2014.02.16
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 インターネットが一般家庭に普及し、ほとんどの人が何らかの形でインターネットを利用するような時代になりました。

 最初の就職先では、UNIX という OS を使ってネットワーク系のプログラマをしていましたが、当時は高価な専用線や ISDN 回線が幅を利かせていたために、一般家庭で常時接続が可能になるのはまだまだ先のことだろうと思い込んでいました。

 それから現在のようなネット時代に突入するまで 5 年もかからなかったわけですから、技術の進歩には目をみはるものがありますね。
 情報検索のみならず、サイトやブログで情報を発信したり、ショッピング、証券取引などなど、インターネットの用途はこれからも広がりを見せていくことでしょう。


 今回は、インターネットが諸刃の剣であることがほどよい具合に表現されている映画『ザ・インターネット』を、かなりひねくれた目線でご紹介します。





わかりやすいあらすじ


 天才的なハッキング能力を持ちながら社会に適合できないために、パソコンが唯一の心のよりどころになっている寂しい独身女。
 認知症が進行した母親までが我が娘の名前を忘れる始末で、ハッカー女はますます孤独感をつのらせるばかり。

 そんな彼女が三年ぶりの一人旅の準備をしている矢先、一枚のフロッピーディスクが自宅に送られてくる。
 一見何の変哲もない商用 Web ページだったが、ある操作をするとセキュリティが厳重なはずの組織のシステムにこっそり入り込めるしくみになっていた。



 突然の死の知らせに愕然とするも、予定どおり旅に出るハッカー女。
 しかし、彼女のコンピュータ操作は裏側で筒抜けになっており、彼女の手に渡ったプログラムを抹消するために別の組織が動き出していた。

 さて彼女はこれからどうなってしまうのか?

みどころ


1. 長いこと引きこもっていると、極度の理想主義に走っていく

 ネットで注文したピザをほおばりながら、オンラインチャットを楽しむハッカー女。
 チャットルームの仲間は一度も会ったことのない相手ばかりだが、恐らく彼らも彼女と同じような重度の引きこもり組。

 チャットルームで理想の男性像をつらつらと挙げるハッカー女。
 夢を見ているんだよとたしなめる彼らもまた、理想主義に毒されたネット住人。

 今やネットでピザを注文したり、航空券を買ったり、ネットショッピングしたりするのは当たり前ですね。
 米国では電話回線は同市内なら通話料金は一律ということもあり、一日中電話回線を使ってネットを楽しむことは当時でも十分可能でしたので、その点では日本の従量制の通話料金がネット利用の足かせとなってました。


2. 社会的なつながりがないと、いざというときに誰も頼れない


 彼女の個人情報が赤の他人の情報で書き換えられてしまっても、彼女の身分を証明できる人は昔の恋人だけ。
 その彼も殺されてしまい、とうとう彼女は一人ぽっちに。

 ネットが社会に浸透していくにつれ、生身の人間関係が希薄になってきていることが問題視されていますが、まさにこれを予見したような悪夢が映像化されていますね。

 現在は個人情報も電子化されていますので、第三者によってその情報が改竄されるというトラブルがあちこちで発生しています。
 商用のサイトなら乗っ取りがあったとしても、専門業者や警察によって改竄情報の復旧は可能かもしれませんが、国が保管している個人情報が改竄されてしまったら、あなたの存在を証明する術はあなたを良く知る生身の人間しかないのかもしれません。




 ハッカー女が炎天下の浜辺にノートパソコンを置きっぱなしにしてダメにしていたり、そんな高価な物を置いてとても泳ぎにいける雰囲気ではないという話はさておき、一応バスタオルでカバーしているにも拘わらず、目ざとく見つける英国男。

 浜辺に似たようなノートパソコンを置いたりして、俺も仲間だと猛アピール。
 この時点で怪しさ一杯ですね。

 一人旅でスキだらけというのはわかりますが、人嫌いなら個人的なことをいろいろ嗅ぎまわってきた時点でこいつの怪しさには気付かなければならないでしょう。
 顔と英国訛りに騙されて身体まで許してしまうあたりは、引きこもりハッカー女としては失格ですね。


4. 偽ハッカー女のまぬけっぷり

 英国男とグルになり、ハッカー女になりすました偽ハッカー女。
 ボヤ騒ぎによって、偽ハッカー女はビルの外に避難させられるハメに。
 避難警告が解除され、他のスタッフたちとノロノロ歩いて自席に戻る彼女。

 このボヤ騒ぎが、ビルに潜入した本物のハッカー女の仕業だとわかっているのなら、鬼の形相で走って自席に戻るのが普通でしょう。
 ハッカー女の逆襲によって、組織の計画がめちゃくちゃにされた後も、ヘタに動いたことによって自分で悲劇を招いてしまうという、始終まったく役に立っていない女を好演しています。

 役柄とはいっても、ここまでまぬけっぷりが酷いと、あまりにもリアリティがなさすぎて、観賞の途中から苦笑いが止まらない状態となります。


どうでもいいトリビア


 このセクションは、読者を選んでしまう可能性がありますが、わかる人にはクスリとくる内容になっていると思います。


1. マック大放出

 この作品全体を通じて登場するパソコンは Apple の Macintosh シリーズコンピュータです。
 ハッカー女は自宅では PowerMac 8500、旅行先では PowerBook Duo を携帯しています。

 また、ハッカー女の逆襲劇が Macintosh 見本市で展開されることから考えても、Windows は完全に蚊帳の外になっているため、今になってこの作品を鑑賞するとかなりの違和感があります。

 ここで、当時の映画をチェックすると、ハイテクというと Macintosh か UNIX かというイメージが定着していたようです。

 1996年作『インディペンデンス・デイ』では宇宙人相手に Macintosh を駆使してイロイロやっていますし、1993年『ジュラシック・パーク』に登場する監視システムには UNIX が採用されています。

 Windows PC が一般家庭でも本格的に普及し始めたのは恐らく Windows 95 以降でしょうから、作品のリリース時期を考えると Macintosh ばかりが登場しても、当時としては不自然ではなかったといえます。


2. ハッカー女の ToDo リスト

 旅行の計画を立てている彼女は ToDo リストをせっせとこしらえています。
 以下が彼女のリストの内容になります。

済 新聞購読の停止
済 郵便物の配達停止
済 航空会社のコンファメーション
済 コスメルの緊急時の電話番号
  Powerbook バッテリの充電
  サーモスタットの電源を切る
  2600 マガジン携帯
  トラベラーチェック
  日焼けローション買う!!

ショッピングリスト:
  日焼けローション


 上述の 2600 マガジンは、実在のハッカー向け IT 雑誌で、The Hacker Quaterly という季刊誌として現在も刊行されています。

 参考: 2600 (英語) [外部リンク]


3. モーツァルト・ゴースト

 ハッカー女のところに送られてきたいわくつきのフロッピーディスクが、モーツァルト・ゴーストという架空バンドの公式サイトのソースファイルとなっています。

 また、ボーカリスト Dane Midnight のプロフィールをシーンの中でチラッと確認することができます。

 Originally born in Salzburg, Dane now plays guitar and harpischord, in addition to lead vocals for Mozart's Ghost.
 He's known for his screaming vocal and a thrash metal...


(訳)
 ザルツブルグに生まれ、現在はモーツァルト・ゴーストのリードボーカルのほか、ギターとチェンバロを担当。
 絶叫系ボーカルとスラッシュメタル(パフォーマー)として知られる。

 Dane Midnight も架空の人物ですが、Midnight というと、80年代後半~90年代中盤まで活躍していたクリムゾン・グローリーという仮面様式美メタルグループのボーカリスト、故Midnight が鋼の声の持ち主だったため、彼の名を拝借したのではないかと邪推しています。


 参考: クリムゾン・グローリー公式サイト(英語) [外部リンク]


 ちなみに、モーツァルト・ゴーストのテーマソングにはモーツァルト作曲 『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のメタルアレンジが採用されています。


4. メチャメチャな IP アドレス大放出

 IPv4 形式の IP アドレスは 8 ビット×4セットで表記しますが、8 ビットの最大値(10進数で 255)を超えた数値を振ったありえないアドレスが堂々と登場します。

 中盤でハッカー女が極悪組織の IP アドレスを突き止めたときは、75.748.86.91 が表示され、その次のシーンでは一瞬にして 23.75.345.200 に変わっていたりするというイリュージョンまでも起こります。


 その他にも、チャットルームメンバーの WHOIS 検索結果の IP アドレスも同様にめちゃくちゃで、しかもご丁寧に年齢まで出てきていたりします。
 実際はドメイン登録者の氏名、住所、電話番号、メールアドレスまでは WHOIS 検索できますが、年齢は出ません。


 当初はネットワークのことをあまり知らないスタッフが制作したので、このような作りになっているのではないかと思っていました。
 しかし、電話番号と同様に、実在する IP アドレスは、どこかに晒されればほぼ間違いなく検索される運命にあります。

 ハリウッド映画の電話シーンでは、いたずら防止に専用市内局番の 555 を使うようになっていますが、これに相当するものが確立されていなかったため、ありえない IP アドレスで対策を施したという見方の方が妥当性があるといえるのかもしれません。






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最終更新日  2014.02.18 00:22:59


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