ミシガン・ロール症候群
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慣れと言う奴は恐ろしい物で、この前まで女子大に足を踏み入れる資格を持つ自分に異様なまでの自尊心を感じていたのに、一週間も経たない内に「だから?」とさえ考えないぐらいの日常に変わってしまっている。それが本来俺の持つストイックな性格ゆえか、お魚がイッパイいると言われてmy醤油持って行ったら水族館でした的な勘違いに気付いたゆえかは分からないが、とにかく淡々と校門をくぐり部室に向う。「おはよう」ドアを開き部室に入るととりちゃんが一人机に向かいレポートを書いている。「おはようございます」レポートに落とした視線を外しもせずに硬い声で言葉だけの挨拶をするとりちゃん。ああ、俺って嫌われてるんだな・・・と気落ちするどころか、わざととりちゃんの横に座り馴れ馴れしく話し掛ける。やはり慣れって奴は恐ろしい。「とりちゃんさあ、いつも遅れずに部室に来てるけど、ちゃんと講義受けてる?」・・・無視・・・いや、お前が言うな的な空気だけは発している所がカラカイ甲斐があると言う物だ。「しかし毎日毎日部活ってのも大変だよね。・・・とりちゃん彼氏いないの?」今まで淀み無く流れていたボールペンの動きが一瞬ピタリと止まり、すぐに何も無かったかの様に動き出す。「坂口さんにお答えしなきゃならない理由はありません」ククク・・・なんて素直な奴だ。さっきみたいに無視すりゃいいものを。俺はすかさず、「あ、悪い事聞いちゃったかな?ごめん、そんなつもりは無かったんだ」と、さも同情した様子で言うと、「は?別に悪い事なんて聞かれていませんけど?」キツイ視線で俺を睨む。「いや、いいんだ。誰にだって聞かれたく無い事はあるからな」「ですから!別に聞かれて困る事じゃあないです!」「じゃあ彼氏いるの?」キツイ表情のままフリーズするとりちゃん。「聞かれて困る事じゃないんだろ?」してやったり顔で聞き直す俺を奥歯をギリギリ噛みしめたまま睨んでいるとりちゃんに。「あ?やっぱりいないんだ?」「いないんじゃありあせん。今必要ないだけです」「え?あ、そう。・・・そうだよね。そりゃあ仕方ないよね」努めて冷静を装うとりちゃんを可哀想な子を見る目で見ながら言うと「本当です!彼氏なんて作っても面倒臭いだけですから。それにクラブなんかしてたら彼氏なんて作ってる暇なんてないです!」いつにも無くムキになっているとりちゃんに内心ニヤニヤしていたら「おはよう」二回生のイカちゃんが入ってきた。とりちゃんは何も無かったかの様に席に座ってレポートの続きを書き始め、「おはようじゃあないでしょ。あんた最近練習来てなかったじゃない」といつものクールさを取り戻してイカちゃんに苦言を呈している。せっかく盛り上がっていたのにちょっと残念に思っていると、いかちゃんがシレっと「だって彼が会いたいって駄々こねるんだもん。しかたないじゃん」ガキッとりちゃんの握るシャーペンの芯が折れた音だ。とりちゃんの肩をポンと叩き、同情めいた瞳で見ると、一瞬怒りの炎を目に宿したがすぐに冷ややかな目になり「ところで、そう言う坂口さんは彼女いるんですか?」「え?俺?」急なとりちゃんの反撃に動揺していると、とりちゃんはクスリと笑い「ゴメンなさい。悪い事きいちゃいましたか?」数分前同じ事をしていた俺がカチンと来た。「自分がされて嫌な事は人にするな」と学校で習ったが、正にその通りである。「な、何言ってんだ?いるに決まってんだろ」「へえ、そんな物好きな人がいるんですか?」「いるんだよ!そんな物好きな奴が!」と言い返し、ふと視線を上げるとオキデンと一緒に部室に入って来ていた彼女と目があった。どんな目だったかは言わなくても分かるだろう。「・・・あ、いや、物好な奴って言うのはその・・・言葉のアヤかな・・・ハハハ・・・」つい目を伏せてシドロモドロになっている俺をとりちゃんは見逃さない。「へえ、じゃあどんな人ですか」と挑発的に聞いてくる「それは・・・」恐る恐る彼女と見ると、「余計な事言ったらタダじゃ置かないわよ」的な表情で俺を見ている。挙動不審さが増す俺。「そ、それはだな・・・この世の物じゃ無いぐらい可愛くて鬼の様に優しくて、ヒールでドリフトなんかしちゃうような人だ」何言ってんだ?俺。彼女の視線が俺をおかしくさせる「ふ~ん。そうですか」案の定冷ややかな目付きでとりちゃんは俺を見る。「な、なんだ?疑ってるのか?」「疑ってるなんてそんな・・・いるんでしょうね・・・坂口さんの頭の中には・・・クスクス」「おい!人を脳内一人遊び上手みたいに言うな!」さらにヒートアップし出す所にパンパンオキデンが手をたたいて俺たちの注意を引き「はいはい。そろそろ時間だらかきがえましょ」と止めに入るので「でもとりちゃんがさあ・・・」と抗議すると「関係無い第三者としてはもうちょっと見ていたい気もしますが・・・」オキデンが彼女をチラリと見て小声で「後が怖いですよ?」な、なぜ?・・・ちゃんと可愛くて優しいって言ったじゃないか。「あの、着替えたいんですけど」「あ、ああ・・・」俺は部屋を出る為に入り口のドアに向かおうとして躊躇した。ドアの前には彼女が立っている。しかしそれを理由に部屋に留まる訳にも行かず足を進めると彼女がドアを開けてくれた。「あ、どうもすみません」ついオドオドと敬語になる俺。すると彼女は小さな声で「いえいえ、こちらこそ物好きなこの世の物とは思えない鬼ですみません」とニッコリ笑ってバタンとドアを閉められた。・・・あれ?俺そんな事言ったっけ?言わばいわれの無い怒りを受けた訳けだが、そんな理不尽な怒りに憤慨する前にまあ女性が文節を理解するより前に、耳に残ったインパクトのある単語に過分に反応する事を忘れていた自分を責めていた。まったく以って、慣れと言うのは恐ろしい物である。
November 9, 2010
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