カイバーマンのお仕事2

カイバーマンのお仕事2

2007年01月22日
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カテゴリ: BLEACHパラレル
「変な服!」


事の起こりは、高校生限定の某演劇大会だったりする。空座高校演劇部もこれに参加すると聞いて、仰天したのは手芸部のメンバーだ。
演劇大会とほぼ同時期に、これは毎年恒例の、素人によるファッションショーが某大学で開催される。例年、舞台慣れしている演劇部のメンバーにモデル役を依頼していたのに、今年はそれが望めなくなったのだ。
部員総出で「スタイルが良くて歩き方が綺麗な生徒」をピックアップ、どうにか必要数を口説き落としたのだが、この中にとんでもない難物が混じっていた。
1年2組、鳴神 地留。
「お人形さんみたい」と言われるルックスと颯爽たる所作、非常に高い自己顕示欲、とモデルをやるために生まれてきたような娘だが、問題は、
「こんなセンスの悪い服を着れっていうの?」
……自分の趣味に絶大な自信を持っているところにあった。


堂々と言い返したのは部長の石田だ。一目で彼女を気に入り、嬉々としてデザインをしていたのに、今では毎日喧嘩ばかりしている。喧嘩はしても意見は出来るだけ取り入れようとしているので、喧喧囂囂で全く作業が進まない。それほどポリシーが無い某部員が、担当の交代を申し出たが、「逃げたくない」で一蹴された。
部長に作業を手伝ってもらう気でいた部員たちは既に半泣きだ。
鳴神ははっきりした好みを持っていたが、全くの素人の上に画が下手で、「こういうのがいい」と上手く説明できなかったのだ。

「石田君、間に合いそう?」
ずけずけと聴いたのは、部員の中で最も石田と親しい井上である。非常にレベルの高い容姿の持ち主で、自分がデザインした服のモデルをすることが初めから決まっている。
……石田や鳴神以上特異なセンスの持ち主なため、「引き受け手がいない」という陰口も叩かれていたが。
「布地と、ミニのワンピースにすることだけは決まっているんだ。ただ、デザインの点で中々折り合いがつかなくて。自信たっぷりのくせに素人だから要領を得なくて困るよ」
「服を見せて貰えばいいんじゃないかな」
「服?」
「普段着てる服を借りるの。そうすれば、どんなのが好みかわかるよ」
「……なるほど」

「井上さん、後で鳴神さんに頼んで貰えないかな」
「え?あたし?」
「男に服を貸すなんて嫌だと思うから」
井上は首を傾げた。
「友達でもない相手に貸すほうが嫌じゃないかなあ」

「鳴神さんをスカウトしたのはあたしだけど、それまでは喋ったこともなかったんだよね。引き受けてくれたのも、義理とかじゃなくてストレートに「やってみたかった」からだし。鳴神さんは可愛いけど態度がきつくてクラスメートともあまり口を利かないらしいし、ガンガン言い合える石田君のことは、結構信用してると思う」
「でも僕は、彼女の個人情報を全く知らない」
「石田君と同じ蠍座で一人暮らし、お昼は毎日購買、サンドイッチがお気に入り!」
「……当人に聞かなきゃ意味が無いよ、井上さん」
「大丈夫!スリーサイズも靴のサイズも知ってるなんて、ある意味彼氏以上だから!」
などと話しているところに、井上の親友の有沢が駆け込んできた。
「織姫!」
完全に形相が変わっている。
「鳴神が鍵根にとっ捕まったって!」
二人は顔を見合わせた。
「何処に?」
「進路指導室」
石田は決意の表情で立ち上がった。此処で彼女に脱落されては困るのだ。
「頑張れ石田君!此処が男の見せ所!」
井上が無責任に場を盛り上げた。

鳴神は、成績はかなりいいのだが、一部の教諭たちには完全に睨まれていた。基本的に反抗的なのだ。
体育教師の鍵根は、古典的なタイプの憎まれ役で、有沢の幼馴染みの黒崎なども、しょっちゅう難癖をつけられている。
「鳴神、お前、夕べは何処にいた?」
「自分の家にいました」
そっぽを向いたまま答える。
「10時過ぎに、繁華街をうろついているのを見た奴がいるんだぞ」
「知りません」
冤罪ではない。事実である。しかし認めるわけにはいかない。
「あんな時間に何をしていたんだ!」
「……」
何をしてたっていいじゃないか、と言いたいのをぐっと堪える。愛想というものが凡そ欠落しているので、味方はどこにもいない。ただ、しらばっくれるしかないのだ。
……味方なんかいない。
モデルの真似をしたかったのに、とぼんやり考えていたら、
「失礼します」
返答も待たずにドアが開いた。
「何だお前らは!」
鍵根は怒鳴りつけたが、それで済ませたのは、1年でも五指に入る優秀な生徒で、勿論素行もいい石田と井上だったからだ。
「鍵根先生、鳴神さんはなんの疑いをかけられているんでしょうか」
石田は優等生らしく、落ち着いた口調で聞いた。
「昨日、隣町で夜遊びを」
「してないってば!」
「黙ってろ!」
「何よ……!」
石田はくいっと、眼鏡のフレームを持ち上げた。
「先生、それは人間違いです。鳴神さんは、夕べ僕の家に来ていましたから」
「……はあ?」
鍵根と同時に鳴神もあんぐりと口をあけたが、幸い彼は石田の顔を凝視していたので気がつかなかった。
「彼女には部活に協力して貰っていますし、一人暮らしなのに料理が下手でろくなものを食べていないということなので、夕飯を作って上げたんです」
「ちょ……」
ちょっと待て。勝手に人を料理下手にするな。
鳴神は状況も忘れて言い返そうとしたが、井上が
「ずるい石田君!あたしも呼んでくれればいいのに」
と、やはり場にそぐわぬ突込みを入れたお陰で不発に終わった。
「御免井上さん、鳴神さんの名誉に関わると思ったから」
「じゃあ今日石田君ちに行っていい?」
「いいよ」
鍵根はぽかんと口を開けたままだ。彼の感覚だと、石田のような経歴に傷の無い優等生が、夜半女子を次々家に引っ張り込むなんてありえないのだ。
「先生、勿論僕と鳴神さんの間に疚しいことは何もありません。一緒にご飯を食べて、部活の話をしただけです。誰が何処で彼女を見たと言っているのか知りませんが、それはその人の勘違いです」
「……」
鍵根は返答に詰まった。彼女を見たのは彼自身ではない。そして、石田や井上の堂々とした態度を見ると、今時の女子高生が仲のいい男子生徒の家に放課後遊びに行くということは、それほどおおごとではないらしい。
結局、鍵根も鳴神当人も殆ど喋れないまま、なし崩しに無罪放免となった。

「何考えてんの、あんたたち」
鳴神がまともに喋れるようになったのは、学校を出てからだった。
「下手すると、とばっちりで停学くらい喰らったかもよ」
「それでも仕方ないさ」
石田は新しいデザインを考えながら答えた。
「君がいなければ、どうせショーは失敗だからね」
「……」
どう答えて言いかわからず、結局黙り込んだ彼女を、井上はにこにこしながら見ている。

三人がかりで一晩詰めて、どうにか出来上がった服は、鳴神にとても良く似合っていた。

(1月15日 前日記より)





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最終更新日  2007年01月22日 07時12分01秒
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