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「そうだったのか…」
アンドレスは、ペドロと名乗ったインカ兵の言葉を聞きながら、胸痛む思いで自分の手の中の手紙に目を落とした。
インカには文字が無いため、手紙を書くにはスペイン語をマスターするしかない。
とはいえ、この時代、殆どのインカの人々は貧しく、まともに学校にも行けていないため、スペイン語の筆記を覚えようとしても容易なことではなかった。
軍靴の大きな足跡が泥の判をついたようにベッタリこびり付いたグシャグシャの紙片上で、ところどころ判別できる文字は、決して上手とは言えないが、子供らしい元気いっぱいな、そして、一生懸命な字体である。
もう何年も帰宅できていない父親に、子供たちはどんなに会いたがっていることだろう。
いや、子どもたちだけでなく、奥さんや両親など、残された家族誰もが、戦地に赴いた父親の無事を祈りながら再会の時を切望しているに違いない。
それもこれも、インカ軍幹部の自分たちが、この反乱を長引かせてしまっているためなのだと、アンドレスの胸はいっそう強く痛んだ。
周りでケンカの野次馬をしていた他の兵たちも、インカ兵やスペイン兵の別を問わず、皆、郷里や国に残してきた家族を思い出しているようで、いつしかシンミリした雰囲気が辺りを包んでいる。
しかし、その空気に負けじと、ケンカのもう一方の当事者であるスペイン兵が、いよいよ憤然と鼻息を荒げてペドロを睨み、吐き捨てるようにがなった。
「おまえ、人聞きの悪い言い方をするんじゃねえぞ!
俺は、わざとその手紙とやらを踏んだわけじゃない。
床の上に、もともと落ちていたんだ。
部屋は薄暗いし、足元なんか、まともに見えない。
おかげで、洗面所から戻ってきた俺は、その紙を踏んじまって、足を滑らせ、尾骶骨を強く打って、せっかく腰の傷が少し良くなっていたのに台無しだ!」
「なんだとぉ?!
人の大事な手紙を踏みつけておいて、その言い草は無いだろう!!」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
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