「花笠若衆」はトミイ・マミイコンビの映画としては最後の映画になります。そのいきさつを話す前書きが少し長くなる事こと、お許しください。
ひばりさんの魅力は、凛々しい男姿での痛快チャンバラとしとやかな姫君をこなせるところです。とくに、ひばりファンは男装に魅かれますので、その魅力を存分に活かした小説を書いたのはママ加藤喜美枝さん、平凡に連載され、原作を大切にして脚色された映画「花笠若衆」は、「桃太郎侍や「幡随院長兵衛」を題材にしたようなストーリーになっていています。
お相手はママも気に入っている、息の合った橋蔵さまという完璧な態勢をとって作られた明朗痛快時代劇です。
ひばりさんが千代姫と男装で町民の江戸家吉三の二役を演じ、橋蔵さまが千代姫の許婚者神月又之丞を・・扇山藩の双子の一人由紀姫 (
吉三 )
と共に、お家乗っ取り陰謀から扇山藩を救うという話です。
ひばりさんの魅力、威勢の良い男姿も凛々しい吉三役と、しとやかで優しい千代姫役というように演じ分けが入り、そこに、コンビとして一番の橋蔵さまが典型的二枚目役で絡んでくるわけですから、ファンは満足しない訳がありません。お二人とも、ママがひばりさんのために一生懸命書いたのだから、ママの気持ちを大切にしていい作品にしなければ、と。
橋蔵さまも、ひばりさんが相手役ですと、橋蔵さまが遠慮なくご自分の魅力を出していけますので、お二人の魅力が倍増します。「丹下左膳」で見せたような大人としての良い雰囲気をこれからもっと見せてくださることをファンは期待していたと思います。
映画の「花笠若衆」はゆうまでもなく興行成績はよく、主題歌の「花笠道中」も映画公開と同時に大ヒットしました。
私は、映画館ではこの作品は見ていなかったのですが、ラジオで「花笠道中」の歌が流れてくると映画の内容を歌から感じようとしたものでした。曲調は楽しく明るいのですが、特に 3
番を聞いていますと涙が出てきたものです。好きな男の人と一緒に旅をしているけれど肝心の男の人の心が分からない、「何やらさみしい 旅の空」なんです、歌詞は悲しいと思うのです。この歌が使われている場面は・・楽しそうに駕籠に乗っているところです。それが夢の中の出来事で、吉三にとっては千代姫という許嫁のある又之丞に思いを寄せてもどうにもならないわけですから・・・でも、ひばりさんはこれを寂しくせつなげに歌っているのではない、独特の節回しでとっても気持ちよさそうに歌っているのです。人生そんなことにはめげないよ、というように。
原作者加藤喜美枝さんは、東映から映画化の話があり、企画部の皆さんの協力、ひばりさんも喜んでくれましたし、仲良しのトミイが、喜美枝さんの期待通りに共演してくださり、一番気の合う佐伯先生が演出してくださったので夢のようであった、と言っていました。
1958
年は、ひばりさんの芸能生活十周年の年。そして、新芸術プロダクションを離れ「ひばりプロダクション」を設立し東映と専属契約をした年になります。ひばりさんの周りでは諸事情がうごめいておりましたようです。これもその一つでしょうか ?
橋蔵さまの人気が上昇してきて観客動員では、逆転してきていたので、東映側は、お二人の作品に、いつまでもひばりさん主演、橋蔵さま共演にするわけにはいかない、東映側は橋蔵さま主演、ひばりさん共演で行った方がお客様が入るし、いつまでもひばりさんの相手役という扱いはできないというようなことを・・・出したようです。それが分かるのが「ふり袖太鼓」のポスターで見られます。大川橋蔵主演と美空ひばり主演と二通りのポスターが出ているのです。関係者が「もう以前の橋蔵とは人気も映画スターとしての地位も違うのだから」となだめたという事もあり、そんなことあんなことでひと悶着あったようです。そして、「花笠若衆」は従来通りの順序で美空ひばり、大川橋蔵でいくことに、その代わりコンビは解消、ひばりさんは独立させる、ということになっていったようです。こうして所属していた新芸プロから 1958
年 4
月離れ、独立する準備に入り、8月ひばりプロを設立し東映と専属契約を結んでいます。
ひばりさんと橋蔵さまコンビでの作品を手掛けていた新芸プロの福島通人社長もその頃新芸プロを辞めましたので、トミイ・マミイコンビとしての二人の映画はこの「花笠若衆」が最後の作品になります。
その後は、お二人の共演はオールスターでの顔合わせでしか見られなくなりました。
・・・と、いろいろありましたが、この作品は無事コンビで作られましたので良かった !
良かった
!!
トミイ・マミイの魅力を 100%
発揮させての、お二人のために作られたと言っていいほど、ひばりさんも橋蔵さまも大はりきりの名コンビぶりで好場面が随所に展開されています。
「花笠若衆」でのロケでは、吉三の夢の中での新婚旅行のところ・・・
琵琶湖畔、瀬田の唐橋に近い桜並木の堤防でのロケの場面は、お二人とも楽しかったようです。このまま駕籠に乗って京都まで帰りたいとか・・・辛かったのは駕籠かきの俳優さん、二つの駕籠の調子が合わないといけませんし、駕籠に載せての何回ものリハーサルでは~。駕籠にのって、新婚旅行が始まるところからの場面は、ファンが夢みていたところでしょう・・・ママはよく分かっていらっしゃる・・・でも、夢の中の出来事と言う、落ちがついています。
撮影現場での橋蔵さまとひばりさんは、いつもの通り顔を合わせれば、楽しい口喧嘩 (?) を楽しんでいました。撮影合間は遠慮のない冗談のやり取りの連発で、撮影も楽しく進んだようです 。
第
37
作品目 1958
年 6
月封切 「花笠若衆」
江戸家吉三 美空ひばり
千代姫 美空ひばり
早苗 桜町弘子
梶三太夫 堺駿二
江戸家吉兵衛 大河内傳次郎
馬場兵部 柳永二郎
金八 星十郎
稲垣玄蕃 吉田義夫
田島主馬 沢村宗之助
淡路雷太郎 清川荘司
九重 三条美紀
高見浩重郎 長谷部建
鈴木伝左衛門 香川良介
牧野内膳正 明石潮
永山三蔵 須藤建
神月又之丞 大川橋蔵
敵は前ばかりにはおらぬからのう
但馬の国、扇山藩には双子の姫がいたが、一人は江戸の侠客吉兵衛のもとで男として育てられていました。扇山藩では藩主の病弱をよいことに、次席家老一味が、双子の一人千代姫を亡き者にして、一味の娘を雪姫にしたて乗っ取ろうと陰謀を企てていました。そのためには雪姫を探し出し亡き者にしなければなりません。千代姫の許婚の神月又之丞も、扇山藩に陰謀ありとの報せをうけ、雪姫を探していました。ある日、又之丞が救った江戸家吉三が雪姫であることを知ります。家老一味もつきとめ、吉兵衛を斬り雪姫であることを証明する品を奪い去ります。吉兵衛は息を引き取る前に雪姫を扇山藩へ返してほしいと又之丞に頼みます。そして、扇山藩の千代姫を救うために、又之丞と女になった吉三と子分の金八の三人旅が始まるのです。
花魁道中が繰り出している吉原は大変な人出です。大勢の新造や禿を従えた花魁達が男衆の肩に手をおいて仲之町を練ってやって来ています。道の両側は群衆でいっぱい。その群衆の中に、白鞘組の面々が陣取り、酒を飲みながら花魁道中を見ているところへ、群衆に押され町家の娘のさしていた絵日傘が白鞘組の淡路雷太郎の面体を傷つけたと言いがかりをつけてきます。
娘が謝りますが、蔵前の足袋問屋梶田屋の娘お町と聞くと顔色を変え、付き添っていた女中を突き飛ばし連れて行こうとした時、淡路の腕をはらい、威勢のいい啖呵をきる若者、江戸家吉三郎がお町を助けます。白鞘組に喧嘩を売る気かと言う淡路に、売られた喧嘩は買うが、人に喧嘩を売るほど酔狂ではないと言う吉三に白鞘組が斬りかかってきます。
(
ここからしばらく、「ロカビリー剣法」の歌にのって吉三の立回りとなります)
「これが正眼無念の構え、次は上段無想の構え、片手上段無敵の構え、ソ―レゆくぞ・・」吉三が派手に暴れているのを 人垣から笑みを浮かべじっと見ている着流しの侍、神月又之丞がいます
。
吉三めがけ背後から淡路が刀を振りあげた時、 又之丞の投げた扇子が淡路に当たり、助太刀に入りますと
、「覚えておれっ」と言い放ち白鞘組は引き上げて行きます。
吉三 「忘れたら、聞きにいかぁ」
(
この場面、歌舞伎の助六を思わせる華やかさがあります )
又之丞が立ち去ろうとした時、吉三が呼び止めます。
吉三 「 お待ちなすって
」
又之丞「 わしか ?
」
吉三 「どなたか存じませんが、随分とおせっかいな真似をなさるじゃありませ
んか」
又之丞「ほほう、 おせっかい
」
吉三 「町奴とお侍衆とは犬猿の間柄、そのお侍が、あっしの見方をするなんて」
(
子分の金八は吉三の言うことにハラハラしています
)
又之丞「あっあっは、わしは、いつも正しい者の味方だ。・・だが、 味方のおらぬ
ときもあるから、気をつけたほうがよい
。敵は前ばかりにはおらぬから
のう」
又之丞「江戸家吉三と申したな」
吉三「へい」 (
小さく返事をします )
又之丞「うーん、わしはその方に、どっかで会ったような気がいたす。 大分昔の事
とは思うが・・
」
吉三「あっしは、初めてで」
又之丞「そうか・・ やはり、気のせいであったなあ・・
」
と言うと、さっさと行ってしまいます
。呆然として又之丞をじっと見ている吉三に金八が、「立派なおさむらいですねえ、どっかの若殿様ですぜ」と又之丞が投げた扇子を持ちながら言うと、扇子を取り上げ扇子を見つめる吉三です。
(
吉原仲之町でのシーンは花魁道中の華やかさに負けないくらいの、ひばりさんと橋蔵さまの衣装に目がいってしまいます。その橋蔵さまのうすい水色に花模様を大胆に浮かした豪華な衣装。このいで立ちについて雑誌記者から聞かれた橋蔵さまは「ちょっと照れちゃったあ。市川右太衛門先生の有名な旗本退屈男をちょいと小型化したような衣装でしょう。僕は華奢な方ですからね、衣装に食われそうになっちゃうんですよ」と笑って話をしていたそうです・・・そんなことありませんね、とっても似合っていらっしゃいます、素敵です )
続きます。
花笠若衆・・・(6) 2018年08月28日 コメント(5)
花笠若衆・・・(5) 2018年08月25日 コメント(9)
花笠若衆・・・(4) 2018年08月20日 コメント(2)
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