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2011.10.26
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カテゴリ: 昭和期・後半

『震える舌』三木卓(新潮文庫)

 近代日本文学において、病気というテーマは、結構たくさん書かれているものでありますね。(世界文学においてもそうなのかどうかは、わたくし寡聞にして、って寡聞なことが多すぎるんですけどー、存じ上げません。ごめんなさい。)

 描かれる形は、まー、常識的に整理して、二種類ですかね。
  (1)自己の病気   (2)他者の病気

 また、別の部立てもできそうな気もします。
  (a)肉体の病気   (b)精神の病気

 さらにこの四つは、順列組み合わせができそうですね。ついでに、この組み合わせに沿って、私が思いついた小説作品をひとつずつあてはめてみますね。

  (1-a)『いのちの初夜』北條民雄
  (1-b)『狂人日記』色川武大
  (2-a)『風立ちぬ』堀辰雄
  (2-b)『死の棘』島尾敏雄

 うーん、名作が並びましたねー。それに、まだまだこのほかにも一杯作品を挙げることができそうですしね。例えば志賀直哉の『和解』とか、他の病妻ものの小説もいっぱいありそうですし。

 と、そんな日本文学と病気の蜜月関係でありますが、さすがに近年になりますと、そんな、何といいますか、ちょっと余裕をかましたような作品ばかりではありません。(って、そんな見方は、かなりバイアス掛かっていますかねー。)
 本作もそんな作品です。

 一方で、小説と病気の関係は、ホラーとかサスペンスとかのジャンルでもひょっとしたらたくさんの作品がありそうであります。ただ、その分野については、わたくし全く疎いもので、ほとんど存じ上げません。(また「存じ上げません」で、まったく、困ったものですなー。)

 しかし、今回冒頭の小説を読み始めて、しばらく読み進んだ時の感覚は、ちょうど瀬名秀明氏の『パラサイト・イヴ』を読んでいた時のものととてもよく似ていました。病気がテーマのホラー小説ですね。

 特に前半の、平凡な日常生活が一変して、幼い娘が犯されてしまう病気の病名が分かるまでの部分は、極めて巧みなサスペンス仕立てになっており、大いにハラハラと読ませるものであります。
 また文体が、無機質的な、カリカリとした硬質な感じのもので、スリリングな展開を大いに盛り上げています。

 ちょっと、顰蹙を買いかねない「はしたない」ようなことを書きますが、確か筒井康隆が、カミュの『ペスト』を取り上げて、あれは循環器系の病気だから雰囲気がある。もしも消化器系の病気がテーマだったらああはいかない、ということを書いていたのを思い出します。もちろん私は、筆者の意図通りぎゃははと大笑いしながら、その文を読んだのですが。

 今回の病気が、破傷風なんですね。
 ……うーん、雰囲気のある病気ですねー。(もちろん、これはギャグであります。すみません。)

 それにまたこれが、幼い子供が、いたいけな女の子が、罹ってしまうんですね。
 これが、つらい。
 わたくし、いたずらに馬齢を重ねて参りまして、本当に無駄に年ばかり取ってきましたが、近年、子供がひどい目に遭うような作品(例えば『火垂るの墓』なんか)を見たり読んだりしますと、もうドーーッと涙が出てきてどうしようもない状態になります。

 本作も、何度となく泣きました。
 実は、だからなんですね、今回の読書報告が、読んだ作品内容とあまりそぐわないような、少し「低回的」な書き方をしているのは。
 もうちょっと真正面から書き始めますと、これまたわたくしと致しましては、大変な状態になりかねないのであります。

 というわけで、文体的にはストイックな書きぶりと、内容的には、前半のドラマティックでサスペンスな展開と、後半のヒロイックな治療描写が(能勢という女性の主治医がとてもいいです)、それこそカミュの『ペスト』を彷彿とさせるようで、大いに読ませる作品となっていました。
 名品であります。


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Last updated  2011.10.26 06:40:25コメント(0) | コメントを書く
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