風雲 いざなみ日記

2006年12月18日
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この世の名残り、夜も名残り、


死に行くこの身をたとうれば、あだしが原の道の霜。


一足ずつに消えて行く、夢こそ夢の哀れなれ。


あれ数うれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、


残るひとつが今生の、鐘の響きの聞きおさめ。


寂滅為楽と響くなり・・・



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曽根崎心中



元禄十六年(1703)四月七日の早朝、大阪 内本町の醤油問屋 平野屋の手代 徳兵衛(当時25才) と、北の新地の遊郭天満屋の 遊女お初(当時19才) とが、曽根崎の梅田堤で心中をします。 心中の動機については、徳兵衛は金銭トラブルと江戸転勤に悩み、遊女お初は田舎に身請け話が進んでおり、このままでは互い仲が引き裂かれてしまうと将来を悲観した末のことでした。



北の新地の遊郭天満屋の遊女お初が、客に連れられて観音巡りをしていた折り、生玉神社の茶屋で一休みしているところに、ちょうど得意先廻りを済ませた徳兵衛が通りかかりました。 若い二人は、こうして出逢い、やがて恋に落ちるまでそれほど時間は必要ありませんでした。



平野屋の主人の 九右衛門 は徳兵衛の叔父で、働き者の可愛い甥っ子の徳兵衛の将来を思い、女房の姪を徳兵衛の妻にしようと徳兵衛に縁組みを迫ります。 徳兵衛は、この縁談を逃れるため、金の工面に奔走し、お初に逢うこともままならない日が続いておりました。



そんな折も折り、徳兵衛は友人の 久平次 に一時の借金を頼まれ、やっとの思いで都合した金を久平次に貸してやりますが、これが後に仇となって、逆に久平次の悪巧みで着服の罪人に仕立てられ、窮地に追い込まれることになります。 突然、降って湧いた縁談に転勤話し、それに金と義理の板挟みとなり、苦しめられ、追いつめられ、思い詰める徳兵衛でした。



一方、お初の方でも、不意にふって湧いた身請け話に心を悩ませ、恋しい徳兵衛にもここしばらく逢うことが適わず、一人で気を揉んでいました。 そして、お初は逢うやいなや徳兵衛を責めて恨み言をいいますが、逆に徳兵衛から打ち明け話に、お初は事のすべてを悟ります。 こうして、座敷で徳兵衛が偽版を使ったなどと偽り事を言い触らす久平次を前に、打掛けの裾に徳兵衛を匿いつつ、心中を固く心に決めたのでした。



やがて、夜も更けて皆が寝静まった頃、天満屋を抜け出しした二人は、手に手をとって曽根崎の森へと向かいます。



暗闇に足を取られては何度も転びながら、それでも二人の手はしっかりとお互いを握りしめ、森を抜けてゆきました。 そして、ようやく辿り着いた梅田の堤。 ちょうど松の木と棕櫚(シュロ)が夫婦のように寄り添った根本までやって来ると、二人はここを死出の旅路の場所と定めます。



青い月に照らされる中で、二人は一時の名残を惜しむように長い間お互いの顔を見つめ合います。 そして涙を流し、 "来世では必ず夫婦に" と誓って肌を寄せ合い、互いの腕を帯で一つに結びました。  「潔く死のう・・・」 そういいながらも、七首(あいくち)を抜いた徳兵衛の手が震えます。  「嗚呼、もう夜が明ける・・・」 夜風に乗って、聞こえてくるのは寺の読経の南無阿弥陀仏。



徳兵衛の顔を見据えて迷いを断ち切るように 「早う殺して殺して」 と、覚悟したお初が絞り出した言葉。 お初に促され、覚悟した徳兵衛は、お初の着物の胸を開いて、匕首(あいくち)で一刺しし、血の滴る七首で自らの喉笛を一気に掻き切ってお初の上に重なりました。こうして、二人の悲恋は心中によって幕を閉じたのでした。 ちょうど、東の空は少し明るみ、西に傾きかけた蒼い月が、美しく二人の骸を照らしましていました・・・。




お初天神(露天神)



徳兵衛とお初の、悲恋の舞台となった梅田から北新地の界隈は、今では大阪の中心地となっています。 曽根崎には、太宰府に流される途中の菅原道真が 『露と散る 涙は袖に朽ちにけり 都のことを思ひいづれば』 と、詠んだ歌に由来した露天神がありますが、徳兵衛とお初の心中事件以降、いつしかここは 『お初天神』 と呼ばれるようになりました。



近松門左衛門は、この心中事件を "世話浄瑠璃" の題材として取り上げ、元禄十六年(1703)五月、大阪竹本座で 『曽根崎心中』 が上演されるやいなや舞台は未曾有の大ヒットとなります。



近松門左衛門



近松にとっては浄瑠璃の処女作で、浄瑠璃舞台から一時は心中が大流行し、社会現象にまでなったため、享保八年(1723)には心中ものの出版や上演が幕府によって禁じられる事態にもなりました。




誰かよう 月夜の逢ふ瀬 いにしえの 悲恋憂うか 五位鷺の声  (わだつみ判官愚歌)




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最終更新日  2006年12月18日 00時43分56秒
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