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*平声による押韻と仄声による押韻があり、換韻があるようなので、七絶三首連作と考え、分けて示す。江樓送太康郭主簿赴嶺南 劉長卿 其一對酒憐君安可論、當官愛士如平原。料錢用盡卻為謗、食客空多誰報恩。 其二萬里孤舟向南越、蒼梧雲中暮帆滅。樹色應無江北秋、天涯尚見淮陽月。 其三驛路南隨桂水流、猿聲不絶到炎州。青山落日那堪望、誰見思君江上樓。【韻字】論・原・恩(平声、元韻)。越・滅・月(入声、月韻)。流・州・楼(平声、尤韻)。【訓読文】江楼にて太康郭主簿の嶺南に赴くを送る。酒に対して君を憐ぶ安んぞ論ずべけんや、官に当たりて士を愛すること平原のごとし。料銭用い尽くして卻つて為に謗られ、食客空しく多くして誰か恩に報いん。万里孤舟南越に向かひ、蒼梧雲中暮帆滅す。樹色応に江北の秋無かるべし、天涯尚ほ淮陽の月を見る。駅路南のかた桂水の流れに随はば、猿声は絶えず炎州に到らん。青山落日那ぞ望むに堪えん、誰か君を江上の楼に思ふを見ん。【注】○江楼 川のほとりのたかどの。○太康郭主簿 未詳。「太康」は、河南省太康県。「主簿」は、記録・帳簿を管理する下級役人。○嶺南 嶺外。嶺表。五嶺以南の地。広東・広西省およびベトナム人民共和国北部一帯。酒に対して君を憐ぶ安んぞ論ずべけんや、當官に当たりて士を愛すること○平原 平原君。戦国時代趙の武霊王の子、趙勝。平原(山東省徳州市の南)に封じられ、食客数千人を養った。(?……前二五一年)○料銭 俸禄。○用尽 使い果たす。○卻 あべこべに。○為謗 悪口を言われる。○食客 中国の戦国時代に、特殊技能・才能があるので客分として召し抱えられていた者。空しく多くして誰か恩に報いん。○万里 非常に遠い道のり。○孤舟 ただ一艘の舟。○南越 秦末漢初にあった国。今の広東・広西省壮族自治区にあった。○蒼梧 今の湖南省寧遠県の山。かつて帝舜が南方に視察に行きここで没したという。○応A きっとAにちがいない。○無江北秋 南方では長江以北と異なり、紅葉などが無いということ。○天涯 空の果て。○淮陽 江蘇省淮陽県。○駅路 街道。宿駅から宿駅に通じる道。○桂水 広西省漓江の異名。○猿声 サルの鳴き声。さびしいものとされる。○炎州 「蛮州」は、今の貴州開陽県。○青山 青く見える山。○落日 沈む夕日。さびしいものとされる。○那 どうして。反語表現。○江上 川のほとり。【訳】川べりの高殿で太康の郭主簿が嶺南に赴任するのを見送る。酒酌み交わし赴任する君の身のうえ言葉にはとても尽くせぬわが思い、官に当たりてすぐれたる人材好むそのさまは平原君にことならず。俸給すでに尽き果ててかえって人にそしられて、食客の数多かれど恩に報いる者も無し。遠くはなれた南越の地に小舟こぎいだし、蒼梧の空の雲のはて夕暮れ舟の帆は消える。樹木の色も江北の秋とことなり南方の木々に紅葉無かるべし、空の果てには淮陽の月の姿を見るばかり。街道ずっと桂水の流れに沿って南下せば、猿の無き声絶えぬうち炎熱の地に到るらん。青き山の端沈み行く夕陽を一人眺むれば友を失うさびしさに堪えざるものは我が心、あたりに人の影もなく川のほとりの高楼に君を送るを誰が知ろう。
December 23, 2007
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登潤州萬歳樓(一作皇甫冉詩) 劉長卿高樓獨上思依依、極浦遙山合翠微。江客不堪頻北望、塞鴻何事又南飛。垂山古渡寒煙積、瓜歩空洲遠樹稀。聞道王師猶轉戰、更能談笑解重圍。【韻字】依・微・飛・稀・囲(平声、微韻)。潤州の万歳楼に登る(一に「皇甫冉詩」に作る)高楼独り上れば思ひ依依たり、極浦の遥かなる山翠微に合ふ。江客頻りに北望するに堪えず、塞鴻何事ぞ又南飛する。垂山古渡寒煙積もり、瓜歩空洲遠樹稀なり。聞道王師猶ほ転戦し、更に談笑を能くして重囲を解くと。【注】○潤州 江蘇省鎮江市。○万歳楼 江蘇省鎮江市の西南隅の旧城の上にあった。○高楼 たかどの。○依依 思い慕うようす。○極浦 はるか遠くまで続く海岸。○翠微 青い山にかかるもや。○江客 川沿いの地の旅人。○塞鴻 北方の国境のほうの大型の雁。○何事 どうして。○垂山 陝西省扶風武功県にあり。位置が合わないが、あるいは同名の山が潤州にあるか。○古渡 古い渡し場。○寒煙 寒々としたもや。○瓜歩 江蘇省六合県の東南にあり。南は長江に臨む。○聞道 きくところによれば。○王師 帝王の軍隊。○転戦 あとこちと移動して戦う。○談笑 笑顔で話す。○重囲 何重もの包囲網。【訳】潤州の万歳楼に登って詠んだ詩。高楼独り上りきて抱く思いは懐かしさ、遠い海岸その果ての山にぞ青きもやかかる。川辺の旅人北のかた望むにたえぬ悲しさよ、辺塞の地の大鳥はいかなるゆえに南飛する。垂山古びた渡し場に寒々もやがたちこめて、瓜歩の中洲にひとけ無く遠くの木々の葉もまばら。うわさによれば帝王の師団いま猶転戦し、更にすぐれた談笑で敵の包囲を解きたもう。
December 22, 2007
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送孔巣父赴河南軍(一作皇甫冉詩) 劉長卿江城相送隔煙波、況復新秋一雁過。聞道全師征北虜、更言詩將會南河。邊心冉冉郷人絶、寒草青青戰馬多。共許陳琳工奏記、知君名行未蹉■(「足」のみぎに「它」。タ)。【韻字】波・過・河・多・■(タ)(平声、歌韻)。【訓読文】孔巣父の河南軍に赴くを送る。(一作皇甫冉詩) 劉長卿江城相送りて煙波に阻まる、況んや復た新秋一雁の過ぐるをや。聞道全師北虜に征き、更に言ふ詩将南河に会するを。辺心冉冉として郷人絶え、塞草青青として戦馬多し。共に許す陳琳の奏記に工なるを、知んぬ君の名宦の未だ蹉■(タ)たらざるを。【注】○孔巣父 字は弱弱。わかくして李白らと徂徠山に隠れ、酒を好んだ。○河南軍 節度使の治所は今の河南省開封市。○江城 川のほとりの町。○煙波 もやのたちこめた水面。○況 まして。○復 かさねて。○聞道 きくところによれば。○全師 全軍。○北虜 北方のえびすの地。○南河 ふつうは黄河をいうが、詩題中の河南を韻の関係で。○辺心 辺塞にいる者の気持ち。○冉冉 年月が過ぎる様子。○郷人 故郷の人。○塞草 辺塞の草。○戦馬 軍馬。○陳琳 後漢の広陵射陽の人。字は孔璋。はじめ何進の主簿となり、のちに袁紹に帰す。かつて袁紹のために檄文をつくり、曹操の罪状を数う。袁紹が敗れると曹操に帰し、曹操は其の才を愛でて、咎めず、もって記室となす。ここでは文才ある孔巣父をなぞらえる。○奏記 書記。○名宦 名声と官職。○蹉■(タ) おもうようにならないようす。【訳】孔巣父が河南節度使の軍に赴任するのを見送る。川辺の町のはずれにて君の旅立ち送らんとすれば川面にもや籠めて行く先みえぬさびしさよ、まして群れをばはぐれたる一羽の雁の空に鳴き飛び過ぐるをば見てのちは言うにいわれぬ心地する。うわさによれば全軍は北のえびすの地に向かい、詩にすぐれたる将校は河南の地にぞ会うならん。辺土に向かう心には年月すぎて郷里からたより伝える人も絶え、とりでに近い草茂り見ゆるは軍馬ばかりなり。陳琳書記にたくみにて、君の将来名も官も行きづまること未だあらじ。【参考】『全唐詩』巻二五〇 送孔巣父赴河南軍(一作劉長卿詩) 皇甫冉江城相送阻煙波、況復新秋一雁過。聞道全師征北虜、更言諸將會南河。邊心杳杳郷人絶、塞草青青戰馬多。共許陳琳工奏記、知君名宦未蹉■(タ)。
December 20, 2007
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秋夜有懷高三十五適,兼呈空上人(一作皇甫冉詩)晩節逢君趣道深、結茅栽樹近東林。吾師幾度曾摩頂、高士何年遂發心。北渚三更聞過雁、西城萬里動寒砧。不見支公與玄度、相思擁膝坐長吟。【韻字】深・林・心・砧・吟(平声、侵韻)。【訓読文】秋夜有懷高三十五適を懐ふこと有り、兼ねて空上人に呈す。(一作皇甫冉詩)晩節君に逢ひて道に趣くこと深く、結茅樹を栽うること東林に近し。吾師幾度か曾て摩頂する、高士何れの年にか遂に発心する。北渚三更に過雁を聞き、西城万里寒砧を動かす。見ず支公と玄度とを、相思膝を擁して坐ろに長吟す。【注】○高三十五適 盛唐の詩人。高適。三十五は排行。字は達夫、または仲武。諡は忠。性格は磊落。若い頃は家業を怠り、落ちぶれて食客となっていたが、玄宗の時に有道科に挙げられ、封丘尉となった。のちに官をやめて河右に行き、河西節度使の哥舒翰の幕僚となった。また侍御史となり、蜀に乱を避けた玄宗に随行し、永王の軍を討伐平定す。蜀が乱れと蜀州・彭州の刺史となり、西川節度使となった。長安に帰って刑部侍郎・散騎常侍となり、代宗の時に渤海侯に封ぜられ、没す。五十歳で詩に志し、名声を得た。著に『高常侍集』がある。○兼 同時に。○呈 差し上げる。○空上人 隠空上人。○晩節 晩年。○逢君 高適。○道 仏道。○結茅 茅屋を構える。○東林 廬山の東林寺。転じて、寺院。○吾師 空上人。○幾度 何度。○曾 かつて。○摩頂 頭をなでる。仏教では戒を授けるときに行う。○高士 高潔の人士。高適を指す。○何年 いつ。○遂 とうとう。○発心 菩提を求める心をおこす。○北渚 きたの水辺。○三更 真夜中。○過雁 渡りゆく雁の声。○西城 西の町。○万里 とおく。○寒砧 冬着の準備のために砧うつ音。○支公 晋の高僧、支遁。○玄度 晋の高士、許詢。○相思 相手のことに思いをはせる。○擁膝 膝を抱える。○長吟 長く声をひいてうなる。【訳】秋の夜に高適を思いだし、同時に空上人に差し上げた詩。晩年君と出会って仏道になじみ、お寺の近くに茅屋を構え庭に樹を植えた。吾が師は何度頭をなででくれたことやら、高潔な君はいったいいつ菩提心をおこしたのかしら。北の水辺では夜中に飛びすぎる雁の声を聞き、西の町から遠く砧打つ音がひびく。上人さまとも君とも長い間あっておらぬが、君らのことを思いつつ膝を抱えて詩をばよむ。
December 9, 2007
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登松江驛樓北望故園涙盡江樓北望歸、田園已陷百重圍。平蕪萬里無人去、落日千山空鳥飛。 孤舟漾漾寒潮小、極浦蒼蒼遠樹微。白鴎漁父徒相待、未掃■(「木」へんに「讒」のみぎ。ザン)槍懶息機。【韻字】帰・囲・飛・微・機()。【訓読文】松江駅楼北故園を望む。涙尽き江楼北のかた帰るを望み、田園已に陥る百重の囲い。平蕪万里人去ること無く、落日千山鳥飛ぶこと空し。 孤舟漾漾として寒潮小に、極浦蒼蒼として遠樹微かなり。白鴎漁父徒づらに相待ち、未だ■(ザン)槍を掃はず懶うくして機を息む。【注】○松江駅 江蘇省呉江県城の南郊。松江館。○故園 ふるさと。○江楼 川沿いの高殿。○田園 郊外。○已 もはや。○陷百重囲 敵軍に幾重にも包囲されている。○平蕪 雑草の茂った野原。○万里 はるか遠く。○落日 夕陽。○千山空鳥飛 「千山」は、多くの山々。柳宗元《江雪》「千山鳥飛絶え、万直人蹤滅す」。 ○孤舟 ぽつりと一つだけ浮かぶ舟。○漾漾 ゆらゆらとただようさま。また、水が広がるさま。○寒潮 寒々とした冬の潮。○極浦 遥か彼方の水辺。○蒼蒼 青々と茂るさま。○白鴎 カモメ。○漁父 漁師。○徒 なにも得ることもなく。○相待 (魚が捕れるのを)待つ。○■(ザン)槍 彗星。○懶 めんどうくさい。○息機 活動をやめて休む。【訳】松江の宿場のたかどのに登り故郷のある北のほうを眺めて詠んだ詩。川辺の楼に登りきて北の故郷をながむれば涙は尽くる我が目かな、町の郊外はやすでに敵の手に落ち囲まれぬ。荒れたる野辺は行く人の影も万里に絶えはてて、夕陽のしずむ山山に鳥がむなしく飛ぶばかり。 寒々とした潮の上ただよう小舟だた一つ、遠い水辺に青青と茂る木の影かすかなり。カモメと漁父は魚を待ち、未だはらわぬほうき星、なにをするにもものうくて、身をば休めんもろともに。
December 2, 2007
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過裴舍人故居 劉長卿慘慘天寒獨掩(一作閉)■(「戸」のしたに「炯」のみぎ。ケイ)、紛紛黄葉滿(一作落)空庭。孤墳何處依山木、百口無家學(一作汎)水萍。籬花猶及重陽發、鄰笛那堪落日聽。書幌無人長不捲、秋來芳草自為螢。【韻字】■(ケイ)・庭・萍・聴・蛍(平声、青韻)。【訓読文】 裴舍人の故居に過ぎる。 劉長卿慘慘として天寒く独り■(ケイ)を掩ふ(一に「閉」に作る)、紛紛として黄葉空庭に満つ(一に「落」に作る)。孤墳何れの処にか山木に依らん、百口家無くして水萍を学ぶ(一に「汎」に作る)。籬花猶ほ重陽に及びて発(ひら)く、隣笛那ぞ落日に聴くに堪へん。書幌人無くして長に捲かず、秋来たりて芳草自から蛍と為る。【注】○過 立ち寄る。○裴舍人 未詳。「舎人」は、中書舍人。○故居 旧宅。○慘慘 薄暗いようす。○天 そら。○■(ケイ) かんぬき。また、出入り口。○紛紛 乱れ散るようす。○黄葉 秋になって黄色く色づいた木々の葉。○空庭 ひとけが無くひっそりと静かな庭。○墳 土を高く盛った墓。ここでは裴舍人の墓であろう。○何処 どこ。○百口 一家全員。一族全部。○水萍 浮き草。○籬 まがき。陶淵明《飲酒》「菊を採る東籬の下、悠然として南山を見る」。○重陽 旧暦九月九日。○発 花を開く。○鄰笛 向秀《思旧賦》「隣人に笛を吹く者有り。声を発すること寥亮たり」。○那堪 どうして堪えられよう、いや、たえられない。反語。○書幌 書斎のカーテン、あるいは簾のことか。○長 長い間。○捲 まきあげる。○秋来芳草自為蛍 『礼記』《月令》「季夏の月……腐草蛍と為る」をふまえる。【訳】裴舍人の旧居に立ち寄って詠んだ詩。どんよりとした空さむく独りさびしく門をとじ、木々の葉はみな色づきて人無き庭に舞い落ちる。ぽつりとはなれた墓一つどの木のそばにあったやら、家族の者は家を捨てどこへ行ったか根無し草。まがきの菊は重陽を迎えてみごと咲いてるが、隣家の笛は夕暮れに聴くにたえないさびしさよ。書斎しずかに客もなくカーテンを巻くこともなく、秋に香りのよい草はすでに蛍となりて飛ぶ。
November 25, 2007
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送崔使君赴壽州 劉長卿列郡專城分國憂、■(「丹」のみぎに「彡」。トウ)●(「瞻」の「目」を「巾」に換えた字。セン)皀蓋古諸侯。仲華遇主年猶少、公瑾論功位已酬。草色青青迎建隼、蝉聲處處雜鳴▼「趨」の「走」を「馬」に換えた字。スウ)。千里相思如可見、淮南木葉正驚秋。【韻字】憂・侯・酬・▼(スウ)・秋(平声、尤韻)。【訓読文】崔使君の寿州に赴くを送る。列郡専城国の憂ひを分かち、■(「丹」のみぎに「彡」。トウ)●(「瞻」の「目」を「巾」に換えた字。セン)皀蓋古への諸侯。仲華主に遇ひしとき年猶ほ少く、公瑾功を論ぜしとき位已に酬はる。草色青青迎建隼を迎へ、蝉声処処鳴▼「趨」の「走」を「馬」に換えた字。スウ)を雑(まじ)ふ。千里相思ひて如(もし)見るべくんば、淮南木葉正に秋に驚く。【注】○崔使君 未詳。「使君」は、州郡の長官に対する尊称。○寿州 安徽省寿県。○列郡 各郡。○専城 地方長官。○■(トウ)●(セン) 車蓋の周囲にさげる朱色のたれぎぬ。○皀蓋 黒い車蓋。○仲華 ▲(「登」にオオザト。トウ)禹の字。後漢の南陽新野の人。年十三にして能く詩を誦す。長安に遊学し劉秀(光武帝)と親しんだ。○公瑾 周瑜の字。三国時代の廬江の舒の人。劉備と協力し赤壁に曹操軍を破り、南郡の太守に拝せられた。○青青 草木が茂るようす。○建隼 地方長官はハヤブサを画いた旗を建てる。【訳】崔使君が寿州に赴任するのを見送る。君は太守に任ぜられ国を憂いて政治とり、かつての諸侯さながらに車ととのえ赴任する。仲華は若きときすでに光武に厚遇されており、公瑾手柄たてしときすでに南郡太守たり。草青青と生い茂り迎える太守の旗のぼり、あちらこちらに蝉の声、時折いななく馬の声。千里のかなた君思い、もしも再びあえるなら、淮南の地に木の葉散り秋のおとずれ驚かん。【参考】『全唐詩』巻二五〇 送崔使君赴壽州(一作劉長卿詩) 皇甫冉列郡專城分國憂、■(トウ)●(セン)皀蓋古諸侯。仲華遇主年猶少,公瑾論兵位已酬。草色青青宜建隼,蝉聲處處雜鳴▼(スウ)。千里相思如可見,淮南木落早驚秋。
October 31, 2007
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送楊於陵歸宋■(ベン)(一無此字)州別業 劉長卿半山溪雨帶斜暉,向水殘花映客衣。旅食嗟余當歳晩、能文似汝少年稀。新河柳色千株暗,故國雲帆萬里歸。難亂要知君到處,寄書須及雁南飛。【韻字】【訓読文】 楊於陵の宋■(サンズイに「卞」。ベン)(一に此の字無し)州の別業に帰るを送る 劉長卿半山渓雨斜暉を帯び、水に向へる残花客衣に映ず。旅食嗟(ああ)余歳晩に当たり、能文汝の似(ごと)き少年稀なり。新河の柳色は千株暗く、故国雲帆万里に帰る。難乱知るを要す君の到る処、書を寄するには須らく雁の南飛に及ぶべし。【注】○楊於陵 字は達夫、弘農の人。年十九にして進士に及第。節度使韓滉に気に入られ、その娘を嫁にもらった。韓滉が大臣となったが、出世を望まず、退廬建昌に隠居した。滉の死後に膳部員外郎、中書舍人、戸部侍郎などを歴任。元和の初、嶺南節度使となり、穆宗即位後に戸部尚書に遷り、左僕射に終わった。死して司空を贈られた。○宋■(ベン)州 河南省開封市。○別業 別宅。○半山 ○渓雨 谷間に降る雨。○斜暉 夕日。○残花 色香の褪せた散り残りの花。○客衣 旅人の着物。○旅食 よその土地で暮らす。○嗟 ああ。○余 われ。○歳晩 年末。○能文 文章を上手に作る。○汝 きみ。○少年 若者。○寄書須及雁南飛 蘇武が匈奴の地から、ガンの脚に手紙を結びつけて漢に届けた故事。【訳】楊於陵が■(サンズイに「卞」。ベン)州の別宅に帰るのを見送ったときの詩。山の中ほど谷あいに雨そぼ降りて夕日差す、旅立つ君の衣には水べの花の色はえる。ああ、われ今年も歳の暮れ異郷で暮らすさびしさよ、君は文才恵まれて前途洋々若さあり。新河の柳色は千株暗く、故国雲帆万里に帰る。災難戦乱多ければ君のいる場所知らせたし、手紙を南に去る雁の脚に結びて是非よこせ。
October 27, 2007
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感懷 劉長卿秋風(一作青楓)落葉正堪悲、黄菊殘花欲待誰。水近偏逢寒氣早、山深長見日光遲。愁中卜命看周易、夢裏招魂讀楚詞。自笑不如湘浦雁、飛(一作春)來即是北歸時。【韻字】悲・誰・遅・詞・時(平声、支韻)。【訓読文】 感懐秋風(一に「青楓」に作る)落葉正に悲しぶに堪へたり、黄菊残花誰をか待たんと欲する。水近くして偏へに寒気に逢ふこと早く、山深くして長く日光を見ること遅し。愁中命を卜するに周易を看、夢裏魂を招くに楚詞を読む。自ら笑ふ湘浦の雁に如かざるを、飛(一に「春」に作る)来するは即ち是れ北帰の時。【注】○感懐 心に感じた思い。○秋風落葉堪正悲 李■(「斤」のみぎに「頁」。キ)《行路難》「秋風落葉閉重門、昨日論交竟誰是」。○黄菊残花誰をか待たんと欲する。○水 川や湖。○寒気に逢ふこと早く、山深くして長く日光を見ること遅し。○愁中 ○卜命 運命をうらなう。○周易 周代の占いを書いた書。儒教の五経の一。『易経』。○夢裏 夢のなか。○招魂 死者のたましいを招いてなぐさめ、祭る。○楚詞 楚の愛国詩人屈原とその門人の作品と、漢代の模倣作を収めた書。『楚辞』。○自笑 自嘲する。○不如A Aにおよばない。○湘浦 湘水のほとり。湘水は、湖南省を流れて瀟水と合流して洞庭湖に注ぐ川。【訳】胸中の思いを詠んだ詩。秋風吹きて木の葉散りいとも悲しき秋の暮れ、黄色に咲ける菊の花誰が見るのを待ちいるか。川の近くに住みおれば寒気も早くおとずれて、山深ければ出ずる陽の昇り来たるもいと遅し。愁い抱きて『易経』を開いて我が身うらないて周易を看、夢のうちには『楚辞』を読み、亡き人の霊なぐさめる。南のかたへ飛び来たる湘浦の雁に背を向けて北へと向かうこの身をば自ら笑う切なさよ。【参考】 辰陽即事(一作劉長卿詩,題云感懷。) 張謂青楓落葉正堪悲、黄菊殘花欲待誰。水近偏逢寒氣早、山深常見日光遲。愁中卜命看周易、病裏招魂讀楚詞。自恨不知湘浦雁、春來即是北歸時。
October 23, 2007
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■(「員」にオオザト。イン)上送韋司士歸上都舊業(司士即■公之孫,頃客於■上) 劉長卿前朝舊業想遺塵、今日他郷獨爾身。■(イン)地國除為過客、杜陵家在有何人。蒼苔白露生三徑、古木寒蝉滿四鄰。西去茫茫問歸路、關河漸近涙盈巾(一作此去茫茫盡秋草、離心萬里逐征輪)。【韻字】塵・身・人・隣・巾(平声、真韻)。【訓読文】■(「員」にオオザト。イン)上にて韋司士の上都の旧業に帰るを送る。(司士は即ち■公の孫にして、頃(このごろ)■上に客たり)前朝の旧業遺塵を想ひ、今日他郷独り爾の身。■(イン)地国除せられて過客と為り、杜陵家在るもの何人か有らん。蒼苔白露三径に生じ、古木寒蝉四隣に満つ。西去茫茫帰路を問へば、関河漸く近くして涙巾に盈つ(一に「此去茫茫尽秋草、離心万里逐征輪」に作る)。【注】■(「員」にオオザト。イン)上 随州■水のほとり。○韋司士 未詳。「司士」は、州・郡の補佐官。○上都○旧業○■公 韋安石。武后・中宗・睿宗の世に、相として仕え、■国侯に封ぜられた。○頃 このごろ。ちかごろ。○前朝 前の皇帝の御代。○旧業 古い屋敷。○遺塵 遺跡。○今日 現在。○他郷 先祖の地をはなれた異郷。○国除 封爵を削除される。○過客 旅人。故郷を離れた人。○杜陵 漢の県の名。陝西省西安市の東南。漢の宣帝の陵墓がある。○蒼苔 アオゴケ。○白露 秋に生じるしらつゆ。○三径 庭の三つの小道。漢の蒋▼(「言」のみぎに「羽」。ク)は、庭に三本の小道をつくり、松菊竹を植えた。○古木 老木。○寒蝉 ヒグラシ。○四隣 四方。あたり。○西去 西に向かう。○茫茫 はてしないようす。○関河 国境の川。○漸 だんだん。○巾 手ぬぐい。【訳】■(イン)水のほとりで韋司士が長安の旧宅に帰るのを見送る。(司士は即ち■公の孫で最近、故郷を離れて■水のほとりに来ていた)君が先祖は前の御代、長安の地にぞ住みたもう、現在君はただ独り他郷に暮らすさびしさよ。■(イン)の土地をば後にして旅をする身となりにけり、杜陵の土地に家の在るもの何人もあるまいぞ。屋敷の道にコケはむし、草の葉に置く露多し、年古りた木に蝉は鳴き四方にひびく秋はきぬ。はるかに西を目指しゆくその帰路君に問うたれば、国境の川近づきて手ぬぐいぬらす涙かな。
October 14, 2007
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喜朱拾遺承恩拜命赴任上都 劉長卿詔書徴拜脱荷裳、身去東山閉草堂。■(「門」のなかに「昌」。ショウ)闔九天通奏(一作楚)籍、華亭一鶴在朝行。滄洲離別風煙遠、青瑣幽深漏刻長。今日卻迴垂釣處、海鴎相見已高翔。【韻字】裳・堂・行・長・翔(平声、陽韻)。【訓読文】朱拾遺の恩を承けて命を拝し上都に赴任するを喜ぶ。詔書徴拝せられて荷裳を脱ぎ、身は東山を去つて草堂を閉づ。■(「門」のなかに「昌」。ショウ)闔九天奏(一作楚)籍を通じ、華亭の一鶴朝行に在り。滄洲離別風煙遠く、青瑣幽深漏刻長し。今日卻つて釣を垂れし処を迴れば、海鴎相見て已に高く翔ぶ。【注】○朱拾遺 朱放。「拾遺」は、天子をいさめる官。○拝命 官職に任ぜられる。○上都 長安。○詔書 みことのりを記した文書。○徴拝 呼び出して官職につける。○荷裳 隠者の服。○東山 浙江省上虞県の西南に在り。晋の謝安が隠れた所。○草堂 草葺きの家。○■(「門」のなかに「昌」。ショウ)闔 天上界の門。ここでは、宮門。○九天 皇居。宮中。皇城の門は九重であるからいう。○奏籍 宮門の通行証。○華亭 今の江蘇省松江県の西の平原村。晋の陸機は華亭の人なり。害に遇ったとき嘆じて曰く、「華亭鶴唳、豈復た聞くべけんや」と。 華亭の一鶴は、隠者のたとえ。○朝行 朝廷の列。○滄洲 いなかの水辺。○離別 わかれ。○風煙 風に舞う塵。○青瑣 青い図柄で彫刻した宮門。○幽深 奥深い。○漏刻 水時計。○卻 あべこべに。○迴 めぐる。○海鴎相見已高翔 カモメが私を見て高く飛んで逃げる。カモメといつも戯れていた若者が、その父親から「わたしがカモメをペットにするから捕まえてこい」と言われて海に出かけたところ、カモメが寄りつかなかったという『列子』に見える話にもとづく。【訳】朱拾遺が天子のご恩を承けて官職に任ぜられ、長安に赴任するのを嬉しく思って詠んだ詩。詔書届いて官職をたまわることと相成りて隠者の服を脱ぎ捨てて、草堂閉じて山を去る。通行証を宮門の門番に見せ宮に入り、かつての隠者は朝廷の行列にその雄姿在り。いなかの水辺あとにして自然の景色に遠ざかり、青く塗りたる宮門の奥に時告ぐ水時計。今日あべこべに釣糸を垂れた所にきてみれば、海の鴎は君を見て空高く翔び逃げるだろ。
October 3, 2007
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三月三日李明府後亭泛舟(一作皇甫冉詩) 劉長卿江南風景復如何、聞道新亭更欲過。處處▼(「糸」のみぎに「刃」。ジン)蘭春浦■(「碌」の「石」を「シ」に換えた字。ロク)、萋萋籍草遠山多。壺觴須就陶彭澤、時俗猶傳晉永和。更待持橈徐轉去、微風落日水増波。【韻字】何・過・多・和・波(平声、歌韻)。【訓読文】三月三日李明府の後亭に舟を泛ぶ。(一に「皇甫冉詩」に作る) 劉長卿江南風景復(また)如何(いかん)、聞道(きくならく)新亭更に過ぎらんと欲すると。処処蘭を▼(つづ)り春浦■(きよ)く、萋萋草を籍(ふ)んで遠山多し。壺觴須らく就くべし陶彭沢、時俗猶ほ伝ふ晋の永和。更に待つ橈を持ちて徐ろに転じ去り、微風落日水波を増すを。【注】○三月三日 上巳。みそぎをして不祥をはらう習慣があった。○李明府 「明府」は、県令。○泛 浮かべる。○江南 長江下流の南方。○風景 けしき。ながめ。○如何 いかん。どうであろうか。○聞道 きくならく。聞くところによれば。○新亭 新築のあずまや。○過 立ち寄る。○処処 あちらこちら。○▼(「糸」のみぎに「刃」。ジン) つづる。○春浦 春の水辺。○■(「緑」の「糸」をサンズイに換えた字。ロク) 清らか。○萋萋 草が生い茂るようす。○籍 「藉」と通用。踏む。○壺觴 酒つぼと杯。陶淵明《帰去来辞》「壺觴を引きて以て自ら酌む」。○陶彭沢 陶淵明。彭沢の令をつとめた。○時俗 世人。俗世間。○晋永和 東晋の穆帝の年号(三四五……三五七年)。永和九年三月三日、王羲之が四十一人の名士を蘭亭(浙江省紹興市の西南)に招き、おのおのに詩を作らせた。その序が蘭亭集序。○橈 舟を進めるかい。○徐 ゆっくりと。○転 向きを変える。○微風 そよ風。○落日 夕日。【訳】三月三日に県令李氏の屋敷の後方の亭のところで舟を泛べて遊んだ時の詩。江南風景いかならん、新たに築きし亭にまた立ち寄らんとするとかや。春の水辺のあちこちに蘭草とりて花輪なし、生い茂る草ふみしだきあなたの山を眺めやる。陶淵明を気取りつつ壺の酒をば汲みながら、世人の評判いまもなお蘭亭の遊びもてはやす。そよ風吹いて日が沈み川の波立ち水の増すその頃待ちて櫂をとり舟めぐらしていざ去らん。第2筆 三月三日義與李明府後亭泛舟(一作劉長卿詩) 皇甫冉江南煙景復如何,聞道新亭更可過。處處藝蘭春浦緑,萋萋藉草遠山多。壺觴須就陶彭澤,時(一作風)俗猶傳晉永和。更使輕橈徐轉去,微風落日水増波。[頁]卷,冊....[2795]249,8
September 27, 2007
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賦得(一作皇甫冉詩、題作春思) 劉長卿鶯啼燕語報新年、馬邑龍堆路幾千。家住層城臨漢苑、心隨明月到胡天。機中錦字論長恨、樓上花枝笑獨眠。為問元戎竇車騎、何時返旆勒燕然。【韻字】年・千・天・眠・然(平声、先韻)。【訓読文】賦し得たり。(一に「皇甫冉詩」に作り、題は「春思」に作る)鴬啼燕語新年を報じ、馬邑龍堆路幾千。家は層城に住んで漢苑に臨み、心は明月に随つて胡天に到る。機中の錦字長恨を論じ、楼上の花枝独り眠るを笑ふ。為に問へ元戎竇車騎、何れの時にか旆を返し燕然に勒せん。【注】○馬邑 山西省朔県。○龍堆 砂漠の名。○層城 宮城。○錦字 前秦の秦州の刺史竇滔が流沙に左遷された時、妻の蘇氏が錦を織り廻文に思いをつづって届けた。○元戎 総指揮官。○竇車騎 後漢の竇憲。大いに匈奴を破り、燕然山に登り、石に刻み功を紀して還り、大将軍に拝せられた。(紀元?……九二年)。「車騎」は、将軍の名。○燕然 モンゴルの杭愛山。後漢の永元元年に竇憲が北単于を破り、ここに登って戦功を記録した。【訳】ふと、できあがった詩。鴬燕きたり鳴き新たな年を報じたり、野越え山越え幾千里。家は宮城ほどちかく漢の御苑のそばにあり、月を眺めて思いやる夫のいます胡の土地を。はたを織りつつ織り込むは夫にあてるこの思い、たかどの近く咲く花はさびしき独り寝わらうよう。わたしの代わりにきいとくれ、夫の上司の将軍に、いつになったら勝利して夫かえしてくれるやら。【参考】『全唐詩』 春思(一作劉長卿詩) 皇甫冉鶯啼燕語報新年、馬邑龍堆路幾千。家住秦城鄰漢苑、心隨明月到胡天。機中錦字論長恨、樓上花枝笑獨眠。為問元戎竇車騎、何時反旆勒燕然。
September 25, 2007
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西陵寄一上人 劉長卿東山訪道成開(一作開成)士、南渡隋陽作本師。了義惠心能善誘、呉風越俗罷淫祠。室中時見天人命、物外長懸海嶽期。多謝清言異玄度、懸河高論有誰持。【韻字】師・祠・期・持(平声、支韻)。【訓読文】西陵にて一上人に寄す。東山道を訪ふ成開(一に「開成」に作る)の士、南渡陽(みなみ)に隋つて本師と作す。恵心を了義して能く善誘し、呉風越俗淫祠を罷む。室中時に見る天人の命、物外長く懸く海嶽の期。多謝す清言の玄度に異なるを、懸河高論誰か持するもの有らんや。【注】宝応元年(七六二)、西陵に旅しての作。○西陵 西陵湖。浙江省蕭山県の西三十里に在り。○一上人 唐の詩僧、霊一上人。○東山 雲門山。紹興の南に在り。かつて霊一が住んでいた。○開士 開悟の士。高僧。○隋 「随」と通用。○本師 もと釈迦のこと。転じて宗派の祖師。○了義 仏法の第一義を了解する。○恵心 善い心。○善誘 衆生を善い方へ導く。○呉風越俗罷淫祠 呉越の地に邪宗が多かったので、狄仁傑がその祠を破壊し仏教に帰依させたという。『旧唐書』《狄仁傑伝》「呉・楚の俗に淫祠多し。仁傑奏して一千七百所を毀つ」。○室中時見天人命 『維摩詰経』「時に、維摩詰の室に一の天女有り、諸天人の説法する所を聞くを見て、便ち其の身を現ず」。○物外 俗界を離れた清浄の世界。○海嶽 四海五嶽。○清言 俗を離れた清らかな談話。○玄度 東晋の許詢。○懸河高論 高遠な議論が長く尽きないことをいう。○持 肩を並べる。【訳】西陵湖畔にて霊一上人に寄せる詩。東山の寺に向かいて道学び悟り開いた上人よ、南の渡し場舟に乗り南を目指して御仏の道に仕えた陽(みなみ)に隋つて本師と作す。清き心で衆生をば善き方向へ導きて、呉越の民も教化され邪教祭るをやめたとか。講堂にては仏法を天に代わって説きたまい、世俗はなれて海山の清らかな地に行脚する。ああ、ありがたや東晋の玄度にまさるご法話じゃ、立て板に水とうとうと匹敵するもの誰も無し。
September 23, 2007
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送李將軍(一作送開府姪隨故李使君旅襯卻赴上都) 劉長卿征西諸將一(一作莫)如君、報徳誰能不顧勳。身逐塞鴻來萬里、手披荒(一作江)草看孤墳。擒生絶漠經(一作臨)胡雪、懷舊長沙哭楚雲。歸去蕭條■(サンズイのみぎに「霸」。ハ)陵上、幾人看葬李將軍。【韻字】君・動・墳・雲・軍(平声、文韻)。【訓読文】李将軍を送る(一に「送李将軍を送る(一に「送開府姪隨故李使君旅▼(「木」のみぎに「親」。シン)卻赴上都」に作る) 劉長卿征西諸将一に(一に「莫」に作る)君のごとく、徳に報いるに誰か能く勲を顧みざらん。身は塞鴻を逐つて万里に来たり、手は荒(一に「江」に作る)草を披きて孤墳を看る。擒生絶漠胡雪を経(一に「臨」に作る)、長沙を懐旧して楚雲に哭す。帰去す蕭条たる■(ハ)陵の上、幾人か李将軍を葬るを看ん。【注】○李将軍 漢の李広。ここでは李使君を指す。○開府姪 唐百家詩本によれば、劉豊。「開府」は、開府儀同三司の略称。三公の儀制に同じという意。元勲者を優待しってたまわった常務のない高官。○使君 刺史。州郡の長官の敬称。○旅▼(シン) 旅先で没した人の遺体をいれる柩。○卻 あべこべに。○上都 長安。○征西 西方の吐蕃を征討する。○一 もっぱら。○報徳 めぐみや徳にむくいる。○塞鴻 辺地のガン。○万里 きわめて遠いところ。○披草 雑草などをはらいのける。○孤墳 ぽつんと一つだけある墳墓。○擒生 生け捕りにする。捕虜にする。○絶漠 極めて遠い砂漠。○胡雪 北方のえびすの地に降る雪。○懐旧 昔をなつかしく思い出してしのぶ。○長沙 湖南省長沙市。○楚雲 楚の地方にかかる雲。○帰去 帰りゆく。○蕭条 ひっそりとして、ものさびしいようす。○■(ハ)陵 陝西省西安市の東。李広が猟から霸陵亭に帰った時、霸陵の尉が酔っぱらっていて、李広を叱って引き留めた。【注】
September 18, 2007
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送宇文遷明府赴洪州張觀察追攝豐城令(時長卿亦在此州) 劉長卿送君不復遠為心、余亦扁舟湘水陰。路逐山光何處盡、春隨草色向南深。陳蕃待客應懸榻、■(「宀」の下に「必」。フク)賤之官獨抱琴。儻見主人論謫宦、爾來空有白頭吟。【韻字】心・陰・深・琴・吟(平声、侵韻)。【訓読文】宇文遷明府の洪州に赴き、張観察の追つて豊城の令を摂るを送る(時に長卿も亦た此の州に在り) 劉長卿君を送るに復た遠きは心の為ならず、余も亦扁舟湘水の陰(みなみ)。路山光に逐(したが)つて何れの処にか尽きん、春草色に随つて南に向かつて深し。陳蕃客を待つに応に榻を懸くべし、■(フク)賎官に之きて独り琴を抱く。儻(もし)主人の謫宦を論ずるを見なば、爾來空しく有らん白頭の吟。【注】○宇文遷明府 未詳。「明府」は、唐代の県令の称。○洪州 むかしの治所は今の江西省南昌市。○張観察 張休。洪州刺史の時、江西観察使を兼任していた。「観察」は、観察使。中国で地方政治を総理する官吏。○此州 越州。○扁舟 小さい舟。○湘水 湖南省を流れ瀟水と合流して洞庭湖にはいる。○陳蕃待客応懸榻 後漢の陳蕃は、郡に在りて賓客を接待しなかったが、徐稚がやってきた時だけは榻を設け、彼が去ると榻を懸けてしまったという。○■(フク)賎 ■(フク)賎は単父を治めたとき、琴を弾き、自身は官舎から出ずに、単父が治まったという。すぐれた県令のたとえ。○儻 たちまち。にわかに。○主人 道中に泊まる宿屋の主人。○謫宦 官吏がとがめを受けて官位をおとされ、または遠方の辺地へ流される。○爾來 そのとき以来。○白頭吟 司馬相如は茂陵の人の娘を妾にしようとした時、妻の卓文君が白頭吟を作り自害したので、妾を迎えるのをやめた。ここでは老年になって朝廷から見捨てられた不満をいう。【訳】宇文遷明府が洪州に赴任し、張観察使が続いて豊城の令として赴任するのを見送る詩。(時に長卿も亦た此の州に在任していた)君を見送り別れても、心離れるわけじゃなし、われも小舟で湘水の南にうかぶ寂しさよ。山の景色にしたがって路はどこまで続くやら、草の色とて南に行くにつれ濃くなりゆくぞ。陳蕃客をあしらうに良き友あつくもてなさん、かの■(フク)子賎役所にて琴弾き地方よく治む。宿の主人もたちまちに左遷をあれこれと言ったれば、その時以来口ずさむ恨含んだ白頭吟。
September 16, 2007
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送常十九歸嵩少故林 劉長卿迢迢此恨杳無涯、楚澤嵩丘千里■(「貝」のみぎに「余」。シャ)。岐路別時驚一葉、雲林歸處憶三花。秋天蒼翠寒飛雁、古▼(「諜」の「言」を「土」に換えた字。)蕭條晩噪鴉。他日山中逢勝事、桃源洞裏幾人家。【韻字】涯・■(シャ)・花・鴉・家(平声、麻韻)。【訓読文】常十九の嵩少の故林に帰るを送る。 迢迢たう此の恨み杳として涯無く、楚沢嵩丘千里■(はるか)かなり。岐路別るる時一葉に驚き、雲林帰る処三花を憶ふ。秋天蒼翠として飛雁寒く、古▼(「諜」の「言」を「土」に換えた字。)蕭条として噪鴉晩し。他日山中勝事に逢はば、桃源洞裏幾人の家。【注】
September 4, 2007
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送馬秀才落第歸江南 劉長卿南客懷歸郷夢頻、東門悵別柳條新。慇勤斗酒城陰暮、蕩漾孤舟楚水春。湘竹舊斑思帝子、江離初緑怨騷人。憐君此去未得意、陌上愁看涙滿巾。【韻字】頻・新・春・人・巾(平声、真韻)。【訓読文】送馬秀才の落第して江南に帰るを送る。南客帰るを懐ひて郷夢頻りに、東門別るるを悵(いた)みて柳条新なり。慇勤たり斗酒城陰の暮べ、蕩漾たり孤舟楚水春。湘竹旧斑帝子を思ひ、江離初めて緑にして騷人を怨む。憐ぶ君の此より去りて未だ意を得ざるを、陌上愁ひて看る涙巾に満つるを。【注】天宝年間、長安における作。○馬秀才 「秀才」は、科挙の受験有資格者。○落第 試験に合格しない。○江南 長江下流の南方。○南客 南方から旅人。○悵 残念がる。○柳条 柳の枝。○慇勤 心をこめるようす。○斗酒 いくらかの酒。○城陰 町の北。○蕩漾 漂う様子。○孤舟 ただ一隻の小舟。○湘竹 庭竹の一種。舜の死を悲しんだ湘妃(娥皇・女英)の涙が竹にそそぎ、斑点ができたという。○帝子 伝説上の皇帝、舜に嫁いだ尭の二人のむすめ娥皇・女英。○江離 香草の名。『楚辞』《離騒》に見える。○騷人 屈原。また、詩人。ここでは失意の文人馬秀才を指す。○得意 思い通りになる。○陌上 大通りのそば。愁ひて看る涙巾に満つるを【訳】馬秀才が落第して江南に帰るのを見送る。南方から来た君はいま故郷に思いを馳せるらん、町の東門この別れ嘆く柳の枝の陰。町の北にて送別の酒ねんごろに杯につぎ、波にゆられる小舟にぞ身を載せ楚水の春に浮く。竹の斑点みるにつけ娥皇・女英を思い出し、緑の江離みるたびに屈原の無念身にしみる。ああ君こころ残りにて此の地を去るはつらかろう、道のほとりに涙をばぬぐうハンカチあわれなり。
September 3, 2007
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送孫逸人歸廬山(得帆字) 劉長卿鑪峰絶頂楚雲寒、楚客東歸棲此(一作北)巖。彭蠡湖邊香橘柚、潯陽郭外暗楓杉。青山不斷三湘道、飛鳥空隨萬里帆。常愛此中多勝事、新詩他日佇開緘。【韻字】巌・杉・帆・緘(平声、咸韻)【訓読文】孫逸の廬山に帰るを送る。鑪峰の絶頂楚雲寒く、楚客東帰して此の(一に「北」に作る)巌に棲む。彭蠡湖辺香橘柚香んばしく、潯陽郭外楓杉暗し。青山も断たず三湘の道、飛鳥空しく随ふ万里の帆。常に愛づ此の中勝事多きを、新詩他日緘を開くを佇(ま)たん。【注】大暦八(七七三)年ごろ、鄂州における作。○孫逸人 未詳。「逸人」は、隠者。官に仕えず、隠居している人。○廬山 江西省九江市の山。○鑪峰 廬山の香炉峰。○絶頂 山頂。○楚雲 楚の地方にかかる雲。○楚客 楚の地方からきた旅人。○東帰 東の方へと帰って行く。して此の(一に「北」に作る)巌に棲む。○彭蠡湖 江州潯陽県(いまの江西省に属する)の東南五十二里にある湖。■(「番」にオオザト。ハ)陽湖。○橘柚 みかんやゆず。○潯陽 唐の県の名。江西省九江市。○郭外 町のそと。○楓杉 カエデとスギ。○青山も断たず○三湘 湖南省の湘潭、湘郷、湘陰。○万里 遠い距離。○此中 ここでは楚への道中にある瀟湘あたり。○勝事 すぐれた景色。○新詩 あらたに詠んだ詩。○他日 いつか。○佇 待ち望む。○緘 封。【訳】孫逸が廬山に帰るのを見送る詩。かの香鑪峰の頂きに楚雲かかりて寒ざむし、東へ帰る旅人は廬山の巌に棲むという。彭蠡湖のあるあたりにはミカンやユズが香ぐわしく、潯陽の町のはずれにはカエデとスギの陰暗し。青山とても三湘へ続く道をば隠さずに、飛ぶ鳥だけが君の乗る船を空しく追いかける。君は廬山へ向かう途次、美景を多く見てゆかん、我たのしみに君の詩を寄せたる封を開く待つ。
September 2, 2007
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温湯客舍 劉長卿冬狩温泉歳欲闌、宮城佳氣晩宜看。湯熏仗裏千旗暖、雪照山邊萬井寒。君門獻賦誰相達、客舍無錢輒自安。且喜禮■(「門」のなかに「韋」。イ)秦鏡在、還(一作盡)將妍醜付(一作赴)春官。【韻字】闌・看・寒・安(平声、寒韻)。【訓読文】温湯の客舍冬狩温泉歳闌(ふ)けんと欲し、宮城の佳気晩看るに宜し。湯仗裏に熏じて千旗暖かに、雪山辺を照らして万井寒し。君門賦を献ずるに誰か相達せん、客舍銭無くして輒(すなはち)自から安んず。且(しばらく)喜ぶ礼■(「門」のなかに「韋」。イ)に秦鏡在り、還つて(一に「尽」に作る)妍醜を将(も)つて春官に付するを(一に「赴」に作る)。【注】天宝四(七四五)年冬、驪山における作。○温湯 温泉。七二三年、驪山に温泉宮が置かれた。天宝六年、華清宮と改めた。○客舍 旅館。宿屋。○冬狩 君主が冬季に行う猟。○闌 終わりに近づく。○宮城 天子のおられる宮殿。○佳気 めでたい気。○熏 ふすべる。煙を立たせる。○仗 天子や宮殿の護衛。○万井 広い地域。あたり一帯。○献賦 賦を献上する。司馬相如は賦を献上しつづけていたが、長年の間、評価されなかった。○相 対象があることを示す。○達 届ける。○輒 いつでも。○且 とりあえず。喜○礼■(イ) 礼部。尚書省に属する六部の一。ここで科挙が行われた。○秦鏡 秦の咸陽宮に在った鏡で、人の善悪美醜を映したという。○妍醜 美醜。ここでは科挙に課せられる賦の出来栄えの善し悪しをいうのであろう。○春官 礼部の異名。【訳】温泉宮のそばの宿屋にて詠んだ詩。天子は冬に狩りをして温泉地にぞ歳暮るる、温泉宮のめでたき気、夕暮れことに美しき。衛兵武器を捧げ持ち、湯気の向こうに建てる旗、山のあたりは雪景色、肌に感ずる寒さかな。天子に賦をば献ぜんと思えど誰が届けよう、金も無ければのんびりと宿に落ち着き外も出ず。まあとりあえず嬉しきは礼部の審査曇り無く、そのできばえの善し悪しに応じた役目を配するを。
September 1, 2007
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獄中聞收東京有赦 劉長卿傳聞闕下降絲綸、為報關東滅虜塵。壯志已憐成白首、餘生猶待發青春。風霜何事偏傷物、天地無情亦愛人。持法不須張密網、恩波自解惜枯鱗。【韻字】綸・塵・春・人・鱗(平声、真韻)。【訓読文】獄中にて東京を収めて赦有るを聞く。伝へ聞く闕下に糸綸を降(くだ)し、為に報ず関東虜塵を滅ぼすを。壮志已に憐れぶ白首と成るを、余生猶ほ待たん青春を発するを。風霜何事ぞ偏へに物を傷つくる、天地無情なれども亦た人を愛さん。法を持(たも)つには須ゐず密網を張るを、恩波自から解(よ)く枯鱗を惜しむ。【注】乾元元年(七五八)三月、長洲の獄中における作。○獄中 牢獄のなか。○東京 洛陽。至徳二年(七五七)十月に官軍が洛陽を回復した。○赦 恩赦。○闕下 宮中。朝廷。○糸綸 天子のみことのり。○関東 函谷関より東。○虜塵 反乱軍。○壮志 雄々しく勇ましい志気。○白首 白髪頭。○余生 残りの人生。○青春 春の草木が青々と茂るさま。○風霜 風としも。艱難辛苦のたとえ。ここでは厳刑を指す。○何事 どういうわけで。○天地無情 冤罪をこうむったことをいう。○持法 法律を維持する。○不須A Aする必要がない。○密網 目の細かい網。○恩波 天子の恵み。○枯鱗 干もの。干し魚。『荘子』《外物》「周昨来たるに、中道にして呼ぶ者有り。周顧て車轍を視るに、中に鮒魚有り。……曰く、我は東海の波臣なり。君豈斗升の水有りて我を活かさんや、と。周曰く、諾、我且に南のかた呉越の王に游ばんとす。西江の水を激して子を迎えん、可なりや、と。鮒魚忿然として色を作して曰く、吾我が常を失はんか、我処る所無し。我斗升の水を得ば然らば生きんのみ。君乃ち此れを言ふ、曾ち早く我を枯魚の肆に索めんには如かじ、と」。【訳】獄中で官軍が洛陽を回復したので恩赦が有ると聞いて詠んだ詩。話によれば官軍は反乱軍を滅ぼして、洛陽すでに取り戻し、天子は出だすみことのり。強い志気をば持ちたれど残念なのは老いた身よ、残りの人生いつかまた一花咲かせてみたきもの。なにゆえかかる厳罰をこうむる身とは成りしにや、冤罪受くる世の無情それでも我は人愛す。法の維持には細目にこだわるべきにはあらずとて、天子のご恩おのずからこの老いぼれを救いたもう。
August 30, 2007
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送台州李使君兼寄題國清寺 劉長卿露冕新承明主恩、山城別是武陵源。花間五馬時行縣、山外千峰常在門。晴江洲渚帶春草、古寺杉松深暮猿。知到應真飛錫處、因君一想已忘言。【韻字】恩・源・門・猿・言(平声、元韻)。【訓読文】台州李使君を送り兼ねて国清寺に寄題す。露冕新たに承く明主の恩、山城別れは是れ武陵源。花間五馬時に県を行き、山外千峰常に門に在り。晴江洲渚春の草を帯び、古寺杉松暮猿深し。知んぬ応真飛錫の処に到るを、君が一想に因つて已に言を忘る。【注】○台州 唐の江南道に属す。今の浙江省臨海県。○李使君 李嘉祐。上元二年に台州刺史に任ぜられた。○寄題 離れた地に関する詩を作る。○国清寺 台州天台山麓の寺。もと天台山寺といった。○露冕 後漢の郭賀が荊州の刺史となり、善政を行い、民衆から慕われていたので、、明帝が巡狩したさい三公の服を賜り、着物と冠を脱がせ、その徳をたたえた。○明主 聡明な君主。○武陵源 秦代に乱世を避けた人たちが隠れ住んだ別天地。桃源郷。○五馬 太守の乗る五頭立ての馬車。○行県 州郡属県を巡視する。○晴江 水面が晴れて遠くまで見える川。○洲渚 なぎさ。○応真 よく真の道に到るところから、羅漢。○飛錫 僧が行脚すること。○忘言 もはや言うべきこともない。『荘子』《外物》「言は意を在らしむる所以なり、意を得て而して言を忘る」。【訳】台州に刺史として赴任する李嘉祐を見送り、同時に国清寺を詩に詠んで贈る。政治手腕をみとめられ君は天子の恩を受く、君と別れる山の町、憂き世はなれた桃源郷。君が任地に着いたなら花さく中を馬車に乗り県内くまなく見回らん、山のむこうの千々の峰常に門前近く見ゆ。晴れたる川の渚には春の草みな萌え出でて、古びた寺は杉や松茂れる中に聳え立ち、夕暮近く悲しげに山の深くに猿さけぶ。いまぞ知りぬる仏弟子の羅漢が行脚せし所、それこそ君の到らん地、一念すでに成就してもはや言うべきことも無し。
August 24, 2007
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罪所上御史惟則 劉長卿誤因微禄滯南昌、幽繋圓扉晝夜長。黄鶴翅垂同燕雀、青松心在任風霜。斗間誰與看冤氣、盆下無由見太陽。賢達不能同感激、更於(一作令)何處問蒼蒼。【韻字】昌・長・霜・陽・蒼(平声、陽韻)。【訓読文】罪所御史惟則に上(たてまつ)る。誤つて微禄に因つて南昌に滞り、幽繋円扉昼夜長し。黄鶴翅垂るること燕雀と同じ、青松心在りて風霜に任せたり。斗間誰か与(とも)に冤気を看ん、盆下太陽を見るに由無し。賢達も感激を同じくすること能はず、更に何れの処に於いてか(一に「令」に作る)蒼蒼を問はん。【注】○罪所 罪を得て流された場所。○上 差し上げる。呈上する。○御史惟則 史惟則。字は天問、名は浩。呉の人。殿中侍御史などをつとめた。○微禄 わずかばかりの俸禄。○南昌 江西省南昌市。○幽繋 拘禁される。囚われの身となる。○円扉 牢獄。○昼夜 ひるもよるも。○黄鶴 立派な人物のたとえ。○燕雀 つまらぬ人間のたとえ。○風霜 厳しい周囲の状況のたとえ。范雲《詠寒松》詩「風を凌ぎて勁節を知り、霜を負ひて直心を見る」。○斗間 斗は星座の名。牢獄の地下深くから発見された宝剣の話に出てくる。『晋書』《張華伝》「初め、呉の未だ滅びざるや、斗牛の間に常に紫気有り、呉平らぎての後、紫気いよいよ明らかなり。華、予章の人雷煥の緯象に妙達せるを聞き、即ち煥を補して豊城の令と為す。煥県に到り、獄屋の基を掘るに、地に入ること丈余、一石函を得たり、光気常に非ず、中に双剣有り、並びに題を刻せり、一に曰く龍泉、一に曰く太阿と。其の夕べ斗牛の間、気復た見ず」。○冤気○盆下 頭上に盆をかざした状態。上が見えないたとえ。司馬遷《報任安書》「僕以為盆を戴きて何を以てか天を望まん」。○無由A Aする手だてが無い。 ○賢達 才徳、声望ある人。○不能A Aすることができない。 ○感激 感動。○蒼蒼 青天。くもりのない空。罪の晴れた状態のたとえ。【訳】罪所において御史の史惟則に呈上した詩。わずかな俸給受けながら罪で南昌に流されて、囚われの身の悲しさは獄中昼も夜も長し。すぐれた人格もちながらくだらぬやからと共にいて、高き節操ある松は風と霜とにさらされる。斗宿牛宿その間、冤罪の気を誰が知ろう、盆を頭上にかざしたら太陽を見るすべは無し。りっぱな人もこの我に同情よせることもなく、このうえさらにいずこにぞ晴れた青空求むべき。
August 22, 2007
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避地江東留別淮南使院諸公 劉長卿長安路絶鳥飛通、萬里孤雲西復東。舊業已應成茂草、餘生只是任飄蓬。何辭向(一作故)物開秦鏡、卻使他人得楚弓。此去行持一竿竹、等閑將狎釣漁翁。【韻字】通・東・蓬・弓・翁(平声、東韻)。【訓読文】地を江東に避けんとして淮南使院の諸公に留別す。長安路絶えて鳥のみ飛通し、万里孤雲西して復(また)東す。旧業已に応に茂草を成すべく、余生只だ是れ飄蓬に任せたり。何ぞ辞せん物に向つて(一に「故」に作る)秦鏡を開き、卻つて他人をして楚弓を得さしむるを。此を去るに行きて持せん一竿の竹、等閑将に狎れんとす釣漁翁。【注】○避地 戦乱などを避けて安全な土地に転居する。○江東 揚子江下流地域。○留別 旅立つ者が残る者に詩を留めて別れの気持ちを述べる。○淮南 淮水以南の地。ほぼ江蘇・安徽省の長江以北と淮河以南の地。○使院 節度使留後の役所。○諸公 方がた。○長安 唐の都。いまの西安市の西北。○万里 非常に遠い距離。○孤雲 はぐれ雲。○旧業 昔すんでいた別荘。ふつうは、「古くから積み立てた財産」とか、「昔からの事業」とかいう意味だが、あとに続く「成茂草」と合わないので、ひとまず「業」を「別業」の意に解しておく。○余生 残りの人生。○飄蓬 風に吹き飛ばされて転がるシナヨモギ。おちぶれて各地をさすらうたとえ。○秦鏡 秦の宮殿にあった鏡。人の病気の場所や、邪心を映し出したという。○他人得楚弓 春秋時代の楚の共王が猟に出た時、宝弓をなくした。周りの家来が探そうとしたが、王は「楚の人間がなくし、楚の人間が見つけるだろうから、どうして探す必要があろう」と言ってとめたという。のちに、損失が外部に利益をもたらさないたとえ。○一竿竹 釣り竿一本。○等閑 成り行きにまかせる。○狎 なれる。【訳】戦乱を避けて江東に移住しようとして淮南の役所の諸君に別れの気持ちを詠んで贈る詩。長安までの路絶えて、ただ鳥のみが飛び通う、万里のかなたはぐれ雲西かとおもえばまた東。旧宅すでに草茂り、余生はまるで風に転々とあちこちころがる蓬かな。秦の鏡の箱を開け諸君に見せん我が心、主君を思う忠示し諸君の心を鼓舞せんか。この地を去るにあたっては釣り竿忘れず持ちゆかん、あとは成り行きまかせにて魚釣る翁に親しまん。
August 20, 2007
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別(一作送)嚴士元(一作送嚴員外、一作呉中贈別嚴士元、一作送郎士元、一作李嘉詩) 劉長卿春風倚棹闔閭城、水國春(一作猶)寒陰復晴(一作水閣天寒暗復晴、又作水國春深陰復晴)。細雨濕衣看(一作人)不見、閑花落地聽無聲。日斜江上孤帆影、草緑湖南萬里情(一作程)。東道(一作君去)若逢相識問、青袍今日(一作已)誤儒生。【韻字】城・晴・声・情・生(平声、庚韻)。【訓読文】厳士元に別る(一に「送」に作る)。(一に「送厳員外」に作り、一に「呉中贈別厳士元」に作り、一に「送郎士元」に作る。劉長卿(一に「李嘉詩」に作る)春風棹に倚る闔閭城、水国春(一に「猶」に作る)寒くして陰(くも)り復た晴る(一に「水閣天寒暗復晴」に作り、又た「水国春深陰復晴」にも作る)。細雨衣を湿して看れども(一に「人」に作る)見えず、閑花地に落ちて聴くに声無し。日江上に斜にして孤帆の影、草湖南に緑にして万里の情(一に「程」に作る)。東道(一に「君去」に作る)若(もし)相識の問ふに逢はば、青袍今日(一に「已」に作る)儒生かと誤たん。【注】乾元元(七五八)年春、蘇州における作。○厳士元 唐の馮翊臨晋(いまの陝西省華陰)の人。大理司直、京兆府戸曹掾、殿中侍御史、河南の令、刑部郎中、国子司業などをつとめた。○員外 定員外の郎官の役人。○呉中 江蘇省蘇州市。○倚棹 船を停める。○闔閭城 呉王闔閭が都を置いた蘇州を指す。○水国 川や湖が多い土地。水郷地帯。○陰 曇る。○水閣 水辺に建てられたたかどの。○細雨 霧雨。ごく細かいあめ。○孤帆 ただ一隻の帆掛け船。○万里 非常に遠い距離。○東道 東へ向かう道。○相識 知り合い。○青袍 唐制では官位の低い八九品役人の服。○儒生 孔子の学を修める学者。【訳】厳士元と別れるにあたり詠んだ詩。春の風をば身に受けて蘇州の町に船を泊め、水郷の地は春浅く曇りてはまた晴れる空。霧雨しっとり服ぬらし遠くは景色もよく見えず、花は地面に散り布けど、とても静かに音も無し。夕陽傾くその川に一隻浮かぶ帆掛け船、湖南に草は青々と帰郷の思いかきたてる。東に向かう道中で知り合い君に問うならば、青い服きる端役を学者と取り違えるだろう。
August 19, 2007
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送侯中丞流康州 劉長卿長江極目帶楓林、匹馬孤雲不可尋。遷播共知臣道枉、猜讒卻為主恩深。轅門畫角三軍思、驛路青山萬里心。北闕九重誰許屈、獨看湘水涙霑襟。【韻字】林・尋・深・心・襟(平声、侵韻)。【訓読文】侯中丞の康州に流さるるを送る。長江極目楓林を帯び、匹馬(ヒツバ)孤雲尋ぬべからず。遷播(センバ)共に知んぬ臣道の枉れるを、猜讒(サイザン)卻(かへ)つて為主恩の深きが為なり。轅門(エンモン)画角三軍の思ひ、駅路青山万里の心。北闕(ホクケツ)九重誰か屈するを許さん、独り湘水を看て涙襟を霑(うるほ)す。【注】上元二(七六一)年秋、蘇州に帰る途中の作。○侯中丞 侯令儀。浙西節度使をつとめていたが、上元二年に罪により康州に流された。「中丞」は、御史中丞(御史台の次官)。○康州 唐の嶺南道の州の名。広東省徳慶県。 ○長江 中国最長の川。下流を揚子江という。○極目 見渡す限り。屈原《招魂》「湛々たる江水上に楓有り、目千里を極め春心を傷ましむ」。○楓林 シナカエデの林。○匹馬 一匹の馬。○孤雲 はぐれ雲。○遷播 遠方に流浪する。○臣道 臣下としての道。○枉 曲がる。○猜讒 そねんで事実に反する悪口を言い他人をおとしいれる。○主恩 主君の恩。○轅門 軍門。陣営の門。○画角 軍中でもちいる、龍などの絵のある角笛。形は竹筒のごとく、本は細く末は大。○三軍 軍隊。○駅路 宿場を通る道。街道。○青山 樹木の青く茂った山。○万里 遠く離れているようす。○北闕 宮城の北の門。○九重 宮中。○屈 功や才能が認められない。○湘水 湖南省を流れ、瀟水と合流して洞庭湖に注ぐ。【訳】侯中丞が康州に左遷されるのを見送る詩。長江遠く見渡せば向こうに楓の林あり、きみ乗る馬とはぐれ雲後追うことも出来かねる。無実の罪で左遷され臣下の道も直ならず、天子のご恩深きゆえかえってこんなにそねまれる。軍中画角の音ひびき兵士の思いもさまざまじゃ、街道ぞいの青き山帰郷の念をおこさしむ。宮中にいる方がたもいつまで君の功績を評価せずにはいられようか、われただ一人湘水の流れ見ながら君のこと不運に思い嘆きつつ流す涙に襟ぬらす。
August 18, 2007
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自夏口至鸚鵡洲夕望岳陽寄源(一作元)中丞 劉長卿汀(一作江)洲無浪復無煙、楚客相思益渺然。漢口夕陽斜渡鳥、洞庭秋水遠連天。孤城背嶺寒吹角、獨戍臨江夜泊船。賈誼上書憂漢室、長沙謫去(一作遷謫)古今憐。【韻字】煙・然・天・船・憐(平声、先韻)。【訓読文】夏口より鸚鵡洲に至り夕べに岳陽を望みて源(一に「元」に作る)中丞に寄す。汀(一に「江」に作る)洲浪無く復た煙も無し、楚客相思ひて益ます渺然たり。漢口夕陽斜めに渡る鳥、洞庭秋水遠く天に連なる。孤城嶺に背むきて寒に角を吹き、独戍江に臨みて夜船を泊す。賈誼上書して漢室を憂ひ、長沙に謫去せられて(一に「遷謫」に作る)古今憐ぶ。【注】○夏口 湖北省旧漢口市の地。○鸚鵡洲 湖北省漢陽県の西南の江中にある中洲。後漢の末に黄祖が江夏の太守となったとき、祖の長子の黄射が賓客を招いて盛大な酒宴を催した。その時、鸚鵡を献上する者がおり、祢衡が賦を作り、それに因んで洲に名づけた。○岳陽 湖南省の県の名。○源(一作元)中丞 未詳。 劉長卿○汀洲 水中にできた低い陸地。○楚客 故郷を離れて楚の地方にいる者。○相思 相手のことをおもう。○益 ますます。いっそう。○渺然 水面がひろびろとして、はてしないようす。○漢口 夏口。漢水が長江に注ぐ所。○斜 夕陽が傾く意と鳥が空を斜めに飛ぶ意の二つを言い掛けてあるのであろう。○洞庭 湖南省にある湖。○秋水遠連天。○孤城 ぽつんと孤立した城。○角 つのぶえ。○戍 国境守備兵の陣営。○賈誼 漢の洛陽の人。若いころから諸家の書物に通じていたため、文帝に召されて博士となり、太中大夫に遷った。正朔を改め、服色を易え、法度を制し、礼楽を興した。また、しばしば上疏して政事を陳べ、時の弊を言ったため、大臣に嫌われ、長沙王の傅に左遷され、梁懐王の傅に遷り、没した。(前二〇一年……前一六九年)。○上書 天子に文書を奉る。○漢室 漢の王室。○長沙 湖南省長沙市。○謫去 流罪にあって辺地へ出かける。○遷謫 罪によって遠方の土地に移される。【訳】夏口から鸚鵡洲に着き、夕方遠く岳陽を望んで源中丞に寄せる詩。中洲は浪も靄も無く、遥か遠くに思い馳す。漢口夕陽かたむきて斜めに空を鳥が飛ぶ、洞庭湖水ひろびろと遠く空までつづくほど。嶺を背にした孤城あり角笛の音聞こえつつ、とりでの下に川流れ夜は船泊め宿ります。いにしえ賈誼は王室の将来憂い上書して、あげく長沙に流されて以来人々同情す。
August 18, 2007
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送惠法師遊天台因懷智大師故居 劉長卿翠屏瀑水(一作布)知何在、鳥道猿啼過幾重。落日獨搖金策去、深山誰向石橋逢。定攀巖下(一作上)叢生桂、欲買雲中若箇峰。憶想東林禪誦處、寂寥惟聽舊時鐘。【韻字】重・逢・峰・鐘(平声、冬韻)。【訓読文】恵法師の天台に遊ぶを送り因つて智大師の故居を懐ふ。翠屏瀑水(一に「布」に作る)何くに在るを知らんや、鳥道猿啼幾重をか過ぐる。落日独り金策を揺すりて去り、深山誰か石橋に向かひて逢はん。定めて攀ぢん巖下(一に「上」に作る)叢生の桂、買はんと欲す雲中若箇の峰。憶ひ想ふ東林禅誦の処、寂寥として惟だ聴く旧時の鐘。【注】○恵法師 未詳。○天台 浙江省天台県の北にある山。 ○智大師 智■(「豈」のみぎに「頁」。ギ)。陳・隋の高僧。天台宗の創始者。(五三八……五九七年)。○翠屏 きりたった屏風のような青い山。○瀑水 滝。○鳥道 鳥だけが通うことができるような険しい道。山の尾根をさすという。○落日 夕陽。○金策 錫杖。僧侶が用いるつえ。○向A Aにおいて。○石橋 顧▼(リッシンベンに「豈」。ガイ)之『啓蒙記』「天台山の石橋は、路径尺に盈たず、長さ数十歩、歩至って滑らかにして、下は絶冥の澗に臨む」。○攀 枝につかまる。○若箇 いくつ。○東林 江西省廬山東林寺。晋の恵遠が開いた寺。ここでは天台山の寺をたとえる。○禅誦 経を読む。○寂寥 ひっそりとしているようす。【訳】恵法師が天台山に遊ぶのを見送り、そこで智大師の旧居を心に思って詠んだ詩。屏風のような青き山、みなぎり落ちる滝の水、それらはどこにあるのやら、鳥のみこえる尾根を行き猿啼く深き山の峰いくつ過ぎればたどりつく。夕陽かたむくその中で錫杖ついて山登り、深山石橋あるあたり行き交う人の影もなし。きっと巌に聳え立ついくつも桂の枝つかみ、雲にそびえるいくつもの峰を買おうと思うだろう。昔おもえば東林に仏の教え説くところ、ひっそりとした山奥にかつてと変わらぬ鐘の声。
August 17, 2007
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酬屈突陝 劉長卿落葉紛紛滿四鄰、蕭條環堵絶風塵。郷看秋草歸無路(一作何處)、家對寒江病且貧。藜杖懶迎征騎客、菊花能醉去官人。憐君計畫誰知者、但見蓬蒿空沒身。【韻字】隣・塵・貧・人・身(平声、真韻)。【訓読文】屈突陝に酬ゆ。落葉紛紛として四隣に満ち、蕭条として環堵風塵絶ゆ。郷は秋草を看て帰るに無路く(一に「何処」に作る)、家は寒江に対して病みて且つ貧し。藜杖迎ふるに懶し征騎の客、菊花能く酔はしむ官を去る人。憐ぶ君の計画誰か知る者あらん、但だ見る蓬蒿の空しく身を没するを。【注】○屈突陝 屈突延の曾孫。監察御史をつとめた。○紛紛 数多いようす。○四隣 あたり。四方。○蕭条 ひっそりとして、ものさびしいようす。○環堵 四方各一丈のかきね。環堵蕭然は、住居が狭く、さびしく貧しいようす。陶潜《五柳先生伝》「環堵蕭然として、風日を蔽はず」。○風塵 わずらわしい世の中の苦労。また、世間の騒ぎ。○寒江 さむざむしい川。○藜杖 アカザの茎で作られた軽い老人用の杖。○菊花 酒の名。菊の花や葉や茎を採り、黍や米を雑ぜて醸し、翌年の九月九日以後に熟する酒。菊花酒。○征騎客 馬に乗って旅立つ人。○計画 もくろみ。○蓬蒿 シナヨモギとカワラニンジン。繁殖力の強い雑草。【訳】屈突陝から贈られた詩に答えた詩。落葉あたりに散り満ちて、さびしき家に俗事無し。故郷秋草しげるとも官やめ帰る路も無く、家はさびしき川の前体は病みて且つ貧し。アカザの杖にすがりつつ旅立つ君を迎へんと立ち上がるのも面倒で、菊花の酒は官を去る君酔わせるに十分じゃ。君のこれからの計画をいったい誰が知るものか、但だ見る庭の雑草が身を隠すほど延びたるを。
August 16, 2007
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哭陳(一作李)歙州(一作使君) 劉長卿千秋萬古葬(一作共)平原、素業(一作惟有)清風及子孫。旅■(「木」のみぎに「親」。シン)歸程傷道路、舉家行哭向田園。空山寂寂開新壟(一作冢)、喬木蒼蒼掩舊門(一作寒山搖落空殘壟、故里疏蕪獨掩門)。儒行公才竟何在(一作處、一作更何用)、獨憐棠樹一枝存(一作故將脩短問乾坤)。【韻字】原・孫・壟・門・存(平声、元韻)。【訓読文】陳(一に「李」に作る)歙州(一に「使君」に作る)を哭す。千秋万古平原に葬られ(一に「共」に作る)、素業(一に「惟有」に作る)清風子孫に及ぶ。旅■(シン)帰程道路に傷み、家を挙げて行くゆく哭し田園に向かふ。空山寂寂として新壟(一に「冢」に作る)を開き、喬木蒼蒼として旧門を掩ふ(一に「寒山搖落空残壟、故里疏蕪独掩門」に作る)。儒行公才竟(つひ)に何(いづく)にか在る(一に「処」に作り、一に「更何用」に作る)、独り憐ぶ棠樹一枝存せるを(一に「故将脩短問乾坤」に作る)。【注】○哭 人の死を悲しみ嘆く。○陳(一作李)歙州(一作使君) 未詳。「歙州」は、いまの安徽省歙県。「使君」は刺史。州郡の長官。○千秋 長い年月。○万古 むかしからずっと。○平原 広々として平らな原野。○素業 きよらかな行い。 ○清風 欲が無くさっぱりした生き方。○旅■(シン) 異郷で死んだ者をいれるひつぎ。○帰程 帰郷の道のり。○挙家 家族全員。○空山 ひっそりとして、ひとけのない山。○寂寂 ひっそりと静かなようす。○壟 つか。墓の上の盛り土。○喬木 丈の高い木。○蒼蒼 生い茂るようす。○掩 おおう。○旧門 ふるびた門。○寒山 ひっそりと寂しい山。○揺落 木々の葉が散る。○故里 故郷。○疏蕪 手入れもされず荒れ果てる。○儒行 学者としての行い。○公才 三公にふさわしい才能。○棠樹 甘棠の下で周の召伯が裁判を行い善政を布いたところから、すぐれた政治家を慕うときに詠まれる。【訳】歙州の刺史陳氏の亡くなったのを悲しむ詩。死する者みな昔より平原の地に葬られ、清きおこない無欲にて子孫に及ぼす高き徳。異郷でひつぎに納められ帰郷の道にみな傷み、一家全員参列し涙流して墓地むかう。ひとけ無き山ひっそりと新たに築く土饅頭、丈高き木々あおあおと蒼蒼として古びた家の門おおう。学者の知恵も三公の才能とてもいまいずこ、一枝のこる甘棠に君の徳をば民慕う。
August 15, 2007
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使次安陸寄友人 劉長卿新年草色(一作早已)遠萋萋、久客將歸失(一作問)路蹊。暮雨不知■(サンズイに「員」。イン)(一作須)口處、春風只(一作共)到穆陵西。孤城盡日空花落、三戸無人自鳥啼。君在江南相憶否、門前五柳幾枝低。【韻字】萋・蹊・西・啼・低(平声、斉韻)。【訓読文】使ひして安陸に次(やど)り友人に寄す。新年草色(一に「早已」に作る)遠く萋萋たり、久客将に帰らんとして路渓を失ふ(一に「問」に作る)。暮雨知らず■(イン)(一に「須」に作る)口の処、春風只だ(一に「共」に作る)到る穆陵の西。孤城尽日空しく花落ち、三戸人無くして自から鳥啼く。君江南に在りて相憶ふや否や、門前五柳幾枝か低(た)れん。【注】○使 朝廷から使者として派遣されてゆく。○次 泊まる。○安陸 湖北省の県の名。○萋萋 生い茂るようす。○久客 長くよその土地にとどまっている者。○暮雨 夕暮れの雨。○■(サンズイに「員」。イン)口 ■(イン)水が▼(「眄」の「目」を「シ」に換えた字。ベン)に注ぐ所。○穆陵 湖北省麻城県の北の関の名。○孤城 一つだけぽつんとかけ離れた城。○尽日 一日中。○江南 長江の下流の南方。○五柳 晋末の大詩人陶淵明は、宅地の周囲に五本の柳を植え、みずから五柳先生と号した。【訳】使者として安陸に泊まり友人に寄せた詩。年改まり草は萌え遠くのかたまで生い茂り、故郷離れた旅人は帰らんとして道迷う。夕べの雨の激しさに■(イン)口定かに見えずして、ただ暖かき春の風穆陵関の西に吹く。孤城終日花は散り、人影も無く鳥が啼く。君は江南我のこと憶うや否やしらねども、門前五本の柳いま幾つ枝をば垂れていよう。
August 14, 2007
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雙峰下哭故人李宥 劉長卿憐君孤壟(一作冢)寄雙峰、埋骨窮泉復幾重。白露空霑九原草、青山猶(一作獨)閉數株松。圖書經亂知何在、妻子因貧(一作移家)失所從。惆悵東皋卻歸去、人間無處更相逢。【韻字】峰・重・松・従・逢(平声、冬韻)。【訓読文】双峰下にて故人李宥を哭す。君が孤壟(一に「冢」に作る)を憐びて双峰に寄り、骨を埋め泉を窮めんとして復た幾重。白露空しく霑ほす九原の草、青山猶ほ(一に「独」に作る)閉づ数株の松。図書乱を経て何くに在るを知らんや、妻子貧に(一に「移家」に作る)因りて従ふ所を失ふ。惆悵す東皋卻つて帰り去り、人間処として更に相逢ふこと無きを。【注】○双峰 ■(クサカンムリの左下に「單」、右下に「斤」。キ)黄梅県の山の名。○李宥 大暦中の人。槁城県の主簿に官す。○孤壟 ぽつんと独立した墳墓。○窮泉 九泉(地下深いところ。人が死後埋葬されるところ)の下。墓の中を指す。○九原 春秋時代の晋の国の卿大夫の墓地のあるところ。のち、ひろく墓所を指す。○青山 骨を埋める土地。墳墓の地。○数株 数本。○図書 書物。○妻子 李氏の妻と子。○惆悵 嘆きかなしむ。○東皋 田野や高地。○人間 この世。【訳】双峰山のふもとで故人李宥の死を嘆く。双峰に立ち寄りて君の霊魂弔らわん、この塚の下いかほどの深き所に君眠る。九原の草露に濡れ、数本の松に囲まれて。戦乱ののち図書も失せ、妻子も路頭に迷うらん。ああ悲しきは君すでにあの世へ帰り墓地の中、もうこの世では生きてまた再び会える時もなし。
August 13, 2007
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上巳日越中與鮑侍御泛舟耶溪 劉長卿蘭橈縵(一作萬)轉傍汀沙、應接(一作隔)雲峰到若耶。舊浦滿(一作遠)來移渡口、垂楊深處有人家。永和春色千年在、曲水郷心萬里■(「貝」のみぎに「余」。シャ)。君見漁船時借問、前洲(一作桃源)幾路入煙花(一作霞)。【韻字】沙・耶・家・■(シャ)・花(平声、麻韻)。【訓読文】大暦五(七七〇)年三月、越中における作。上巳の日越中にて鮑侍御と舟に耶渓に泛かぶ。蘭橈縵やかに(一に「万」に作る)転じて汀沙に傍ひ、応に雲峰に接して(一に「隔」に作る)若耶に到るべし。旧浦満ちて(一に「遠」に作る)来たりて渡口に移り、垂楊深き処に人家在り。永和春色千年在り、曲水郷心万里■(はるか)なり。君漁船を見て時に借問す、前洲(一に「桃源」に作る)幾(いづ)れの路か煙花(一に「霞」に作る)に入らん。【注】○上巳日 旧暦三月の初めの巳の日。みそぎをして不祥をはらう習慣があった。○越中 春秋時代に越の国があった地域。今の浙江省に属す。○鮑侍御 鮑防。天宝の末、進士に挙せられ、浙東観察使の薛兼訓の従事と為り、累ねて殿中侍御史に至る。入りて職方員外郎と為り、太原少尹正に改めらる。○泛 浮かぶ。○耶渓 若耶渓。別名、五雲渓。浙江省紹興県の東南の若邪(一作耶)山のふもとの渓谷。○蘭橈 モクレンで造った舟のかい。○縵 ゆるやか。○汀沙 みぎわの砂原。砂浜。○雲峰 雲のなかに聳える峰。浙江省紹興県の東南に若邪(一作耶)山あり。○若耶 若耶渓。○渡口 渡し場。○垂楊 シダレヤナギ。○永和 ここでは東晋の年号。三四五……三五七年。○春色 春の景色。○曲水 曲水宴。曲折ある小川の流れに杯を浮かべ、酒を飲み、詩を作る会。永和九年三月三日に王羲之が蘭亭で開いたのに始まる。○郷心 故郷を思うこころ。○万里 非常に遠い距離。○■(「貝」のみぎに「余」。シャ) はるか。○漁船 いさりぶね。○借問 たずねてみる。○幾路 どの道。○煙花 春霞たつ美しい景色。【訳】上巳の日に越中で鮑侍郎と共に舟で耶渓に遊んだ時の詩。木蘭のカイゆるやかに漕いでめぐるは浜のきわ、雲にそびえる峰のもとぐるり到るは若耶渓。ふるびた浦に潮満ちて舟を渡しに漕ぎ着けりゃ、しだれ柳のその奥にひっそり暮らす人家在り。永和の昔の春げしき千年かわらず今も在り、曲水まえにたたずめば故郷万里のかなたなり。いさり漁船をば見つけたる君は漁師に問いかける、この先の洲のどの道がもっとも景色よかろうか。
August 11, 2007
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赴南中題(一作留)■(「衣」へんに「者」。チョ)少府湖上亭子(一作林亭、一作李嘉祐詩) 劉長卿種田東郭傍春陂、萬事無情把(一作如弄)釣絲。緑竹放侵行徑裏(一作斷)、青山常對卷簾時。紛紛花落門空閉、寂寂鶯啼日更遲。從此別君千萬里、白雲流水憶佳期。【韻字】陂・糸・時・遅・期(平声、支韻)。【訓読文】南中に赴かんとして■(「衣」へんに「者」。チョ)少府が湖上の亭子(一に「林亭」に作る。)に題す。(一に「留」に作る。)(一に「李嘉祐詩」に作る)種田東郭春陂に傍ひ、万事無情釣糸を把る(一に「如弄」に作る)。緑竹放(ほしいままに)侵す行径の裏(一に「断」に作る)、青山常に対す簾を巻く時。紛紛として花落ち門空しく閉ぢ、寂寂として鴬啼き日更に遅し。此より君に別るること千万里、白雲流水佳期を憶ふ。【注】○南中 南方。ここでは嶺南を指す。○■(「衣」へんに「者」。チョ)少府 未詳。○湖上 湖のほとり。○亭子 あずまや。庭園の中の建物。○種田 畑に種をまく。○東郭 町の東の外囲い。『十八史略』《春秋趙》「我をして洛陽負郭の田有らしめば、豈に六国の相印を佩びんや」。○春陂 春の土手。○万事 何事も全て。○無情 思いやりがない。○把 手にとる。○放 勝手気ままなようす。○行径 通路。○卷簾 簾を巻き上げる。○紛紛 さかんに散るようす。○寂寂 ひっそりと静かなようす。○此 ここ。○千万里 非常に遠い距離。○佳期 再会して喜ぶ時。【訳】南方の地に赴任しようとして■(チョ)少府の湖のほとりのあずまやで詠んだ詩。春の土手ぎわ東の町外れにて畑作し、もろもろの事意にそわず静かに釣糸垂れる我。通路を緑の竹がはえ、簾を巻けば青き山。花ひらひらと舞い落ちて門は空しく閉じてあり、ひっそりとした春の日に鴬啼いて暮れなずむ。君と別れて千万里、空に浮かぶは白き雲、川ゆるやかに流れゆき、再び会える時思う。
August 10, 2007
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自江西歸至舊任官舍贈袁贊府(時經劉展平後) 劉長卿欲見同官喜復悲、此生何幸有歸期。空庭客至逢遙落、舊邑人稀經亂離。湘路來過迴雁處、江城臥聽擣衣時。南方風土勞君問、賈誼長沙豈不知。【韻字】悲・期・離・時・知(平声、支韻)。【訓読文】江西より帰り旧任の官舍に至り袁賛府に贈る(時に劉展の平ぎたるを経ての後なり)却つて同官なるを見て喜び復た悲しぶ、此生何なる幸にして帰る期有らん。空庭客至つて揺落に逢ひ、旧邑人稀にして乱離を経たり。湘路来りて過ぐ迴雁の処、江城臥して聴く擣衣の時。南方風土君の問ふを労すれば、賈誼長沙豈に知らざらん。【注】上元二(七六一)年秋、長洲県の官舎における作。○江西 長江下流の西の地方。○袁賛府 未詳。「賛府」は、県丞。○劉展 上元元年、宋州の刺史の劉展は、揚州鎮圧に赴いたが、長史の■(「登」にオオザト。トウ)景山が兵をもってこれを拒んだ。しかし、劉展に敗れ、劉展は引き続いて潤州・昇州などを陥れた。上元二年、平盧兵馬使の田神功は劉展を生け捕りにし、揚州・潤州は平定された。○揺落 秋に木々の葉が舞い散る。○乱離 世の中が乱れ離ればなれになること。○湘路 湖南省の道。○迴雁処 衡山の回雁峰。北から飛来する雁も、ここより南には行かないという。○江城 川のほとりの町。○擣衣 布をしなやかにするために砧でたたく。秋の夜の風物。○風土 山川・気候・物産・風俗などの地方の特色。○賈誼 前漢の文帝に仕えた文人。辞賦に長じ、論策にもすぐれていた。長沙王の傅となった。著に『新書』がある。(前二〇一……前一六九年)。【訳】江西から帰って、かつて勤務していた官舍にたどりつき、袁賛府に贈呈した詩。(当時は劉展が平定されたあとだった)いまたちもどり君見れば奇しくも我と同じ官、無事に会えたはうれしいが、君が世に出ぬ悲しさよ、つたなき我の一生に都に帰る時あるや。庭さき見れば木の葉散り、戦乱のあと人は稀。湖南の路を帰り来りて回雁峰を通り過ぎ、川のほとりの町の夜に寝床に聴くは砧かな。南の風俗君問えば、長沙に流された賈誼殿を知らざるものもおるまいに。
August 8, 2007
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『和漢比較文学第三十八号』に田中幹子著『和漢朗詠集とその受容』なる本についての書評あり。 その金沢学院大学の教授による書評のなかに『葛原詩話』巻四を引き「楊萬里が句に「不縁香火来山墅、孤負今年半段春(香火に縁らずんば山墅に来り、孤り負へり今年半段の春)」と。 はたして、どうよむべきか。評者が施したであろう訓読文にしたがえば、「コウカニヨラズンバサンショニキタリ、ヒトリオエリコトシハンダンノハル」というつもりなのであろうが、頭の弱いわたくしには意味つうじがたい。 わたくしならば「香火に縁(よ)つて山墅に来らずんば、孤負(コフ)す今年半段の春」とでもよみたいところ。詩の本文すべてが書かれていないため、確信があるわけではないが、「孤負」は「辜負」と通用で、「孤独」の「孤」とは意味が異なり、「ひとり」とよむべきではなかろう。「孤負」は、二字とも「そむく」という意味にあらずや。「香火」は、仏前にそなえる香と灯明のあかり。さすれば、詩意は、おそらく「仏様にお供えする香のかおりと灯明のあかりにひかれて山荘にやってこなければ、山のまだ浅い春を見逃すところだった」ということではなかろうか。
August 8, 2007
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北歸入至徳州界偶逢洛陽鄰家李光宰 劉長卿生涯心事已蹉■(「足」のみぎに「它」。タ)、舊路依然此重過。近北始知黄葉落、向南空見白雲多。炎州日日人將老、寒渚年年水自波。華髮相逢倶若是、故園秋草復如何。【韻字】■(タ)・過・多・何(平声、歌韻)。【訓読文】北のかたに帰らんとして至徳の界に入り偶(たまたま)洛陽の隣家の李光宰に逢ひき。生涯心事已に蹉■(タ)たり、旧路依然として此(ここ)に重ねて過ぐ。北に近づきて初めて知んぬ黄葉の落つるを、南に向かひて空しく見る白雲の多きを。炎州日日人将に老いんとし、寒渚年年水自から波あり。華髮にして相ひ逢ふこと倶に是のごとし、故園秋草復(また)如何(いかん)。【注】上元二(七六一)年秋、蘇州に帰る途中における作。○至徳 唐の江南道饒州の県の名。治所は今の安徽省貴池県あたり。○偶 偶然にも。○洛陽 唐の副首都。河南省洛陽市。○李光宰 李旭の子。李光復の弟。洛陽にいたとき隣家に住んでいた。○生涯 一生の間。○心事 心に思うことがら。○蹉■(「足」のみぎに「它」。タ) あてがはずれるようす。○旧路 むかし通った道。○依然 もとのまま。○重 ふたたび。○炎州 南方の暑い地方。ここでは尉をつとめていた潘州南巴県を指す。○寒渚 さむざむしい水辺。○華髮 白髪。老年をいう。○若是 かくのごとし。○故園 故郷。○如何 どうであろうか。【訳】北方に帰ろうとして至徳に入り、偶然、洛陽で隣家に住んでいた李光宰に逢って詠んだ詩。一生のあいだ胸中に思うこと皆あてはずれ、再び此の地通り過ぎ、昔のままは道のみか。北に近づき色づいた葉の散る見るは久しぶり、南に向かったあの時は空しく白雲見たことよ。炎熱の地に日日過ごし我も老年さし迫り、寒ざむとした水ぎわに川の波立つ見るばかり。互いに白髪頭にてこんな具合に出会うとは、わが旧宅の秋の草どれほど延びて荒れていよう。
August 6, 2007
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初聞貶謫續喜(一本無上六字)量移登干越亭贈鄭校書 劉長卿青青草色滿江洲、萬里傷心水自流。越鳥豈(一作不)知南國(一作樹)遠、江花獨向北人愁。生涯已逐(一作許)滄浪去(一作老)、冤氣初逢渙汗收。何事還邀遷(一作羈)客醉、春風日夜待歸舟。【韻字】洲・流・愁・収・舟(平声、尤韻)。【訓読文】初めて貶謫せらるるを聞き続きて量移せらるるを喜び(一本「上の六字無し」)干越亭に登り鄭校書に贈る。青青たる草色江洲に満ち、万里傷心水自から流る。越鳥豈に(一に「不」に作る)知らんや南国(一に「樹」に作る)の遠きことを、江花独り向ふ北人の愁ひ。生涯已に滄浪を逐ひて(一に「許」に作る)去り(一に「老」に作る)、冤気初めて渙汗に逢ひて収まる。何事ぞ還つて遷(一に「羈」に作る)客の酔へるを邀へん、春風日夜帰舟を待たん。【注】○貶謫 官職を下げて遠方へ流す。○量移 流罪によって遠地にいた官吏が赦免により近地に移される。○干越亭 今の江西省余干県城の東南にあった。○鄭校書 劉長卿の知人らしいが未詳。「校書」は、校書郎。宮中の書庫の管理や書物の校訂に携わる役人。○草色 草の色。○江洲 川の中洲。○万里 非常に遠く。○傷心 心をいため悲しむ。○越鳥 《古詩十九首》「胡馬北風に依り、越鳥南枝に巣くふ」。南方の越の国うまれの鳥は、故郷に少しでも近い南の枝に巣を作る。故郷を恋い慕うたとえ。○生涯 一生のあいだ。○滄浪 川の名。○冤気 ぬれぎぬを着せられた恨み。○渙汗 詔勅。○何事 どうして。○遷客 罪により遠方へ流された人。○帰舟 都に近いほうへ向かう舟。【訳】初めて自分が都から遠い地方へ左遷されるのを聞き、そののち恩赦により都にすこし近い所へ異動になるのを喜び、干越亭に登って詩を詠じ、鄭校書に贈る。川の中洲をながむれば草あおあおと生い茂り、遠く都を思いつつ嘆くそばには川流る。越の鳥とて南国の遠きことをば知らざらん、われは川辺の花見つつ心のうちに悲しめり。我が一生は川に沿い任地をあちこち移動して、濡れ衣を着たこの恨み天子の赦免で収まりぬ。どういうわけで唐突に左遷の我を迎えるか、春風ふくなか昼も夜も都へ向かう舟待たん。
August 5, 2007
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將赴嶺外留題蕭寺遠公院(寺即梁朝蕭内史創) 劉長卿竹房遙閉上方幽、苔徑蒼蒼訪昔遊。内史舊山空日暮、南朝古木向人秋。天香月(一作夜)色同(一作空)僧室、葉(一作月)落猿啼傍(一作訪、又作送)客舟。此去播遷明主意、白雲何事欲相留。【韻字】幽・遊・秋・舟・留(平声、尤韻)。【訓読文】将に嶺外に赴かんとして蕭寺の遠公の院に留題す。(寺は即ち梁朝の蕭内史の創りしなり。)竹房遥かに閉ぢて上方幽かなり、苔径蒼蒼として昔を訪ひて遊ぶ。内史旧山日暮空しく、南朝古木人に向かひて秋なり。天香月(一に「夜」に作る)色僧室を同じくす(一に「空」に作る)、葉(一に「月」に作る)落ち猿啼きて客舟に傍ふ(一に「訪」に作り、又た「送」に作る)。此を去りて播遷するは明主の意、白雲何事ぞ相留めんと欲する。【注】○嶺外 五嶺以南の地区。広東・広西および越南人民共和国の北部一帯。○留題 詩を詠んで書き残す。(○蕭寺 寺院のこと。梁の武帝が寺を造ったとき、蕭子雲に蕭の字を大書せしめた。○遠公 未詳。僧の名。○院 寺院中の僧侶に割り当てられた建物。○梁朝 南朝の一。蕭衍が斉を滅ぼして建てたが、四代五十六年で、陳に滅ぼされた。(五〇二……五五七年)。○蕭内史 蕭子雲。字は景喬。南蘭陵(いまの江蘇省常州あたり)の人。梁の武帝のとき、臨川の内史となった。○竹房 庭に竹のある僧坊。○上方 山の上方にあるところから寺をいう。○苔径 コケむした小道。○蒼蒼 うすぐらいさま。○南朝 東晋の末、南方で劉裕が晋を滅ぼして宋を建国してから、隋に統一されるまでの宋・斉・梁・陳の四王朝。いずれも漢民族による王朝で、すべて約一七〇年間。○天香 非常によい香り。ここでは寺院の線香の香りであろう。宋之問《題霊隠寺禅寺》「桂子月中より落ち、天香雲外に飄る」。○客舟 旅人の乗る舟。○播遷 遠方の地をさすらう。○明主 聡明な君主。りっぱな天子。○何事 どういうわけで。【訳】これから嶺外に赴任しようとして蕭寺の僧侶遠公の庵に書き残した詩。(寺は即ち梁王朝の蕭内史の創建である。)山上の寺ひっそりと竹林僧房閉じて留守、苔むす小道青々と昔なじみに会いにきた。寺を設けた蕭子雲この山寺に日は暮れて、南朝以来ずっと立つ古木に秋の気配あり。月の明かりに照らされる僧室線香かおり満ち、木々の葉散りて猿は啼き旅人の舟いとさびし。此からさらに流されるそれも天子の御意なれば、白雲いったい何思い我留めんと欲するか。
August 3, 2007
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登餘干古縣城 劉長卿孤城上與白(一作迢遞楚)雲齊、萬古荒涼(一作蕭條)楚水西。官舍已空秋草緑、女牆猶在夜烏啼。平江渺渺來人遠(一作夕)、落日亭亭向客低。沙鳥不知陵谷變、朝飛(一作還)暮去(一作往)弋陽溪。【韻字】斉・西・啼・低・渓(平声、斉韻)。【訓読文】余干の古県城に登る。孤城上れば白(一に「迢遞楚」に作る)雲と斉しく、万古荒涼たり(一に「蕭条」に作る)楚水の西。官舍已に空しく秋草緑に、女牆猶ほ在り夜烏啼く。平江渺渺として人来たること遠く(一に「夕」に作る)、落日亭亭として客に向ひて低し。沙鳥知らず陵谷の変ずるを、朝に飛び(一に「還」に作る)暮べに去る(一に「往」に作る)弋陽渓。【注】○余干古県城 今の江西省余干県にあった。『太平寰宇記』「白雲城は県(江南道饒州余干県)の西に在り。隋末の林士弘の築く所なり」。○孤城 ひとつだけぽつりと他から離れている城・とりで。○万古 昔から。○荒涼 荒れ果ててさびしいようす。○楚水 ふつうは湖北以東の長江中下流を指すが、ここでは信江を指す。○官舎 役所。○女牆 城壁上の低い垣根。ひめがき。女垣。李賀《石城暁》「女垣棲烏起つ」。○渺々 水の果てしなくひろがるようす。○亭亭 遥かに遠いさま。○沙鳥 砂浜の水鳥。○陵谷変 世の中の変転激しいことのたとえ。『詩経』《小雅・十月之交》に「高岸谷と為り、深谷陵と為る」。○弋陽渓 今の江西省弋陽県境を流れる信江の別名。【訳】余干の古県城に登った時の詩。孤城のぼれば白雲と同じ高さに見渡して、楚水の西は昔から荒れた景色でいと寂し。役所もすでにひとけ無くただ秋草が生い茂り、ひめがきだけが跡とどめ、巣くった夜烏が啼くばかり。平につづく川ひとつ果てなく遠くに流れ去り、舟の人影こちらへと向かう姿も粒のよう、夕陽遠くに傾いてもうじき来たるよるの闇。砂浜の鳥は世の中の移り変わりもかまい無く、朝に飛びきて夕方にねぐらに帰る弋陽渓。
August 2, 2007
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奉酬辛大夫喜湖南臘月連日降雪見示之作 劉長卿長沙耆舊拜旌麾(一作旗)、喜見江潭積雪時。柳絮三冬先北地、梅花一夜遍南枝。初開窗閣寒光滿、欲掩軍城暮色遲。閭里何人不相慶、萬家同唱郢中詞。【韻字】麾・時・枝・遅・詞(平声、支韻)。【訓読文】辛大夫の湖南の臘月に連日降雪あるを喜びて示さるる作に奉酬す。長沙の耆旧旌麾(一に「旗」に作る)を拝し、喜び見る江潭積雪の時。柳絮三冬北地に先んじ、梅花一夜南枝に遍し。初めて窓閣を開けば寒光満ち、軍城を掩はんと欲して暮色遅し。閭里何人か相慶びざらん、万家同じく唱す郢中の詞。【注】大暦六(七七一)年十二月、潭州における作。○奉酬 目上の人にいただいた詩に対する返事の詩を作る。○辛大夫 辛京杲。潭州刺史、湖南観察史をつとめた。○臘月 旧暦十二月。陰暦十二月の第三の戌の日に臘祭が行われたのでいう。す。○長沙 湖南省長沙市。○耆旧 徳たかく人望のある老人。○旌麾 軍隊を指揮する旗。大将の旗。○江潭 川の淵。○柳絮 柳のわた。熟した柳の種に生じる繊毛状のもの。風に吹かれて飛ぶさまは、晩春の景物。ここでは雪の見立て。○三冬 冬の三ヶ月。○梅花 ここでは雪の見立て。○一夜 たった一晩で。○南枝 南向きの早咲きの梅の枝。○寒光 さむざむとした冬景色。また、冬の日差し。○軍城 戦の砦が置かれた町。○閭里 村里。○何人 いったい誰が。反語表現。○万家 全ての家々。○郢中詞 すぐれた楽曲。宋玉《対楚王問》「陽春・白雪は国中属して和する者数十人に過ぎず」。ここでは辛大夫の雪を詠じた詩をたとえる。【訳】辛大夫が湖南の十二月に連日雪が降るのをお喜びになり詠んで贈ってくださった作に唱和もうしあげた詩。長沙の古老も大将の旗を拝して畏敬する、君は喜ぶ江潭に雪降り積もるおもしろさ。柳のわたは北方の冬に先んじ空に舞い、南の枝に一晩で梅咲きほこる一面に。初めて窓を開けたれば眼前ひろがる冬景色、雪はいまにも軍城を掩わんとする夕景色。村人こぞって雪祝い、君の詩うたう家家に。
August 1, 2007
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長沙過賈誼宅 劉長卿三年謫宦此棲遲、萬古惟留楚客(一作國)悲。秋草獨(一作漸)尋人去後、寒林空見日斜時。漢文有道恩猶薄、湘水無情弔豈知。寂寂江山搖落處(一作正搖落)、憐君何事到天涯。【韻字】遅・悲・時・知・涯(平声、支韻)。【訓読文】長沙にて賈誼の宅に過(よ)ぎる。三年謫宦此こに棲むこと遅く、万古惟だ留む楚客(一に「国」に作る)の悲しび。秋草独り(一に「漸」に作る)尋ぬ人去りて後、寒林空しく見る日の斜なる時。漢文道(い)ふこと有り恩猶ほ薄しと、湘水情無くして弔豈に知らんや。寂寂たる江山揺落の処(一に「正揺落」に作る)、君を憐ぶ何事ぞ天涯に到る。【注】○長沙 湖南省長沙市。○過 立ち寄る。○賈誼 前漢の文帝に仕えた文人。辞賦に秀で論策にも長じた。権力者に妬まれ讒言により、長沙王の太傅に左遷された。賈長沙ともいう。のちに再び文帝に召され、末子の梁懐王の太傅となったが、懐王が落馬死すると、その翌年憂死した。著に『新書』あり。(前二〇一……前一六九年)。○三年 長沙に左遷されて三年間とどまった。○謫宦 官吏がとがめを受けて官位をおとされ、遠方の辺地に流される。○万古 昔からずっと。○楚客 故郷を離れて楚の地方(長江中下流域)にいる者。○寒林 さびしい林。○漢文 漢代の文章。○湘水 湖南省を流れ、瀟水と合して洞庭湖に注ぐ。○無情 心が無い。○弔 人の死を悲しみ、いたみとむらう気持ち。賈誼は任地に赴く途中、「弔屈原文」を作った。○寂寂 ひっそりとして、さびしいようす。○江山 山川。○揺落 木々の葉が散る。○何事 どういうわけで。なぜ。○天涯 きわめて遠い所。【訳】長沙にて賈誼の宅に立ち寄って詠んだ詩。官位おとされ流されてこの地に住んでもう三年、昔からただ留まるは楚に流されし悲しみよ。人去りてのちひっそりと賈誼の旧宅たずねみん、さびしき林ひとけなく日の暮れがたにたどり着く。漢文にいう天子様の御恩でさえも薄きとぞ、湘水人情あらざれば我の弔意もわかるまい。ひっそりさびしき川沿いの山が木々の葉落とすころ、君なに故に流されて都離れてここきたる。
July 31, 2007
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漢陽獻李相公 劉長卿退身高臥楚城幽、獨掩閑(一作寒)門(一作雙扉)漢水頭。春草雨中行徑沒、暮山江上捲簾愁。幾人猶憶(一作識)孫弘閤、百口同乘範蠡舟。早晩卻還(一作歸)丞相印、十年空被白雲留。【韻字】幽・頭・愁・舟・留()【訓読文】漢陽にて李相公に献ず。身を退きて高臥す楚城の幽、独り閑(一に「寒」に作る)門(一に「双扉」に作る)を掩(おほ)ふ漢水の頭。春草雨中径を行けば没し、暮山江上簾を捲きて愁ふ。幾人か猶ほ憶ふ(一に「識」に作る)孫弘の閤、百口同(とも)に乗る范蠡が舟。早晩卻つて還す(一に「帰」に作る)丞相の印、十年空しく白雲に被はれ留まる。【注】大暦七(七七二)年春、漢陽における作。○漢陽 唐の■(「眄」の「目」を「シ」に換えた字。ベン)州の属県。湖北省武漢市漢陽。○漢水 陝西省に発し、湖北省の漢口で長江に注ぐ。○公孫弘 漢の薛の人。字は季。春秋雑学を学ぶ。武帝に仕え、博士となり、丞相となった。東閤(東の小門)を開いて、天下の賢人を招いたという。○百口 家族全員。○范蠡 春秋時代楚の人。越王勾践を助けて呉王夫差を破り、上将軍となった。のちに官を辞して家族を引き連れ舟で五湖(太湖)に浮かび、斉にゆき、姓名を鴟夷子皮と変え、また、陶にいて富豪となり陶朱公と称した。○丞相 宰相。君主の命を受けて補佐する最高の官吏。【訳】漢陽において李相公に献呈する詩。身を退きて閑居する楚の町はずれ静かな地、漢水のほとり世の人と交わり絶ちて門を閉づ。雨降るなかに道ゆけば丈よりのびた春の草、川のほとりで簾あげ夕暮れの山見て愁う。いったい何人いにしえの公孫弘の閤おもう、家族ひきつれ范蠡の舟に乗り込み五湖に浮く。いつ返さんか天子よりいただいた丞相の印、十年空しく山中の雲に被われここに住む。
July 30, 2007
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送李録事兄歸襄■(「登」にオオザト。トウ) 劉長卿十年多難與君同、幾處移家逐轉蓬。白首相逢征戰後、青春已過亂離中。行人杳杳看西月、歸馬蕭蕭向北風。漢水楚雲千萬里、天涯此別恨無窮。【韻字】同・蓬・中・風・窮(平声、東韻)。【訓読文】李録事兄の襄■(トウ)に帰るを送る。十年難多きこと君と同じく、幾れの処にか家を移して転蓬を逐(お)ふ。白首にして相逢ふ征戦の後、青春已に過ごしき乱離の中。行人杳杳として西月を看、帰馬蕭蕭として北風に向ふ。漢水楚雲千万里、天涯此の別れ恨み窮まり無し。【注】○李録事兄 劉長卿の友人らしいが、未詳。「録事」は、事件を記録する官職。書記。○襄■(「登」にオオザト。トウ) 襄州(湖北省襄樊市)と■(トウ)州(河南省トウ県)。○十年多難 戎▼(「日」のしたに「立」。イク)《江城秋霽》「万事成すこと無くして空しく日を過ごし、十年難多くして郷に還らず」。○幾処 どこ。○転蓬 北地の蓬(日本でいうヨモギではない)は草が円形に生え、枯れて根が抜けると荒野をころがる。○逐 おいかける。○白首 白髪頭。○相逢 相手に会う。○征戦 いくさに出る。出かけていって敵を攻め戦う。○青春 歳が若くて元気な時代。○乱離 世の中が乱れた憂い。○行人 旅人。○杳杳 深く暗いようす。○帰馬 帰路に乗る馬。○蕭蕭 馬が鳴く声の形容。○北風 「越鳥南枝に巣くひ、胡馬北風に依る」は、故郷をなつかしむ心をいう。○漢水 陝西省に発し、湖北省を流れて、漢陽で長江に注ぐ。○楚雲 楚(長江中流域)の地方の雲。○天涯 天の果て。転じて、非常に遠い所。○無窮 限りがない。【訳】李兄がの襄■(トウ)に帰るのを見送る。苦節十年君と共、蓬追いかけて転居する。いくさ経てのち君と会う互いに見交わす白髪かな、青春時代は世が乱れ二度とかえらぬ若さかな。闇夜を照らす西の月見ながらきみは旅に出る、帰りゆく馬嘶きていざつきすすむ北の風。漢水ながれ楚の空に雲はひろがる千万里、君との距離は遠ざかり留まる我ぞ恨めしき。
July 28, 2007
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送皇甫曾赴上都 劉長卿東遊久與故人違、西去荒涼舊路微。秋草不生三徑處、行人獨向五陵歸。離心日遠如流水、迴首川長共落暉。楚客豈勞傷此別、滄江欲暮自霑衣。【韻字】違・微・帰・暉・衣(平声、微韻)。【訓読文】送皇甫曽の上都に赴くを送る。東遊久しく故人と違ひ、西去荒涼として旧路微かなり。秋草三径に生ぜざる処、行人独り五陵に向かひて帰る。離心日びに遠ざかること流水のごとく、迴首川長くして落暉を共にす。楚客豈に労せんや此の別れを傷むを、滄江暮れんと欲して自から衣を霑す。【注】○皇甫曽 皇甫冉の弟。○赴 役目で行く。○上都 長安。○故人 古くからの友人。○荒涼 荒れ果ててさびしいようす。○三径 門へ出る道、裏門へ出る道、井戸へ出る道。『三輔決録』に、前漢の蒋元卿の屋敷には竹下に三径を開き、故人の求仲・羊仲が遊んだという。○行人 旅人。ここでは皇甫曽をさす。○五陵 唐の高祖・太宗・高宗・中宗・睿宗の墓所。いずれも陝西省にあり。富豪が多く住んでいたという。○離心 離れそむく心。○迴首 ふりかえって見る。○落暉 沈み行く太陽。○楚客 楚の地方(長江中流域)の旅人。○傷此別 別れに心をいためる。○滄江 青い川。○欲暮 いまにも日が暮れそう。○霑衣 涙で衣をぬらす。【訳】皇甫曽が長安に赴くのを見送る。東へきてから長いこと旧友たちともご無沙汰で、これから西に向かいゆく道あれはててさびしかろう。三径にはまだ草はえず、五陵めざしてきみ帰る。別れる心は流水のごとくに日々に遠ざかり、こうべめぐらし振り返りゃ川のあなたに日は沈む。楚に残るわれに此の別れ、さらに辛さを添えるのか、滄江もうじき日は暮れん、おのずと涙袖ぬらす。
July 27, 2007
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觀校獵上淮西相公 劉長卿龍驤校獵邵陵東、野火初燒楚澤空。師事黄公千戰(一作載)後、身騎白馬萬人中。笳隨晩吹吟(一作曉月吹)邊草、箭沒寒(一作青)雲落塞鴻。三十擁旄誰不羨、周郎少小立(一作有)奇功。【韻字】東・空・中・鴻・功(平声、東韻)。【訓読文】校猟を観て淮西相公に上(たてまつ)る。龍驤校猟す邵陵の東、野火初めて焼く楚沢の空。黄公に師事す千戦(一に「載」に作る)の後、身は白馬に騎る万人の中。笳晩吹に随ひ辺草に吟じ(一に「暁月吹」に作る)、箭寒(一作青)雲に没して塞鴻落つ。三十にして旄を擁す誰か羨まざらん、周郎少小にして奇功を立つ(一に「有」に作る)。【注】○校猟 柵を設けて野獣を囲い、猟をすること。○淮西相公 李希烈。○龍驤 勢い盛んなさま。○邵陵 漢代の県の名。今の湖南省邵陽市。○野火 狩猟のときに焚く篝火。○楚沢 春秋戦国時代に楚の国にあった雲夢沢。大沼沢で長江中流の湖沼地帯にあったという。○師事 先生として使え、教えを受ける。○黄公 秦の隠者、黄石公。張良に太公望の兵書を授けた。千戰(一作載)後、身騎白馬萬人中。○笳 西北方の異民族が吹く葦笛。○辺草 辺境の草原地帯。○箭 矢。○塞鴻 辺境のとりで付近を飛ぶガン。○旄 カラウシの尾の飾りのついた旗。○周郎 三国呉の周瑜。呉の孫権の武将。赤壁の戦いで、蜀の諸葛亮とともに、魏の曹操を破った。○少小 若くして。○奇功 すぐれた軍功。【訳】囲い込みの狩猟を観て淮西の相公李希烈さまに献上した詩。邵陵の東、野を囲い、君勇ましく狩りをする、篝火の煙たちのぼり楚沢の空をこがすまで。黄石公にお仕えし多くの戦経ての後、その身白馬にまたがりて万人の中かけめぐる。夕暮れアシ笛音ひびき辺境の地に詩を吟じ、放つ矢雲の中に消え塞の空のカリ落とす。三十にして将軍は誰しも羨やまざるは無く、周郎歳は若けれど戦の手柄無双なり。
July 23, 2007
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獻淮寧(一作寧淮)軍節度使李相公(一作淮西將李中丞、又作獻南平王) 劉長卿建牙吹角不聞(一作戟門)喧、三十登壇衆所尊。家散萬金酬士死(一作死事)、身留(一作持)一劍答君恩。漁陽老將多迴席、魯國諸生半在門。白馬翩翩春草細(一作緑)、郊原(一作少陵、一作邵陵)西去獵平原。【韻字】喧・尊・恩・門・原(平声、元韻)。【訓読文】獻淮寧(一作寧淮)軍の節度使李相公に献ず。(一に作「淮西将李中丞」に作り、又「献南平王」に作る) 建牙吹角喧すしきを聞(一に「戟門」に作る)かず、三十にして壇に登り衆の尊ぶ所なり。家万金を散じて士の死(一に「死事」に作る)に酬い、身は一剣を留めて(一に「持」に作る)君恩に答ふ。漁陽の老将多くは席を迴り、魯国の諸生半ばは門に在り。白馬翩翩として春草細く(一に「緑」に作る)、郊原(一に「少陵」に作り、一に「邵陵」に作る)西のかたに去りて平原に猟す。【注】○淮寧軍節度使 淮西の方鎮。治所は蔡州にあった。○李相公 李希烈。建中二年(七八一)五月に南平王に封ぜられ、八月に襄陽を攻めて梁崇義を誅し、九月に同中書門下平章事を加えられた。(一に作「淮西将李中丞」に作り、又「献南平王」に作る) ○建牙 将軍の旗である牙旗を建てる。○吹角 軍中でもちいる角笛を吹く。○登壇 将軍となる。○家散万金酬士死 家財をなげうって部下の兵士をねぎらう。○君恩 天子のご恩。○漁陽老将 安史の叛乱軍を討伐する老将。○迴席 席を避ける。謙譲の礼節を示す。○魯国諸生 魯の儒学者。○翩翩 動きが軽やかなようす。○邵陵 漢の県の名。故城は蔡州偃城県の東四十五里に在り。【訳】淮寧軍の節度使李相公に献上した詩。 将軍旗たて笛吹けば叛乱軍もなりひそめ、三十にして登壇しその身は人に尊ばる。家財を払い士に酬い、身は剣振るう君のため。漁陽の老将席を去り、魯国学者は来訪す。白馬にまたがり軽やかに春の草をばふみしめて、邵陵こえて西にゆき平原の地へいざゆかん。
July 21, 2007
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聞虞■(「眄」の「目」をサンズイに換えた字。ベン)州有替將歸上都登漢東城寄贈 劉長卿淮南搖落客心悲、●(サンズイに「員」。ウン)水悠悠怨別離。早雁初辭舊關塞、秋風先入古城池。腰章建隼皇恩賜、露冕臨人白髮垂。惆悵恨(一作夫)先我去、漢陽耆老憶旌麾(一作旗)。【韻字】悲・離・池・垂・麾(平声、支韻)。【訓読文】虞■(ベン)州の替有りて将に上都に帰らんとするを聞き漢東城に登りて寄贈す。淮南揺落して客心悲しび、●(ウン)水悠悠として別離を怨む。早雁初めて辞す旧関塞、秋風先づ入る古城の池。腰章建隼皇恩より賜はり、冕を露はにし人に臨みて白髮垂る。惆悵して君(一に「夫」に作る)を恨む我に先んじて去るを、漢陽耆老旌麾(一に「旗」に作る)を憶ふ。【注】○虞■(ベン)州 湖北省武漢市漢陽。○替 勤務の交代。○上都 長安。○漢東城 湖北省随県にあった。○淮南 唐の方鎮の一。治所は揚州(江蘇省揚州市)にあった。○揺落 秋に木々の葉が散る。○客心 郷里を離れて異郷にいる者の心。○●(ウン)水 川の名。南陽を流れる。○悠悠 ゆったりとしたさま。また、はるかなさま。○別離 わかれ。○関塞 関所ととりで。○古城 ふるい町。○腰章 腰にぶらさげた印章。むかし官吏は任命されると同時に天子から地位や感触を表徴する印章と印綬をいただいた。○建隼 ハヤブサを画いた旗。州郡の長官が赴任するさいに掲げた。○皇恩 天子のご恩。○露冕 「後漢の郭賀が荊州の刺史だったとき、明帝が南陽を巡狩し、三公の服を与え、袒を去り冕を露わにして住民に見せ、郭賀に徳が有ることを表彰した。○惆悵 かなしみなげく。○漢陽 湖北省武漢市。○耆老 老人。耆は六十歳、老は七十歳。○旌麾 旗のぼり。【訳】■(ベン)州の刺史虞遜が刺史の交替によって長安の都に帰ろうとしているのを聞き、漢東城に登って別れの詩を詠んで贈る。淮南の地に木の葉散りふるさと恋し旅ごころ、●(ウン)水の水はるばると別離を怨む我が涙。かりがね関におとずれて、秋風わたる城の池。腰の印章、ハヤブサの旗をば天子にいただいて、冕を露わに人前で白髮を垂るるはずかしさ。我を残して君は去り、漢陽老人旗おもう。
July 8, 2007
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見故人李均所借古鏡恨其未獲歸府斯人已亡愴然有作 劉長卿故人留鏡無歸處、今日懷君試暫窺。歳久豈堪塵自入、夜長應待月相隨。空憐瓊樹曾臨匣、猶見菱花獨映池。所恨平生還不早、如今始挂隴頭枝。【韻字】窺・随・池・枝(平声、支韻)。【訓読文】故人李均借(か)す所の古鏡を見、其の未だ府に帰すを獲ざるを恨む。斯の人已に亡くなりて愴然として作有り。故人鏡を留めて帰す処無く、今日君を懐ひて試みに暫く窺ふ。歳久しくして豈堪えんや塵の自から入るに、夜長くして応に待つべし月の相随ふを。空しく憐ぶ瓊樹曾て匣に臨みしを、猶ほ見る菱花の独り池に映ずるを。恨む所は平生還(かへ)すこと早(すみやか)ならざりしを、如今(いま)始めて挂く隴頭の枝。【注】○李均 楊世明校注『劉長卿詩編年校注』(人民文学出版社)によれば、李成裕の子、李揆の弟という。○借 貸し与える。古鏡恨其未獲○帰 返却する。○府 お屋敷。他人の住居の尊称。○斯人 李均をさす。○愴然 悲しい気持ちで。○故人 古くからの友人。また、無くなった人。○留鏡 無歸處、○懷君 あなたを懐かしく思い出す。○窺 そっと見る。○瓊樹 玉のように美しい木。高潔な人のたとえ。○曾 以前に。○臨匣 鏡をしまう箱。○菱花 ヒシの白い花。鏡の裏面に刻した菱花型のデザイン。○平生つねづね。○如今 いま。○挂 ひっかける。○隴頭 陝西省隴県の南西にある隴山のそば。【訳】亡くなった昔なじみの李均が貸してくれた古代の鏡を見て、それをまだ倉に返せずにいるのを遺憾に思う。李均はすでに此の世に無く悲しみにくれながら、詠んだ作。友は鏡を世に留め、遠いあの世に旅立ちぬ。返す主人を失って、君思い出しのぞきこむ。歳へて少しくもりあり、月の光を待ちわびる。きみもこの箱向かいつつ幾たび見けんこの鏡、菱の花咲く池の図を彫刻したるおもしろさ。遺恨に思うはすみやかに君にかえさざりしこと、いま隴頭の枝に掛け君に手向けるますかがみ。
June 27, 2007
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尋龍井楊老 劉長卿柴門草舍絶風塵、空谷耕田學子真。泉咽恐(一作豈)勞經隴底(一作客、一作地、又作■(「低」の「イ」を「土」に換えた字。テイ))、山深不覺有秦人。手栽松樹蒼蒼老、身臥桃園寂寂春。唯有胡麻當鶏黍、白雲來往未嫌貧。【韻字】真・人・春・貧(平声、真韻)。【訓読文】龍井楊老を尋ぬ。柴門草舍風塵絶え、空谷耕田子真を学ぶ。泉咽びて隴底(一に「客に作り、一に「地」に作り、又「■(テイ)」に作る)を経るを労するを恐(一に「豈」に作る)れ、山深くして秦人の有るを覚えず。手づから松樹を栽ゑて蒼蒼として老い、身桃園に臥して寂寂として春なり。唯(ただ)胡麻の鶏黍に当たる有り、白雲来往して未だ貧を嫌はず。【注】○龍井 各地にあって特定できない。著名なものは次のごとし。一は、福建省崇安県西南の武夷山上。一は、福建省▼(「サンズイ」に「章」。ショウ)浦県の東。一は、江西省南昌市の東。一は、山西省平定県の西の嘉山。○楊老 楊姓の老人。○柴門 しばを編んで作った粗末な門。○草舍 草葺きの家。○風塵 憂き世のわずらわしさやけがらわしさ。○空谷 人けのないさびしい谷。○耕田 田畑をたがやす。○子真 『揚子法言』《問神》「谷口の鄭子真、其の志を屈せずして、巌石の下を耕し、名は京師に震ふ」。○隴底(一に「客に作り、一に「地」に作り、又「■(テイ)」に作る) 隴山。陝西省隴県の西北より陝西・甘粛省の辺境にいたる。○不覚有秦人 桃花源の話をふまえる。○手 みずからの手で。○蒼蒼 樹木のあおあおとしたさま。○桃園 桃林。河南省霊宝県以西、陝西省◆(サンズイに「童」。トウ)関以東の地。○寂寂 ひっそりとしてしずかなさま。○胡麻 ゴマ。○鶏黍 にわとりを殺してスープにし、きびの飯をたいてもてなす。【訳】龍井の楊老人を訪問したときの作。柴の門入り草ぶきの家たずねればさまざまな憂き世の煩わしさもなく、ひっそりとした谷近くきみは田畑を耕作す。泉ちょろちょろ音立てて隴山越えたをねぎらいて、こんなに深き山なれば秦人いるを誰が知ろう。手植えの松も年ふりて、桃さく春の庭に臥す。胡麻生い鶏あそびおり畑の黍は風にゆれ、空に行き交う白き雲、清貧たもつ暮らしぶり。
June 19, 2007
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