フリーページ
金匱要略講義:胸痺心痛短氣病脈証治 第九
南洲會 解釈・解説資料
第一条:胸痺心痛短氣の基本病理
【原文・読み】
■
条文
第一条
師曰、夫脈當取太過不及。陽微即胸痺動痛。所以然者、責其極虚也。今陽虚知在上焦、所以胸痺心痛者、以其陰弦故也。
【読み】師の曰く、それ脈は太過不及に取るべし。陽微なれば、即ち胸痺し連りて痛む。然る所以の者はその極虚を責めるなり。今陽虚の上焦に在るを知る。胸痺心痛する所以の者はその陰弦なる以ての故なり。
【現代語訳・現代解釈】
脈診においては「太過(浮きが強い)」と「不及(沈みが軽い)」の偏りに注意しなければならない。脈が非常に微弱で(陽微)、陰脈が弦(弦脈:琴の弦のように張っている)を示している場合、胸が痺れて痛みが連動して起こる。
その理由は、上焦における陽気の極度な虚(陽虚)にある。上焦の陽気が虚しているところに、陰寒(冷え・血行障害)が脈弦として顕現するため、胸痺心痛を引き起こすのである。
【詳細解説・備考】
■
講義ノート・ポイント
・胸痺病(きょうひびょう):胸中の陽気(熱気)が衰え、血行障害(血の巡りの悪化)が生じることで起こる胸部の病。特に夜間に症状が激しくなる特徴がある。
・太過と不及:太過は行き過ぎ(浮)、不及は至らないこと(沈)。軽く押して微か、強く押して弦である状態。
・陽微(上焦の陽虚):胸中における熱気・気が不足し、冷えが存在することを示す。
・陰弦(血行障害):胸における血不足・血流不全、および脈管そのものの拘急を示す。
・病態のまとめ:気・血ともに不足すると胸痺となり、心痛や短気(息切れ)を起こす。陽気が弱まる夜間に増悪する。
第二条:平人の短気と実証の鑑別
【原文・読み】
■
条文
第二条
平人無寒熱、短氣不足以息者、實也。
【読み】平人、寒熱なく短氣し以て息するに足らざる者は実なり。
【現代語訳・現代解釈】
普段病気のない人(平人)で、悪寒や発熱がないにもかかわらず、呼吸が荒く息切れして満足に息ができない者は、内部に「実(つまり・滞り)」が存在するためであり、虚寒による胸痺の病とは区別される。
【詳細解説・備考】
■
講義ノート・ポイント
・平人:特別な疾患のない普通の人。
・短気不足以息:息切れがして十分に深く息が吸えない・吐けない状態。
・実也:胸中あるいは下腹部等に滞留・つかえ(水飲、熱結、積滞など)があることを指す。
・鑑別のポイント:短気は陽虚・虚寒の人にも多く現れるが、裏実(実熱や水飲の滞り)によっても現れる。本条文は虚症の胸痺と実症の短気を鑑別するための指示である。
第三条:括樓薤白白酒湯(か楼薤白白酒湯)
【原文・読み】
■
条文
第三条
胸痺之病、喘息頭痛、短氣、寸口脈沈而遲、關上小緊數、括樓薤白白酒湯主之。
【読み】胸痺の病、喘息し、胸痛みて短気し、寸口の脈沈にして遅、関上小緊にして数なれば、括樓薤白白酒湯これを主どる。
【処方構成・方解】
| 生薬名 |
性味・分量 |
薬効・役割 |
|---|---|---|
| 括樓実(カロンジツ) |
苦・寒( 5g ) |
胸脇部の熱を除き、燥を潤し気を順して気血の通行を滑らかにし、痛みを去る。 |
| 薤白(ガイハク) |
辛・温( 8g ) |
陽気を増し、滞った気を散じ、胸中の寒気を温めて胸痺の痛みを治す。 |
| 白酒(ハクシュ) |
甘・温(適量) |
血行を穏やかに促進し、薬力を胸部全体に行き渡らせる。( ※ 清酒を 2/3 に薄めて代用) |
【病態・脈診の解説】
■
病理考察
・寸口脈(沈・遅):上焦(胸部)の気が虚して寒があることを示す。胸中の陽気が寒に圧迫されて痛む。
・関上脈(小・緊・数):中焦(脾胃)の状態を示す。小は気血不足、緊は寒、数は虚。中焦が虚寒で気血を十分に生成できず、上焦が虚寒になる根本原因が中焦にあることを示している。
第四条:括樓薤白半夏湯(か楼薤白半夏湯)
【原文・読み】
■
条文
第四条
胸痺不得臥、心痛徹背者、括樓薤白半夏湯主之。
【読み】胸痺臥するを得ず、心痛背に徹する者、括樓薤白半夏湯これを主どる。
【処方構成】
括樓実 5g / 薤白 3g ( ※ 減量) / 半夏 5g (辛平:気を補い水気を去る、嘔吐・胸中不快を治す) / 白酒 400ml
【小陷胸湯との相違比較】
| 処方名 |
構成生薬 |
病態と治療目的 |
|---|---|---|
| 小陷胸湯 |
括樓実・黄連・半夏 |
胸中に熱がこもる「結胸」。黄連・括樓実でこもった熱を清解し、気血の巡りをよくする。 |
| 括樓薤白半夏湯 |
括樓実・薤白・半夏・白酒 |
胸中の「虚寒・水飲」。温剤で肺・胸部を温め、水気(痰飲)を取り除いて血流を改善する。 |
第五条:枳實薤白桂枝湯・人参湯
【原文・読み】
■
条文
第五条
胸痺心中痞、留氣在胸、胸滿、脇下逆搶心、枳實薤白桂枝湯主之。人参湯亦主之。
【読み】胸痺心中に痞えて胸にあり、胸満し、脇下心を逆搶するは、枳實薤白桂枝湯これを主どる。人参湯も亦之を主どる。
【処方解説と2方の鑑別】
■
処方鑑別の要点
・枳實薤白桂枝湯(枳実 4g, 薤白 8g, 桂枝 1g, 厚朴 5g, 括樓実 5g ):中焦に熱が結し、気が胸に突き上げて(逆搶)締め付けられる痛みを起こすもの。夜間に激しくなる傾向。桂枝で肺の陽気を補い、厚朴・枳実で積滞・熱結を降ろす。
・人参湯:中焦(脾胃)の「真裏寒(深い冷え)」によって胸痺を起こすもの。左脇から右肩にかけて突き上げる冷え・胃の冷えがある場合に用いる。
第六条:茯苓杏仁甘草湯・橘皮枳實生薑湯
【原文・読み】
■
条文
第六条
胸痺胸中氣塞、短氣、茯苓杏仁甘草湯主之。橘皮枳實生薑湯亦主之。
【読み】胸痺胸中気塞がり短気するは、茯苓杏仁甘草湯これを主どる。橘皮枳實生薑湯もまたこれを主どる。
【方解と病態比較】
・茯苓杏仁甘草湯(茯苓
3g,
杏仁
2g,
甘草
1.5g
):水飲(水分代謝障害)によって胸中の気が塞がり、息切れ(短気)を起こすもの。水分の偏在を整え、気を巡らせる。
・橘皮枳實生薑湯(橘皮
2g,
枳実
3g,
生薑
8g
):胃中が冷えているために上焦に熱がこもって胸中が塞がるもの。胃を温め(生薑・橘皮)、胸のしこり・塞がりを散じる(枳実)。
第七条〜第九条:其の他の胸痺・心痛処方
【第七条:薏苡附子散】
■
第七条
【原文】胸痺緩急者、薏苡附子散主之。
【解説】胸中の痛みが発作的(緩急)に起こるもの。皮膚の乾燥(ガサガサ)や強い寒けを伴う場合に適する。薏苡仁(湿熱を去り急を緩める)と大附子(強烈に温める)の 2 味。
【第八条:桂枝生薑枳實湯】
■
第八条
【原文】心中痞、諸逆心懸痛、桂枝生薑枳實湯主之。
【解説】心臓のあたりがつかえ、動悸・吐き気など(諸逆)を伴い、心臓が吊り上げられるように痛む(心懸痛)もの。表虚による衝逆や頭痛・肩こりにも応用される。
【第九条:烏頭赤石脂丸】
■
第九条
【原文】心痛徹背、背痛徹心、烏頭赤石脂丸主之。
【解説】胸痛が背中まで突き抜け、背中の痛みが胸まで響く激痛。胸中の陰寒(深い冷え)に対し、強烈な辛温剤(烏頭・蜀椒・乾姜・附子・赤石脂)で肺気・陽気を強力に補い温める。
【補足:九痛丸(九種心痛を治す)】
■
九痛丸の効能
【構成】附子、生野狼毒、巴豆、人参、乾姜、呉茱萸(煉蜜で丸剤)
【主治・兼治】九種の心痛(あらゆる激しい胸痛・心痛)、卒中悪(食物中毒等の急変による腹満・絞痛)、冷気の上気、落馬・事故による打撲血疾など幅広い過酷な実寒・血瘀病態に対応する。
胸痺心痛主要処方の一覧比較表
| 処方名 |
主な病態・症状 |
治法・特徴 |
|---|---|---|
| 括樓薤白白酒湯 |
喘息、胸痛、短気、寸口沈遅 |
上焦虚寒・胸陽不振に対する基本方 |
| 括樓薤白半夏湯 |
胸痺で横になれない、心痛背に徹する |
痰飲(水気)が強く胸痛が極めて激しいもの |
| 枳實薤白桂枝湯 |
心中痞、胸満、脇下より心を逆搶 |
中焦熱結・気逆による締め付け感 |
| 人参湯 |
心中痞、冷えによる突き上げ |
中焦(脾胃)の真裏寒・胃冷え |
| 茯苓杏仁甘草湯 |
胸中気塞、短気、水気あり |
水飲による気塞・喘息・息切れ |
| 橘皮枳實生薑湯 |
胸中気塞、息が荒い、胃冷え |
胃寒による上焦の気滞・嘔逆 |
| 烏頭赤石脂丸 |
心痛徹背、背痛徹心(極めて劇しい痛) |
陰寒内盛に対する強力な温裏・鎮痛 |
PR
カテゴリ
New!
みお&ゆきさん
瑠璃月姫さんコメント新着
カレンダー