『もしも彼女にキスすれば…』 400 ブロウズ 「...If I Kissed Her I'd Have to Kill Her First...」400 Blows(84)
ファンキーでダンサブルなサウンドでロンドンのクラブ・シーンを席巻している話題作!! A面 1.グルーヴ・ジャンピング- Groove Jumping デクラレイション・オヴ・インテント- Declaration of Intent (Re-Mixed) 3.ゼム・ザー・ヒルス- Them Thar Hills 4.ラヴ- Love 5.イントロダクション- Introduction B面 1.コンシャンス- Conscience 2.フォー・ジャッキー・M 3.ラップウイング・チャーント- Lapwing Chant 4.メン・オブ・ザ・ディヴァイン・ウインド- Men of Divine Wind (The Kamikaze) 5.パースペクティヴ 3400ブロウズ(400 Blows)といえば、59年に公開されたフランソワ・トリュフォー(François Truffaut)監督の仏映画「大人は判ってくれない(Les Quatre cents coups)」の英題が「The 400 Blows」であるが、400ブロウズは81年に英国で結成された、インダストリアルやらポスト・パンクやらのバンドだ。 結成時のメンバーはアンドリュー・ビア(Andrew Beer)、アレクサンダー・フレイザー(Alexander Fraser)、ロバート・テイラー(Robert Taylor)の3人らしいが、アルバム制作時にはトニー・ソープ(Tony Thorpe)が加わっている――って誰一人知らないけど。
「もしも彼女にキスすれば…(...If I Kissed Her I'd Have to Kill Her First...)」なんて甘ったるい邦題だなぁと思いきや、原題をよくよく見てみると前半部分しか訳されておらず、後半部分に何やら物騒な単語があるではないか。この原題を直訳すると、 「...もしも私が彼女にキスしたら、私は最初に彼女を殺さなければならないでしょう...」となる。 このタイトルは、70年代初頭にカリフォルニア州サンタクルーズで次々と8人の女性を殺害し、屍姦後にバラバラにして遺棄したうえ、自身の母親とその親友までをも殺害した連続殺人犯であるエドモンド・ケンパー(Edmund Kemper)の発言からの引用である。 エドモンドが子供の頃、姉のスーザンが彼をからかって、なぜ先生にキスしようとしなかったのかと尋ねたとき、彼は「私が彼女にキスするなら、私は最初に彼女を殺さなければならないだろう(If I kiss her, I'd have to kill her first.)」と答えたという。ひいッ! 微塵の甘さもなかった!
計10人を殺害したエドモンド・ケンパーは母親の頭を切断してダーツボードとしてダーツを投げつけた後、遺体をクローゼットに隠して一旦は逃走するも、自分から警察に電話して自首した。彼は死刑を求め、「拷問による死」を要求したものの、73年当時カリフォルニア州では死刑制度が一時的に廃止されていたため終身刑となり、現在でも模範囚として収監されているそうな。
とまぁ邦題だと分からない、ゾクっとするアルバムタイトルであるが、B-2 “フォー・ジャッキー・M(For Jackie M)” で更にゾクゾクしよう。 この曲は――いや、曲ではないわな――これは(一応バックに不気味な音は流れているけど)81年6月12日金曜日深夜に、NBCの「Tomorrow Coast to Coast」(ホストはトム・スナイダー(Tom Snyder)の特別版として放映されたチャールズ・マンソン(Charles Manson)の獄中インタビュー音声である。 “マンソンは60年代末から1970年代の初めにかけて、カリフォルニア州にて「ファミリー(マンソン・ファミリー)」の名で知られるコミューンを率いて集団生活をしていた。69年のテート・ラビアンカ殺人事件で悪名高い。”(Wikiさんより) 米国のロック・ミュージシャンであるマリリン・マンソン(Marilyn Manson)の芸名が、美の象徴であるマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)と悪の象徴であるチャールズ・マンソンから取られていることでも知られている、悪のカリスマ的カルト指導者である。 マンソンも数々の殺人示唆により71年に死刑判決が下されたが、エドモンド・ケンパーと同様に当時は死刑制度が一時的に廃止されていたため終身刑となり、17年に没した。 スナイダー「あなたがここを出たら、再び殺し始めると思う人がたくさんいます。(If you got outta here, there are a lot of people who think you’d start killing again.)」 マンソン「再び?あなたたちは誤った情報を与えられています。私は誰も殺していません。(Again? You guys are misinformed. I haven’t killed anyone.)」
さて、このアルバムは英国のインディー・チャートで3位になったらしく、シングルカットされた “グルーヴ・ジャンピング(Groove Jumping)” がインディー・チャートで22位、“デクラレイション・オヴ・インテント(Declaration of Intent)” も同24位になっている。 楽曲にもきちんと邦題が付いていれば、もっと万人も興味が持てたかもしれない。…いやいや、元々万人受けを狙っているアルバムではないわな。たまたまこちらが見つけちゃっただけで。