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「バルドゥビーダ人さん、ウチに泊まっていってもいいんだよ」Yさんは心配そうだ。「いえ、大丈夫です」北風はビュービュー吹いている。襟巻きをしてコートの襟を立てて、薄い手袋に包んだ手をポケットに突っ込む。酒の後に一杯のラーメンを食べた後だが、それでも体が芯から凍りそうだ。「本当に大丈夫?タクシー代、出そうか?」「いいえ、結構です。こう見えても慣れてますから」Yさんの家に泊めてもらうことは簡単だが、家族の方がいらっしゃるのにこんな夜中にお邪魔することが、迷惑になることは分かりきってる。タクシー代だって、出してもらうくらいなら自分でなんとかしたい。でも、残念ながらこうして飲み代がかさむ中、そんな贅沢はできない。凍える明治通り。何度もコンビニに立ち寄りつつ歩く。俺は明日は夕方から仕事だからまだいいが、Yさんは朝からだ。それを考えれば、俺はまだいいほうだ。とにかく今の現状をどうにかしなくてはならない。月収が10万を切るか切らないかの生活になって、短くない。これまでも、何度も転職を試みている。しかし、この不景気。面接したって、言われることは分かってる。「君のキャリアじゃあ・・・」「5年後の君は、一体何をしたいの?」「英語ができるだけじゃ、ダメなんだよ」しかも、本心じゃ従業員になりたいわけじゃないから、落とされるとなぜかホッとする。そしてホッとした行き先が、今の不満だらけの毎日なのだ。戦略と呼べるほど立派なプランではないけれども、月収をもう少し安定させて、それからじっくりとラットレースを抜けようと思う。・・・・ってなことをYさんに相談したわけだ。まあ、人生相談の類と言っていい。「じゃあ、飲みにでもいきますか」「でも・・・ウィークデーでは仕事が終るのは早くて夜9時半になってしまいます」「いいですよ私は別に。じゃあ、いつにしましょうか」Yさんの行動力には驚く。「来月のいついつ」というのではなく、「来週のいついつ」というのでもなく、「今週のいついつ」というふうに決まる。そして一方的に俺の力になってくれようとする。飲みの席のことだった。「じゃあ、Kさんと話してみますか」Kさんとは、Yさんのアップだ。「いいえ、いいです」そこまで人の世話になろうとは思ってない。「でも、Kさんはきっと何か力になってくれるよ」「そうですか・・・」Yさんがそういうなら、きっと何か力になってくれるのだろう。俺は、ただ転職したい。今の毎日から脱皮したいのだ。日は変わって、新宿にあるYさんのNBの事務所の昼下がり。再び目のギョロッとしたKさんとお会いした。俺はKさんに要点を告げた。「転職したいので、何か仕事を紹介してくれる人が回りにいたら、教えていただきたい」質問に対するKさんの答えは、今イチ要を得なかった。つまり、質問とは違った答えなら出てくる。その答えとは、例えば「君は今のような塾で夜の仕事ではなく、昼の仕事をしたいというけど、もしかしたら今、チャンスかもよ」「・・・どういうことですか?」「つまり、ネットワーク・ビジネスのチャンスかも知れないってこと。NBは、何も昼の仕事じゃなくちゃいけないことはないからね。君には時間があるようだし」「いいえ、こう見えても私は昼寝してるわけじゃありません」話が続いたが、ついに俺が求めている答えは出ることはなかった。俺は唯、転職がしたかった。モンゴル人とのビジネスが立ち行かず、今すぐにラットレースを抜け出せることにはならないと分かった今は・・・・。NBもラットレースを抜ける一つの手段だというKさんやYさんの意見も分からないではない。しかし、自分に合っているとは思えない。加えて、NBから収益を求めるのなら、意志にかじりついての長期の忍耐も必要だろう。NBの長所は金銭的成功そのものより、ロバート・キヨサキの言うように、学習のためだと俺は受け取っている。リーダーシップ、忍耐、相互扶助、メンターからの教え・・・・そうしたことを身につけるためなら、いい手段かもしれない。こういった「人生を変えるビジネス教育」を受けられ、しかも夢に生きることができる・・・・こういう観点からなら、むしろ賛成すべきものと思う。しかし、それにしたって活動を支える生活費が必要なはずだ。するとやはり話は元に戻る。転職。たださっきから一つ気になるのは・・・・この体勢、何か見覚えがある。目の前にKさんが目を大きく開けている。右横にはYさんが、黙ってメモを取っている。これがいわゆる・・・・・「ABC」だ、と気づいた。ダウンが「獲物」を連れてきて、アップがさばく。そのさばきかたをダウンが学習する・・・・・おお、俺は知らないうちに獲物になっているではないか!「これがABCですか?」と質問をすると、「そうです」とKさんは逃げずに言った。もしここで婉曲されたら、俺はこの人を信用しなかっただろう。正直にいうから、憎めなかった。しかし、俺は今日獲物になるためにわざわざここまで来たわけじゃない。ありがとうございました、とペコリと頭を垂れて、席を立った。「おいおい、君。今日サインアップしてもいいんだよ!」
2003年01月29日
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今俺が仕事以外で定期的に出席しているものは二つある。一つは通訳学校、一つはゲーム会。通訳学校は毎週土曜日で、ゲーム会は毎週日曜日。ゲーム会は各所あるが、俺はいつもYさんのいる都心の某所しか行ったことがない。又、他所へ行く理由もない。 今をもって不思議に思うのだが、通訳学校にも出会いがないわけではない。事実、教室に入れば隣の人と小話はするし、彼らとは毎週顔を合わせる上、通訳技術や職業英語力を伸ばすという共通の目標もある。 なのに、ここにいる彼らとの交流が、俺の人生を左右していくとは思えない。そりゃ、未来のことは誰にも分からないけれども・・・・ でも、きっと彼らとはこのまま、出会いというよりはすぐに他人になる、一瞬の擦れ違いで終っていくだろうことは容易に想像できる。 ところが、ゲーム会の方は違う。ここで出会う人達との中で、いつか何かが生まれる予感がする。それが何なのかは分からないけれども。彼らは、俺の人生に何がしかの大きな影響を残していく気がする。そしてこの中の何人かとは末永い付き合いをしていくことになる予感がする。そりゃ、未来のことは誰にも分からないけれども。 先日は、watervalleyさんという日本株をやっている人がいた。今日はM.Mさんという中国株をやってる人がいた。ガチャガチャNBで毎月10万の不労所得を得ているというSさんという人もいる。株で大負けをしたというsidemountainさんもいる。こういう人達は、普段の身の回りの生活の中には存在しない。 政治、経済、哲学、歴史、株、不動産、人生・・・・このゲーム会にないものをあえていえば、ロマンスだろう。ま、それはここではさておいて、通訳学校の生徒達とこういう話をすることは決してない。授業を離れて話すことは、近所の犬の散歩道だったり、服のサイズのこだわりだったり、おいしい店の話だったり、自分の住んでいる都内一等地のマンションの自慢話だったり、お互いの形ばかりの褒めあいだったり・・・・まあ、女性が多いということもあったとしても、数少ない男性と話してみても、今度は「世の中というものはなあ、君は分かってないだろうけど、我々のころはなあ・・・」という説教。 この差は何なんだろう。
2003年01月26日
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「スタンド・バイ・ミー」という映画のラスト・シーンでは、少年の日の夏を思い起こしてみる主人公が、そのときいた仲間のうち数人とは特に理由もなく、そのまま交流が途絶えてしまったという意外な感慨にふける。モンゴル人とバルドゥビーダ人の場合もそれに近かった。「ああ、モンゴルさん、来てたのか・・・」「バルドゥビーダ人さんもいたんだ・・・久しぶりね」都心某所のゲーム会の会場だった。前に会ったとき、これからビジネスを起こそう、などと話していたから、もっと打ち合わせの時間が必要だった。日中を股にかけた教育産業だった。モンゴリアンはこのまま法的な問題が解決しないと、3月に中国に帰ることになる。そのことを逆手にとった発想だった。モンゴリアンは日本に愛着が強く、できればここに戻りたい。俺は世界をもっと知りたい。中国やモンゴルに行く機会ができるのは、喜ばしいことだ。こんなときに、どうして久しぶりなのか?原因は何かははっきりしている。それは、とっても小さなことだった。それは何かというと、「時間」だった。モンゴリアンは写真の仕事をしていて、夕方まで忙しい。俺は塾で働いていて、夕方から仕事だ。モンゴル人は翌日の仕事の関係で夜遅くの会合は無理で、夜遅く朝遅い俺は早朝の会合に参加できるわけがない。だから日曜を提案するも、日曜は向こうが忙しいという。土曜の通訳学校を終えてから予定を組んだこともあったが、モンゴル人の突然の体調不良によりキャンセル。年頭に、ビジネスが立ち上がるかも?と期待をしていた俺は、失望の気持ちが湧き上がる音を黙って聴いていた。その音をよく聴いてみると、プランがうまく運ばないことよりも、ラットレースを駆け巡る、現状の生活に失望している音だとわかった。
2003年01月22日
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ゲーム会では、ゲームが終ってから2~30分を取って感想戦や自己紹介をする。俺の番が回ってくる。「塾講師で生活の底辺を固めながら、執筆業や通訳業をしたりしてます。特許も2件、申請中のものもあります」この短い自己紹介の中で、不労所得と言えるものは印税収入と特許についてだろう。しかし、事情があってこの二件とも、「資産」と言えるようにはなっていない。その事情とは、まず印税だが、本がベストセラーになっているならいざ知らず、そうでなければ初版の売上印税のみになる。しかも、私の場合は共著者が大幅に持っていくため、大した額にはならない。だから、言ってもしょうがないと思うので、自己紹介ではあまりこの話は出さない。次に特許権についてだが、このことで多少苦労したこともあって、個人発明家に対しては少しは手続き上のアドバイスができるかもしれないため、話すことがある。但し、法人ではなく個人の場合、特許を取ってしまうよりも「申請中」にしておいた方がいいので、特許査定の申請はしていない。従って権利収入は入ってきていない。今日は用事があるので、交流会には出ないで帰ろう。すると、参加者のTさんが駆け寄ってきて、小一時間でいいので、ぜひ特許の話を聴かせてほしいと言う。俺の知っている限りでよければ、ということで、近くのマクドナルドに立ち寄った。Tさんは「金持ち父さん」を読んでから、非常にドラスティックな行動に出た。一年前に会社を辞めてしまったという。それから今日まで貯金を切り崩して生活をしていたが、それもついに底を突き、これからタクシーの運転手になるという。始めのうちは特許の話も出たが、次第に話はNBになった。「いや、実は俺もYさんに誘われて、新宿まで行ったんですよ」とTさん「でも、もっといろいろと見てから決めるべきだと思って、他にもいろいろ行って見たんですよ」俺はNBを今やろうと思っているわけではない。しかし関心がある。ラットレースを抜ける手段には紙の資産、不動産、ビジネス、特許権、印税などいろいろとある。その中の一手段として、NBについてもよく知っておく必要があると思えるからだ。今は何についてもとにかく学ぶべき時だ。昨年8月にあの本と出会うまでは、全くこうしたことには関心がなかったのだから、学ぶことは無尽蔵にある。それぞれの手段の長所やリスクについて考察するべき時だと考えている。ただ、ゲーム会に出席していると、NBからの勧誘は意外なほどに多い。これは逆に考えれば、NBについて知るまたとない機会と言えるだろう。ただ去年の暮れに受けたような、人を騙すような勧誘はお断りだが・・・・・「私もバルドゥビーダ人さんのように、どこにも属していない以上は中立です。今まで見てきたうちでは、システムで言えばNWがいい。アップとの繋がりで言えば、Yさんは信用できる」Tさんは今週もNBの説明会に参加するという。それからTさんの紹介で、一日に3つのNBの説明会に出席した。どこの説明会も「ウチは他と違って天然素材で品がいい」と言った。ただ、その先は違っていて、ある会社では商品知識を詰め込むところもあれば、ある会社は人間性についての深い洞察、自立した人間を育てるリーダーシップ教育について謳っていた。そして、会社による違いもさることながら、それよりも結局はライン(ダウンとアップの繋がりの群)の考え方によるところが大きいことも分かってきた。身体は一つしかないため、一々説明会に行っているわけにはいかないが、勧誘攻勢の中で俺はNBに対する知識を貯え出した。しかし、あの人間のできたYさんが嫌な顔をする唯一といっていい瞬間は、NB他社の人がゲーム会に来る参加者に勧誘をかけるときだった。なるほど、Yさんから見れば競合他社となる彼らは、害虫でしかなかったのだろう。しかしその当たり前のことに気が付くのは実はもう少し時間が経ってからのことであって、俺はYさんにこう言ったことがある。「いいじゃないですか、他の会社の人がゲーム会に来て勧誘してったって。結局、やるかやらないかは本人が決めることでしょ?私はあくまで中立ですから、そう思いますけど」ほんの僅かながら、珍しく不機嫌そうな表情を浮かべるYさんに対して、俺は心の中でこう期待していた。「それくらい、器の大きい人であってくれ」と。
2003年01月19日
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昨年12月から土曜は通訳の学校に通っている関係で、ゲーム会には日曜のみの参加だが、毎週末通っていることには変わりない。今やゲーム会なしには週末は来ないことになっている。「バルドゥビーダ人さん、ゲーム会の方、ちょっと手伝ってくれないかな」ある日、主催のYさんに頼まれた。Yさんは命令口調には言わない。しかしこの人に頼まれたんじゃ、しかたないなあと思えるから不思議なものだ。最近では、人前に出てゲームの説明やバンカーまでやっている。こうして、いつの間にか、参加者から興行の側の手伝いをしている。彼は平日はEクワドラントの仕事を持ち、土日はゲーム会を主催している。しかもゲーム会は午後1時から始まり、続いて夜遅くまで交流会の一日がかりだ。水曜日は仕事が終ってからNBのミーティングに出席してるというし、この人には一体、家族と過ごす時間はあるのか?「家族には一年間だけがんばらせてくれって言ってあるんですよ」でも、よく理解してくれるなぁ。こんなに忙しいのに、疲れを知らずいつも元気だ。いつも明るく人当たりがいい。人生を楽しんでいるようにさえ映る。行動は迅速、約束はきっちり守る。人の話はきっちり聴く。相手を否定するような意見を述べることがない。人の悪口を言わない。最近、Yさんから読みきれない程たくさんの本を借りている。彼は、「金持ち父さん」の巻末の推薦図書を全て読んだというからすごい。ゲームから学ぶ。人から学ぶ。本から学ぶ。俺は、徐々にではあるが、知識を貯え始めている。「バルドゥビーダ人さん、手伝ってくれないかな」思えばこの一言で人を動かすこと自体、人間力だろう。そして俺に何かを学ばせる。但し、理論・理屈で教えるのではなく、経験させて教えるのだ「早く自立した人間になるんだ。バルドゥビーダ人さんががんばるなら、私は協力するよ」と言っているかのように。
2003年01月12日
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自動車のライトが眩しい、街中のファミリー・レストラン。窓の外には正月の風景が映し出されている。安ハウスワインをちびちび飲む。丸テーブルの向かい側にはモンゴル人がいる。思えば、この人と偶然行った「ゲーム会」との出会いから、俺の去年の終盤が変わったのだった。「俺、決めたよ」ワイングラスをテーブルにドン、と置いた「今年中に、ラットレースを抜けるよ」これまで、自分らしい人生を求めて、自由を求めて、この地球上であれこれ努めてきたつもりだった。しかしいろいろあったが、結果を言えばまだラットレースでもがいているのだ。「キャッシュフロー・ゲーム」では、最初にファースト・トラック上にある夢に「チーズ」を置く。俺には夢がある。たくさんある。だから自由になりたい。「今年は、やり方を変えてやってみる」俺がそういうと、モンゴル人はうなずいた。対してモンゴリアンの方は、顔色が芳しいとはいえない。3月には長年住んだ日本を離れなくてはならないかもしれない、でもどうにか日本に留まりたい、という。傍目に見ればチャンスが転がっていそうな中国だが・・・・・。彼女の夢はファッションモデルのようだから、そう言う分野では確かに日本の方がいいのかもしれない。「私、もし中国に帰ることになってしまっても、『ゲーム会』で知り合った人達と何かできないかって考えてるの」「それはいい考えだ。ぜひやるべきだよ」グラスは空になっていた「俺達で何か始めてもいいし」輝きの失せていた彼女の瞳の奥に、小さく炎が宿った。さて、バルドゥビーダ人とモンゴリアンの共同事業は、果たして始まるのだろうか。
2003年01月01日
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