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2011.12.17
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カテゴリ: 昭和期・後半

『遠雷』立松和平(河出書房新社)

 昨年亡くなった本書の筆者につきまして、私はほとんど知りません。
 わずかに知っていたことと言えば、筆者に関わる「盗作」事件が確か複数回あったという報道と(だったと思うんですがー)、後、ニュース番組のレポーターをしていたお姿を何回かテレビで見たことがあるという程度であります。

 そして、必然的に(って、なぜ必然的なのか、極めて私的にバイアスの掛かった人物評価なんですが)筆者に対して私は余りよい印象を持っていなかったんですね。
 (ちょっとだけ説明しますね。「盗作」云々について、それを知って良くない印象を持つのはとりあえず理解していただけると思いますが、テレビのレポーターについては、これはまー、私の偏見であります。小説家がそんなことしてる場合やないやろー、という偏見です。すみません。)

 ところが(というか、そんなやつに限ってという感じで)、私は筆者の小説を今まで全く読んでいなかったんですね。
 (ちょっとだけ説明しますね(2)。人物評価の際に、「本職」といいますか、その人物が最も心血を注いだ対象について全く無知なまま、周辺的な事柄だけをもって評価するという「風潮」が、とっても多いと思いません? 「~以前の問題だ」みたいなフレーズとともに……って、それはおまえのことだろう! あ、そうでした。どうもすみません。)

 そこで、反省して(という訳でもありませんが)今回、冒頭の作品を読みました。
 よくできていますねー。感心いたしました。まるで、中上健次ばりではありませんか。『枯木灘』みたいですよ。(ただ、都会近郊の農村を書くと、今ではすぐに『枯木灘』っぽく思ってしまうような気がわたくし、するんですが。)

 とにかくとても感心しまして、ちょっとネットで調べてみたんですね。
 すると、お亡くなりになるまでにとってもたくさんの著書があることをまず知りました。また、芥川賞候補にも二度なっていらっしゃる事を知りました。そして、二度取り損なった候補作の次の作品がこの『遠雷』なんですね。

 うーん、実に立派なものであります。
 この3作目というのはちょうど、村上春樹でいえば『羊をめぐる冒険』になり、村上龍で言えば『コインロッカー・ベイビーズ』になり、そして、中上健次でいえば『枯木灘』になるんですね。(……えー、ちょっとアバウトな作品数計算になっていますがー。一応、習作的なものは除外して、ってことで許してください。)
 つまり本作も、名作率がとっても高いイニングでの作品ということで、なるほどさもありなんという感じなわけです。

 (ちょっとだけ説明しますね(3)。しかし、立松氏にとっては、本作を書いたおかげで芥川賞を受賞しそこなってしまいましたね。芥川賞の対象作品は、新人作家の中編までの小説であります。村上春樹が同じくこのパターンで芥川賞を逸し、一方村上龍と中上健次は3作目までにすでに受賞していました。ただ、本作は野間文芸新人賞を受賞していますから、それでよいとも思いますが。ついでにこの3作目で野間文芸新人賞というパターンも、村上春樹・村上龍と同じであります。)

 ところが、これも私の偏見なのかも知れませんが、このように中上健次・村上龍・村上春樹と並べると、えー、誠に申し訳ないながら、本作の筆者は少し、すこーしだけ、ちょっとだけ一般的評価が低いような気がしません?
 ……うーん、やはり芥川賞の力ですかねー、村上春樹は例外としてですがー。

 さてとにかく、本書は、高度成長期の急激な都市開発に見舞われた旧農村に住む様々な人々の生活を描いて、なかなか読み応えのあるものとなっています。
 一言で言うと、土地成金となった旧弊な旧農家と、新興住宅地の団地に住む浅薄な都市生活者の、ともに猥雑で浅はかな人間模様を(ということは、すべての人間の、ということでもありますかね)、一文一文を積み重ねるように、かつ、素っ気ないような文章で描いています。

 そんな田舎の旧弊な嫌らしさと新都市の沙漠のような殺伐さに対比する形で、主人公・満夫青年のトマトのハウス栽培の様子と、彼の恋人・あや子との日本的でもありアポロン的でもあるような肉体と性が描かれます。
 特に愛し合う二人の姿は、猥雑な舞台にふさわしい猥雑さをも含みつつ、この時代にふさわしい一種「純愛」といってもよいような描写が瑞々しく(あたかも真っ赤に熟すトマトと重なり合って)、とても好感の持てるものとなっています。

 ただ、作品の視点を、主人公・満夫に完全に寄り添う形で設定したため、クライマックス部分の友人の事件の書き込みが不足しているように感じられ、またそれ以外のエピソードについてもやや重量感に欠けているようで、あれだけ手間暇をかけて作り出した作品世界の印象が、後半から終盤にかけて弱くなったのは、少し残念な気がします。

 とはいえ、私としましては、久しぶりに作者の実力が大いに感じられる作品を読んだという思いでありました。いえ、堪能いたしました。


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Last updated  2011.12.17 08:56:30コメント(0) | コメントを書く
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