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無錫東郭送友人遊越 劉長卿客路風霜曉、郊原春興餘。平蕪不可望、遊子去何如。煙水乘湖闊、雲山適越初。舊都懷作賦、古穴覓藏書。碑缺曹娥宅、林荒逸少居。江湖無限意、非獨為樵漁。【韻字】餘・如・初・書・居・漁(平声、魚韻)。【訓読文】無錫の東郭にて友人の越に遊ぶを送る。客路風霜の暁、郊原春興の余。平蕪望むべからず、遊子去るを何如んせん。煙水湖に乗りて闊く、雲山越に適く初め。旧都賦を作るを懷ひ、古穴書を蔵するを覓む。碑は欠けたり曹娥の宅、林は荒る逸少の居。江湖無限の意、独り樵漁の為にあらず。【注】○無錫 唐の県の名。治所は今の江蘇省無錫市。○越 浙江省。春秋戦国時代の越の国は会稽(今の浙江省紹興市)に都を置いた。○客路 道中。旅路。○風霜 風と霜。苦難のたとえ。○郊原 町はずれの野原。○平蕪 雑草の茂った野原。平原。○遊子 旅人。家を離れて他郷にいく者。○曹娥 会稽上虞の孝女。十四歳の時、水死した父の死を悲しみ、自らも身を投げた。県長度尚その義を憐れみ、改葬し、弟子の邯鄲子礼に命じて碑を作らせた。○逸少 王羲之の字。○江湖 川と湖。また、都を遠く離れた地。また、隠者の住む所のたとえ。○樵漁 きこりや漁師。たきぎを採ったり魚を捕ること。【訳】無錫の東の町はずれで友人が越に旅立つのを見送った詩。旅路の苦労ありとても、野原の景色春うらら。果てなく続く草の原、君去るあとは寂しかろ。舟で湖乗り出して、初めて越に行くとかや。古き都で賦を作り、古きほら穴書をしまう。曹娥の宅の碑も欠けて、王羲之宅も荒れていよう。都はなれた遠い地は、隠者の為にありときく。
April 22, 2006
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送從弟貶袁州(一作皇甫冉詩、題作送從弟豫貶遠州) 劉長卿何事成遷客、思歸不見郷。遊呉經萬里、弔屈向三湘。水與荊巫接、山通■(「焉」にオオザト。エン)郢長。名羞(一作嗟)黄綬繋、身是白眉郎。獨結南枝恨、應思北雁行。憂來沽楚酒、老鬢莫凝霜。【韻字】郷・湘・長・郎・行・霜(平声、陽韻)。【訓読文】従弟の袁州に貶せらるるを送る。(一に「皇甫冉の詩」に作り、題は「従弟予の遠州に貶せらるるを送る」に作る。)何事ぞ遷客と成り、帰るを思ひて郷を見ざる。呉に遊びて万里を経、屈を弔ひて三湘に向かはん。水は荊巫と接し、山は■(エン)郢に通じて長し。名は羞づ(一に「嗟」に作る)黄綬に繋がるるを、身は是れ白眉の郎。独り結ぶ南枝の恨み、応に思ふべし北雁の行。憂ひ来たれば楚酒を沽ひ、老鬢霜を凝らすこと莫かれ。【注】○袁州 江西省宜春市。○遷客 罪によって遠方へ流された人。○呉 蘇州を中心とする長江下流域。○弔屈 楚を追放されて投身自殺した屈原を慰霊する。○三湘 湘江流域。○荊巫 湖北省の沮水の源の荊山と四川省巫山県の東の巫山。○■(エン)郢 ■(エン)は湖北省宜城県あたりを流れる川。郢は湖北省武昌県あたり。○黄綬 丞や尉などの官職にあるものが印章や佩玉につける黄色いひも。○白眉 三国時代の馬氏の五人兄弟のうち、眉が白かった馬良が、もっとも秀才だったところから、多くのもののなかで、最も優れているものをいう。○南枝恨 南方の越の地方から渡ってきた鳥は故郷を忘れず南側の枝に巣を作るというところから、故郷を離れる恨みをいう。○沽 買う。酒を買って飲んで憂いを忘れろということ。○霜 しらがのたとえ。【訳】従弟が袁州に左遷されていくのを見送る詩。いかなるゆえに左遷され、故郷帰るをねがわざる。万里のかなた呉を旅し、屈原の霊なぐさめん。川は荊巫の下ながれ、■(エン)郢までも山つづく。低い官位につながれて、白眉の才ぞ惜しまるる。独り南地へ行くうらみ、北の兄弟思うらん。辛い時には酒を飲め、しらが増やすなくれぐれも。【参考】 送從弟豫貶遠州(一作劉長卿詩、題作送從弟貶袁州。) 皇甫冉何事成遷客、思歸不見郷。遊呉經萬里、弔屈過三湘。水與荊巫接、山通■(エン)郢長。名嗟黄綬繋、才(一作身)是白眉良。獨結南枝恨、應思北雁行。憂來沽楚酒、玄鬢莫凝霜。
April 22, 2006
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宿嚴維宅送包佶(一作皇甫冉詩) 劉長卿江湖同避地、分手自依依。盡室今為客、驚秋空念歸。歳儲無別墅、寒服羨鄰機。草色春橋晩、蝉聲江樹稀。夜深宜共醉、時難忍相違。何事隨陽雁、汀洲忽背飛。【韻字】依・歸・稀・違・飛(平声、微韻)。【訓読文】厳維の宅にて包佶を送る。江湖同じく地を避け、手を分ちて自から依依たり。室を尽くして今客と為り、秋に驚きて空しく帰らんことを念ふ。歳儲別墅無く、寒服隣機を羨む。草色春橋に晩れ、蝉声江樹に稀なり。夜深くして宜しく共に酔ふべし、時難くして相違くを忍ばん。何事ぞ陽雁に随ひ、汀洲忽ち背き飛ぶ。【注】○厳維 字は正文。越州の人。官は校書郎に終わった。○包佶 字は幼正。潤州の人。進士の第に登り、諫議大夫となる。○江湖 江南。○依依 名残惜しい。○尽室 一家残らず。○歳儲 年俸。○別墅 別荘。○寒服 冬着。○陽雁 北から南に飛来するガン。○汀洲 中洲。【訳】厳維の宅で包佶を送り出したときの作。江南の地に乱を避け、君との別れ名残惜し。一家放浪旅にでて、郷に帰れぬさびしさよ。別荘もたぬ低所得、隣の機がうらやまし。橋に日ぐるる春の草、蝉声まれな川辺の木。夜になり共に酒のめば、時ままならぬ悲しさよ。なにゆえガンにしたがいて、みぎわ背を向け飛び去るや。【参考】 宿嚴維宅送包七(一作劉長卿詩、題下作送包佶。) 皇甫冉江湖同避地、分手自依依。盡室今為客、經秋空念歸。歳儲無別墅、寒服羨鄰機。草色村橋晩、蝉聲江樹稀。夜涼宜共醉、時難惜相違。何事隨陽侶、汀洲忽背飛。
April 20, 2006
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題靈祐上人法華院木蘭花(其樹嶺南移植此地) 劉長卿庭種南中樹、年華幾度新。已依初地長、獨發舊園春。映日成華蓋、搖風散錦茵。色空榮落處、香醉往來人。■(クサカンムリに「函」。カン)▲(「閻」の「門」をクサカンムリと換えた字。タン)千燈遍、芳菲一雨均。高柯儻為●(「楫」のみぎに「戈」。シュウ)、渡海有良因。【韻字】新・春・茵・人・均・因(平声、真韻)。【訓読文】霊祐上人が法華院の木蘭花に題す。(其の樹は嶺南より此の地に移植したり)庭に種う南中の樹、年華幾度か新たなる。已に初地に依つて長じ、独り旧園に発して春なり。日に映じて華蓋を成し、風に揺れて錦茵を散ず。色は空し栄落の処、香は酔はしむ往来の人。■(カン)▲(タン)千灯遍く、芳菲一雨に均し。高柯儻(もし)●(シュウ)、と為さば、海を渡るに良因有らん。【注】○霊祐上人 俗姓は趙。福州長渓(福建省霞浦)の人。元和の末、潭州大★(サンズイに「爲」)山に居し、寺を建て法を伝えた。大円禅師。(七七一年……八五三年)。○木蘭花 木蓮。春に紅紫色の花をつける。○南中 嶺南地方。○年華 年月。また、春の光。○発 花が開く。○華蓋 帝王や貴官の用いる傘。○錦茵 錦の敷物。○栄 花。○■(カン)▲(タン) ハスのつぼみ。ここでは王維の《辛夷塢》に「木末芙蓉花」とあるのと同様、モクレンのつぼみを指すのであろう。○芳菲 かぐわしく咲きにおう花。○●(シュウ) 舟を漕ぐ櫂。【訳】霊祐上人の法華院に咲く木蘭花を題にして詠んだ詩。嶺南の木を庭に植え、花を咲かせていくとしぞ。見知らぬ土地で生長し、むかしのように花咲かす。光を浴びて花開き、風に散りしくその錦。花びら落ちて色あせて、香りは人を魅了する。ハスのつぼみは沢山の灯に似て一面に、香りすぐれた花びらは雨に一斉開きゆく。枝もて櫂を作りなば、たやすく海も渡るらん。
April 19, 2006
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金陵西泊舟臨江樓 劉長卿蕭條金陵郭、舊是帝王州。日暮望郷處、雲邊江樹秋。楚雲不可託、楚水只堪愁。行客千萬里、滄波朝暮流。迢迢洛陽夢、獨臥青川樓。異郷共如此、孤帆難久遊。【韻字】州・秋・愁・流・樓・遊(平声、尤韻)。【訓読文】金陵の西にて舟を泊め江楼に臨む。蕭条たり金陵の郭、旧是れ帝王の州。日暮望郷の処、雲辺江樹秋なり。楚雲託すべからず、楚水只だ愁ふるに堪へたり。行客千万里、滄波朝暮に流る。迢迢たり洛陽の夢、独り臥す青川の楼。異郷共に此の如く、孤帆久しく遊ぶこと難し。【注】○金陵 南京市。○泊 船着き場。港。○江楼 川の畔のたかどの。○蕭条 ものさびしいようす。○日暮 ゆうぐれどき。○望郷 故郷をなつかしくおもう。○江樹 川岸の立木。○行客 旅人。○迢迢 遠い様子。○洛陽夢 劉長卿は若い頃に洛陽南方の嵩陽に住んで晴耕雨読の生活を送った。 ○異郷 故郷を離れた地。○孤帆 ただ一艘の帆掛け船。【訳】南京の西方の船着き場。舟の目前には川沿いのたかどのがそびえる。ひっそりさびしき南京も、もとは天子のみやこなり。日暮れ故郷をながむれば、川べりの木々秋の色。楚雲あてなく流れさり、楚の川みればうらがなし。遠く去りゆく旅人よ、流れてやまぬ青き波。はるか洛陽夢みつつ、さびしく寝入る川のへり。故郷はなれて船旅を、長くつづける身のつらさ。
April 18, 2006
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惠福寺與陳留諸官茶會(得西字) 劉長卿到此機事遣、自嫌塵網迷。因知萬法幻、盡與浮雲齊。疏竹映高枕、空花隨杖藜。香飄諸天外、日隱雙林西。傲(一作微)吏方見狎、真僧幸相攜。能令歸客意、不復還東溪。【韻字】迷・齊・藜・西・攜・溪(平声、斉韻)。【訓読文】恵福寺にて陳留の諸官と茶会す。(西の字を得たり)。此に到り機事を遣り、自ら嫌ふ塵網に迷ふを。因つて知る万法の幻にして、尽くに浮雲と斉しきを。疎竹高枕に映じ、空花杖藜に随ふ。香は飄へる諸天の外、日は隠る双林の西。傲吏方(まさに)見狎、真僧幸ひに相携ふ。能く帰客の意をして、復た東渓に還らざらしむ。【注】○恵福寺 寺院の名らしいが、未詳。○陳留 郡・県の名。治所は今の河南省開封市。○塵網 俗世間のわずらわしさ。○浮雲 空に浮かぶ雲。むなしいもののたとえ。○高枕 枕を高くして安眠すること。○空花 かすんだ目で空を見るときに、目の前にちらついて花のようにみえるもの。○杖藜 アカザの杖をつく。○傲吏 自由きままな役人。【訳】恵福寺で陳留の役人たちと茶会をもよおした。その席上詩を詠むことになり、「西」の字を韻によむくじを引き当てた。打算欲望なげうちて、厭う世俗のごたごたよ。このよは全て幻よ、空に浮かべる雲のよう。まばらな竹は我の寝るその枕辺に陰落とし、アカザの杖をつき行けば、目にちらちらと花が舞う。お香のかおり空にとび、日は双林に沈みゆく。気ままな役人したしみて、僧侶つれだつ嬉しさよ。かかる楽しきひとときに、家に還るを忘れそう。
April 17, 2006
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會稽王處士草堂壁畫衡霍諸山 劉長卿粉壁(一作愛此)衡霍近、群峰(一作卷簾)如可攀。能令堂上客、見盡湖(一作湘)南山。青翠數千仞(一作千萬状)、飛來方丈間。歸雲無處滅、去鳥何時還。勝事日相對、主人常獨閑。稍看林壑晩(一作青陰滿四壁)、佳氣生重關(一本此下有頗與宿心會、看看慰愁顏二句)。【韻字】攀・山・間・還・閑・關(平声、刪韻)。【訓読文】会稽の王処士が草堂の壁に衡霍諸山を画けり。粉壁(一に愛此」に作る)衡霍近く、群峰(一に「卷簾」に作る)攀づべきがごとし。能く堂上の客をして、湖(一作湘)南の山を見尽くさしむ。青翠数千仞(一作千万状)、飛来す方丈の間。帰雲処として滅する無く、去鳥何れの時にか還らん。勝事日に相対し、主人常に独り閑たり。稍看る林壑の晩(一に「青陰満四壁」に作る)、佳気重関に生ず(一本此下に「頗与宿心会、看看慰愁顏」の二句有り)。【注】○会稽 浙江省紹興県。○王処士 劉長卿の友人らしいが、未詳。「処士」は、仕官しない人。○草堂 草葺きの家。○衡霍諸山 衡山は、湖南省湘江中流の西側にあり。中国五岳の一。霍山は、衡山の別名。○粉壁 白壁。○攀 よじのぼる。○堂 表座敷。○青翠 山の樹木のあおあおとした色。○数千仞 きわめて高いこと。「一仞」は、周尺で七尺(一五七、五センチメートル)。○方丈 一丈四方の広さ。○帰雲 山へかえっていく雲。○勝事 ものごとの優れていること。ここでは山水のすぐれた景色をいうのであろう。○主人 王処士をさす。○林壑 林と谷。奥深い山林。○四壁 家のまわりのかべ。○佳気 めでたい雲気。快いなごやかな気。○宿心 前々からの本心。志望。○看看 みるみるうちに。○愁顏 うれいにしずんだ顔つき。【訳】会稽の王処士の草堂の壁に衡霍諸山を画いてあるのを見て詠んだ詩。衡山ちかき君の家、峰にすぐ手がとどきそう。おもて座敷の客人は、湖南の山を一望す。高くそびゆる青き山、方丈の間に飛んで入る。雲は山へと飛びかえり、鳥は飛び去りいつもどる。すぐれた景色つね眺め、君はのんびり暮らすなり。深き山林日は暮れて、門前空気すがすがし。かつて望みし静かな地、みるみる憂い消えうせる。
April 16, 2006
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送賈侍御克復後入京(一作江南送賈侍御入京) 劉長卿對酒心不樂、見君動行舟。回看暮帆隱、獨向空江愁。晴雲淡初夜、春塘深慢流。温顏風霜霽、喜氣煙塵收。馳■(「馬」のみぎに「日」。ジツ)數千里、朝天十二樓。因之(一作云)報親愛、白髮生滄洲。【韻字】舟・愁・流・收・樓・洲(平声、尤韻)。【訓読文】賈侍御の克復して後京に入るを送る。(一に「江南にて賈侍御の京に入るを送る」に作る)。酒に対するも心楽しまず、君を見れば行舟を動かす。回看すれば暮帆隠れ、独り空江に向かつて愁ふ。晴雲初夜に淡く、春塘慢流深し。温顏風霜霽れ、喜気煙塵収まる。■(ジツ)を馳すること数千里、朝天十二楼。因つて之きて(一作云)親愛に報ぜよ、白髮滄洲に生ずと。【注】○賈侍御 劉長卿の友人らしいが、未詳。「侍御」は、侍御史。○克復 敵に勝って領地を取り戻す。○入京 入洛。都にはいる。○回看 振り返ってみる。○塘 堤防。○慢流 ゆるやかな流れ。○温顔 おだやかな顔つき。○喜気○■(ジツ) 宿場から宿場へと手紙や人を送る馬。つぎうま。○朝天 朝廷に出仕する。【訳】賈侍御が乱を平定してのち、都に入るのを見送る。酒にむかうも寂しきは、君が舟にて遠く去る。かえりみすれば夕暮れに遠ざかり行く舟の帆や、ひとり君なき川べりに跡見送りて涙する。晴た夜空にあわき雲、春の土手ぎわ波ゆるし。風霜霽れてにこやかに、乱も治まりよろこばし。きみは早馬乗り継ぎて、朝廷めざす数千里。私に代わり親愛に、年老いたりと伝えてよ。
April 15, 2006
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奉餞郎中四兄罷餘杭太守承恩加侍御史充行軍司馬赴汝南行營 劉長卿星使三江上、天波萬里通。權分金節重、恩借鐵冠雄。梅吹前軍發、棠陰舊府空。殘春錦障外、初日羽旗東。岸柳遮浮鷁、江花隔避■(「聰」の「耳」を「馬に換えた字。ソウ)。離心在何處、芳草滿呉宮。【韻字】通・雄・空・東・■(ソウ)・宮(平声、東韻)。【訓読文】郎中四兄の、余杭の太守を罷め、恩を受けて侍御史を加へられ、行軍司馬に充てられて汝南の行営に赴くを奉餞す。星使三江の上(ほとり)、天波万里通ず。権は分かつ金節の重きことを、恩は借る鉄冠の雄。梅吹前軍に発し、棠陰旧府空し。殘春錦障の外、初日羽旗東す。岸柳浮鷁を遮り、江花避■(ソウ)を隔つ。離心何れの処にかあらん、芳草呉宮に満つ。【注】○郎中四 未詳。郎は姓であろう。 ○余杭 浙江省杭州市。○侍御史 御史台に属する官。○行軍司馬 節度使の幕職。軍符号令・軍籍・兵械・衣食のことをつかさどり、のちに節度使となる者が多かった。○汝南 河南省汝南県。○行営 任地を定めず、しばらく軍をとどめる所。○星使 天子の使い。○三江 多くの川。○鉄冠 監察・弾劾をつかさどる御史が用いた、鉄をしんとしたかんむり。○棠陰 周の召公は領内を巡行したおり、農耕の邪魔にならぬよう、甘棠の木陰で訴えを聴き政務をとり、善政をしいた。○錦障 にしきを垂らしてつくった衝立。○羽旗 使者や将軍などが身分を証明するために天子から賜った、羽で縁を飾ったはた。○浮鷁 水に浮かぶアオサギ。水難よけとしてアオサギを船首の飾りとしたので、ここでは水に浮く船のことか。○避■(ソウ) 御史。漢の霊帝の時、侍御史の桓典は常に■(ソウ)馬に乗っていたが、厳正であったので、みやこの者が「■(ソウ)馬の御史を避けよ」といったところから、御史をいう。○離心 はなれそむくこころ。○呉宮 江蘇省蘇州市にあった宮殿。【訳】郎中四が、余杭の太守を罷め、天子の御恩により侍御史を加えらて、行軍司馬として汝南の行営に赴任なさる餞別にさしあげた詩。川を勅使がたずねきて、いたらぬはなき君の恩。大きな権威あたえられ、鉄の冠をば頭にかぶる。前軍ひびく梅花落、甘棠の陰いま空し。ついたての外春は暮れ、東へむかう旗のぼり。岸の柳のそのむこう鷁首の船が一部みえ、川辺の花のむこうには御史の姿がちらと見ゆ。なにゆえ遠く旅立つや、呉宮草花香ぐわしき。
April 13, 2006
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奉餞元侍郎加豫章採訪兼賜章服(時初停節度) 劉長卿任重兼烏府、時平偃豹韜。澄清湘水變、分別楚山高。花對■(「「丹」のみぎに「彡」。トウ)●(「澹」のサンズイをコロモヘンに換えた字。セン)發、霜和白雪操。黄金裝舊馬、青草換新袍。嶺暗猿啼月、江寒鷺映濤。豫章生宇下、無使翳蓬蒿。【韻字】韜・高・操・袍・濤・蒿(平声、豪韻)。【訓読文】元侍郎の予章採訪を加へられ兼て章服を賜はるに奉餞す。(時に初めて節度に停まる)任重烏府を兼ね、時平らかにして豹韜を偃(ふ)す。澄清湘水変じ、分別楚山高し。花■(トウ)●(セン)に対して発(ひら)き、霜は白雪に和して操(と)る。黄金旧馬を装ひ、青草新袍に換ふ。嶺暗くして猿月に啼き、江寒くして鷺涛に映ず。予章生宇の下、蓬蒿をして翳(おほ)はしむること無かれ。【注】○奉餞 つつしんで詩を贈る。○予章 江西省南昌市。○採訪 採訪処置使。開元二十一年に、全国を十五道にわかち、道ごとに置いた。検察や州県の官吏の監察をつかさどった。○烏府 御史府。○豹韜 兵書の六韜の中にある八篇。○■(トウ)●(セン) 赤いとばり。○予章 樟の類の大木。【訳】元侍郎が予章の採訪使に任命され、模様のある服を賜ったことに対し、つつしんで手向けた詩。任務重大御史を兼ね、兵書不要の御代なれや。湘水の水きよらかに、楚地の山々いと高し。赤いとばりは花もよう、霜をば雪と取りちがう。馬をば金で飾り立て、戦士の外衣身につくる。月に向かって猿さけび、鷺は川辺に餌あさる。クスノキ生ず屋根の下、雑草に陰落とさすな。
April 12, 2006
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送荀八過山陰(一作訪)舊縣(一作任)兼寄■(「炎」のみぎにリットウ。セン)中諸官 劉長卿訪舊山陰縣、扁舟到海涯。故林嗟滿歳、春草憶佳期。晩景千峰亂、晴江一鳥遲。桂香留客處、楓暗泊舟時。舊石曹娥篆、空山夏禹(一作禹帝)祠。■(「炎」のみぎにリットウ。セン)溪多隱吏、君去(一作為)道相(一作長)思。【韻字】涯・期・遲・時・祠・思(平声、支韻)。【訓読文】荀八の山陰(一に「訪」に作る)旧県(一に「任」に作る)を過ぐるを送り兼ねて■(「炎」のみぎにリットウ。セン)中の諸官に寄す。訪ふ旧の山陰県、扁舟海涯に到る。故林嗟滿歳、春草佳期を憶ふ。晩景千峰乱れ、晴江一鳥遅し。桂香客を留むる処、楓暗舟を泊する時。旧石曹娥の篆、空山夏禹(一に「禹帝」に作る)の祠。■(「炎」のみぎにリットウ。セン)渓隠吏多し、君去らば(一に「為」に)道に相(一に「長」に作る)思ふ。【注】○荀八 劉長卿の友人らしいが、未詳。○山陰旧県 秦の山陰県。治所は今の浙江省紹興市。○扁舟 こぶね。○海涯 うみのはて。○佳期 よい時節。○晩景 ゆうぐれの景色。○晴江 はれて水面が遠くまで見える川。○桂香 モクセイのかおり。○旧石曹娥篆 後漢の時、会稽郡上虞県の人。その父、五月五日に神を迎へ、江中に溺死し、屍骸流失す。娥、時に年十四、江に沿ひて哭号すること十七昼夜、江に投じて死す。○空山夏禹(一作禹帝)祠 会稽山の禹廟。「夏禹」は、夏王朝を開いたとされる伝説上の聖王の名。尭・舜二帝に仕え、洪水を治め、舜から譲位されて、天子の位についた。○■(「炎」のみぎにリットウ。セン)渓 浙江省●(「山」のみぎに「乘」。ジョウ)県付近の谷川。○隠吏 隠棲した官吏。【訳】荀八が昔の山陰県を通過するのを見送り、同時に■(「炎」のみぎにリットウ。セン)中の役人たちに贈った詩。君おとずれる山陰県、小舟は到る海のはて。ふるき林に年をへて、春の草萌え、よき時節。多き峰峰夕景色、晴れたる川に鳥おそし。桂香客を留むる処、楓暗舟を泊する時。曹娥の事跡碑に見えて、山ひっそりと禹の祠。役人やめて■(「炎」のみぎにリットウ。セン)渓に隠るる者も多しとぞ、君の此の地を去りゆかば、しかと祈らん旅の無事。
April 11, 2006
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九日題蔡國公主樓 劉長卿主第人何在、重陽客暫尋。水餘龍鏡色、雲罷鳳簫音。暗■(「片」のみぎうえに、「戸」みぎしたに「甫」。ヨウ)藏昏曉(一作旦)、蒼苔換古今。晴山卷幔出、秋草閉門深。籬菊仍新吐、庭槐尚舊陰。年年畫梁燕、來去豈無心。【韻字】尋・音・今・深・陰・心(平声、侵韻)。【訓読文】九日蔡国公主の楼に題す。主第人何くにか在る、重陽客暫らく尋ねん。水は余す龍鏡の色、雲は罷む鳳簫の音。暗■(ヨウ)昏暁(一に「旦」に作る)を蔵し、蒼苔古今に換ふ。晴山幔を巻きて出で、秋草門を閉ぢて深し。籬菊仍ち新吐、庭槐尚ほ旧陰。年年画梁の燕、来去豈に無心ならんや。【注】○九日 重陽節。この日、茱萸を頭に挿し、高所に登って菊酒を飲み、悪気を避け、疫病を防ぐ習慣があった。○蔡國公主 未詳。「公主」は、天子のむすめ。太宗の第四女に蔡国公主がいるが、時代が合わない。○主第 公主の屋敷。○昏暁 夕暮れと夜明け。○蒼苔 あおごけ。○晴山幔を巻きて出で、秋草門を閉ぢて深し。○籬菊 垣根の側に咲く菊の花。○庭槐尚ほ旧陰。○画梁 美しい彩りをしたはり。○来去 来ることと去ること。【訳】九月九日の重陽の節句に蔡国公主の邸宅のたかどのを詠んだ詩。屋敷のあるじ、いまいずこ、重陽の客尋ねくる。水は鏡の色のこし、簫の音響き雲はやむ。暗き窓にぞ明け暮れて、アオゴケ世々に生えかわる。幔を巻き上げ山ながめ、門閉じたまま草深し。籬(まがき)の菊は新芽ふき、庭の槐(エンジュ)は陰おとす。毎年きたるうつばりの、燕よなにも思わぬか
April 10, 2006
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毘陵送鄒結(一作紹)先赴河南充判官 劉長卿王事相逢少、雲山奈別何。芳年臨水怨、瓜歩上潮過。客路方經楚、郷心共渡河。凋殘春草在、離亂故城多。罷戰逢時泰、輕徭佇俗和。東西此分手、惆悵恨煙波。【韻字】何・過・河・多・和・波(平声、歌韻)。【訓読文】毘陵にて鄒結(一作紹)先の河南に赴き判官に充てらるるを送る。王事相逢ふこと少く、雲山別を奈何(いかんせん)。芳年水に臨んで怨み、瓜歩潮に上りて過ぐ。客路方に楚を経、郷心共に河を渡る。凋残春草在り、離乱故城多し。戦を罷めて時の泰(やすらか)なるに逢ひ、徭を軽んじて俗の和むを佇(ま)つ。東西此に手を分ち、惆悵として煙波を恨む。【注】○毘陵 江蘇省常州市。○鄒紹先 大暦十二年に、租庸判官に任ぜられた。○河南 唐の方鎮の一。治所は今の河南省開封市。○判官 節度使・観察使などの属官。○王事 征伐・外交など、帝王の事業。○瓜歩 江蘇省六合県の東南の長江北岸に瓜歩山あり。また、揚州市の南の瓜洲鎮付近を流れる長江を瓜歩江という。○郷心 故郷を懐かしむ気持ち。○凋残 枯れ、そこなわれる。○離乱 世の中が乱れ民が離散する。○徭 兵役。【訳】毘陵において鄒結が判官として河南に赴任するのを見送る。役目で逢うはまれにして、別れの辛さいかにせん。川を眺めて悲しめば、潮さしのぼり過ぎてゆく。旅路はるかに楚をこえて、川をわたらん里心。この地荒れはて春の草、民離散して城残る。いくさ終わりて泰平に、兵役かるく民なごむ。君と別れてにしひがし、かすみの彼方眺めやる。
April 8, 2006
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同諸公袁郎中宴筵喜加章服 劉長卿手詔來筵上、腰金向粉■(「門」のなかに「韋」。イ)。勳名傳舊閣、蹈舞著新衣。白社同遊在、滄洲此會稀。寒笳發後殿、秋草送西歸。世難常摧敵、時閑已息機。魯連功可讓、千載一相揮(一作輝)。【韻字】■(イ)・衣・稀・歸・機・揮(平声、微韻)。【訓読文】諸公と同(とも)に袁郎中の宴筵にして章服を加へらるるを喜ぶ。手詔筵上に来たり、腰金粉■(イ)にむかふ。勲名旧閣に伝はり、踏舞新衣を著す。白社同遊在り、滄洲此の会稀なり。寒笳後殿に発し、秋草西帰を送る。世難常に敵を摧き、時閑にして已に機を息はしむ。魯連功讓るべき、千載一に相揮ふ(一に「輝」に作る)。【注】○諸公 多くのかたがた。○袁郎中 未詳。○宴筵 宴会の席。○章服 模様のある衣服。○手詔 天子自筆のみことのり。○腰金 腰に帯びた金印。○粉■(イ) 尚書省。もと胡粉を壁に塗り、いにしえの賢人や烈女を画いた。○勲名 手柄と名声。功名。○踏舞 足を踏みならして舞う。○著 着用する。○白社 河南省偃師県内に在り、その地に叢祠あり。隠棲の地。『抱朴子』《雑応》に「洛陽の道士、董威輦、常に白社の中に止まり、了に食はず、陳子叙共に守りて之に事へ、従つて道を学ぶ」。○滄洲 いなかの水辺。○寒笳 さびしげに聞こえるあしぶえ。○世難 世間の困難。○摧敵 敵の勢力をくじいてほろぼす。○息機 こころの働きを休ませる。○魯連 魯仲連。戦国時代の斉の人。節義を守って、どこの国にも仕えず、趙・魏にすすめて秦を帝として認めることをやめさせた。○千載 千年。【訳】多くの方たちとともに袁郎中主催の宴席で模様のある服をいただいたのを喜んで詠んだ詩。宴の席にかしこくも、よみあげらるるみことのり、腰に金印ぶらさげて尚書省にぞいざ向かう。功名宮に伝わりて、新衣身につけ舞いおどる。白社に集う仲間たち、鄙には稀な集まりよ。御殿に響く葦の笛、西に帰るを送る草。難克服し敵くじき、ひまに心をやすましむ。節義守るは魯仲連、名は千載になりひびく。
April 7, 2006
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奉陪鄭中丞自宣州解印與諸姪宴餘干後溪 劉長卿跡遠(一作心遠、一作意■(リッシンベンのみぎに「匚」、そのなかに「夾」。キョウ)觀)親魚鳥、功成厭鼓▲(「鼓」のしたに「卑」。ヘイ)。林中阮生集(一作阮家醉、一作阮氏集)、池上謝公題。戸●(「片」の右上に「戸」、右下に「甫」。ヨウ)垂藤合、藩離插槿齊(一本無此二句、一作門徑蒼苔合、窗陰緑篠低、一作深巷行人少、閑門臥柳低)。夕陽山向背、春(一作秋)草水東西。度雨諸峰出、看花幾路迷(一作看竹誰家好、高原幾處迷)。何勞問秦漢、更入武陵溪(後四句、一本作舊架懸藤老、疎籬插槿齊。風塵不可到、誰羨武陵溪。塵一作煙)。【韻字】▲(ヘイ)・題・齊・西・迷・溪(平声、斉韻)。【訓読文】鄭中丞の宣州より解印し諸姪と宴余干の後渓に宴するに奉陪す。跡遠く魚鳥に親しみ、功成つて鼓▲(ヘイ)を厭ふ。林中阮生集ひ(一に」阮家酔」に作り、一に「阮氏集」に作る)、池上謝公題す。戸●(ヨウ)垂藤合ひ、藩離插槿斉し(一本此の二句無し。一に「門径蒼苔合、窓陰緑篠低」に作る。一に「深巷行人少、閑門臥柳低」に作る)。夕陽山向背し、春(一に「秋」に作る)草水東西。度雨諸峰出で、花を看て幾れの路にか迷ふ(一に「看竹誰家好、高原幾処迷」に作る)。何ぞ労せん秦漢を問ふを、更に入る武陵渓(後の四句は、一本に「旧架懸藤老、疎籬插槿斉。風塵不可到、誰羨武陵渓」に作る。「塵」は一に「煙」に作る【注】○奉陪 つつしんでお側にお伴する。○鄭中丞 未詳。「中丞」は、各省の次官に相当する官。○解印 官の印綬をとく。官吏が職をやめて退くこと。○諸姪 甥たち。○余干 江西省余干県。また、余干県の東に余干山あり。○親魚鳥 魚や鳥を観てたのしむ。自然に親しむ。○鼓▲(ヘイ) 戦争で敵を攻めるときに打ち鳴らすつづみ。陣太鼓。転じて、戦争。○阮生 阮籍のことであろう。三国魏の人。竹林の七賢の一。老荘を好み、酒をたしなみ、琴を弾じ、形骸を忘れるに至った。また、好んで山水に遊び、途窮るに至ればすなわち慟哭して返る。官は歩兵校尉に至る。ここでは、自然を愛する風流人のたとえ。○謝公 南斉の謝チョウ(「月」のみぎに「兆」)であろう。学を好み、文章を善くし、五言詩に長じた。宣城の太守となり、世に謝宣城と称す。○戸●(ヨウ) 戸や窓。○垂藤 さがりフジ。○藩離 垣根。○槿 ムクゲ。夏から秋に白色・紅色等の花を開くが、一日のうちにしぼむ。○門径 かどぐちの小道。○蒼苔 青いコケ。○緑篠 みどりの笹。○深巷 奥深い小路。○行人 道行く人。○臥柳 横たわっている柳。○向背 向かうとそむくと。東西。○問秦漢 武陵の漁師が桃源郷に迷い込んだ時、土地の人が漢王朝を知らなかったと、陶淵明の《桃花源記》にある。○武陵渓 湖南省常徳県の渓谷。○旧架 ふるい棚。○風塵 風にまう土ぼこり。わずらわしく、けがらわしいもののたとえ。俗事。【訳】鄭中丞が宣州の官をおやめになり、甥御さんたちと余干の後渓で宴を開かれたのに、おそばでお伴をした時の詩。役人生活引退し、魚や鳥を友とする、もはや手柄をたてたいま、いくさ無用のことぞかし。甥御どのみな集いきて、鄭氏池上に詩を作る。窓辺にさがる藤の花、まがきに咲くはムクゲかな。夕陽は山を照らしだし、東は日かげ、西ひなた、春の草ばな萌えいでて水は流れる東西。雨は過ぎ去り山々の峰はいまこそ現わるれ、花をながめるそのうちに、どこの路にか迷うらん。問ふまでもなし秦漢を、いまのこの地が桃源郷。
April 6, 2006
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至饒州尋陶十七不在寄贈 劉長卿謫宦投東道、逢君已北轅。孤蓬向何處、五柳不開門。去國空迴首、懷賢欲訴冤。梅枝横嶺■(「山」のみぎに「喬」。キョウ)、竹路過湘源。月下高秋雁、天南獨夜猿。離心與流水、萬里共朝昏。【韻字】轅・門・冤・源・猿・昏(平声、元韻)。【訓読文】饒州に至り陶十七を尋ぬるも在らず、寄贈す。謫宦せられて東道に投じ、君に逢はんとして已に轅を北にす。孤蓬何れの処にか向かはん、五柳門を開かず。国を去つて空しく首を迴らし、賢を懷(おも)ひて冤を訴へんと欲す。梅枝嶺■(キョウ)に横たはり、竹路湘源を過ぐ。月下高秋の雁、天南独夜の猿。離心と流水と、万里朝昏を共にす。【注】○饒州 江西省上饒地区。○陶十七 劉長卿の友人らしいが、未詳。「十七」は、排行。○謫宦 官職を落として地方に流される。○東道 東方への道。○北轅 北轅適楚。ながえを北に向けて南方の楚に行こうとする。方法を間違えたり、相反することのたとえ。○孤蓬 ただひとつ風に飛ばされ原野を転がっていく蓬。あてもなくさすらう旅人のたとえ。○五柳 晋の陶淵明は庭に五本の柳を植え、みずから五柳先生と号した。○去国 故郷を離れる。○迴首 ふりかえる。○訴冤 無実を訴える。○嶺■(キョウ) 五嶺。大▲(「广」のなかに「臾」。ユ)・騎田・都●(「广」のなかに「龍」。ホウ)・萌渚・越城の五嶺。大▲(ユ)嶺上の梅花は著名。○湘源 湘水のほとりに産する竹を「湘竹」といい、笛などの材料にする。湘君の涙でまだら模様ができたという伝説があり、「斑竹」ともいう。○高秋 そらが高く澄み渡る秋の盛り。○離心 離れそむく心。○朝昏 朝と晩。【訳】饒州に至り陶十七を訪問したが不在だったので、あとから贈りあたえた詩。官位落とされ東へと左遷せられてゆくこの身、君に逢はんと車をば北に向かってはしらせる。独りいずこに向かわんや、門を閉じたる君の家。故郷の方をふりむくも帰れるあてもなく空し、賢者おらぬか我が無実訴へかけんその人に。梅は五嶺に横たわり、湘源むかう竹の路。高くすみたる秋空を月夜の雁は鳴きわたり、嶺南の地の独りの夜、猿の鳴く声いとかなし。そむく心とゆく川と、万里はなれていようとも、互いに思う気持ちをば、いざ共にせん朝夕に。
April 5, 2006
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送鄭十二(一作山人)還廬山別業 劉長卿潯陽數畝宅、歸臥掩柴關。谷口何人待(一作在)、門前秋草閑。忘(一作無)機賣藥罷、無語(一作揮手)杖藜還。舊筍成寒竹、空齋向暮山。水流經(一作過)舍下、雲去(一作起)到人間。桂樹花應發、因行寄一攀。【韻字】關・閑・還・山・間・攀(平声、刪韻)。【訓読文】鄭十二(一に「山人」に作る)の廬山の別業に還るを送る。潯陽数畝の宅、帰臥し柴関を掩ふ。谷口何人か待つ(一に「在」に作る)、門前秋草閑たり。機を忘れ(一に「無」に作る)薬を売るを罷め、語無くして(一に「揮手」に作る)藜を杖つきて還る。旧筍寒竹と成り、空斎暮山に向かふ。水流れて舍下を経(一に「過」に作る)、雲去つて(一に「起」に作る)人間に到る。桂樹花応に発くべし、因つて行きて一攀を寄せよ。【注】○鄭十二 未詳。○山人 世事を捨てて山に隠れている人。○廬山 江西省九江市にあり。○潯陽 九江市。○帰臥 帰郷して隠居する。○柴関 粗末な家の戸。○谷口 谷の入り口。○売薬 隠者が山の薬草などを採って売る。後漢の韓康は、長安の市でひっそりと薬を売っていたが、正体がばれたので薬を売るのをやめ、覇陵山中に隠棲した。○杖藜 アカザの茎の杖をつく。質素な暮らしや老人の暮らしをいう。○空斎 がらんとした部屋。○舍 家屋。○攀桂 山林をめでるをいう。『楚辞』淮南小山《招隠士》「桂枝を攀援して聊か淹留す」。【訳】鄭十二が廬山の別荘に還るのを見送る詩。君はこれから潯陽の数畝の宅に帰るらし、家に戻れば柴の戸を閉じてひっそり暮らすらん。谷の入り口誰か待つ、門の前には秋の草。心の中をからにして薬も売らず隠棲し、何も語らず杖ついて静かに家に帰る君。タケノコのびて竹となり、部屋の向こうは暮れの山。家の下には川流れ、雲は去りゆく町のかた。モクセイの花開くべし、君ゆき手折れその花を
April 4, 2006
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和袁郎中破賊後軍行過■(「炎」のみぎにリットウ。セン)中山水謹上太尉(即李光弼) 劉長卿■(「炎」のみぎにリットウ。セン)路除荊棘、王師罷鼓●(「鼓」のしたに「卑」。ヘイ)。農歸滄海畔、圍解赤城西。赦罪春陽發、收兵太白低。遠峰來馬首、横笛入猿啼。蘭渚催新幄、桃源識故蹊。已聞開閣待、誰許臥東溪。【韻字】●(ヘイ)・西・低・啼・蹊・溪(平声、斉韻)。【注】○袁郎中 未詳。「郎中」は、各部の長官。○賊 国家を乱す者。謀反人。○軍行 軍隊の組織。○■(「炎」のみぎにリットウ。セン)中 浙江省▲(「山」のみぎに「乘」。ジョウ)県あたり。○太尉 軍事をつかさどる長官。○李光弼 上元年間に太尉と中書令を兼ね、史思明の乱の平定に貢献した。○荊棘 いばら。悪人のたとえ。○王師 天子の軍隊。○鼓●(ヘイ) 騎兵が馬上で打ち鳴らす小鼓。陣太鼓。○赤城 浙江省天台県の北の赤城山か。○春陽 春の日差し。また、春の季節。○太白 金星。○馬首 馬のあたま。○幄 陣中で用いる幕。○開閣 小門を開いて賢人や英雄をまねくこと。漢の公孫弘が宰相の役所の東閣を開いて賢人を招いた故事。○臥東渓 晋の謝安が東山に高臥して、天子のお召しにも応じなかった故事をいうか。【訳】袁郎中が反乱軍を破り、軍隊が■(セン)中の山水に通りかかったおりに、太尉の李光弼様に差し上げた詩に和した詩。■(セン)路悪人征伐し、いくさつづみも鳴りやみぬ。田舎の水辺農民も、戦おわってもどり来ぬ。赤城山の西のかた敵の包囲も無事とけぬ。光うららか春の日に罪許されし謀反人、武器をかたずけ空みれば、金星低く傾けり。遠き峰より馬きたり、猿の声にぞ、笛まじる。蘭さく渚幕張りて、桃源たずぬ古き谷。宰相君を待ち受くる、誰か許さん隠棲を。
April 3, 2006
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自道林寺西入石路至麓山寺過法崇禪師故居 劉長卿山僧候谷口、石路拂(一作掃)莓苔。深入泉源去、遙從樹杪回。香隨青靄散、鐘過白雲來。野雪空齋掩、山風古殿開。桂寒知自發、松老問誰栽。惆悵湘江水、何人更渡杯。【韻字】苔・回・來・開・栽・杯(平声、灰韻)。【訓読文】道林寺より西のかた石路に入り、麓山寺に至り、法崇禅師の故居に過(よ)ぎる。山僧谷口に候(ま)ち、石路莓苔を払(一に「掃」に作る)ふ。深く泉源に入つて去り、遥かに樹杪より回る。香は青靄に随つて散じ、鐘は白雲を過ぎて来たる。野雪空斎掩ひ、山風古殿開く。桂寒くして自から発(ひら)くを知り、松老いて誰か栽ゑしと問ふ。惆悵す湘江の水、何人か更に杯を渡さん。【注】○道林寺 湖南省長沙市の西の岳麓山下にあり。○麓山寺 湖南省長沙市の西の岳麓山上にあり。○法崇禅師 僧の名であろうが、未詳。○惆悵 悲しみ嘆く。○渡杯 釈杯度。晋・宋の間の人。いつも杯に乗って河を渡ったという。高僧の行蹤を指す。【訳】道林寺の西から石路にはいり麓山寺に向かい法崇禅師の旧居に立ち寄ったときの詩。谷の入り口僧は待ち、こけ掃除する石の道。泉たずねて深く入り、木々の先よりかえり来る。焼香もやと共に失せ、空より響く鐘の声。雪は僧坊屋根覆い、仏殿の戸を風ひらく。寒中に咲く木犀や、古りにし松は誰が植えし。湘江みればうら悲し、もはや高僧あらざれば。
April 2, 2006
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長沙早春雪後臨湘水呈同遊諸子 劉長卿汀洲暖漸■(「祿」の「示」をサンズイに換えた字。ロク)、煙景淡相和。舉目方如此、歸心豈奈何。日華浮野雪、春色染湘波。北渚生芳草、東風變舊柯。江山古思遠、猿鳥暮情多。君問漁人意、滄浪自有歌。【韻字】和・何・波・多・歌(平声、歌韻)。【訓読文】長沙早春雪後湘水に臨み同遊の諸子に呈す。汀洲暖くして漸く■(ロク)(きよ)く、煙景淡くして相和す。目を挙ぐれば方に此の如く、帰心豈に奈何(いかんせん)。日華野雪に浮かび、春色湘波を染む。北渚芳草生じ、東風旧柯を変ず。江山古思遠く、猿鳥暮情多し。君問ふ漁人の意、滄浪自から歌有り。【注】○長沙 湖南省長沙市。○湘水 広西チワン族自治区に発し、湖南省をへて洞庭湖にそそぐ川。○同遊 いっしょにあそぶ。○諸子 目上の者が目下の者たちを指す語。○汀洲 川や湖の土砂が堆積してできた小さい陸地。○■(「祿」の「示」をサンズイに換えた字。ロク) 水が清らかなさま。○煙景 かすんだ景色。○帰心 故郷にかえりたい思い。○日華 日光。○芳草 香りのよい草花。○柯 えだ。○江山 川と山。○滄浪 滄浪の歌。楚の民謡で、みずからの出処進退は、世の中のなりゆきにしたがって決めるべきだという意。『楚辞』《漁父》「滄浪の水清まば、以て吾が纓を濯ふべし。滄浪の水濁らば、以て吾が足を濯ふべし」。【訳】長沙にて早春の雪のはれた後に湘水をながめ同行の諸君に示した詩。川の中洲も暖かく流れる水も清らかに、ぼんやりかすむこの眺め、何ともいえぬ美しさ。目をあげ遠く眺むれば、望郷の念わき起こる。雪にきらめく日の光、川に映るは春景色。北のなぎさに草は生え、風吹く枝に花ぞ咲く。ゆったり山河たのしめば、昔のことぞしのばるる。巣に帰る鳥、山の猿、鳴き声悲し、春の暮れ。君は漁師に声かくる、処世の術はいかならん。
April 2, 2006
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別李氏女子 劉長卿念爾嫁猶近、稚年那別親。臨岐方教誨、所貴和六姻。俛首帶荊釵、欲拜淒且■(「口」のみぎに「頻」。ヒン)。本來儒家子、莫恥梁鴻貧。漢川若可渉、水清石▲(「燐」の「火」を「石」に換えた字。リン)▲(リン)。天涯遠郷婦、月下孤舟人。【韻字】親・姻・■(ヒン)・貧・▲(リン)・人(平声、真韻)。【訓読文】李氏の女子に別る。念(おも)ふ爾(なむぢ)の嫁の猶ほ近きことを、稚年那(なんぞ)親に別るる。岐に臨んで方に教誨す、貴ぶ所は六姻を和することなりと。首を俛(た)れて荊釵を帯び、拝せんと欲して淒且つ■(ヒン)。本来儒家の子なれば、恥づること莫かれ梁鴻の貧。漢川若(もし)渉るべくんば、水清くして石▲(リン)▲(リン)たらん。天涯遠郷の婦、月下孤舟の人。【注】○李氏女子 劉長卿のむすめむこが、李姓であるから、自分の孫むすめを指すか。○教誨 教え諭す。○六姻 六親。家族。父・母・兄・弟・妻・子。また、父・子・兄・弟・夫・婦など諸説ある。○俛首(フシュ) 頭をさげる。○荊釵 いばらのかんざし。後漢の梁鴻の妻、孟光は、いばらのかんざしと木綿のもすそを身につけ、質素倹約して夫に尽くした。○漢川 陝西省の南西端に発し、湖北省武漢で長江に注ぐ川。漢水。漢江。○▲(リン)▲(リン) 水中の石がよく見えるようす。○天涯 はるかに遠い所。【訳】李氏のむすめに別れる。おまえ嫁入り近からん、わかく親元はなれゆく。別れにのぞみ教えとく、家族仲良くまとめよと。あたまかたむけ、その髪にかんざし挿していとまごい、長のお世話になりにきと顔をしかめて挨拶す。もとよりなんじ学者の子、夫の貧に甘んぜよ。漢江わたりとつぎゆく、水清くして底見えん。故郷はなれて人の妻、船にゆらるる月のもと。
April 1, 2006
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登遷(一作仙)仁樓酬子婿李穆 劉長卿臨風敞麗■(「言」のみぎに「焦」。ショウ)、落日聽吹鐃。歸路空迴首、新章已在腰。非才受官謗、無政作人謠。儉歳安三戸、餘年寄六條。春蕪生楚國、古樹過隋朝。頼有東床客、池塘免寂寥。【韻字】鐃(平声、肴韻)・腰(蕭韻)・謡(蕭韻)・條(蕭韻)・朝(蕭韻)・寥(平声、蕭韻)。【訓読文】遷(一に「仙」に作る)仁楼に登り子婿の李穆に酬ゆ。風に臨んで麗■(ショウ)敞(ひろ)く、落日吹鐃を聴く。帰路空しく首を迴らし、新章已に腰に在り。非才にして官の謗りを受け、無政にして人の謡と作(な)る。倹歳三戸を安んじ、余年六条に寄る。春蕪楚国に生じ、古樹隋朝に過ぎたり。頼もしきは東床の客有つて、池塘に寂寥を免かれんこと。【注】○遷仁楼 たかどのの名らしいが、未詳。○子婿 むすめむこ。○李穆 劉長卿の婿。建中元年、かつて劉長卿を随州に訪問し、これと唱酬す。建中・貞元のころ、揚州に住んだ。○敞 ひろびろしたさま。○麗■(ショウ) みごとな高楼。○迴首 こうべをめぐらす。ふりかえる。○非才 才能がない。○倹歳 凶作の年。○三戸 狭く人工の少ない地域。○余年 年とったとき。晩年。○六条 ここでは通りが六つほどの小さい町の意か。○春蕪 春に芽吹く雑草。○東床客 むこ。「東床」は、東の部屋。晋の▲(「希」のみぎにオオザト。チ)鑒が王導の一族から婿を選ぼうとしたときに、みな威儀をただしていたが、王羲之のみが、東方の部屋で寝ころんで飲食していて、選ばれた故事。○池塘 池の畔。○寂寥 さびしさ。【訳】遷仁楼に登り婿の李穆に答えた詩。風ふきすさぶ高殿に、夕暮れ登り楽を聴く。帰路に空しく振り向けば、新たな紋章腰に在り。才能あらず官からの謗りを受けて侘び暮らし、まつりごととてままならず、民にうたわれ笑いもの。凶年とても安楽にさせるは三戸ばかりにて、晩年この身寄するのは小さな町の片隅よ。楚国に生ず春の草、隋より高き古木あり。あてにするのは婿殿よ、池の畔に尋ね来て、このさびしさを紛らせよ。
March 31, 2006
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行營酬呂侍御時尚書問罪襄陽軍次漢東境上侍御以州鄰寇賊復有水火迫於征税詩以見諭 劉長卿不敢淮南臥、來趨漢將營。受辭瞻左鉞、扶疾往前旌。井税鶉衣樂、壺漿鶴髮迎。水歸餘斷岸、烽至掩孤城。晩日歸千騎、秋風合五兵。孔璋才素健、早晩檄書成。【韻字】營・旌・迎・城・兵・成(平声、庚韻)。【訓読文】行営にて呂侍御に酬ゆ。時に尚書罪を問ふ。襄陽軍、漢の東境上に次る。侍御州の鄰の寇賊復た有り、水火征税に迫る詩を以て、以て諭さる。敢へて淮南に臥さず、来たり趨く漢将の営。辞を受け左鉞を瞻(み)、疾を扶(たす)けて前旌に往く。井税鶉衣を楽しみ、壺漿鶴髮迎ふ。水は帰つて断岸に余り、烽至つて孤城を掩(おほ)ふ。晩日千騎帰り、秋風五兵合ふ。孔璋才素健、早晩檄書成らん。【注】○行営 唐代、節度使が任地を定めず、しばらく軍をとどめるところ。○呂侍御 未詳。「侍御」は、御史台の属官。○尚書 行政の中央最高官庁。中書・門下とならぶ三省の一。○寇賊 強盗し、人を殺傷する集団。○水火 ひじょうに危険なもののたとえ。○征税 税を取り立てる。租税。○淮南 湖北省の漢水と長江の間と、江蘇・安徽省の淮水と長江の間の地。○鉞 征討のとき、天子が将軍にさずけるオノ。○鶉衣 つぎはぎのみすぼらしい着物。○壺漿 つぼに入れた飲み物。○鶴髮 しらが。○断岸 きりたったがけになっている岸。○烽 敵の攻撃を味方に知らせる煙。のろし。○晩日 夕日。○五兵 五種の武器。戈・殳・戟・酋矛・夷矛。一説に、弓・殳・矛・戈・戟。○孔璋 魏の陳琳。文章が上手で、とくに檄文にすぐれていた。○檄書 おふれ。戦争のときに出した布告文で、敵の行為を非難し、味方の軍隊の士気を鼓舞し、軍兵を召集するため、官府から出した木札に書いた文書。【訳】陣営にて呂侍御に答えた詩。時に、尚書が罪に問うた。襄陽軍は、漢水の東のほとりに宿営した。侍御は州の鄰の強盗団が出没し、租税が奪われる危機だという内容の詩を作り、諭した。淮南の地にとどまらず、急ぎ陣営めざしゆく。辞令をうけてオノ見やり、病をおして前線に。民はボロ着て税払い、老人飲み物提供す。川水あふる岸のうえ、のろし孤城にたなびけり。夕暮れ帰る騎馬武者や、秋に戦乱くりひろぐ。陳琳素朴剛健に、いつか作らん檄文を。
March 30, 2006
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奉和趙給事使君留贈李■(ブ)州舍人兼謝舍人別駕之什 劉長卿便道訪情親、東方千騎塵。禁深分直夜、地遠獨行春。絳闕辭明主、滄洲識近臣。雲山隨候吏、▲(「谿」の「谷」を「隹」に換えた字。ケイ)犬逐歸人。庭顧婆娑老、邦傳蔽●(クサカンムリのしたに「市」。ハイ)新。玄暉翻佐理、聞到郡齋頻。【訓読文】趙給事使君の李■(ブ)州舍人兼謝舍人別駕に留贈するの什に和し奉る。便ち道ふ訪情の親、東方千騎の塵。禁深く直夜を分かち、地遠くしては独り行春。絳闕に明主を辞し、滄洲に近臣を識る。雲山候吏に随ひ、鶏犬帰人を逐(お)ふ。庭には婆娑の老いたるを顧み、邦には蔽●(ハイ)の新たなるを伝ふ。玄暉翻つて佐理し、郡斎に到ることの頻りなるを聞く。【注】○奉和 つつしんで唱酬する。○趙給事使君 未詳。「給事」は、給事中。貴人のおそば仕え。「使君」は、太守。○留贈 去る者が残る者に詩を贈る。○李■(ブ)州舍人 未詳。「■(ブ)州」は、浙江省金華県。「舎人」は、天子のそばに仕える役人。○謝舍人別駕 未詳。「別駕」は、州・郡の次官。○什 詩。○直夜 宿直の夜。○行春 地方長官が春に自分の管轄地を回って農業・養蚕を奨励すること。○絳闕 王宮の赤塗りの門。○明主 賢明な君主。○近臣 君子のそばに仕える役人。○候吏 道で賓客を送迎する役目の役人。○婆娑 衣の袖や裾をひるがえして舞うさま。○蔽●(ハイ) 草木がこんもりとおおい茂るさま。『詩経』《召南・甘棠》に見える。○玄暉 南朝時代の斉の詩人、謝★(「月」のみぎに「兆」。)チョウの字。六朝詩人の筆頭といわれ、五言詩にすぐれた。宣城の太守となったので、謝宣城ともいう。(四六四年……四九九年)。○佐理 政務を補佐する。○郡齋 郡の役所。【訳】趙給事使君が李■(ブ)州舍人と謝舍人別駕に別れにあたって贈った詩につつしんで唱和した詩。日頃親しき仲なれど、時に東方乱おこる。禁中深く夜を明かし、僻地に農を奨めけり。天子にいとま申し上げ、田舎に来ぬる側仕え。出迎えるのは役人と白雲かかるとのみ、鶏や犬せわしなく帰宅の人の後を追う。庭で楽しむ舞とても踊るは老いた女にて、邦にとうとぶ甘棠は新たに枝をのばしたり。謝氏は公務にいそしみて、郡の役所に常通う。
March 29, 2006
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棲霞寺東峰尋南齊明徴君故居 劉長卿山人今不見、山鳥自相從。長嘯辭明主、終身臥此峰。泉源通石徑、澗戸掩塵容。古墓依寒草、前朝寄老松。片雲生斷壁、萬壑遍疎鐘。惆悵空歸去、猶疑林下逢。【韻字】從・峰・容・松・鐘・逢(平声、冬韻)。【訓読文】棲霞寺の東峰に南斉の明徴君の故居を尋ぬ。山人今見えず、山鳥自から相従ふ。長嘯明主に辞し、終身此の峰に臥せり。泉源石径通じ、澗戸塵容を掩ふ。古墓寒草に依り、前朝老松に寄る。片雲断壁に生じ、万壑疎鐘遍し。惆悵す空しく帰去するを、猶ほ疑ふ林下に逢ふかと。【注】○棲霞寺 江蘇省南京市の東北の栖霞山にあり。南朝斉の創建。○南斉明徴君 未詳。「徴君」は、官にめされても仕官しない人。南斉の明僧紹か。明僧胤の弟。字は承烈。永明の初めに国子博士を以て徴されたが、仕官しなかった。○山人 隠者。○長嘯 口をすぼめて声を出す。また、声を長く引いて詩歌を吟ずる。○明主 賢明な君主。○塵容 俗っぽさ。○断壁 絶壁。きりたったがけ。○万壑 多くの谷。【訳】棲霞寺の東の峰に南斉の明徴君の旧居をおとずれ詠んだ詩。いまはかの人亡くなりて、山の鳥のみあそびくる。君主に別れ申しあげ、長くうそぶくこの林、身をおうるまで此の峰を一歩もいずることもなし。石の小道のその先は清き泉へ通じおり、谷川そばの家作には何ら一切俗気なし。墓の周りは草がはえ、古りにし松に見守らる。がけの上なるちぎれ雲、谷にまばらに鐘ひびく。このまま帰るは残念な、ひとめ逢いたや徴君に。
March 28, 2006
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酬包諫議佶見寄之什 劉長卿佐郡愧頑疏、殊方親里閭。家貧寒未度、身老歳將除。過雪山僧至、依陽野客舒。藥陳隨遠宦、梅發對幽居。落日棲■(「号」のみぎに「鳥」。キョウ)鳥、行人遺(一作達)鯉魚。高文不可和、空愧學相如。【韻字】閭・除・舒・居・魚・如(平声、魚韻)。【訓読文】包諌議佶の寄せられし什に酬ゆ。郡を佐けて頑疏を愧ぢ、殊に方(まさ)に里閭に親しむ。家貧にして寒未だ度らず、身老いて歳将に除ならんとす。過雪山僧至り、依陽野客舒ぶ。薬陳(ふ)り遠宦に随ひ、梅発きて幽居に対す。落日■(キョウ)鳥棲み、行人鯉魚を遺る(一に「達」に作る)。高文和するべからず、空しく愧づ相如を学ぶを。【注】○包諫議佶 字は幼正。潤州の人。進士の第に登り。諫議大夫となった。○什 詩。○里閭 むらざと。○除 「除夜」などと同じく、年が暮れて新年になることをいうのであろう。○野客 官に仕えない人。○幽居 俗世間から離れた静かな住まい。○相如 司馬相如。前漢の文人。四川省成都の人。字は長卿。武帝に仕え、《上林賦》など、辞賦にすぐれた作品を残し、漢・魏・六朝時代の文人たちに影響をあたえた。(前一七九年……前一一七年)。【訳】諌議の包佶が贈ってくれた詩に答えた詩。郡の役人補佐すれど頑固で力およばざる、取り柄と言えば村人に特に親しむことくらい。貧乏なれど寒からず、身は年老いて歳暮るる。にわか雪やみ僧いたり、野人日向で伸びをする。古びた薬たずさえて遠くの官に赴けば、静かな家の庭先に春を告げんと梅咲きぬ。フクロウ枝におる日暮れ、旅人手紙よこしけり。格調高き君の文、文人相如学べども、われに才能あらざれば、和せず恥じ入るばかりなり。
March 27, 2006
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送嚴維赴河南充嚴中丞幕府 劉長卿久別耶溪客、來乘使者軒。用才榮入幕、扶病喜同樽。山屐留何處、江帆去獨翻。暮情辭鏡水、秋夢識雲門。蓮府開花萼、桃園寄子孫。何當舉嚴助、遍沐漢朝恩。【韻字】軒・樽・翻・門・孫・恩(平声、元韻)。【訓読文】厳維の河南に赴きて厳中丞の幕府に充てらるるを送る。久しく別る耶渓の客、来りて乗る使者の軒(くるま)。才を用ゐられて幕に入りて栄え、病を扶(たす)けて樽を同(とも)にするを喜ぶ。山屐(サンゲキ)何れの処にか留めん、江帆去つて独り翻る。暮情鏡水を辞し、秋夢雲門を識る。蓮府花萼を開き、桃園子孫を寄す。何れか当に厳助に挙せられ、遍ねく漢朝恩沐すべき。【注】○厳維 字は正文。越州の人。校書郎に終わった。○河南 唐の方鎮の一。治所は今の河南省開封市。○厳中丞 未詳。「中丞」は、各省の次官。○幕府 節度使の役所。○耶渓 若耶渓(ジャクヤケイ)。浙江省紹興市の南の若耶山に発し、北流して運河に入る。○軒 ながえが曲がって高く上にそりあがった形の車。○扶病 病気のからだを助け起こす。○山屐 謝霊運が山登りに用いた下駄で、足が疲れないように、登りと下りで前後の歯が付け替えられるようになっている。○鏡水 浙江省紹興市の会稽山北麓の鏡湖。○雲門 浙江省紹興市の南にある山。○桃園 『唐詩紀事』巻四十七に「桃源」に作る。【訳】これから長の別れとはいとどさびしきものぞかし。若耶のへりに迎え来る車に我は乗りてゆく。このたび君は才能をかわれ入幕許されて、われは病中かけつけて酒くみかわす嬉しさよ。どこにしまわん山下駄を。去りゆく白帆ひるがえる。日暮れ鏡湖に別れ告げ、雲門山を夢に見ん。君は幕府で活躍し、桃李の園に家族よぶ。いつか厳氏に推挙され、残らず受けん国の恩。
March 26, 2006
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酬■(ジョ)州李十六使君見贈(李公與予倶於陽羨山中新營別墅,以其同志,因有所作) 劉長卿滿鏡悲華髮、空山寄此身。白雲家自有、黄卷業長貧。懶任垂竿老、狂因釀黍春。桃花迷聖代、桂樹狎幽人。幢蓋方臨郡、柴荊忝作隣。但愁千騎至、石路卻生塵。【韻字】身・貧・春・人・隣・塵(平声、真韻)。【訓読文】■(ジョ)州李十六使君に贈らるるに酬ゆ。(李公と予と倶に陽羨山中に於いて新たに別墅を営む、其の志を同じうするを以て、因つて作る所有り)。満鏡華髪を悲しみ、空山此の身を寄す。白雲家自から有り、黄巻業長く貧し。懶くして竿を垂れて老ゆるに任せ、狂するは黍を釀す春に因る。桃花聖代を迷はしめ、桂樹幽人に狎れたり。幢蓋方に郡に臨み、柴荊忝くも隣を作す。但だ愁ふ千騎の至り、石路卻つて塵を生ずるを。【注】○■(ジョ)州李十六使君 未詳。「■(ジョ)州」は、安徽省■(ジョ)県。「使君」は、刺史。○陽羨山 江蘇省宜興県にあり。○別墅 別荘。○満鏡 かがみいっぱい。○華髪 しらが。また、老年。○空山 ひとけのない静かな山。○黄巻 むかし巻物の地が黄色かったところから、書物をいう。○垂竿 釣りをする。○醸 発酵する菌を、蒸した穀物の中にわりこませ、酒を造る。○聖代 りっぱな天子が治める御代。○幽人 俗世間と離れて静かに暮らす人。隠者。○幢蓋 将軍や刺史が用いる旗のぼりと傘蓋。○柴荊 しばといばら。そんなものでこしらえたような粗末な家。あばらや。○愁 心配する。山の静かな暮らしが、李氏の部下の俗っぽい役人たちによって邪魔されるのを心配するのであろう。○石路 石ころの多い道。【訳】■(ジョ)州刺史の李十六から贈られた詩に答えた詩。鏡に満つる白髪はいとど悲しきものぞかし。ひそと静かなこの山に老いの身を寄せ暮らしおり。白雲の湧く山奥にかかる家をば建てしかど、もちもの書物ばかりにて常に貧しき日々送る。ものぐさければ釣りをして年をば取るにまかすれど、春には黍で酒かもし、心浮かるる楽しさよ。天子治むる御代なれば踏みまようほど咲ける桃、モクセイの木は山奥の隠居の庭に咲きほこる。はたのぼり建て郡治め、ボロ屋のとなり住みたもう。惜しむは部下の駆けつけて、ほこりを立つる砂利の道。
March 25, 2006
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題獨孤使君(一作常州)湖上林(一作新)亭 劉長卿出樹倚朱闌、吹鐃引上官。老農持■(「插」の手偏を金偏に換えた字。ソウ)拜、時稼捲簾看。水對登龍淨、山當建隼寒。夕陽湖草動、秋色渚田寛。渤海人無事、荊州客獨安。謝公何足比、來往石門難。【韻字】官・看・寒・寛・安・難(平声、寒韻)。【訓読文】独孤使君(一に「常州」に作る)が湖上の林(一に「新」に作る)亭に題す。樹を出だして朱闌に倚り、鐃を吹きて上官を引く。老農■(ソウ)を持ちて拝し、時稼簾を捲げて看る。水登龍に対して浄く、山建隼に当つて寒し。夕陽湖草動き、秋色渚田寛し。渤海人無事、荊州客独り安し。謝公何ぞ比するに足らん、来往す石門の難。【注】○独孤使君 独孤及。字は至之、洛陽の人。時に独孤常州と号す。「使君」は、州の長官。刺史。「常州」は、江蘇省常州市。○吹鐃 笛を吹きドラを鳴らす。○■(ソウ) 田畑を耕すのに用いるすき。○時稼 季節の耕作。○「登龍」と「建隼」は、あるいは固有の地名かもしれないが、未詳。○渤海 遼東半島と山東半島あたり。○荊州 湖北省江陵県。○謝公 謝霊運。南朝の詩人。石門の山居に暮らした。○石門 浙江省▲(「山」のみぎに「乘」。ジョウ)県の北にある山。一説に浙江省青田県の西にある山。【訳】独孤使君の湖上の林中の亭を題にして詠んだ詩。木々より高きたかどのの、赤き手すりによりかかり、楽曲かなで上役をおのが館にぞ招きける。農夫スキ持ちふしおがみ、簾上げ看る野良仕事。鯉のぼる滝水きよく、隼かえる山寒し。夕日をあびて湖草ゆれ、渚田みのりて秋の色。渤海の人平穏に、荊州の客平安ぞ。謝公も君にかなうまじ、石門つねに行き来する。
March 25, 2006
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送鄭説之歙州謁薛侍郎(一作薛能郎中) 劉長卿漂泊來千里、謳謠滿百城。漢家尊太守、魯國重諸生。俗變人難理、江傳(一作流)水至清。船經危石住(一作往)、路入亂山行。老得滄州趣、春傷白首情。嘗聞馬南郡、門下有康成。【韻字】城・生・清・行・情・成(平声、庚韻)。【訓読文】鄭説の歙州に之(ゆ)き薛侍郎(一に「薛能郎中」に作る)に謁するを送る。漂泊して千里に来たり、謳謡百城に満つ。漢家は太守を尊び、魯国は諸生を重んず。俗変じて人理め難く、江伝(一に「流」に作る)はつて水至つて清し。船は危石を経て住(一に「往」に作る)まり、路は乱山に入つて行く。老いては滄州の趣きを得、春には白首の情を傷む。嘗つて聞く馬南郡、門下に康成有りと。【注】○鄭説 曾て太常寺奉礼郎に任ぜられ、大暦八年から十年頃、歙州に旅し、大暦末には常州に居り、皎然・皇甫冉らと唱酬した。○歙州 安徽省の南東部の歙県。○薛侍郎 未詳。「薛能」は、会昌六年(八四六)の進士であるから、時代的に劉長卿(七〇九年?……七八五年?)とは合わないであろう。 ○漂泊 さすらう。○謳謡 うた。○太守 郡の長官。○魯国 周代の国の名。都は曲阜(山東省に属す)。孔子の生国。○諸生 学生たち。○危石 高くそそり立つ石。○滄州 隠者のかくれすむ所。○馬南郡 後漢の大学者、馬融。桓帝の時、南郡の太守となった。字は季長。茂陵(陝西省)の人。広く経書に通じ、千人以上も門人がいたという。(七九年……一六六年)。○康成 後漢の大学者、鄭玄の字。古文派に属し、多くの注釈を著した。(一二七年……二〇〇年)。【訳】鄭説が薛侍郎に目通りしに歙州に行くのを見送る。千里かなたに旅ゆけば、うたごえ町に満ちあふる。漢には太守尊びて、魯には学生重んじる。風俗いまや変りはて人を理むること難く、ただ川のみぞもとのまま清き流れを伝えたる。船は川から突き出せる、けわしき岩場すりぬけて、陸にあがれば乱れ立つ山越えの道待ち受くる。老いれば恋し楽隠居、しらがのふえる悲しさよ。いにしえ聞きし馬融には、弟子の鄭玄すぐれたり。
March 24, 2006
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平番曲 (三首) 其三絶漠大軍還、平沙獨戍閑。空留一片石、萬古在燕山。【韻字】還・閑・山(刪韻)。【訓読文】平番曲 (三首) 其の三。絶漠大軍還り、平沙独戍閑なり。空しく留む一片の石、万古燕山に在り。【注】○絶漠 砂漠をわたる。『文選』班固《燕然山銘》「遂に高闕を陵ぎ、鶏鹿を下し、磧鹵を経、大漠を絶つ」。○平沙 平らで広い砂原。砂漠。○戍 国境守備兵の陣屋。○一片石 後漢の竇憲が、北単于を破り、燕然山に登って班固に銘じて功を刻ませた石碑。○燕山 燕然山。今の蒙古人民共和国杭愛山脈。【訳】異民族を平定する歌。三首のうち、その三。砂漠わたりて大軍は国をめざしてもどりゆき、ひろき砂原そのうちに陣屋ぞ一つ残りたる。むなしく残る一片の、石は後漢の竇憲(トウケン)の、単于(ゼンウ)破りてその手柄、部下の班固に刻ませて、燕然山の頂きに、建てしいしぶみこれならん。
March 24, 2006
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平番曲 (三首) 其二渺渺戍煙孤、茫茫塞草枯。隴頭那用閉、萬里不防胡。【韻字】孤・枯・胡(平声、虞韻)。【訓読文】平番曲 (三首) 其の二。渺渺として戍煙孤なり、茫茫として塞草枯れたり。隴頭那(なんぞ)閉づるを用ゐん、万里胡を防がず。【注】この詩は次の作(260)とともに『唐詩選』巻六にも収める。○渺渺 果てしなく広がるさま。○戍煙 国境守備兵が焚く火「戍火」(ジュカ)というので、その煙であろう。○茫茫 広々として果てしないさま。○隴頭 陝西省と甘粛省との境にある隴山のほとり。古来、異民族との国境をなす山として、歴代の王朝はここに隴関などの関所を置いた。○那用A 反語で、「どうしてAする必要があろうか、いや、必要ない」の意。○胡 異民族。【訳】はるか遠くのとりでにぞ、煙ひとすじ立ちのぼる。見渡す限りひろびろと、辺境の地に草も枯る。国境をなす隴山の関所をとづるまでもなし、万里にわたり蛮族も、いくさに懲りて来ざるべし。
March 23, 2006
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平番曲(三首) 劉長卿 其一吹角報番營、迴軍欲洗兵。已教青海外、自築漢家城。【韻字】営・兵・城(平声、庚韻)。【訓読文】平蕃曲三首。其の一。角を吹きて番営に報じ、軍を迴らして兵を洗はんと欲す。已に青海の外をして、自ら漢家の城を築かしめん。【注】○番 えびす。異民族。「蕃」に同じ。○角 つのぶえ。○営 軍隊が宿泊する所。○兵 するどい武器。○青海 青海省内の大塩水湖ココノール。○漢家 漢の王室。【訳】野蛮な異民族を平定する歌。其の一。角笛の音、高らかに、えびすのとりで鳴り響く。勝利の軍をひきかえし、武器の血糊を清めなん。すでに国外教化して、漢の城壁築かせん。
March 23, 2006
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題大理黄主簿湖上高齋 劉長卿閉門湖水畔、自與白鴎親。竟日窗中岫、終年林下人。俗輕儒服弊、家厭法官貧。多雨茅簷夜、空洲草徑春。桃源君莫愛、且作漢朝臣。【韻字】親・人・貧・春・臣(平声、真韻)。【訓読文】大理黄主簿が湖上の高斎に題す。門を閉づ湖水の畔、自から白鴎と親しむ。竟日窓中の岫、終年林下の人。俗は軽んず儒服の弊(つか)れたるを、家は厭ふ法官の貧しきを。多雨茅簷の夜、空洲草径の春。桃源君愛すること莫かれ、且(しばらく)漢朝の臣と作(な)らん。【注】○大理黄主簿 劉長卿の友人らしいが、未詳、「大理」は、司法官。「主簿」は、記録・帳簿係の下級役人。○高斎 高大な書斎。○鴎 カモメ。「鴎盟」(カモメを友とする。隠居する)という漢語があるように、カモメとたわむれることは、世俗からかけ離れた生活を意味する。○窓中岫 窓から見える遠くの山の洞穴。『古詩源』巻十二・謝■(「月」のみぎに「兆」。チョウ)《郡内高斎閑望答呂法曹》「窓中遠岫を列し、庭際喬林に俯す」。○儒服 学者の着る青い服。○弊 ボロボロなようす。○法官 法をつかさどる役人。裁判官。司法官。○茅簷 かやぶき屋根。○桃源 世俗を脱した別天地。○漢朝 漢王朝。陶淵明の《桃花源記》に「すなはち漢あるを知らざるなり」(桃源郷の民が漢王朝の存在を知らずにいた)とあるのをふまえる。また、「唐」と表現すると支障があるので、それを避けて「漢」と表現したもの。【訳】大里主簿の黄氏の湖畔の高大な書斎を詠んだ詩。湖畔の家は門をとじ、君はカモメとたわむれる。窓から見える山の洞、日がな一日ながめやり、静かな林のその中で、のんびり年を送るらん。民は学者を軽蔑し、家人薄給厭うらん。茅葺き屋根を雨が打ち、中洲に春の草芽吹く。君求むるな理想郷、役人ぐらし、国のため。
March 23, 2006
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送丘為赴上都(一作送皇甫曾) 劉長卿帝郷何處是、岐路空垂泣。楚思(一作客)愁暮多、川程(一作長)帶潮急。潮歸人不歸、獨向空(一作迴)塘立。【韻字】泣・急・立(入声、緝韻)。【訓読文】丘為の上都に赴くを送る(一に「皇甫曽を送る」に作る)。帝郷何れの処か是ならん、岐路空しく泣(なんだ)を垂る。楚思(一に「客」に作る)暮べを愁ふること多く、川程(一に「長」に作る)潮を帯びて急なり。潮帰るも人帰らず、独り空(一に「迴」に作る)塘に向つて立つ。【注】○丘為 蘇州(江蘇省)嘉興の人。官は太子庶子に至る。継母に孝養をつくしたため、特別に退官後も俸給の半分をあたえられた。(六九四年?……七八九年?)。○赴 公務で向かう。○上都 みやこ。○帝郷 天子のいる都。○岐路 わかれみち。○塘 川のつつみ。土手。【訳】丘為が都に行くのを見送る。みやこいずれの方ならん、別れ路なみだおつるなり。楚にのこるわれうらがなし、潮みち流れ早まりぬ。潮はいずれは帰れども、去りゆく君は帰らぬを、ひとりさびしくこの土手に、立ちてぞ我は見送らん。
March 22, 2006
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月下聽砧 劉長卿夜靜掩寒城、清砧發何處。聲聲搗秋月、腸斷盧龍戍。未得(一作有)寄征人、愁霜復愁露。【韻字】處・戍・露(去声、遇韻)。【訓読文】月下に砧(きぬた)を聴く。夜静かにして寒城を掩ひ、清砧(セイチン)何(いづれ)の処にか発す。声々秋月に搗き、腸断ゆ盧龍(ロリョウ)の戍(シュ)。未だ得ず征人に寄することを、愁霜復(また)愁露。【注】○砧 石の台の上に布をのせ、槌で叩いてやわらげ、つやをだす。ここでは、そのたたく音。○清砧 すんだきぬたの音。○発 おとがする。○搗 うつ。たたく。○腸断 はらわたがちぎれる。非常に悲しいようす。○盧龍戍 黒水のとりで。今の河北省喜峰口あたり。○征人 出征した夫。【訳】月のもと砧をうつ音を聴く。さびしき町に夜はふけて、どこかできぬた打つ音す。秋の月までひびけよと、とりでの夫思いやる。着物も贈らざるうちに、はや露霜もおりきたる。
March 22, 2006
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龍門八詠 渡水 劉長卿日暮下山來、千山暮鐘發。不知波上棹、還弄山中月。伊水連白雲、東南遠明滅。【韻字】發・月・滅(入声、屑韻)。【訓読文】竜門八詠 水を渡る。日暮山を下り来たり、千山暮鐘発す。知らず波上の棹の、還つて山中の月を弄ぶを。伊水白雲に連なり、東南して遠く明滅す。【注】○日暮 ひぐれ。ゆうぐれ。○暮鐘 くれの鐘のね。○伊水 河南省を流れる川。○明滅 見えたり隠れたり。【訳】竜門で作った八首のうち、川を渡るのを詠んだ詩。夕暮れ山をおりくれば、入相の鐘なりわたる。ふと見りゃ船の棹さきの、みなもに映る山の月。伊水のみずは空に浮く、雲につらなるごとくにて、東南のかた流れゆき、途中見えたり隠れたり。
March 22, 2006
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龍門八詠 水西渡(一作西渡水) 劉長卿伊水搖鏡光、纖鱗如不隔。千龕道傍古、一鳥沙上白。何事還(一作閑)山雲(一作寒)、能留向城客。【韻字】隔・白・客(入声、陌韻)。【訓読文】竜門八詠 水西渡(一に「西渡水」に作る)。伊水鏡光揺れ、繊鱗隔てざるが如し。千龕道傍に古り、一鳥沙上に白し。何事ぞ山雲(一に「寒」に作る)還り(一に「閑」に作る)、能く城に向かふ客を留むる。【注】○伊水 河南省を流れる川。○鏡 澄みきった水のたとえ。○繊鱗 小さいうろこ。○千龕 多くの龕(岸壁や仏塔の下に彫り込んだ、仏像や宝物を収めるむろ)。○何事 いったい、どういうわけで。【訳】竜門で作った八首のうち、川の西岸の渡し場を詠んだ詩。伊水の川面きらきらと鏡のごとく澄み渡り、立つさざなみはいろくずの、こまかき鱗思わする。道ばたのむろもの古りて、砂原の鳥色白し。山に帰るを急ぐ雲、町に帰るを引き留むる。
March 21, 2006
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龍門八詠 下山 劉長卿誰識往來意、孤雲長自閑。風寒未渡水、日暮更看山。木落衆峰出、龍宮蒼翠間。【韻字】閑・山・間(平声、刪韻)。【訓読文】竜門八詠 山を下る。誰か識らん往来の意、孤雲長(つね)に自ら閑たり。風寒くして未だ水を渡らず、日暮れて更に山を看る。木落ちて衆峰出で、竜宮蒼翠の間にあり。【注】○往来 行き来。○衆峰 多くの峰々。○龍宮 寺のこと。○蒼翠 つやのある青緑色。【訳】竜門で作った八首のうち、下山のようすを詠んだ詩。誰かは知らん行き来する、人の心のその奥を、ぽつりと浮かぶちぎれ雲、空を静かに流れゆく。風の冷たく吹きくれば、いまだに川を渡らぬも、日ぐれ夕日に照らされて、赤く染まりし山をみる。木々の葉、風に散り落ちて、峰の山肌あらわなり。みどりの木々のそのはざま、高くそびゆる寺ひとつ。
March 21, 2006
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龍門八詠 石樓 劉長卿隱隱見花閣、隔河映青林。水田秋雁下、山寺夜鐘深。寂寞群動息、風泉清道心。【韻字】林・深・心(平声、侵韻)。【訓読文】竜門八詠 石楼。隠隠として花閣を見れば、河を隔てて青林に映ず。水田秋雁下(お)り、山寺夜鐘深し。寂寞として群動息(いこ)ひ、風泉道心を清む。【注】○石楼 河南省洛陽市の西南の香山寺にあり。○隠隠 かすんではっきりしないさま。○花閣 美しいたかどの。○寂寞 ひっそりとしてものさびしいさま。○道心 仏の悟りを得ようとする心。仏教に帰依する心。【訳】竜門で作った八首のうち、石楼を詠んだ詩。ぼんやりかすむたかどのは、川をへだつる向こう岸、林の中にそびえたり。田にはかりがね下り立ちて、山寺の鐘、夜は更くる。生あるものは寝静まり、心きよむる風いずみ。
March 20, 2006
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龍門八詠 遠公龕 劉長卿松路向精舍、花龕歸老僧。閑雲隨錫杖、落日低金繩。入夜翠微裏、千峰明一燈。【韻字】僧・繩・燈(平声、蒸韻)。【訓読文】竜門八詠 遠公龕。松路精舎へ向かひ、花龕老僧帰る。閑雲錫杖に随ひ、落日金繩に低(た)る。夜に入る翠微の裏、千峰一灯明かなり。【注】○遠公龕 河南省洛陽市の西南の竜門にあり。「遠公」は、晋の高僧、慧遠。廬山の東林寺に住した。白蓮社を結び、仏僧俗人を集めて念仏修行にはげんだ。(?年……四一六年)。○精舎 お寺。○花龕 「花」は、美称。「龕」は、塔下の室。○錫杖 僧や修験者などが持つ杖。頭は錫、中は木、下は動物の角などで作り、杖頭に数個の小さい輪が付いており、持ち歩くと音がする。○金縄 仏教の伝説で、離垢国は黄金で縄をつくり、それを張って道のわきを仕切ってあるという。『法華経』巻二《譬喩品》「世界を離垢と名づく。清浄にして瑕穢無し。瑠璃を以て地と為し、金縄其の道を界せり」。○翠微 山の八合目あたり。【訳】竜門で作った八首のうち、遠公龕を詠んだ詩。お寺へ続く松並木、老僧帰るわが庵。杖つき雲をしたがえて、夕日は沈む金の縄。夕闇せまる八合目、明かりはともる千々の峰。
March 20, 2006
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龍門八詠 福公塔 劉長卿寂寞對伊水、經行長未還。東流自朝暮、千載空雲山。誰見白鴎鳥、無心洲渚間。【韻字】還・山・間(平声、刪韻)。【訓読文】竜門八詠 福公塔。寂寞として伊水に対すれば、経行長(とこしへ)に未だ還らず。東流自から朝暮、千載雲山空し。誰か見ん白鴎鳥の、洲渚の間に無心なるを。【注】○福公塔 いまの河南省洛陽市の西南の竜門にあり。○寂寞 ひっそりとして物さびしいさま。○伊水 欒川県の西の伏牛山に発し、東北に向かい、偃師県の西南に至り洛河に合流する。○経行 通過する。○東流 東の方に流れる。○雲山 雲と山。○洲渚 なぎさ。【訳】竜門で作った八首のうち、福公塔を詠んだ詩。さびしく伊水眺むるに、もとの水にはあらぬべし。朝な夕なに東して、雲山ともにちとせ経ぬ。ひとり眺むるカモメどり、無心に遊ぶその姿。
March 19, 2006
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龍門八詠 水東渡 劉長卿山葉傍崖赤、千峰秋色多。夜泉發清響、寒渚生微波。稍見沙上月、歸人爭渡河。【韻字】多・波・河(平声、歌韻)。【訓読文】龍門八詠 水東渡。山葉崖に傍ひて赤く、千峰秋色多し。夜泉清響を発し、寒渚微波を生ず。稍(やや)見る沙上の月、帰人争つて河を渡る。【注】○水東渡 川の東岸の渡し場。○崖 断崖。きりたったがけ。○千峰 多くの峰。○秋色 秋のけはい。○清響 すがすがしいせせらぎ。○寒渚 ひややかななぎさ。○微波 さざなみ。○稍 やっと。ようやく。○沙 川原。砂原。○帰人 家路につく人。【訳】龍門で作った八首のうち、水東渡を詠んだ詩。崖に木々の葉色づきて、千々の峰々秋はきぬ。よるの泉に音響き、渚さざなみ立ちにけり。川原に月のいずるころ、帰路いそぐ者川渡る。
March 19, 2006
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龍門八詠 闕口 劉長卿秋山日(一作向)搖落、秋水急波瀾。獨見魚龍氣、長令烟雨寒。誰窮造化力、空向雨崖看。【韻字】瀾・寒・看(平声、寒韻)。【訓読文】竜門八詠 闕口。秋山日(ひび)に揺落し、秋水波瀾急なり。独り見る魚龍の気の、長く煙雨をして寒からしむるを。誰か窮めん造化の力、空しく雨崖に向かつて看る。【注】○竜門 河南省洛陽市の西南にあり。竜門山(西山)と香山(東山)が伊水を隔てて対峙して門のように見えるのでいう。鯉が竜門を登れば龍と化すという伝説がある。○闕口 竜門の別名を伊闕というので、その入り口付近をいうのであろう。○揺落 木々が葉を散らすこと。○波瀾 大小の波。○魚龍 魚と竜。○烟雨 きりさめ。けむるように降る雨。○造化 天地万物を造った神。造物主。また、自然。【訳】龍門で作った八首のうち、闕口を詠んだ詩。日々木の葉散る秋の山、川水早く波だてり。あれに見ゆるは龍の気か、けむる雨こそ冷たけれ。神の力は底しれぬ、雨ふる崖を看るばかり。
March 19, 2006
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從軍 其六 劉長卿草枯(一作秋草)秋塞上、望見漁陽郭。胡馬嘶一聲、漢兵涙雙落。誰為吮瘡者、此事今人薄。【韻字】郭・落・薄(入声、薬韻)。【訓読文】従軍 其の六。草は枯る秋塞の上(ほとり)、望見す漁陽の郭。胡馬嘶(いば)ゆること一声、漢兵涙双(ふたつ)ながら落つ。誰が為にか瘡を吮(す)ふ者あらん、此の事今人薄し。【注】○塞上 辺境のとりでのほとり。国境付近。○望見 遠くからながめる。○漁陽 秦代の郡の名。北京の北東にあり。唐の玄宗皇帝のとき、安録山が挙兵したところとして著名。○胡馬 北方または西方の異民族の地に産する馬。また、それに乗った騎馬兵。○吮瘡 できもののうみをすう。戦国時代の将軍呉起は、部下の兵士に疽(悪性腫瘍)ができたとき、みずからその膿を吸い出して、治療してやったという。『史記』《呉起伝》「卒に疽を病む者有り、起為に之を吮(す)ふ」。【訳】秋のとりでに草は枯れ、とおく漁陽をながめやる。北方の馬いななきて、漢の兵士は涙する。部下のためにと傷口を、いたわる将軍、今はなし。
March 18, 2006
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從軍 其五 劉長卿落日更蕭條、北方(集作風)動枯草。將軍追虜騎、夜失陰山道。戰敗仍樹勳、韓彭但空老。【韻字】草・道・老(上声、皓韻)。【訓読文】従軍 其の五。落日更に蕭条、北方(集に「風」に作る)枯草動く。将軍虜騎を追ひ、夜失ふ陰山の道。戦敗れて仍(なほ)勲を樹てんとし、韓彭但(ただ)空しく老ゆ。【注】○蕭条 ものさびしいようす。ひっそりしたようす。○虜騎 敵の騎馬兵。○失道 道に迷う。○陰山 崑崙山脈の北の分かれ。○樹勲 手柄をたてる。○韓彭 韓信と彭越。いずれも劉邦を補佐して楚軍と戦った名将であったが、のちに謀反の罪で殺された。【訳】夕日は落ちてひっそりと、枯れ草ゆらす北の風。将軍えびす追撃し、陰山道にまよいけり。いくさに破れ、そののちも、手柄たてんと奔走す。されど韓信・彭越もむなしく老いる世のならい。
March 18, 2006
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從軍 其四 劉長卿黄沙一萬里、白首無人憐。報國劍已折、歸郷身幸全。單于古臺下、邊色寒蒼然。【韻字】憐・全・然(平声、先韻)。【訓読文】従軍 其の四。黄沙一万里、白首人の憐れむ無し。国に報いんとすれども剣已に折れ、郷に帰らんとするに身幸いに全し。単于古台の下、辺色寒くして蒼然たり。【注】『全唐詩』巻二二九では、その六。○黄沙 砂漠の地。○白首 しらがあたま。白髪頭の老人。○報国 力を尽くして国恩にむくいる。○単于 匈奴の王。○辺色 辺境のけしき。○蒼然 秋の気配。 【訳】従軍 六首連作のうち、その四。ここは万里の砂漠にて、しらが憐れむ人もなし。お国のためと勇めども剣はすでに折れ尽きぬ。いざや帰らんふるさとへ、五体満足よしとせん。あれや匈奴の台なる、辺境さむく秋はきぬ。
March 17, 2006
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從軍 其二 劉長卿目極雁門道、青青邊草春。一身事征戰、匹馬同辛勤(集作苦辛)。末路成白首、功歸天下人。【韻字】春(平声、真韻)・勤(平声、文韻)・人(平声、文韻)。【訓読文】従軍 其の二。目極む雁門の道、青青として辺草春なり。一身征戦を事とし、匹馬辛勤(集に「苦辛」に作る)を同(とも)にす。末路白首と成り、功は天下の人に帰せん。【注】『全唐詩』巻二二九では第四首め。○雁門 山西省代県の北西にある山。ここに雁門関があり、大同と太原の間の要地となっている。○辺草 国境地帯の草。○征戦 戦争。出征して戦うこと。○匹馬 一匹の馬。○辛勤 つらい任務。○集作苦辛 「集」とは、別集(何人かの詩人の集めて載せた作品集ではなく、個々の詩人の詩集)。「辛勤」の二文字が、『劉随州集』では「辛勤」の二文字が、「苦辛」となっているということ。ただし、現行の『劉随州集』では(四庫全書本)(四部備要席氏本)など「辛勤」となっている。○末路 なれの果て。○白首 しらがあたま。【訳】遥か雁門見渡せば、辺境の草青みたり。我が身いくさに明け暮れて、苦労ともにす我が愛馬。いずれしらがに成ろうとも、手柄を立てん国のため。
March 17, 2006
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從軍(六首) 劉長卿迴看虜騎合、城下漢兵稀。白刃兩相向、黄雲愁不飛。手中無尺鐵、徒欲突重圍。【韻字】稀・飛・圍(平声、微韻)。【訓読文】従軍(六首連作のうち、その一)。迴看す虜騎の合するを、城下漢兵稀なり。白刃両(ふたつながら)相向ひ、黄雲愁ひて飛ばず。手中に尺鉄無く、徒づらに重囲を突かんと欲す。【注】○従軍 「従軍行」は、楽府題の一。戦地に兵士の戦いぶりや心情をよむ。○迴看 ふりかえって見る。○虜騎 異民族(敵)の騎馬兵。○白刃 抜いた剣。○黄雲 めでたいしるしとされる黄色い雲。○尺鉄 短い刃物。○重囲 何重にもめぐらされた敵の包囲網。【訳】戦に従った兵士のさまを詠んだ詩。えびすの兵は群れをなし、漢の兵こそ少なけれ。刃を抜きて向きあえば、雲も嘆いて飛ばぬべし。剣も折れて矢も尽きぬ、討ち死に覚悟、突撃す。
March 16, 2006
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過■(「烏」のみぎにオオザト。オ)三湖上書齋 劉長卿何事東南客、忘機一釣竿。酒香開甕老、湖色對門寒。向郭青山送、臨池白鳥看。見君能浪跡、予亦厭微官。【韻字】竿・寒・看・官(平声、寒韻)。【訓読文】■(オ)三が湖上の書斎に過(よぎ)る。何事ぞ東南の客、機を一釣竿に忘るる。酒香ばしくして甕を開きて老いしめ、湖色門に対して寒し。郭に向かつて青山を送り、池に臨んで白鳥を看る。君の能く浪跡するを見、予も亦た微官厭はん。【注】○■(オ)三 ■(オ)載。天宝十二載、楊浚舎人の下で登第。○東南 『唐詩紀事』巻二十七に「東林」に作る。○機 たくらみ。意図。○甕 もたい。かめ。○郭 町の外囲い。○浪跡 あてもなくさまよう。○微官 低い官職。【訳】■(オ)三の湖上の書斎に立ち寄って詠んだ詩。いかなるゆえに旅かさね、心むなしく釣りするぞ。酒香ぐわしく甕開き、湖の色さむざむし。青山背にし町はずれ、池の白鳥あそびおる。君あてどなき旅このむ、われまたいとう宮仕え。
March 16, 2006
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