吟遊映人 【創作室 Y】
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【 小野正嗣 / 九年前の祈り 】先月、久しぶりに友人のMさんと会った。お互い県内の西と東に分かれて住んでいるため、そうそう会うことは叶わない。今回は、県内の中部に当たる静岡で待ち合わせをし、久能山東照宮に参拝に行って来た。お互い、御朱印を集めてホクホクする仲なので、バスやロープウェイを乗り継いで行くのも厭わない。天気にも恵まれ、足取りは軽やかだった。国宝にも指定されている社殿を前に、私たちは帽子を脱ぎ、賽銭を投げ、柏手を打って、頭を垂れた。すんなりと頭を上げてしまった私の横で、Mさんはまだ頭を下げていた。一体何を祈っているのかは分からない。だが私の脳裏には、彼女のたった1人の息子さんのことが、ふと、過ぎる。息子さんは重度の知的障害者だった。その日は息子さんをデイサービスに預け、お迎えはご主人に頼んで、静岡までやって来たのだ。そんな折、私は小野正嗣の『九年前の祈り』を読んだ。あらすじは次の通り。今年35歳になるさなえは、息子の希敏(ケビン)を連れて、九州の田舎に戻って来た。希敏は少し他の子どもとは違い、スイッチが入ると大声で泣き叫んだ。まるで不当な酷い仕打ちを受けているかのように。そんな中さなえは、経済的にも心理的にも母子2人で東京で暮らすことに限界を感じていたのだ。九年前、国際交流のため町にやって来たカナダ人のジャックの案内で、カナダ旅行へ行くことになった。旅行メンバーは、町の社協職員と特養に勤めるヘルパー仲間だった。旅行は皆でワイワイ楽しかったが、移動で利用した地下鉄でハプニングが起きる。土曜日の午後ということもあり、地下鉄は混雑しており、仲間の2人を見失ってしまったのだ。皆を案内しているジャックは、友人のフレデリックと話し合い、ジャックだけ逸れた2人を探しに行くことにした。そして残った皆はフレデリックに連れられ、いったん地上に出て、ジャックが逸れた2人を連れ戻って来るのを待つことにしたのだ。そして、ふと目にした教会に、吸い込まれるように入っていった。そこではクリスチャンらしき人々が祈りを捧げている。さなえを始めとする日本人も、そのマネをして、一刻も早く逸れた2人が見つかるように祈りを捧げる。だがその中の1人、みっちゃん姉だけは、みんなが祈りを済ませてもまだ祈り続けていた。さなえはその長く祈りを捧げるみっちゃん姉の姿を、九年後になっても忘れられず、記憶として鮮明に残っていた。希敏の父親というのは、この時、カナダ旅行の現地で案内役を務めてくれたジャックの友人フレデリックであった。作者の小野正嗣は、1970年生まれ、大分県出身。東京大学教養学部卒。本作『九年前の祈り』で第152回芥川賞を受賞している。代表作に、三島由紀夫賞を受賞した『にぎやかな湾に背負われた船』がある。私と同世代ということもあるのか、内容がすんなりと頭に入って来て、琴線に触れるものがあった。文体は上品でしかも丁寧。おそらく第3の新人と呼ばれる戦後の新しい作家群の作品を読み耽ったのではなかろうか?祈りが単に願望、欲望の域を出ないものであったとしてもなお、人間が人間であり続けるための営みを描いた遠藤周作の『深い河』に通じる何かを垣間見た気がする。私は『九年前の祈り』を読み始めたとき、すぐに思い浮かんだのは、共生・共存への理解というテーマだった。例えばそれは外国人との共生だったり、発達障害などの様々な要因に対する理解、あるいは支援。言わば福祉の観点から描かれたヒューマン・ドラマなんだろうと推測していた。だが違った。それはモントリオールの教会で、みっちゃん姉が誰よりも長く祈り続ける姿を見た主人公のさなえが、九年後の未来に自分の姿と重ね合わせるところで理解する。みっちゃん姉には一人息子がいて、その息子は普通とは少し違っている。さなえにも希敏がいて、やはり普通とは違う。母と子の絆と言ってしまえば聞こえはいいが、キレイゴトとして捉えられてしまうので、この際もっと露骨に言ってしまおう。これは、切っても切れない縁、言わば因果なのである。そこにある事実から目を背けることはできない。そしてどうすることもできない状況に直面したとき、人々は跪き、祈りを捧げる。信仰心や奇跡を起こそうというものではない。もはや人間にとって最後に残された手段、それが「祈り」なのだと。私は、主人公のさなえが九年前に目にしたみっちゃん姉の祈る姿をずっと覚えていたと言う意味が、九年後になって初めて(点と線が)繋がったと思った。人は成長する。年月とともに変化し、物事を柔軟に受け入れるようになる。『九年前の祈り』は、人が祈りを捧げるときの本来の意味を教えてくれるものである。追記: 文庫本では、本作以外に『ウミガメの夜』『お見舞い』『悪の花』の計4編が収められている。これらはどうやら一本の線で繋がる関連した作品に思える。どの作品にも人間の深い業が描かれているものの、悪人は登場しない。『九年前の祈り』小野正嗣・著(講談社文庫)第152回芥川賞受賞作品 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ どうも、筆頭管理人です。記事とはまったく関係ありませんが、吟遊さんから「このごろ熱中しているもの」を二つお聞きしました。傑作でしたので、皆さんにもご披露しますね(^_-)その一、当初は「そんなの努力義務でしょ」と鼻で笑っていた吟遊さんですが、思うことあってヘルメットを購入したそうですよ!意気揚々と走る吟遊さんの姿を想像するに易いもんです(*^_^*)それでね、自転車の運動量(カロリー消費)にすっかり感激し、こまめに運動量をチェックしているようですが、自転車によって余計に食べた分が計算に入っていないから、結構なプラスになっていたりして(>_<)その二、チャッピーに夢中とか。でもね、変なプロンプト入れてチャッピーを困らせ、それで思い通りにならないと悪態ついたりと、傍若無人にふるまうもんだから、最後にはチャッピーもけつをまくったそうな!結果、AIと人間がトンチンカンなやりとりしているみたいですよ(*'ω'*)以上、皆さんには吟遊さんの近況をご案内致しました、おそまつでしたm(_ _)m ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ★吟遊映人『読書案内』 第1弾(1~99)はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾(100~199)はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第3弾(200~ )はコチラから
2026.07.04