石破茂と浜田靖一、防衛大臣を経験したふたりが率いる国会議員団が7月27日に台湾を訪問、翌日には蔡英文総統と会談した。東アジアの軍事問題が議題になったようだが、このテーマはロシアと中国を屈服させて世界の覇者となるというアメリカの戦略に深く関連している。「アメリカへの屈服」をある種の人びとは「平和と安定」と表現する。


アメリカ政府内で大きな影響力を持っていたネオコンは1991年12月にソ連が消滅した直後、自国が「唯一の超大国」になったと思い込み、アメリカ主導の新秩序を築き上げるための計画を国防総省の「DPG(国防計画指針)草案」として作成した。
その時の国防長官はリチャード・チェイニーだが、作成の直接的な責任者は国防次官のポール・ウォルフォウィッツ。そのため計画は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。チェイニーもウォルフォウィッツもネオコンの大物だ。
唯一の超大国という立場を維持するため、ソ連のようなライバルが西ヨーロッパ、東アジア、旧ソ連圏、南西アジアなどで出現することを阻止するだけでなく、エネルギー資源を支配しようとネオコンは決意したのだが、日本も潜在的ライバルとみなされている。彼らが最初に手をつけたのがユーゴスラビアだった。
しかし、この計画は21世紀に入ってウラジミル・プーチンを中心とするグループがロシアを曲がりなりにも再独立させたことで揺らぎ始めるのだが、ネオコンたちはその深刻さに気づかない。例えば、 フォーリン・アフェアーズ誌の2006年3/4月号に掲載されたキアー・リーバーとダリル・プレスの論文 では、アメリカが近いうちにロシアと中国の長距離核兵器を先制第1撃で破壊する能力を持てると主張している。
その分析が間違っていることは2008年8月7日に判明する。イスラエルやアメリカの支援を受けたジョージアが北京の夏季オリンピック開催にタイミングを合わせて南オセチアを奇襲攻撃したのだが、ロシア軍の反撃で惨敗したのだ。
この奇襲攻撃の7年前からイスラエルの会社(いわばイスラエル軍の企業舎弟)はジョージアへ兵器を提供すると同時に軍事訓練を実施していた。ジョージアのエリート部隊を訓練していた会社とはイスラエル軍のガル・ヒルシュ准将(予備役)が経営する「防衛の盾」で、予備役の将校2名の指揮下、数百名の元兵士が教官としてジョージアへ入っていた。イスラエル軍の機密文書が使われていたとする証言もある。(Ynet, August 16, 2008)
イスラエルがジョージアを軍事面から支えてきたことはジョージア政府も認めている事実であり、アメリカのタイム誌によると、訓練だけでなくイスラエルから無人飛行機、暗視装置、対航空機装置、砲弾、ロケット、電子システムなどの提供を受けている。(Tony Karon, “What Israel Lost in the Georgia War”, TIME, August 21, 2008)
ロシア軍の副参謀長を務めていたアナトリー・ノゴビチン将軍もイスラエルがグルジアを武装させていると非難している。2007年からイスラエルの専門家がグルジアの特殊部隊を訓練し、重火器、電子兵器、戦車などを供給する計画を立てていたというのだ。(Jerusalem Post, August 19, 2008)またロシア軍の情報機関GRUのアレキサンダー・シュリャクトゥロフ長官は2009年11月、NATO、ウクライナ、そしてイスラエルがジョージアへ兵器を提供していると主張している。(Ynet, November 5, 2009)
アメリカの場合、傭兵会社MPRIとアメリカン・システムズは元特殊部隊員を2008年1月あら4月にかけてジョージアへ派遣し、「アフガニスタンに派遣される部隊」を訓練。アメリカの国務長官だったコンドリーサ・ライスは奇襲攻撃の前の月、そして攻撃後の8月15日にもライスはジョージアを訪問している。
この当時、すでにアメリカはイラクでの軍事作戦に行き詰まっていたこともあり、戦略を変える。2009年1月からアメリカ大統領を務めたバラク・オバマは10年8月に「PSD-11」を承認、 ムスリム同胞団を 中心とする勢力を使い、中東から北アフリカにかけての地域で政権を転覆させるプロジェクトを始めた。いわゆる「アラブの春」だ。
ムスリム同胞団やサラフィ主義者を傭兵として使うという戦術はオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代にアフガニスタンで始めたものである。
オバマ政権は2013年11月から14年2月にかけてウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターを実行する。なお、オバマ政権の副大統領がジョー・バイデンだ。
そのバイデンは2021年1月にアメリカ大統領へ就任。それから間もない段階で「ルビコン」を渡った。1991年12月にソ連が消滅した直後から始めた世界制覇プロジェクトを継続、ロシア、中国、イランといった国々を屈服させるため、回帰不能点を超えたということだ。バイデンの背後にいる勢力にとって、この戦いは「勝つか、破滅するか」しかない。
ロシアにとって安全保障の上で重要な意味を持つウクライナにバイデン政権は兵器を供給、兵士を訓練、そして軍事的な挑発を繰り返した。その手先はクーデターの時と同じネオ・ナチだ。今年3月には東部地域で大規模な軍事作戦を予定していたと見られている。その予定はロシア軍の介入で狂った。ウクライナの戦況は8月に大きな節目を迎えると見られている。アメリカ/NATOはウクライナへ高性能兵器を供給し始めたが、敗北は避けられそうにない。
その8月、ウクライナでの戦争でも煽っていたナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問する可能性があるのだが、批判の声は小さくない。そうした中、石破と浜田が台湾を訪問した。バイデンのメッセージを伝えた可能性もある。