた。

みんな携帯電話を持っているし、信号はないものの中古の日本車がバンバン走り回り、おまけに渋滞も…。マーケットにも活気がある。これが世界最貧国? 何をもって貧困というんだろうか。この国をどう取材していくのだろうか…。これが私の抱いた最初の思いだ。
しかし、私が感じたもの、見たものは単なる表層の印象に過ぎなかった。数日後、われわれ取材陣はシエラレオネの本当の問題に直面することになるのだ。

1
まずは街を歩いてみる。強烈な日差しにクラクラする。軽く32℃くらいはあるかもしれない。
カメラを向けると、街の人たちが騒ぎ、怒り、何やら罵倒するように声を荒げる。最初は気付かなかったが、その理由がすぐ分かった。
一人の青年に声をかけた。彼は20歳で仕事は道に露店を出し洋服を売ること。売り上げは微々たるもので1ヶ月1500円にしかならないという。彼は伏し目がちに取材にこたえてくれた。
「俺たちはもうジャーナリストやカメラマンに何も期待していないんだ。名前聞いて、勝手に写真を撮って、『これが世界の貧乏国だ。これが可哀そうな子供たちだ』って言われていることに腹が立つ。俺たちは見せものじゃない。お前たちだって話を聞くだけ聞いて、大げさに伝えるだろう。世界中の笑い物にされて、それでいて生活は何も変わらない。今だってカメラを向けられていい気はしないよ」
正直な意見だった。

世界最貧という「肩書き」は、シエラレオネへ各国のメディアを呼び集めたようだ。あのデヴィッド・ベッカムも訪れたという。シエラレオネの人々は期待に胸を膨らませたが、結局、生活は変わらないままだった。そして学習した。「あいつらは俺たちを、ただ可哀想と哀れんで撮っているだけだ」と。
シエラレオネに来たばかりの私にとって、彼の言葉はショックだった。でも出来る限り誠意ある取材をしようと思ったのは彼のおかげでもあった。この国には外からは見えない何かがある。貧困だけではない心の深い闇を抱えた人がたくさんいるのかもしれない。

今回の取材期間は12日。その中で3人の子供たちに出会ったほか、多くの人の思いを聞くことができた。すべてのストーリーをここに記したいが、この報告書では私が一番考えさせられ、そして貧困というテーマに直面することになった「病院取材」に触れたいと思う。

2-1
その病院はフリータウンから東へ車で5時間ほどの地方都市ケネマにある。ケネマで一番大きな病院だと聞いていたが、小児科病棟に入って愕然とした。病院なのに電気がなく、ひどい湿気と臭い。汗とほこりと赤ん坊の排泄物などいろいろなものが混じり合ったような異様な空気に、初めは一時間いるだけで息苦しく感じた。
この病棟には特に乳幼児が多く入院しているのだが、「若い」というより「幼い」母親が多いことに気付いた。多くが16歳~18歳で、学校に通っている時に妊娠してしまい子供を産んだという。相手は?と尋ねると、ほとんどの母親から結婚していないとか、相手の男性が、周囲の家族ともども責任を認めず援助もしてくれない、などという答えが返ってきた。失業率の高いこの国では、学校に行かないことは職に就けないことを意味する。つまり赤ちゃんの父親は、パートナーを妊娠させてしまっても、その後結婚したり、責任を負うことで学業を続けられなくなることを恐れているのだ。こういう例は近年増えているという。

発展途上国ではよくあることだが、女性の人権が軽視されていることも事実で、一度パートナーを失った女性は再婚などもってのほかで、一生独りで子供を育てていかなければならいのである。そんなの男の身勝手だ! 父親にも制裁を! 声を上げて言いたかったが、残念ながら日本的感覚はこの国では通用しないらしい。

2-2
取材していく中で、若くしてシングルマザーになった女性に会った。ファティー25歳。彼女には間もなく2歳になるイブラヒムという息子が一人いて、さらに亡くなった姉の娘で10歳になるマミーも一緒に育てている。
結婚したのだが、ほどなく離婚。イブラヒムを産んですぐに腸チフスにかかり入院していたら、祖父母に預けていたイブラヒムまで肺炎と栄養失調、貧血から感染症にもかかってしまい入院させなくてはならなくなった。イブラヒムの体はやせ細り、肌にかけたタオルの上からも肋骨が浮き出ているほど。泣き声も赤ちゃんの泣き声というより子猫のような声だ。
そう、こちらの病院に来て気付いたのだが、日本の乳幼児病棟と決定的に違うことは赤ちゃんの声である。日本のように耳をつんざくような泣き声は聞こえない。栄養不足とマラリアや貧血で、泣き声も出ないほど衰弱している子が多いのだ。

2-3
そんな小児科病棟で当初はファティーを追いかけていたわれわれだったが、弟を献身的に看病するマミーの姿に心奪われていった。この病院には一週間ほど通いつめたが、ファティーがイブラヒムを懸命に看病するという光景を見ることはほとんどなかった。それをしているのはマミーだ。イブラヒムをおんぶしてあげたり、子守歌のようなものを歌ってあげたりと、10歳の少女が出来る精一杯のことを弟にしてあげている。それ以外にもマミーは、洗濯をしたり、食器を洗ったり、買い物に行ったりと、母親の仕事も代わってやっている。
しかし二人に出来ることといえばそれくらい。夫もいない、家族も貧しいファティーには、イブラヒムを救う薬を買うことができないのだ。ファティーにイブラヒムの容態を尋ねてみると、答えは「分からない」。明らかに衰弱している息子の容態が分らない? なんで? 理解できないことばかりだ。ファティーはこう続けた。
「看護師に息子を診せると、薬や点滴を勧められる。でも私にはそれを買うお金がない。だから聞いても仕方ない」
唖然とした。でもそこで、「そうだよね」とも「そんなの母親として無責任だよ」とも言えなかった。ここには明らかに、私たちの感覚からは考えられないルールが存在する。そう思ったら次の質問が出てこなかった。

つづく


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Last updated  2009.06.22 10:36:40
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