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若さまというあだ名の侍がいる月美香の心くばりで、部屋を貸してもらった若さまはおちかと話を始めます。見ず知らずの異国の芸人までが、おちかのことを心配してくれている心を無にしてはいけない、とおちかに言いきかせて、確信に触れます。若さま「こんなことをたずねるのは罪なことかも知れんが、鈴木采女はお前が目当 てだったのか」 聞かれたおちかは、若さまにこういい出します・・・役人なら何をしても良いのでしょうか、町人は何でもいうことを聞き騙され踏みにじられ消えてゆくものなのでしょうか。ただ鈴木様に父が私のことをお断りしただけで、いいがかりで父を殺しお店を潰した。御用商人は、女のことまでその取引の中に書かなければ、鈴木様の御用がいただけないのでしょうか、・・・と若さまに話したのです。若さまはおちかのいったあることが引っかかります。若さま「取引の中に」 おちかはその話を聞いたことを話し始めます・・・鈴木様を刺そうと、鈴木様と唐金屋の話を聞いていた、唐金屋は琉球一座の太夫をおちかの代わりに鈴木様に差し出すのだ、とそして、母や店の者の島流しを許すからといい私を・・・、と。若さまが「鈴木は唐金屋とその取引を済ませたのか」と聞くと、明日取引をするようだといいます。おちかの話すことを聞いていた若さまは、若さま「お前のその気持ちはよく分かる。頼む役人も取り上げてくれないとき、人 間誰でもそんな気持ちになるもんだ」 しかし・・・と、若さまはおちかにこういいます。若さま「だがいま、お前が鈴木を狙っても無駄だ」若さまは、万一鈴木を倒すことが出来たとしても、誰も救われないというのです。 若さま「お前はいま、鈴木を刺そうとした。・・・その覚悟があるならば、何故、鈴木の不正をつきとめない。父の恨みをはらそうと考えない。・・身を捨てて、その取引の証拠を奪うのだ」 「私、そのようなことが・・・」というおちかに、すぐさま若さまは「出来るとも」と言います。若さま「やろうとさえ思えば、お前ひとりではないぞ」おちかが若さまの顔を見ますと、若さま「味方がいるではないか」 おちか「あなた様が」若さま「誰もいなかったなら、私がなろう」 おちかはうれしいという表情をしたあと、「でも」といいなぜか悲しい顔を見せます。その様子を見た若さまは、おちかにあのときのことを話すのです。若さま「お前の父親が死んだとき、通りすがりの侍が、番頭に言づけたはずだ。 『けっして力を落すな』と」おちかは、あのとき、番頭から聞いたことを忘れてはいませんでした。おちかは若さまを信用して頼る気持ちになったようです。 「島流しまで、二日や三日の暇がある。それまで気を静めて、父の位牌の前へ座ってやれ、力を落してる母を抱いて座ってやれ。うーん⤴あはは」 立ち上がった若さまに「その覚悟がついたら、深川に来るがいい」と言われたおちかは「深川?」と明るい顔で聞くのです。若さま「喜仙という船宿に、若さまというあだ名の侍がいる。お前と同じように、 いつでも身を捨ててやる男だ。わかったな」そういって若さまは部屋を出て行きます。廊下で、鈴木に太夫をという話を聞いてしまった月美香の心境も複雑のようです。 唐金屋に御公儀御用問屋の看板が掲げられました。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)若さま侍捕物帖・・・(4)若さま侍捕物帖・・・(5)若さま侍捕物帖・・・(6)若さま侍捕物帖・・・(7)若さま侍捕物帖・・・(8)若さま侍捕物帖・・・(9)
2024年10月27日
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伊勢屋の酒が好きだった侍だ若さまは、英明院の屋敷からの帰り道、心の中でこんなことをつぶやきながら歩いていました。「世の中には、見て見ぬふりをしなければならないこともあるのか。私ひとりの正義感など、通らぬこともあるのか。・・・私はやっぱり、世間知らずの若さまか・・・」 しばらく歩いて行くと、料亭から帰りの駕篭に乗った鈴木采女が通り過ぎるのを見て、歩き出した若さまは、おちかの姿にきずき足を止めます。 鈴木の駕篭の後を追うおちかのただごとでない様子を見て、若さまは出刃包丁を持ち鈴木の乗った駕篭めがけ行こうとしたところを引き留めます。 何故止めるのか、と抵抗するが出刃包丁を取り上げられたおちかは「私はいまの侍を・・・」とまだ行こうとするおちかを若さまが遮ります。若さま「馬鹿、お前の手で武士を刺せると思うのか」おちか「でも、このままでは・・・」若さま「落着け、だいいち大勢の侍が一緒についてくのだ、もし、お前が刺そうと したことが気付かれれば、ただではすまなくなるぞ」どうしたらよいのか・・・泣き崩れるおちかに、若さまが話かけます。若さま「万に一つ、鈴木采女を刺したとしても、父親の無実の罪は拭われんぞ」 おちかが顔をあげ、「あなた様は」と聞いてきます。若さまは、「伊勢屋の酒が好きだった侍だ」と答えます。 そのとき、「もし」と突然呼びかけて来た女の声がします。数人の琉球衣装を着た人の中の太夫の月美香です。月美香「私共の宿はすぐこの先、むさくるしくとも部屋の中なら、この方のお心も 静まりましょう。さあ、どうぞ」若さま「見ていたのか」「はい」と月美香が言います。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)若さま侍捕物帖・・・(4)若さま侍捕物帖・・・(5)若さま侍捕物帖・・・(6)若さま侍捕物帖・・・(7)若さま侍捕物帖・・・(8)
2024年10月19日
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何処へ忍びのお出掛けかと・・・英明院は堀田の来るのを待ち焦がれていたようです。若さまが屋敷の門の外にいると、「何をしている」と熊谷民部ら侍達がやってきます。それを見て、若さまはおかしいというような笑いを浮かべると、若さま「図体は大きいが、お前は鳥目か」そう言われた熊谷が「なに」と言ってくると、若さま「何をしてるって、門を見ているだけだ」 熊谷が、若さまに今の行列を付けて来たな、といってきたのに対し、若さまは若さま「今をときめく老中の行列、何処へ忍びのお出掛けかと、あとを付ける野次 馬は大勢いるぞ、あはっはっは。人間あまり出世すると、うっかり夜遊び も出来んらしいな」 「さっさと去れ、余計なことに気を使うと、身のためにならんぞ」と脅しをかけてくる熊谷に、若さま「余計なことかな」 熊谷「御老中が何方さまの屋敷に入ろうと、貴様の知ったことではない」若さま「うーん、それはその通りだ。しかし、そういうお前さんは一体何だい」そういたとき、侍達が2,3歩動いたのを見て、若さま「天下の老中が、英明院様を訪ねる。当たり前のことだ。別にごろつき用心 棒を雇う必要はないはずだ、そうだな」熊谷達は狼狽えたようです。若さま「それとも、お前も私と同じ野次馬か。・・・・私がここに立っているのが おかしいなら、お前もおかしい。おかしい同士だ、気にするな」 そういって、帰って行く若さまです。ある料亭の奥座敷で、鈴木采女と唐金屋が私腹を肥やそうとの話をしています。老中堀田は英明院様を抱いているから、城では一番強い立場で、その堀田は鈴木の思いのままだというのです。松造が報告にやって来ます。なんだと聞く鈴木。伊勢屋にちょっかいを出している若侍をちょっと脅かそうとしたのだが、手ごわそうで、といい、娘が目当てでしょう、というと、鈴木は厳しい表情で、そんな男がついているのか、「構わんからその男を消してしまえ。城の見回り番士を片付けた地獄道場にまわせ」と唐金屋に命じます。唐金屋はそれよりもと言って、琉球の太夫の件は話がついていると斬り出し、鈴木采女と唐金屋の取引の約束の中にきちんと入れておくことで話がまとまります。鈴木采女は、ほんとに太夫をものに出来るのなら、酒だけでなく味噌、醤油の御用も扱わせてやると、唐金屋にいいます。その座敷の前庭の草むらに隠れ話を聞いていた伊勢屋のおちかがいました。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)若さま侍捕物帖・・・(4)若さま侍捕物帖・・・(5)若さま侍捕物帖・・・(6)若さま侍捕物帖・・・(7)
2024年10月13日
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若さま「英明院」と呟くやくざ風の男達を外へ出し、若さまも行こうとしたとき、お蝶が若さまに、「あいつら金が欲しいんですよ、いくらか包みゃ帰りますから」というと、若さま「いやあ、包まなくても帰る」お蝶とお澄の心配をよそに、笑って外へ出て行きます。 若さまが外へ出ると、待ちかまえていた男達がかかってきます。若さまは小気味よいテンポでかかって来る男達を痛めつけて行きます。途中見ている娘達が「すてき」というとそちらを見たりと、 また、お若い矢の娘達が喜ぶと、手をあげて答えたりと、楽しく暴れます。敵わないと逃げ帰るのを見て大笑い。 佐々島と小吉がやってきました。奥の部屋を借り、極秘の話というのを聞きます。若さま「町奉行や鈴木采女が、御用商人を取り調べられないことぐらい、子供だっ て知ってる。老中に届けろというのだ。老中は堀田一人ではないぞ」それに対し、佐々島がこう言ってきます。佐々島「いえ、それがそのう、奉行のいいますところでは、堀田様がいる限り手も 足もでないっつうんですな」若さま「堀田がいる限り?」 ある夜、堀田の乗った駕籠行列が屋敷から出て行くのを見て、あとをつけて行くと、入って行った屋敷を見て・・・そこは・・・若さま「英明院」と呟きます。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)若さま侍捕物帖・・・(4)若さま侍捕物帖・・・(5)若さま侍捕物帖・・・(6)
2024年10月05日
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お前達は喧嘩を売っているんだなあ唐金屋総右衛門は身の回りにおいているやくざ風の松造から、部屋住みらしい侍が伊勢屋に現れたり、目明しに何か話していたことを聞くと、少し脅かしておくようにいいます。小吉と別れ、ひと風呂浴びた若さまはお若い矢に向います。(お若い矢の娘達が「若さま風来坊」の歌にのって開店の用意をしています。)そこに若さまが店にやって来ました。 そこへ「あら、若さまの旦那」とお澄が声をかけ、今日宿に伺ったことを話しますと、若さまは、若さま「それはもちっともしらなかったなあ」お澄 「ねえ、ちょっと、若さまの旦那、あの船宿の娘、あれなあに」若さま「なにって、ただの娘だが」お澄 「いえ、違うわ、あの目つき、あの人若さまを狙ってんのよ、きっと」若さま「なあんだい、泥棒だなあ、まるで、あはっ」 楽しく弓を引いているところに入って来たのは松造はじめやくざ風の男達でした。女将のお蝶が「いらっしゃいませ、お遊びですか、お酒?」と声をかけられた男達が近づいて来るのをにゃっとした顔をして待つ若さまです。 松造 「おう、おめえ様は何処の若さまだ」若さま「さあなあ。店の者は知ってるが」松造 「ほお、御自分の口からはおっしゃれねえんですか。へっへっへっへ、よっ ぽど、お高い御身分とやら」 松造は、若さまの素性を話せとお蝶とお澄のほうに、すると、お澄が「石川五右衛門様の若さまです」と返答、それに対し若さまも「お澄坊、その通りだ」と笑っていると、 松造の隣りにいる男が、「部屋住み、おめえ皆がてめえの屋敷ん中のようにちやほやすると思ったら大間違いだぞ」若さま「どういう意味だね」 松造 「のんびりしてやがら、なら教えてやらあ。てめえはさっさと屋敷へけえ れ。おやじに隠れて女中のけつでも追ってな」若さま「あいにく、そんな趣味は持たないよ」 すると、若さまの態度に我慢できなくなって「なら、こうしてやらあ」と殴りかかってきたところを交わすと、 若さま「要するに、お前達は喧嘩を売っているんだなあ。しかも押し売りだ。わし は買わんからさっさと帰れ」短刀を抜きかかって来る男達を若さまは弓であしらいます。 若さまは、面白そうに笑うと、「お前達、狂犬というのを知っているか」といいます。松造が「狂犬?」というと、若さま「やたらに牙をむいて噛みつきたがる、一番嫌われる野良犬だ」男達が一斉に若さまに噛みつこうとするのを見て、若さま「騒ぐない、店のものを壊せば、それだけで人は迷惑する。表へ出なさい」「よーし、出ろ」と松造がいい男達は外に出て行きます。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)若さま侍捕物帖・・・(4)若さま侍捕物帖・・・(5)
2024年09月21日
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伊勢屋の酒が好きだった侍さある日、喜仙に若さまを訪ねて来てお澄とおいとの女同士の冷たい火花が散っいます。そのころ、若さまの足は日本橋の伊勢屋の店に向いていました。伊勢屋では小納戸役の山田文五郎が、伊勢屋周兵衛に家財没収の上獄門、家族一同、使用人に対し遠島を申し付ける、という書状を読み上げ、おちかに、鈴木様にお願いしようと思えばおちかの覚悟一つだというのです。立ち去る山田を追う弥平に「番頭さん」と肩をたたき止めたのは若さまでした。若さまは弥平に若さま「いまは無理だな。・・・やあ、落ち着くんだ」 弥平 「あ、あなた様は」若さま「伊勢屋の酒が好きだった侍さ」 若さまは弥平と店の中へと入ると、周兵衛が息を引取ったところでした。その様子を見ていた若さまに、弥平が弥平 「お侍様、私共のお酒に毒が入ってたなんて、誰がそんな馬鹿なことを」 そんな弥平をいたわり、若さま「番頭さん、・・・何か、思いあたることはないのかい」弥平 「あ・・・ございます」 若さま「袖の下が足りなかったのかい」若さまはさっきから、店の中を見ているやくざ風の男達に目をやりながら、話を続けます。弥平 「それもございましょう。しかしそれよりも、鈴木様が、前々からうちのお 嬢様を」若さま「なに」 弥平は、泣き崩れているおちかに、しっかりしてください、今も、通りすがりのお侍様が、ちからを落すなとおっしゃってくださいました、といったのです。若さまが伊勢屋を出て途中で、喜仙で若さまの行き先を聞いて来た小吉と出会います。若さまは、この間殺された城の番士は、あの晩何処の見回りだったか調べることと、それと頼みがある、といって、若さまは辺りを見まわして、小吉の耳元で話をします。その様子を物陰から見ているのは、伊勢屋でも見たやくざ風の男です。小吉は与力佐々島のところへひとっ走り、若さまはお若い矢で待っているといい別れます。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)若さま侍捕物帖・・・(4)
2024年09月15日
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関係なくなったってどういう意味だい野暮用で来たのかと思った若さまに、与力の佐々島と目明しの小吉が野暮用を取り消しに来たといいますと、若さまは腑に落ちない様子で「取消し?」といいます。小吉が、今朝ほどの伊勢屋の店のことは、手前どもには関係がなくなったので気になさらないようにといいますと、若さまの表情が険しくなり、若さま「関係なくなったってどういう意味だい」それについて、佐々島から、御老中堀田様からのお声がかりで、御老中様直々に御決着をつけられるそうで・・・と聞いた若さま、若さま「老中直々」若さまは、そのことがひどく気になったようです。 若さま「ときに佐々島、いま小納戸役頭取はたしか、鈴木采女だったな」よくご存じでと佐々島の返事を聞くと、若さまは厳しい表情を見せ、「そうか」と呟きます。 老中堀田加賀守の屋敷では、鈴木采女が来ていて、伊勢屋を取りつぶして家財を没収するという計画が練られていました。そのとき、采女が庭の方での物音を感じたようです。堀田が見回りのものだろうといいます。だが、そのとき、庭には若さまが侵入して、部屋での二人の様子を窺っていたのです。 唐金屋の件を話していたとき、堀田と采女が同時に庭の方の物音に気がつき、庭を見たときには、気を失っていた見回りの者は、着流しの侍が・・・といいます。その若さまは、堀田の屋敷を出て、喜仙に帰ってもなかなか眠れませんでした。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)若さま侍捕物帖・・・(3)
2024年09月08日
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そりゃあ、なつかしいやな店を閉めている伊勢屋をやくざ者たちが見張っています。奥座敷には主人の周兵衛が病の床に就いています。番頭の弥平が周兵衛の娘おちかに奉行所にも行き、御納戸役のところへも行ったがダメだったと話します。分かっていると弥平がいいます、「どうせあの鈴木様が・・・」と、おちかも「やっぱり・・・」と。鈴木采女との間に何かがあるようです。若さまは琉球踊りを見ての帰り、頓平と平吉に誘われ、浅草近くの矢場の”お若い矢”に行って遊んでいます。お澄が勝ったら、若さまの名前と屋敷を白状させるという矢の的当てをやっています。お澄が勝ったので、若さま名前をいわなければなりません。石川五右衛門といい加減なことをいうと、頓平と平吉が分ったといって、平吉 「石川様ちゅうのはやっぱり、青山の石川様でしゃろ」若さま「えっ、・・・ううん、そうだい、・・・その青山の、石川の・・・せがれ だい」やっぱりと頓平はいうと、こちら様は、青山で800石、西の丸御書院の番士小頭を務められる石川様の若様だと、若さまは唖然としています。 それを聞いていた矢場の主人お蝶が、5年前まで石川様のお屋敷に奉公していたと、嬉しそうにしゃしゃり出て来ます。お蝶 「まあ、お懐かしい」若さま「ううん、ああぁ、・・・石川に奉公していたね、ああっ、(小さな声で) そりゃあ、なつかしいやな」 殿様にはすっかり御恩を受け、店を開くときにも世話をしていただいた、・・・あらそういえば、お父上様にそっくりといったのには、若さまも驚き、若さま「えぇっ、・・・似てるかい?」お蝶は、ええ、そっくりといいかけたとき、「あら、ちょっと変じゃない。・・・・・あら、今年19じゃないの、19の殿様の若さまにしちゃ年が合わないんじゃない」そんな話になった頃、若さまは、いつの間にかお若い矢から逃げだしていました。 店から急いででてきたところで、「若さまっ」と呼び止める声がします。若さま「野暮用二人お迎えか」 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)若さま侍捕物帖・・・(2)
2024年08月31日
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若さまの鋭い視線が唐金屋と鈴木采女に注がれる若さまがおいとを連れて出掛けたところは琉球踊りの舞台でした。舞台を見つめている若さまにおいとが話かけます。おいと「若さま、・・・初めて」若さま「あっ、ああ、初めてだ。ああ、これから、ちょいちょい来るかな」若さまのその言葉に、「まあうれしい」おいとはうれしくなりました。そして、おいと「こうしていれば、若さまを知っている人なんか、一人もいないしね」若さま「うーん、そうだな」 後の席にやって来た頓平と平吉の声かけでせっかくの若さまとの二人っきりの時間もだいなしです。若さまは「風呂屋の職人か」といい、「まあこっちへ来ねい」と気安くいったのです。 「あれ、きれいな姉ちゃん連れて、旦那もすみにおけませんな、へへへ」と平吉がいうと、「ほんと」と頓平が気安く若さまの肩をたたいたのを見て、おいとは言いかけて・・・黙ります。 その様子から何を思ったか、平吉が「大丈夫、大丈夫、わいら二人は口が堅い」、頓平は「若さまがお忍びで遊べるのも松の内、松があければ、裃付けて、姉ちゃんも腰元に戻って、何でもなかったような顔をして三つ指ついて、いってらっしゃいませ、とかなんとか、ちゃんと分かってんだから」と、若さまは聞いていて笑い、おいとは「何もわかってないわ」と呟き、「ああよかった」と安心します。 舞台を見ていた若さまは頓平が喋ってきたことに興味を持ったようです。「何しろ、琉球から初めてて来た芸人なんでっせ」そして、平吉が二階を指さし「あれが、この一座を琉球から呼んだ胴元でっせ、唐金屋とかいう商人で」と、若さまは「唐金屋?」といい見つめ目を一瞬外しますが、そこに入って来た鈴木采女に目がいきます。若さまの鋭い視線が二階の二人に注がれます。 続きます。🎬『若さま侍捕物帖』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。若さま侍捕物帖・・・(1)
2024年08月24日
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いよう、お二人揃って何の用だい江戸御毒見役の死に端を発し奇怪な波紋を拡げて行く難事件が起り、目明し遠州屋小吉を初めそんな中で途方に暮れていたとき、若さまの名推理で御用商の看板をエサに老中、お納戸役、商人の悪者一味の奸計の核心が絵ときのように解決されて行きます。橋蔵十八番”若様シリーズ”3年ぶりの登場で、若さまシリーズ第8作目になります。撮るのは佐々木康監督。橋蔵さんのデビュー作品「笛吹若武者」は佐々木監督の撮ったもの、それからずっと橋蔵さんを見てきた監督が、橋蔵さん主演ものを撮るのは久しぶりのこと、そして「若さま」シリーズを撮るのは初めてになります。でも、橋蔵さんを知り尽くしている監督ですから、お正月にふさわしい作品の中に橋蔵さんの魅力も満載。作品「若さま侍捕物帖」はお正月映画なので、明るく、派手で、映画館で途中から入って見ても分かる映画にしたと語っています。そこで華やかにと、橋蔵さんの若さまが着る衣装も一着20万円位するものを何回ととっかえひっかえして私たちの目を楽しませてくれるようです。そして、何といっても、舞台が江戸の両国に戻って来たことです。◆第69作品目 1960年12月27日封切 「若さま侍捕物帖」 若さま 大川橋蔵おいと 桜町弘子おちか 三田佳子月美香 藤田良子お花 円山栄子お澄 花園ひろみ鈴木妥女 山形勲佐々島俊蔵 千秋実唐金屋総右衛門 三島雅夫お蝶 清川虹子英明院 花柳小菊堀田加賀守 坂東好太郎山田文五郎 加賀邦男弥平 沢村宗之助松造 吉田義夫頓平 茶川一郎遠州屋小吉 本郷秀雄熊谷民部 戸上城太郎平吉 笑福亭福郎おとそ気分の松の内、奇怪な事件が持ちあがった。御用商酒問屋伊勢屋の清酒で、毒見役が命を失い、見廻り役も何者かに暗殺される。正月そうそうは野暮用お断りと事件にかかわるのを断っていた若さまが腰をあげその真相を探ります。スクリーンに表題「若さま侍捕物帖」が映しだされた時の音楽は何か起りそうなと重々しい感じであったが、スタッフ、キャストの画面になると、明るい軽快な「若さま風来坊」の歌にのって流れていきます。江戸城内の伊勢屋の清酒が収めてある蔵のところで、鈴木采女が蔵の見張り役に何かを頼んだようで金子を与え立ち去ります。その見回り役は家に帰ったところを待ちかまえていた賊に殺されます。年の初めの祝いをやっていた御用商酒問屋伊勢屋に、城に納めた清酒に毒が入っていたと役人がやってきていました。目明し遠州屋小吉が慌てた様子で船宿喜仙にやってくるや、「若さま二階か?」と、おいとにたずねます。「どうしたんです、お正月そうそう」と呆気にとられるおいとに、「ちょいと上がらせてもらう」といい二階の部屋に行くと、”今年より野暮用一切お断り 佐々島旦那 小吉親分へ 若”と貼り紙が貼ってあります。なんでもかんでもここへ走り込み若さまについつい甘えてしまう、今年は反省しても俺一人でやってみよう、と反省して帰ろうとしたところへ、与力の佐々島俊蔵も若さまのお知恵を借りようとやって来たようです。その若さまは、丹前風呂が気に入って通っているようです。大広間で大勢の人達がおしゃべりをしている中の職人らしき4人ずれが、伊勢屋の件、そして見廻り番が殺された件の話をしている向こう側に一杯やって楽しそうにしている若さまが居ます。 「おう、お勘定」といった若さまの声を聞いて、頓平と兵吉がやってきます。「黙って聞いてちゃずるいや、あっしの情報は瓦版より早いんで」という頓平に、若さま「ハハッ、だが、聞いていてあんまりうれしい話でもなかったな」といいながら、何となくその話に興味を持ったようです。 船宿喜仙では、若さまの帰りを待っていた与力の佐々島と小吉親分が腰をあげ店を出たところに、「いよう、お二人揃って何の用だい」と声をかけたのは丹前風呂から帰って来た若さまでした。 若さまのところに用があって来たとはいわずはぐらかす二人に、若さまは歩きだしながらこういいます。若さま「二人ともひどく呑気だな。今朝は見廻り役の侍が殺されたり、御用商人が お取りつぶしになったり、大変だぞ」佐々島と小吉は「あれっ」と顔を見合わせます。 若さまが喜仙の暖簾をくぐると、おいとが「お帰んなさい」と迎えに出て来ました。佐々島と小吉も店へ入ると、「若さま、もうご存じで」という佐々島についで「こいつは手っ取り早くていいや、若さまそれですよ問題は・・・」と小吉がいったところに、若さまが「おっと、親分」といってきます。「親分だなんて」と照れる小吉を佐々島が制し、小吉が何でしょうと聞くと、おいとがすかさず「野暮用はお断りですって」と、そうだったと反省する二人。 すると、若さまが、おいとに「おい」と笑顔を見せ、手でお金をくれ、という風にするが、おいとがそれに答えないので、若さま「おーいっ、貸してくれ」 それに対し、おいとが「またお出かけですか」ときたので、出した手を「うーん」といいながら引っ込めると、若さま「一緒に来るか」おいと「あら、どこへですか」気分よくそれに答えようとする若さまを、小吉の「あのう・・・」が遮ります。その小吉は若さまに事件の現場でも・・・、と聞いてきたので若さまも・・・・・若さま「ハッ、二人とも風呂屋に行ってみな、色々なことが聞けるってさ」そういって、おいとの方に笑みを見せるのです。 続きます。
2024年08月19日
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領民の幸せのために、この命をささげよう正人が城に帰って来ました。師景は祐吾が父直之進の仇討ちをすることを認めます。師景にしてみれば、正人を亡き者にするには好都合でした。正人は剣の達人、祐吾を勝たせるために祐吾にも内緒で策略をめぐらします。二人の家臣に一つは、果し合いの前に正人と祐吾に水瓶の水を飲ませるようにいい、毒を入れた方が正人に飲ます水瓶と、もう一つは、白い紐が巻きつけられた剣が正人で水色の紐が巻きつけられた剣が祐吾、決して間違えるなといい、祐吾の剣の切先に、これで正人を刺せば必ず死ぬという猛毒をぬります。師景は家臣達が集まっている広間で、祐吾に用意はよいかといいますと、祐吾は父の仇だいくぞ、といってきたが、正人は「お前とは闘いたくない」と拒んでいると、師景が「正人、叔父としてせめてものなさけじゃ、尋常に作法通りの立ち合いをさせてやる」というと、家臣が先程用意しておいた剣を正人の前に持っていき、白い方を正人に差し出しました。「やむおえん」正人は剣を取り抜きます。祐吾も剣を抜いたところで心静めてまず両名喉を潤し、と水瓶から盃に注がれます。注いでいる家臣が師景の方を見る様子から正人は何かを感じとったようです。そこへやって来た時子も、師景の様子を見ると、盃の水を飲もうとしていた正人に「正人、その盃はこの母が受けましょう」というと師景が正人のところに行こうとした時子の前に立ちふさがったのです。 正人とはこれが根性の別れになるかもしれない・・・という時子を「ならんというたらならんのじゃ」と激しい口調で止めるのです。それをじっと聞いていた正人は、師景の方を見ながら、盃の水をこぼします。師景は祐吾に「祐吾何をしておる、早くたてい」と声をあげると、正人も盃を投げ、祐吾との勝負になります。 皆が息を呑んで見ている中、二人の息づかいと剣のぶつかる音だけが響きます。二人に疲れが見えてきたとき、祐吾が正人めがけ向けていった剣は正人にはらい飛ばされ柱に刺さってしまいます。 剣をなくした祐吾は負けたと同じでどうでもできるのですが、正人はちらっとに笑みを見せ、自分が使っていた剣を祐吾に投げ与え、自分は刺さっている剣をとります。師景はまずいと思ったでしょう。 再び剣を交えたが、正人の剣に祐吾が手傷を負います。すると、師景が無言で合図をすると次の間にいた鉄砲隊が正人を狙います。 時子「正人、危ない」と叫び正人の方へ駆けだしたとき、鉄砲の弾は身を低くした正人ではなく、時子に当ってしまいます。師景は正人を斬れと命令します。祐吾は傷口からの毒がまわり正人の前で倒れていきました。母と祐吾に気を取られたすきに、槍で太ももに傷をおった正人は、母にいわれ、師景を追って行きます。 師景は城の外で待ち伏せています。正人が姿を現したとき、矢は正人に向けられました。「師景卑怯な」と叫び正人が倒れます。微塵も動かない正人。その正人をかたずけようとしたとき急を知らす法螺貝が鳴り、正人はそのまま放置されます。 宗恵を先頭に、松明をかざし城に向かってくる領民達の一揆の大軍がやって来ていました。そして、その騒ぎの中命を亡くしたかと思った正人が息を吹き返し、立ち上がり天守閣へと上って行きます。ゆく手を阻む家臣達を倒し、残るは師景一人になりました。 城は領民達により、火の海となり、天守閣も燃える中、正人は師景との一騎打ちの末、一刀の下に倒しました。王見城が焼け落ちて行きます。宗恵は正人を探します。 翌朝、焼け落ち燻ぶる王見城後に、生き残った領民達が集まって来た中に、宗恵に助けられ正人がやってきます。領民達の歓声に迎えられていると、戸板に乗せられ運ばれてくる光景が目に入ります。 運ばれてきたのは、雪野でした。 正人は雪野に話しかけます。正人「雪野、お前だけは殺したくなかった。お前だけは・・・許してくれよ」雪野に頬ずりし、正人は涙を溜めながら泣き声で雪野に話かけます。正人「愚かな俺には、他にとる道はなかったのだ。・・雪野、俺はお前の純な魂を ただ一つの心に、領民の幸せのために、この命をささげよう。許せ・・・、 許してくれよ・・・」 (完)🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)炎の城・・・(5)炎の城・・・(6)炎の城・・・(7)炎の城・・・(8)炎の城・・・(9)炎の城・・・(10)
2024年08月05日
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どうしても果たさなければならぬ仕事がある領内の一揆は手には負えないほどに拡がっていると、城に帰って来た祐吾は、父直之進の仇正人を討つという復讐の念を固く誓い、直之進の眠る墓前に行くと、毎日花を添えている雪野の姿がありました。必ず正人を探しだし斬るという祐吾に、雪野はどんなことがあっても正人が好きだと答えます。そこへ正人を城下で見た者があるという知らせが祐吾に届き立ち去った後、泣き崩れる雪野が背後を振り返ると、正人が立っています。雪野の「正人様」の声に、正人は駆け寄り、二人はしっかりと抱き合います。 やっぱり帰って来てたと喜ぶ雪野に正人「俺は間違って直之進を刺した。許してくれるか」 そんな正人に、雪野は雪野「私を連れてどうぞ何処かへ、知らない人ばかりいるとこへ逃げてください」正人「俺もそうしたい・・・そうしたい」雪野「父はあなたに殺されました。でも私はそれを忘れます。兄はあなたを父の仇 とねらっております。でも私は兄を捨てます。あなたと共に暮らせるのなら ・・・」正人「雪野」 雪野「あなたから頂いたやさしいお言葉の数々、私はそれを一日とて忘れることは できません。忘れることはできません」正人「雪野、その心は俺とて変わりはない。・・・だが、・・・許せ・・・」そういって、雪野と握り合っていた手をほどいて立ち上がります。 雪野は正人の真の心を見たのです。雪野「それでは正人様、正人様は私のために帰って来てくだすったのでは・・・」正人「そう聞かれたら・・・俺は、そうではないと答えねばならん」では、何のために・・・と言いたそうな雪野に、正人「父上の子として、どうしても果たさなければならぬ仕事があるのだ」 雪野「そのためには、この私はお邪魔なのでしょうか」正人「答えねばならぬのか」じっと正人の方から視線を外さずいる雪野、しかし正人は振り向かず、その様子から精一杯耐えていると、正人は「・・・許せ・・・」と一言いって立ち去るのです。 正人の言葉から絶望した雪野は、夕暮れの海に吸い込まれるように入っていきます。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)炎の城・・・(5)炎の城・・・(6)炎の城・・・(7)炎の城・・・(8)炎の城・・・(9)
2024年07月29日
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城へ帰れと・・・早く立ち上がれと庄司が身を挺して逃がしてくれ、城下を駈け抜け小舟で海に出た正人は、ある島に打ち寄せられていました。その島の小屋に正人の姿がありました。陀七という男が、疲れはてている正人に大盛飯をもってやってきます。正人が助けられたところは倭寇と呼ばれた海賊達が集まるところでした。陀七が仲間に入れと誘います。正人が「帰るところが無くなった人間なんだよ」というと、陀七は頭に会えと正人にいいます。正人は「うん」と明るくいうのです。 正人は、陀七に海賊の仲間入りしたのか聞きます。陀七が話します・・・王見城に支配されていた百姓のせがれだが、年貢段銭の取立が厳しくて、親父が首を吊ったよ・・・正人は陀七に、正人「それじゃ恨んでいるだろう王見城を」陀七「当たり前じゃねえか、いずれはここの仲間に頼んで、あの城に攻め込んでえ くらいだよ」正人「復讐か」陀七「そうとも。百姓の長い間の苦しみを思い知らせてやらなきゃ気がすまない よ」 正人「お前達と同じ思いをしてる奴は多いだろうな」陀七「皆だよ。王見城領内の百姓皆だよ」 陀七「遠い国から帰って来た城の若大将は、百姓の味方だという奴がいたが、俺は そんなことは信用はしねえ。・・・どうせ口ではうまいこといったって、同 じ穴の貉だ。・・・俺はまだ顔を見たことはねえがねえ」 しけが襲来した小屋の中、陀七の言葉は正人にやるべき情熱を再び燃え上がらせるのです。小屋の中を動きながら心で呟きます。『領民達は救いの手を待っている、それを思うとじっとしてはいられない。絶望の領民達は復讐を始めるだろう、王見城に。それに、父上のこの復讐を成し遂げなければならぬ。王見城を支配しているあの男に・・・。領民の復讐と平和を好んだ前城主の世継ぎの復讐と、この二つの復讐は』、そして、声に出し「そうだ、二つの復讐はいま一つになるのだ、俺によって、この正人の中で」 城へ帰って復讐へとかきたてる気持ちに、雪野はどうしようと・・・もうこの腕に雪野を抱く資格はなくなってしまった・・・それを思うと、声をあげもだえ苦しみます。 そうしたとき、父勝正の幻影が現れます。正人は思わず「父上」と・・・勝正の幻影は正人の近くへ来ると、正人に手で合図をしたのです。「父上、城へ帰れと・・・早く立ち上がれと・・・」正人はそう理解したのです。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)炎の城・・・(5)炎の城・・・(6)炎の城・・・(7)炎の城・・・(8)
2024年07月23日
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あなたは、気が狂ってるんではないんですね正人が呼ばれて行こうとしている母時子の部屋では、丁度六角直之進に時子が話をしているところです。王見勝正を殺したのは師景、そのことを知っているのは、師景とあたしと直之進の3人だけ、しかし直之進も知らないことがあると、勝正が長い病気の折師景が無理矢理自分を犯したことを話します・・・・・ひたすら正人の帰りを待っていた、正人の前に身を投げ出して許しをこい、正人の思うままにすればよいと、・・・その正人が気が狂って帰って来た、どうすればよいかと苦しんだ、・・・時子は正人に何もかも白状してしまいたいと直之進にいいますと、「それは・・・」という直之進に「どうして・・・」と聞く時子。「和子はニセ気違いではないかという噂がございます」という直之進に、時子は「それならあたしは、いっそううれしい」という言葉がかえってきたので、そのことで直之進が意見をしているところに、正人の来るのを察し直之進は屏風の奥に隠れるます。正人が常軌を逸した状態で部屋へ入って来ます。時子は正人の父勝正を殺したのは自分ではない、それだけは信じてほしいといいますと、正人は母の顔を見て突き放し、正人「けものだ」そして、敷いてあった寝具を持ち正人「けものの寝床だ、・・・汚いな」 老いゆく身になお情欲の火を消しかねて、見ろ、この牝め脂ぎった牡と睦言だ」 時子は耐えきれなくなり、「正人」と。正人「恥を知れ、・・・といっても、けものには恥はないのだな。アッハッハ、臭 いぞ、臭いぞ、どこもかも腐った臭い」時子「そうです、・・・あたしは、一番大事なことを、母であることを忘れていた のです」正人「けものめ」 正人は、師景の使っている箱枕を時子の目の前に示し、正人「この牡は、お前の前の夫に比べれば、ねずみやみみずほどにも値しない奴 だ」そういうと、箱枕を投げつけ、座り込みます。時子には、正人の一言一言が剣のように胸を刺すと、いいます。 ひどい言葉を時子に投げつけていた正人は耐えられなくなり、どうして、どうしてあんなけものの寝床に率いられて・・・というと、顔を埋めて泣き出します。時子がもっとひどい言葉を投げつけてと、・・すると正人が、正人「そうだ、俺はもっといいたい、ののしりたい。・・・でも、でも父上の声が 聞こうるのだ。・・・弱い者よ、それが女だ。お前の母上はあんなに苦しん でいる。もう助けてやれと・・・」そのとき、時子は正人の方に向きを変え、正人を見つめます。正人「そんな父上の声が聞こえるんです」涙を流している正人の顔をじっと見つめると、確信したのです。時子「正人、・・・あなたは、気が狂ってるんではないんですね」 時子が正人にそう言ったとき、背後の屏風が動いたのです。屏風の後ろに隠れていた直之進が驚いて動かしてしまったのです。それに気づいた正人は時子の手を振り払い「けものめ」と言い放つのです。 正人「その屏風が動いた。あの強欲なけものめ、そこにいたのか」というと、剣を抜いて屏風に向い力いっぱいに突き刺したのです。 屏風と一緒に倒れて出たのは師景でなく、雪野の父直之進でした。物音で駆けつけた家中の者達を前に、正人は直之進を部屋から引きづり出して行きます。そこへ、「正気の沙汰ではないぞ、手出しはならん」庄司に逃げるよう促され庭先へ出た時、父に泣きすがる雪野の声、追いかける侍達に立ちふさがり正人を守るため命を落とす庄司の絶叫を背に、正人は城下を駈け抜けて行きます。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)炎の城・・・(5)炎の城・・・(6)炎の城・・・(7)
2024年07月14日
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もっともっと苦しめなければ復讐にはならない師景は、正人は気違いではない。なるべく早い機会に正人を倒そう・・・。自分の野望を妨げになる者はすべて打倒すというのです。祐吾が捕らえて来た百姓一揆の首謀者たる12名を領内の者達の見せしめのためにも死刑にすることに決ります。海に突き出た岩場に二人が一組に縛られ立っています。まずは一組に弓矢が放たれ二人の百姓は胸を射抜かれ海へ落ちて行きます。次は火縄銃が狙いをつけて引き金が引かれようとしたとき、「やめろ、散れ、その人達の縄をとけ」馬を飛ばし駈けつけたのは正人でした。「やっぱり正人様が助けに来てくれた」と大喜びする宗恵達です。復讐のためにも、領民を救うためにも、師景を討つこと、手段はそれ以外ないと、城に戻った正人は、出迎える庄司に目をやると、一目散に師景の寝所に足を向けます。庄司は黙ってその様子を見守ります。寝所近くまで行くと、ゆっくりと剣を抜き寝所に踏み込み剣を振り上げます。そのとき菩薩像が目に入り、師景を亡き者とする振り上げた剣は宙に止まったままになっていました。 正人は心で静かに叫びます。『ほとけに見守られた彼奴の眠りは極楽、さきに熟睡するこの極悪人をこのまま一瞬の苦痛であの世にやっていいのか、父上それであなたのこの世の妄執ははれるのでしょうか・・・そして、・・・』 正人は振り上げていた剣を静かに降ろしながら、『・・・この俺は仏の前で、この手を悪事にまぎらす卑怯な騙し討ちと人にはそしられ、王見正人の武士道は地に落ちる・・・それでいいのか』 正人が力なく師景の寝所から出てしばらく立止まって、離れて見守っていた庄司の前を黙って通り過ぎて行きます。その正人に庄司が「何故?」と、「もっともっと苦しめなければ復讐にはならない」と正人。正人が落ち着いたところで、先ほどから何度も奥方様から使いがあり、「お部屋の方へおいで願いたい」と申されているというと、正人の気持ちには動揺がありましたが、「母上が」・・・・・「いつかはあなたに・・・」・・・「・・・そのときが・・・」・・・「とうとう来ました」 母時子のところへ出向く決心をしました。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)炎の城・・・(5)炎の城・・・(6)
2024年06月29日
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雪野、・・・すまん・・・許せよこの手で母上に復讐することはできない、と・・・どうして証拠をにぎろうと、どうして復讐など誓ったのかと、嘆き苦しみ、耐えきれなくなった正人は、その怒りを庄司にぶつけて行きます。正人「庄司、・・・何とか言ってくれ・・・」声を荒げて、庄司に救いを求めます。庄司「正人様は考えるお方です」正人「なにぃ」庄司「苦しむお方です。・・・しかし、一旦お心が決まったら、必ず実行されるお 方です。・・・強い勇気をもって・・・」静かな口調でいう庄司の言葉に、勇気づけられたのでしょう。正人「庄司、俺は祐吾のような男になりたいぞ。・・・今こそ、今こそ、あの男の ように・・・」 正人はそこまでいって、廊下を渡って来る雪野が目に入り、話をやめます。正人の母時子が今の方へ正人に来てほしいとのことで雪野が迎えに来たというのです。庄司は「申し上げてもお分かりになるかどうか」といい、正人に「お聞きになりましたか」というと、正人は無言で首を縦に振ります。 庄司「では、おいでになりますか、・・・母上様のお居間へ」正人「・・・母上は俺など、生んでくれなかった方がよかった」その言葉に雪野が驚きます。正人「人間はみんな悪い、悪者ばかりだなあ」 庄司が庭先に様子を窺っていた者を追って行きます。正人は、雪野に、お前も生まれて来ない方がよかった、といい、立ち上がり雪野の方に、雪野も正人の前に、気の触れた態度は崩さず、「寺へ行こうか」と話しかけると、正人「なっ、俺と一緒に寺へ行こう」雪野「正人様、ほんとに気が狂っておいでなのですか」 そのとき、正人の心が乱れるのです。雪野は、正人が明国へお発ちになるうれしい誓いの言葉と一緒に頂いた品でございます、お忘れではございますまい。「正人さま、この鏡の前でお聞かせください。本当のお心を・・・正人様」 正人の背にもたれかかる雪野に、正人「祝言をするなら、相手は阿保がいいぞ。世の中に馬鹿ほど幸せな者はいな い」私だけには、そのような言葉を・・・と悲しい顔で正人から離れる雪野に、追い打ちをかけるように、 正人「女は、紅や白粉を塗りまくるぞ、天から授かった顔を、もう一つの顔にこし らえるぞ。・・・化け物だなあ」雪野は、「私にだけはどうか真実のお言葉を・・・」 そこへ戻って来た庄司に、正人が気が狂っているとは・・・思えないという雪野、すると、正人が急に大笑いをしはじめます。「このとおり、これが正気の人の笑い声か」と、正人を援護します。正人「女は嫌いだ。女は汚い、娘も汚い、妻も汚い、母も汚い、女は嫌いだ・・・ お前も嫌いだ。・・・出てけ」 雪野が出て行ったあと、奥の間の正人は、・・・辛かったでしょう・・・、正人「雪野、・・・すまん・・・許せよ・・・」 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)炎の城・・・(5)
2024年06月23日
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母上にも復讐しなければならんのか城中広間では、正人が呼んだ猿楽の狂言が始まろうとしています。師景は直之進から一座を呼んだのは正人で、一座が古事記の一つを見せてくれるということ、・・・正人が何か企んでいるとしても、まことの気違いか、うその気違いか、探りをいれるのによい機会だ、と広間へ出向きます。途中から入って来た正人は、雪野のところに行き寝そべっています。 狂言は終盤を迎え・・・弟は兄の妻とよくない謀を企て、兄を倒して我等の天下にする。すなわち兄の妻に兄の命を奪うようにさせる・・・という場面になりました。時子の顔色が変わるのを正人が見てとります。そして、雪野にこうつぶやくのです。正人「雪野、母の後ろには、父上がお出ましになって見ておられるぞ」その言葉に、「はっ」として雪野は正人の方を振り向きます。狂言が妻が夫を殺す場面に入ろうとしたとき、「無駄な口上はたくさんだ、早く人殺しを始めろ」と正人の声が飛びます。 妻が夫を刺す場面になったとき、時子は顔をそむけるように、師景も驚きの顔をし、弟が最後の止めを刺した場面で、時子が悲鳴をあげると、「もうよい、やめろ」師景の声がしたのです。部屋に帰った正人は正人「庄司、見たか・・・叔父上、母上の様子を・・・」あれが動かぬ証拠だ、計画が図にあたったと喜び興奮しますが、「しかし・・・」と複雑な思いが去来するのです。 正人「父上の顔に涙をながしながら、母上は鎧通しを振り上げたのか・・・」庄司「でも、それを言いつけたのは殿ですよ、きっと」正人「言いつけた叔父上は憎い。父上をやっつけたのは叔父上だ。・・・だが、母 上はその言いつけを守って・・・俺は母上にも復讐しなければならんのか」それに対し、庄司はいう言葉がなかったのです。正人は、この手で母上に復讐することはできない、と・・・どうして証拠をにぎろうと、どうして復讐など誓ったのかと、嘆き苦しみます。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)炎の城・・・(4)
2024年06月15日
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俺は心を決めたぞ時子の兄の六角祐吾が正人の帰りを待っていました。城のため、妹時子のために正人の帰りを心待ちにしていた祐吾にとって、気が狂って帰って来た正人は許し難かったのです。庄司に思いを話すと、「いつまでも未練は残さず、正人様は死んだも同様と思って出かけるぞ」という祐吾に庄司が「どこへ?」と聞くと、「領内の百姓に一揆の気配がある、殿の命令で倒してくる」といい、祐吾は「若殿」といい深く頭を下げると部屋を出て行きます。正人「祐吾が村々の一揆をおさえに出かけるといったが・・・庄司、俺は村の 者達と約束をした・・・」庄司「えっ?」苦しげな表情をする正人。 祐吾が時子は、父直之進と兄祐吾に、正人様は本当に気がくるっているのだろうか、とてもそうとは思えない、といい出します。「もしもニセ気違いだとしたら、こんなことをする理由が・・・」祐吾がそう思うわけは何か聞きます。雪野「目です、私を御覧になる、そして奥方様を御覧になる目です。あの澄みきった目がどうして気の狂った人の目といえましょう」居室で物思いに沈んでいた正人は何かの気配を感じ振り向きますと、亡き父勝正の幻影が現れたのです。そして、正人を促すように・・・音もなく部屋を出て去っていくのをみて、「父上」と夢中で勝正の幻影を追って行くと、幻影は師景が寝所まで導いたのです。 寝所に踏み込もうとした正人でしたが、見張っている者の姿が目に入り、気がふれている迷った風に廊下を戻って行く途中、正人を心配して来ていた庄司に「あそこはごみ溜めより汚いぞ」と呟きます。 一揆を起す百姓を何人でも斬るため、意気揚々と出発する兵の様子を見て、師景の野望が成し遂げられていることを確認し、正人は「村の人達との約束を守らなくてはならない・・・しかし城内でも仕事はある」と自分にいいきかせ、正人「庄司、俺は父上を見たぞ」庄司「えっ」正人「うつつではなかった。しかし夢でもない。父上は血にまみれ、無念そう な顔で、何か俺に話しかけていたようだ。確かにそう見えた」庄司「正人様は、それで」正人「俺を導いて行ったのだ。・・・叔父上と母上の寝所の前まで」庄司「えっ」正人「何か恐ろしい秘密があることはもう疑いない・・・庄司、俺は心を決め たぞ。秘密があるのなら、きっとそれを暴き出してみせる。・・・それ も近いうちに・・・どんなことをしても、きっと・・・」 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)炎の城・・・(3)
2024年06月06日
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証拠を掴んだら・・・復讐だ薄暗い天守への階段を上って行く正人の姿があります。正人「父上の死因は何だ・・・何かある・・・殺されたのか・・・そうとすれば誰 に・・・証拠をつかまなければならぬ・・・、証拠を掴んだら・・・復讐 だ」 呟きながら天守の階段を一歩一歩踏みしめ登って行きます。父上はいつも平和を願い、叔父上は野望のために・・・その叔父上と母上はどうして寝床を同じくしたのか、正人の心中に複雑な思いがこみ上げてきたとき、下から「正人・・・正人・・」と母の声がしました。 母時子は雪野と共に、正人を求め階段を上がります。天守の外に身を隠していた正人が笑い声をあげ中に入って来ます。「どうしたのです・・・」と問いかける時子に答えず、手をはらうようにします。 雪野が時子に促され正人に「雪野ですよ・・・どうなすったんです」と近づくと、雪野の顔を両手で持ち上げ不気味な笑いを浮かべながら見て、「空は日本晴れだ」というのです。そんな正人に雪野が「私達の望みです、たった一つの誇りです、・・・お気を確かに・・・」と話しかけます。 すると、正人が「雪野」といい話しかけてきたのですが、正人「雪野、見目うるわしい女か・・・操は正しいか・・・美しさは操を売って売 女にかえる商人だ。・・・・・怖い・・・海は怖いな、怒ると人を呑むぞ」というと、再び笑い声をあげ外へと出て行きます。 師景は正人が気が触れた理由を探り当てるため、正人から片時も目を離さず尾行の者を二人つけるのです。天守から出て来た正人のところへ多治見庄司が駆け寄ってきます。正人は何もいわず速足である程度距離を歩いたところで、庄司の方を振り向くと丁寧にお辞儀をします。正人は尾行されているのを分っていたのです。 そしてゆっくりと歩きだし、庄司に話しかけます。正人「ニセ気違いともならないと殺されるところだった」と。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)
2024年05月27日
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「よし、約束しよう、必ず、力の及ぶ限り・・・」農民達が大勢集まっている場所に顔を出した正人は農民達が年貢で苦しめられていることを知り、正人「よし、約束しよう、必ず、力の及ぶ限り・・・」農民達から歓声が上がった。 その夜、城では正人が帰って来た祝いの宴が開かれた。師景「正人、よく無事で帰って来たのう、・・・みんなお前の帰りを待っていたの じゃ。・・・今日は、お前の無事を祝って、無礼講で祝おうというのじゃ」そういう師景の方をじっと見つめる正人に、直之進が異国の面白い話を聞かせてほしいと投げかけます。 その様子を目にしていた人々は、正人の気が触れていることを察しました。正人が口を開く。正人「明国は広い、海は青い」そんな正人に、師景「ええ、お前は、父の死を聞いて心乱れたのかも知らんが、これからはのう、 この叔父を誠の父とおもってくれよう、よいか」 師景に対しての正人の返事は、ただうつろな、不気味な笑い声でした。そしてふらふらと歩きだし。正人の目は雪野を探し、答えるように正人を見つめる雪野の目を見つめると、ふらふらと宴の席を抜けていきます。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)
2024年05月18日
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シェイクスピアを翻案した時代劇というと黒澤明監督の「蜘蛛巣城」「乱」の二作品があることはご存じでしょう。ここで紹介する「炎の城」と黒澤監督の二作品に共通するところは、時代背景を戦国時代にしていることと、4大悲劇にもとづいていることです。加藤泰監督は、黒沢作品「羅生門」ではチーフ助監督をやっていました。「蜘蛛巣城」からはモノクロで水墨画を思わせる画面と力強さで描かれていますが、「炎の城」は華やかな美しい色彩感覚の映像の中に細やかな心理劇が展開されていきます。ラストの燃えさかる城の凄まじい変化の状態を描いていきますが、その中での殺陣の場面は東映時代劇の要素を見せないものになっているといえましょう。加藤監督は「炎の城」は”失敗作だ”と自戒の言葉を残した最大の理由には、ラストシーンにありました。当時のスター中心の考えの会社側との意見の違いから思うように撮影できず、不条理な結末にしてしまったことです。◆第68作品目 1960年10月30日封切 「炎の城」 王見正人 大川橋蔵六角雪野 三田佳子王見時子 高峰三枝子王見師景 大河内傅次郎多治見庄司 黒川弥太郎六角直之進 薄田研二六角祐吾 伊沢一郎相楽宗恵 坂東吉弥王見勝正 明石潮陀七 河野秋武シェークスピアの有名な「ハムレット」を時代劇風に脚色、1560年頃の瀬戸内海沿岸の玉見城を舞台に繰り広げられる復讐劇。留学先の明から帰国した王見城の若殿・王見正人を待ち受けたのは父・勝正の急死だった。叔父の師景が正人の母・時子を妻にして城主となり、悪政によって民を苦しめていることを知った正人は、乱心を装って周りの目を欺き、父の死は師景の謀略であることを追及、討とうとするが・・・。真相を確かめるのだ海岸沿いの映像・・・今から400年近く以前、瀬戸内海の沿岸に・・・場所は王見城、六角直之進に城主王見師景は、昨夜正人の乗っている船が嵐にあって沈む夢を見た、これが正夢ならわしは運がいい男だ、と話しているところへ、物集港から早馬で正人の姿を見たという知らせが届いたのです。その知らせを聞いた王見城の若い家臣達は正人の帰るのを希望をもって待ちこがれ、また、時子に仕える雪野もまた正人の帰りを喜んでいます。師景と直之進は正人の帰国をどう迎えるか考えている頃、多治見庄司が小舟でやって来た正人を出迎えていました。父上のこと、叔父師景の悪事と師景の妻となった母時子のこと等、変ってしまっている王見城の様子を教えてくれた庄司に正人は感謝するのです。 このままでは、叔父師景にも母時子にも会えぬという正人。庄司が、正人にこれからどうされるのかと聞くと、正人「真相を確かめるのだ、証拠をにぎるのだ。父上が急病で亡くなったというの は表向きのことで、その本当の死因については、いろいろなことをいう者が いると、お前いったではないか」ひとまず城へ帰らないと・・・という庄司に、明国へ連れて行った供の者達を先に返してある、といい父上が亡くなってお役御免になり国へ帰った老臣二人から何か聞けるかもしれない、と訪ねます。まずは一色主女を訪れたが。すでにこの世の人ではなくなっていました。お役御免になって帰って来ると、すぐ城からの使者が来て、先君の殉死を求め、その場で切腹させたというのです。「恐らく、主女殿は何か大事なことを知っていたのです」と庄司がいいます。 正人は庄司に先に城へ帰るように、そして、「雪野に俺も間もなく帰るからと伝えてくれ」海の向こうの新しい知識を得、誰も彼もが安穏に暮らせる天国にしたかった、しかしそのために父が一番自分を必要とした時にその場に居合わすことが出来なかった、と正人は悔やみます。正人は庄司に先に城へ帰るように、そして、正人「雪野に俺も間もなく帰るからと伝えてくれ」といい、もう一人の相楽伊賀亮を訪ねます。が、伊賀亮もこの世の人ではありませんでした。国へ帰って来た翌日、裏の沼で釣りをしているところに、急に矢が飛んできて胸板を貫いた、というのです。城へ訴えたが何の音沙汰もなく泣き寝入りで・・・それでいやになって百姓になった、という息子宗恵の気持ちを思い、正人「無理もないことだと思う・・・が、伊賀亮に聞きたいことがあって来たん だ」その言葉に宗恵が正人の方を振り返ったとき、「より合いだあ」という声が聞こえに、「何事だ」と聞くと、宗恵は正人を誘い村の話を聞いてほしい、と。宗恵「今村は大変なことになっている、みんな正人様の帰りを待っていたんだ」正人「・・・うん」 続きます。
2024年05月08日
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生涯を、八幡大菩薩の旗の下で暮らすのだ右衛門太夫の船では、今夜イスパニアの船に女達を売り飛ばす前祝いをやっています。青影丸と住吉丸が静かにニセめくら船に近づいていました。ニセめくら船がそのことに気づいたときには、大砲が打ち込まれます。そして、その大砲の音を聞き、対岸に待機していた鹿門は「いまだッ」というと、鹿門「それッ」といい、先頭で海に飛び込みます。 青影丸、住吉丸の攻撃に気を取られている間に、泳いでニセめくら船に乗りこもうというのです。 帆をあげている船員に気がつかれたので、鹿門は「潜れ」と指示します。海中めがけ飛んでくる銛をかわしながら船まで近づくと、投げたかぎ縄を伝って船に上ります。 ここから、双方入り乱れての船上での立廻りになります。青影丸や住吉丸が応援に来ると新蔵人の名を呼ぶ鹿門がいました。寿賀、与太夫、も応援に右衛門太夫の船に斬り込んでいきます。 大混乱のなかでの、鹿門と右衛門太夫の一騎打ちが始まります。色んな手段でかかってくる右衛門太夫に応戦する鹿門。右衛門太夫は剣を振り払らわれ追い込まれ、鉄砲を鹿門にむけますが、新蔵人により鉄砲も蹴落とされ、帆柱に上って行きます。鹿門は蹴落とされそうになりながらも、右衛門太夫が上りきったところで一刺し、仇を討ちました。右衛門太夫は海へ落ちていきます。 小静と五兵衛は助かり、無事会うことができました。 澄みきった青空のもと、八幡船団は帆にいっぱいの風を受けて、一路目的地に向かって進んでいきます。めくら船の先端に、大海原をじっと見つめている鹿門の姿があります。寿賀が鹿門に近づきます。鹿門と寿賀のにこやかな表情がとても素敵です。寿賀「とうとう、海の男、八幡船の男になってしまったわね」鹿門「寿賀さん、俺は入道殿や父君の意志を継ぎ、八幡船の頭領として働くぞ」寿賀は優しく鹿門を見つめます。鹿門「・・・生涯を、八幡大菩薩の旗の下で暮らすのだ」そういって、風になびく八幡大菩薩の旗を見あげる鹿門の顔には、海の男の力強い誇らしさが溢れています。 (終)🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(17)海賊八幡船・・・(16)海賊八幡船・・・(15)海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年04月27日
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鹿門・・・寿賀の気持ちを受止めます鹿門が先頭で三艘の小舟が密林の狭い流れを進んでいきます。その周りはもうバランガ族に囲まれているのです。鹿門がそれに気づき、黒白斎に鹿門「見張られているぞ」といいます。 バランガ族の目が光るなか、伐採の作業を遂行します。鳥らしき異様な鳴き声が響くなか、切り倒した材木を小舟に結び付けるため水辺まで運んで行きます。小舟に材木を結びつけていた者達が水の中へ放り出されたかと思うと、バランガ族は矢を放ってきす。その矢が鹿門をめがけて来たところに陳が立ちふさがり、鹿門に逃げるよういいます。 森の奥から「ワーッ」というこえが聞こえバランガ族の大群が押し寄せて来ます。鹿門、新蔵人、黒白斎、寿賀はじめ八幡船の乗組員達は石銛が飛んでくる中を必死で逃げます。そんななか寿賀と黒白斎が捕まって連れて行かれてしまいます。鹿門や新蔵人達も追い詰められて身動きが取れなくなったとき、負傷しておいて行かれた伝馬がやって来ていて、爆薬をバランガ族に投げつけ助かり、今度は反対に鹿門達がバランガ族に向かって追いかけていきます。 しかし、あるところまで追って行くと誰もいなくなり辺りは静寂に、恐る恐る前進したところに見たのは、捕らわれ木に縛り付けられた黒白斎と寿賀でした。 鹿門 「爺」新蔵人「寿賀」と叫びかけより縄を切ろうとしたとき、銛が背後から突き付けられます。 全員木に縛り付けられ、バランガ族の儀式のようなものが始まります。 黒白斎が、鹿門に、我々は右衛門太夫の一味と間違えられている、といいます。鹿門「なに、右衛門太夫と・・・」親や兄弟が右衛門大夫に皆殺しにされ、その仕返しをめくら船に乗っていた我々に仕掛けて来たのだ、というのです。違うといっても、黒船が証拠だと聞かないのだと。 恐怖に耐えられなくなっている寿賀に、鹿門が声をかけます。 鹿門「寿賀さん、ほかのところを見るな。俺の目を見ろ」そういわれた寿賀は、ゆっくりと顔を鹿門のほうに向けます。 銛が二人の間を・・・そのなか、少し落ち着いた寿賀が鹿門に話しかけます。寿賀「あたしのために・・・小静さんが探せなくなって・・・」鹿門「いうな・・・寿賀さん、・・・美しい因島の浜辺を、馬に乗って走っている と思え。・・・俺と一緒に並んでな」寿賀が、それに首を縦に振り答え、そして寿賀「鹿門様・・・好きよ・・・好きよ・・・」鹿門も寿賀の気持ちを受止めます。 同じ木の後ろに縛り付けられていた新蔵人が鹿門に声をかけ、新蔵人「お主だけは生かしておきたいなあ」鹿門 「何をいうんだ、ここまで来て仲間外れにするな。俺は八幡船の男ではない か」新蔵人「八幡船の男だから、生かしておきたいのだ」そんな二人を見ていて、「これが船の上だとな」と嘆きます。 かしらの合図で物音が止み、次の合図で槍を鹿門達に向けあわやというとき、右衛門太夫の手下で船の見張りをしていた男をみつけたといって連れてきました。その男の息をかしらが止めました。そして、鹿門のところへ行くと縄を切ったのです。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(16)海賊八幡船・・・(15)海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年04月21日
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頭領だからこそ行くのだ波を見つめ、決心に間違いないことを確かめたあと、月影のもれる密林をさまよっていた鹿門は、沼で水浴びをしている寿賀にきずき足を止めます。寿賀も鹿門に驚き、鹿門は目のやりどころに困り、急いでそこから立ち去ろうとしたとき、 寿賀が「鹿門様」と呼び止めます。寿賀のほうを見た鹿門に、「さっきは有難う、すっかり元気よ」と明るい寿賀に何もいえず、恥ずかしそうな表情をして行こうとする鹿門に、寿賀は「待って・・いま行くわよ」と声をかけます。 二人は楽しそうに歩いています。 鹿門「そなたは何でもできるんだなあ」寿賀「男勝りのお転婆といいたいんでしょ」鹿門「いや、褒めてるんだよ」鹿門「妹の小静も泳ぎが上手かった」寿賀「お可哀想に・・・早く見つかるといいのにね。・・・でも、小静さんが見つ かったら、鹿門様は堺に帰っておしまいになるんでしょ」 鹿門は笑みを湛え鹿門「・・・俺が帰ると思うか」といった鹿門に寿賀は嬉しそうに、寿賀「帰るような人だったら、・・もう、めっちゃくちゃに・・・」と、鹿門に寄っていくと、鹿門のほうも寿賀がすがって来るのをうれしそうによけながら、鹿門「ほれ、また激しいのがはじまった、・・・さっき褒めたばかりじゃないか」寿賀「・・・あたし・・・鹿門様に、もう・・・意地悪いえなくなっちゃった」 そのとき、鹿門は何かに気づいたようで、さっきまでの表情とは違い、険しさのある顔で寿賀に寄って行きます。 そして、寿賀を見つめると、鹿門「寿賀さん・・・・・」そういうと、寿賀を押し倒します。寿賀は「なにすんのよ」と突然の鹿門の行為に驚きと抵抗しますと、鹿門が寿賀に「見ろ」といった方向の木に矢が飛んできたのです。 二人は急いで安全なところに身を隠します。そして、鹿門が短刀を木の茂みに向かって投げますと、地面に咲いている花に血が垂れ、太鼓の音が聞こえたかと思うと死体が落ちてきました。周りを見て逃げます。太鼓の音が遠く鳴り響くなり響き、新蔵人、黒白斎はじめ八幡船の乗組員達は、バランガ族に囲まれていることがわかりました。 翌日、バランガ族が獰猛な土人だということを黒白斎から聞いても、鹿門「俺は、何としても行く」頭領の鹿門に万一のことがあっては、という黒白斎に、鹿門「いうな。頭領だからこそ行くのだ」新蔵人は、修理の材木がなくてこれから先の航海をどうするのだ、といった鹿門が気に入り一緒に行くといいます。「舟を出せ」と鹿門がいいます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(15)海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年04月10日
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俺は海に来てよかったのか浜辺で焚火を囲んでの歌と踊りの宴会が開かれています。鹿門と黒白斎は少し離れた岩場にいます。海に向かって佇む鹿門に黒白斎が話かけますと、鹿門は黒白斎のほうを向きます。黒白斎「若、お父君丹後守様は、この島によくお立ち寄りになりましたぞ。この先 の泉で月明かりの夜など、笛を吹いておられたものじゃ」鹿門「爺、丹後守という人は、どんな人だ」黒白斎「・・・ようお聞きくださいました。爺はそのお言葉をどんなに待っており ましたか。・・・今そうして立っていられる若のお姿は、お父君に生き写 し、勇ましく、お優しいお心根まで、そのままでございます。・・・あな た様のお母上様は、幼いあなた様を抱いて、めくら船におわしました」 鹿門「お二人共、確かに右衛門大夫に殺されたのか」黒白斎「・・・・はい・・・」そのことを聞き、鹿門は海のほうを向くと、 鹿門「右衛門太夫が、めくら船に乗り現われたとき、俺は両親の仇を討つというよ り、奴らの非道ぶりを目の当たりに見て思わず戦った。・・・堺の船火事の 中死んでいった父、あの無残な死にかたをした父を、一日とて忘れたことは ない。・・・俺はめくら船に乗った。・・・小静を探すために船に乗った。 ・・・だが、この長い航海の間に、いつの間にか俺はめくら船、いや、八幡 船の男になっていた」黒白斎「若・・・」鹿門「・・・海が呼ぶ。・・・丹後守という父が俺を呼んでいるのだ」 黒白斎はそれを聞き、うんうんというように首を縦に、鹿門が黒白斎のほうを向き訊ねます。鹿門「爺、俺は海に来てよかったのか」黒白斎「よかったですとも、よかったですとも。そのお言葉で、道休もうかばれま しょう。亡き丹後守様も、どんなにお喜びのことか・・・」海の彼方に目をやる鹿門の表情からは、迷いが消え晴れやかでした。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月31日
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二人の間に恋の芽生え島に上陸し、負傷者達が木陰に運び込まれます。その中に伝馬もいました。鹿門が弾を取り出すことに。鹿門「いま荒療治をしてやるから、弱音を吐くなよ」と声をかけますと、「わてかて八幡船の勇士だ、弾ぬくぐらい蚊が止まっているみたいなものだ」と伝馬がやせ我慢。「よーし、はじめるぞ」と声をかけ、酒を吹きかけると、痛いと叫びもう終わったか聞く伝馬に「馬鹿、これからだよ」といい小柄を足に刺します。 その様子を遠くから寿賀も見ています。悲鳴をあげる伝馬に「それでも八幡船の勇士かい」といいながら弾をえぐり取り出し、「やっと出た」と汗を拭います。 笑いながら歩いていくと、ボーとして立っている寿賀の様子を見て、鹿門「おう、どうした、気分が悪いのか」と声をかけると、寿賀は気丈に振る舞い、寿賀「あんなことぐらい平気、あたしにだってできるわよ」と鹿門の手から小柄を取ると、鹿門に対抗するように、近くに横たわっている負傷者の腕から弾を取り出そうとします。鹿門はそんな寿賀が可愛く思っていたのです。何回も試みてやっと取り出せたのか、鹿門の「よーし、取れたぞ」の声で安心したのか、寿賀は気を失います。 鹿門は寿賀を抱き木陰によこたわせると、気がつき動こうとする寿賀に、鹿門「静かにしていた方がいい」寿賀「・・・・・」寿賀をじっと見つめやさしい笑顔を見せ去って行く鹿門に、寿賀「鹿門様」呼びかけられた鹿門が振り返ると、寿賀は優しい笑顔でじっと見つめ、寿賀「忘れものよ」と小柄を差し出します。このとき、二人の間には恋が芽生えていたのです。鹿門は寿賀のところに戻り、鹿門「なかなか上手かった。(小柄を受けとりながら)寿賀どのは名医だな」と話しかけているところに、「若~」という声がします。 島の様子を見て来た黒白斎と新蔵人達が帰ってきたのです。鹿門と寿賀は一緒に迎えに出ます。材木も見つかったと新蔵人から聞き、今夜は久しぶりに土の上で眠れると、みんな喜びます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月24日
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帆を下ろせ昼間の海戦が嘘だったような静けさの中謝花の歌声が流れ、各船の上ではそれぞれの思ひがありました。 鹿門が黒白斎に話しかけます。鹿門「爺、この港でも、小静の手掛かりはつかめなかったが・・・生きているだろ うか」生きている、気を落してはいけない、と黒白斎が、決して殺すようなことはない、琉球でダメなら次は台港です、と陳が励まします。 伝馬が謝花を見てみなさい、来る日も来る日も新蔵人のことばかり、そして「女の一生ほど怖いものはない」というと、何か思い当たる節があるのか?「バカ」と返す鹿門の顔を覗きこむのです。 熱帯特有の凄い豪雨がやって来たかとおもうと降り止み、視界が開けた先に右衛門太夫のめくら船がありました。大砲が鹿門のめくら船に打ち込まれます。雨で火薬のしめった鹿門の船の大砲は役にたたず、あの船に小静が捕らわれているかもしれない、ひきつけておいて斬りこむことにします。「帆を下ろせ」・・・相手の船も近寄ってきます。 そのとき、大砲が打ち込まれます。青影丸が来たのです、がもう少しで・・・というところで邪魔をされたため憤慨する黒白斎、鹿門は伝馬に指示を出します。しかし、相手の大砲に舵を壊されては動くことも出来ず、・・・修理のための木材を集めることと、負傷者の治療のため、近くの島に上陸します。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月18日
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わしはわしのやり方でいきたい「知らんとは言わさんぞ」という鹿門に「いいます、その代わり・・・そのかわり、俺はどうなってもいい、子分達の命だけは助けてやってください」との陳赤竜の言葉に、鹿門「よーし、助けてやるからいえ」陳がほんとに助けてくれるのかと、うれしそうな顔をします。鹿門「八幡船の男に二言はない」 黒白斎にも促され、陳が話し始めます。十日程前五島の沖で、瀬戸内海を荒していた明の船から日本人達を買ったというと、鹿門は陳に近づき、鹿門「その日本人達を何処へ売った」まだ右衛門太夫の船にいるという陳、・・・鹿門は、その中に小静という女がいなかったか、五兵衛という男はいなかったか、と迫ります。 陳が、堺の娘がいたことは確かだ、と聞いた鹿門は「それだ」と、黒白斎も「小静さんに違いない」と、希望が見えたのです。 そんな中、右衛門太夫の船を追う前に、陳をたたき斬るのが先決とめくら船に上って来た新蔵人を、鹿門が止めます。鹿門「斬るにはおよばん」新蔵人「なに、貴様初めての海戦でのぼせ上がったな」鹿門「のぼせてはおらん。すでに降伏した者を切ることは、八幡船の男のすること ではない」新蔵人「たわいもない盗賊達の命越えに、心を動かしたか。あはっはっは、先代の めくら船の首領とは大した違いだ」鹿門「違うかもしれん。わしはわしのやり方でいきたい。めくら船のことは、俺に まかしてもらいたい」「勝手にしろ」と怒った新蔵人に次いで、寿賀が鹿門にまた皮肉をいいますが、・・・そんな寿賀を鹿門はうとましく思わなくなっていました。寿賀「お情け深い頭領どの、・・・お気をつけなさいね」また寿賀も言葉とは違い、鹿門に対する気持ちの変化が生じていました。 右衛門太夫の船を追っていた住吉丸が戻ってきました。残念ながら逃げられてしまったようです。 陳赤竜は、頭領に惚れた手下にして欲しいと、いってきます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月10日
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幾日か経った日、右衛門太夫のニセめくら船を発見します。黒白斎「めくら船、お父上の仇、右衛門太夫のめくら船でございますぞ」鹿門 「なにぃ」 三隻の八幡船は、それぞれ配置について、全速力でニセめくら船のいる方向に向かって行きます。右衛門太夫のめくら船は奴隷に売るための女達を乗せて島を離れるところでした。その中に小静と五兵衛もいます。逃げる右衛門太夫の船を追いかけ大砲が飛びかいます。鹿門は右衛門太夫の率いる船団のうちの陳赤竜の船を挟み撃ちにし、先端に突っ込み乗りこみます。青影丸と住吉丸が火をつけた矢を放ち援護し、船上は壮絶な戦いが繰り広げられています。そこに、陳赤竜が「お待ちくださいませ」「どうぞお助けくださいませ」と、鹿門は「許してやる」といい、みんなにめくら船に乗るようにいいます。みんながめくら船に乗り移ったとき、陳の船は燃え落ちます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月03日
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あなたには人の情けはわかるまい次の日、鹿門は青影丸の新蔵人に帆柱に上る競争をもちかけます。新蔵人は、来た早々の鹿門が競争するといい出したので相手にせず鼻で笑い、鹿門の「負けるのはいやか」に、「帆柱は小さいときからの遊び道具だ」といい返す新蔵人。鹿門 「そんなら来い」新蔵人「こいつのぼせやがったな」そういって鹿門の挑戦を受ける準備をする新蔵人を見て、ニヤリとし、鹿門 「俺が勝ったらどうする」新蔵人「何でも望みどおりにしてやるは」鹿門 「よーし、忘れんなよ」 黒白斎の合図で、帆柱登り競争がはじまりました。梯子の中間まで来たとき、鹿門はめくら船の方を指さし、鹿門 「おーい、謝花が来たんだ」鹿門のいったことに驚き、梯子を上っていた新蔵人が立止まってしまいます。めくら船に忍び込んでいた、といい、先に上って行くのです。 卑怯だそんなことがあるもんかと信用しない新蔵人に、「嘘なもんか、あれを見ろ」といい、新蔵人がめくら船の方を見ているすきに、てっぺんに上った鹿門は、鹿門 「約束だぞ、謝花をこの船に乗せてくれ」と。・・・しかし、女の情に溺れてこの船の頭領の役目が務まるか、追い返せ、と新蔵人はいってきます。鹿門 「女一人、どうして返すことが出来るんだ。見殺しにする気か」新蔵人「俺のいうことを聞かぬ馬鹿女だ、・・・死んでしまえ」 鹿門「そーか、よーし、俺の船に忍び込んだ女だ、俺が預かろう」 そういって、青影丸から小舟に乗り移ろうとしていた鹿門に、寿賀 「お情け深い、めくら船の頭領どの」皮肉な嘲笑を浴びせる寿賀に、鹿門 「あははっ、あなたには人の情けはわかるまい、あっはは」笑って下りて行く縄ばしごを寿賀が力一杯ゆすります。もう少しで小舟に乗り移るというところで海の中へ落ちてしまいます。 少しも動じず鹿門は笑顔を見せ、大笑いする寿賀に、鹿門 「ああ、いい気持ちだ。暑いからちょうどよかったい。あっはっはっは」 そんな鹿門に腹が立ち手裏剣を投げますが、簡単に受け止め立ち去って行く鹿門を寿賀は悔しさいっぱいで見ているだけでした。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年02月27日
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暗闇で3里四方か夜空の下で、海を見つめている鹿門に黒白斎が声をかけます。黒白斎「若、左に見えるのが種子島でございますよ」鹿門 「俺の目には見えぬものが、年寄の爺にみえるのか?」黒白斎「見えるのかとは何事、爺は生まれついての船乗り、闇夜でも3里四方は真 昼も同然じゃ」鹿門 「暗闇で3里四方か」そういう鹿門に、黒白斎は笑い飛ばし、「何事も訓練、おいおい若にも見えるようになる」、先代の丹後守様も初めはそうであったといいます。鹿門の心にはまだわだかまりがあるようです。 そこへ、船底から駆けあがって来た伝馬達が「大変だッ」と騒ぎ、その様子に、黒白斎が「出たか?」と、すると「船蔵の中に出た」と伝馬が、「船蔵に?」と黒白斎が念を押し聞いていると、鹿門が笑い出します。 鹿門は大笑いをすると、鹿門「お前らほどの暴れ者が、何をいいだすのだ」この場所を通るときには決まって幽霊がでるという黒白斎のいうことには「迷信だ」といい、黒白斎はじめ乗組員達が本当のこと信じてくれというと、 鹿門「そんな馬鹿なことに自信をもつな」 そういうと、「よーし、俺が行ってみる」という鹿門を、海の神様が怒って船が波にのまれてしまう沈んでしまうと、みんなで止めますと、鹿門は「静かにしろッ」とみんなを制すると、鹿門 「この船が幽霊や海神に呪われてたまるか。あの八幡大菩薩の旗は何のため に背負ってるんだ」それを聞いて「その通り、八幡船に幽霊が出るわけはない。八幡船に幽霊が出てたまるか。八幡大菩薩の旗は何のために背負っているのか・・・しっかりしろ」と黒白斎がいい出したので、乗組員達は呆気にとられ、鹿門はその様子ににやりとしているのです。 船蔵を歩いていると鹿門が突如荷を崩します。すると奥の方に人が潜んでいたのです。「出ろッ」といいますが、なかなか出て来ないので、鹿門が覆っているものを取りますと、新蔵人を追って乗り込んでいた謝花でした。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年02月17日
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俺をめくら船に乗せろッ島を逃げだし夜の海を鹿門が小舟を漕いで行きまと、目の前に漂流してくる船が見えます。「あっ、淡路丸だ」。鹿門は急いで船に近づき、甲板にあがると、帆柱に吊るされた死体の中に長崎屋を見つけ、そこらじゅうに折り重なった死体の山、探したが小静と五兵衛は見当たらない。小静が肌身離さず持っていたお人形を見つけた鹿門は不安に駆られます。 そこへ、あとを追ってきた黒白斎が迎えに来たとやってきます。鹿門が帆柱の死体はどういうことだと聞きますと、「これこそ海賊の仕業」と黒白斎がいいます。鹿門 「海賊?右衛門太夫とかいうめくら船か」黒白斎「ニセのめくら船は海外でございます。恐らく明の海賊が汐に乗ってきたも んでございましょう」鹿門 「小静はどうした、小静は何処へ行ったんだ」与太夫「女や子供は遠い異国へ売り飛ばしたに違いありません」鹿門 「・・・奴隷・・・小静が、小静が奴隷に」鹿門はどうしてよいかわからず狼狽え、鹿門 「小静が・・・・あっ・・・小静」と船の先端まで行き、小静の名を大声で叫びます。 落ち着いたのか鹿門は決心するのです。黒白斎の方に向きを変えると、「黒白斎ッ」と叫び、黒白斎が近くに来ると、鹿門 「入道殿にいえ、新蔵人に伝えろ、俺は・・・俺は、めくら船に乗るぞ」黒白斎が、お父君の志をというと、鹿門 「いうなッ、小静を探すんだ、めくら船に乗って小静を探しに行くのだ。俺 をめくら船に乗せろッ」 島の人達の喜びの歓声のなか、八幡大菩薩の旗を高々とかかげ、先頭を鹿門の乗っためくら船、次に新蔵人の青影丸、そして与太夫が乗った住吉丸の八幡船団が島を離れ大海原に出て行きます。 続きます。
2024年02月11日
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海賊八幡船・・・(8) 2024年2月11日掲載俺をめくら船に乗せろッ島を逃げだし夜の海を鹿門が小舟を漕いで行きまと、目の前に漂流してくる船が見えます。「あっ、淡路丸だ」。鹿門は急いで船に近づき、甲板にあがると、帆柱に吊るされた死体の中に長崎屋を見つけ、そこらじゅうに折り重なった死体の山、探したが小静と五兵衛は見当たらない。小静が肌身離さず持っていたお人形を見つけた鹿門は不安に駆られます。 そこへ、あとを追ってきた黒白斎が迎えに来たとやってきます。鹿門が帆柱の死体はどういうことだと聞きますと、「これこそ海賊の仕業」と黒白斎がいいます。鹿門 「海賊?右衛門太夫とかいうめくら船か」黒白斎「ニセのめくら船は海外でございます。恐らく明の海賊が汐に乗ってきたも んでございましょう」鹿門 「小静はどうした、小静は何処へ行ったんだ」与太夫「女や子供は遠い異国へ売り飛ばしたに違いありません」鹿門 「・・・奴隷・・・小静が、小静が奴隷に」鹿門はどうしてよいかわからず狼狽え、鹿門 「小静が・・・・あっ・・・小静」 と船の先端まで行き、小静の名を大声で叫びます。 落ち着いたのか鹿門は決心するのです。黒白斎の方に向きを変えると、「黒白斎ッ」と叫び、黒白斎が近くに来ると、鹿門 「入道殿にいえ、新蔵人に伝えろ、俺は・・・俺は、めくら船に乗るぞ」黒白斎が、お父君の志をというと、鹿門 「いうなッ、小静を探すんだ、めくら船に乗って小静を探しに行くのだ。俺 をめくら船に乗せろッ」 島の人達の喜びの歓声のなか、八幡大菩薩の旗を高々とかかげ、先頭を鹿門の乗っためくら船、次に新蔵人の青影丸、そして与太夫が乗った住吉丸の八幡船団が島を離れ大海原に出て行きます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж 海賊八幡船・・・(7) 2024年1月31日掲載決心さえつけば立派な頭領になれる男だ入海に浮かぶめくら船のところに、鹿門は来ていました。入道の「あなたのために、新しく造っためくら船、これこそ父上の意志を継ぐめくら船、まことの八幡船」、黒白斎の「どうぞ、お父君丹後守様の志を継ぎ、めくら船にお乗りください」という声が頭をめぐったとき、道休の「それは嘘だ」という声が、鹿門にはめくら船の方から聞こえてきたので、足早にめくら船の方に駆け寄っていきます。 また「鹿門」と呼ぶ道休の声に、鹿門は「お父つぁん」と呟き、めくら船へと吸い寄せられていきます。 船上に上ると、「お父つぁん」「お父つぁーん」「お父つぁーん」と大声で叫びますが、何の返事もない。そのとき、「兄さーん」と小静の声が聞こえ喜びそちらの方へ行ってみますが小静の姿はなく、力なく「小静」「小静」と呟くのです。 そのとき、人の気配を感じ、「誰だッ、出ろ」と叫びますと、姿を出したのは謝花という若い女で船から逃げようとするのを捕まえ、入道につけろといわれたのか、というと、「違う」と女は言い、自分の親を忍んでこの船にやって来たといいます。 ニセのめくら船に右衛門大夫に一族皆殺しにされ、自分は奴隷に売られた、それを救ってくれたのは新蔵人だ、と謝花がいいます。 謝花は「あなたはこの船をつがれるお方、・・・お願いです、私の仇を討ってください、憎い仇を討ってください」と、じっと聞いている鹿門に激しく言い寄ります。そのとき、「おやめ、謝花」と寿賀の声がします。 「その男に頼んでも無駄よ」といってきた寿賀に、鹿門は憤慨します。 寿賀「折角のめくら船も大将がなくて可哀想ね。第一そんな意気地なしが、めくら 船の頭領になれるもんですか」そういう寿賀を「待て」と追いかけようと船を降りようとすると、下に島を案内すると伝馬達が小舟で待っています。これには、鹿門も興奮さめあきれ顔に。 鹿門のような奴が八幡船を率いて七つの海を渡れると思うか、と怒る新蔵人に、黒白斎は、自分が海の男に育てるといい、入道は、あれだけの性根があれば、決心さえつけば立派な頭領になれる男だ、といいます。知らせを受け、黒白斎が慌てて海の岩場に駆けつけます。小舟に乗っていた伝馬達をやっつけ、鹿門が舟を奪って逃げたのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(6) 2024年1月25日掲載八幡船は賊ではない村上入道は鹿門の来たことを喜んで迎えます。入道「我らの念願が叶い、磯野丹後守殿のお子をこの島へお迎え申すとは、八幡大 菩薩のお導き、村上入道この上もない喜びでござる」鹿門「私は堺の商人、壺屋道休の息子です。・・・海賊になるために来たのではな い。妹の安否が気遣われるんだ、返してください」鹿門を止めようと口を挿んだ黒白斎に向かい「うるさい」といい、鹿門「俺は大将にかけ合っているんだ、引っ込んでろ」「そうは参りません」という黒白斎。入道は、突然の境遇の変り方で混乱されるのも無理はない、というと、立ち上がり窓を開けに行き、鹿門を呼び寄せます。 窓から見えた雄大な海に一瞬動ひきつけられた様子の鹿門に入道が話します。入道「この海の彼方には、父君の活躍されたルソン、シャムなどの広々とした国が あるのだ」 鹿門「その南の国々では、八幡船に荒されて、手を焼いていると聞いたぞ」それについて入道は「それこそ父君を滅ぼした右衛門太夫のニセモノの仕業で、八幡船は賊ではない。通商交易を本来の目的としたりっぱな水軍なのだ」と鹿門にいいます。 入道がもう一方の窓を開けて、海に浮かんでいるものを指さします。入道「今度、あなたのために新しく造っためくら船だ。・・・あれこそ、父君の意 志を継ぐめくら船、誠の八幡船じゃ。・・・鹿門殿、入道の頼みじゃ、あの 船の頭領になってくだされ。そして、八幡、和光と盗賊のように思い恐れて いる人々へ、八幡船本来の姿を示すことが、亡き丹後守へ対して我ら水軍あ げてのはなむけじゃ、頼む」 それに対して、鹿門は怒ります。鹿門「やめてくれッ、・・・そんなことは老人の感傷だ、夢だ。俺の運命を狂わし てまで遂げられてたまるか」 それを聞いて新蔵人が「なに」というと、鹿門「大将だなんて、ちっとも話が分からないじゃないか」そういって3人を見ると、「もう頼むものか」と怒鳴り、表へ駆けだして行きます。鹿門を追って行こうとした新蔵人と黒白斎に入道が「追うな」といいます。村の方に走って行くとめくら船の頭領と島の人たちが喜び取り巻くのをかわし、鹿門の足は海岸線を走り、引き寄せられるようにたどり着いたところは・・・・・・思いもかけぬ場所だったのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(5) 2024年1月15日掲載海賊商売なんか大嫌いだ青影丸が帰って来たことを知らせる銅鑼の音で、島の住民皆が青影丸を狂喜で出迎えます。帰りを待っていた女房や恋人たちが、船の着くのを待ちきれずに小舟を出し青影丸の方へ、村上水軍の船方達も待ちきれずに、次から次に海に飛び込み小舟の方へ泳いで行きます。海岸べりを埋めつくす島の住民の出迎えの様子を、「まあ見て下され、あれが我ら八幡船の故郷ですわい。堺などでは見られぬ趣きがありますじゃろ」と、得意げにいう黒白斎に、「なにいってやんでい・・気違い」とその光景に心打たれながらも、鹿門はそっけない返事をするのです。 歓迎するなかを仏頂面で歩く鹿門の前に、兄新蔵人を迎えに出た妹の寿賀が馬に乗ってやってきます。 「その人?・・めくら船の二代目になられる磯野鹿門って方は」と訪ねる寿賀に、「そうだよ、だがこの方は、八幡船がお嫌いらしい」と新蔵人が答えると、鹿門はすかさず鹿門「ああ、嫌い嫌い、嫌いだとも、海賊商売なんか大嫌いだ」 そして、今度は寿賀に矛先を変え八つ当たりするのです。鹿門「へっ、そなたも海賊の片割れか」 鹿門の言葉にムッとなった寿賀が、寿賀「ふん、この方では、八幡船に名立たるめくら船の頭領にはむかないわ」めくら船の頭領になりたくないのですから腹を立てることはないと思うのですが、鹿門にとっては癇に障ったのです。その腹いせに、寿賀が乗っている馬の手綱を取り向きを変え尻をたたき走らせます。その様子を一人おかしく笑うと、「さあ、お前達より物わかりのいい村上入道に合わせろ」といいます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Жおしらせ2024年1月15日の楽天ブログリワードミッション実装にあたり、今までのような仕様が変更され、スクロールしても過去の記事が表示されず、1つの記事のみが同ページ内に表示されるというようになってしまいました。そのため今掲載を始めた「海賊八幡船」から、一つの作品を一枠内に綴っていくようにして、作品1つに対してはスクロールすればを試みました。見ずらいかも知れませんが、一つ一つページを出していくよりは、手数がかからないと思います。楽天ブログとしての操作手順としては、前後のページへ遷移するには、記事上部に白い枠で表示されるボタンの「過去の記事」「新着記事一覧」等をクリックしてください。ちなみに、この"美しき大川橋蔵"ブログでは、最近掲載した10個までの記事は、右側にある「日記/記事の投稿」から、カレンダーからは太字になっている日が記事投稿日になっていますので、クリックして見ることができます。今まで投稿された作品を見つけるには「新着記事一覧」をクリックして『カテゴリー別記事』を開くのも一つです。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(4) 2024年1月7日掲載誰が海賊なんかになるもんかい磯野丹後守を殺し、右衛門太夫の手から赤ん坊の鹿門と逃げだした道休が呼びかける夢で気がついた鹿門は、大海原の上の青影丸の船中にいました。そして、その過程を思い出したのでしょう、「ちくしょう」といい船室から出ようとしたとき、黒白斎と伝馬が入って来ます。 鹿門「小静は、淡路丸はどうした」黒白斎「淡路丸は無事に港を抜けて、博多へ向かいました」鹿門「降ろせッ、何故この船に俺を乗せた」 黒白斎が、亡き父の志を継いでほしいと、いうと、鹿門「やめろッ、そんな昔話にだまされるか。降ろせ、俺をこの船から降ろせ」そのとき、頭上から「あはっはっはっ、そうはいかん、あっはっはっは」と笑い声が響いてきます。 鹿門が頭上を見上げると、その男は、船はもはや播磨灘に向かっている、といいます。「誰だ、おまえは」と聞く鹿門に、その男は「この船の頭領」と答えます。村上水軍の若大将、村上新蔵人です。 この青影丸は八幡船の根城因島に行くと聞き、鹿門「因島?・・・ちくしょう、どけ」と、船上に上って行き、鹿門「海賊、船を止めろ」と叫びます。 「手数のかかる客人だ」と苦笑する新蔵人に、興奮を抑えきれない鹿門は、鹿門「これが客の扱いか、人さらいめ」そういうと、新蔵人を押しのけ、海へとび込もうとする鹿門。「泳いで帰るんだ」と喚く鹿門を「鮫の餌食になりたいか」と強く止める新蔵人に「じゃますんない」と突き飛ばす鹿門に、新蔵人も怒り顔色を変えます。 新蔵人「のぼせるな」鹿門 「なにぃ」新蔵人「来い、堺の町で育った細腕を、八幡船の男に叩き直してくれるわ」鹿門 「海賊などにされてたまるか。堺の商人は腕の仕込みが違うんだ、・・・ 来い」 猛烈な取っ組み合いとなります。叩かれたら叩き返す、甲板を動き回り五分と五分の喧嘩が続き、双方ともへとへとで立てなくなりながらも、つかみ合いののしりあうのです。新蔵人「これしきのことでめくら船の二代目になれると思ったら大間違いだぞ」鹿門 「寝ぼけんない、誰が海賊なんかになるもんかい」新蔵人「因島に来て、おれのおやじにいえ」鹿門 「よーし、連れて行け、海賊の大将ならお前達より少しは話がわかるだろ い」 そういうと二人は一旦離れますが、まだ懲りないようなので、黒白斎は伝馬から水の入った桶を受け取ると、二人に浴びせかけます。黒白斎初め乗組員はその様子を見て大笑い、青影丸は因島へ向かって行きます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(3) 2023年12月27日掲載 俺は堺に育った、俺は道休の息子だ陣内を斬って船小屋に入って来たのは、道休の周りをうろついていた気違いの老人が、めくら船の黒白斎と名乗ると道休は思い出したようです。「裏切り者目」と鋭く目を光らせ近づく黒白斎に「どうしょうというのじゃ」と道休がいうと、「めくら船から鹿門様をお迎えに来たのじゃ」と答える黒白斎、鹿門は何も知らない、というと、黒白斎「わしから申上げよう、あなた様は壺屋道休の息子ではござりませんとな」道休は必死で道休「待て、今となっては、鹿門はわしの命だ、鹿門だけは連れて逃げんでくれ。 わしは、殿の子を・・・」黒百斎「さらって逃げたのだ」と、道休の言葉をさえぎると、それは真実とは違う、殿を殺したのは右衛門太夫で、道休はそそのかされて殿を殺害するが、断末魔で苦しむ磯野丹後守の顔が忘れられず、右衛門太夫の手から若君鹿門様をさらって育てていたのでした。「鹿門を奪わないでくれ」と頼んでも、財宝と共に奪って逃げた丹後守の遺児、鹿門を迎えに来たと、道休のいうことに承知をしない黒白斎に、我慢がきなくなった道休が小刀を抜きかかっていきます。村上水軍の乗組員たちに道休が取り押えられているところにやって来た鹿門は「海賊待てっ」と振り払い道休を助けに、するとひざまずき「鹿門様」という黒白斎に、鹿門は、鹿門「おやじに指一本触れてみろ、・・・俺が相手だ」 黒白斎「なにを仰せられます、あなた様は、壺屋道休の息子ではござりません」鹿門「なに」道休「嘘だ。・・・こやつのいうことを聞くでないぞ」 鹿門は、黒白斎から実の父親のことを聞かされます。江州佐和山城主でのちに八幡船の旗頭、磯野丹後守の世継ぎだと、聞かされます。呆然とする鹿門。 道休は、黒白斎達が交易に出ている間に、めくら船を奪った右衛門太夫を手引した裏切り者、まことのめくら船の頭領は鹿門だ、と・・・海へ出てほしいという黒白斎と引き留める道休の板ばさみになり鹿門は道休を見たあと少し考え、 鹿門「・・・俺は堺に育った、俺は道休の息子だ。・・・海賊などまっぴらだ」きっぱりと断り、小静が待っている船に急ぎ行こうとします。 「そんなことを信じると思うか」と止める黒白斎達を振り切り行こうとしたとき、港の方に火の手があがるのを見て、みんなが驚きます。 火をかけ騒ぎの中淡路丸を出帆させるために道休が支持をした時刻がきていたのでした。父や兄を待ってとすがる小静に、長崎屋は役人に捕まってはと、淡路丸を出帆させたのです。警備の軍兵達の矢が淡路丸に向かって矢を放ちます。矢は小静にも向かっていき、道休は淡路丸を追って矢が飛ぶ桟橋をかけていきます。道休を追って桟橋に行こうとする鹿門を引き止める黒白斎達、だが、矢が道休を射倒したとき、鹿門は狂ったようになり、倒れている道休の傍にいきます。 「お父つぁん、お父つぁん」と呼びかける鹿門に、道休は最後の力を振り絞って、「鹿門、・・・わしは・・・わしは・・・わしは・・・そなたに・・・・・そなたに・・・・・」と、あとはいえず道休はこときれてしまいます。 その様子に、黒白斎達が、鹿門を心配してかけより、道休から引き離そうとしますが、気が狂ったようになっている鹿門に困惑した黒白斎達は、仕方なく鹿門を失神させて運んで行くのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(2) 2023年12月15日掲載 教えてください、めくら船と私に何の関係があるのか鹿門が家へ帰ってみると、父道休が暗い蔵の中で慌てて何かをしているのです。船乗り達が言い残した”めくら船”、帰り道用心の陣内が老人を襲ったのを見ている鹿門には、道休の慌てた行動が腑に落ちませんから、道休に問いただそうとします。鹿門「お父つぁん、・・・何をそんなに狼狽えて、船をだすんですか」道休「急に思い立ったのじゃ。戦のはじまる前に、博多へ避難するのじゃ」鹿門「お父つぁん、博多行きは戦のためではないんでしょう」 鹿門「いったい、何があったんです」鹿門は声を荒げ、道休にいい寄ります。道休「何もない、何もあるはずがない」鹿門「嘘だ、気違いの老人を闇討ちしようとしたのは、何のためです」 鹿門は、続けます。鹿門「お父つぁん、私はさっき、村上水軍の奴らに逢いましたよ」道休「えっ、村上水軍」 鹿門「奴らは、めくら船のいわれをお父つぁんに聞いてみろといいました。 ・・・教えてください、めくら船と私に、何の関係があるのか・・・」道休「知らん、そんなもの知らん」うろたえ、逃げようとする道休に、鹿門がくいさがります。 鹿門「何故隠すんです。・・・たった一人の息子に、何を隠すんだ。・・・・・ お父つぁん、一人で苦しむことなんかないじゃありませんか・・・」 道休「鹿門、夜明けまでに時間がないのじゃ、・・・堺の港を離れたら、訳を聞か そう、話もしよう、頼む、おとなしく淡路丸へ乗ってくれ、頼む・・・」必死になって頼む父道休を見て、興奮していた鹿門が静かになります。 道休「なっ、そうしてくれ、頼む。わしのいうことが聞かれんのか、頼む、この通 りじゃ、頼む」といい、手を合わせて鹿門にお願いするのです。 出港を待つ淡路丸には、父のいうことを信じて乗船した鹿門と妹の小静が先に乗り込んで、道休のやって来るのを待っています。その頃、道休は、船小屋で人足と最後の打合せをしていました。船小屋に火をかけ、その騒動に紛れて淡路丸を出港させるというのです。鹿門が淡路丸で待っている、「急ごう」と陣内と小屋を出ようとしたところで、一足先に出た陣内が、何ものかに斬られてしまいます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж 海賊八幡船・・・(1) 2023年12月6日掲載時代劇としては異色の本格的海洋スペクタクル巨編です。戦国時代 、瀬戸内海の島々を根城として、八幡大菩薩の旗を翻し、遠く東シナ海を渡り交易のため雄飛した八幡船の男たち。二代目頭領に扮した橋蔵さんの海の若武者ぶりは、スケール雄大な異色時代劇として、ファンの思い出となりましたでしょう。沢島監督が情熱を賭けロケでみせる、芸術祭参加作品「海賊八幡船」・・・「ロケ費用、ロケ期間からすると、映画制作の常識からすれば、このシナリオは大部分は特撮にたよるところだが、今の日本の特撮技術では、どうしても小手先の誤魔化しになる恐れがあるので、無理をいってロケーションをやらしてもらいました。もちろん特撮も併用しますが、この作品のスペクタクルな面、絵柄の大きさといった面は、すべてロケ効果にかかっているといってよく、ロケーション場面の演出の機動力如何が作品の死命を決定するものと考えています」と沢村監督。そのため、会社が瀬戸内海あたりの距離でという意向でしたが、探し歩き、劇中の八幡船の根拠地に駆る因島がふさわしい部落を発見した時は、思わず涙がこぼれそうになったといいます。沢島忠監督にとっては念願の作品でした。本当は一年前に撮ることになっていたのですが、クランクイン直前に身体を痛めのびのびになってしまいました。沢島監督のねらいとは・・・海を嫌い、恐れる一人の青年が、次第に海の大きな魅力に魅せられていき、最後には雄々しく立派な海の男に成長していく。これがこの作品の骨子となっています。が、中心は、あくまでも海洋の大スペクタクルを狙うということなのです。”八幡大菩薩”の旗のもと、南海に雄飛する海の男達の雄大な海洋ドラマを描くのが制作意図です。唐津の立神、博多の芥屋など、約1ヵ月にわたる長期ロケで、ロケーション費だけで2,500万円という大がかりな金額、これは大作一本分の製作費に相当、東映創立以来の大規模なロケになりました。海戦シーンの撮影現場になったのは、福岡県糸島郡志摩村芥屋の海岸。玄海灘の荒波がくだけ散り効果満点です。現地には、佐賀県の漁港、呼子で建造された八幡船五隻が待期し、その中で最も大きいメクラ船には、呼子から長崎まで石炭を運んでいた160トンの貨物船を、その他全部が150トンクラスの漁船を改造したものです。砲撃戦には、ダイナマイトを使用、水柱一本につき、約8本のダイナマイトを点火、水柱も30mの高さまで吹き上げたのです。海賊船がのろのろと走ったのでは迫力が出ないと心配したりしたのですが、風が吹きすぎて面食らう有様でした。今までの日本映画の常識を破った迫力のあるシーンを作り上げたい・・・沢島監督の狙う大きな見せ場は、海賊シーンと堺の港の焼打ちシーンです。この船に乗って、橋蔵さんが大活躍するのですが、沢島監督の狙いは、優男の堺の町人が、次第に海の男として生きるようになる、その過程をいかに描くかということになります。堺の町人時代の鹿門はつけまつげをつけ優男の感じを、海のシーンになると強いメーキャップに変え、胸毛をつけ、逞しさを強調するようにしました。そこには、橋蔵さんの新しい魅力を発揮したい、と願っているといいます。観客の人々に、その気持ちが判っていただけるようになれば、成功したといえるのだそうですが・・・と。▲ 第67作品目 1960年9月18日封切 「海賊八幡船」 磯野鹿門 大川橋蔵寿賀 丘さとみ謝花 入江千恵子浅茅 円山栄子小静 桜町弘子伝馬 田中春男宮地与太夫 沢村宗之助五兵衛 高松錦之助磯野丹後守 北龍二磯野右衛門太夫 阿部九州男村上入道 月形龍之介黒白斎 進藤英太郎村上新蔵人 岡田英次臺屋道休 大河内傅次郎 めくら船 ?永禄四年、貿易港堺の船問屋壷屋道休の息子・鹿門は、ある夜男達に囲まれ、八幡船旗頭・佐和山城主礎野丹後守の遺児、道休は丹後守を裏切り、八幡船の一つめくら船を奪った張本人だと告げらますが、鹿門は信じません。八幡船の動きを知った道休は、財宝を淡路丸に積んで足止めの禁令を破り脱出を企んだが、放たれた矢に道休は殺され、淡路丸は鹿門の妹小静を乗せたまま出港してしまいます。道休にすがり離れない鹿門を、黒白斎たち八幡船の男たちは、失神させ連れて行きます。鹿門が気がついたときは、大海原の青影丸の船中でした・・・・・始まりのスクリーンに昭和35年度芸術祭参加作品の文字がでて、船が進んでいくような画面に歌声と共に配役がでてきます。そして、暗闇の海原を船が進んでいってるような画面から入り、夜が明けてくるなか、船が見えてきます。”八幡船とは”の説明が流れます。八幡船とは、戦国乱世の頃、瀬戸内海の島々を根拠とした水軍の将兵が、遠く明国、朝鮮、ルソン、シャム等の諸国へ、八幡大菩薩の旗を揚げ、通商交易の為雄飛した船団のことである、彼等にとって、戦乱の国土より、海こそは、最大の自由の地であった。永禄四年、当時日本最大の貿易港、泉州堺の町にも、うち続く戦乱の波が容赦なく押し寄せていました。淡路丸で積み荷を運ばないとつぶれてしまうといい寄る長崎屋に、足止め禁止令が出ているのだから出せないと壺屋道休がいっているとき、船乗りたちに漂流しているところを助けられたとみられる一人の老いた狂人が現れ、「八幡船が沈む」「八幡大菩薩の旗が沈む」とおかしなことを言いながら、町の方へ歩いていきます。その老人は、船問屋壺屋に駆け込んで行き、しきりに「盲船」という謎の言葉を呟いて店の周りをうろついているというのです。五兵衛からそのことを聞いた道休は慌て、息子鹿門のことを心配すると、出かけていると聞き、「また廓通いか」と呟くと、五兵衛に長崎屋にあすの朝淡路丸を出すと伝え、出かけている息子鹿門を連れて来いといいます。鹿門が通っている廓では、船乗りたちが宴を開いている座敷に、昼間老人を助けたといっていた船乗りを待ちかねていたようで、「守備はどうだ」と聞かれ「ちゃんと町へ送りこんだ」という会話が聞かれます。廊下ですれ違ったとき、浅茅の髪から取った櫛を取りに来るかと思っていたら、持ち帰って結構ということをいってきたので、「馬鹿にするな」と浅茅の部屋に乗りこみます。伝馬「これ女、わしはな、ものもらいと違うぞ」というと、浅茅の膝枕で横になっている男が、鹿門「なら、置いていったらいいじゃないか」と言ったので、「町人のくせに、海の男を馬鹿にしやがって」と、男に手を出すと、簡単にやられてしまいます。鹿門「こいつは、面白れえや、・・・よーし、表へ出ろ」そういうと、鹿門は立ち上がり、伝馬を外へ連れ出します。船乗りたちや店の者たちみんなが外に出ています。 鹿門「おい、この堺ではな、町人も侍も対等なんだ。証拠を見せてやるから、一度 に来い」 鹿門がそういうと、先頭をきり、船乗りの宮地与太夫が「生意気な」とかかって行きます。浅茅の櫛のことをめぐるささいなことから、乱闘が大きくなり鹿門が追い詰められたとき、「若旦那」と番頭の五兵衛が飛び込んで来ます。 船乗りたちをかき分け、鹿門との間に割って入ると、五兵衛「待ってください。何の騒動か存じませんが、この方は手前主人、壺屋道休 の大事な跡取り、間違いがあってはなりません、どうぞお許しを」というのを聞き、与太夫が「なに、壺屋道休・・・」というと、伝馬が「あかん、与太夫、問題の人や」と、すると「引け、引け」と声がかかり去って行くのを見て、鹿門が「どうした、・・・逃げんのか」と声をかけて来たので、伝馬がこれに答えます。 伝馬「あんたに刃を向けると、わしら村上水軍は、八幡船の掟に背くのや」鹿門「村上水軍?・・・八幡船の海賊か。・・・その八幡船の掟が、この俺にどう いう関係があるのだ」伝馬「それやったらな、はよ帰って、お父つぁんに聞いてみなはれ、めくら船っ てなんやって・・・」鹿門「めくら船」船乗り達は、謎めいた言葉を残し去って行きます。 道休に命じられた甚内は、気の狂った老人を誰にも気づかれないように暗殺しようと襲いますが、川に飛びこまれ逃がしてしまいます。廓からの帰りその現場を通りかかった鹿門は、慌てて、鹿門「陣内、どうした」 続きます。
2024年02月11日
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決心さえつけば立派な頭領になれる男だ入海に浮かぶめくら船のところに、鹿門は来ていました。入道の「あなたのために、新しく造っためくら船、これこそ父上の意志を継ぐめくら船、まことの八幡船」、黒白斎の「どうぞ、お父君丹後守様の志を継ぎ、めくら船にお乗りください」という声が頭をめぐったとき、道休の「それは嘘だ」という声が、鹿門にはめくら船の方から聞こえてきたので、足早にめくら船の方に駆け寄っていきます。 また「鹿門」と呼ぶ道休の声に、鹿門は「お父つぁん」と呟き、めくら船へと吸い寄せられていきます。 船上に上ると、「お父つぁん」「お父つぁーん」「お父つぁーん」と大声で叫びますが、何の返事もない。そのとき、「兄さーん」と小静の声が聞こえ喜びそちらの方へ行ってみますが小静の姿はなく、力なく「小静」「小静」と呟くのです。 そのとき、人の気配を感じ、「誰だッ、出ろ」と叫びますと、姿を出したのは謝花という若い女で船から逃げようとするのを捕まえ、入道につけろといわれたのか、というと、「違う」と女は言い、自分の親を忍んでこの船にやって来たといいます。 ニセのめくら船に右衛門大夫に一族皆殺しにされ、自分は奴隷に売られた、それを救ってくれたのは新蔵人だ、と謝花がいいます。 謝花は「あなたはこの船をつがれるお方、・・・お願いです、私の仇を討ってください、憎い仇を討ってください」と、じっと聞いている鹿門に激しく言い寄ります。そのとき、「おやめ、謝花」と寿賀の声がします。 「その男に頼んでも無駄よ」といってきた寿賀に、鹿門は憤慨します。 寿賀「折角のめくら船も大将がなくて可哀想ね。第一そんな意気地なしが、めくら 船の頭領になれるもんですか」そういう寿賀を「待て」と追いかけようと船を降りようとすると、下に島を案内すると伝馬達が小舟で待っています。これには、鹿門も興奮さめあきれ顔に。 鹿門のような奴が八幡船を率いて七つの海を渡れると思うか、と怒る新蔵人に、黒白斎は、自分が海の男に育てるといい、入道は、あれだけの性根があれば、決心さえつけば立派な頭領になれる男だ、といいます。知らせを受け、黒白斎が慌てて海の岩場に駆けつけます。小舟に乗っていた伝馬達をやっつけ、鹿門が舟を奪って逃げたのです。 続きます。
2024年01月31日
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八幡船は賊ではない村上入道は鹿門の来たことを喜んで迎えます。入道「我らの念願が叶い、磯野丹後守殿のお子をこの島へお迎え申すとは、八幡大 菩薩のお導き、村上入道この上もない喜びでござる」鹿門「私は堺の商人、壺屋道休の息子です。・・・海賊になるために来たのではな い。妹の安否が気遣われるんだ、返してください」鹿門を止めようと口を挿んだ黒白斎に向かい「うるさい」といい、鹿門「俺は大将にかけ合っているんだ、引っ込んでろ」「そうは参りません」という黒白斎。入道は、突然の境遇の変り方で混乱されるのも無理はない、というと、立ち上がり窓を開けに行き、鹿門を呼び寄せます。 窓から見えた雄大な海に一瞬動ひきつけられた様子の鹿門に入道が話します。入道「この海の彼方には、父君の活躍されたルソン、シャムなどの広々とした国が あるのだ」 鹿門「その南の国々では、八幡船に荒されて、手を焼いていると聞いたぞ」それについて入道は「それこそ父君を滅ぼした右衛門太夫のニセモノの仕業で、八幡船は賊ではない。通商交易を本来の目的としたりっぱな水軍なのだ」と鹿門にいいます。 入道がもう一方の窓を開けて、海に浮かんでいるものを指さします。入道「今度、あなたのために新しく造っためくら船だ。・・・あれこそ、父君の意 志を継ぐめくら船、誠の八幡船じゃ。・・・鹿門殿、入道の頼みじゃ、あの 船の頭領になってくだされ。そして、八幡、和光と盗賊のように思い恐れて いる人々へ、八幡船本来の姿を示すことが、亡き丹後守へ対して我ら水軍あ げてのはなむけじゃ、頼む」 それに対して、鹿門は怒ります。鹿門「やめてくれッ、・・・そんなことは老人の感傷だ、夢だ。俺の運命を狂わし てまで遂げられてたまるか」 それを聞いて新蔵人が「なに」というと、鹿門「大将だなんて、ちっとも話が分からないじゃないか」そういって3人を見ると、「もう頼むものか」と怒鳴り、表へ駆けだして行きます。鹿門を追って行こうとした新蔵人と黒白斎に入道が「追うな」といいます。村の方に走って行くとめくら船の頭領と島の人たちが喜び取り巻くのをかわし、鹿門の足は海岸線を走り、引き寄せられるようにたどり着いたところは・・・・・・思いもかけぬ場所だったのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж
2024年01月25日
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海賊商売なんか大嫌いだ青影丸が帰って来たことを知らせる銅鑼の音で、島の住民皆が青影丸を狂喜で出迎えます。帰りを待っていた女房や恋人たちが、船の着くのを待ちきれずに小舟を出し青影丸の方へ、村上水軍の船方達も待ちきれずに、次から次に海に飛び込み小舟の方へ泳いで行きます。海岸べりを埋めつくす島の住民の出迎えの様子を、「まあ見て下され、あれが我ら八幡船の故郷ですわい。堺などでは見られぬ趣きがありますじゃろ」と、得意げにいう黒白斎に、「なにいってやんでい・・気違い」とその光景に心打たれながらも、鹿門はそっけない返事をするのです。 歓迎するなかを仏頂面で歩く鹿門の前に、兄新蔵人を迎えに出た妹の寿賀が馬に乗ってやってきます。 「その人?・・めくら船の二代目になられる磯野鹿門って方は」と訪ねる寿賀に、「そうだよ、だがこの方は、八幡船がお嫌いらしい」と新蔵人が答えると、鹿門はすかさず鹿門「ああ、嫌い嫌い、嫌いだとも、海賊商売なんか大嫌いだ」 そして、今度は寿賀に矛先を変え八つ当たりするのです。鹿門「へっ、そなたも海賊の片割れか」 鹿門の言葉にムッとなった寿賀が、寿賀「ふん、この方では、八幡船に名立たるめくら船の頭領にはむかないわ」めくら船の頭領になりたくないのですから腹を立てることはないと思うのですが、鹿門にとっては癇に障ったのです。その腹いせに、寿賀が乗っている馬の手綱を取り向きを変え尻をたたき走らせます。その様子を一人おかしく笑うと、「さあ、お前達より物わかりのいい村上入道に合わせろ」といいます。 続きます。おしらせ2024年1月15日の楽天ブログリワードミッション実装にあたり、今までのような仕様が変更され、スクロールしても過去の記事が表示されず、1つの記事のみが同ページ内に表示されるというようになりました。そのため、前後のページへ遷移するには、記事上部に白い枠で表示されるボタンの「過去の記事」「新着記事一覧」等をクリックしてください。この"美しき大川橋蔵"ブログでは、最近掲載した10個までの記事は、右側にある「日記/記事の投稿」から、カレンダーからは太字になっている日が記事投稿日になっていますので、クリックすればすぐ見ることができます。今まで投稿された作品を見つけるには「新着記事一覧」をクリックして『カテゴリー別記事』を開くのも一つです。
2024年01月15日
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誰が海賊なんかになるもんかい磯野丹後守を殺し、右衛門太夫の手から赤ん坊の鹿門と逃げだした道休が呼びかける夢で気がついた鹿門は、大海原の上の青影丸の船中にいました。そして、その過程を思い出したのでしょう、「ちくしょう」といい船室から出ようとしたとき、黒白斎と伝馬が入って来ます。 鹿門「小静は、淡路丸はどうした」黒白斎「淡路丸は無事に港を抜けて、博多へ向かいました」鹿門「降ろせッ、何故この船に俺を乗せた」 黒白斎が、亡き父の志を継いでほしいと、いうと、鹿門「やめろッ、そんな昔話にだまされるか。降ろせ、俺をこの船から降ろせ」そのとき、頭上から「あはっはっはっ、そうはいかん、あっはっはっは」と笑い声が響いてきます。 鹿門が頭上を見上げると、その男は、船はもはや播磨灘に向かっている、といいます。「誰だ、おまえは」と聞く鹿門に、その男は「この船の頭領」と答えます。村上水軍の若大将、村上新蔵人です。 この青影丸は八幡船の根城因島に行くと聞き、鹿門「因島?・・・ちくしょう、どけ」と、船上に上って行き、鹿門「海賊、船を止めろ」と叫びます。 「手数のかかる客人だ」と苦笑する新蔵人に、興奮を抑えきれない鹿門は、鹿門「これが客の扱いか、人さらいめ」そういうと、新蔵人を押しのけ、海へとび込もうとする鹿門。「泳いで帰るんだ」と喚く鹿門を「鮫の餌食になりたいか」と強く止める新蔵人に「じゃますんない」と突き飛ばす鹿門に、新蔵人も怒り顔色を変えます。 新蔵人「のぼせるな」鹿門 「なにぃ」新蔵人「来い、堺の町で育った細腕を、八幡船の男に叩き直してくれるわ」鹿門 「海賊などにされてたまるか。堺の商人は腕の仕込みが違うんだ、・・・ 来い」 猛烈な取っ組み合いとなります。叩かれたら叩き返す、甲板を動き回り五分と五分の喧嘩が続き、双方ともへとへとで立てなくなりながらも、つかみ合いののしりあうのです。新蔵人「これしきのことでめくら船の二代目になれると思ったら大間違いだぞ」鹿門 「寝ぼけんない、誰が海賊なんかになるもんかい」新蔵人「因島に来て、おれのおやじにいえ」鹿門 「よーし、連れて行け、海賊の大将ならお前達より少しは話がわかるだろ い」 そういうと二人は一旦離れますが、まだ懲りないようなので、黒白斎は伝馬から水の入った桶を受け取ると、二人に浴びせかけます。黒白斎初め乗組員はその様子を見て大笑い、青影丸は因島へ向かって行きます。 続きます。
2024年01月07日
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俺は堺に育った、俺は道休の息子だ陣内を斬って船小屋に入って来たのは、道休の周りをうろついていた気違いの老人が、めくら船の黒白斎と名乗ると道休は思い出したようです。「裏切り者目」と鋭く目を光らせ近づく黒白斎に「どうしょうというのじゃ」と道休がいうと、「めくら船から鹿門様をお迎えに来たのじゃ」と答える黒白斎、鹿門は何も知らない、というと、黒白斎「わしから申上げよう、あなた様は壺屋道休の息子ではござりませんとな」道休は必死で道休「待て、今となっては、鹿門はわしの命だ、鹿門だけは連れて逃げんでくれ。 わしは、殿の子を・・・」黒百斎「さらって逃げたのだ」と、道休の言葉をさえぎると、それは真実とは違う、殿を殺したのは右衛門太夫で、道休はそそのかされて殿を殺害するが、断末魔で苦しむ磯野丹後守の顔が忘れられず、右衛門太夫の手から若君鹿門様をさらって育てていたのでした。「鹿門を奪わないでくれ」と頼んでも、財宝と共に奪って逃げた丹後守の遺児、鹿門を迎えに来たと、道休のいうことに承知をしない黒白斎に、我慢がきなくなった道休が小刀を抜きかかっていきます。村上水軍の乗組員たちに道休が取り押えられているところにやって来た鹿門は「海賊待てっ」と振り払い道休を助けに、するとひざまずき「鹿門様」という黒白斎に、鹿門は、鹿門「おやじに指一本触れてみろ、・・・俺が相手だ」 黒白斎「なにを仰せられます、あなた様は、壺屋道休の息子ではござりません」鹿門「なに」道休「嘘だ。・・・こやつのいうことを聞くでないぞ」 鹿門は、黒白斎から実の父親のことを聞かされます。江州佐和山城主でのちに八幡船の旗頭、磯野丹後守の世継ぎだと、聞かされます。呆然とする鹿門。 道休は、黒白斎達が交易に出ている間に、めくら船を奪った右衛門太夫を手引した裏切り者、まことのめくら船の頭領は鹿門だ、と・・・海へ出てほしいという黒白斎と引き留める道休の板ばさみになり鹿門は道休を見たあと少し考え、 鹿門「・・・俺は堺に育った、俺は道休の息子だ。・・・海賊などまっぴらだ」きっぱりと断り、小静が待っている船に急ぎ行こうとします。 「そんなことを信じると思うか」と止める黒白斎達を振り切り行こうとしたとき、港の方に火の手があがるのを見て、みんなが驚きます。 火をかけ騒ぎの中淡路丸を出帆させるために道休が支持をした時刻がきていたのでした。父や兄を待ってとすがる小静に、長崎屋は役人に捕まってはと、淡路丸を出帆させたのです。警備の軍兵達の矢が淡路丸に向かって矢を放ちます。矢は小静にも向かっていき、道休は淡路丸を追って矢が飛ぶ桟橋をかけていきます。道休を追って桟橋に行こうとする鹿門を引き止める黒白斎達、だが、矢が道休を射倒したとき、鹿門は狂ったようになり、倒れている道休の傍にいきます。 「お父つぁん、お父つぁん」と呼びかける鹿門に、道休は最後の力を振り絞って、「鹿門、・・・わしは・・・わしは・・・わしは・・・そなたに・・・・・そなたに・・・・・」と、あとはいえず道休はこときれてしまいます。 その様子に、黒白斎達が、鹿門を心配してかけより、道休から引き離そうとしますが、気が狂ったようになっている鹿門に困惑した黒白斎達は、仕方なく鹿門を失神させて運んで行くのです。 続きます。
2023年12月27日
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教えてください、めくら船と私に何の関係があるのか鹿門が家へ帰ってみると、父道休が暗い蔵の中で慌てて何かをしているのです。船乗り達が言い残した”めくら船”、帰り道用心の陣内が老人を襲ったのを見ている鹿門には、道休の慌てた行動が腑に落ちませんから、道休に問いただそうとします。鹿門「お父つぁん、・・・何をそんなに狼狽えて、船をだすんですか」道休「急に思い立ったのじゃ。戦のはじまる前に、博多へ避難するのじゃ」鹿門「お父つぁん、博多行きは戦のためではないんでしょう」 鹿門「いったい、何があったんです」鹿門は声を荒げ、道休にいい寄ります。道休「何もない、何もあるはずがない」鹿門「嘘だ、気違いの老人を闇討ちしようとしたのは、何のためです」 鹿門は、続けます。鹿門「お父つぁん、私はさっき、村上水軍の奴らに逢いましたよ」道休「えっ、村上水軍」 鹿門「奴らは、めくら船のいわれをお父つぁんに聞いてみろといいました。 ・・・教えてください、めくら船と私に、何の関係があるのか・・・」道休「知らん、そんなもの知らん」うろたえ、逃げようとする道休に、鹿門がくいさがります。 鹿門「何故隠すんです。・・・たった一人の息子に、何を隠すんだ。・・・・・ お父つぁん、一人で苦しむことなんかないじゃありませんか・・・」 道休「鹿門、夜明けまでに時間がないのじゃ、・・・堺の港を離れたら、訳を聞か そう、話もしよう、頼む、おとなしく淡路丸へ乗ってくれ、頼む・・・」必死になって頼む父道休を見て、興奮していた鹿門が静かになります。 道休「なっ、そうしてくれ、頼む。わしのいうことが聞かれんのか、頼む、この通 りじゃ、頼む」といい、手を合わせて鹿門にお願いするのです。 出港を待つ淡路丸には、父のいうことを信じて乗船した鹿門と妹の小静が先に乗り込んで、道休のやって来るのを待っています。その頃、道休は、船小屋で人足と最後の打合せをしていました。船小屋に火をかけ、その騒動に紛れて淡路丸を出港させるというのです。鹿門が淡路丸で待っている、「急ごう」と陣内と小屋を出ようとしたところで、一足先に出た陣内が、何ものかに斬られてしまいます。 続きます。
2023年12月15日
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時代劇としては異色の本格的海洋スペクタクル巨編です。戦国時代 、瀬戸内海の島々を根城として、八幡大菩薩の旗を翻し、遠く東シナ海を渡り交易のため雄飛した八幡船の男たち。二代目頭領に扮した橋蔵さんの海の若武者ぶりは、スケール雄大な異色時代劇として、ファンの思い出となりましたでしょう。沢島監督が情熱を賭けロケでみせる、芸術祭参加作品「海賊八幡船」・・・「ロケ費用、ロケ期間からすると、映画制作の常識からすれば、このシナリオは大部分は特撮にたよるところだが、今の日本の特撮技術では、どうしても小手先の誤魔化しになる恐れがあるので、無理をいってロケーションをやらしてもらいました。もちろん特撮も併用しますが、この作品のスペクタクルな面、絵柄の大きさといった面は、すべてロケ効果にかかっているといってよく、ロケーション場面の演出の機動力如何が作品の死命を決定するものと考えています」と沢村監督。そのため、会社が瀬戸内海あたりの距離でという意向でしたが、探し歩き、劇中の八幡船の根拠地に駆る因島がふさわしい部落を発見した時は、思わず涙がこぼれそうになったといいます。沢島忠監督にとっては念願の作品でした。本当は一年前に撮ることになっていたのですが、クランクイン直前に身体を痛めのびのびになってしまいました。沢島監督のねらいとは・・・海を嫌い、恐れる一人の青年が、次第に海の大きな魅力に魅せられていき、最後には雄々しく立派な海の男に成長していく。これがこの作品の骨子となっています。が、中心は、あくまでも海洋の大スペクタクルを狙うということなのです。”八幡大菩薩”の旗のもと、南海に雄飛する海の男達の雄大な海洋ドラマを描くのが制作意図です。唐津の立神、博多の芥屋など、約1ヵ月にわたる長期ロケで、ロケーション費だけで2,500万円という大がかりな金額、これは大作一本分の製作費に相当、東映創立以来の大規模なロケになりました。海戦シーンの撮影現場になったのは、福岡県糸島郡志摩村芥屋の海岸。玄海灘の荒波がくだけ散り効果満点です。現地には、佐賀県の漁港、呼子で建造された八幡船五隻が待期し、その中で最も大きいメクラ船には、呼子から長崎まで石炭を運んでいた160トンの貨物船を、その他全部が150トンクラスの漁船を改造したものです。砲撃戦には、ダイナマイトを使用、水柱一本につき、約8本のダイナマイトを点火、水柱も30mの高さまで吹き上げたのです。海賊船がのろのろと走ったのでは迫力が出ないと心配したりしたのですが、風が吹きすぎて面食らう有様でした。今までの日本映画の常識を破った迫力のあるシーンを作り上げたい・・・沢島監督の狙う大きな見せ場は、海賊シーンと堺の港の焼打ちシーンです。この船に乗って、橋蔵さんが大活躍するのですが、沢島監督の狙いは、優男の堺の町人が、次第に海の男として生きるようになる、その過程をいかに描くかということになります。堺の町人時代の鹿門はつけまつげをつけ優男の感じを、海のシーンになると強いメーキャップに変え、胸毛をつけ、逞しさを強調するようにしました。そこには、橋蔵さんの新しい魅力を発揮したい、と願っているといいます。観客の人々に、その気持ちが判っていただけるようになれば、成功したといえるのだそうですが・・・と。▲ 第67作品目 1960年9月18日封切 「海賊八幡船」 磯野鹿門 大川橋蔵寿賀 丘さとみ謝花 入江千恵子浅茅 円山栄子小静 桜町弘子伝馬 田中春男宮地与太夫 沢村宗之助五兵衛 高松錦之助磯野丹後守 北龍二磯野右衛門太夫 阿部九州男村上入道 月形龍之介黒白斎 進藤英太郎村上新蔵人 岡田英次臺屋道休 大河内傅次郎めくら船 ?永禄四年、貿易港堺の船問屋壷屋道休の息子・鹿門は、ある夜男達に囲まれ、八幡船旗頭・佐和山城主礎野丹後守の遺児、道休は丹後守を裏切り、八幡船の一つめくら船を奪った張本人だと告げらますが、鹿門は信じません。八幡船の動きを知った道休は、財宝を淡路丸に積んで足止めの禁令を破り脱出を企んだが、放たれた矢に道休は殺され、淡路丸は鹿門の妹小静を乗せたまま出港してしまいます。道休にすがり離れない鹿門を、黒白斎たち八幡船の男たちは、失神させ連れて行きます。鹿門が気がついたときは、大海原の青影丸の船中でした・・・・・始まりのスクリーンに昭和35年度芸術祭参加作品の文字がでて、船が進んでいくような画面に歌声と共に配役がでてきます。そして、暗闇の海原を船が進んでいってるような画面から入り、夜が明けてくるなか、船が見えてきます。”八幡船とは”の説明が流れます。八幡船とは、戦国乱世の頃、瀬戸内海の島々を根拠とした水軍の将兵が、遠く明国、朝鮮、ルソン、シャム等の諸国へ、八幡大菩薩の旗を揚げ、通商交易の為雄飛した船団のことである、彼等にとって、戦乱の国土より、海こそは、最大の自由の地であった。永禄四年、当時日本最大の貿易港、泉州堺の町にも、うち続く戦乱の波が容赦なく押し寄せていました。淡路丸で積み荷を運ばないとつぶれてしまうといい寄る長崎屋に、足止め禁止令が出ているのだから出せないと壺屋道休がいっているとき、船乗りたちに漂流しているところを助けられたとみられる一人の老いた狂人が現れ、「八幡船が沈む」「八幡大菩薩の旗が沈む」とおかしなことを言いながら、町の方へ歩いていきます。その老人は、船問屋壺屋に駆け込んで行き、しきりに「盲船」という謎の言葉を呟いて店の周りをうろついているというのです。五兵衛からそのことを聞いた道休は慌て、息子鹿門のことを心配すると、出かけていると聞き、「また廓通いか」と呟くと、五兵衛に長崎屋にあすの朝淡路丸を出すと伝え、出かけている息子鹿門を連れて来いといいます。鹿門が通っている廓では、船乗りたちが宴を開いている座敷に、昼間老人を助けたといっていた船乗りを待ちかねていたようで、「守備はどうだ」と聞かれ「ちゃんと町へ送りこんだ」という会話が聞かれます。廊下ですれ違ったとき、浅茅の髪から取った櫛を取りに来るかと思っていたら、持ち帰って結構ということをいってきたので、「馬鹿にするな」と浅茅の部屋に乗りこみます。伝馬「これ女、わしはな、ものもらいと違うぞ」というと、浅茅の膝枕で横になっている男が、鹿門「なら、置いていったらいいじゃないか」と言ったので、「町人のくせに、海の男を馬鹿にしやがって」と、男に手を出すと、簡単にやられてしまいます。鹿門「こいつは、面白れえや、・・・よーし、表へ出ろ」そういうと、鹿門は立ち上がり、伝馬を外へ連れ出します。船乗りたちや店の者たちみんなが外に出ています。 鹿門「おい、この堺ではな、町人も侍も対等なんだ。証拠を見せてやるから、一度 に来い」 鹿門がそういうと、先頭をきり、船乗りの宮地与太夫が「生意気な」とかかって行きます。浅茅の櫛のことをめぐるささいなことから、乱闘が大きくなり鹿門が追い詰められたとき、「若旦那」と番頭の五兵衛が飛び込んで来ます。 船乗りたちをかき分け、鹿門との間に割って入ると、五兵衛「待ってください。何の騒動か存じませんが、この方は手前主人、壺屋道休 の大事な跡取り、間違いがあってはなりません、どうぞお許しを」というのを聞き、与太夫が「なに、壺屋道休・・・」というと、伝馬が「あかん、与太夫、問題の人や」と、すると「引け、引け」と声がかかり去って行くのを見て、鹿門が「どうした、・・・逃げんのか」と声をかけて来たので、伝馬がこれに答えます。 伝馬「あんたに刃を向けると、わしら村上水軍は、八幡船の掟に背くのや」鹿門「村上水軍?・・・八幡船の海賊か。・・・その八幡船の掟が、この俺にどう いう関係があるのだ」伝馬「それやったらな、はよ帰って、お父つぁんに聞いてみなはれ、めくら船っ てなんやって・・・」鹿門「めくら船」船乗り達は、謎めいた言葉を残し去って行きます。 道休に命じられた甚内は、気の狂った老人を誰にも気づかれないように暗殺しようと襲いますが、川に飛びこまれ逃がしてしまいます。廓からの帰りその現場を通りかかった鹿門は、慌てて、鹿門「陣内、どうした」 続きます。
2023年12月06日
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三十一万九千九百九十八石だけ、余分な苦労をする一ぜん飯屋では、目明しの梅右衛門が一晩帰ってこなかったと甚左衛門が、嘘をついていた、誰が糸路の兄を誰が斬ったか、何故斬ったか知っている、と四郎吉やお光に打ち明けていました。そして、江戸城中の一部屋に、黄門光圀、光貞、綱条が顔を揃えています。光貞は、黄門光圀に、綱条が一命を投げ出して二ヵ条を上様に直言、「上様御嘉納荒せましたぞ」そのとき、綱条がすかさず、「いや、それは・・・」といったのに対し、光貞がその先いわんとすることを止めます。 光貞「黄門殿、よき御敬称を得られて上々」黄門様「それは、誠でござるか」光貞「天下の副将軍として、申し分なき御器量、・・光貞、お羨ましき限りと存じ まするぞ」それを聞いていた黄門光圀は、下を向き感慨無量の様子に、そして隣りにいる綱条に席を外すように合図をします。 綱条が出て行くと、黄門光圀は、目頭を押さえ、黄門様「光貞殿、光圀の取り乱しよう・・・お許しください」光圀、うれしゅうござる、うれしゅうござる」涙声で、光貞に礼をいう黄門様に、光貞「さこそ・・・この光貞も、・・・共に・・・うれし泣き・・・」顔を覆い黄門様とうれし泣きするのです。 一ぜん飯屋に、黄門様が戻ってきました。そのとき、甚左衛門宛てに大原健之助からの書状が届きます。短冊に書かれた短歌の中の言葉から、材木問屋の近くにあるすか川に架かっているうづら橋ということがわかり、黄門様が「それだ」と。そのうづら橋にある材木問屋には金井将監、由井隼人はじめ大勢の浪人が集まっていました。勅使柳原大納言を党首としてかつぎ上げることに失敗したため、次の手を考えていたのですが、同志の中に裏切者が・・・といい、連れて来られたのは糸路です。兄の優柔不断のため、町方という者の追跡まで受けた、・・・糸路は、集まった浪人の中から不審な者を見つけ出せといわれます。糸路は、甚左衛門がいるのが分かったが知らない人ばかりだというと、「それはいかん」と甚左衛門が立ちあがり名乗ったため浪人達が刀を抜いてかかってきます。甚左衛門がこの家の周りは取り囲まれてるといったので、確認した番頭が囲まれているのはウソ、たった三人それも一人は老いぼれだ、と聞いた滝川は表に出て黄門様にかかっていきます。浪人どもを助さん、格さんが、滝川と由井は黄門様に斬られます。二人が斬られたので逃げようとした浪人達は、やって来た御用提灯に囲まれます。材木問屋の主人岸屋信右衛門は、家の周りを役人に囲まれたてしまったため、隠してあった火薬に火をつけます。火の回る中での大立回り、火消し離れ駒も火事現場に急ぎます。 火事の半鐘が鳴り響きます。出向く支度をしていた綱条は、半鐘が鳴るのを聞いて、綱条「やはり、火をかけたのう。・・・備前、中屋敷の件は、そちが指揮をとれ」中山「殿、いずれへ」綱条「知れたこと、父上の御助成じゃ」そういうと、馬を走らせます。中山は、「行け」と朝比奈に、綱条について行きます。 綱条と朝比奈も浪人達をたたきのめします。 一ぜん飯屋に、みんなが集まり甚左衛門の唄でにぎやかにしています。黄門様の楽しそうな様子を、そっと見ている綱条の表情もほころんでいます。 黄門様は、甚左衛門に浪人生活をしていてはもったいないと、黄門様「どうでしょう、わしの国の殿様、中将綱条さんへ、召し抱えてもらうように頼んであげましょうか」と言いますと、甚左衛門は、今さら仕官をするのはまっぴらごめんだ゜、と断ります。黄門様が、二百石で・・・というが、父親は熊本の五十三万石の家中だったが、主君と共に他国へ流され苦労の日々を送った・・・・・話をしたうえで、甚左衛門はいまの暮らしで楽しいと、一年に食べる米は二石もあれば・・・二百石もらって残りの百九十八石はどうしよう。人間は余分なものを持つから余分な苦労をする。可哀想に水戸三十二万石の綱条様は、三十一万九千九百九十八石だけ、余分な苦労をするに違いない、と甚左衛門がいうことが、外にいた綱条の心を打ちます。 甚左衛門のいうことに、「よくわかりました」といい、甚左右門の唄のお礼にお国ぶりを披露するという黄門様にびっくりした様子の綱条、中山達もびっくりした様子。黄門様の唄声が聞こえてくると、息子としての温かいまなざしでみつめ、民衆の中で楽し気な黄門様を心に留め安心して立ち去って行ったのです。 (完)
2023年11月28日
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綱条は叔父光貞に感謝します早馬が、ご勅使の江戸城に入る時刻を知らせてきます。城に出向く綱条は、強い決意をもっていました。出発前、継の方と向かい合って盃を交わします。 綱条「上様のお心次第によっては、・・・或いはこれがその方との名残りの酒にな るかもしれぬが、・・・綱条のもとに化してわずかに三月、されど綱条、こ れを浅き縁ともはかなき縁とも思わずに済むは、そなたのおかげ、いま改め て礼を申すぞ」 継の方が、これで綱条の妻になれたといいます。城から連絡あり次第、自分もそれなりにするといい、天下の副将軍として、存分のお勤め祈っているといいます。綱条は、「うん」というように首を小さく縦に振り、継の方もそれに答えるように・・・二人の心と気持ちは通じ合い見つめ合うのです。 そこへ、中山備前守が登城の時刻を知らせます。綱条は部屋を出ようとして、継の方の方を振り返ります。綱条「蓮の台で・・・」 江戸城大広間、将軍綱吉、黄門光圀、紀伊大納言光貞、副将軍綱条が揃って、勅使柳原大納言を迎えます。柳原大納言は、黄門光圀の前に来たところで立ち止まりました。光圀が顔をあげます。柳原は笑みを浮かべ通り過ぎていくのです。そう、勅使柳原大納言は、黄門様が、一ぜん飯屋、真如院であった大原健之助だったのです。柳原と光圀が茶をたて寛いでいる頃、中将綱条は、将軍綱吉に許可願いたいこと二か条を申したてます。 綱条「勅使院使西の丸炎上の御見舞いとして禁裏より差しつかわれましたので、そ のお土産として禁裏御陵一万石の奉呈、上様におかれましては畢竟の御家 臣、その上様の首領は八百万石、これに引き換え、近隣にあっては東照権現 様本御陵として二万石料献じられたのみにございます。・・・・・徳川と禁 裏のこのあまりなる隔たりが、天下擾乱のもととなるは、うるうるものにご ざりまする。・・・相次ぐ大名お取りつぶしの結果、全国にあふるる浪人の 数は、今や二十万と申しまする。扶持を離れた輩が、御禁令によって再仕官 の道を断たれ、自暴のあげく、口実を尊王の大義に借りて、慶安の乱の最凶 を謀らんか・・・」 聞いていた綱吉が綱条に「近来の火災も、その方も、世情の噂のごとく、これら浪人どもとみるか」と聞いてきますと、綱条「噂の制止よりも、この不祥事を根絶せねばなりません。すなわち、浪人ども 仕官の道を通ずる御発令が、二つ目のお願いでござりまする」 綱吉は側近のダメだという仕草を見て、綱条に「中将殿のその願い、叶えがたきとあらば・・・」といってきたとき、「しばらく」と光貞が綱吉の前に進んで来ます。光貞が綱吉に申します。綱条殿、天下の副将軍として若年ながらも大任、日夜心を砕く様子ははたのみる目も労しきほどであること、を述べ、綱条が勅使下向のこの日に綱吉に拝謁願ったことを聞きただならぬ覚悟と参り出たと・・・、そして綱吉にいいます。光貞「中将殿のお願い、上様において叶え難しとの御状ならば・・・中将殿は、ご 切腹のお覚悟と見えます」綱吉、側近も驚きます。 光貞は、綱条に、光貞「しかし、ご切腹のことは光貞もお止め申す」そして、思いもかけぬことをいってきたのです。光貞「むしろ、これより直ちに水戸へ駆け戻り、日立一国をあげてのろう城をおす すめ申す」綱条は、思いもかけぬ光貞の言葉に驚きます。綱吉も同様に。 そして、そのさきは、綱条殿に従って紀伊へ帰ってろう城するというのです。 光貞「光貞にとっては、上様、綱条殿も血を分けおおたる叔父甥、・・・されど天 下正道の是正にくらぶれば骨肉の相争う悲しみなど、ものの数とは申されぬ ところでござろう」綱条は後押しして綱吉に助言してくださる叔父光貞に感謝します。 続きます。
2023年11月23日
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黄門光圀を討ち取れ黄門様が推測したように、やげんぼりの米問屋に付け火をした黒覆面の一団を見つけます。そのうちの一人を追っていくと、甚左衛門と同じ長屋の滝川軍平の家においこみます。家の中に入ると、その男は、糸路の兄を斬って逃げた浪人でした。浪人を斬り裏木戸から逃げた男は、真如院に入ったのです。寺社奉行からのお許し状を住職に見せ、火付けをはたらいた曲者が逃げ込んだのを話し、黄門様は今奥にいらっしゃる方にお目にかかりたいといい、部屋に案内してもらいます。そこにいたのは、一ぜん飯屋で会った大原健之助となのる男でした。大原が「曲者を追い込まれたとか」といったとき、押し入れで物音がしました。助さん、格さんが動こうとするのを黄門様が止めます。すかさず、大原が「いや、ねずみでござる」、ねずみ取りの薬を仕掛けたので間もなく静かになります、と黄門さまにいいます。黄門様はじっと動かず、大原から視線を外しません。 大原が語ります。近ごろ世間ではねずみが増えたと聞く、全国で約20万とか、800万石の江戸に集まるのも自然の成り行きといい、ねずみも生き物、食物を求めるのはしかたのないことだが、「燭台に戯れ倒し家を焼くなどの過ちは、放置しておくわけにはまいりますまい」と大原がいうことをじっと聞いていた黄門様が口を開きます。黄門様「いやあ、ご書見のお邪魔をいたしました。ねずみの死骸は、当院のご住職 にゆだね、我々はこれで引きとらせていただきます」といい、部屋から出て行きます。 すると、大原は刀を取り、押し入れをあけ、隠れていた滝川が助かったとほっとした顔で礼をいうと、大原「未練もの。武士らしく自決する勇気もないのか」滝川「幕府をくつがえし、天朝のみよにするまでは・・・」大原「ほざくな、うじ虫。世間を擾乱におとし入れ、己の栄達を謀らんがために、 勤王味方を口実として利用する。その方どもの魂胆、わからぬ身共と思うて おるか」滝川が刀を抜き、大原にかかっていき、一刀のもとに斬られた声が、真如院の玄関先で耳にし、引き揚げる途中で、黒覆面の一団に囲まれます。一団の中にいた金井将監という侍は、黄門様を見て気づいたようで、薄笑いをして将監「梅右衛門とかいう老いぼれ目明しが、我らの手の者にうるさくつきまとうと 聞いて、片付けに出て来た。・・・これはまた、意外な獲物だ。まず、左右 に控えた下っ引きから化けの皮を剥ぎもうそう。佐々木助三郎、渥美格之 進、と申せば、中の御仁の身元はすでにお分かりであろう。先陣の血祭りに は恰好の品物」そこまでいったとき、黄門様は笑いを浮かべ黄門様「相手を探って、己をなのらぬ。近ごろのねずみどもは、一段となり下がっ たようじゃ」といわれたので、金井将監は、由比正雪の高弟金井半兵衛の一子将監だと名乗ると、一団の者に黄門光圀を討ち取れといいます。 黄門様、助さん、格さんが強いとはいえ、将監の一団の人数には手を焼いているところに、中将綱条の命令でやって来た朝比奈弥太郎がはいり、気を逸したと将監はその場を引きあげます。 続きます。
2023年11月17日
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せめて子として、父上のお名を汚しとうない一ぜん飯屋には、いつものようにみんなが集まっています。糸路がいなくなったことについて深川八幡で駕籠屋が糸路を降ろしたという話を聞いて、黄門様は「どうやら筋道だけはついてきたようだ」と助さんに耳打ちをすると、助さんがびっくりしたようです。そして、黄門様は、次は、放駒の若親分にお骨折りを願おう、というのです。その放駒の四郎吉のところでは、甚左衛門が顔を見せないのでイライラして、居候をしているというお光にあたったりしていますと、甚左衛門が通りのすみの方を行ったり来たりしているのを見て、四郎吉は家の中に入って来るように、お光の作るもので飲みたい、相手が欲しいと、仲たがいしている奴でもいいんだが、と聞こえよがしにいいます。すると、にっこりして敷居をまたぎ「お相手はわしでもいいのかね」という甚左衛門に、「上がってくんねえな」と四郎吉が嬉しそうにいうと、甚左衛門は「かたじけねえ」というと、仲間達と黄門様を呼びます。これには四郎吉もあきれ顔。早速、黄門様は、火付けがねらう場所あたりの夜回り、火を見たら怪しいもののあとをつけることもやってほしい、と放れ駒一家にお願いします。駕篭屋になって糸路の来るのを待っていた助さんと格さんは失態から見失ってしまうが、裏に浪人の一団がいることが分かった。屋敷に戻って来た中将綱条は、中山備前守より、御本家播磨守様のところから家老岡部求馬が見えていることを聞くと、「会おう」と。別室から岡部求馬が目通りいたします。綱条「おおう、求馬か、久しぶりじゃのう」岡部「この度、主君頼前、中将様よりお情けあるお心遣いを賜りまして・・・」綱条「そのことについては、遠慮のう備前と相計らえ。勅使御饗応の大役に瑕瑾な きよう、頼前殿を助けまいらせるのだぞ」岡部は胸をつまらせ、岡部「かたじけ・・・、かたじけのう存じ奉ります」 綱条「綱条の不徳、大奥向きの不況をつのらせ、縁に繋がる頼前殿までこのかざあ たり、・・・綱条、頼前殿にすまぬと思うていると、伝えてくれよ」岡部「なにを仰せられます。・・・中将様が、天下の副将軍として上様に対し奉 り、理非曲直の筋目をはばからずに御進言。・・・それが大奥にはけむとう て、なにやかやとの嫌がらせ、我が主君播磨守におきましても、中将様の御 心中推察するにあまりあると、常日頃申しておりまする」綱条「頼前どのが・・・」 綱条は、備前守に岡部の酒の相手をして、心ゆくまで鬱をはらすようにいい、立って奥へ行くのです。 綱条が部屋を出て行ったあとも、岡部はしばらく頭を上げずにいて、しばらくして奥の方に目を向け、感極まりながら岡部「天下の副将軍、二代続いての御名君、・・・備前殿、・・・祝着に存じます る」中山も小さなこえで、中山「うん」と、岡部に答え、感極まります。 奥の間では継の方が綱条を迎えていたが、何となく気がめいる綱条が綱条「わしも酒を飲むといたそうか」といい、継の方のあげた顔を見ると泣いている・・・「どうした」との問いかけに顔を背けてしまう継の方に「どうしたのだ」と聞きますと、継の方は、わが身の不甲斐なさが悲しくて、といいますので、綱条は継の方をいたわります。 綱条「不甲斐なさ、・・・何をいやる」奥へいらっしゃったときだけでも、せめてお慰めいたさなければと思うが、どうにもできないこの身が・・・と、悲しむ継の方に綱条「そなたの、その気持ちわからいでか。分かってうれしゅう思うているのじ ゃ。・・・だが、・・・副将軍の勤めは、わしの技量には重い。・・・ 父上があのように不誠実なお方だっただけになおさらじゃ。もとより、 わしは父上には及ばぬ。ただ、せめて子として、父上のお名を汚しとうな い。そう思うて、わしなりの精いっぱいを尽くしているのじゃが・・・」 綱条がそんな話をしている頃、放れ駒一家が見回っていたところで、火付けをしている侍達に出会うのです。 続きます。
2023年11月05日
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そこもとには、この光貞がついている大原健之助が帰ってきたところは、材木問屋岸屋信右衛門の屋敷でした。そして、そこには糸路がどういうわけか、大原の逗留中身の回りの世話をする者として入り込んでいたのです。その頃江戸城中では大火による町民の困窮をよそに、将軍自ら能を舞うという華やかな能楽の宴が催されていました。綱条は席についていましたが、叔父にあたる紀伊大納言光貞は最後まで席にはつきませんでした。宴が終わって、綱条は下がる途中、勅使御饗応役を仰せつかった頼前に声をかけると、「家紋の誉れにござりまする」という言葉と反して、頼前の表情に暗いものを読み取ります。 綱条はやさしい言葉をかけるのです。綱条「なにかと物入りのことと存ずる。・・・お手に余らんうちに、小石川へ相談 に人をよこされ、中山備前に申し付けておくによって」頼前は綱条の気づかいに「中将殿」と・・・綱条は振り返らずにいく・・・頼前は声をかけてくれたことに感謝し頭を下げます。 宴の席に出ず控え部屋にいた紀伊大納言光貞が、戻って来た綱条に声をかけます。光貞「中将殿、ごらんなさい、庭の花がうつくしゅうござる」 綱条の花を眺める様子を見ると、光貞は部屋の中に綱条を促します。光貞「綱条殿、中納言殿はいまもって、旅の中の遍歴をお続けでござるか」綱条「はい、昨今は江戸の市井におるやに承ります」 光貞は黄門や綱条の気持ちをはかり、こういうのです。光貞「光貞、本日、上様の猿楽拝見の席に参らず、ひとりこの部屋にあって、思い を黄門殿の上に走らせており申した。・・・江戸市中に相次いで起こる大 火、それにとものう人心の動揺、・・・上様、猿楽に夢中になっていられる ご時世か・・・いや、上様の猿楽を悪いとは申さぬ、さりながら、猿楽で天 下は治まらんぞ。・・綱条殿、この間に処して、天下の副将軍たるそこもと の責めは重い。それに、水戸家に対する大奥向きのとやこうの噂も耳にいた す、しかし、気を屈せられてはなりませんぞ。・・・そこもとには、・・・ この光貞がついているということをお忘れなきよう」綱条「・・・叔父上・・・」 続きます。
2023年10月27日
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月形竜之介主演による水戸黄門。オールスターキャストが顔を揃えた豪華な娯楽時代劇です。この作品では、黄門様の正体を明かしそうになる場面があり、観客にフェイントをかけるような、よい意味で肩透かしを食らわせ面白くなっていて、一度も印籠を見せずに、陰謀を解決していきます。脚本家と監督がスターの持ち味をよく知っているので、スター各自に見せ場がちゃんと用意されており、その配分も監督ならではのもので、スターの特徴を活かしています。そして、笑いと涙の場面の観客が喜ぶ配分のうまさは絶妙です。その一つに、錦之助さん扮する威勢のよい火消の頭と、大友さん扮する方言丸出しの田舎侍の掛け合いが絶妙で、観客も自然と頬が緩んできます。また、副将軍綱条が将軍綱吉に死を覚悟で進言するところで、叔父の光貞が綱吉に助言し綱条に助け舟を出します。そして光貞は自分が助言したことはおくびにも出さず、黄門様に綱条が立派に役目を果たしたことを告げるのです。黄門様は、わが子綱条に対しての光貞の好意に感謝する涙を流します。そして、将軍に死をもって諫める覚悟で出かける綱条と奥方継の方とのもしやこれが・・・の別れのシーン。画面の中だけで泣くのではなく、一緒に観客も涙を流し、画面の中に引きずり込んでいるのです。お互いに、仕事のためなかなか撮影所でも顔をあわせない、スタアたちが、「やあ、やあ」と集まり、そこへ集まったオールスタアを見ようというファンの波に、撮影所は、お祭りのような賑やかさで、その楽しい雰囲気が、東映オールスタア映画ににじみ出して、ファンの期待と拍手を集める。これは東映だけが誇れる豪華版といえるでしょう。「僕をふくめて若手スタアは、目の前で片岡・市川・月形先生がたの芸道の深さをしみじみと感じながら、緊張のうちにも、無言の教えをうけることができるので本当に幸福です」と橋蔵さんが語っていました。 ▲66作品目 1960年8月7日封切 「水戸黄門」 水戸黄門 月形龍之介佐々木助三郎 東千代之介渥美格之進 中村賀津雄放駒の四郎吉 中村錦之助水戸中将綱条 大川橋蔵井戸甚左衛門 大友柳太朗お光 丘さとみ糸路 桜町弘子継の方 大川恵子 岡部求馬 三島雅夫滝川軍平 原健策森下半兵衛 吉田義夫将軍綱吉 伏見扇太郎中山備前守 黒川弥太郎治兵衛 千秋実金井将監 山形勲岸屋信右衛門 薄田研二柳原大納言資廉 片岡千恵蔵紀伊大納言光貞 市川右太衛門綱条このままにあるは許さん江戸で大火が頻発していた元禄四年。大火の原因を探るために素性を隠した水戸黄門、助三郎と格之進の一行は下町の一膳飯屋にいた。そこで知り合った浪人の井戸甚左衛門に案内され長屋を訪れた一行は、彼の友人が殺害され甚左衛門が捕らえられる現場に黄門様が遭遇。火消しの頭の放駒の四郎吉達と江戸の町に火を放つ黒覆面の一団を発見し、追い詰めた一人の浪人が逃げ込んだのは寺院。その頃、時の副将軍水戸中将綱条は、江戸の大火の責任を追求され、苦しい日々を送っていた。そんな我が子の苦しみを感じとりながら・・・黄門様がみんなと一緒に乗りだします。元禄四年江戸には大火がしきりにあり、6月2日夜には、半蔵門外平河町より出火し、西御丸に飛び火全焼するという事態、黄門様は助さん格さんと身分をかくして江戸へ来て、米沢町の一膳飯屋に入り込んでいました。そこで声をかけて来た人のよさそうな田舎浪人井戸甚左衛門の好意で、黄門様たちはその夜甚左衛門の長屋に泊まることになります。長屋に戻った甚座衛門は家に明かりが灯っているのを不思議に思い家へ入ると、家の中で騒がしく、黄門様たちも行ってみると、抜いた刀を持ち呆然とつったっている甚座衛門の傍には、甚左衛門の友人の村尾が殺されていました。最近甚左衛門を斬らなけれはならないと口にしていた兄を心配して追って来た妹の糸路は、駈けつけて来た町方に、刀についている血が証拠といいますと、黄門様は血は切先だけについている、ということは軽い手傷を負わすもので殺しはできない、と糸路にいいます。町方に見かけぬ顔だがといわれ、事態が事態だけにまことの身分を打ち明けた方が・・・と、その時易者の鰑堂が黄門様をじっと見て、水戸の御老公といったのだが、黄門様は水戸の目明しといい、その場では町方に犯人として捕らえた甚左衛門に、明日の朝にはご放免になるだろうと。長屋の衆がどうにかならないかと騒ぐなか、黄門様に耳打ちをされた助さんは急いで出て行きます。黄門様は格さんと、甚左衛門が一太刀浴びせた血痕があるかも知れないと調べていくと、滝川軍平という浪人の家の前にたどり着きます。助さんは水戸藩上屋敷に出向いていました。黄門様の使いで、副将軍水戸中将綱条に目通りし、黄門様が江戸へ来ている報告を受けます。綱条「なに、父上が水戸の城下の目明しで、其の方と格之進が配下の下っぴきにな ったともうすのか」助三郎は綱条に、黄門様の江戸入りは、度重なる大火が扶持を離れた浪人達の策謀ならゆゆしき大事であると、自ら探索に出たことを告げ、そのことを水戸家より町奉行に内々に知らせておくようにとのことを伝えます。綱条は中山備前守から町奉行に申し入れいたすことを約束します。 浪人達の各藩お召かかえの禁令を廃止するよう、数次にわたって上様にご進言したが、どういうわけか未だに取り上げてくださらない、と綱条の悩みは・・・綱条「上様の御側近も、水戸家に対する大奥の思惑をはばかってか、動こうともせ ぬ。・・・しかし、御老齢の父上に、このご苦労をかけては、綱条このまま にあるは許さん。副将軍の職をおとし、いや、綱条の命にかけても・・・」 長屋に甚左衛門と親しい火消し頭の四郎吉がやって来ると、黄門様を見るなり、甚左衛門を町方にしょっ引かせたと大憤慨で黄門様を殴りつけからむのです。大家が、明日の朝には、ご放免になるといっているといい聞かせても納得はしないのです。翌朝、一膳飯屋に黄門様、四郎吉はじめみんなが甚左衛門がご放免になって帰ってくるのを待っています。ところが、迎えにやった駕籠に乗っていたのは、昨夜えこう院の近くで、火付け疑いの浪人の手入れがあったところに通りかかり牢に入っていて、甚左右門と一緒にご放免になった大原廉之助という浪人が乗ってやってきました。遅れて、やって来た甚左右門にやきもきさせられた四郎吉は、甚左衛門に心にもないことをポンポンといい帰って行きます。大原兼之助という浪人が甚左衛門に礼をいって帰っていきますと、甚左衛門は用をたしに糸路さんのところを尋ねたところ、商家の番頭風の者が駕籠で迎えに、引越していまったというのです。 続きます。
2023年10月13日
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次郎長は、おめえさんに・・・惚れましたよ次郎長をはじめ子分達が政吉を待っていました。政吉は、次郎長に真向からきりだします。政吉 「聞かせてくれ、次郎長。おめえは、佐幕に与するのか、それとも・・・」次郎長「ちょいと、待った。・・・どっちがいいかわりいか、俺のしったこっちゃ ねえ」政吉 「なにい」というと、政吉は刀を抜きます。それを見て子分達もドスを抜きますが、次郎長の「馬鹿野郎、刀を引け」との怒鳴ります。 そして、みんなに、こういうのです。次郎長「俺はな、この勤皇のお侍さんの、味方をするぜ」 次郎長がそういうと、子分達はドスをおさめました。その光景を目にし政吉がびっくりしていますと、次郎長が、政吉に、刀をおさめてくれるよう、促します。 じっと次郎長を見つめていた厳しい政吉の顔に笑みが浮かび、刀を鞘におさめます。 次郎長は「ありがとうござんす」というと、腰を下ろしあらたまって、政吉にこういいます。次郎長「次郎長は、おめえさんに・・・惚れましたよ。・・・東海道のことは、こ の次郎長にまかしておきなせい」政吉 「うん。・・・かたじけない」政吉の言葉に「へい」と返事をした次郎長は、立ち上がると外に待っていた者達に「野郎ども、出て来い」と声をかけました。「おう」という声がして、入って来たのは旅支度をした三下達でした。 これは・・・という表情で次郎長を見る政吉から視線を外す次郎長。六助や七助たちは、政吉のお供をして京で男らしい大喧嘩をさしてもらうというのです。「いけねえ、そいつはいけねえよ」と困り次郎長に助けを求める政吉に大笑いする次郎長。 次郎長「あはっはっはっは、さあ、次はお雪だ」政吉 「えっ?」 次郎長がお雪を呼びます。六助達は二人の仲を羨ましそうに見ています。 お雪の姿が見えると政吉も神妙な表情になりました。 お雪が政吉に呼びかけます。お雪「政吉・・・」政吉がお雪の方を向き、政吉「お雪さん・・・」といいますと、お雪は2、3歩近寄り、政吉にお雪「ごめんね、政吉と、もう一度だけ、呼んでみたかったの」 政吉は、じっとお雪を見つめます。そして、お雪の気持ちに、政吉「へい」と答え、深々と頭を下げます。 お雪が、お詫びのしるしと、政吉が京に上るために用意をした装束を差し出します。茶摘み娘達がチャッキリ節の歌を唄いながら茶摘みをしている茶畑のところに、侍の装いの政吉を先頭に、三度笠の装いの六助達が京へ向かって行きます。 娘達の唄声に合槌を入れながら、楽しそうに歩いていた政吉、チャッキリ節の”きやーるが鳴くんで雨ずらよ”という節に来たとき、政吉は清水に来たあの日を思い出したのでしょう。政吉「おれぃ・・・おう、(明るく笑い)あっはっはっはっ、・・・合羽を着ろい」みんなが何のことかと「えっ」というと、政吉「合羽を着るんだい」 の声で一斉に合羽を着て、走り出します。 おしまい。
2023年09月26日
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勤王志士跡部政之進(ここから、大立回りになります)政吉を待ちかまえていた為五郎一家の中にいた用心棒の浪人がかかってきます。浪人を見て、政吉は「新選組くずれ」と分かります。 政吉は中へと入って行き、一段落したところで、政吉は懐から熊吉の位牌を出すと、 政吉「おい熊、おめえを殺したのはこいつかい、・・・それとも、こいつ か・・・」と位牌を向けながら、部屋の奥へと踏み込んでいきます。 政吉「よーし、それじゃ、みんな叩き斬ってやるぜ」 用心棒を斬った後、為五郎を追い詰めていきます。為五郎が斬られ、子分達は逃げて行きました。 政吉は、襖に、勤王志士跡部政之進と残していきます。為五郎の家からの帰り六助には、金子を渡し、おすきさんのところへ帰るようにいっているところへ、次郎長からの迎えがやってきました。次郎長一家と政吉(跡部政之進)とのけりをつけたいのでどうしてもお連れして来いと、いうのでした。 政吉は笑いを浮かべ政吉「そうかい」というと、今度は真顔で政吉「もし、いやだといったら・・・」というと、「親分が、こうしろとおっしゃいました」とドスを抜いてきました。 それを見て政吉は政吉「よーし、わかった、望むところだ・・・会おう」 続きます。
2023年09月15日
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分かってるよ、お侍れえさん熊造と書かれた位牌に線香をあげ手を合わせている次郎長の部屋の障子が静かに開きました。「誰だい」と声をかける次郎長、入って来たのは政吉、障子を閉めたとき、次郎長「何の用だ」政吉「次郎長親分」政吉は刀を持ち仏壇の前に座っている次郎長のところまでやってきます。政吉「街道一とうたわれた大親分だ、・・・といいてえところだが、見ると聞くと は大ちげえだ。かわいい子分をなぶり殺しにされて、位牌に手を合わせて、 ぼろぼろ泣いていなさる。ちえっ、・・・いいかい、男一匹と生まれたから にゃ、やるべき喧嘩にゃ、りっぱに命をかけるもんだ。おらあ、京都で、 ・・・よろこんで死んでいった男をいくらも見た。それは武士だけじゃな い、町人も百姓も、・・・みな笑って死んでいきやがったぜ。・・・残され た家族の口からも、一度だって角太郎の女房のような言葉はもれなかった。 何故だか、・・・」次郎長は黙ったままです。 座っていた政吉は、刀を持ち、片膝たてる姿勢で、次郎長に浴びせかけます。政吉「おうっ、次郎長さん、いま国をあげて佐幕か勤皇かと大喧嘩の真っ最中だ ぜ。兎に角、(この時、次郎長が傍にあるドスに手を伸ばしています)どっ ちがいいか悪いか、その人たちの心ではっきり決めて、死に物狂いでやっ てるんだ。男の中の男といわれる次郎長さんなら、一生に一度はそんな喧 嘩の味を、なめてみる気はねえかい」 そのとき、「なめるねい」という言葉がとび、次郎長のドスが政吉めがけ振り落ろされます。振り下ろされたドスを政吉が止めると、次郎長は笑って、次郎長「分かってるよ、お侍れえさん」その言葉に、一瞬ハッとするが、政吉は何もかも見通した次郎長を見て、笑いを浮かべ、 政吉「そうと分かりゃ、・・・親分、しばらくこの位牌をかりますよ」 部屋を出て行こうとした政吉は、廊下にいたお蝶とお雪を見て足が止まりますが、次郎長の方に「ご免なすって」というと、二人には声をかけずに足早に行くのです。 次郎長は、お雪に、政吉は為五郎のところへ殴り込みに行ったことを伝えます。為五郎一家の方へ急ぐ六助は、喧嘩支度をした政吉に会い、一緒に死んでくれるか、というと、政吉は「俺は死にやしねえよ」と。そして厳しく、政吉「てめえなんかの、出る幕じゃねえ、けえれ」走る政吉、一緒に行くと追ってついて来る六助、そのとき、為五郎一家の者がかかってきたあと、政吉は囲まれます。一匹だけでも斬らしてという六助に「よーし、それじゃ気をつけて付いて来いよ」と為五郎の家に向かっていきます。 続きます。
2023年09月06日
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くそやくざと仁義ぼけは、でいきれいだ政吉が企てた芝居以後、次郎長の様子が変わって、喧嘩法度の禁止令が出たことは、清水の町中にひろがり、清水一家の三下の六助や熊造達にとっても影響がありました。酒を酌み交わし不満をぶちまけているところへ、鳶の山の為五郎一家が、新選組崩れの用心棒を連れて、飲み屋に入って来ました。そして、為五郎のところの者が、浪人に、次郎長とか八百長とかいう、独活の大木に止まっている虫けらがいるが辛抱願いますといって大笑いするのを辛抱していたが、酒を飲んだ勢いで、熊造が我慢できず相手に向かっていき浪人に峰内にされます。熊造は、次郎長親分を悪くいわれ口惜しさのため、深夜たった一人で、為五郎一家に殴り込みをかけ斬られてしまいます。そのとき、政吉は目を覚まし、寝床に熊造の姿がないので、小さな声で「熊・・・」と呼んで、どうも気になり、起きて土間の方に探しに行き、また「熊・・・」と囁いたとき、何度も戸を叩くので「へっ、今開けますよ」といい開けると「独活の大木にたかる、ドモ虫一匹献上」と書かれた紙を背中に突き刺された、熊造の死体が倒れ込みます。熊造の遺体のまわりに集まっている子分達を前に、次郎長の言葉は冷たかったのです。「ばか・・・俺のいいつけに背いて勝手なまねする。俺はな、一度いったことはこんりんざい通すおとこだ。おめえ達、この死骸を表に放り出せ」・・次郎長の様子に睨むような視線をむける政吉がいました。 長屋の一室で熊造の通夜は静かに行われています。政吉とお雪は・・・川をみつめる政吉に、お雪が話かけていきます。お雪「ねえ、政吉、・・・おまえと初めて会ったのは、ここだったわねえ」政吉「そうでしたねえ」お雪「ほんとうのことゆうわ・・・あたい・・・おまえが好きよ・・・好きな の。・・・惚れてるわ」政吉「お雪さん」お雪「うん」政吉「今さら、おめえさんに惚れられたって」というと、政吉は柳の木の下に移動し、政吉「死んじまや、もともこうもねえや」 お雪「そうね、・・・でも、お願い、行ってほしいの」政吉「いやだ」 お雪「だって、・・・みんな、お前が弱いとも知らないで、ども熊の仕返しに、為 五郎んちへ殴り込みをかけに行ってほしがっているのよ。このままじゃ、ど も熊があんまり、かわいそうじゃない、・・・ねえ、・・・あたいも、 ・・・ついていくから」 政吉は、そういうお雪の方を向くと、政吉「おめえさんも、死ぬ気か」その言葉に、一瞬お雪はびくっとした表情になりますが、お雪「うん、・・・おまえと・・・一緒なら」 政吉は、そういうお雪をじっと長く見つめていましたが、 政吉「うれしいな・・・といいてえが、俺はおめえさんがいうような、くそやくざ と仁義ぼけは、でいきれいだ」お雪「えっ」政吉「断る」そういうと、お雪の方には振り向きもせず、足早でいってしまいます。お雪「政吉のばか、・・・おまえなんか、だっきらい」 続きます。
2023年08月20日
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