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■ロボサムライ駆ける■第3章9■第3章 (9) それは巨大なガラス箱に見える。 西日本都市連合の議場は、京都郊外にある新京都ドーム都市の中に造られていた。 この議場全体は透明強化プラスチックフレビレンガラスのドームで覆われている。中から近畿の外界がよく見えた。西日本の各市を代表する代議員が、--各市の場合、市長が多いのだが、--その一人一人がこの議場に送り込まれていた。 近畿新平野がフラットだけに、ドームからはすべての町々がよく見える。レザー光線がよく届くのだ。 各議員は、丁髷の上にヘッドベルトを巻いている。その後半分にレザー光線集約装置がついている。レザー光線は各都市の市議会との連絡ができる。直接アクセスができるので、嘘の発言はできない。 各都市の市章が、各々の羽織りに鮮やかに描かれている。 各々武士階級の出身者が多い。がしかし、腰の大小は議会場内の持ち込みはご法度となっていた。 いよいよ、全国都市会議が開催されたのだ。 が、いかんせん意見の一致するところは少ない。 二十年前に起こった「霊戦争」の影響で、日本は東西に大きくわかれていた。ロボット奴隷制の西日本と、ロボット自由主義の東日本である。 霊戦争のおり、東日本では人間が数多く亡くなり、社会のシステムとして、ロボットに人権を与えなければ立ち行かないエリアとなっていた。それゆえ、統一国家としての日本の態をとるのは非常に難しい。それは「霊戦争」以後、どの国も同じであった。 落合レイモンは、東日本を代表してこの会議に出席している。 東日本側の立場としては、統一を望んでいるのが事実だ。現在の関が原関所により人的交流、ロボット的交流が阻害している現在では、日本国家としての発達は望めなかった。加えて、レイモン、あるいは、徳川公国の徳川公廣にとって、心を曇らせているのは、ロセンデールの動きである。 ロセンデールは神聖ゲルマン帝国の後援を受けて、日本へ来ている。 神聖ゲルマン帝国は、日本が再び統一国家として国力を充実するのを望んでいない。極東の分裂国家として存在してもらう方が、有り難かった。つまり、支配しやすいと言う訳だ。 落合レイモンは、議場で訴えていた。「日本は、心柱(しんばしら)によって統一されるべきです」「その心柱というのは、実際どこに存在するのだ」 議場のあちこちから罵声が飛んでいた。レイモンは声をおとした。「西日本の方々、真実を申し上げましょう。その場所はすでに発見されておるはずです」 レイモンの顔は自信に満ちている。レイモンのこの発言の後、会場は一瞬無言となり、それから蜂をつついた騒ぎとなった。人の頭があちこちしている。熱気がドームを包む。「どういうことだ」「説明しろ」 がなり声がつづいた。 続けてレイモンは、指で指し示しながら「西日本都市連合の議長、水野栄四郎殿がすべて、ご存じのはずだ」 『議長団席』の一角に占める水野の方に、人々の眼が集まる。議員の一人が言った。「本当ですか、水野様」 水野は二メートルもある長身を急に立ち上がらせた。場内は水を打った静けさとなる。皆聞き耳をたてているのだ。「諸君、落合レイモン殿の諌言に惑わされてはなりませぬ。レイモン殿は、我々西日本の纏まりを壊すためにこの会議に派遣されてきたのだ。我々が、その心柱を探すために何年かけてきたと思う。ここで説明しておこう。ロセンデール卿に心柱を探すことをお手伝いしていただいておるのは、卿が優れた霊能力者であり、かつて各国の心柱の幾つかを発見なさっておるからだ」 水野は断固とした口調で、すべてを締めくくった。会場が落ち着く。が、再び、「まて、水野殿。ロセンデール卿は各国の心柱を発見することによって、その国を神聖ゲルマン帝国の支配地にされなかったか。ロセンデール卿こそ、新しい帝国主義のまわしものであるこに、諸君は気がつかれぬのか」 レイモンは言い切った。再び、爆弾発言である。「誹謗だ。誹謗だ」 議席のあちこちから声が上がり、レイモンに向かって人々がこぶしを振り上げ殺到してくる。議会はパニック状態になる。「いかん、主水。レイモン様をお助けしろ」 夜叉丸は立ち上がった。議場の控室にいた主水の耳のレシバーから、レイモンの付け人夜叉丸の叫びが響いた。「レイモン様を無事に議場から脱出させよ」「が、夜叉丸殿。議場警備員たちに任せた方がよいのではないか」「馬鹿者。あの議場の暴徒の中に、ロボ忍が交じっておったらどうする。あやつら、レイモン様を誘拐し、心柱の利用にレイモン様の力を使うつもりだ。わたしの後に続け」「道を開けろ」 主水は叫んで、飛び出して行った。「こやつは」議場の警備員が罵声をあげる。 議会は混乱状態だ。そこに主水が飛び込む。「ロボザムライだ」「何、東日本のロボットが、人間の議場にいるじゃと」 ロボザムライを目がけて、いろいろなものが飛び交う。まるでレスリング会場だ。主水は思わず左腰に手を当てる。が、刀はそこにない。「むっ、しまった」(しまったのは、西日本の役人だが…) むろん、主水はムラマサを抜くわけにはいかない。西日本に入るとき、関が原で刀は預けさせられている。 主水としては、立ち塞がる暴徒たちを当て身で倒していかねばならない。 但し、人間に傷を負わせるとこの西日本エリアでは重罪となる。 すばやくなぐりたおした人間が山となっている。レイモンのところへようやくたどりつく。 数十人の人間に囲まれているレイモンは、まるで団子だ。主水は一人一人をレイモンからはぎとっていく。ようやくレイモンの顔が見えた。「レイモン様、ともかくこの場をお離れください」「おお、夜叉丸に主水か、助けにきてくれたか。どうも私の言葉は人気がないようじゃのう」 レイモンは我と落ち着いている。「主水、御前を連れて先に逃げてくれ」「夜叉丸どのは……」「私は、後ずめじゃ」「こころえもうした」「レイモン様、お体を持ち上げますぞ」「わしの薬品混合タンクを忘れるなよ」 一言付け加えるレイモン。 主水は、レイモンの体を、薬品タンクつきで持ち上げ跳躍した。「レイモンが逃げるぞ」数人がそれをとめようとする。「待て、待て。おまえ達の相手は私だ」夜叉丸が名乗りをあげる。「何物じゃ、お前は……」「こおいうものじゃ……」 数人の議員があっと言うまに床に倒されていた。 その間に、主水は議席の背もたれの約十センチ幅の部分を、次々と跳びはねて、ようやく議会室外へ逃げ出していた。 いまや、議場は「レイモンを追え」の罵声に満ちている。パニック状態である。 ようやく議場外の回廊に出た。が、そこに男がいる。まったく唐突にその男は現れていた。蓬髪に、羽織りのロングコートで顔ははっきりわからぬ。「レイモン、まて、売国奴め」 男はナイフを手にしている。レイモンにぶち当たってくる。どうしてこの議会に武器が……「いかん」 主水はナイフの前に自らの身を投げた。 が、その一瞬主水の持病が出た。その時精神が空白となる。主水の体は倒れる。主水の体重は並の重さではない。人間の三倍はあるのだ。 ナイフを突き出す男の腕ごと、主水の体で圧しつぶしていた。「ぐわっ」男の腕はボキボキと折れ、気を失う。「なんと、レイモンの護衛ロボットが人間を傷つけたぞ」 まわりの人々が走り寄る。 警備員がようやく気付き走ってくる。「何だと」 人々は殺気立っている。「待て、待ってくれ。この男はレイモン様を殺そうとしたのだ」 再び意識を取り戻した主水は叫んでいる。「うそを申すな。その証拠がどこにある」 口々に人は糾弾する。「この男がナイフを…」 が、男のつぶれた手には肝心のナイフがない。「レイモン様、ご助言を」 振り向いた主水。が、レイモンの姿も消えている。 呆然とする主水。「これは、一体……」「ロボザムライめ、おとなしく捕縛されよ」「何をいうのじゃ」 主水は戦う姿勢をみせた。こうなれば戦わざるを得ない。「こやつは我々人間に刃向かうつもりじゃぞ」「死二三郎、狼藉者である。出番じゃ」「ようし、我々も、究極兵器を使うのだ」 議会の護衛が大声でどなる。回廊にジャーンと音が響く。 廊下の床が割れ、そこから何かが急にが起き上がってきた。それは何と刀を持つ侍ロボットであった。 ドラキュラかおまえはと思う主水。侍ロボットは、かっと眼を開く。「おおう、久しぶりで、わしの出番か。ありがたし」 声はかすれている。あまり、出番などないのであろう。 そのロボットは、ブルーの着物をきて、髪は、後ろは束ね、前は垂らしている。曇った虚無的な眼差しをしている。体の大きさは、主水と同等である。主水の方をゆーるりと見る。「貴公か。人間の命令を聞かぬロボットなど、生きながらえる意味なし、死にそうらえ」 冷たい声音であった。 恐るべき雰囲気がそのロボットから発されている。 死二三郎は刀を構えるが、あることに気付く。「うむ、貴公、東日本のロボザムライか」「そうだといえばどうする」 ニヤリと笑う死二三郎。「ふふう、相手にとって不足なし。お相手されよ」 主水に武器がないことに気付く。「剣には剣でじゃ。剣を取られよ」 そのロボットは、自分がはい出てきた床の下の収蔵庫から剣を取り出し、主水にその剣を投げる。「かたじけない」 主水は、剣を受け取ろうとした。主水に隙が生じている。 そう言った瞬間、相手は動く。「ぐっ」 ごとりと何かがころがった。思わず、主水は右手で切り口を触る。「ひきょうなり」 主水の左腕が見事に切り離されていた。習練の早業である。痛みの感覚が後から、主水を襲ってきた。「ひきょうという言葉は俺にはない。勝負がすべてじゃ。次なる剣は貴公の首か、あるいは右腕か、どちらか決められい。そのように料理してくれよう」 この対峙する死二三郎は主水があったロポザムライの中で、一番の使い手だった。「まて、死二三郎。そやつには聞きたいことがある。死に至らしめるな」 護衛がまわりから遠く離れて叫んでいる。誰も危険なところには近づきたくないのである。 死二三郎は、主水に視線を置きながら、護衛たちの方へ怒鳴っている。「お言葉でございますが、ロボザムライにはロボザムライの義というものがござる。ここは義に免じていただきたい。剣の敵に助けられたとあっては、武士としての面目が潰れ申す。我が手で、このロボザムライ死に際をきれいにいたし申す」「ならぬ、死二三郎。命令である。このロボザムライを助けよ、さがれ」 護衛は呼ばわった。「死二三郎殿とやら、拙者も生き恥をさらしとうはない。どうか一刀のもとに貴殿の手で」と主水はつぶやきながら、チャンスを見ている。こやつには狂人の論理で立ち向かわねば。こやつは剣のことしか考えておらぬロボットだ。「お覚悟されよ、そういえばお名前を聞いておらなんだな。何と申されるのだ」「拙者、早乙女主水。徳川家直参旗本ロボット」「おお、貴殿が噂に高い主水殿か。相手にとって不足はない。さらにお覚悟召されよ」「死二三郎、待て」 護衛全員が叫ぶ。切りかかろうとする死二三郎。 その一瞬、天井から電磁網が死二三郎の体を襲う。電磁網は魚をとらえる投網のようなものである。魚のかわりに、ロボットだ。死二三郎は黒焦げになって倒れる。議会護衛がいいことを聞かぬ死二三郎を処分したのだ。「こやつは狂犬か」 護衛の一人が倒れている死二三郎の体を蹴る。「いいや、狂犬より始末に悪い」「だから申したであろう。気違いに刃物。ロボットに刃物と」 護衛同志の会話である。 左腕を失った主水は、まだ戦う姿勢を見せていた。「ええい、このロボットもからめとれい」 電磁網が天井から降りてくる。 電撃が主水の体を走る。「いかん、わしも魚か」 主水の意識がフェイドアウトした。C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
2005.09.29
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■ロボサムライ駆ける■第3章6&7&8C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/ ■第3章(6) そこにはものものしい雰囲気があった。検問所である。 検問ゲートには装甲車、戦車など重装備の機材がおかれている。誰も通さないぞという意気込みがあたりには、感じられた。 加えて、クラルテという八足型ロボットに乗った、武士姿の西日本の境界警備員がいた。 遠くからクラルテを見て、主水は尋ねる。「なぜ、あの歩行ロボットをクラルテというのだ」「昔の話だけど、あのロボットのプロトタイプには人間用の席がなかったんだって」 小さい声で知恵はささやく。「ほう、それで」「いやー、これは鞍がいるでと製作担当者がいったらしいんだ」「それから、鞍がいるで、↓鞍いるで、↓くらるてと変化した訳か。なるほど」 という、たわいもないシャレを口にする主水に、「まて、あやしい。異形のロボット。この関所を通すことは相成らぬ」 関ヶ原の関所で、武士から主水と知恵は止められる。 ふとこらから、主水は書類をだした。「この証明書を見ていただきたい。拙者、早乙女主水。徳川公国直参旗本ロボット。天下御免のロボザムライでござる」「東日本ではロボザムライとして認めていようとも、この西日本エリアではロボットなど奴隷よ。この天下の公道、ましてやこの関所を通行することは相成らぬ」 役人は強気である。 判でおしたような役人の答えだった。いつの時代でも役人は変わらぬのである。「無体な。拙者はこの証明書にもあるとおり、東日本市民連合に所属する東京エリア霊能師落合レイモン殿の供者として、この西日本エリアにまかりこした」「レイモン殿は先刻お通りになった。護衛ロボットだと、よけいにこの関所、とおすわけにはいかぬ。貴様武器を所持しておろう」 役人の表情が余計に険しくなる。「あたりまえでござろう。刀は侍ロボの命でござる」「それじゃ。それがよけいに困り申す。通すわけにはいかん。西日本エリアでロボットに武器を持たすなど気違いざたじゃ」 もめている関所の役人と主水のところへ、具合よく落合レイモンの籠が戻って来た。 先行していたレイモンは、もめる音声を聞き、後戻りしてきたのだ。籠から顔を出す。「どうしたのじゃ、主水」「これはレイモンさま。今、この役人より、護衛ロボットは入国できないと申されて、困っております」 レイモンが助け舟をだす。「お役人、それではどうであろう、このロボザムライの武器は、私の使い番、夜叉丸が預かるということでお許しくださらぬか」「ははあ、レイモン様がそうおっしゃいますならば」 その役人は納得しかけたが、騒ぎを聞き付けた上役がやってきた。この男がもっと煩い。「落合レイモンさまとて、規定外のことは、できもうさん。この護衛ロボットの剣、我が役所にてあずからさせていただきます」「サムライの命の刀ですぞ」「主水、しかたあるまい。ここはおれてくれい」「しかし……落合様」「まあ……まあ……」 主水は刀を腰にせず、西日本に入ることになった。「何か、腰のものがなくなりますと変でございますなあ」 刀のないサムライロボットは言った。関所を過ぎてしばらくして、原野の国境線にある、ロボットのさらし首の群れにきづく。「これは一体……」「こちら側では普通の光景さ-」 知恵が悲しそうに言う。「むっー」 考え混む主水であった。 一体このような事が許されてよいものであろうか。恐らくこれは足毛布博士もからんでいるのに違いない。ロボットはこの西日本では人間ではなく奴隷なのだ。■第3章(7)「レイモン様、ようやく峠を越えましたぞ」 関所から同道している主水は、最初に駆け上がり、近畿新平野を見渡した。 ここは暗がり峠であった。霊戦争でわずかに残っていた台地である。 「なんと」 思わず主水は叫ぶ。壮観である。 近畿新平野は霊戦争により、様変わりしていた。大阪・京都・奈良・和歌山の山脈は消滅し、フラットな平野となっている。 ボルテックスによるレザー攻撃でここにあった全日本軍の要塞が潰滅していた。 が、主水は驚いたのはそのことではない。大阪湾に異様な物を発見したからだ。 主水の眼が二十倍ズームの態になり、大阪湾上をアップにしていた。ロセンデールの空母ライオンから周囲十キロメートルにわたって電磁バイヤーが張り巡らされている。まるで大阪湾に張り巡らされた『蜘蛛の巣』のようにみえた。「ロセンデールめ。すでに大阪湾を支配下においたとみえる」 レイモンが主水のそばにきて、主水の見たる光景を霊力で盗み見していた。「レイモン様、いったいあやつは……何を狙っているのでありましょうや」「ロセンデールめ、あせっているものとみえる。ライオンの艦橋部分が霊波を送る中心塔なのだ。その霊波探査能力を倍増するために、大阪湾岸の高い建物のすべてに網を張り巡らせたのだ」「西日本都市連合会議も市政庁も、何もクレームをつけないのでしょうか」「恐らくロセンデールのことだ。巧妙な語り口で市政庁をあざむいておるのであろう」「しかし、それでは、我々は飛んで火にいる夏の虫ではありますまいか」「主水よ、それに対する古いことわざがあろうが」「はっ、それは」「わからぬのか、虎穴にいらずんば虎子をえずという奴じゃ。しかしながら、この虎子は大きいぞ。世界の歴史をひっくりかえすほどにな。ほっほっほ」 レイモンはゆったりと笑い飛ばしている。■第3章(8) 主水たちは宿泊所である新京都ホテルへ入った。 この新京都ホテルは、鯱をかたちどった五十階建ての建物になっている。 レイモンの許可を得て、主水は京都市内へ出た。使い番ロボとして知恵を連れている。主水の誕生登録場所は、京都なのであった。 レイモンについてきた主水の目的の一つが、自分の生みの親、足毛布博士に会うことであった。誰も気づいていないのだが、時折主水は病気が出ることがある。この治療について、ぜひとも相談する必要があるのだ。 突然意識が空白になるのだ。足毛布博士なら、この理由を知っているだろう。 この主水の病気は、マリアもびゅんびゅんの鉄も、きずいてはいない。 博士にどのように挨拶してよいものやら、主水は迷っていた。 実はすでに十分以上も、広大な足毛布博士宅前にたたずんでいるのだ。「こんちわー」でもなく、「いやーどうもおひさしぶりですー」てなわけにもいかず。そう軽く言う訳にはいかない。 ともかく、博士が、主水を裏切り者と思っていることはまちがいないのだ。博士の保護から逃げたことは事実だ。 主水自体のメインボディは、実はアメリカNASA製である。対惑星探査用ヒューマノイドであった。 NASA特別ロボイド工学研究所で制作中、足毛布博士が主水をつれて逃げたのだ。ちょうどそのおり、あの霊戦争が始まって、地球上のすべての観念が少しばかりシフトした。 足毛布博士は、NASAのロボットに日本精神を吹き込んでいた。それゆえ、サムライロボットとして。主水が再生され、誕生したわけである。 徳川公国、旗本ロボットに迎え入れられたのにも一悶着があった。 現在でも、足毛布博士は、主水を自分の手にとりもどそうとしている。 主水としては、今、自分の身に起こっている体の不調調整がどうしても必要であった。それも誰にも知られないうちに。どうしても足毛布博士に会う必要がある。意識を高揚するいわゆる強化剤が、あるはずなのだ。 意を決して門の呼鈴を押した。 門にあるポールのモニターがついた。『どちらさまで』 コンピュターグラフックスでかかれたキャラクター顔がロボボイスで答える。「足毛布博士にお取り次ぎいただきたい。拙者早乙女主水と申す者でござる。そういっていただければわかるもうす」『博士はご在宅ではありません』CG顔は愛想なくそう答える。もっともCG顔に愛想を求めても無理な話だ。 おかしい。 主水の第六感がそう告げている。 生物体の反応がないことに主水は気付く。加えて、恐るべき悪気が屋敷に残っている。この悪気は、何だろう。主水と知恵は、屋敷内へ忍び込むことにした。「いくぞ、知恵」「がってんだ-い」 二人は裏手の壁からジャンプした。瞬時、二人の体を電光が包んだ。泥棒避けの機構が作動したのだ。「あいたっ-たー」知恵が叫ぶ。「あいたいのは、わしじゃ、知恵」「違う、違う。か…、体が…あいてて」「そうじゃ、わしはててごにあいたい」「痛い、痛い……。そのシャレに腹もいたい」 何とか着地する。が一難去って…… 突然、声がする。ロボットドーべルマン犬だった。 主水は、飛び込んで来る犬をつかまえる。そして犬のある所を強く押した。瞬時、倒れるドーベルマン。 犬の首にある生命点を圧し、眠らしたのだった。 邸内に入った。 博士の研究屋は荒らされていない。が、何かの想念が残っている。どうやら、足毛布博士は、いずこかにつれさられたらしい。ロセンデールだろうか。が、なぜだ。主水は何かの手掛かりをさがそうとする。「主水のおじさん、何かが落ちてる」「拾い物はお前もだ」「何を言ってるの」 知恵が拾ったものを手に取ってみる。「これは一体、何なの」 知恵が尋ねる。それは六角形のペンタグラムだった。「これはユダヤ教の印だが」 主水は首をひねる。「足毛布博士って、ユダヤ教徒だったの」 知恵が、主水にも思いがけない質問をした。「いや、そんなことはないはずだ。博士は、由緒正しき仏教徒だったはずだ。なみあむだぶつ」 といいながら、片手拝み。が、はたしてという恐れが主水の心の中に芽生えている。 今一番の主水の恐れは、足毛布博士がいないことだ。博士がいなけければ、意識をはつきりさせる強化剤の調合法がわからないのだ。家に来た意味がない。 一体どうすればいいのだ。主水は悩んだ。「この人は誰」 机の上に飾られていた立体写真を知恵は持って来ていた。「お前、泥棒なれしておるのう」「そんなにほめられたら、てれちょうよー」 知恵は頭をかいた。「写真の人は、主水のおじさんじゃないの。そっくりじゃない」 が、主水のはずはない。違っている。服装が霊戦争以前のものだ。その男は、主水と同じ顔をしているが、ロボットではなく、正真証明の人間だった。 主水には写真を撮られた記憶はない。 もし、この男が死人でいないとするならば、足毛布博士の法則に触れる。 足毛布博士の法則『現在生存している人間の顔をコピーしてはいけない』 写真をよくみる。主水の生まれる前の日付が写真に焼きこまれている。が、その写真を主水は見た記憶がないのだ。足毛布博士には、主水と同じ顔をした息子がいたことになる。が、そんな話は聞いていなかった。 早乙女主水の顔は、息子に似せて作られたのだろうか。はたして博士に息子が……。考え込む主水であった。 ロボットの顔は、作り手の好みによって作られているのだ。ある者は自分の昔そっくりに。ある者は死んだ恋人に。 二人は行方をしる手掛かりなく、博士の邸を辞した。(続く)■ロボサムライ駆ける■SF「ロボサムライ駆ける」第3章6&7&8作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
2005.09.24
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■ロボサムライ駆ける■ 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/ ■第三章 霊能師(4&5) ■第三章 霊能師(4) 急ぎ逃げ帰るロボ忍者の一団の前に。 黒い影が立っていた。 「お頭」一団の誰かが叫んでいた。 逃げ来るロボ忍の前に一人の男が立ち塞がっるように。怒っているのた。 全員がおぞけを奮う。 その男の前に立ち止まり、膝を屈する。 やがて、その男がゆっきりと口を開く。 「お前たち、早乙女主水とかいう侍ロボットに負けて、しっぽを巻いて逃げてきよったか」 怒りを含んだ声が、彼らの聴覚器に響く。「お頭、申し訳ございません。あやつ思ったより、強く」 先刻のリーダー格の男がしぶしぶしゃべった。かぶせるように、 「ええい、聞きとうない。主水など、たかが東京城の護衛ロボット。それに比して、我々はロボ忍、伝統ある特殊技能ロボットぞ。よいか、あやつ、今度会いし時、必ずや、血祭りにあげい」 覆面で見えぬが頭と呼ばれた男の怒りは相当のものらしい。 「わかり申した」 全員が口を揃える。 「それでじゃ、ロッカン」 先頭の男に言う。 「はい、お頭」 「おまえは、負けた責任を取れい、死ねや」「おまちください、今一度の機会をあたえてください。今度は……」 「ええい、くだらぬ言い訳など聞きとうないわい」 その男が光りに包まれる。 「ぐえーっ」 ロッカンは倒れていた。 「よいか、みせしめじゃ」 「わ…わかりもうした」 ロボ忍の体が、小刻みに震えている。 残りの全員が恐れていた。声は小さいが、唱和していた。 「ところで、お頭はどちらへ」 ようやく、一人が尋ねた。 「水野さまよりの密命じゃ。依頼されて東京城へな」 「東京城でございますか」 奇異な感じがした。 「そうじゃ、まあ、見ておれ、わしの腕をな。お前たちは、落合レイモンの一行を見張りながら、西日本にかえれ」 ロボ忍者群は、花村とロッカンの死体を残して走り去った。 (頭もむごいのう) これが、彼らの思いであった。 ■第三章 霊能師(5) 東日本と西日本を分けている部分は、関ヶ原である。 霊戦争後、東日本も西日本も地形が変化したが、昔の関ヶ原あたりに電磁ベルトが十メートル幅で、日本を分断していた。 国境ラインに張り巡らされている電磁バリアに加えて、西日本側の前には球形の飾りが数万飾られていた。それが陽光を浴びてにぶく光っている。 その光の元は、東日本へ逃亡をはかったロボットの頭であった。 その霧のかかる国境線に、三人のロボットがこっそりと蠢いていた。 あたりを見回す。 「あんた、大丈夫かい」 幼い子供ロボットを抱いている母親が、父親のロボットに尋ねた。 三人ともぼろぼろの風体である。逃亡ロボットである。 「ここまで、無事にこられたのだ。問題はない」 皆を安心させようと父親は言う。 「でもさ、あのみせしめのロボットの頭ぞろえが不気味だよ」 母親は、死のあぎとである国境境界線を、首を見た。 「何言ってるんだ。いいかい、何度も話し合ったじゃないか。東日本へ入れば、専門職ロボットには、いくらだって仕事があるんだ。いい暮らしができる」 希望の気持ちを込めて、父親は励まそうとした。せっかくここまで来たのだ。これまでの苦労が、彼の頭の中で、目覚ましく思い出されて来る。 「本当だね。そうなれば、この子供も人権を認められるという訳だね」 母親が付け加えて言った。気分を変えようとした。が、 「そうはいかぬが花よ」 上空から、誰かの言葉が聞こえて来る。 「誰だい」 二人はゆっくりと回りを見渡す。声が変わっていた。 「ここは地獄の一丁目よ。よくここまでたどり着いた。誉めてやろう」 三人の前にロボ忍が数名飛び降りて来る。回りを取り囲んでいた。 「逃がしておくれよ。あんたらもロボットじゃないか」 哀れをもよおす言葉である。 「くくっ、同じロボットだから、逃がすことかなわぬ夢としれい」 「お金なら差し上げますよ」 父親は卑屈になっている。 「金なんぞ、何の役に立とう」 「よいか。ロボットの法律。足毛布博士の法則を知っておろう」 「へん、何をいってるんだ。その足毛布だって自分の作ったロボットに逃げられたじゃないか。私ら庶民だって真相を知っているんだよ」 強気になつて母親が言い返した。 「ふふっ、それを知っているなら、なおのこと生かしてはおけないのう」 「止めてくれ」 父親がしゃがみこむ。 「せ、せめて、この子供だけでも……」 母親が泣きをいれる。 「できぬ相談。ロボットの電磁記憶は永久に消えぬ事を知っておろうが」 「やれ」 「あなたら、人間じゃないよ」 つい母親が、やけくそに叫び声をあげていた。生きる望みが断たれたのである。 「そうじゃ。それゆえロボ忍者じゃ」 憎々しげにロボ忍は言い、殺戮の喜びに打ち震える。 三人の回りに一陣のつむじ風が起こった。口をパクパクさせている首が三個残っている。離れたところに胴体がバタバタ動いている。「新しい首の組み合わせ、面白かろう」 「ロボットに対するよき教訓となろう」 「ふははは」 ロボット忍者にとつてこのような事は朝飯前なのだ。 笑い声を残し、ロボ忍たちは去って行った。首だけになったロボットには、まだ命の残滓が宿っている。 「あ……、あんた……、まだ意識があるかい……」 母親のロボットがかすれた声で尋ねる。 「ああ……」 「こ……こんな世の中……、潰れればよいのに……」 「つ……潰れるよ……、絶対にな……」 声がだんだん小さくなって行く。 ロボットの生命液が頭部から少しずつ流れ出て行った。 一陣の風が、彼らの生命を連れ去っていた。 (続く) ■ロボサムライ駆ける■ 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/
2005.09.13
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■ロボサムライ駆ける■ 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http:// www.yamada-kikaku.com/ 第三章 霊能師(2) 出発日がやって来た。 主水は落合レイモンの屋敷に旅装で出向く。予備の品をいれた旅装バックパックである。門前が騒がしい。「何だ、この行列は」「おお、よいところへ来られた、主水殿。我が行列に加わられい」 ざわめく人々の群から夜叉丸が現れ、挨拶する。「夜叉丸様、この行列は」「我がレイモン様の御行列じゃ。このまま復旧しつつある東海道高速道路をくだる」「が、この行列、まるで大名行列ではござらぬか」 というよりもチンドンヤかと、思いが頭をかすめた。「よいか主水殿。今度のこの落合レイモンの西下りは、東日本都市連合の力を見せることにもあるのじゃ。またまた落合レイモンの霊能師としての力を見せつけなければならぬ。その威光を見せつける行列でじゃ。装飾の一部と思ってくれ」 金属でできた機械籠が四つ。加えてそれを抱えて進むカーゴ型送行ロボットが数機。先触れを伝えるスピーカーロボットが四機。レイモンの旗持ちロボット十機。東日本都市連合の各市の旗を持つ旗ロボット二百機。生命液、潤滑油、洗浄液などを運ぶタンク型ロボット二十台。警備隊ロボット三百機などなど。 おまけは振袖チアガールズだった。振袖でありながら、下位置はミニスカートになつている和洋折衷のコスチュームをきた妙齢の三十名の女性群。まるで色物の世界である。 主水はくらくらと、倒れそうだった。さすがにロボットなので倒れはしなかったが。「これでは、私など必要ないのではございませんか」 嫌みを言う。「そうはいかぬ。よいか、主水殿は護衛ロボットとはいえ、徳川公の使い番でもあらせられる。従って、カゴ形バンを用意しておる。どうぞお使い下されい」 夜叉丸は行列の後ろにある、行列よりもっと悪趣味なバンを示した。ゴテゴテした装飾がバンのスタイルをくずしている。「うむ…」 主水は逃げ腰になった。ひらめいた。よーしこれでいこう。断りの文句は。「夜叉丸どの、私はこの籠の回りを警戒いたしましょう」「といわれると」「遊軍でござる……」「主水どの、まさか、我が行列をあざ笑っているのではあるまいな」「いえさようなこと……」 おぬしよく分かってるのじゃないと思う主水。第三章 霊能師(3) 復旧しつつある東海道は中世世界のようになっていてとても静なのだ。 特に早朝は、鳥たちの歌声がハーモニーを奏で、道いく人々の気持ちを和ませるのだが。 今、この東海道は、『いろは組』によって復旧工事が急がれていた。 静寂の中ににぎやかな音がだんだんと近づいてくる。工事中のロボットたちが手を休めた。「あの騒がしい、恥ずかしいご一行は」 工事中の東海道を下る一行を見ていたロボットの一人が尋ねた。「おお、あの昔、騒音条例があったころなら絶対つかまっておる団体か」 わざとらしい説明を付け加えるロボットだった。「知らないのか、霊能師落合レイモン様のご一行じゃ」 もう一人が答える。 いろは組にしきられたはぐれロボットの一群が、道路復興の建築工事を行い、そのエリアの霊写真をとらされていた。霊戦争のおり、なくなった人々の過去の霊をなぐさめるのである。 このあたりは、空中衛星ボルテックスによって滅びた全日本連邦軍の残滓がいまだに発見される所である。にぎやかに打ち騒ぐ一団が通っているのはもとの高速道路である。 近くに森林地帯が広がっていた。霊戦争後の生やした比較的新しい森林である。 この東海道から遠く離れたバイオ林の中から、この一行をのぞきみる四つの眼。突然、うめき声を上げて、その一人が倒れた。「うっ、何ごと」 もう一人が相棒を介抱する。が、事切れている。咄嗟に自分たちが仕掛けた罠が返されたことを知る。「恐るべきよ、レイモン」 残った一人は独りごちた。 二人は西日本都市連合が派遣したロボ忍であった。レイモンの霊力を調べるために、ここまで遣わされていた。 霊写真を盗み取ることで、実力のほどを調べようとしていたが、逆にレイモンの『お霊返し』の術でロボ忍の一人が倒れたのだ。 『霊返し』とは、霊写真への霊力を、送った本人に何倍もの霊力に倍増して返すものである。「おじさんたち、何しているんだい」 その時、背後から、子供ロボットが急に現れていた。作業ロボットらしく、蓬髪で、汚れた小袖姿である。賢そうな顔をしている。というかやんちゃな顔である。靴みがき少年の顔である。ジャリンコちえの顔である。『いろは組』のはんてんを着ている。「何でもない、あっちへいけ」「おじさんが倒れているじゃない、大変だ」 といいつつ、子供はそのおじさんの顔を踏んでいた。「大丈夫ぶーい」 と叫んでいる。「こやつ、騒ぐとためにならぬぞ」「ははっ、わかったぞ。おじさんたち、忍びのロボットだね」「なぜ、わかった」「だ-って、忍者スーツをきているんだもん」 どーっとすべりそうになるロボ忍者。「小僧、我々の姿を見たからには生かしてはおかぬ」「うわっ、やめておくれよ、くれよ」 そのジャリンコちえじゃない、子供ロボットは逃げようとした「まて、まて」 続いて旅装姿の侍ロボットが急に現れ、子供を庇う。「貴様、何やつ」 叫び、身構える忍者ロボット。「待ってました」 子供は叫ぶ。 深編み笠が空中に、まるでフリスビーのように勢いよく飛んでくる。すんでのところでこのロボ忍は、深編み笠から逃れた。それは近くのバイオ樹木に深く突き刺さる。 (こやつできる) そうロボット忍者は読んだ。このフリスビー野郎には、助成を頼んだ方が得策だろう。 後詰めの連中が別にいるのである。「くそっ、皆出て来い」 まわりに急に黒い影が現れる。 西日本都市連合の使い忍び十名。「ただでは帰してくれぬようだな」 フリスビー野郎が言う。「さよう、お代を払ってほしい。じゃない。貴様とそのこわっぱ、証拠が残らぬよう分解し、粉々にしてくれるわ」「それはどうかな。粉々になるのはどちらかなあ」 その男はにっこりとほほ笑んでいる。 一瞬後、侍と子供ロボットのまわりをとりかこむロボ忍。 続いてロボ忍の手から何かが次々と投げられた。手裏剣である。 が、侍ロボットは瞬時刀を抜き、自在に振り回す。手裏剣はすべて足元に落ちていた。刀を動かす速度は目にも止まらなかった。「くっ、我らが頭脳手裏剣を落とすとはただ者ではないのお、お主」 頭脳手裏剣は、小型の電子頭脳を持ち、軌道を計算するいわば小型ロボットである。「今度はこの刀じゃ…」 黒い影が一つ、その男に切りかかる。「まて…」 ロボ忍者のリーダーが止めようとしたが。一瞬遅く、「ぐわっ」 そのロボ忍の体が三つにおろされている。機械油や生命液が噴き出ている。その動きはロボ忍群たちにも見えないのだ。「見たか、聞いたか、さんまい降ろしの剣」「やったね。ピース」「いかん、引け。覚えていろよ。お主、名前を聞いておこう」「名乗るほどではない。が、覚えておくため答えてやろう。拙者、早乙女主水。徳川公国直参旗本ロボット」「貴様が主水か。いずれ会おうぞ」 ロボ忍は、名前を聞いて少し驚いていた。 彼らは一塊になり、姿を消す。「主水のおじさん、助けてくれてありがとう」 子供ロボが擦り寄る。「まあ、よい。危ないことには近づかぬ方がよい。特にこの御時世ではな」「おじさん、お願いがあるんだ。俺をおじさんの使い番にしてくんな」 急に顔を変え擦り寄る子供。「といっても、お前の体は誰かに所属しているだろう」「いや、所属していないーよ」 子供は軽々しく喋る。「みてごらん。その証拠さ」 子供は自分の右肩を見せた。右肩にあるはずの登録番号が削り取られている。「登録番号がないのか。お前、はぐれロボットか」「ああそうさ、土木建設専用事業団『いろは組』に捕まって、この有り様さ。今この東海道復旧工事に使われているのさ。どうせ、俺が消えたって、わかりゃしないさ」「そういうことなら、人助け。いやロボット助けかもしれんのお。ついてくるがよい。小僧」 かねてから、いろは組のやり方には不満を持っていた主水である。「俺は、小僧ではない。細工師の知恵ってんだい」「よしよし、わかった、知恵。こちらへ」 レイモンの一行から少し離れて歩いているいわゆる遊軍の主水だった。主水はゆっくりと木陰から騒がしい一群を、のぞき見た。「ははん、おじさん、あの行列と一緒にいたくなかったね」 図星である。「いや、その、ちょっと、不都合があってな」「不都合って何なのさ」するどく尋ねる知恵。 どぎまぎする主水「まあ、よいではないか」「ふーん、まあよいことにしておこう」 知恵にかるくいなされている。(続く)■ロボサムライ駆ける■ 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http:// www.yamada-kikaku.com/
2005.09.08
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■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http:// www.yamada-kikaku.com/ ■第三章 霊能師 (1) 落合レイモン、現存する霊能師の中では、最高クラスといわれている。彼の霊治療をうけるための人々で、屋敷の前に列ができていた。 彼の屋敷、いや御殿と言った方がいいだろう。そこには桂離宮をまねた豪奢な造りの日本家屋と、古来の神宮建築をベースにしたあたらしい神宮建築である。 その二つの建物を左右に配した山水画を思わせる日本庭園が広がっていた。この建物及び敷地は、すべて東日本の政財界の大物からの寄付金によってなりたっているといわれている。 下手をすると、徳川公の東京城よりも金がかかっているのではないかと、噂されていた。その門前に主水は立っていた。 特別な出入り口から、主水は座敷に通される。「お待ちください、主水殿。レイモン様は薬浴の時間なのじゃ。しばらくお待ちいただきたい」 レイモンの使い番のものが答えた。「薬浴と申しますと」「わからぬか。レイモン様は、種々の薬を混ぜた、プールの中で泳いでおられるのじゃ。そうすれば体の節々から薬が体に回り、気持ちがよいと申されてのう」「それは毎日でござりますか」「いや、毎日三回じゃ」 やがて、主水の前に、くずれかけた巨体を揺さぶるように、四十才くらいの男が現れる。ブヨブヨの体からは湯気が上がっていた。強烈な薬の匂いが主水の鼻に届いていた。成分は主水に分析できないくらいに多い。薄い浴衣着に羽織りを着ていて、体がすいてみえる。目や鼻はあるかないかくらいだ。未熟児だったといううわさもある落合レイモンだった。そのため、顔の表情がとても読み取りにくい。 背後には敏捷そうな若い男が一人。その男は二〇才くらいで、総髪できれいな錦羽織りをきていた。こちらは書き上げたように目鼻だちがはつきりしている。少し暗いが美男子の類いに入るだろう。一九〇センチはあるだろう。「ロボザムライ、早乙女主水めにございます。今度、徳川公より、落合レイモン様上京の旅に随行せよと命があり、ご挨拶にあがりました。以後お見知りおきを」 主水は丁寧に挨拶をする。「ほほう、貴公が、今東京エリアで噂のロボザムライ主水か。力強い味方を、公もつけてくれたものじゃ。おお、そうじゃ、紹介しておこう。これは俺の小姓、夜叉丸じゃ。以後よろしく頼むぞ」 落合レイモンはその体に拘わらず甲高い女性のような声だった。 レイモンは体を動かすたび、じゃりじゃりと音がする。主水がよく見ると、何十本ものコードがレイモンの背中に張り付いている。「レイモン様、失礼とは存じますが、そのコードは一体」「ああ、これかの」 レイモンは気軽にその質問に答えようとした。「無礼者め。レイモンさまを何と心得おる」 夜叉丸が表情を激変して怒り、背中の鉾を抜こうとする。「よいよい、夜叉丸。わざわざ徳川公が遣わしてくれた護衛ロボットじゃ。すべてをお教えしておかねばのう、主水」 ゆったりとレイモンは言う。「ははっ、できますれば」「私の体は、常時薬を注入しておかねばならぬのよ。大義じゃがのう」 言いながら、レイモンは薄い羽織りを脱ぐ。何と二人分の大きさと思っていたレイモンの体は、半分にも満たぬ。残りはいろいろな液胞が組合わされた水槽が幾重にも重なって、レイモンの背中に張り付いていた。「さて、主水」 レイモンは、霊能師の特徴である頭の真ん中のこぶを、主水の方に近づけ、右手を差し出していた。「手を貸してたもれ」 レイモンはくぐもって言った。「何をおっしゃいます。おそれおおうございます」 こいつは、ホモかと主水は思った。いやなこったと思った。「手を貸せともうしておるのじゃ、はようせい」 レイモンはいらだっていた。 レイモンの方に、主水の右手が勝手に動いていく。「うわっ、どうしたことだ。手が…」レイモンの手に主水の右手がくっついてはなれない。「何をなさいます、レイモン様」 恐るべき力が主水の腕に加わってくる。電流が二人の間に流れている。「さすがロボザムライ、記憶が電磁処理だけに読み取りやすいわ。ふふん」主水の持つ電脳情報が手を通じて流れていく。「お、おやめください」 あがらう主水。が、手を離すことはできない。 主水の体にレイモンの体から発せられた電流が走っていた。微弱ではあるが、主水の体のメインコンピューターが出力低下を起こしている。自らの命令のまま、動かないのだ。 ロボザムライの頭脳記憶の中に、レイモンの何かが侵入してきた。ロボの記憶データは膨大過ぎる。レイモンのそれは必要な情報を、主水の記憶の森から奪い取るようであった。「くくっ、徳川公もくせ者よな」 一瞬、空白が主水の頭を襲う。レイモンの前に倒れている主水に、「気を失いよったか、この機械人形。やくたいもない。わしの護衛としては、どのようなものかのう、夜叉丸」「レイモン様、こやつはやはり力仕事に」 夜叉丸が尋ねた。「そうじゃな、へんに情報を与えると我々の仕事の邪魔をするやもしれん」「ところで、御前、また、お薬の時間でござる」 夜叉丸がいった。夜叉丸はレイモンの薬飲のタイムテーブルを持っているのだ。後ろには薬品が詰まった収納庫が控えている。前の主水より、薬の方が大事だった。「うーむ、この時間はどの薬じゃったかの」 金庫の棚の薬をかき回すレイモンであった。ふと、夜叉丸の方を振り返り、「よいか、夜叉丸。やつがれの薬、忘れず西日本に持って行くのだぞ。薬は生命の源じゃからのう」 レイモンの最大の関心事は、薬である。「承知しております。で、御前。この主水なるロボットの処置は」「主に任せる。とりあえず帰してやれ。気を失ったことなど、忘れておるであろう。そう電脳の処理はしてある」「ふっふっふっ」 軽く含み笑いをするレイモンであった。 ◆ 何とか旗本公国マンションにたどり着いた主水は、確かに、落合レイモンの家での事を忘れていた。「旦那、どうでしたい。お上の御用は」 家にはすでに、鉄が上がりこんでいた。「うむ、ご壮健であられた。しかし、鉄、おまえも良く宅にくるのう。まったく」「よろしいじゃござんせんか。姐さんもよろこんでいることですし」「どなたが喜んでいるんですか、鉄さん、あなた……」「へい、何でござんしょ」「感情のラインが、いかれているのじゃないのかしら。一度ドクターにチェックしてもらいなさいませ」「そりゃ、姐さん。ないですよ。私がいるおかげで、早乙女家にいつも笑顔がたえないってものでしょ。ねえ旦那」「旦那じゃねえや。用がすんだら早く帰れ」「そう、邪険にしちゃ、いけあせんぜ。そいでお上の御用向は」「しばらく、東京を留守にいたす」「どこかにご出張ですか」「西日本に下向いたす」「西日本ですって、そりゃ大変だ。旦那、まさかロボット奴隷になりにいくんじゃ」「ばかもの、なぜわざわざ私が奴隷にならねばならんのだ」「いや、どれいでもすきにしてとか」「鉄。ばかもの。貴様が奴隷になれい」「でも、あなた、京都では、足毛布博士にお会いになるのでございましょう」マリアが話しの話題を変えた。「その足毛布博士よな……」 いいながらマンションから東京の風景をみる主水であった。どうしょうかなと思い悩んでいるのである。生みの親である足毛布博士の顔が夜空に浮かんだ。「ちちうえ……」思わず叫んでいた。なぜちちうえという言葉が口から飛びだしたのか。主水は自分でも不思議に思った。(続く)■ロボサムライ駆ける■作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http:// www.yamada-kikaku.com/
2005.09.06
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■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/(1)承前「あれ、旦那、そんなこといって、あとでマリアねえ さんが怒ったってしりあせんぜ」 主水は鉄の言葉を無視してしゃべる。 「これからの道行きだともうしたな。私がどこかへで かけるというのか。また、そのことなぜ、知っている 」 「これはしもうたわ。貴様、まだ、聞いてはおらなん だか」 サイ魚法師は、顔をくしゃっとした表情にして、自 分の頭をつるりとなでた。 さては…、主水は思いつくことがあった。 「さては、法師、ロセンデールに雇われたか。貴様日本人であ りながら、外国人に魂を売ったか」 どうやら、当たりらしい。サイ魚法師が答える。 「ふふん、主水、何をアナクロニズムな言葉を吐くん だ、お主はいまごろ国籍にとらわれることなどあるま い。だいたい、ロボットに魂などないわ。お前はロボ ットだ。どうあがいたところで、日本人になることな どできまい。お前自身が日本人というよりも、徳川公 国の使い番だからな。主水、そろそろとどめをさして あげようぞ」 サイ魚法師が、潜水艦のブリッジから身を乗り出し て怒鳴っていた。 「鉄、マリアをたのむ」 「だんな、どこへ」 「ちょっと一仕事だ」 軽く言う。 「主水、大丈夫ですか」 「マリア、心配無用」 主水は、愛剣ムラマサを上段に構える。 その瞬間、再びサイボーグ魚が、主水めがけて、水 面から発進した。そのとき、主水は上空へ跳躍する。 わずか数センチしたの足元を、サイ魚の大群が飛び 過ぎる。 そのサイ魚の群れを、板を踏むのように足で踏み付 け、飛び石のように潜水艦になだれ込む主水だった。 人間の目にとまらない技。さすが徳川公直属旗本ロ ボザムライである。ブリッジに主水はいた。刀を構え る。 「サイ魚法師、かくご」 驚くサイ魚法師。 「まて、主水」 サイ魚法師はもう逃げ場がない。 名刀ムラマサが潜水艦「越月(えっきょう)」の艦 橋を切り抜く。音立てて、船橋の右肩が少しずつ倒れ ていく。その切片がずぶずぶと海中に沈む。 「うわっ、やめんか、主水」 サイ魚法師は、船橋内部の階段を転がり降りる。 「おしい」 にやりと笑う主水。まだだいぶ余裕がある。 ムラマサは、すでに艦橋上四分の一を切り離してい た。 「さすが、殿から拝諒いたした刀ムラマサ。すごい切 れ味じゃ」 逃げ出そうとする潜水艦。 「逃げるな、法師」 続いて艦橋から外側に飛び降りながら、船体横に着 地するまで、主水はムラマサを数百回横に払い続ける。 次々、艦橋金属部分がササラカマボコのように切り 離されていく。 「やめろ、主水」法師は泣き声をあげる。 「降参する。後生だ、やめてくれ」 「ならぬ、攻撃を仕掛けたのはお前だろう。この潜水 艦、切り刻み、東京湾のサイ魚のエサにしてくれるわ 」 「みな逃げろ。主水め。やりよった。一人でこの潜水 艦を切り刻むつもりだ」 サイ魚法師が、潜水艦の乗員に警告を与えていた。 まさにクモの子を散らすようにハッチから乗組員が飛 び出して来る。 遠く川船の上で、主水の様子を見ているマリアと鉄 がしゃべっていた。 「大丈夫ですかね」 「どちらが、主水、それともサイ魚法師さん?」 「ねえさんも人が悪いや。サイ魚法師に決まっている じゃありませんか。だんなも刀を使い始めると見境が ないからなあ。キジルシだからなあ」 腕組みをして観戦している鉄が言う。 「ふふん、あたしもそう思います。サイ魚法師も時期 を選ばなきゃいけませんよね」 「じゃなにですかい。だんなは今…」 「そうです。あの方は、いま気分が一番悪い時期なの です」 ロボットにもバイオリニズムがあるのである。 サイ魚法師と逃げ出した潜水艦の乗組員は、ゴムボ ートをサイ魚の大群に引かせて逃げて行く。 「あーあ、やっとあいつら、逃げよった。」 主水は 泳ぎ、帰って来る。 「それで、鉄、どんな用だ」 一仕事を終えた主水が、舟に戻ってきて尋ねる。 「そうだ、いけねえ、お上(かみ)がお呼びですぜ」 急に鉄は思い出した。 「何、殿がお呼びだと、早くそれをいわんか」 今度はも主水が大慌てである。何しろ、主君徳川公のお呼 びなのである。 (2) 新東京で新しく建てられたランドマークがある。東京城はその一つである。 東京城城中。最上階、主上の間、広々とした六四畳の広さである。主水は正装をして、徳川公の前に畏まっている。 第二五代徳川公、徳川公廣。六七才。公家のような温和な顔をしているが、歴代の徳川公の中で切れ者と言われている。この徳川公でなければ、東京島はできなかったろう。クールな頭脳が売り物である。特別製の絹の着物を羽織っている。徳川家康そっくりの顔をしていたが、これはどうも整形ではないかという町の噂である。 この東京島の五分の一を占めるのが東京城である。 一〇層だての建築物はバイオ木材で作られている。このバイオ木材は特別製で季節、天候によって建物自体の色彩が変化し、変幻自在だ。現在では、東京の観光名物になっており、一部分は、観光客に解放されている。最上階は関東新平野を見渡せる展望オフィス。ここが主上の間である。 徳川公はビジネスマンとしても優秀で、バイオ植物産業、サイボーグ魚養殖、観光事業などいろんな方面に手をだしていた。「まずは一服、どうじゃ主水」 二人の間に茶道具が並べられている。この時期でも一緒に茶を飲むというのが心を開いているという証拠になっていた。人間の徳川公とロボットの主水が同じ茶を飲む。「これは殿、恐悦至極に存じます」「これは、私が作り上げた茶じゃ」「う、うまい。乙な味。はて、この銘柄は何でござりますか」「機械茶二八号鉄人じゃ。どうじゃ主水、味は。日本精神がよ~く馴染んでおろうが」「ははっ、なにか夜の空を見ると、ガオーッとほえたくなります」 この機械茶の栽培も、徳川公は手掛けていた。新静岡に広大な茶畑を持っているという。ロボット用の茶であるが、人間も飲める。ロボットは、この茶を飲むことで落ち着くことができるのだった。ICに微妙に影響を与えるらしい。「ははっ、五体臓腑に日本精神が染み入りましてございます。で、殿、今度の御用の向きは」 しっとりとした茶が、主水の体の細部に染み渡って行く。「そうじゃ、その珍しい茶を飲ましたのは他でもない。お前に、西日本へ下ってほしいのじゃ」 クールな顔で徳川公は命令する。「と、申しますと、何やらよからぬ企みが、またぞろ首をもたげてまいりましたか」「ロセンデール卿を知っておるか」「ははぁ、ヨーロッパで会っております…」主水は言葉を濁した。これはこの茶のせいではない。すくなからぬ因縁が、二人の間にあるのだ。むろん、それは徳川公も承知のことだ。 「あやつが、どうやら、日本を狙っておる。卿の自家用空母『ライオン』が、世界一周を計画し、今は『大阪港』に停泊しておる」「大阪ですと。では西日本で何か活動を……」「あやつらは、大阪に機械城なる前進基地を建設しよったのじゃ」「で、そやつらの狙いは、おそらく…」 主水はロセンデールの狙いに気付く。主水の眉が吊り上がっていた。その表情に徳川公はきずく。「余もそう思う。奴らの狙いは京都にのぼり、日本の心柱(しんばしら)を発見し、この日本を領土にしたいと考えておるのじゃ。西日本に走れ、主水」「は、いますぐにでも」 走る姿勢を取る主水である。昔なつかしいエイトマン姿勢であった。BGMが聞こえてくるようだった。「慌てるな、主水。ところで、貴公、その姿勢は何じゃ」「はっ、わからないのですが、走れといわれますと、ついこの恰好をとります」 過去のロボットの記憶がICに詰め込まれているらしい。「まあ、走れと申しても、本当に走らぬでもよい。西日本で一週間後、都市連合会議が開かれる。そこに東日本エリア代表としての霊能師『落合レイモン』が遣わされる。この『レイモン』の使いとして紛れ込め。ともかくあのちでは、ロボットは、奴隷じゃからのう」しばらくして徳川公はつけつわえた。「そうじゃ、足毛布博士に会ってきたらどうじゃ」 ぐっと睨む徳川公。「おかみ、それは、どうも」 続く言葉が主水を驚かせる。「いや、どうも足毛布博士、ロセンデールと結びついているやもしれん」「まさか、そのような可能性が…」 呆然とする主水。「残念じゃが、可能性はある」 徳川公は、東日本都市連合の副議長を努めている。この議会で落合レイモンの派遣が決まっていた。また、西日本の動きにも、目をつけている。東日本と西日本はいわば微妙な敵対関係にある。「レイモンと申しますと、あの薬(やく)づけのレイモンでございますか」 突然に出て来た名前に心を動かされた。「そうじゃ、いかに薬づけであろうと、レイモンが東日本エリアでは、最大の霊能師であることは間違いあるまい」「それはたしかに……」 『薬づけ』の意味は、落合レイモンはもともと体が丈夫ではなかったらしい。幼いころレンモンは、生体防護チューブにいた時、何かの霊に取り付かれて霊能師となった。体を保つために一日に百種類の薬品が必要と言われている。「主水、お前はこのあと、落合レイモンのところへ行き、今度の主なる目的を尋ねよ」「それでは、御主上も今回のレイモン様の旅の目的をはっきりとは」「わからぬ。落合レイモンは、東日本都市連合では顔が効く。それゆえの派遣じゃ。が、お前も存じておろうが、余は霊能師をこころよく思ってはおらん。が、あやつらの助けがなければ、この日本を救うことなど不可能じゃ」「一体、いつの時代から、あやつら、霊能師が力を持つようになったのでしょうか」「余が父君より聴いたところによると、やはりあの霊戦争のあとと聴いておる」 霊戦争後、霊能師がこの世界で大きな役割をしめるようになつたのは、彼らが非生物、生物をとわず、その物体の『声』を聞けるからだとされている。あちこちにしゃべる霊が数多く出現している世界なのである。徳川公は急に話題を変えた。「それで、病気はどうじゃ」「えっ、なぜ、お上がそれを……」 突然の質問に、主水はあわてた。が、それは主水の勘違いであった。「何をいっておる。マリアの例の病気のことではないか。ほら、あの姉のパーソナリティがでるのではないかと尋ねておるのじゃ」「さようでございますか。拙者てっきり……」 安心する主水。「何か、お前、病気なのか」 不審な顔で主水の顔をのぞき込む徳川公である。「いえ、まさか、そのようなこと、この私に」 心の中で冷や汗がでる主水である。本当は、主水には最近ある病状がでていた。その表情に気付かず徳川公は、「それならよいが。まあマリアにも気をつけてあげよ。ともかくたったひとりの姉がのう……」 その姉がロセンデールと深い関係にあるとは、徳川公は知らなかった。 主水は東京城を辞した。■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/
2005.09.02
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■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿) 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/ ■第二章 新東京 (1) 東京湾は、この日「日本晴れ」と呼ばれる晴天であ った。湾のまわりには、かつて存在した東京工業地帯 は跡形もない。かわりに緑豊かな植物群で覆われてい る。 湾の中央に島がある。第二首都都心として形成され た、この東京島は現在徳川公国の領土となっている。 公国の中心には東京城が建築されていた。 西を遠望するに富士がきれいに見える。霊戦争後、 急激に復興した自然界は、日本を中世世界とわせるほ どその景観を変えていた。また、人々のライフスタイ ルも変化していて、それは、政治体制を変化させ、霊 戦争後の世界は民族主義の動きに覆われていた。 古代の民族古来の習俗に戻ろうという心の動きが顕 著になっていた。現在の世界は機械文明と自然が調和 した民族主義世界となっている。東京島を巡る運河エ リアは、真昼の太陽を照り返している。運河面に魚が 動き、跳ね上がる。東京湾も浄化され、魚の遊弋する 場所となったのである。 その東京湾に、水面に釣り糸を垂れた川船が、一隻 のんびりとたゆとうていた。 「世が世なら、大名にもなれたものを」 川船の中で男が一人寝そべっている。 太陽に向かって主水(もんど)は唸っていた。早乙 女主水(さおとめもんど)。今日は着流しをきてくつ ろいでいる。刀の大小は床の間にかけてある。無論、 日本の武士のように髪はゆうている。京人形のような 顔をしていた。といいたいが、すこしばかり、体重オ ーバーの顔だった。はれぼったい顔だった。アンパン マンみたいな顔だった。 つまり、その顔だけ目立っていてごつかった。 が、一重の目には、意志の強いきりりとした眼差し がある。ロボットでも何か救いがあるものである。 「だめですよ、あなたはね、人間じゃないのですから 」 そばに同じように寝そべるマリアが言う。寝ている といってもHしていたわけではない。 「どこまでいってもね、ただのロボザムライなのですよ」 先程の「大名に」に対する答えだった。 きれいな音声でシニカルに男の夢を履き捨てる女だ った。これは人間もロボットも変わらないようだ。 彼女の名は、マリア=リキュール=リヒテンシュタイン。 緑の眼をしてハシバミ色の髪を、今日は、日本髪に ゆうていた。そして留め袖の和服を流麗に着こなして いた。が時には、ヨーロッパの貴夫人の姿形を取ると きもある。こちらは典型的なアンチックドールの顔だ 。なにしろヨーロッパの貴族ロボットなのだから。 ときおり、言われるのだが、マリアは美意識がおか しいのではないか、ゲテモノ趣味ではないか。目がお かしいのではないか、という評判である。 というのは、天下ひろしといえども、これほど似合 わないカップルもめずらしいのである。 この間など、新東京の盛り場を、二人が歩いている とこう言われたのである。 「へええ、かわいそうにね、あの奥さん」 「そうよね、きっと何かあるのだわ」 ともかく、主水が、ゲルマン留学のおり、連れて帰 って来た女性ロボである。 主水には、額に切り傷がある。これは、ゲルマンのハイデルベルグで、マリアを巡っての決闘のおり、切 り込まれたものだ。相手はザムザ=ビスマルク。名前 からもわかるとおり、あのビスマルクの子孫につなが るロボットである。 ともかくも二人は神聖ゲルマン帝国で出会い、いま ここにいるのである。 ゆったりとした風が川船を通り過ぎて行く。二人は 思い出に耽っているのである。 思い出にふける二人のもとへ騒音が駆け込んできた。 川舟に埠頭から、クレーンが懸かる。 「だんな、だんな」 クレーンの上をかける音が、本人よりさきにきた。 おまけに履いていた鉄ゲタが先に飛んで来た。主水の 頭にコチンと命中する。 「こらっ、鉄」 鉄ゲタを避けられなかった主水は自分にも怒ってい る。 「あらっ、これりゃあ、すみません。だんな、そんな にのんびり釣りをしている時じゃありませんぜ」 いなせな江戸時代の町人姿のその男は、人工汗を吹 き出していた。特殊手ぬぐいで汗を拭く。そして、絞 り上げた。船の床は水浸しだ。 「鉄、まあ、落ち着け。魚が逃げる」 「これが落ち着いていられますかってんだー。ラブ・ ミー・テンダー」 と大慌てである。 「何事なのだ、鉄」 たたずまいを整えて、もんどは尋ねた。 「それがね、だんな、えっー…と…。あれ、いけねえ 、慌て過ぎて忘れちまった。ちょっと、まっておくん なせえよ」 この男、びゅんびゅんの鉄。性格を一言でいうと、 慌て者である。主水のために働いている。いわゆる情 報収集者だ。考え込む鉄の眼に先刻から垂れている主 水の釣り糸が眼に入る。 「それより、だんな、引いてますぜ」 「何だと、それを早くいわんか」 ところがこの魚がくせ者である。 主水の竿をぐっとひっぱる。かなりの力だ。普通の 魚ではない。大物である。慌てて主水、 「おい、マリア、鉄、わしの体をもってくれ。水にひっぱりこまれそうだ」 「魚を放しなさいませ。そのほうが簡単じゃございま せん」 「そうでさあ、だんな、そのほうが早いや」 「な、何を言う。この竿は徳川公からいただいた由緒ある竿… 」 と言ってる間に竿から勢いがすっと抜ける。 今度は魚の方が飛び上がってくる。口を切っ先のようにと がらせて、主水の体を狙ってきた。といってもキスを 求めているのではない。かみ砕こうというのだ。 「あぶない。ノーキッス」 体を伏せる主水。その上を魚が飛び去る。 「えーっ、ありゃ、あの魚はきすじゃありませんぜ。でも旦那 もすきがないなあ」 その状態でも、ダシャレを忘れない鉄である。 魚はまるでロケットだ。船を飛び出して再び水の中へ。 「あの魚、ひょっとして」 主水が疑いの眼差しでいう。 「何だってんですかい」 キョトンとして鉄。 「サイボーグ魚」マリアがつぶやいた。 サイボーグ魚は、霊戦争後、出現した新しいタイプ のロボット魚類だ。非常に頭がよく、攻撃性も抜群で ある。各国とも攻撃兵器として開発しているのだ。 「そうだ、すると…、いかん。危ない」 主水は両肩で二人を床へねじ伏せた。水が白いしぶ きを上げる。一瞬の後、船の両舷から一斉に魚の大群 が飛び上がり、船を襲った。 スタスタスタと音を立てて、魚が何匹か体に突き刺さる。残りは交差し、海中へ。二三匹、鉄の目の前に刺さる。 「うわっ」 鉄は叫ぶ。 「大丈夫か、鉄」 「ちょっとかすったくらいでさあ。おめいら、交通信号をまもらんかい」 急に強気になった鉄が言う。 「マリア、ムラマサを取ってくれ」 主水の愛剣ムラマサがすらりと引きぬかれる。太陽 をうけて、りゅうと光る。 「よし、次の攻撃だな」 ムラマサを抜き放ち、構える。 再び、魚が、今度は、船の前後から襲い掛かってき た。 瞬間、主水の刀が走った。人間の眼にもとまらない 。サイボーグ魚のなますが船のうえに山積みとなる。 主水の動きと魚の流れが交差し、すさまじい光と音と があたりを覆った。 「さすがは、だんなだぜ」 サイボーグ魚のなますをつつきながら鉄は言う。 「鉄、これをあてにして、一献、ロボット酒でも」 「主水、おいしそうなお話しですけれど、前をご覧に なった方が」 続いて、巨大な水泡が目の前に近づいてきている。 「ひょっとして…」 主水の人工皮膚の顔色が変わっていた。 「何か、心当たりでもあるんですか」 「このような水泡に帰す企てをくわだてる者、これは ……」 目玉が飛び出しそうである。 その時、海面から二十メートルはある、その巨大な 魚が浮かび上がる。それを見てのけ反る主水。 「うおっ」 「旦那、あっしはぎょっとしたねえ」 小ぶりなシャレで応酬する二人。 そいつは魚に見えたが、背鰭のところが開く。中か ら、坊主頭で紺の作務着を着た三十がらみの男が出て 来て、腕組みをする。 「さすがは主水、サイ魚を切り刻んだか」 男は無念そうに船上の主水を睨む。 サイボーグ魚。略してサイ魚である。 「サイ魚法師、久しぶりだなあ。お前が絡んでいるの か」 主水がキッと男を睨んでいた。 「ふふん、主水、ほんの挨拶がわりだ」 サイ魚法師は、頭をずるっと撫でて、主水を見返し た。 「挨拶ありがたくちょうだいいたす。が、法師、それ だけであらわれてきたのではあるまい」 主水、ムラマサは構えたままだ。 「そうだ。これからの道行で、いずれ雌雄を決しなけ ればならんからな。また、そこなお内儀にも挨拶がて らだ。外国ロボットとはいえ、なかなか見目麗しい女 性ではないか」 サイ魚法師は、こころなしか、うらやましそうな顔 をした。 「あら、どうもありがとうございます、サイ魚法師さ んとやら」 マリアがやんわり受け流した。 「このやろう、おべんちゃらをいいやがって。俺もい いいたいじゃないか」 鉄は着物の袖をまくりあげていた。どうやら興奮し ている。 「あら、鉄さん、その言葉はどういう意味ですか」 「いや、姉さん、そう悪くとっちゃいけあせんぜ。た んなるお世辞だい」 鉄はマリアに睨まれ、真っ赤な顔をした。 「お世辞はよしてくれ、法師」 「あら、あなたなにをおっしゃるの。せっかく、サイ 魚法師さんが、あたくしを誉めてくれたんじゃありま せんか」 「だまっておれ、これは男どうしの話しあいだ」 ムッとする主水。 ■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿) 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/
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