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2021.08.17
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カテゴリ: 観照
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寝殿の北面に具現化された「絵合」の場面から、西側に回り込みます。
西側の南側寄りには 清少納言に因む有名な場面が具現化されています 番号8の箇所 です。
香爐峰の雪 」として知られているエピソードで、清少納言は『枕草子』第285段に記しています。

簀子に置かれたものの上や高欄に雪が積もっています。

「雪のいとう高く降りたるを、例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火起こして集さぶらうに」 (資料1、以下同じ)
雪がとても高く降り積もっていたので、いつもとは違い、御格子をおろしたままで、炭櫃に火を起こして、大勢の女房たちが話をしつつ暖をとりながら、中宮定子の御前に侍っていますと、

「少納言よ、香爐峰の雪、いかならむと、おほせらるれば、」



「御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば」
すると、お側に侍っていた清少納言は、黙ったまますっと静かに起ち上がり、まず閉じていた御格子を女房に上げさせます。その後自ら御簾を高く巻き上げました。そして、中宮様に外の雪景色をご覧いただいたのです。

「笑はせたまう」
中宮定子は、我が意を得たりと微笑まれました。


 人々も「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。
人々も「そういう詩のことは知っているし、歌などにも歌うけれど、(即座に中宮様のご要望を行動でお答えするなど)思いも寄らなかったわ。

 なほ、この宮の人には、さべきなめり」と言ふ。
「やはり、この中宮にお仕えする女房としては、しかるべき人のようね」と言い合った。


中宮定子と清少納言の間には、定子の語りかけたフレースで、白居易の『白氏文集』巻16に収録されている詩に詠まれた一節が共有されたのです。

白居易は『 香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁 』の一文で始まる5首の詩を読んでいます。
(香炉峰下、新たに山居を卜し草堂初めて成り、偶東壁に題す)
その第4首の中にに該当する詩句が読まれているのです。その箇所は 『和漢朗詠集』 (資料1,2)

遺愛寺鐘欹枕聴   遺愛寺の鐘は枕を欹 (そばだ) てて聴き
香炉峰雪撥簾看   香炉峰の雪は簾 (すだれ) を撥 (かか) げて看 (み)

「ちょっと、外の雪を見たくなったわ。格子を上げて、御簾を巻き上げてくれる」なんてストレートに指示しないところに、中宮定子らしさが溢れ出ています。漢詩に対する造詣の深さがワンクッションになっています。それは清少納言の漢詩に対する造詣と彼女の機転を試す謎掛けになっています。清少納言は「香炉峰雪撥簾看」の一節のことなどおくびにも出さずに、行動で示す機転の良さで答えました。

手許の本では、「中宮の意図は、白詩の世界をこの後宮に再現することであったのである。『古今著聞集』に君臣一致の実例と引かれている有名な話である」 (資料1) と補足で註釈されています。

今回この展示の解説として入手したパンフレットに記載の興味深い観点をご紹介します。それは上掲の太文字にした第285段原文では判読できない点に関係します。 (資料3)

原文では「 御格子 」という言葉が使われています。
格子には、 1枚格子と2枚格子 があります。格子は廂の柱と柱の間に設けられた格子状の黒塗りの建具です。 上下に分けたものが2枚格子 になります。この六條院・春の御殿では、直接目にするのは2枚格子がほとんどです。 ​半蔀 (はじとみ) とも​ 称されます。
清酒納言が「御格子」と記したのは、1枚格子なのか、2枚格子なのかが判然としない というのです。
中宮定子と女房たちが、寝殿の南面に面する場所に居たなら、そこはたぶん1枚格子です。東西に面する場所に居たら2枚格子です。
1枚格子ならば、建物の内側に引き上げて、その外にかかる御簾を巻き上げる形 になります。
一方、 2枚格子ならば、上半分を外側(簀子側)に引き上げて、下半分をそのまま残すか、下半分を撤去するかに分かれます 。2枚格子の場合は、 御簾は上格子の内側にある ことになります。

この「香爐峰の雪」の場所は2枚格子のところを利用して具現化しています。しかし、下半分の格子を取り除いていますので、見た目には、1枚格子を引き上げた場合の外の見え方と同じになります。つまり、1枚格子を引き上げた場合の見え方をここで見せています。
2枚格子で、下半分を残したままだと、この景色の左側の御簾を巻き上げた状態になります。御簾を巻き上げた時の雪景色の見え方が大きく変わってくることになります。
おもしろい観点だと思いました。 (資料3)


六條院春の御殿の西側 には、 板敷の間 があります。六條院春の御殿のレイアウト図 番号7の左側 が右の襖障子あたりです。
ここには、前面部分に 「四季のかさね色目に見る平安王朝の美意識」 というテーマで精巧にミニチュア化された衣裳が 「自然の霊験をいただいた四季のかさね色目」 として展示されています。これも定番展示の一つと言えます。以前に詳細にご紹介してますので、展示品を簡略にご紹介します。
梅かさね 
菖蒲かさね

​​白撫子 (なでしこ) かさね
捩り紅葉かさね
雪の下かさね
松かさね


​この展示を南東側から眺めた景色​


上掲襖障子の北側 にこれが 常設展示 されています。
左は 、蓮の繊維で作った蓮糸で織った織物「 蓮糸織り 」です。詳しい解説パネルが設置されています。
右は 化学染料で染めた花橘かさね 」です。こちらも解説パネルが設置されています。

そして、最後の展示です。

板敷の間の南西側と南東側手前に衣裳が展示されています。

   これらは「 五節舞姫の装束 」です。この解説パネルが設けてあります。



衣桁に掛けられた ​袿 (うちき) の文様​ 。上段は織文様、中・下段は刺繍文様に見えます。
蘇芳色の唐衣

白地地摺りの裳
この裳には、様々な文様が地摺りされています。







頭部の飾り
左右に 日蔭の糸(蔓) 、中央の上から ​​​心葉 (こころば) 、平額 (ひらひたい) 、櫛 (くし) 、釵子 ​(さいし)​​​​ と称されています。これらが頭部の ​玉髢 (たまもじ) の飾り​ となります。

これで大凡全体を眺め、ご紹介したことになります。

(資料3)

ご覧いただき、ありがとうございます。

参照資料
1) 『新版 枕草子 下巻 付現代語訳』 石田穣二訳注 角川文庫
2) ​ 白居易『香炉峰下新卜山居(香炉峰下、新たに山居を卜し~)』原文・書き下し文・現代語訳(口語訳)と解説 ​  :「manapedia マナペディア」
3) 当日頂いた今回展示の解説パンフレット「風俗博物館」(令和3年4月~展示)

補遺
藤原定子 ​  :ウィキペディア
白氏文集 ​  :ウィキペディア
白居易『香炉峰下新卜山居(香炉峰下、新たに山居を卜し~)』原文・書き下し文・現代語訳(口語訳)と解説  ​   :「manapedia マナペディア」
和漢朗詠集 ​  :ウィキペディア
『枕草子』の「香炉峰の雪」と『白氏文集』、『和漢朗詠集』の該当箇所を確認したい。 ​  
     :「レファレンス協同データベース」
藤原公任と白居易 : 『和漢朗詠集』における白居易の詩をめぐって ​ 著者;黄 金堂
     :「広島大学 学術情報リポジトリ」

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Last updated  2021.08.17 00:29:59
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