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まだ痛む足をひこずりながら「おはよう」と部室に入ると「おはようございます」と返事が返ってくた。どこかぎこちなさがあるが、敵意であるとか反感などは感じない。なんせオキデンの横に座っている彼女が一番不機嫌さを醸し出しているのだから少々の反感など消し飛んでしまう。仕方ないので空いているとりちゃんの横の席に座るが、さすがとりちゃん。俺が座ってもピクリとも俺に視線を移さない。これは親交を深めねばと、内心ニヤニヤしながらとりちゃんに話しかけた。「よう、とりちゃん。どう?最近調子は?」我ながら、まったく頭を使わない会話の典型だ。しかし不機嫌な顔をしながらもとりちゃんは視線を上げ「調子ですか?何の調子でしょう?」適当な事を答えておけばいい物を真面目な奴だ。「ん~?化粧のノリ?」「生憎ですが、わたしはほとんど化粧をしないから分かりません」とさっさと書きかけのレポートに目を移そうとするが、そうはさせない。「へー とりちゃん化粧してないの?その割にはあれだね。やっぱりあれだから?」レポートに視線を移しかけたとりちゃんは少し苛立った顔で俺を見て「あの、申し訳ありませんけど、話をされるんでしたら、もっと具体的に話をしていただけませんか?」そんな事言われても、こっちはただ単にちょっかい出したいだけで後は何も考えていない。しかし、そんな事はおくびにも出さず「具体的にって、これ以上どう具体的に言えばいいんだ?これは言葉がどうこうじゃなくて人間関係の希薄さがお互いの意思疎通を妨げてるんじゃないか?ねえ由美ちゃん」とりちゃんの向かいで黙って台本を読んでいた一回生の由美ちゃんが急に話を振られキョどる。「え?え?」「やっぱり君もそう思ってるんだろ。うんうん、仕方ないよね。入部したてで慣れてないからね」話が見えていない由美ちゃんをそのままに話を進める俺。「ここいらで一発、胸の内を晒してお互いの距離を縮めて行こうじゃないですか!」「そんな事で人間関係が改善されるとは思いません。むしろ坂口さんの胸の内なんて聞いたら距離が遠のきますよ」冷めた目でしごくもっともな意見を述べるとりちゃんだが、もっともな意見なら「どう?調子は?」の段階ですでに放棄しているので聞こえない事にする。「じゃあ、順番に好きな子言おうぜ」「何を!」呆気にとられる二人を置き去りに更にヒートアップする俺「いいじゃん、言えよー。俺も言うからさー じゃあイッセイノーセイで一緒に・・・」「ここは修学旅行二日目の宿ですか!」おお!とりちゃんがツッコミを!・・・何だか二人の距離が少し縮まった気がする。「しません!」とキツイ目で否定するとりちゃんを無視して一人感慨にふけっていると「程よく親交が深められた所で、そろそろ練習しましょうか」とオキデンが割って入った。「いいけどさ、なんか人数が少ない気がするけど」キャストは5人。今いるのは俺ととりちゃんと由美ちゃんだけだ。「ええ、少ないですけど、始めましょう」事もなし気にオキデンは言うが、何か引っ掛かる。オキデンの後ろにいる彼女を見るが、未だに目を合わせてくれない。「あの・・・」「え?何?」引っ掛かりについて考えていたらオキデンが話し掛けて来る「着替えたいんですけど」「あ、いいよ。俺このままでいいから」オキデンに負けず、事も無し気に言うと「いえ、わたし達が着替えたいんです」「あーそうなの。いいよ着替えて」そう言うととりちゃん達が険しい顔で俺を見るが、まだまだ人間関係が希薄な為に、なぜそんな顔をしているのか分からない・・・事にしてると「坂口さん。いい事教えましょうか?」オキデンが優しい笑みで俺に言った。「え?何?オキデンのスリーサイズ?」「ゆっくり後ろを見てください」オキデンの優しい笑みに影が差す「ゴクリ」自分の息を飲む音がやけに大きく感じる「ゆっくりですよ・・・そうゆっくり」振り向くとやはり彼女がいた。「やあ・・・しばらく・・・」クイッ静かに燃える瞳の彼女が、アゴでドアを指した。ほら見ろ!具体的な言葉を発しなくても、人間関係が濃密ならばほんのワンアクションで意思疎通が来るんだ。俺はそれをとりちゃんに伝えたかったが、今は操り人形の様にカクカク手足を動かしながらドアに歩いて行くしかなかった。
July 22, 2010
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今日は水曜日。手伝っている劇団の稽古の日だ。俺は洗った豆絞りの手ぬぐいをポケットの中に大事に入れて稽古に出かけた。事の起こりは二日前・・・月曜日に稽古場に行った時だった。前回稽古に行ったのはまだ6月だったので本当に久しぶりに顔を出したのだが、駐車場に着くといつもより車の台数が多く、稽古場の入り口で脱いでいる靴も所狭しとばかり並んでいる。いったい俺が来ない間に何が起こったんだ?と思ったが、そこは1聞いて10知る俺。そう言えば新しい人が来るかもしれないと言っていた。きっとその人はネズミ年で、繁殖力が異常に強い体質な為に増殖を繰り返しているに違いない。ちょっとした疑問も冷静な視点を持って挑めば、慌てる事は無いと言う教訓だ。俺はスリッパに履き替え二階にあがりホールのドアを落ち着きをもって開けた。・・・え?・・・え?・・・なに?・・・もしかして・・・・確かに人数が多い事は覚悟していたが、まさか知った顔が一人もいないとは・・・パニックになりかけるが、冷静な俺がその場を取りまとめる。落ち着け!知った顔が無いぐらいで取り乱してどうする!お前は何日ぶりに稽古に着たんだ?浦島太郎だってほんの少し竜宮城に居ただけで帰って見ると知らない顔ばっかりだったじゃないか!しかし、ここで玉手箱を開けるのは愚の骨頂。冷静に周りを見渡して見ろ。浴衣に手ぬぐいに簡易PAからは盆踊りのリズム・・・・・・なるほど・・・俺は酷い勘違いをしていた。これは盆踊りの練習・・・そうか!そう言えば芝居の終わりに花火が何たらと言っていた・・・きっと芝居の最後に花火が打ちあがり、エキストラが緞帳の前で狂湾ばかりに盆踊りを踊りフィナーレを飾る寸方か!さすがハラダさん。やはり只者ではない。そうと分かればこうしている場合では無い。ちゃんと見ておかないと。俺は定位置であるステージの壁側に座りエキストラの踊りのを見ていたら、視界の隅に何か不吉な物が写った。俺の直感がそれを見てはならないと囁くが好奇心にはかなわない。チラリとその不吉な何かに視線を移すと身長 140センチぐらいで老婆が手招きしていた。「ニィーチャン。ちょっと来なせ」「え?・・・」「いいから来なせ」「はあ・・・」恐る恐る近づくと「ニィーチャン見ん顔じゃが、どこん人ね」「え?俺は照明の・・・」「は?」「いや、俺は照明を・・・」「はぁ?」「だ・か・ら照明の!」「はあはあ、道明んとこの孫か」「いや、違います」「わしゃ道明とこの周造とは昔馴染みでの、若い時は周造にはよく尻さわられたもんじゃ」人の話を聞け!いや、その前に、なんで俺が生え際が後退しつつあるオヤジに聞かされる「俺もこう見えて若いころはさんざんヤンチャしてな」的な話聞かされなきゃならないんだ?と言おうとして思いとどまった。相手は人生の大先輩だ。間違ってもそんな口を利く訳にはいかないので「ハァ」と言葉を濁していると「ニィーチャン何で踊らんのじゃ?」「いや、ですから俺は照明のプランを・・・」「はあはあ。そうか。豆絞りの手ぬぐいを忘れたんか。じゃあこれ使え」話を聞けババア!て言うか今どこから出したんだ?ちょっと湿ってるじゃねーか!こんなもん、よっぽどレアな変態じゃなきゃ使いこなせんわ!「豆絞りじゃぞ。乳搾りじゃないぞ。ひゃっひゃっひゃ」だ・か・ら!ドラえもんに頼んでタイム風呂敷でその乳元に戻してから言えっての!俺はこう見えてグロ耐性は低いいんだよ!「仕方ないのう。そこまで言うんならわしが踊り方教えてやろう」あれか?このババアはロープレの町の住人か?誰かが前にたったら自動的にプログラムされた言葉をしゃべるのか?いくら意思の強い俺でもスクリプトには適わない。仕方なく死んだ魚のような目をして踊る「ここはこうしてそうなってこうなるんじゃ」「はいはい、ここはこうでこうなると」「違う違う。ここがこうでこうしてそうなるんじゃ」「だから、ここがこうでそこにこうなってこうしてこう」「じゃからここはこうじゃと言うとるじゃろうが」「でもここはこうした方が未知なる何か挑む何者か的でいいんじゃね?」「馬鹿モン!ここはこうした方が円熟されたエロスがかもし出されてええんじゃ」「おいおい、そんなゴビ砂漠並みのシワからエロスなんて絞りだしちまったら、浴衣着る前に白い着物着る羽目になっちまうぜ?でここがこうと」「何言っとるんじゃ。他と比べて肌がしっとりしとるとお前んトコの周造も言っておったわ。そこはこうして」「他って像の足の裏と比べてか?分母がデケェと分子が少々酷くても値が同じになるから気をつけな。でこうしてこうなると」などと踊りの練習をしていたらそこそこの時間になった。「ハアハア・・・もうこんな時間か。結構汗かいちまったぜ」「たまにはいいもんじゃろ?こうして世間をわすれて汗をかくのも」「まあそうだな・・・」悔しいが俺はババアの言葉に素直に同意した。年寄りは国の宝と言うが、きっとその通りなんだろう。このババアにしたって、俺がまだ経験した事のない辛さや痛みを乗り越えて今こうやて笑っているのだろう。俺に付き合って踊ってくれた為に汗をにじませ少々浴衣が乱れたババアを優しげな笑みで見つめた。すると俺の眼差しに気付いたババアはハッと浴衣の襟を直し「やらしい。何見とるんじゃ!」ババア!テメェ人類の尊厳を著しく損なうような言動を取るんじゃねえ!しかも頬を赤らめやがって。血色の悪さと相まって紫色になってじゃねーか。チアノーゼと間違われたらどうすんだ!「まったく男ときたら、油断するとすぐにそっち方面にはしるんだから」どっち方面だ?その人類がけっして向かってはならない方面は?「まあ今回は大目に見といてやるわ。ちゃと練習しとくんじゃぞ」そういってババアは歩き出す俺は手にしていた豆絞りに気付き。「おい、手ぬぐい・・・」ババアは振り向きもせずに「やる。今日つきあってくれた礼じゃ」そう言って去って行った。「まったく・・・適わねえな・・・」俺はため息を一つ付き、豆絞りを手に家路についた。そして今日。俺はいつでもエンディングの盆踊りの練習が始まってもいいように、すぐに豆絞りを取り出せるように待機していた。次か?・・・いや、違うみたいだ。今度こそ!・・・違った・・・結局今日は盆踊りの練習はしなかった。けれど俺はいつ始まっても出遅れないように、あのババアに貰った手ぬぐいが入ったポケットに手を当てて稽古を見つめていた。
July 8, 2010
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「紀美?」そう呼ばれて通路側から後ろを振り向く彼女。「あれ?今から学校?そう言えば今日来てなかったよね」どうやら彼女の友達らしい。「美容院行ってたのよ。今日サークルのコンパがあってね。H大の人も来るから気合入れなくっちゃ」「そんな事ばかりやってて留年して泣いても知らないよ」うむ、それは後ろを向いて言うより横を向いて言った方がいいかもしれない。「それよりさ、あんたこそ何やってんのよ。横にいる人男の人でしょ?」「え?ええ、女の人じゃあないわね」彼女は少しうろたえているが、キッパリ男だと言ってくれ。その言い方だとオカマも最大公約数に入ってしまう。「誰?」「演劇部の手伝いをしてくださるK大の方よ」「何だ。彼氏かと思った」「な、何言ってんのよ。そんなんじゃないわよ」じゃあどんなんだ?こ1時間ほど問い詰めたい。俺がウズウズしていると彼女の友達が「まだ演劇部ってあったんだ。もう活動してないって思ってた」「してるよ。次ももうきまってるんだから」ちょっと声がムキになる彼女。「だって、3年生はもうオキデンだけなんでしょ?2年生も一人は真面目だけどもう一人は部活に出てこないし新入部員は入ってないって聞いたわよ」「新入部員は入ったわよ・・・一人だけど」おいおい,そこで弱気にならないように。「大体何であんたが手伝ってんの?演劇になんか興味なかったでしょ?」「だってオキデンががんばってるから・・・」「あんたちょっとはカワイイんだから、そんな事してないでもっと出会いがある事したら?」これだから素人は!出会い・・・あるんだよ。アメリカンドリームみたいな出会いがな。「それはそうかも知れないけど・・・わたし頑張ってる人って好きだから」いや、そこは否定しとこうよ。俺拗ちゃうよ。「何ならうちのサークル来る?H大の人と知り合えるよ」余計なお世話だ!コノヤロー!偏差値?そんな物で歯の裏に挟まった鶏肉の筋が取れるか!「間に合ってるから結構です」よく言った。新聞みたいな言われ方でちょっと引っかかるがよく言った。俺が内心で彼女を褒めていると友達は畳み掛けるように言った。「k大の人?でも演劇部の人ってなんか暗そうじゃん」「な!・・・」「難しい事言えば女の子が感心するって思ってるみたいな感じ?」「そんな事ないよ!」「だって~」とクスクス笑う彼女の友達。彼女の眉がしだいに釣りあがり、瞳が怪しく輝きだす。マズい、彼女が切れそうだ。「あなたね!」と彼女が言い出す前に「やっぱりそう思う?俺も薄々そんな気がしてたんだ」「キャ!」座席の上側からヌッと顔を出した俺を見上げて友達が悲鳴を上げた。「いや、顔はねそんなに悪くないと自分では思うのよ、でも付き合ってると思ってた娘に「そんなんじゃないわよ」なんて言われちゃうし、やっぱ暗いからか?」「え?いいえ、そんな・・・」この慌てふためき様を見ると、当のK大生が隣にいる事をすっかり失念していたみたいだ。「あれか?中学の時にスーパーカー消しゴムに手を出したのが悪かったか?やっぱりビックリマンシールにしとくべきだったかなぁ?」「何してるんです!」彼女の怒りが俺に向いた。「大丈夫だよ。ちゃんと靴脱いでるから」シートに膝をついて後ろの人と話すときの基本だからな。「そんな事言ってるんじゃありません!」「だってこの人の言う事はモットモだぞ。暗いのはダメだ。キャンディだって一人ぼっちで悲しい時も鏡に写った自分に笑ってって言ってたから色々な男をとっかえひっかえできたんだ。ねえ?」友達に同意を得る「あ、ええ。まあ・・・」「俺も頑張って明るくなって色々な女の子をとっかえひっかえ・・・イテテテテテテテ」耳を引っ張られシートに座らされる俺。「君、最近えらく乱暴になってない?」「猛獣を手なずけるには鞭が必要なだけです」「角砂糖はどうした?まずは角砂糖で気を引くのもんだろうが」「もう!・・・」俺の正当な主張に溜息で返す彼女。「悔しくないんですか・・・」「何が?」「何がって・・・あんな事言われて・・・」「まあ仕方ないんじゃない」「人の評価は気にしないんですか」「いいや、気にするよ。俺案外、そう言うの気にするタイプだから」「じゃあ何で」窓の外に目をやると小高い丘の上に立てられた校舎が見えてきた。そうそろそろ着くみたいだ。俺は彼女の問いにゆっくり答える。「芝居やっててまずやらなきゃならない事は人の評価を受け入れる事だ。見た人の評価が全て。後でいくらこう言うつもりだっただの、これにはこう言う意味があったって言っても面白くないものは面白くなかったんだからな」「でも・・・」彼女の言葉が終わる前に俺は話を続ける「人間関係もそうだろ?まったくの誤解や勘違いはあるけど、そう思われるのはその本人の問題だ。人の評価に対して問うべきなのは評価した人じゃなくて自分自身に問うべきだろ」それでも彼女は納得できないようだ。「でも、知りもしないのに偏見だけで決め付けるのは良くないと思います」「でも君は知ってくれているんだろ?俺の事」「え?」彼女の視点が俺の目に集中して固まる。「俺の事を知って、それで評価してくれているんだろ?」「・・・ええ」「じゃあ俺はそれだけで満足だ。お、もう着いたみたいだぞ」バスは広場の手前に止まった。彼女を促しバスを降りると目の前にキャンパスの芝生が青々と広がっている。あまりの気持ちよさに背伸びをしていると「あの・・・」「ん?」振り返ると、後ろの席にいた彼女の友達が恥ずかしそうに立っていた。「さっきはすみません。暗いなんて言っちゃって・・・」「何で?俺は君のおかげで人生の光明を見た気がしたぞ?これからは君を師匠と呼ぶつもりだ」「あ、いえ、ほんとうにすみませんでした」せっかくの俺の爽やかな笑顔に困った顔をして彼女の方に行き「ごめんね」「あ、いいよ気にしてないから」ウソをつけメチャクチャ気にしてただろ。「あの人おもしろ人ね。こんどちゃんと紹介して」と言って去っていった。「え?・・・ちょっと・・・」呆けた顔で去っていった方を見る彼女にニヤニヤしながら「で、いつ紹介してくれるんだ?よかったな君の思い通りになって。さぞや満足だろ」ガッ!向こう脛を蹴られてうずくまる俺を彼女は生ゴミでも見るような目つき見下し「ちなみに言っておきましょう。あなたを知って下した評価は・・・サ・イ・テ・イ・です!」と言って部室の方に歩いて言った。確かに人からの評価は飲み込むしかない。しかし、その作業は向こう脛の痛みを堪えるより難しかった。
July 3, 2010
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