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2026.10.01
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週刊 読書案内 内田樹編「撤退論」(晶文社)
 ここの所、下の 目次 に 「ルチャ・リブロ」キューレーター と紹介している 青木真兵 という人と、彼のパートナーである 青木海青子 という方の著書にはまっています。
 彼らは、奈良県の 東吉野 という山の中で 「ルチャ・リブロ」 という 私設 の 図書館 を運営していらっしゃるそうのですが、お二人の日々の日記である 「山學ノオト」 という本を読んでいると、この本に寄稿する、 「撤退論」 の原稿に苦心していらっしゃる話が出てきて、​
「なに?撤退って?」
​まあ、そういう興味で、こっちの本を読みました。
内田樹 が、 「撤退学」 という考え方を提唱した 堀田新五郎 という人連帯するかたちで呼びかけ人となって作った論集ですね。
 2022年4月の初版 ですから、4年経っていますが、所謂、ポストコロナの社会に 「歴史のパラダイム転換にむけて」 と呼びかける警告提言の書でした。
パラダイム という言葉は トーマス・クーン という、 アメリカの科学思想史家 が 「科学革命の構造」(みすず書房) だったと思いますが、 1980年代 によく読まれた科学思想史の著書で使った用語で、世界理解の土台となる基本構造を指す言葉ですね。 「~のパラダイム変換」 とかいう言う言い回しがその頃流行ったことがありました。
 で、今、歴史認識の土台を、何故、見直すのかというところから 内田樹 の まえがき が始められ、 「沈みつつある日本」 という話が繰り広げられます。
内田樹 の現状分析もそうですが、 斎藤幸平 とか 白井聡 の話は認識に容赦がないというか、説得力ありすぎて疲れます。
 で、とにかく 青木真兵 です。
 撤退とは、下野することと見つけたり。
 もともと、人間の社会は二つの原理によって成り立っていました。社会の内と外、此岸と彼岸、文明と自然、常識と非常識などなど、でも現代社会を生きるぼくたちは、前者の原理に取り込まれ、身動きが取れなくなっています。すべてを交換可能な商品にしてしまう、資本の原理によって世の中が動いているからです。二つの原理で生きていくためには、この資本による包摂から常に逃げ続ける必要があります。どちらか一つだけに所属するのではなく、二つの原理を行ったり来たりすることで、問題を「なんとなく」暫定的に解決する。これが地に足をつけることであり、ぼくは土着と呼んでいます。(P114)
​  こんな書き出しです。
 書き手の 青木真兵 が、今、 「彼岸の図書館」 と自称している 私設図書館運営の道 を歩むようになった、思想的発見としての 「土着」 についてです。
 で、現実社会について彼はこういいます。
そもそも、ぼくたちの社会の問題点とは何なのでしょうか。それは現代日本人が信じ込んでしまっている、どこかに標準があるはずだという信仰です。この標準信仰の問題点は、どうやったらこの難局を乗り越えることができるか、という「手段」をまず考えてしまうことです。つまり、標準という「答え」があることを前提に話を進めてしまうことで、なぜこのような事態に陥っているのか、そもそもどういう事態なのかを問い直す機会が与えられないのです。事態がよって立つ前提を疑うことは、前例のない時代において不可欠な態度であるにもかかわらず、です。(P118)
​  ここで、彼が言っている 「答え」があるという考え方 は、ボクなんかも取りつかれていた発想ですが、還暦をこえるあたりで、ようやく気づくんです。​
「人生」に答なんてない。
​  先に紹介した パラダイム という用語を使うなら、平均すると80年余りの人生を 「生きる」 ということの パラダイム変換 を、人は、ある年齢によって迫られるんじゃないでしょうか。
 で、そういうことにうすうす気づいた老人は、世の中全体については、何となく関心を失っていますから、 「歴史認識のパラダイム変換」 とかいわれても、何となく、他人事なのですが、引用文の 青木真兵 が 1983年生まれ だと知って、ドキッとしました。ボクの子供たちの世代なんです。
 ボクなんかが還暦を過ぎて、ようやく気付きかけた 「答えがないこと」 に 40代 の彼が立ち止まって、で、 ルチャ・リブロ なんですね。
 たとえば、学校教育の現場とかのAI化がコロナ騒動を機に飛躍的に進んだ結果、答えに合わせて考えることが溢れています。あらゆるものの商品化が進む社会です。疑うことをしらのないままにみえる 「カワイイ」 とか、 「カシコイ」 とかいうタグを貼ることで 自己肯定性 とかを支える若い人が街を闊歩しています。
人間の商品化 をとことん追求する人であふれているとでもいいたくなる街は、コロナ騒ぎで人がいなくなった街が好きだった徘徊老人には、今まで見たことのない異世界です。
 東吉野の山の中に。商品化さけて 「撤退」 した 青木真兵・海青子夫妻 の感性というか、思想というかに惹かれます。みなさん、年齢によって退場を宣告される前に、 撤退です!
 下に、撤退を叫ぶ人たちの一覧を貼っておきます。ただの 目次 ですが(笑)。
【目次】
まえがき 内田樹(1950) (合気道・哲学「ためらい倫理学」角川文庫)
1 歴史の分岐点で
 撤退は知性の証である──撤退学の試み  堀田新五郎(1965) 奈良県立大・法学・「撤退学」主唱者
 撤退のための二つのシナリオ  内田樹
 撤退戦としてのコミュニズム  斎藤幸平(1987) 経済学「人新世の「資本論」」集英社新書
 民主主義からの撤退が不可能だとするならば  白井聡(1977) 政治思想史「永続敗戦論」講談社α文庫
 撤退戦と敗戦処理  中田考(1960) イスラム学

2 撤退の諸相
 撤退という考え方──ある感染症屋のノート  岩田健太郎(1971) 医学・神大医学部
 下野の倫理とエンパワメント  青木真兵(1983) 「ルチャ・リブロ」キューレーター
 音楽の新しさはドレミの外側にだって広がっている  後藤正文(1976) ミュージシャン
 文明の時間から撤退し、自然の時間を生きる  想田和弘(1970) 映画監督
 撤退のマーチ  渡邉格(1971) 鳥取のパン屋さん
 撤退女子奮闘記  渡邉麻里子(1978) パン屋さん「菌の声を聴け」ミシマ社

3 パラダイム転換へ
 『桜の園』の国から  平田オリザ(1962) 「劇団青年団」主宰
 ある理系研究者の経験的撤退論  仲野徹(1957) 生命科学「エピジェネティクス』岩波新書」
 Withdrawalについて──最も根っこのところからの撤退  三砂ちづる(1958) 疫学「オニババ化する女たち」光文社新書
 個人の選択肢を増やす「プランB」とは何か  兪炳匡(1967) 医学「日本再生のためのプランB」集英社新書
 極私的撤退論  平川克美(1960) 喫茶店店主「隣町珈琲」
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最終更新日  2026.10.01 20:14:53
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