碁会所日報
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5月に『点転』という演劇が南埼玉で上演される。詳しい案内はこちら4年前の冬、京都芸術センターでの初演を観た。囲碁を下敷きにした架空の競技「点転」が物語の柱だ。演出の久野那美さんが当時、Twitterを通じて知り合った囲碁をする人たちに興味を示し、実際に会って囲碁のルールを教わり、その時に感じた印象をもとに書かれた話だったと記憶している。「囲碁劇」ということで観に行ったが、実はまったくわからなかった。(何をもって理解したと言えるのかもわからないけれど)明倫小学校という室町の町衆の篤志による贅沢な昭和初期建築の広い空間を、舞台と客席の境界を曖昧にし、四方八方を意識した使い方をしていた。そして、会場のあの窓ありき、という演出がされていたことを記憶している。入り口では台本が販売されていた。自分で上演したい人が買うのだろうか。演劇を見慣れている友人に訊ねると、戯曲を読む文化というのがあるのだという。思ってもみなかったことなので驚いた。知人も別の時間帯に観に行ってくれていた。後で「よくわからなかった」という感想をくれた。「よくわからないという演劇なんだと思います」と答えた。わからないということがずっと気になっていて、久野さんの他の作品も観に行くうちに、久野さんの作品のリズムがあるのに気づいた。今年の冬、大阪での再演となった。コロナ禍での上演を決心するのには、ものすごく勇気のいることだっただろうし、上演時だけでなく稽古の時から気をつけなくてはいけないことも普段よりはるかに多い。久野さんはのんびりやさんに見えるが、芯は剛の者だとと思う。3月1日の千穐楽を観に行った。初演の京都芸術センターと比べれば、十三のスペースコラリオンはコンパクトな空間だ。演出上必要な窓は大丈夫なのか、と見回したら、ちゃんと素敵な窓があった。全く白紙のままで見た初演よりは、ずいぶんとセリフの深い意味まで考えることが増えた。久野さんのリズムに漂えば、耳に残る言葉や、見えてくる動きが増えた。そうすると、点転という競技には全く関係のない最初の場面のやりとりの重要性にも気づく。なんのことかよくわからなかった最後の場面も、少しは「こういうことなんじゃないか」というものが言えそうだ。 それにしても久野さんの深い洞察力には脱帽する。久野さんの囲碁の知識といえば、九路盤という初心者用の碁盤でちょっと打ったくらいのものじゃないだろうか。なのに、これぞ囲碁の本質といういうような部分に触れている。囲碁を嗜む人は驚くだろうと思う。今回は台本を手に入れた。文化というほどのものではないけれど、この作品に隠されたもの、気づかなかったものをもっと知りたい。幸いアーカイブが配信されている。また観よう。南埼玉公演の会場は写真で見るととても素敵な場所だし、会場にはいい窓もある。足を運んで実際その場に身をおいてほしいけれど、叶わない場合は配信で。
2021年04月06日