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「アンドレス様、このスペイン兵が俺の大事な手紙を踏みつけにしやがったんです!」
「おまえが勝手に床に紙をバラまいていたんじゃないか!
そのせいで、俺は暗い中で足を滑らせて、怪我を悪化させちまったんだぞ」
(こりゃあ、何やら、それぞれに言い分がありそうだ)
まだ状況がサッパリ掴めずにいたが、それでも、アンドレスは心の内でそう呟いた。
アンドレスは、今にも殴り合いに発展しそうな二人の間に割って入る。
そして、「二人共、少し落ち着いてくれ」と、自らも平静を保とうと深く息を吸い込んだ。
「二人でいっぺんに話されたら、何が何だか分からない。
ちゃんと双方の話を聞くから、順番に話してくれないか」
すると、クシャクシャになった紙のようなものを握り締めたインカ兵が、それをアンドレスの方に差し出しながら、すかさず口火を切った。
「アンドレス様、見てください!
これ、倅(せがれ)から送られてきた手紙なんです。
それを、このスペイン兵が、泥だらけの汚ねえ足で踏みつけにしやがったんです」
強度の悔しさと悲しさが混じりあった表情で切歯扼腕しているインカ兵から、アンドレスは、その手紙の束らしきものを受け取った。
確かに、その中の数枚が無残なほどシワだらけになっている。
その上、シワクチャの紙面には、大きな軍靴の足跡がドッカとついて、もはや文字が判別できるような状態ではなかった。
さすがに気の毒になって、なんとかシワを伸ばせないかと紙を引っ張りながら、アンドレスが優しく問う。
「君の所属と名前は?
君の息子さんが送ってきた手紙なのか?」
「はい」
怒りに燃えていた瞳の奥に、今は深い郷愁の色を宿して、インカ兵が溜息混じりに答える。
「俺は、ビルカパサ様の連隊に入っている歩兵のペドロと申します」
「何か大事なことが書かれていた手紙なのか?」
「いえ、内容は日常の様子を綴ってある他愛ないものです。
ですけど、故郷の家に残してきた7歳になる倅が、何年も帰還していないわたしを恋しがって、懸命にスペイン語の文字を覚えて、書き送ってくれたものなんです」
◇◆◇◆◇お知らせ◇◆◇◆◇
いつもお読みくださいまして、また、温かいコメントや応援を本当にありがとうございます!
申し訳ないのですが、所用のため、次回の更新はお休みさせて頂く予定です。
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
天候不順で蒸し暑い毎日が続く日々、どうかくれぐもご体調にお気を付けてお過ごしください。
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
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