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chiko619 @ Re:新参者(09/22) 「新参者」読みました。 東野圭吾さんは、…
kimiki0593 @ 相互リンク 初めまして、人気サイトランキングです。 …
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ はじめまして^^ 先ほどこのロングインタビューを読み終え…
2014.08.28
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『うつ病の真実』 の野村先生による一冊で、2002年9月初版。
 本著では、精神医学には二つの潮流があるとし、
 一方が脳精神医学で、グリーンジンガーやクレペリンによる理系的発想、
 もう一方が心理主義医学で、メスメルやフロイトによる文系的発想。

 日本の大学精神科医局は、それぞれの伝統や教授の研究テーマにより、
 大まかに脳精神医学派と心理主義派に分かれている。
 そこで、どちらのタイプの門を叩くかによって、
 精神科医は、理科系と文化系の二つのタイプに分かれていく。


最新の科学知識を自ら得ることに努め、脳の検査を要求し、薬に期待するタイプと、
カウンセリングや心理療法、心の触れ合いを要求するタイプ。
医師と患者が同じタイプなら、当然相性はよくなる。

著者は、この二つの方向を統合することが重要だとする。
なぜなら、心は最下層に「遺伝子」があり、
その上に「生育的環境」「脳機能・性格」「今の環境」があって存在し、
周囲の「ストレス」や「サポートシステム」が関係してくるからだ。

   ***

次に「精神科の診断」については、こう述べている。

  精神科の病気が研究が進んだとはいえ、まだまだ原因やメカニズムは明らかでない。
  しかし症状の集まりというのは確かにある。

  とりあえず症状だけで標準的な病名を作ることにしてはどうか。
  この病名は人間が会議で定義を決めたものだから、真実ではないかも知れないが、
  その分明確で分かりやすくすることができる。
  まずこれで診断名をつけ、それからデータを集めて、
  真実にどのくらい合っているかを調べて、


このようにしてDSM-4は定められた。
そして「統合失調症」「うつ病」「不安障害」「摂食障害」「自律神経失調症」について、
著者は、それぞれのケースを示しながら、説明をしていく。
ところで、「うつ病」の治療については、次のような記述も見られた。

  通電療法に続いて注目されるのは、磁気刺激療法である。
  これは十年くらい前から欧米で行われるようになり、
  難治性に限らずうつ病一般の治療法の中心となる兆しも見えている。(中略)
  磁気刺激の場合、麻酔が必要でもないし、けいれんが生じることもない。非常に穏やかだ。(p.110)

私は、 『治す!うつ病、最新治療』 を読んで、
「TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)」という言葉を初めて知ったが、
磁気刺激療法自体は、既に随分昔から行われていたということが分かった。

   ***

続いて、「日本の精神科はどんなレベルか」について、病床数から考察している。(2002年時点)
日本の病床数は、1960年代まで、入院患者数は世界でも少ない方だった。
しかし、その数を世界各国が、1980年頃から急速に減らしていったのに対し、
日本は、65年、70年とうなぎ上りに増えたまま高止まりし、今やダントツの多さになっている。

これは、日本で精神障害が特に多く発生するためではない。
それは、ノーマライゼーションという考え方が世界中に広がったためである。

つまり、「精神障害者を囲い込み、医療を施す」という考え方が基本であった国々が、
「これは差別や特別視に繋がりかねない」として、時代の変化と共に、
「障害者も通常の環境で共に生きる」という思想へと、次第に変換された。
60年代まで世界一の入院数であった米国も、急降下という感じでその数を減らした。

欧米では、ボランティア団体、宗教団体などの、コミュニティ活動が比較的しっかりしており、
障害者を支えやすい土壌があったため、それを基盤として地域に施設を作り、
行政もそこに予算を投入、「医療」ではなく「福祉」として、精神病院を退院した患者を支えた。
ところが、日本では、それがうまくいかなかった。

それは、地域に精神障害者の施設を作るとなると、地域住民に反対の声が強かったり、
無関心だったりで、積極的な動きが取れなかったから。
この根底には、障害者に対する偏見の問題がある。
精神病院が障害者の生活の場として残らざるを得なかったのである。

しかし、生活の場に要する費用を医療費で支払うのは、やはり妙な話であり、
精神障害、特に統合失調症への対応は、
「医療から福祉へと軸足を移すべき」というのが、著者の意見である。

   ***

続いて、著者は、精神科医療を受ける場の
「精神科病院」「総合病院」「精神科クリニック」の特徴と課題について述べている。

「精神科病院」は、ほぼ精神科だけで構成される病院で、「単科病院」とも呼ばれ、
日本の36万病床の精神科病床のうち、95%が精神科病院のベッドであり、
そこに入院している人の6割が統合失調症で、平均入院期間は380日だという。
管理者の精神保健福祉法に対する意識の差から、病院間に著しいレベル差があるとも。

一方、「総合病院」の中で、精神科のベッドを持っているのは2割強しかない。
欧米では大半の総合病院に精神科のベッドがあるにもかかわらずだ。
それは、日本の精神科の医療費が極端に安く設定されていて、経済的に成り立たないから。
また、軽い精神障害の急性期の治療をイメージしているため、重い精神病状態への対応力は弱い。

「精神科クリニック」は、その医師の元勤務先が精神科病院か総合病院かで性質が変わってくる。
精神科病院に勤めていた者なら、統合失調症を長年見慣れているが、
うつ病の診察には詳しくないかも知れない。
総合病院に勤めていた者なら、うつ病や神経症の治療に強いが、
統合失調症の社会復帰施設などは作らない場合が多いとのこと。

さらに、日本にしか存在しない「心療内科」についても言及している。
これは「心身症」を専門に診る科で、本来は内科の一分野である。
ところが、そのイメージから、本来精神科の診察を受けるべき患者がやってくることもあり、
その場合、心療内科医は本来専門でない患者を診るという歪な形となっている。

   ***

本著は、もう十数年も前に発行されたものだが、
精神科というものを知る上では、大変重要な知見を私に与えてくれた。
これをベースに、また新しい知識も取り込んでいきたいと思っている。  





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Last updated  2014.08.28 12:01:43 コメントを書く
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