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2019.08.25
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カテゴリ: 昭和期・後半男性
『ヨッパ谷への降下』筒井康隆(新潮文庫)

 本文庫には、副題として「自選ファンタジー傑作集」と付いており、筆者の多くの新潮文庫の短編集から作品を集めた一冊という形になっています。筆者の新潮文庫の最新ラインナップはこのパターンで、後、「ホラー」「ドタバタ」「グロテスク」のテーマで6冊出版されています。

 で、そのシリーズの「ファンタジー」テーマの本書ですが、13作の短編小説が収録されていますが、私はとっても出来がいいなあと感心しました。
 実はつい直前に「ドタバタ」テーマの1冊を読んだのですが、うーん、これはちょっと、好悪というレベルで、私は楽しく読むことができませんでした。

 今回は「ファンタジー」ということで、そもそもファンタジー小説とは何かという事について、私はよく知っていなかったのですが、これも先日別の本を読んだ時に、ファンタジー小説とSF小説の違いを少し学びました。

 まずSF小説というのは、現代のさまざまな自然科学理論をベースにし、そこから延長線上に伸びた世界を描くもので、一方のファンタジー小説は、そんなベースとか延長上理論を特に必要としない世界を描く小説であると、かなり雑駁なまとめ方で申し訳ありませんが、えー、大体合っているでしょうか。

 だとすると、ファンタジー小説というのは、ひょっとしたら私のわりと好きな、現実世界からの「浮遊」めいたものを描く小説に重なるのではないか、と。
 だから、読み終えた時に、うーん、なかなかいい短編集だなあ、と感じたのではないかなと、そのように思いました。

 13作中、私はその半分以上の作品に好感を持ちました。
 この「好感率」(実は60%くらい!)は、なかなか高い値だと思います。短編小説集って、一冊まるまる読んでも、いい話しだな、上手に書いてあるなと感じるのは1、2作だけで、後は、ちがうやろーと毒づきながら読むというのが多いように思います。(まー、本書が何冊かの単行本からの傑作集だからだといえば、その通りではありましょうが。)

 その中でも、特に私が興味深く読んだのは、『ヨッパ谷への下降』『家』『エロチック街道』の3作で、どれも掲載された雑誌は「新潮」と「海」という、純文学系の雑誌でした。(やはり、私の好みっぽい選び方ですかねー。)

 まず、『ヨッパ谷への降下』ですが、これは少し短いですね。小粒で可愛いという気もしますが(上記3作以外で割と気に入った他の作品もみんな「小粒で可愛い」という感想を私は持ちましたが)、でも少し物足りないんじゃないか、もう少し書き込んでも十分膨らむ余地を持つんじゃないかと思いました。

 ただ、「ヨッパグモ」の生態という想像力の中身と方向性について、これはひょっとすると高く評価すべきものじゃないかと思いました。ただし本当のところをいえば、私はこの小説を読みながら、よくわからないでいました。それについては、最後に少し考えてみたいと思います。

 『家』という作品も、なかなか好短編だなと思いました。
 この小説を、筆者は1971年に発表しているんですね。あの『虚人たち』が78年で、『夢の木坂分岐点』が87年ですから、これは、そもそも筆者のキャリアの初期に書かれたといってよく、今更ながら、私は少し感心してしまいました。

 ただ、『エロチック街道』でも同じですが、描写がいかにも息苦しい。もちろんそれは筆者の技巧でもあるのでしょうが、見た端からゴリゴリと味気なく写し取っていくような描写は、細かく読むと少しいびつな所、正しく表せていないんじゃないかという個所を持っているように思います。これは、意識的な筆者の技巧なのでしょうか。

 ただそんな偏執的な視覚的描写がうんざりするほど続いていくからこそ、『エロチック街道』のラストシーン、温泉隊道の百メートルくらいのスロープを若い娘と抱き合いながら一気に滑り降りていくという場面が、この上なく瑞々しく感動的に、そしてエロチックに描かれているのは確かであります。

 実は私はこれらの3作を読みながら、少し戸惑っていました。
 これは優れた文学なのだろうかということを、つい考えていたんですね。
 それは結局のところ、私が思っている文学とは何なのか、自分なりに一応理解していたはずの文学とは本当のところどんなものだったのか、といったことを改めて考えるということで、そして、私はそこに戸惑っていました。

 もちろん、そういうふうに「心」を不安にさせるということが高い文学性の現れであるという理解は、私の貧しい文学経験からでも、納得しているつもりではあるのですが。


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Last updated  2019.08.25 11:08:14
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