たかうじのブログ
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今年の芥川賞は市川沙央の『ハンチバック』となった。100ページくらいの薄めの本なので,気軽に読めるね。なお,内容は全く軽くないです。ネタバレもしながら感想を書いて行きます。ハンチバック [ 市川 沙央 ]作品と作家は分けて論じるべきであるとは思うけれど,本作は私小説的な,作者の自分語りがはいっているのでそうもいかない。著者は筋疾患に罹患しており,人工呼吸器と車いすを使っている障がい者である。症状は結構重たく,普通に「読書をする姿勢」を取ることすら難しいようで,こないだ見たテレビ特集によれば電子書籍なんかを使って読書はやってるみたい。もともとは,ライトノベルの投稿を何年もしていて,文学作品は本作が初めてだという。そして,『ハンチバック』の主人公について箇条書きすると,以下の通り。・年齢は40歳ぐらい(著者と同じ)・筋疾患を患っていて車いすと人工呼吸器を使っている(著者と同じ)・読書する姿勢を取るだけで困難(著者と同じ)・亡くなった両親は資産家で数億円を主人公に残している。(少なくとも著者の両親は生きている)・主人公は両親の残したグループホーム,障がい者施設に特別待遇で生活している(著者は施設暮らしではない)・主人公はネットでエロ記事なんかを書いて金を稼ぎ,寄付をしている。・主人公は健常者のように妊娠し,堕胎したいと夢見ている。主人公と著者に障害があったりして,重なるところは,色々重なる。ただ,主人公が数億円を持っている富豪だというの,たぶん著者は違うんじゃないかな…。そんな本作の最大の特徴は,性描写がかなり多いということである。1ページ目から,男がハプニングバーで性 行為をする描写が延々と,かなり濃密に描かれる。なんだこれは…と思ったところで,これが主人公が執筆していたネット記事だということが明かされるのだ。いわゆるコタツ記事というやつで,取材をすることなく,ネットの情報の切り貼りでページビューを目的に書かれるエロ記事ですね。俺も見たことがあるけど,文体が本当にそれっぽくて,著者がこの手のエロ記事を読み込んでいるのか,文体を模写する才能に恵まれているのか,判断に難しいところだ。そして,作中では延々と主人公の不平不満が語られている。健常者は普通に性 行為ができるのだが,それができない。仮に妊娠して出産したとしても子育てはできない。なので妊娠して堕胎をしたいと,分かったような,分からんようなことを延々と心理描写したり,SNSに投稿したりしている。ヤマ場としては,主人公がエロ記事や性的なことを投稿していることを,施設の男性職員にバレてしまうというところ。この男性職員,自称「弱者男性」というやつらしい。低賃金で,身長も160センチもない。一方,主人公は女性ながら165センチなので,この弱者男性職員よりは背が高いわけだ。なんとも,主人公の心理描写を見る限り,主人公はこの男性職員を見下している感がすごい。で,主人公はこの男性職員に対して,1億円を支払うのと引き換えに,精子を提供してもらう約束を取り付ける。ただ,実際に妊娠する前,口 淫をしてもらって口の中で射 精してもらったところ,主人公は誤嚥性肺炎で入院することになってしまう。退院した主人公であったが,男性職員はすでに退職しており,報酬として用意した1億円の小切手も持ち出されていなかった…というところでひとまずは終了である。はっきり言って,主人公に好感を持てるか,というとこれがかなり難しい。男性職員にも障がい者を見下す言動があるとはいえ,主人公もこの男性職員を「弱者男性」と見下しているわけだ。読書ができるのが当たり前である,とする健常者に対するルサンチマンは,僕も考えたことがなかったものも出し,傾聴に値するとは思う。ただ,共感は難しい。さらに共感を難しくしているのが,主人公の富豪設定である。何億円もの遺産を持っていて,親が主人公にグループホームを1つまるごと残すというあたり,一般読者と境遇が違いすぎる。どうせ主人公の障害について共感しにくいのだから,富豪でも何でもいいといえばいいのだけれど。それと,どうしても語らなければならないのが,最終章である。これは僕もネット上の意見を色々見たが,よく分からない。箇条書きすると,こうである。・突如場面と,語り手が変わり,主人公は一切登場しない。・新しい語り手は風俗店で勤務する女子大生。・女子大生は親が宗教に大金を使い,本人自身もホストに散在していて経済的に困窮している。・女子大生の兄は障害のある女性を殺害し,通帳を盗んで服役している。・女子大生は避妊せずに客と性 行為をしていて,妊娠するかもしれない。さて,女子高生は何なんだよ…となる。第一印象としては,主人公が男性職員に殺されてしまい,男性職員の妹が風俗嬢になっているということなのか,と思った。そして,主人公ができなかった妊娠をしようとしているのかな…?ただ,男性職員は通帳を盗まなくても精子を提供すれば1億もらえるんだから,どうも違うようにも思える。また,別の読み方としては,最後に登場した女子大生が,兄に殺された女性をもとに主人公の物語を執筆していたのではないかとも読める。要するによく分からんのである。総評としては,「よく分からない」ということになる。安易に答えを与えるのではなくて,「障がい者はこのように苦しんでいる。性欲もある」というのを考えさせることはできていると思う。ただ,読んでも爽快感はない。その辺は,直木賞に期待ですね。ハンチバック [ 市川 沙央 ]
2023.08.01
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