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こってり系オルガン盤(その2)~ひと捻りが効いたジミー・スミスの代表盤 前回の『クレイジー・ベイビー』に続いて、オルガン・ジャズの第一人者の典型作としてお勧めの盤がこの『ザ・キャット(The Cat)』である。1956年からブルーノートで多数の録音をこなし、数々のアルバムおよびシングル盤を発表したジミー・スミスだったが、売れっ子となった彼は、やがて大手レコード会社からのオファーを受ける。結果、1963年からはヴァーヴへと活動の場を移すことになった。以上のような移籍の経緯(“Incredible”というニックネームがそのまま引き継がれていることからして、この「引き抜き」は、ある種円満だったのではないかとの見方がなされている)を経て、メジャーなレーベルで録音され、彼の代表作として知られるようになったのが、本盤というわけである。 『ザ・キャット』の特徴は、何といってもラロ・シフリンのアレンジと指揮である。このアレンジのためにホーン・セクションは総勢15名ほどが集められた(ちなみに、その中にはサド・ジョーンズも含まれている)。確かに、弱小のブルーノートではできなかった芸当である。とにかく、管楽器に人をたくさん集め、非常に厚みのあるサウンドに仕上げられている。オルガン演奏がただでさえ音的に厚い上に、これだけのホーンを重ねたら、どうなるか。結果は、一層“こってり”になることは容易に予想がつくであろう。とはいっても、落ち着いてオルガンを聴かせたい部分ではホーンを抑え気味にし、盛り上げる部分では巧妙に両者を重ねるといったアレンジの工夫が随所でこらされている。 実は、この企画の仕掛人は、当時ヴァーヴにいた大物プロデューサー、クリード・テイラー(Creed Taylor)という人物である。彼は、ベツレヘム、インパルスなどを渡り歩き、この当時はヴァーヴで仕事をしていた。また、後にCTIレーベルを興すことになった人物でもある。テイラーの発案は明確なコンセプトで、“オルガンとビッグ・バンドでブルースをやる”というものであった。それゆえ、曲目を見てもわかるように、ブルースと名のついた曲が複数収録されている。 以上のように、編成としてはイレギュラーな性質を持つアルバムで、どのジミー・スミスのアルバムを聴いても同じ調子というわけではない。無論、他のジミー・スミスのアルバムを聴けばこのようなホーン・セクションがいつも盛りたてているわけではないが、それにもかかわらず、本盤がしばしばジミー・スミスの代表作として捉えられてきたのは、何よりも演奏の素晴らしさと曲のよさにあるのだろう。とどのつまり、本盤は、ストレートなオルガン・ジャズの王道に、ホーン・セクション導入という“ひと捻り”が加えられた1枚といったものというわけである。 個人的な好みでいくつか曲に言及しておくと、2.「ザ・キャット」は、これぞ王道のファンキーでグルーヴの利いたオルガン演奏を楽しむことができる。3.「ベイジン・ストリート・ブルース」、7.「ドロンのブルース」、8.「ブルース・イン・ザ・ナイト」は、いずれもホーンのアレンジとオルガンの聴かせどころをしっかりと組みたてたもので、腰を落ち着けてじっくり楽しみたい向きには最適だろう。何よりも勢いを楽しみたい人には、6.「セント・ルイス・ブルース」がいい。あまり注目されない曲だけれど、本盤の一つの聴きどころだと思う。[収録曲]1. Theme from “Joy House”2. The Cat (from MGM Motion Picture “Joy House”)3. Basin Street Blues4. Main Title from “The Carpetbaggers”5. Chicago Serenade6. St. Louis Blues7. Delon’s Blues8. Blues in the NightJimmy Smith (org)Lalo Schifrin (arr)Ernie Royal, Bernie Grow, Jimmy Maxwell, Marky Markowits, Snooky Young, Thad Jones (tp)Billy Byers, Jimmy Cleveland, Urbie Green (tb)Tony Studd (b-tb)Ray Alonge, Jimmy Buffington, Earl Chapin, Bill Correa (flh)Don Butterfield (tu)Kenny Burrell (g)George Duvivier (b)Grady Tate (ds)Phil Kraus (perc)1964年4月27・29日録音参考記事リンク(ジミー・スミスの他のアルバム): 『ミッドナイト・スペシャル(Midnight Special)』(2009年8月2日の記事) 『クレイジー・ベイビー(Crazy! Baby)』(2010年2月27日の記事) [枚数限定][限定盤]ザ・キャット/ジミー・スミス[CD]【返品種別A】↓ ランキング(3サイト)に参加しています。どれか一つでもありがたいですので、“ぽちっと”クリックで応援ください。よろしくお願いします! ↓
2010年02月28日
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こってり系オルガン盤(その1)~王道オルガン・ジャズとして二重丸の推奨盤 ジミー・スミス(Jimmy Smith)は、1925年、米国ペンシルバニア出身のジャズ・オルガン奏者である。“Incredible”(信じられない、驚異の)というニックネームを持ち、ジャズ・オルガンの開拓者であり第一人者だったが、2005年に亡くなっている。当初はピアノ奏者をしていたそうだが、1953年にハモンド・オルガンに転向し、50年代後半にはブルーノートから、その後60年代に入ってからは活躍の場をヴァーヴに移し、リーダー作・ヒット作を次々と発表した。亡くなった年(2005年)には、米国で名誉あるジャズ・ミュージシャンに贈られるNEAジャズ・マスターをケニー・バレルらとともに受賞している。 以前、『ミッドナイト・スペシャル』という盤を取り上げたが、こちらの方は抑制の利いた演奏という特徴のものであった。つまり、オルガン・ジャズとしては、必ずしも王道ではない盤だったわけである。それに対し、今回の『クレイジー・ベイビー(Crazy! Baby)』は、『ミッドナイト~』とほぼ同時期(録音日で言えば、『クレイジー・ベイビー』の方が4カ月ほど前なだけ)であるものの、その中身はずいぶんと異なる。ひとことで表現すれば、本盤の方は、いかにも“こってり系”な、これこそオルガン・ジャズと言っていい王道を行く盤である。 とにかくファンキーで、アーシーで、ねっとりしていて、こってりした演奏が楽しめる。これこそジャズ・オルガンとでも言うべき演奏を堪能できる盤に仕上がった最大の理由は、オルガン(ジミー・スミス)、ギター(クェンティン・ウォーレン)、ドラム(ドナルド・ベイリー)の3人だけというシンプルな構成にある。ギターについては、ケニー・バレルのようなギタリストではなく、当時19歳の新人だったクェンティン・ウォーレンを起用したのも正解だった。このトリオ構成のおかげで、主役としてのオルガンの立場がより明確化されている。つまりは、“オルガンをしっかり聴かせる”ことにはっきりと主眼を置いたメンバー構成ということだ。 ジミー・スミスの特徴の一つは、ジャズはジャズという高尚さを感じさせず、ポップスとジャズの垣根を取り払ったような部分にもあるのだと思う。けれども、本盤にはジャズ界の有名曲も多く収録されており、他のジャズ・ミュージシャンの演奏と聴き比べてみるのも興味深い。3.「チュニジアの夜」は、アート・ブレイキーのアルバム(『チュニジアの夜』、ちなみに同一名のアルバムが2種存在する)のタイトルにもなったディジー・ガレスピーの曲。5.「マック・ザ・ナイフ」は、ここでは題名違いで表記されているが、実際には、ソニー・ロリンズが『サキソフォン・コロッサス』で取り上げた「モリタート」と同一曲である(なお、ロリンズ絡みという点では、4.もソニー・ロリンズの曲だ)。6.「ホワッツ・ニュー」も、有名ジャズ奏者たちが繰り返し取り上げているナンバーで、最近紹介したアルバムの中ではジャッキー・マクリーンの『スイング・スワング・スインギング』でも演奏されている。付け加えれば、マクリーンのこのアルバムは、本作『クレイジー・ベイビー』と同じくブルーノート4000番台のもので、本盤からほんの2カ月余り前に録音されたものである。ブルーノートの創始者アルフレッド・ライオンという一人の人物のもとで、ほぼ同時期に、異なる個性を持った異なる楽器の奏者が同一曲を演奏して、いかに異なる曲に仕上がったのかを聴き比べてみるのもいいかもしれない。 ともあれ、いかにもジミー・スミスというアルバムをお探しの方には、最初に推薦したい1枚である。上で触れたように、ジャズ・ファンが聴いても、有名曲がオルガン・ジャズの演奏にどう化けるのかが楽しめるし、そうではなく黒人ソウル、ファンキーといったタームで非ジャズのジャンルからさかのぼって聴きたい向きにも推奨できる盤だと思う。[収録曲]1. When Johnny Comes 2. Makin’ Whoopee3. A Night In Tunisia4. Sonnymoon For Two5. Mack The Knife6. What’s New7. Alfredo録音: 1960年1月4日Jimmy Smith (org)Quentin Warren (g)Donald Bailey (ds)Blue Note 4030 【楽天ブックスならいつでも送料無料】クレイジー・ベイビー +2 [ ジミー・スミス ]↓ ランキング(3サイト)に参加しています。どれか一つでもありがたいですので、ぽちっとクリックで応援ください! ↓
2010年02月27日
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ブラウニーを初めて聴くには不向きだが、少し馴染みが出た頃にお勧め ジャズの世界でいう“ストリングスもの”や“オーケストラもの”が筆者は結構好きである。しかし、それら編曲に趣向がの凝らされたアルバムが、常に各演奏者の個性を十分に反映したものに仕上がっているかというと、必ずしもそうとは言えない。その理由は、半分は演奏者のアルバムであると同時に、きっと残りの半分は編曲者の作品とでも呼びうるからであろう。その意味では、本盤『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス(Clifford Brown with Strings)』もしかりで、半分はクリフォード・ブラウンの作品だが、残り半分は編曲者の作品と言っていいのかもしれない。 本作の編曲者(アレンジャー)は、ニール・ヘフティ(Neal Hefti)という人物だ。彼はカウント・ベイシー楽団における作曲者として知られ、トランペットも演奏する人物だったが、映画音楽も多く担当した。一昨年(2008年)に85歳で亡くなっている。トランペットも吹くアレンジャーが本作を担当したのは、成功だったと言えるだろう。楽器の特徴と演奏者(クリフォード・ブラウン)の特性をよく理解し考えたつくりである。“歌もの”の名曲を集め、その歌部分(ヴォーカル・パート)をトランペットで“歌わせた”のである。それゆえ、どの曲もメロディがしっかりと“歌われ”ていて、その分、甘ったるい部分がないわけでもないが、とにかく分かりやすくて美しい。なおかつ、歌ものという特色と結びついていることだが、各曲の長さが概ね3分台というのも、本盤を聴きやすい作品に仕上げている要因だと思う。無論、トランペット演奏の実力があって初めて、これだけ“聴かせられる”アルバムができたことは言うまでもない。 ところで、巷ではブラウニー(クリフォード・ブラウン)を1枚薦めるなら本盤という意見があるが、筆者は断固反対である。この作品が嫌いという訳でも、アルバムとしての価値が低いと言っているわけでもない。けれども、これを最初の1枚として推すことにはどうも納得がいかない。その理由は、他のブラウニーの諸作とあまりにカラーが違いすぎるという一点につきる。最初に本作の演奏を気に入った聴き手がいたとする。その人物がブラウニーの他のアルバムも好きになるとはとは限らない。それどころか本作の“甘美さ”を求めてブラウニーの他の作品を聴くと、その落差にがっかりする危険性が高い。 落ち着いて彼の残したアルバムを通観すれば、『スタディ・イン・ブラウン』や『クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ』のような作品の方が圧倒的に彼のスタイルやカラーを反映していると言えるだろう。そうした典型的特徴を踏まえた聴き手が本盤を聴くと、「普段のクリフォード・ブラウンは素晴らしいのだけれども、時にはこういうストリングスものもいいなあ」と思える可能性が高い。しかし、その逆はどうかというと、疑問符がつく。もちろん、人それぞれ好みは違うのだから、絶対にそうなる訳ではないのだけれど、あくまで一般論としてはその可能性が高いと思う。 こんな喩えが適当かどうかはわからないけれど、ラーメンばかり食べても飽きないラーメン好きの人がいたとする。このラーメン好きも時にはうどんを食べるだろう。しかし、うどんをいったん好きになり、大のうどん好きとなった人に、毎日ラーメンを食べろといってもそう簡単にラーメン好きに転身できない。俗な喩えになってしまったが、もちろん、うどんが『ウィズ・ストリングス』で、ラーメンが『スタディ・イン・ブラウン』他の諸作である。まあ、麺類なら何でもOKという人もいるかもしれないので、そんな人にとっては関係のない話だけれども。これをお読みのあなたは、ラーメン派?それともうどん派? あるいは麺類ならどちらもお好き? [収録曲]1. Yesterdays2. Laura3. What’s New4. Blue Moon5. Can’t Help Lovin’ Dat Man6. Embraceable You7. Willow Weep for Me8. Memories of You9. Smoke Gets in Your Eyes10. Portrait of Jenny11. Where or When12. StardustClifford Brown (tp)Neal Hefti (arr., cond.)Richie Powell (p)Barry Galbraith (g)George Morrow (b)Max Roach (ds)録音: 1955年1月18日(1., 3., 10., 11.)、19日(2., 5., 8., 9.)、20日(4., 6., 7., 12.) [枚数限定][限定盤]クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス/クリフォード・ブラウン[CD]【返品種別A】
2010年02月26日
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やっぱりフォリナーはこの声でないと 「ガール・ライク・ユー(Waiting For A Girl Like You)」や「アイ・ウォナ・ノウ(I Want To Know What Love Is)」といったヒット曲で知られるフォリナー。70年代後半に登場し、“アメリカン・プログレ・ハード”の代表格とされるも、ポップ寄りの“売れ筋路線”に走り、80年代前半~半ばには巨大なセールスを上げることとなった。 そんな絶頂期を迎えたフォリナーだが、売れ筋バラード路線に嫌気をさしていたのがヴォーカリストのルー・グラムだった。彼は次第にソロ活動を志向するようになり、1987年に『レディ・オア・ノット』、89年には『ロング・ハード・ルック』と2枚のソロ・アルバムをリリースし、ついに90年にはフォリナーを脱退してしまう。最大の原因は、バラード路線を推し進めてきたメンバーのミック・ジョーンズ(ギター)との確執だった。 バンドを代表する“声”を失ったフォリナーは、新たなヴォーカリストを迎えてアルバムを発表するがセールス的に不発に終わる。折しも90年代に突入し、音楽シーンの状況は大きく変わっていこうとしていた。グランジをはじめオルタナの波が押し寄せる中、産業ロック~MTV全盛時代を突き進んできたフォリナーにとって、売れ筋バラード路線を続けるにはもはや限界があることも見えていた。そんな中、一度は脱退した“ヴォイス・オブ・フォリナー”ことルー・グラムを再びメンバーに迎え入れ、1994年に発表したのが本作『Mr. ムーンライト(Mr. Moonlight)』である。 上述のような経緯を経たせいか、『Mr. ムーンライト』では、かつて全盛を極めたバラード路線はかなり抑え気味で、全体的には、音の厚みを増したロック・サウンドに回帰している。バンドの演奏も、『4』(1981年発表の第4作アルバム)の頃に戻ったかのように生き生きとした、ある意味、フレッシュさが戻っている。3.「アンティル・ジ・エンド・オブ・タイム」や9.「アイ・キープ・ホーピング」のようなミドル・テンポの曲も含まれているものの、アルバムの中核はむしろヴォーカリスト、ルー・グラムの志向していた、ロック然としたナンバーにあると感じられる。1.「ホワイト・ライ」、4.「オール・アイ・ニード・トゥ・ノウ」(アルバム・タイトルの“ムーンライト=月光”というのはこの曲の詞から来ていると思われる)、8.「ホール・イン・マイ・ソウル」、10.「アンダー・ザ・ガン」といったところがその典型である。 こうしたギターに重きを置いたロックサウンド回帰の傾向を端的に示すのが、7.「ビッグ・ドッグ」というインスト曲である。ところが、本盤の後、フォリナーのアルバム制作は滞り、2003年にルー・グラムは再びバンドから脱退してしまう。ルー・グラムの再脱退後、フォリナーはメンバーチェンジを繰り返し、現在では唯一のオリジナル・メンバーとなったミック・ジョーンズ中心のバンドとして存続している。結果論かもしれないけれど、現在から見れば、上述の「ビッグ・ドッグ」は、バンドの大きな岐路となり得た曲だったように思えてならない。この路線が続けば、ルーの再脱退もなかったかもしれない。それどころか、1990年代後半~2000年代にかけてフォリナーというバンドの最盛期がもう一度訪れたかもしれないという気がする。しかし、現実はこれとは違っていた。本作『Mr. ムーンライト』からは、3.のような曲がシングルカットされ、米国でアダルト・コンテンポラリーのチャートに入るような売り込み方がなされてしまった。レコード会社の方針か、はたまたファンに根付いたイメージというものが強くてそれを払拭できなかったのかはさておき、7.のような路線を深めていくことはできなかった。それどころか、本盤が20世紀最後の(かつルー・グラム所属最後の)アルバムとなってしまったのは残念である。 蛇足ながら、日本盤には追加曲12.「クラッシュ・アンド・バーン」が収録されている。キャッチーな曲ではあるが、ギターのサウンドとルー・グラムの歌声がうまく融合されたいかにもフォリナー的ナンバーであるので、興味のある方は日本盤を探してみてもらいたい。[収録曲]1. White Lie2. Rain3. Until The End Of Time4. All I Need To Know5. Running The Risk6. Real World7. Big Dog8. Hole In My Soul9. I Keep Hoping10. Under The Gun11. Hand On My Heart12. Crash And Burn *日本盤ボーナス・トラック1994年リリース。 【中古】 Mr.ムーンライト /フォリナー 【中古】afb
2010年02月24日
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激しいヴォーカルで社会正義を問いかけるディラン 世間一般への抵抗や大人社会への反逆であったロックが、“何か”のために歌い演奏するようになったのはいつ頃からのことだろうか。チャリティー企画としては、USA・フォー・アフリカの「ウィー・アー・ザ・ワールド」(オリジナルは1985年で、つい先頃第二弾企画があったばかり)が有名である。実際、その後はチャリティーのシングルやアルバムが次々に出された。しかし、こうしたチャリティーものの元祖は、少なくとも1971年のコンサート・フォー・バングラデシュ(元ビートルズのジョージ・ハリスンを中心とする企画)までさかのぼることができる。これらの企画は、企画ごとに出来の良し悪しや、各々の催しそのものの可否の議論もあるにせよ、反逆の象徴だったロックが“社会のため”になる何かの行動を起こすという意味において、根本的な変化を被った結果と言える。時期的には70年代に徐々にそういう風潮が生まれていき、80年代以降に一般化したということなのかもしれない。 しかし、募金集めに象徴されるようないかにも“善意のアクション”のようなものだけが、上で述べた“社会のため”に相当する訳ではない。時にはNOを表明したり、何かに異議を唱えるだけというのも、“社会のため”を目的とする場合がある。上記の「ウィー・アー・ザ・ワールド」との対比で言えば、その典型は、ちょうど同じ頃にリトル・スティーヴンが中心となった『サン・シティ』(アパルトヘイト反対の社会的メッセージアルバム)のプロジェクトであった。 さて、ボブ・ディラン(Bob Dylan)の1975年のシングル曲「ハリケーン(Hurricane)」もまた、具体的なケースを挙げて社会的不正義を告発する曲である。詞のテーマは、冤罪で裁きを受けた黒人ボクサー、ルビーン・“ハリケーン”・カーターであり、曲名の「ハリケーン」はこのボクサーのリングネームから取られたものである。1966年のある夜半、とあるバーで男女4名が撃たれるという事件が発生した。ルービンに容疑がかけられ、終身刑を宣告された。しかし、これは人種的偏見に基づいた冤罪であることが後に明らかになった。無罪釈放を勝ち取るまでに22年という長い時間を要し、その半生は1999年に映画化(『ハリケーン』、日本では翌年上映)されている。 ディランのこの曲は、ルービン投獄中の1975年に吹き込まれたもので、社会的不正を告発する怒りに満ちたディランの激しいヴォーカルが聴きどころとなっている。なお、この曲の収録されたアルバム(『欲望(Desire)』)では、ボブ・ディランは大半の曲をソングライターであるジャック・レヴィと共作しており、さらに演奏面ではヴァイオリンのスカーレット・リベラが大幅にフィーチャーされている。この「ハリケーン」も例外ではなく、ジャック・レヴィとの共作で、なおかつヴァイオリン演奏が実に効果的な役割を果たしている。 かくいう筆者も、この曲を少年時代(ちなみにリアルタイムではなかった)に知った頃は、歌詞の内容なんてさっぱり分かってはいなかった。ただ、ディランの叩きつけるような激しいヴォーカル、曲全体のたたみかける勢い、そして哀愁に満ちたヴァイオリンのアンサンブルをただカッコいい、と認識していた。長尺曲でなかなかラジオ番組でフルコーラスかからないことも多かったが、幸いフルコーラスをエアチェックしたものを繰り返し聴いた。時間的には8分を超えるが、一気に聴かせる勢いを持っている曲である。やがて時が流れ、上に書いた詞の内容のシリアスさ、社会正義を問いかけるディランの姿勢を知って、一層ディランに魅かれたことは言うまでもない。[収録アルバム]Bob Dylan / Desire(欲望) (1976年)Bob Dylan / Essential Bob Dylan (2000年) ほか各種ベスト盤にも収録。 【メール便送料無料】ボブ・ディランBob Dylan / Desire (輸入盤CD) (ボブ・ディラン)
2010年02月22日
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ここのところ少々滞っていたINDEXページ(ジャンル別、アーティストのアルファベット順)の更新をしました。 ジャズ編、およびロック・ポップス編のINDEXに最近の記事を追加しています。INDEXページへの入口は、下記リンクの他、本ブログのトップページ右欄(フリーページ欄)にあります。アーティスト別INDEX~ジャズ編へアーティスト別INDEX~ロック・ポップス編へアーティスト別INDEX~ラテン系(ロック・ポップス)編へ下記ランキング(3サイト)に参加しています。応援くださる方は、バナー(1つでも2つでもありがたいです)をクリックお願いします! ↓ ↓ ↓ ↓
2010年02月20日
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一般的なカリフォルニア像を覆すイーグルスの代名詞盤 イーグルス(Eagles)が1976年にリリースした『ホテル・カリフォルニア(Hotel California)』。いわずとしれた同バンドの代表作である。曲としての「ホテル・カリフォルニア」については、以前に別の項(こちらを参照)で書いたが、今回はアルバムとしての本盤の魅力を考えてみたい。結論を先取りして言えば、かの名曲「ホテル・カリフォルニア」は、単独のシングル曲であるだけでなく、アルバムの大きなストーリーの断片であり、興味のある方にはぜひアルバム作品として通して聴いてもらいたい、ということである。 デビューから本作品リリースまでの間に、イーグルスのバンドとしての音楽性は徐々に路線を変更していた。1971年に結成され、翌年のデビューアルバムの頃は、カントリー・ロック調の曲を中心にしていた。しかし、サード・アルバム(『オン・ザ・ボーダー』、初めてギタリストのドン・フェルダーが参加したアルバム)のあたりからエレキ・ギターの比重が高まり、本格的にロック色を強めていった。1975年には、創設メンバーだったギタリストのバーニー・リードンが脱退し、ジョー・ウォルシュが後任に迎えられると、ハードなギター路線に拍車がかかった。ちょうどその時期に制作されたのが、本盤『ホテル・カリフォルニア』ということになる。 全体的にギターはしっかりと鳴っていてロック・テイストが強いのは確かなのだが、同時にどの曲も物憂い部分があるのが特徴で、1.「ホテル・カリフォルニア」や4.「時は流れて(Wasted Time)」、6.「暗黙の日々(Victim Of Love)」などにその特徴がよく表れている。個人的に外せないのは3.「駆け足の人生(Life In The Fast Lane)」で、新加入のジョー・ウォルシュの色が特に濃い1曲である。アルバム前半(1.~4.)は、途中にゆったりとした2.「ニュー・キッド・イン・タウン」が挟まれているのもいい。アルバム終盤になると、やはり少しおとなしめのスローテンポのナンバーではあるが、しかし物憂げな雰囲気は引き継いだ曲が続く。ちなみに、シングル・カットされたのは、1.、2.、3.の3曲であるため、アルバム前半に注目が行きがちだが、後半も逃してはならない。7.「お前を夢見て(Pretty Maids All In A Row)」から8.「素晴らしい愛をもう一度(Try And Love Again)」を経て9.「ラスト・リゾート」に至るラスト3曲の流れは、あまり注目されない(それどころか聞き流されがちかもしれない)のだけれど、作品全体として見た時のもう一つのハイライトである。 この物憂げな雰囲気は、カリフォルニアや西海岸といったイメージからは、本来外れたものである。しかし、西海岸らしい明るさは影を潜め、どこかしら暗い雰囲気のついて回るこのアルバムが、これほどまでに広く受け入れられ支持されたのは、時代の雰囲気ゆえだったということだろうか。メンバーのドン・ヘンリーは、本盤が“合衆国全体のミクロコスモスとしてのカリフォルニアを題材にしたコンセプト・アルバム”であると述べている。つまり、建国から200年を経た米国の退廃がテーマとなっていて、数年前までのベトナム戦争~撤退にいたる社会不安に象徴される“時代の影”を巧みに映し出した作品だった。 そうした時代背景的な工夫と並んで、本盤は、LPという当時のアルバム媒体の形式に則った上での作品構成が見事だった。LP時代のA面は4.「時は流れて」で終わるが、B面1曲目は5.「時は流れて(リプライズ)」から始まる。当時の聴き手は、物理的にレコードを裏返さなければアルバムを通して聴けないわけである。つまり、そこにはレコード針をいったん上げてわきに下ろし、盤面を裏返すための一休憩の間がどうしても必要になり、当然、A面からの継続性も聴き手の意識の中では薄まってしまう。それゆえ、A面最後の情緒的な曲を、さらに情緒的なリプライズとしてB面冒頭にも入れておき、結果、アルバム後半への継続性をリスナーに意識させるという手法は、極めて効果的だった。この手法を使ったのは別に本盤だけでもないし、CD時代の今となっては関係ない(むしろリプライズは蛇足にすら聞こえる)のだけれども、“裏返し”作業を考えれば、見事なアルバム構成だったと思う。 そんなわけで、本盤は、シングル曲やベスト盤を聴いていては見えてこないよさ、つまりは、アルバムとしての作品構成にきわめて大きな特徴を持っている。そうした意味においては、イーグルスの最高作と呼ぶにふさわしい一枚である。[収録曲]1. Hotel California2. New Kid In Town3. Life In The Fast Lane4. Wasted Time5. Wasted Time (Reprise)6. Victim Of Love7. Pretty Maids All In A Row8. Try And Love Again9. The Last Resort1976年リリース。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ホテル・カリフォルニア [ イーグルス ]
2010年02月18日
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哀愁に満ちた素朴なメロディの美しさ+これぞサザン・ロック的なギター・プレイのコラボ Lynyrd Skynyrd(レーナード・スキナード)という文字列を英語で見ると、一般には何と読むかよくわからない。彼らのメジャー・デビュー・アルバム(1973年)のタイトルは、セルフタイトル(バンド名がそのままアルバムタイトル)と思しきものだったが、ジャケットに正しい発音の仕方(pronounced 'le*h-'nérd 'skin-'nérd;「~と発音する」の意味)が記されており、後々はそれがアルバム名として認識されていった。ちなみに、日本で英語を学んだら、辞書に掲載されているかの発音記号を手がかりに発音を知るわけだが、上のような表記法は、英語圏の人が見知らぬ単語(例えば外国語の単語など)の発音を文字情報だけで伝えるときによく使う手法である。 話を元に戻そう。要は、このメジャー・デビュー作をリリースした時点での彼らは、とりあえずはバンド名(とその発音)からリスナーに覚えてもらわねばならないような厄介な名称をしていたわけだ。ただしバンド活動の初期の最後(アル・クーパーに見いだされる以前で、ローカルな活動をしていた時期に何度もバンド名を変えている)にはLeonard Skinnerdという、何と読めばいいかわかるスペルが採用されていた。この名称は、メンバーの高校時代の体育教師の名をもじったものだったらしいが、メジャー・デビューに際して綴りを変えたそうである。その理由は不明だが、「何と読めばいい?」と思わせる効果を狙ったのであろうか。 ともあれ、その読み方もよくわからないようなLynyrd Skynyrdの名は、ロック・ファンなら一度は耳にするサザン・ロックの雄の名称として親しまれるにいたった(日本語では「レーナード・スキナード」の表記が定着した)。彼らを有名にしたのは、シングル曲「スウィート・ホーム・アラバマ」であり、これと並びバンドの代名詞とも言うべき有名曲がこの「フリー・バード(Free Bird)」である。いずれも1974年のシングル曲だが、前者はセカンド・アルバムからのカット、後者は前年にリリースされた上記のファースト・アルバムに収録されていた曲だった。 「フリー・バード」。直訳すれば、"自由な鳥"。比較的シンプルな曲調で、一聴すると前半は"音の隙間"も多いし、21世紀の現在からするととても現代風の曲とは言い難い。しかしながら、淡々と進む素朴な歌メロ(そしてバックのギターメロディ)が何とも美しい曲で、郷愁を誘うメロディラインにのってヴォーカルのロニー・ヴァン・ザントがじっくりと聴かせる。これがこの曲の最初の聴きどころである。 加えてこの曲は非常に長い。手元のCDの表示時間によれば9分8秒もあり、ロック音楽では、一部の例外(プログレなど)を除けば、特別の長さである。上で述べたメロディラインの美しさは前半の聴きどころで、曲後半にはもう一つの聴きどころが待っている。途中から曲のテンポが上がり、まもなくギターソロへと突入していく。このギター・プレイが第二の聴きどころである。 レーナード・スキナードはトリプル・ギター・バンドとして知られる。ツイン・ギターやトリプル・ギターというのは、リード・ギタリストを2人・3人擁し、厚みのあるギター・サウンドはもちろんのこと、ギターソロでは複数のギターが絡み合ったり、バトルのようなことをしたりできるのが特徴である。この曲の後半ではその妙味を十分に楽しむことができる。ヴォーカル・メロディの美しさと重厚な長尺ギター・ソロ。この二つをうまくつなげたところがこの曲の魅力であり、長くバンドを代表する曲になったのだろうと思う。 ちなみにこの曲は後にライブ・バージョンもシングルとして再発売された。1976年のライブ・アルバムからのシングル・カットで、その際にもチャートイン(全米38位)している。翌77年に上述のロニーを含む主要メンバーたちが飛行機事故で不遇の死を遂げたのが本当に悔やまれる。なお、バンド自体はロニーの弟(ジョニー・ヴァン・ザント)が後に再結成し、2006年にロックの殿堂入りを果たしている。注: 表示ができないため、便宜上「e*」と書いておきましたが、この部分は正確には「e」の上に谷型の記号(「^」を逆さにしたもの)が付いた文字です。[収録アルバム]Lynyrd Skynyrd / (pronounced 'le*h-'nérd 'skin-'nérd) (1973年、オリジナル・ヴァージョンを収録)Lynyrd Skynyrd / One More for the Road (1976年、ライヴ・ヴァージョンを収録) 【楽天ブックスならいつでも送料無料】【輸入盤】 PRONOUNCED LEH-NERD SKIN-NERD [ レーナード・スキナード ]↓ 下記ランキング(3サイト)に参加中です。クリックで応援お願いします! ↓
2010年02月17日
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“リアル・ロックンロール・バンド”による、2時間半30曲の圧倒的自信と迫力(2/2) 前項は、全体的な話だけで普段の字数を大きくオーバーしてしまった。改めて本項では、『ユーズ・ユア・イリュージョンI』と『同II』それぞれアルバムの内容を見ていくことにする。 まず、『ユーズ・ユア・イリュージョンI』は、先に述べたように、充満したエネルギーの爆発・発散が聴きどころとなる。メジャー・デビューを飾った前作『アペタイト・フォー・ディストラクション』(1987年)からの延長線上にある1.「ライト・ネクスト・ドア・トゥ・ヘル」や5.「パーフェクト・クライム」、あるいは13.「ドント・ダム・ミー」といったナンバーは、最もわかりやすくその勢いを伝える曲である。 しかし、バンドの成長を示す曲にもぜひ注目したい。3.「リヴ・アンド・レット・ダイ」はその代表格と言える。この曲は、言わずと知れたポール・マッカートニーのヒット曲だが、これぞガンズという納得の新解釈を提示していて、バンドの成長に加え、余裕や風格すら伺える。ふつうはヒット曲のカヴァーというと、コピー(つまりは“複製”)もどきのものが多いが、ガンズのこの曲の演奏は、まさしく“解釈(interpretation)”と呼べる仕上がっている。同じくバンドの成長は、4.「ドント・クライ」や11.「ザ・ガーデン」、さらには15.「デッド・ホース」といったナンバーから見て取られるように、曲展開とアレンジの懐の深さにも顕著である。 もう一つ気がつくのは、バンド・メンバーのルーツというか、音楽的バックグラウンドがよくわかるフレーズや演奏が随所にちりばめられていることである。それが特に顕著に凝縮されているのは、一聴すると“中弛み曲”として聞き逃してしまいそうな6.「ユー・エイント・ザ・ファースト」である。こういう演奏ができ、既存の米国音楽の伝統(ブルース、ロック、カントリー)を背景に備えているからこそ、爆発的エネルギーの発散に変えた時の各フレーズがビシッときまるのだろう。ちなみに、10.「ノーヴェンバー・レイン」は本作中で特によく知られたシングル・ヒット曲であるが、本盤中いちばんソフトな曲であり、この名曲が好きだから本盤が気に入るとは限らない。しかし、逆に「ノーヴェンバー~」で本盤を避けている人がいるのだとすれば、それはもったいない話だと思う。 続いて、もう1枚の『ユーズ・ユア・イリュージョンII』の方に移る。個人的な経験ではこっちの方をよく聴いた。1.「シヴィル・ウォー」や3.「イエスタデイズ」に代表されるように、単にエネルギーを“爆発”させたり、ただやみくもに“発散”させるというのではなく、充満したエネルギーを制御しながら溢れ出させる印象の曲が中核を占める。ボブ・ディランのカヴァーである4.「ノッキン・オン・へヴンズ・ドア」も収められていて、『I』のポール・マッカートニーのカヴァーと並んで見事な出来映えの、カヴァー・ヴァージョンとは何たるかの見本のような演奏である。 充満したエネルギーをずっと押さえ続けていては精神衛生上よろしくない。そんなわけで、5.「ゲット・イン・ザ・リング」(ジャーナリストを名指しで批判した、伏字用語連発の詞が強烈)と6.「ショットガン・ブルース」、さらには映画(『ターミネイター2』)の挿入歌であるヒット曲12.「ユー・クッド・ビー・マイン」といった“ガス抜き曲”も、ちゃんと用意されている。けれども、やはり見事なのは、エネルギーの制御が利いた楽曲こそが『II』の中心を成す点であることは繰り返し強調しておきたい。その最たるもので、本盤の最大の聴きどころのひとつが11.「イストレインジド」である。10分近い大作であるが、その時間的長さをまったく感じさせない名曲・名演奏だと思う。 最後に、日本国内でのセールス面に関して、苦言を一つ。これら2枚の日本盤解説書の手の抜き様は何とかならなかったのかとライナーを見るたびに今でも思う。筆者が持っているのは両方とも日本盤で、総勢6名もの執筆陣が日本語のライナーを執筆している。かつて日本盤のライナー執筆陣の数はバンドのステータスの指標でもあった。そのことを考えれば確かに破格の扱いだ。けれどもCDを買う少年たちは、どれを購入するか思い悩み、お金を貯めながらCDに大枚をはたくわけである。新譜CDが既に値下がりつつあった時代とはいえ、『I』を買っても『II』を買っても、日本語の解説部分の内容が同じとは、どういうことか。これは、やっぱりレコード会社の手抜きとしか言えないと思う。かくいう筆者も(既に“少年”ではなかったとはいえ、若い頃は今よりずっとお金がなかった)、優先順位をつけてCDを入手していたわけで、実際、リアルタイムで現物のCDを入手したのは『II』だけだった。殿様商売はもはや成り立たなくなっている今のご時世だけれども、当時はまだこんなことが平気で許されていたのが情けない。とはいっても、いまはもう中古であふれるように出回っているので、これら2枚は気軽に聴けるアルバムになった。まだの方や興味をもたれた方は、ぜひこれを機に通して聴いてもらえればと思う。*本記事の前半(その1)は、こちらからご覧ください(ジャケ写もリンク掲載しています)。[収録曲](『ユーズ・ユア・イリュージョンI』)1. Right Next Door To Hell2. Dust N' Bones3. Live And Let Die4. Don't Cry [original]5. Perfect Crime6. You Ain't The First7. Bad Obsession8. Back Off Bitch9. Double Talkin' Jive10. November Rain11. The Garden12. Garden Of Eden13. Don't Damn Me14. Bad Apples15. Dead Horse16. Coma(『ユーズ・ユア・イリュージョンII』)1. Civil War2. 14 Years3. Yesterdays4. Knockin' On Heaven's Door5. Get In The Ring6. Shotgun Blues7. Breakdown8. Pretty Tied Up9. Locomotive10. So Fine11. Estranged12. You Could Be Mine13. Don't Cry [alt. lyrics]14. My World1991年リリース。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ユーズ・ユア・イリュージョン2 [ ガンズ・アンド・ローゼズ ]
2010年02月16日
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“リアル・ロックンロール・バンド”による、2時間半30曲の圧倒的自信と迫力(1/2) ガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N' Roses)は1985年に結成された米国のロック/ハード・ロック・バンド。2008年に15年ぶりのアルバム(『チャイニーズ・デモクラシー』)をリリースしたので、最近のファンにもその名は知られているだろうが、本盤は1991年にリリースされたもの。『ユーズ・ユア・イリュージョン(Use Your Illusion)』は、正確に言えば、『ユーズ・ユア・イリュージョンI』と『同II』が、二枚別々に(二枚組ではなく)リリースされた。メジャー・シーンに登場した当時のオリジナル・メンバー(厳密にいえば、活動の最初期にもメンバー・チェンジしているのだが)による作品である。なお、現在では、ヴォーカルのアクセル・ローズがオリジナル・メンバーとして残っているのみである。 自主製作盤で人気を博した彼らは、1987年の『アペタイト・フォー・ディストラクション』でメジャーに進出し、破壊的・挑発的ライブやその他の問題行動で名を馳せた。当時ヴォーカルのアクセルは、相当の問題児で、隣人への暴行事件(証拠不十分で釈放はされたが)を起こしたり、「アルバムを買うな」とライブの観客にけしかけたこともあれば、コンサートが暴動騒ぎに発展した(ただしこれについては、客が不正に撮影していたことにアクセルがキレたのが原因とされる)ことすらある。マスコミや所属するレコード会社に喧嘩を売るような発言も再三であった。さらには、このアルバムよりずっと後にも、コンサートに来た客のTシャツが気に入らないからという理由でライブ中にそのシャツを脱がせたりする騒動も起こしている。クスリの問題も当たり前で、これらアルバム発表の前年にはドラッグが理由でドラマーが交代している。ファースト・アルバムのジャケットも問題のある図柄でリリース後まもなく差し替えられたりした。早い話、当時の彼らは、よくも悪くも破天荒であり、“規格外”だった。そして、そんな中でリリースされた『ユーズ・ユア・イリュージョンI』および『同II』もまた、なんとも規格外な作品だった。 まず何よりも、2枚同時リリースというのからして普通ではない。それも異なる作品2枚ではない(ちなみに異作品2枚同時リリースという例は、同じ頃だと翌92年のブルース・スプリングスティーンの『ヒューマン・タッチ』と『ラッキー・タウン』がある)。同じタイトルの『I』と『II』を2枚組にはせず、ばらばらに同時リリースしたというわけである。ジャケットは同じデザインで色違いになっている(『I』が黄色/赤色、『II』が青色を基調にしている)。 通常のアルバム作りでは、いろんな曲を用意・録音し、アルバムを構成するにあたっての選曲(つまりは取捨選択)をしながら、1枚に収まるものを作り上げていく。しかし、この時のガンズはたまったものを2枚に詰め込み、一気に放出といった感じである。折しも時代はCD化を受けて、LPの収録時間からは大幅に増えたCDの収録時間が基準となった頃である。詰め込みに詰め込んで放出した結果は、2枚合わせて2時間半以上、曲数にして合計30曲(『I』が16曲、『II』が14曲)というヴォリュームになった。 そうなると、アルバムとしての統一性、楽曲や演奏の水準は下がるはずだ。批評家たちはまとまりのなさや質の低下を批判しようと手ぐすねひいて待っていたに違いない。けれども、実際に聴いてみると、不思議とまとまりがある。大きく言えば、『ユーズユア・イリュージョンI』の方は、『アペタイト~』から続く勢いと破壊的エネルギーの爆発を思わせる楽曲が中心を占める。それに対し、『同II』は、同種のエネルギーをもってはいるものの、それを爆発はさせずに内に秘めながら演奏している感じの曲が中心を成す。したがって、『I』と『II』では全体的カラーが若干異なる訳だが、いずれのアルバムもバンドとしてのエネルギーが溜まりに溜まっている様子がひしひしと伝わってくるという点では共通している。 なぜ2枚組ではなく2枚別々にしたのか。理由は2つあるのだろうと思う。一つはアルバムを買う年齢層(それが若い世代中心であろうことは容易に想像がつく)からして、2枚組は高価になること。セールスの問題という言い方をしてしまえばそれまでだが、若年層にとってアルバム購入資金は重要な課題である。レコード会社が企んだのか、あるいはバンドの意向だったのかは知らない(アクセルの言動からして、バンドの意向なのかもしれない)。いずれにしても、半分でも買えるようにしたのは、ファンにとって非常に好意的な選択だったと思う。 もう一つの理由は、いま上で述べたように、1枚ずつのカラーが異なるからだろう。2枚組にすると聴き手は2時間半全部を聴かねばならなくなる。そうなると、先述のように、アルバム・コンセプトの問題、詰め込みへの批判が出やすくなる。よって2枚組は得策ではなかった。その上で、1枚ずつのカラーが出たということは、それぞれ1枚毎のまとまりを感じさせるものができたという自信の裏返しでもある。「自分たちのアルバムは買わなくてもいい」などという挑発的発言をしていたが、それは裏返せば、作品についての自信の表明でもある。実際、彼らは自分たちのバンドを“真のロックンロール・バンド”と称していたが、このこともその自信を示す事実と言える。本作『ユーズ・ユア・イリュージョンI 』と『同II』の2枚同時リリースは、そんな自信に満ちた当時の彼らだからこそ為し得たのだろう。 長くなってきたので、各アルバムの内容紹介については項を改めたい。 (その2に続く)*収録曲データは、次回(その2)に掲載します。*参考までに、色違いのジャケットはこんな感じです。 ↓ユーズ・ユア・イリュージョン1ユーズ・ユア・イリュージョン2↓ 以下、ブログ・ランキングサイトへのリンクです。当記事に興味をもたれた方は、応援(バナーをクリックして投票)よろしくお願いします! ↓
2010年02月15日
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前回のザ・キンクス『ソープ・オペラ(石鹸歌劇) ~連続メロドラマ“虹いろの夢”(A Soap Opera)』の項の最後で触れたジャケットのデザインです。 実際の内容の素晴らしさとは裏腹に、このジャケでは“名盤”の香りは漂ってきませんね…(笑)。 ソープ・オペラ(石鹸歌劇)~連続メロドラマ“虹いろの夢"+4/ザ・キンクス[CD][紙ジャケット]【返品種別A】 ↓ 以下、ランキングサイト(3サイト)へのリンクです。↓↓ 応援くださる方は、ぜひ投票(クリック)をお願いします! ↓
2010年02月14日
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キンクス中期の“裏名盤” ソープ・オペラ(石鹸歌劇)というのは、主に石鹸メーカーがスポンサーを務める昼間のテレビ・メロドラマを指す。日本の昼のメロドラマもそういえば石鹸や洗剤メーカーがスポンサーだったっけ…。そんな“昼ドラ”仕立てのコンセプト・アルバムで、リヴァプールのテレビ局の企画とタイアップで生まれたのが、ザ・キンクス(The Kinks)中期の隠れた名作『ソープ・オペラ(石鹸歌劇) ~連続メロドラマ“虹いろの夢”(A Soap Opera)』(1975年)である。 ストーリーの主人公は、ラッシュアワーの中を通勤し、9時から5時まで働き、一日の仕事の後は一杯やってるサラリーマン(その名をノーマンという)。そんな彼が妄想を抱き、自分自身は平凡な一般人の日常を演じているスターだと思いこむというものだ。ロンドン郊外での妻との生活は、ロック・スターがアルバム制作の準備のための非現実だと信じ、妄想の世界が止まらなくなっていく。しかし、最後には妻から冷たい現実を突きつけられ、日常の“本当の”世界へ引き戻される。 そういえば、世界的に見て、イギリス人は勤勉だと言われる。そしてまた、日本人も同じく勤勉な国民とされる。ラッシュアワーで人にもまれて出勤し、(定時退社はともかく)終わった後はちょっと一杯、その生活が毎日続いていく…という状況は“ニッポンのサラリーマン”には受け入れやすい状況設定だろう。話が少し横道にそれるが、現在のニッポンは病んでいる。社会がどうも年々ヒステリックでおかしな方向に向かっているような危惧を抱いているのは筆者だけじゃないはずだ。自己中心的で自信過剰な人間があふれ、どうも方向性を失っている社会…。そんな現在を起点に考えると、70年代半ばにザ・キンクスが描き出した本盤のストーリーは、21世紀を迎えた日本社会から見てもどこか共感できる物語のような気がする。 本作『ソープ・オペラ』は、残念なことに、ずっと過小評価を受けてきた。全体を通しても楽しめれば、曲単位で優れたものも複数含まれていて、なかなかの名盤と思うのだが、再評価の気配もあまりなく、ずっと“裏名盤”とでも言うべき地位に甘んじている。けれども、上で述べたように、現代的リアリティを含む、ある種、親しみやすいストーリーである上、音楽的にもヴァラエティに富んでいてとっつきやすい。ストーリー(曲の間でセリフもはさみながら進行する)は歌詞カードとにらめっこでもするしかないかもしれないが、音自体は、全体的にわかりやすくてポップな要素が適度に散りばめられているのがよい。無理に通して聴かなくとも、曲単位で単独で楽しめるナンバーも多い。そのような観点から筆者の好みで何曲かピックアップすると、次の各曲が特におすすめである。 まずは、オープニング・ナンバーの1.「きみもスタアだ(スターメイカー)」。とにかく出だしからギターのリフが見事にキマっていて、ポップで聴きやすい部分を残しながらもタイトに仕上げている佳曲である。4.「9時から5時まで」は、日々の労働生活は何と退屈なものか、というテーマそのままの、サラリーマンの哀愁を誘うナンバーで、曲調も実に哀愁に満ちたもの。 哀愁と言えば、はずせないのが、本作いちばんの聴きどころ(と筆者が思う)7.「ネオンのまぶしさ」である。この曲の原題(Underneath the Neon Sign)は、直訳すれば「ネオン・サインの下で」の意。仕事を終えて飲みに行ったあとにふと自分が何者かを考える男の哀愁に満ちたナンバーで、個人的には、「セルロイドの英雄」(1972年の『この世はすべてショービジネス』に収録)と並ぶ、哀愁漂う名曲だと思う。同じ路線では、11.「群衆のなかの顔」もなかなかいい。パイ後期からRCA所属期にかけて、キンクスはコンセプト・アルバムをひたすら出し続けたわけだが、その時代のキンクスを好きになるか否かは、案外、この手のノスタルジックな曲の好き嫌いによるという気がしている。 最後に、アルバムを締めくくる12.「ロックよ永遠なれ」。原題は「You Can’t Stop the Music(君は音楽を止められない)」というものだが、アコースティックな出だしから始まって、次第にポップに盛り上げていき、キメのギター・ソロがカッコいい。余談ながら、80年代の映画『E.T.』を先取りしたようなジャケットもまだの方は一度ご覧あれ。[収録曲]1. Everybody’s a Star (Starmaker)2. Ordinary People3. Rush Hour Blues4. Nine to Five5. When Work Is Over6. Have Another Drink7. Underneath the Neon Sign8. Holiday Romance9. You Make It All Worthwhile10. Ducks on the Hill11. (A) Face in the Crowd12. You Can’t Stop the Music~以下、現行CD(『~+4』)所収のボーナス・トラック~13. Everybody’s a Star (Starmaker) [mono mix]14. Ordinary People [live]15. You Make It All Worthwhile [live]16. Underneath the Neon Sign [live]1975年リリース。 ソープ・オペラ(石鹸歌劇)~連続メロドラマ“虹いろの夢" +4/ザ・キンクス[SHM-CD]【返品種別A】
2010年02月14日
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思いきりのよさと度胸ある企画に拍手 ライアン・カイザーは1973年アイオワ州生まれの白人ジャズ・トランペッター。1990年(ということは、まだ17歳の時)、セロニアス・モンク・インスティテュートのコンペティションで優勝し、本格的なキャリアをスタートさせた。様々なビッグ・バンドのトランペッターを務め、2000年(録音は前年の1999年)にリリースしたのが本作『カイザー(Kisor)』である。 新進気鋭といってもこの時点で既にプロのキャリアは10年近くあったわけで、そのキャリアが自信になっていたのか、何とも思いきったことをしたものだ。というのも、収録されているのは、全曲クリフォード・ブラウン(愛称ブラウニー、彼の盤については過去記事 (1) ・(2) ・(3) を参照)づくしなのである。収められた全8曲のうち、4.「クリフォードの想い出」はブラウニーの死後にベニー・ゴルソンが作った追悼曲であるが、他はブラウニーが往時演奏していた曲の再演である。無論、ブラウニーと言えば、1956年に若くして亡くなった伝説的な天才トランペット奏者。半世紀近くの時を経てそれを再録しようという新世代のトランペッターというだけでも、どれだけ勇気のいることか(そして企画倒れに終わる可能性を含んでいたか)想像できる。 実際に『カイザー』を聴いてみると、ある意味、さらに驚かされる。というのも、どの曲も概して耳慣れたアレンジで、特段、奇抜なことはやっていないからだ。その意味では、まったく“革新的でない“という言い方もできるだろう。もちろん、ブラウニーの元の演奏とは異なる。リズム・セクションは現代風にタイトだし、トランペットの音もブラウニーのそれとはもちろん異なる個性を持ったものである。大雑把にいえば、同じように切れがあるけれども、ブラウニーの場合は“鋭さ”が際立つのに対して、カイザーの場合はどこかしら“優しさ”や“柔らかさ”がより強く耳に残る。 本盤は高い評価を得る一方で、マイナスの評価も受けてきた。その典型は、“もうひとつどこか物足りない”という意見である。おそらく、上で述べたトランペットの音色の柔らかな部分というのが、その“どこか物足りない”感につながっているのだろう。その“物足りなさ”の理由は二つある。一つは、選曲が選曲だけに、ブラウニーの鋭さや切れのある音を聴き手に先入観として期待させてしまうこと。それから、もう一つは、『カイザー』という自分の名を冠したセルフ・タイトル・アルバムでありながら、全曲がブラウニー絡みというギャップにあるのではないか。 一つめに関しては、別人なのだからと割り切るしかない。ブラウニーの演奏を忘れられないのなら、ブラウニーのアルバムだけ聴けばいいわけで、カイザーを聴く必要はない。後はカイザーの音や演奏を気に入るかいらないかの問題ということになる。確かに、流れるようなカイザーのトランペットは、技巧面でも文句がなく、流暢な分、もう少し何かやってほしいという部分もなくはない。けれども、それが彼の人柄なのであろうし、安心感ややすらぎを与えてくれるという点において、これはこれで筆者は結構気に入っている。 次に、二つめのアルバム名が『カイザー』でありながら、全曲ブラウニー絡みという点は、一見、不可思議かもしれないが、筆者は次のように考える。この盤の録音がなされたのは、1999年である。録音時、カイザーは26歳である。クリフォード・ブラウンが事故で亡くなったのは1956年のことで、あと数カ月で26歳の誕生日を迎える年の死去であった。つまり、ブラウニーが亡くなったのとほぼ同じ年齢の段階でカイザーはこのアルバムの演奏を吹き込んだ。ジャズ界でトランペッターを志すものにとって、ブラウニーは無視できない存在である。ブラウニーを越えていくためには、これを消化しなくてはならない。それがこのタイミングの録音であり、他人ゆかりの曲を集めたにもかかわらず、わざわざ『カイザー』という自分の名をアルバムに冠した理由ではないだろうか。そう考えれば、冒頭で述べたように、ますます“勇気ある決断”だったわけで、それがこれだけの作品に仕上がったのだから、やはり大したものだと思う。個人的には、このアルバムがライアン・カイザーという人を聴くようになるきっかけとなった作品でもあり、思い入れも深い一枚。[収録曲]1. DaHoud2. Delilah3. Cherokee4. I Remember Clifford5. Jordu6. Parisian Throughfare7. Sandu8. Valse HotRyan Kisor (tp)Peter Zak (p)John Webber (b)Willie Jones III (ds)録音:1999年7月30日
2010年02月12日
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ラテンのノリが中途半端だが、複数の好演を含む一枚 タイトルはスペイン語で付けられていて、『ムーチョ・カロール(Mucho Calor)』と読む。日本語表記ではなぜか『ムーチョ・カラー』という読み方が定着しているけれども、レコード会社の責任か、はたまた評論家が悪いのかは知らないが、これは単なる読み間違いで、正しくは『ムーチョ・カロール』(声を大にしたいのでとりあえず文字を強調!)である。裏ジャケにもあるように、英語に訳すと"Much Heat"を意味するスペイン語表現である。すなわち、"たくさんの熱さ(=とっても熱い)"というわけで、さらに、ジャケ表面を見ると、"a presentation in latin jazz"とも記されている。つまりは、ラテン風アレンジもののアルバムであることを売りにしている盤で、コンテ・カンドリ(トランペット)やアート・ペッパー(アルト・サックス)らが参加するオクテット=八重奏団(他のパーソネルは下記のデータを参照)による演奏。本作は、特にアート・ペッパーのファンの間ではよく知られた盤とのことで、ANDEXというレーベルから出されたものの再発CDである(ちなみに、現行のCDは、さらに別の音源からの追加曲も含んでいるらしい)。 さて、上記のタイトルからして、聴き手は、本盤が"とっても熱い"盤であるかのような印象を持つ。しかし、実際に聴いてみると、さほどでもなくがっかりさせられる可能性が結構高いと思われる。というのも、ラテンの雰囲気は、曲によってばらつきがあるからだ。しかもそのラテン風味の中には、一応ボンゴを入れてラテンっぽくしてみましたといった感じのものまである。曲によってアレンジがまちまちで、時に中途半端。その結果、全編を通して、タイトルの"カロール(=ヒート、熱さ)"を演出し切れていない。これまでのところ筆者はそんな印象が否めないでいる。その大きな原因は、二つあると感じている。一つは、曲ごとにアレンジャーが異なり、アルバムとしての統一性が生まれなかったこと。もう一つは、良くも悪くも頭を使いすぎて、単純に楽しく“のる”というラテンっぽさが引っ込んでしまったことである。 いきなり、悪評ばかり述べているように思われたかもしれないが、一聴に値しない駄盤なのかというと、必ずしもそうではない。全部とは言わないが、いくつもの曲が十分に聴く価値のある好演盤だ。ただし、先述の通り、曲によってばらつきがあるのは事実である。したがって、アルバム全体の流れをあまり(というより、まったく)考えず、曲単位で楽しむという聴き方をお勧めする。 聴きどころと思う曲を挙げておきたい。まずは、2.「枯葉」。アート・ペッパーがソロ(決して長くはないソロだが)を吹いている。彼は別のアルバムで異なる「枯葉」の演奏も残しているのだけれど、それとはぜんぜん違う演奏に仕上がっているところが見事で、ペッパーの実力を思い知らされる。次に、4.「四月の想い出」は、2分半足らずの短い時間だけれども、アート・ペッパーがうまいアレンジを施し、楽しげな演奏に仕上がっていて、何度も繰り返し聴きたくなる魅力を持っている。あと、6.「アイ・ラヴ・ユー」と8.「オールド・デヴィル・ムーン」は、各ソロはさほど凄いわけではないにせよ、三管のバランスと配し方が非常によく、アレンジの勝利(ちなみにいずれもアレンジャーはビル・ホルマン)。それから、2曲のマンボ(3.と7.)は、全体の演奏としては、慣れない白人がラテンのノリに合わせているようで、気持ち悪い部分もなきにしもあらずだが、コンテ・カンドリの張り切り具合が気持ちいい。逆に、いまいちだなぁ、と思う曲もある訳だけれども、上で書いたように、アルバムで聴かず、曲単位で聴けばなかなか楽しめる一枚だと思う。[収録曲]1. Mucho Calor2. Autumn Leaves3. Mambo de la Pinta4. I’ll Remember April5. Vaya Hombre Vaya6. I Love You7. Mambo Jumbo8. Old Devil Moon9. Pernod10. That Old Black MagicConte Candoli (tp; arr. 7.)Jack Costanza (bongos)Chuck Flores (ds)Russ Freeman (p)Mike Pacheko (bongos)Art Pepper (as; arr. 3. & 4.)Bill Perkins (ts)Ben Tucker (b)Bill Holman (arr. 1., 5., 6., 8., 10.)Benny Carter (arr. 2.)Johnny Mandel (arr. 9.)録音: 1958年4月24日 Art Pepper アートペッパー / Mucho Calor 輸入盤 【CD】
2010年02月11日
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文句のつけようのない完成度、ブッカー・リトルNo.1の推奨盤 ブッカー・リトルは1938年、テネシー州はメンフィスの生まれで、エリック・ドルフィーとの共演でもよく知られるトランペット奏者である。クリフォード・ブラウン以降のジャズ・トランペットの世界で独自のサウンドを編み出した演奏者の一人として知られるが、1961年10月、わずか23歳で尿毒症により帰らぬ人となった。いわゆる"未完の大器"と評される、夭折のジャズ演奏者である。 本作『ブッカー・リトル・アンド・フレンド(Booker Little and Friend)』は、死の数週間前にレコーディングされたもので、この時点で23歳というのが到底信じられないほどの完成度を誇る。ちなみに、『ヴィクトリー・アンド・ソロー(Victory and Sorrow)』の名称で再発されたアルバムもこれと同一のものである。収録されている7曲のうち1曲(4.)を除き、すべてブッカー・リトルのオリジナルで、オリジナルの6曲は、いずれも知性とオリジナリティに溢れた佳曲と言ってよい。 本アルバムのタイトルは、『~・アンド・フレンズ』ではなくて、『~・アンド・フレンド』と"Friend"の部分が単数形である。ジャケットの左下には"Friends"と思しきメンバーの名前が並べられているが、上述のように"友人"は複数形ではない上、ブッカー・リトル自身の名もここには挙げられている。つまり、本盤のタイトルは“ブッカー・リトルと友人たち”の意味ではないという訳だ。しからば、その単数形の"Friend"とは何者なのだろうか。その謎を解くヒントはジャケットにあるようだ。ジャケットから判断する限り、その"Friend"とは、トランペットであり、実際、トランペットを大きく中心に据えた楽曲演奏が繰り広げられる。 無論、そうはいっても、トランペット以外に聴きどころのないアルバムではない。録音当時(1961年)、新進気鋭のミュージシャン、それもブッカー・リトル自身と同様、若手のミュージシャンが名を連ねている。その意味では、ハード・バップのエッセンスを充分に消化しながらも新たな時代に目を向け、新たな音楽を創造していこうという意志を持ったメンバー全体としての演奏を楽しむことができる。しかし、残念なことに、上で述べたとおり、ブッカー・リトルは本盤の録音後すぐに帰らぬ人となった。聴く側としてはついトランペットに意識が向かう。彼のトランペットは繊細で知的で、一つ一つのプレイが実に細やかな印象を与える。本盤はそんな部分が特にはっきりと表面に出た一枚だと思う。 中でも、筆者が特に薦めるのは、1.「ヴィクトリー・アンド・ソロー」、3.「ルッキング・アヘッド」、本アルバムでは唯一のスタンダード曲の4.「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」、さらには7.「マティルデ」である。いずれもブッカー・リトルのトランペットが美しい。彼の盤を一枚と言われれば、今のところ、“ブッカー・リトルは何がいい?”と訊かれて、最初の推薦盤にふさわしいのが本盤だと考えている。 [収録曲]1. Victory and Sorrow2. Forward Flight3. Looking Ahead4. If I Should Lose You5. Calling Softly6. Booker’s Blues7. MatildeBooker Little (tp)Julian Priester (tb)Don Freedman (p)George Coleman (ts)Pete La Roca (ds)Reggie Workman (b)録音:1961年8~9月 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ブッカー・リトル・アンド・フレンド +2 [ ブッカー・リトル ]
2010年02月08日
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INDEXページ(ジャンル別、アーティストのアルファベット順)を更新しました。 INDEXページへの入口は、下のリンクの他、本ブログのトップページ右欄(フリーページ欄)にあります。アーティスト別INDEX~ジャズ編へアーティスト別INDEX~ロック・ポップス編へアーティスト別INDEX~ラテン系(ロック・ポップス)編へ下記ランキング(3サイト)に参加しています。応援くださる方は、各バナー(1つでも2つでもありがたいです)をクリックお願いします! ↓ ↓ 1)にほんブログ村 2)人気ブログランキング 3)音楽広場
2010年02月07日
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同世代のアルト二人の共通点と相違点 ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)とジョン・ジェンキンス(John Jenkins)はいずれもジャズのアルト・サックス奏者。ともに1931年生まれで、録音当時、前者は25歳で後者は26歳と同世代だ。マクリーンは有名なのでいまさら説明不要だろうが、本ブログでもアルバム『スイング・スワング・スインギン』や「レフト・アローン」の名演奏を取り上げているほか、ジョージ・ウォーリントン『ライヴ・アット・カフェ・ボヘミア』、ドナルド・バード『フエゴ』、ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』など名盤への参加も数多い。他方、ジェンキンスは残した枚数は必ずしも多くなく、自身の名義の盤として残した数少ないうちアルバムの一つが『ジョン・ジェンキンス・ウィズ・ケニー・バレル』であり、これに次いで比較的知られているのが、マクリーンとの連名による本盤『アルト・マッドネス(Alto Madness)』である。 “マッドネス”のタイトルで思い出されるものとして、『テナー・マッドネス』という、本盤と同じプレスティッジ・レーベルから出されたアルバムが存在する。こちらは、ソニー・ロリンズが1956年に制作し、ジョン・コルトレーンをゲストに迎えたもの。しかし、この『テナー~』では、ある種“羊頭狗肉”で、両テナー奏者の競演は1曲のみだった(その1曲だけでも、貴重な競演なのは確かだけれど)。それに対し、1957年録音の本作『アルト~』の方は、ちゃんと1枚通して全面的に両アルト奏者が競演を繰り広げている。 ジョン・ジェンキンスは時として“マクリーンのイミテイター”と評される。確かに、集中せずに何となく聴いていると、本盤の演奏はどちらがどちらだかわからなくなる箇所もわりとある。原盤ライナーにもあるような「パーカーの伝統の若き実践者たち」という観点で捉えると、より混同を起こしやすくなるという事情もあるのかもしれない(とはいえ、どちらがどのパートを吹いているかは原盤の英文ライナーには書かれているので、ご安心を)。 そのようなわけで、時に紛らわしい部分もあるのだけれど、中~高音域の多い、とりわけ速いフレーズの演奏箇所を比べると、やっぱり両者は明瞭に違う。以前、ケニー・バレルとの共演盤の項で書いたように、ジェンキンスの方が“切れ味が鋭い”のである。これに対し、マクリーンは“ふくよかな”トーンが目立つ。少し集中して聴けば、両者のフレージングの(と言えばカッコいいが、早い話、“手癖の”と言ってもいいかもしれない)違いが随所で耳につく。つまり、二人ともが“曲”を意識して、いわば抑え気味に吹いている部分や曲のテーマ部分では似たところもあるのだけれども、同楽器の競演盤ということから思わず自己が出てきたり、つい張り合おうという気持ちがどこかで顔を出す。そんな部分ではやはりマクリーンとジェンキンスの違いの方がむしろ際立ってくる。 12分近い演奏の1.「アルト・マッドネス」での、交互に2~3コーラスずつを回す様子、3.「レディ・イズ・ア・トランプ」のソロの応酬といったあたりで両者を比べながら聴くのが楽しい。個人的な感想では、全体で見るとマクリーンの方が安定度とフレーズの洗練度で上だと思う。でもそれだけならば、マクリーンの別のアルバムを聴けばいいわけで、とりたてて本盤を聴く必要はない。では、ジェンキンスが入った意味がどこにあるのか。ジェンキンスの切れのあるフレーズが間に出てくるからこそ、演奏全体が単調や散漫にならず、緊張感をたたえたまま演奏が持続し、結果、マクリーンの出来が一層冴えるのにつながったのではないか思う。誤解を避けるために言っておくが、ジェンキンスの演奏がいまいちという意味ではない。ジェンキンスの存在感が大きいからこそマクリーンも優れた演奏を残したと言うべきだと思う。両者が揃って同時にテーマを吹く5.「ポンダリング」は、筆者が本盤中とくに気に入っているもので、アルト二管の緊張関係がよく伝わってきて、何度聴いても背筋が震える。[収録曲]1. Alto Madness2. Windy City3. The Lady Is A Tramp4. Easy Living5. PonderingJackie McLean (as)John Jenkins (as)Wade Legge (p)Doug Watkins (b)Arthur Taylor (ds)録音:1957年5月3日Prestige 7114
2010年02月06日
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よき時代のストレートなアメリカン・ロック トム・ぺティは1950年、フロリダ州で生まれ育ったアメリカン・ロック・アーティスト。若い頃には出身の町で出会ったドン・フェルダー(元イーグルスのメンバーで、「ホテル・カリフォルニア」のギター・ソロの演奏者)からギターの手ほどきを受けたという。1980年代後半には、大物集合の覆面ユニット、トラベリング・ウィルベリーズにも参加している。 トム・ぺティがデビューしたのは1976年で、その時からハートブレイカーズを率いての登場であった。本作『破壊(Damn The Torpedos)』は、1979年に発表されたサード・アルバムである。デビュー以来のハートブレイカーズとともに演奏しており、トム・ぺティにとっての出世作となった。ちなみに、本アルバムは、全米アルバム・チャートでは7週連続2位(1位ではなく「2位」!)という記録を樹立しており、この間、1位に上がることを阻んでいたのはピンク・フロイドの『ザ・ウォール』だった。 本盤は基本的にはストレートな直球で迫るアメリカン・ロックのアルバムである。エッジの利いた洗練された音作りに好感が持てる。そのサウンドの立役者は、ブルース・スプリングスティーンから紹介されたという共同プロデュースのジミー・アイオヴィンである。それでいて、アルバム全体で見ると、ただ突っ走るだけではなく、やや肩の力を抜いてリラックスした雰囲気の楽曲も含まれる。契約問題でもめていたとはいえ、3枚目のアルバム制作ということで、トム・ぺティの側にも余裕が出てきたということかもしれない。 本アルバムからは3曲がシングル・カットされている。シングル発売された順で挙げると、6.「危険な噂(Don't Do Me Like That)」、1.「逃亡者(Refugee)」、2.「ヒア・カムズ・マイ・ガール」である。シングル以外の曲にも佳曲が多く、4.「疑惑の影(Shadow of a Doubt)」などは同じ流れでシングルになってもおかしくない曲だ。5.「センチュリー・シティ」や8.「イン・マイ・ライフ」のように勢いがある真っ直ぐな曲もあれば、7.「ユー・テル・ミー」では次第に盛り上げていく曲調にアーティストとしての成熟と余裕が感じられる。9.「ルイジアナ・レイン」のようなテンポを落としたややスローな曲にも同様の余裕やリラックス感が表れている。曲調にはある程度のヴァラエティがあるが、一貫して統一されているのは、バンドとしての音のまとまりである。必要なところで必要な音がしっかりと鳴っている。とりわけ、ギターとピアノの音に着目すれば、このことがすぐにわかる。 赤の背景に赤いTシャツ・黒の上着をまとい、リッケンバッカーのギターとともにトム・ぺティ一人がおさまっているアルバム・ジャケットは十分にインパクトがある。30年以上たった現在から見ると、ピュアで真っ直ぐなアメリカン・ロックの“よき時代”への郷愁をかきたててくれるこのアルバム・ジャケも、シンプルながらよくできていると思う。[収録曲]1. Refugee2. Here Comes My Girl3. Even the Losers4. Shadow of a Doubt (Complex Kid)5. Century City6. Don't Do Me Like That7. You Tell Me8. What Are You Doin' in My Life9. Louisiana Rain1979年リリース。 【メール便送料無料】トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズTom Petty & The Heartbreakers / Damn The Torpedoes (輸入盤CD) (トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)
2010年02月04日
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リトル・リバー・バンドのオリジナル・アルバムを一枚選ぶならこれ リトル・リバー・バンド(Little River Band、日本語では“リトル・リヴァー・バンド”と表記される場合もある)は、1975年に音楽シーンに登場したオーストラリアはメルボルン発のロック・バンド。70年代後半から80年代初頭にかけていくつものヒットを飛ばし、1978年の「追憶の甘い日々(Reminiscing)」(参考動画(1)・(2))などのヒット曲で知られる。このグループは、米国をはじめ世界規模でオーストラリアの音楽シーンへの注目を向けるさきがけとなった。後々オージー・ロックのアーティストが世界進出を果たす道筋ができたのは、このバンドの成功による部分が非常に大きい。ちなみに、バンド名の“Little River”というのは、メルボルン近郊の地名らしいが、豪州アーティストの欧米進出の道筋をつけたことからしても、“小さな川”ならぬ“大きな川”の流れを形成したと言える。バンド自体は様々なメンバーチェンジを繰り返しながら現在も存続している。 1981年に発表された『光ある時を(Time Exposure)』は、オリジナルメンバーであるグレン・シャロック(ヴォーカル)とグレアム・ゴーブル(ギター)が揃って参加していた頃の作品。位置づけとしては、リトル・リバー・バンドの最盛期にリリースされたアルバムの1つにあたる。 リトル・リバー・バンドの大きな特徴の一つは、米国の西海岸(ウエスト・コースト)のロックに通ずるような爽やかなハーモニーである。この『光ある時を』でも、そのハーモニーは存分に生かされている。2.「心変わり(Man on Your Mind)」や3.「思い出の中に(Take It Easy on Me)」、5.「愛はいつまでも(Love Will Survive)」では、彼らの本領発揮ともいえる曲調とハーモニーが存分に堪能できる。さらに、そのハーモニーがさらに美しく冴えるのが、本作では4.「バレリーナ」や6.「フル・サークル」のような静かな曲調のものである。 このアルバムの特徴は、比較的ヴァラエティにとんだ楽曲が散りばめられている点だと思う。1.「ナイト・アウル」というタイトながら陰のある雰囲気からアルバムは始まる。上記のようなこのバンドを代表するサウンドの曲やハーモニーの冴えるスロー曲も含まれる。また、8.「悲しみの大通り(Suicide Boulevard)」のように憂いをたたえた曲調のものがあるかと思えば、10.「風まかせの人生(Don’t Let the Needle Win)」では力強いよりロック色の強いナンバーも聴かせてくれる。アルバムの最後を締めくくる11.「ガイディング・ライト」では、ハーモニーを封印しソロ・ヴォーカルでバラード曲を聴かせる。 それから、もう一点、個人的にこのバンドの好きなところがある。ヴォーカル・ハーモニーが売り物のバンドであるというのは事実なのだが、筆者は随所で短く聴くことのできるギター(ソロはもちろんバックの短いフレーズも含む)がいい。それらのギター・フレーズは基本的にはグレアム・ゴーブルの着想なのだろう。ただし、ここで言うギター演奏は、“魅せる”プレイでもなければ、存分にギターを堪能させるプレイでもない。ギター・ソロの部分も平均的にはさして長いものではない。たいていの場合、複雑なことはやっていないのだが、短くしばしばゆったりとしたスローな指運びの演奏の中に聴き惚れてしまうギター・フレーズが多い。 学生時代、それこそレコードが擦り切れそうなくらい聴いた盤なのでつい思い入れが強くなってしまうのだが、リトル・リバー・バンドのオリジナル・アルバムを一枚だけと言われれば、筆者は迷うことなく本盤をいちばんのお気に入りに選ぶ。[収録曲]1. The Night Owls2. Man on Your Mind3. Take It Easy on Me4. Ballerina5. Love Will Survive6. Full Circle7. Just Say That You Love Me8. Suicide Boulevard9. Orbit Zero10. Don’t Let the Needle Win11. Guiding Light1981年リリース。 【中古レコード】リトル・リヴァー・バンド/光ある時を[LPレコード 12inch]
2010年02月03日
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主役としてのベースというコンセプトが存分に成功した一枚 ポール・チェンバース(Paul Chambers)という名は少しジャズ(50~60年代のモダン・ジャズ)を聴き始めると、すぐにその名が気になり始めるベース奏者である。というのも、当時のジャズ・アルバムを何枚か聴けば、実に頻繁に彼がベースを演奏しており、ライナーなどをの情報を見ていればいやでも繰り返し彼の名を目にすることになるからである。本ブログの中で紹介したものを挙げてみると、レギュラー・グループのメンバーとして在籍したマイルス・デイヴィスの作品群(例えば『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』や『マイルス~ザ・ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』など多数)、ソニー・クラークの作品(例えば、名盤『クール・ストラッティン』)、ジョン・コルトレーンのアルバム(例えば『ソウルトレーン』)…といった具合だ。これ以上むやみに挙げてもきりがないし無意味なので止めておくが、要はこの当時のいろんなアルバムにことごとく顔を出すベーシストという訳だ。 ベースという楽器は普通は主役にはならない。ロックであれジャズであれ、時としてあってもなくてもいいかのようなひどい扱いを受けることもある。その理由は、本格的な音響装置ならいざしらず、普通の家庭で音楽を聴く環境や、街中でBGM的に音楽が流れている限りにおいては、ベースの音が耳につくことはあまりなく、早い話が“よく聞こえない=どうでもいい”という不当な評価に結びついてしまうからである。しかし、いろんなアルバムを注意深く聴けば、ベースが演奏の出来・不出来を決めてしまっていることが少なくない。 本盤は、タイトルからもわかるように、そんなベースという楽器をあえて正面に押し出し、際立たせたアルバムである。したがって、ベースが目立つように演奏・録音されている。ベースを意識して聴いたことはないがそうした聴き方を試してみたい、と思ったならば、一度本盤を聴いてみることをお勧めする。 1.「イエスタデイズ」や5.「ザ・テーマ」ではベースが巨大な低音バイオリンのようにメロディを奏でている部分がある。チェンバース得意の“アルコ奏法”であるが、これについてはファンの間で賛否両論がある。ちなみに筆者は結構好きで、本盤では1.の冒頭部分など幻想的でいいと思うのだけれど。 それはさておき、意識して聴いてもらいたいのは、むしろそれ以外の部分である。個人的な好みで、本盤所収の曲の中から2.「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」を例に挙げることにする。まず、注目すべき点のひとつは、ベースがメロディ・ラインを奏でている部分である。この曲で言えば、冒頭の部分しばらくはチェンバースのベースがこの曲のテーマとなるメロディを演奏している。普段意識していなくとも、そこに集中して聴けば、ベースが実はこれだけ表現力のある楽器だということに気づかされる。 さらに注目すべき第二点目は、続くギターのバックで演奏している部分。テーマメロディとそこから発展するソロを担っているのはギターのケニー・バレルである。だが、しばしその背後で鳴っているチェンバースのベースに注意を注いでほしい。これがあるからこそ、ギターの奏でるテーマやソロが“きまっている”ことにお気づきいただけると思う。そこまでいけば、後はピアノ(ハンク・ジョーンズ)が続いても同じで、ベースに耳を傾け続けられる。ベースが最後に再びテーマを奏でる頃には、ベースが“脇役”だという意識は薄れ、ベース中心で曲を楽しめてしまうことだろう。 本盤において、こうやってベースを前面に押し出すコンセプトが功を奏したのは、メンバーの人選による部分が大きいように思う。具体的には、目立つ管楽器を排したこと、代えてギター奏者(ケニー・バレル)を入れたこと、そして、控えめで優しいプレイをするピアノ奏者(ハンク・ジョーンズ)を迎えたことである。初めてジャズを聴くという人にはお勧めできないけれど、上で述べたようにベースの存在が気になり始めた向きには大いに推薦したい盤で、長く聴き続けられる一枚だと思う。[収録曲]1. Yesterdays2. You'd Be So Nice To Come Home To3. Chasin' The Bird4. Dear Old Stockholm5. The Theme6. Confessin'Kenny Burrell (g)Hank Jones (p)Paul Chambers (b),Art Taylor (ds)録音: 1957年7月14日Blue Note 1569 【送料無料】ベース・オン・トップ+1 [ ポール・チェンバース ]
2010年02月01日
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