音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年02月12日
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テーマ: Jazz(1978)
カテゴリ: ジャズ




 ライアン・カイザーは1973年アイオワ州生まれの白人ジャズ・トランペッター。1990年(ということは、まだ17歳の時)、セロニアス・モンク・インスティテュートのコンペティションで優勝し、本格的なキャリアをスタートさせた。様々なビッグ・バンドのトランペッターを務め、2000年(録音は前年の1999年)にリリースしたのが本作『カイザー(Kisor)』である。

 新進気鋭といってもこの時点で既にプロのキャリアは10年近くあったわけで、そのキャリアが自信になっていたのか、何とも思いきったことをしたものだ。というのも、収録されているのは、全曲クリフォード・ブラウン(愛称ブラウニー、彼の盤については過去記事 (1) (2) (3) を参照)づくしなのである。収められた全8曲のうち、4. 「クリフォードの想い出」 はブラウニーの死後にベニー・ゴルソンが作った追悼曲であるが、他はブラウニーが往時演奏していた曲の再演である。無論、ブラウニーと言えば、1956年に若くして亡くなった伝説的な天才トランペット奏者。半世紀近くの時を経てそれを再録しようという新世代のトランペッターというだけでも、どれだけ勇気のいることか(そして企画倒れに終わる可能性を含んでいたか)想像できる。

 実際に『カイザー』を聴いてみると、ある意味、さらに驚かされる。というのも、どの曲も概して耳慣れたアレンジで、特段、奇抜なことはやっていないからだ。その意味では、まったく“革新的でない“という言い方もできるだろう。もちろん、ブラウニーの元の演奏とは異なる。リズム・セクションは現代風にタイトだし、トランペットの音もブラウニーのそれとはもちろん異なる個性を持ったものである。大雑把にいえば、同じように切れがあるけれども、ブラウニーの場合は“鋭さ”が際立つのに対して、カイザーの場合はどこかしら“優しさ”や“柔らかさ”がより強く耳に残る。

 本盤は高い評価を得る一方で、マイナスの評価も受けてきた。その典型は、“もうひとつどこか物足りない”という意見である。おそらく、上で述べたトランペットの音色の柔らかな部分というのが、その“どこか物足りない”感につながっているのだろう。その“物足りなさ”の理由は二つある。一つは、選曲が選曲だけに、ブラウニーの鋭さや切れのある音を聴き手に先入観として期待させてしまうこと。それから、もう一つは、『カイザー』という自分の名を冠したセルフ・タイトル・アルバムでありながら、全曲がブラウニー絡みというギャップにあるのではないか。



 次に、二つめのアルバム名が『カイザー』でありながら、全曲ブラウニー絡みという点は、一見、不可思議かもしれないが、筆者は次のように考える。この盤の録音がなされたのは、1999年である。録音時、カイザーは26歳である。クリフォード・ブラウンが事故で亡くなったのは1956年のことで、あと数カ月で26歳の誕生日を迎える年の死去であった。つまり、ブラウニーが亡くなったのとほぼ同じ年齢の段階でカイザーはこのアルバムの演奏を吹き込んだ。ジャズ界でトランペッターを志すものにとって、ブラウニーは無視できない存在である。ブラウニーを越えていくためには、これを消化しなくてはならない。それがこのタイミングの録音であり、他人ゆかりの曲を集めたにもかかわらず、わざわざ『カイザー』という自分の名をアルバムに冠した理由ではないだろうか。そう考えれば、冒頭で述べたように、ますます“勇気ある決断”だったわけで、それがこれだけの作品に仕上がったのだから、やはり大したものだと思う。個人的には、このアルバムがライアン・カイザーという人を聴くようになるきっかけとなった作品でもあり、思い入れも深い一枚。



[収録曲]

1. DaHoud
2. Delilah
3. Cherokee
4. I Remember Clifford
5. Jordu
6. Parisian Throughfare
7. Sandu
8. Valse Hot

Ryan Kisor (tp)

John Webber (b)
Willie Jones III (ds)

録音:1999年7月30日



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Last updated  2010年02月12日 08時44分51秒 コメントを書く


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