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2008年10月05日
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カテゴリ: オペラ
 さて、新国トゥーランドット、演出の話です。ちなみに、ネタばれ上等天下御免状態でありますので、もし、これから観るから事前には知りたくない!という方でしたら、以下は御覧になりませんように。責任持てませんので、よろしくお願いします。


 * * * * * * * * * * * * * * * *


 まず、大雑把に評価を言えば、私としてはいまいち。視点というか、目の付けどころの出発点はいいんだけど、その後の構築と詰めがもう一つ。

 事前にTVでコンセプトの一端を聞いてしまったのと、プログラムでのインタビューから、ある程度分かってしまっているというのはありますが、これは「なんでこうなるの?」という点からは、知らない人には分かりにくいと思います。ただ、プログラムを読んで事前に構造を知らない人、或いはプッチーニの恋愛沙汰の話などを知らなくても、構造的には一応分かる展開になってはいます。その点で、ぎりぎりこの演出プランは「許せる」範囲にあると思います。

 演出家のヘニング・ブロックハウスの視点は、「何故プッチーニは "リューの死" から先を書かなかった - 書けなくなった、ではなく - か?」という疑問から発しています。その理由を、ブロックハウスは、「プッチーニは "リューの死" によって、将に "詩" だったリューを失ってしまい、それ以上ドラマを紡いで行くことが出来なくなってしまったからだ」と結論付けます。だから、その後、作曲の筆は止まってしまったのだ、と。(ブロックハウスによると、プッチーニは、死の間接的理由となる喉頭がんが発見される前、死の1年前には "リューの死" まで辿り着いていた、としています)
 この視点は、トゥーランドットを知っている人にとっては、一度は感じることがあるのではないかと思われる疑問、或いは不満に通じているのではないでしょうか。つまり、「リューが死んだ後の不自然さ」です。音楽的には、気の毒に、それは補筆したアルファーノのせいにされたりしますが、確かにドラマ的にはこれは重要なポイントです。そういえば、昔々、ある女の子がこのオペラの映像を観て「この話は嫌いだ」と言っていたのを思い出します。自分の為に身を犠牲にしたリューを放っておいて、愛もへったくれもあるんかい、何じゃお前はカラフ!と、言われてみればそうですよね。
 ブロックハウスは、プッチーニはリューを中心にドラマを紡いでおり(「リューは詩だった!」に端的に顕われている、と言ってました<TV)、それ故にリューの死以降、行き詰まってしまった。端的に言えば敵役のトゥーランドットを、どうやって愛の物語の中心に持ってくればいいか困ってしまったのだ、としています。更にこれを、かつてプッチーニが想いを寄せていた、そしてそれ故にプッチーニの妻に最終的には自殺に追い込まれてしまった小間使いへの想いに重ねているのではないか、と解釈しています。つまり、氷のような姫君・トゥーランドットには彼の妻への心情が投影されている、と。
 また大胆な(笑)
 とはいえ、大胆な想定であるとはいえ、必ずしも無理がある視点とも言えないと思います。


 ブロックハウスは、このオペラに先立って、プロローグを設定し、一方、「リューの死」以後の部分をエピローグと位置付けました。
 時はプッチーニが作曲していた頃、1920年代のイタリア。
 無言で演じられるプロローグでは、街の広場に屋台が連なり、中央には野外劇の移動舞台(コメディア・デラルテのイメージ?)が停まっている。行き交う人々。プッチーニと思しき、妻を連れた紳士。が、実に不用意にも、妻が挨拶を交わしている隙に、ウェイトレスと恋に落ちる?というか、見つめ合い手を握る。当然介入する妻。といったやり取りの後、一座が上演を開始するかのように動き始める。仮面を持ち出す一座。と、プッチーニと思しき紳士に仮面を付けさせる。妻には王冠を、ウェイトレスやその店の主人にも仮面を....そして、周りのその他大勢も、「昔の北京の市民」風の衣装を着け始めて、オペラが始まる。
 そこから先は、基本的には普通にトゥーランドットをやっています。そして3幕、リューの死で、人々はあたかも我に返ったかのように、衣装を脱ぎ捨て始め、元の1920年代イタリアを取り戻します。リューの遺体を担ぐのは、もはや北京の市民ではなくウェイター達。リューの死を嘆くティムールは、歌いながら徐々に衣装を脱ぎ捨て、店の主人へと戻ります。カラフもトゥーランドットも、同様に元々着ていた服に戻ります。カラフは新聞なぞ広げて読んでいる。そして、アルファーノが補筆した、カラフが死の姫君よ!と糾弾する場面は、舞台の端と端に座った両者のやり合いで始まります。
 以下、物語は粗筋通り。最後、リューの死を以て舞台を閉じた移動舞台の前で、市民に囲まれて、カラフとトゥーランドットは愛を確かめ合い、皆に祝福されます。

 よく分からん(笑)

 ただまぁ、演出家本人も言う通り、元々ドラマ展開に無理を感じるこのストーリーを腑に落ちるものにする為、本編を劇中劇としてしまう、という発想は、一つの解決策ではあるかも知れません。その点は結構工夫しています。例えば、この公演、大道具が舞台前に来ていることもあって、幕は閉まりません。なので、1幕や2幕が終わると、照明が暗転して終わるのですが、その後ひとしきり拍手があって場内が明るくなって、それでも全ての人物が即座に居なくなる訳ではないのです。休憩25分の内、最初の5分から10分くらいは、合唱やエキストラの面々が、そのまま舞台に座って、語らったりしている。芝居は一応終わって幕間だけれど、だからといってこの幕間にパッと人が一斉に居なくなる訳ではない。劇中劇の幕間だから、まだ劇は続いている、と言いたいのではないかと。これはやはり意図的でしょう。

 でも、このやり方は、非常に危うい。
 まず、この劇中劇という構造を上手く理解されるか、というリスクがある上に、その構造を以て何を言いたいのかがある程度明確でないと厳しいのだけれど、正直、そこまで行けていたかというと.......

 実は、この劇中劇は、劇中劇で終わっていません。というのは、3幕後半、ティムールは普通はリューと一緒に退場してそれまでなのですが、この公演では先述の通り、店の主人に戻ってしまいます。ところが、リューは、帰って来ないのです。トゥーランドットのかんざしを取って自害したリューは、そのまま、移動舞台の中に担がれて、戻りません。元ティムールの店の主人は、その後、舞台前面の自分の店の椅子に座って、以後、街の広場で繰り広げられる物語には一切目を向けません。彼の前には、リューが自害したあのかんざしがある。
 この解釈だと、恐らくリューは、つまり彼の店のウェイトレスは死んでいます。つまり、劇中劇が「現実の世界」に侵蝕してしまっている。


 そのように解釈すれば、つまりは、このオペラ、プッチーニ自身の物語として演出されたということになるのでしょう。
 それはそれで確かにコンセプトとしては刺激的です。が、正直、オペラとしては、ややストーリーが発散してしまったきらいがあり、しかも少なからずアクロバティックである、という意味でわかりにくい。着眼点は悪くないけれど、オペラとしてこれは面白いと言えるのかなぁ?だって、言ってしまえばかなり無理した挙げ句に、そこらへん何処にでもあるただの夫婦喧嘩に落とし込んでる訳ですよ?夫婦喧嘩は犬も食わない、という偉大なる日本の箴言をブロックハウスは知らないのだろうか。その割にウェイトレス一人死なせてる訳だし。

 まぁ、そんなわけで、いまいち。
 面白くない、とは言いませんが.........

 ブロックハウスに限らず、最近のオペラの「現代演出」には、議論を巻き起こす事を主たる目的としている演出が少なくありません。いや、むしろ、それが主流と言うべきでしょうか。それを即座に断ずる気はありませんが、それによって物語を上手く落ち着かせる事が出来なくては、やはりオペラの演出としては問題があります。


 技術的に気になったのは、舞台装置が多過ぎて舞台が一杯になってしまっていたことと、それもあってか人の動かし方がもう一つスムーズでなかったこと。特に群衆の扱いは難しいのは分かるんだけど...... まぁ、制約条件もあるから、ある程度は仕方無いんですけどね。







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最終更新日  2008年10月05日 22時16分37秒
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