窓辺でお茶を

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August 4, 2007
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 山本譲司著「累犯障害者 獄の中の不条理」新潮社 を読みました。

 著者は民主党議員でしたが、2001年、秘書給与詐取の罪により、実刑判決を受け、栃木県黒羽刑務所に入所します。待っていたのは、「塀の中の掃き溜め」と呼ばれていた「寮内工場」での懲役作業でした。そこには精神障害者、知的障害者、認知症老人、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者がいました。役目は刑務官の仕事をサポートする指導補助でしたが、失禁する人が多くて下の世話に走り回ったそうです。そこでは、議員時代に自分なりに一生懸命取り組んでいた福祉政策が皮相なものに思えたとのことです。

 (私はラジオで山本譲司さんのお話を聞いて、知的障害者も刑務所にいることを初めて知りました。心神耗弱というのとは違う扱いなのですね。)

 この本には、自分が刑務所にいるのがわかっていない人も登場します。「そんないうことを聞かないでいると刑務所に入れられるぞ」「刑務所は勘弁してください。この施設に置いてください」(ちょっとことばは違いましたがこんなふうな会話)などと言っている人たち。刑務所が一番落ち着く、という人。人の言うことをおうむがえしにするので、やっていないことでもやったと言ってしまう人たち。出所しても受け皿がないため、また詐欺(無銭飲食)をして刑務所に戻る人たち。廃品回収をしていて、置いてあるものと捨ててあるものの区別がわからず持って行って窃盗で捕まる人。

 著者は出所後、障害者福祉施設に支援スタッフとして通うかたわら、「触法障害者」の周辺を訪ね歩いています。服役中に会った人たちのその後を追及したところ、自殺した人、変死した人、刑務所に戻った人、ヤクザ組織にはいった人、路上生活者となった人、精神病院に入院している人などがいました。ヤクザ組織に入った人は、務所上がりもたくさんいるし、アニキも優しくしてくれるし、毎日がとても楽しいと語ったそうです。

 刑を終えた人たちを社会復帰させる更生保護施設は五体満足ですぐ就職できるような人しか受け入れず、障害者の施設は、日常生活に介助が必要な人には給付金がでるけれど、実際はもっとケアが必要な刃物やマッチを手にするような軽度で罪を犯す恐れがある人たちは受け入れるメリットがないので受け入れない。
知的障害者が犯罪を犯しやすい人たちだなどと誤解を招くことは避けないといけないけれど、マスコミはタブーにしてしまって問題を伝えていない。

 山本さんのお話とこの本を読むまで、以前読んだ「もの乞う仏陀」の世界は日本とは遠い第三世界の話と思っていましたが、そこまで行かないまでも、日本にも障害者を喰いものにする人たちがいたり、ろうあ者だけの暴力団があったり(もちろんごくごく一部の人)、日の当たらない一般の目には見えない陰の部分が存在するのですね。

 ろうあ者は耳が聞こえないけれど読み書きは私達と同じと思い込んでいましたが、実際にはろう学校では口話、読唇術の訓練中心で学力を伸ばすところまでなかなか行かないのだそうです。読唇術には限界があるので、ろうあ者にはコミュニケーションに悩み疎外感を感じている人が多いようですし、結婚も大部分がろうあ者どうしなのだそうです。手話も健常者との手話とろうあ者どうしの手話は違うのだそうです。ろうあ者と筆談すると助詞ぬきで書くそうで、ことばも独特なようで、手話もそれを反映しているので、健常者が習う手話では必ずしも通じないとか。



 もし日本のセイフティーネットがもっとしっかりしていて福祉がアクセスしていたら、起きなかった犯罪もあるのではないか、と山本さんは考えています。
被害者になる障害者のほうが加害者になる人よりずっと多いのだからそちらを先に考えるべきではないか?という意見もあるけれど、触法障害者について訴え続けるのは、彼らに視点をあてた方がわが国の福祉の実態に近づくことができ、日本社会の陰の部分も見えてくるからだ、と山本さんは書いています。

 どのエピソードもせつないですが、買春していた知的障害者の女性のことばがなんともいえません。「あたしみたいなバカでも人間なのよ」と言うので、更正させる運動をしている人が「人間なんだから買春なんかやっちゃいけない」と言うと「そうよ人間よ。でもね、あたしたちみたいな障害者はね、好きな人ができて本気でつきあってもすぐにバカがばれて捨てられちゃうの。どうせ先生だって山本さんだって、あたしのこと、女として見てくれていないでしょ。でもあたしを抱いてくれた男の人はみんなやさしかった」


 新潮社らしくない本、と思ったのは偏見かしら?





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最終更新日  August 4, 2007 12:58:23 PM
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