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「フンフフフフンフフ~」鼻歌が出る状況。日常生活なら好きな作家の新刊を本屋で見つけ、それを買って帰る時。それと最近で言えば、バイト代が入って牛皿をオカズに牛丼を食った時も鼻歌がでたっけ。我ながら安上がりな性格だが、今回ばかりはそんな安すっぽい状況ではない。昨日・・・皆さんから距離を置かれた昨日、帰る時に彼女が明日はどうやって来るのか聞かれた。距離的に言えばバイクで来るのが近いが、夜にバイトが入っているので電車で来て、そのまま電車でバイトに行くと言うと。「じゃあ明日駅で待っててください。一緒にバスで行きましょう」なんでわざわざ一緒にバスで?と思ったが、断る理由は欠片もないので駅で待っているといつもの様に「待ちました?じゃあ行きましょう」あれ?バス停ってこっちじゃない?彼女に付いて行くと、そこに待っていた物は・・・T学院大のスクールバス。俺は蒼ざめながらバスを見つめて佇んでいると「バス代もバカにならないでしょ?これならタダですから」彼女はしたり顔で言うが、俺は蒼ざめた顔で彼女を見つめている。「・・・君・・・俺を犯罪者にするつもりか・・・」「大丈夫です。大学の許可取ってますから」俺は大きく首を横に振り「いや、そうじゃなくて・・・例えばだ、羊の群れに狼が放り込まれたとしよう。この場合狼が悪いのか放り込んだ奴か悪いのか・・・ふふふふ」「ふふふふ」俺の笑いに彼女の笑いが低く被せられる。「そんな事出来る訳有りません。だって、もしそんな事したら・・・ふふふふふ」気温が3度ばかり下がった。決して比喩ではなく下がった。「え?何なの?もしそんな事をしたら何なの!」「ふふふふ。ですからお痛したらダメですよ。」俺に背を向けバスに向かう彼女。「♪杭打て死なぬのは悪い魔女~♪」何だが薄気味悪い歌を口ずさんでいる。「だ、だからお痛したら何なんですか!気になって今日眠れないでしょ!」あわてて彼女を追う俺の頬に冷たい汗が伝わった。妙な緊張感を張り廻らしながらバスに乗り込んだが、根っからポジティブに出来ている俺の性根がそれを許さない。なんせ運転手以外の乗客は全て女性。しかも100%女子大生で構成されている。かと言って何かイケナイコトを起こせるわけじゃないが、それでも窓の外で暑い中自転車を走らせている奴らを見ると「見ろ人がゴミのようだ」とほくそ笑みたくなる。「フンフフフフンフフ~」ニコニコしながら鼻歌を歌う俺に彼女が「本当にあなたって無邪気なのかヤラシイのか判断に困る人ですね」と溜息と共に愚痴がこぼれるので。「もしも心の中が見れるなら・・・・」「なんですか?」「どれだけ俺の心が薄汚い欲望に満ち溢れてるか見せてやれるのに」「結構です!心の中どころか顔さえ見たくなくなります」「そんな事言わずに・・・あ!」急に声を上げる俺に彼女が驚いた。「な、何ですか?」「・・・なんかそんな歌詞無かったっけ?」「ありません!そんな薄汚れた歌詞は即座に発禁です」「いや、浜田省吾あたりが・・・」「浜ショーファンを敵に回す発言は止めてください!」それでも俺が能天気に鼻歌を歌っていると「いいんですか?」「え?なにが?」と聞くと彼女はちょっと言い辛いように「昨日の事です・・・あんな言い方して・・・」ああ、あの事か「いいんじゃない?俺のファーストインプレッションなんて無愛想とか怖そうとか何考えてるか分からない人ってのが殆んどだぞ」「わたしはそうじゃありませんでしたよ?」「変わり者ってのはどこの世界にもいるもんさ」カッ!俺が避けた靴先があった場所に彼女のヒールがヒットした音だ。「あんなの、うちのクラブでの第一印象に比べたらファンに手を振られるアイドル並みの扱いさ」「・・・何したんです?・・・」聞きたいような聞きたくないような、そんな感じで恐る恐る彼女が聞いてくる。「一回の夏休みが終わって、あまりに暇だったから見学に行ってさ、ちょうど一回生の新人公演の練習してて、スラップスティック・・・ドタバタ喜劇なんだけど」「どうでした?」「死ぬほど面白くなかった」「・・・ああそですか」「ああ、早く帰りてぇ、なんて思ってたら途中で議論しだすの。社会への皮肉だの、現代の貧富の縮図だの言い出して、面倒臭くなって適当に喧嘩売って帰っちゃおって思って」「それはもう第一印象の話じゃなくなってますよ。故意でしょ?何をしたかは知りませんが故意的にしようと思ったんでしょ?」「でさあ」「聞いてます?」都合の悪い事には俺のオプション機能の機能性難聴がONになる。「「何やってんの?」って聞いたらテーマがどうたらっていいだすから「テーマ?こんなスラップスティックにそんな物コジつける暇があるなら笑えない喜劇を何とかした方が時間の有効利用じゃねえ?」って言って帰っちゃった」「ハア・・・」彼女が深い溜息をつく「あなたの方こそ「何やってんの?」ですね」「だって初めから入る気なんてサラサラ無かったもん。暗いのって俺嫌いだから」「でも入部したんでしょ?」「その後一回生がバタバタと辞めちゃって3人だけになったのと、当時の二回生の先輩が面白がって入ってくれって言われた」どこでどうなるか世の中分からないものだ。「それに比べたら全然問題ないだろ?て言うか、むしろ好意を持ってくれてると考えてもいいぐらいだと思わない?」「ハア・・・呆れて笑いたい所ですけど、これが自分の彼氏だと思うと溜息しかでません」またも深いため息をつく彼女「始めに無理していい人ぶったって人との距離が縮まる訳じゃないさ。とことん付き合ってお互いを刷り合わせるしか人との距離を縮める方法はないからな」それがクラブを関して学んだ事だ。もっとももう関係なくなったけど・・・「紀美?」あやうくブルーが入りそうになった時、後ろの席から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
June 30, 2010
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来週から本気出す!
June 27, 2010
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6月9日いつもお手伝いしている地元の劇団の次の公演が決まったので見学に行く。今回はどんなお芝居なのだろう。高鳴る胸を押さえながら車に乗り込んだ。あまりに胸がときめきノドが乾いたので途中コンビニによってコーヒーを買った。しかし、いつからなのだろう?こちらの手の下に手を添えてお釣りを渡してくれるようになたのは。始めの頃は、若いご婦人に手を添えられた時は「い、いや、ぼ、ボクには愛する妻が」とお釣りを貰うのもそこそこに頬を染めて走り去ったものだが、今では慣れてしまい。「どうせ遊びなんでしょ!いいかげんな気持ちなら止めてよね」と言う気持ちになってしまう。しかも、それが男だった日には、手の平に残る暖かさが何時までも残っている様な気がしてハンドルを持つ手も心なしか乱暴になり。「ああ、世の中の交通事故の3%はこれが原因なんだろうな」と考えてしまう。いやいや。今はそんな事を考えてる時では無い。俺には崇高な目的があるのだ。少し遅れて稽古場に着き、中に入ると新しいメンバーがいた。この娘は見た事がある。たしか去年の○高演劇部の座長だった娘だ。・・・○高・・・読み方で言えば○ノコウになるが・・・「の」はどこに行ったんだ?、「○」だけになると読み方としては「○コウ」となってしかるべきだ。そんな事ぐらいと言うかもしれないが、「の」の立場になって考えて欲しい。例えばだ、「たのきんトリオ」と言うのが昔あった。田原俊彦(トシちゃん)、野村義男(ヨッちゃん)、近藤真彦(マッチ)の頭文字をとって「たのきん」だ。しかしながら残念な事にヨッちゃんは人気が薄かった。理由は色々あるだろう。だが、かと言って「たきん」とかいて「たのきん」と読ませたらヨッちゃんが可哀想だろうが!ヨッちゃんはギターが上手いんだよ。浜崎あゆみのバックバンドだってしてるんだからね!あ、いやいや。今はそんな事力説している場合ではなかった。稽古に手中しなくては。少し遅れて演出が到着。俺は初めてなのでセットがどうなっているか分からないので薄板に簡単に舞台平面図を書いてもらう。ふむふむここがカウンターでこっちが庭で、じゃあここはアルミサッシみたいな・・・アルミサッシ?アルミサッシのサッシって日本語?それとも外来語?なんか語呂的に日本語のような気もするがどう言う漢字なのだろう?思い浮かばない。それともガラスの様に当て字で硝子をどう読んだらガラスになるんだ?って感じの字なのか・・・だいたい硝子だってもっと分かりやすい当て字にしろよな。よく走っているガラス屋の軽トラのボディに「西園寺硝子」とか書いてるけど、あれを見て一瞬「さいおんじしょうこ」って女性の名前が書いてあると思った事があるのは俺だけじゃないはずだ。「さいおんじしょうこ」いかにもお嬢様でしかも儚げな名前・・・何で俺が三角の鉄枠積んだ軽トラ見て、儚げに溜息付かなきゃならないんだ!あ、いやいや。今はそんな事に気を留めている暇はない。集中しなくちゃ。稽古は9時半を過ぎ一応終わりとなる。しかし、ここで重大な争議が持ち上がった。キャストの一人が仕事が忙しく稽古に出れない為、キャストを降りるかも知れない。そうなると当然一人足りなくなり、その一人をどうするか。とりあえず現在高校生役をやっているグッチを大人の役に変えて、その高校生役を誰かにしてもらうとして・・・は!今この中でキャストに付いてないのは俺一人・・・もしかして高校生役を俺に?・・・いや、だがリアルに高校生の娘がいる俺に高校生役など・・・それはいくらなんでも限界が・・・「バカヤロー!」ガッ!ドタ「何すんだよ!」唐突に始まる俺劇場出演 すべて俺「何すんだよじゃねぇ!人間に限界なんてねぇんだよ!」「でも、そんな事言ったって・・・」「限界なんてもんはなあ、弱い心が作り出すまやかしじゃあねえか!」「・・・」「これを見ろ」「ハッ、それは俺の心の中の宝箱・・・」開けて見ると、そこには楳田さんのお母さんが言った「川口さんって何時までたっても若いねえ」という言葉がティッシュにくるまれて大事に入れてあった。「そうか・・・俺まだ戦えるんだよね・・・」拳を握り締め立ち上がるとした時、高橋君がボソリと言った「あ、でもこの役、女の子でもいいですよね」空気読め~~~~!!! たかはし~~~~!!!・・・いくらなんでも・・・さすがにこの年でセーラー服は恥ずかしいぞ心の奥底に勝算が無いわけではない。学生時代からの変わらぬプロポーション。十代では発揮出来なかった乙女の恥じらいも、四半世紀を経た今なら程好く熟成されている筈だ。しかし問題はそこでは無い。問題はスネ毛の処理をどうするかだ。黒いストッキングという手も無いわけでは無い。しかし女子高生は生足がデフォであるし、スカートは膝上10センチソックスは白。それが俺のジャスティス。異論は認めない。確かに大事な物の為に何かを失う覚悟は国家錬金術師になる時に出来ている。これすなわち錬金術の基本、等価交換なりでも・・・それでも失いたくない物もある。もし、スネ毛をそってしまったら・・・嫁は「あなたは変わってしまったわ」と、遠くを見つめるだろう。娘は「スネ毛をもじゃもじゃして蟻さんが出来ないなんて父さんじゃないよ」とヌイグルミを俺に投げつけるだろう。息子は「何でゴスロリじゃないんだよ!フリルのないコスなんて俺絶対認めないからな!」と俺を攻め立てるだろう。高橋君・・・君のその熱い思いは痛いほど良く分かる・・・でも少し待って欲しい一度家に帰ってゆっくり・・・そう、ゆっくり家族と話をして決めようと思う。なぜなら、それが家族だからだ。
June 13, 2010
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朝会社に出社して階段を上っていると後ろから同僚が「それケツ破れてない?」と声を掛けられた。すぐにズボンに手を当てて確認して見るとパックリ15センチは破れている。朝タンスから引っ張り出して穿いたが、考えて見ればこのズボンを穿くのは久しぶりだ。きっと破れてそのまま洗ってしまい、そのまますっかり忘れていたようだ。このままではマズイので朝仕事が一段落したら一度家に帰ろうと思っていたら急に忙しくなり、まあ昼にと思っていたら夜帰るまですっかり忘れていた。ここで「シュレーディンガーの猫」という量子力学で有名な話が出てくる。まあ簡単な話、猫と猫を死に至らしめるかもしれない装置を一緒に箱の中に放り込む。一定の時間放置して猫が死ぬ確立は50パーセント。一定の時間の経過後、箱の中の猫が死んでいるか状態と生きている状態が重なり合っていると考える事が出来る。逆に考えれば箱を開けて人が確認して始めてどちらかの状況が起きるという事だ。つまり、昼の間俺はその事を忘れて見てもいないので、俺のズボンのケツは破れていなかったのだ。恐るべし!シュレーディンガーの猫。幾度も人類の進化に関心する事があったが、これほどまで社会に貢献出来うる理論は始めてかも知れない。何にせよ、この理論のおかげで事なきを得た。ご機嫌な俺は鼻歌を歌いながら食卓に付き夕飯を食べていると嫁が「ちょっと、また口の下にご飯付いてるわよ」うむ?「あんた、ご食べたら必ず同じ場所にご飯粒付けてるけど、その部分細胞死んでるんじゃない?」などど失礼極まりない暴言を吐く。「何を非科学的な事をいってるんだ?これはな、きっとこの部分の磁場が狂ってるせいなんだ」「あんたの顔は富士の樹海ですか?」「男の子の身体は神秘に満ち満ちてるんだよ!」実に科学的な夫婦喧嘩である。「この前も帰って来た時、お昼ご飯のご飯粒つけたままだったじゃない。気をつけてよね社会人として恥ずかしいから」・・・恥ずかしいから?・・・・ふっふっふ・・・はっはっはっはこの愚か者め!己の無知を恥じるがよい!俺が居丈高に笑うと嫁は「ちょっと。恥ずかしいからご飯粒つけたまま偉そうに笑わないでくれる」と俺の勢いを殺ごうと必死だがそうはいかない。「君はシュレーディンガーの猫って言う話をしらないのかい?」「またアニメの話?」「違います。間違っても猫耳つけた萌え少女は出てきません」俺は実に有り難い話を嫁に聞かせるが。「だから?」・・・へ?「だから何の?」「だからって・・・いや、異なる二つの状態が同時に存在・・・」「現実は一つなの!」実に主婦らしい夢の無い言葉である。「あんたのはシュ・・シュ・・シュガーのウエディングベル?」シュレーディンガー。ちょっと無理やりすぎるぞ。「そうそう、その何とかの猫じゃなくて、あれ何て言うの?病気とかで毛をそった猫がラッパみたいな奴つけてるの」エリザベスカラーの事か?「それそれ。あれみたいに自分だけが恥ずかしい事に気付いて無いだけでしょ」いや、そんなはずは・・・異なる二つの・・・でも良く考えたら女子から何時にない熱い視線が・・・「あんた勘違い甚だしいんだから、せめて人の目ぐらいは気にしてね」どうやら俺はシュレーディンガーの猫では無く、エリザベスカラーの猫だったらしい。
June 9, 2010
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クラブセンターを出て6時前にはT学院に着いたが部室に行くまでの足取りは重かった。今日の俺はどうかしている。彼女が怒っていたのは俺の事を心配していたからなのに、俺はそれとは関係ない彼女の言葉に腹を立てた。揚げ足取りもいいところだ。とにかく謝ろうと思うが、部室が近づくにつれて足取りが重くなる事自体、自己嫌悪が増幅される。部室に着いた。まだ日は沈んでいないが、建物の北側にある非常階段の下にある部室は薄暗くなっている。明かりはついていない。もう彼女はいないのかと覗いてみると、薄暗い部室の中で一人俯いて机に座っていた。罪悪感で胸が締め付けられそうになった。ドアを開け中に入ると俯いていた彼女が顔を上げた。カタン彼女が立ち上がった拍子にたてた椅子の音が静まり返った部屋の中に響く。なんて声を掛けようかと考えていると、彼女が足早に俺のそばに来た。「大丈夫でした?」彼女が心配そうに尋ねる「え?」「木下さんの所に行ってきたんでしょ。ケンカなんかしませんでした?」眉をしかめ真剣な眼差しで問いかける彼女に押されて視線を外しそうになったが、何とか堪え彼女の目を見つめたまま答える。ウソをつくコツは第一に視線を動かさない事にある。「大丈夫だよ。誤解を解きに行っただけだ。木下も分かってくれたよ」俺の言葉にホッと息を吐く彼女。「よかった・・・もしケンカでもして坂口さんがクラブに行きにくくなったらどうしようかと思ってました」本当によかった・・・俺が嘘つきで。彼女はここで俺の事をずっと心配してくれていたんだ・・・そう思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。「あのさ、さっきはごめん」すると彼女は顔を曇らせ俯いた。やっぱりまだ怒っているのだろうか「寝不足でイライラしててつい・・・」と言おうとして止めた。寝不足だろうが何だろうが自分の口から出た言葉には変わらない。言えば速攻で自己嫌悪に陥る。ただ、次の言葉が出てこない。どっちにしても自己嫌悪だ。俺がただ「ごめん」としか言えないでいると「わたしの方こそごめんなさい]彼女が消えそうな声でつぶやいた。「わたし酷いこと言っちゃって・・・カッとなって思ってもない事を・・・本当です。わたしそんな事思ったことありません」「わかってるよ」だからこそ謝っている。「君は俺の事を心配してくれているのに、俺は俺の事ばっかり言ってた」俺が自嘲的にそう言うと、彼女は視線を落とし少し考えて言った「・・・わたし憧れてたんです」「何?」唐突な彼女の言葉についていけない俺「好きな人と一緒にキャンパスを歩いたり、教室で話したり・・・でも女子大だから無理だし、それどころか彼もいなかったし・・・」「はい?」やはりついて行けてない。「それでチャンスかなと思ったんです・・・坂口さんが客演に来てくれれば堂々と大学の中で歩いたりお茶飲んだり出きるかなって・・・」「それで俺を?・・・」「それだけじゃないです」いじけ顔の彼女に「でも、一番の動機はこれだと」コクンとうなずく彼女。「ハッハッハッハ」思わず笑ってしまった。「反省してるんですから笑わないでください!」真っ赤になりながら抗議する彼女「そんな自分勝手な気持ちで坂口さんに無理させてしまって・・・呆れました?」俺の顔色を見ながら聞く彼女に「呆れはしないけど驚いた」「そうですか・・・」沈み込む彼女に「彼氏いなかったんだね。驚いた」「そこじゃありません!」「君って以外にモテないの?」「身持ちが硬いと言って下さい!」ムキになる彼女に「たとえどんなに身勝手な理由でも、君が俺を誘ってくれた事には感謝してる。本当だ」彼女の顔がゆっくり上がって行く「その機会をどうするかは俺次第だ。だから俺は俺の為に多少の無理はする。いいね」彼女は少し考えて小さくうなずいた「それと、君が言った言葉は君は取り消して謝ってくれた。俺は君がそんな事思ってないとわかってて怒鳴った。それについては謝る・・・ごめん。これで全て解決でいい?」「はい」今度の返事はさっきより大きく、しだいに安堵の表情に変わっていった。「よかった・・・わたしの我が侭でみんなに迷惑かける所でした。これであなたがクラブの人と喧嘩でもしてたら、わたしあなたと会えないって思ってました」・・・それを忘れてた・・・「俺はそんなに馬鹿じゃないし大人だぞ?」つまり馬鹿で子供で、おまけに嘘吐きって事だ。「そう言えば卒業公演とかどうするんですか?」「やるとしても来年に入ってからだから問題ない」出来るだけ優しく笑うとする俺を彼女はなぜかジッと見つめている。「何?」「本当に喧嘩してないんですよね?」危うく固まりかけた表情を何とかキープする事に精一杯だった。ペンタゴンが女のカンを軍事利用しようとしているって噂もあながち嘘じゃないかもしれない。「なんで?喧嘩なんかしてないよ」「なんだか寂しそうでしたから・・・」視線を外さない事と、もう一つ嘘をつくコツ相手の言葉をやんわり反らし微妙に話を変える事。「そうか?俺はもともと小ウサギ並に寂しがりや屋なんだ」すると彼女は俺の胸におでこを付けて言った。「大丈夫です・・・わたしがいますから」彼女との距離は0センチ手を前に回せ彼女の腰に回り熱き抱擁が完成する。でも、それはひどく卑怯な気がして、俺は電信柱のように突っ立っているだけだった。「みんなの所に行こうか?もう練習始まってるだろ」「そうですね」名残惜しそうに俺からはなれた彼女と一緒に部室を出る。練習場所は本校舎の二階にある講義室の一室で行われている。キャンパスの中心にある芝生を歩きながら「腕でも組むかい?憧れなんだろ」とからかうと「こんなに明るいと誰が見ているかわかりませんから今度にします」「でも、暗くなると腕を組むだけじゃすまなくなるぞ」すると彼女が「あの、みんな男の人に免疫がないですから、そんな調子で大丈夫ですか?」と心配げにしているので「大丈夫だって、4人兄弟末っ子長男の協調性がどんな物か見せてやんよ」そんな話をしながら練習している講義室に着いた。後ろの入り口から入ると、もうすでに始めている。俺と彼女は後ろの机に並んで座り、しばらく見学しているとオキデンが頭の上にクエッションマークを付けて俺を見た。俺は親指を立てて無事話が終わった事を伝えると、オキデンはコクンとうなずく。さすがオキデン。話が早くて助かるオキデンが手を叩いて練習を一時中断してみんなに言う。「今回客演で出演してくださる坂口さんです。みんな知ってるよね?」みんなと言ってもそこにいるのは三人だけとりちゃんは無表情で、由美ちゃんは怯えるように、もう一人は良く知らない娘。おや?もう一人キャストがいるはずだが?俺の疑問をよそにオキデンが「坂口さん。練習見られていかがです?意見があれば言って下さい」「言っていいの?」「どうぞ」じゃあ挨拶代わりに軽く気になる所でもいってお茶をにごそう「セリフの言い回しとかは始めたばかりだから今言うってもしかたないけど、誰かのセリフの後、自分の番だって予備動作もなしに前に来てセリフを言って元に戻る・・・これね、世間では・・・」ここで言葉を止め一人一人を無表情で見渡した後「学芸会って言うんだよ?」ピシッ!あ、空気が凍った。横を見ると、さっき「わたしがついてます」って言った彼女すら50センチほど身を引いている。いきなり四面楚歌?まだ始まったばかり・・・ガンダムで言うところのアムロが連邦の新型モビルスーツに乗り込み「こいつ・・・動くぞ・・・」って段階で?テムレイエンジンの性能並みの、俺の協調性の威力に俺はただ驚くばかりだった。
June 6, 2010
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通常、バイクで40分かかる道のりだが、30分もかからずクラブセンターに到着した。階段を上がり部室のドアを開けると一番奥に木下がいた。後輩の「おはようございます」の挨拶にも応じもせずに木下の前に行き、俺に気付き後ろめたい顔をしている木下に「どういう事だ」いつもの砕けた感じを微塵も見せず低い声で問いただす。「え?何の事です」「とぼけるなよ。オキデンに電話したんだろ?何で俺に言わない」「いや、電話しようと思ったんですけど連絡取れなくて・・・」「それでかよわい女の子に苦情の電話か?・・・ずいぶんお偉くなったもんだな」不安定に視線を揺らす木下を冷たく見据える。「し、仕方がないでしょ。こう言う事はちゃんとクラブを通じて話を通してもらわなきゃ示しが付きません」「示し?どこのヤクザだ?俺には面子つぶされたお前の嫌がらせにしか見えないぞ」本来木下は人懐っこくて人情にもろい奴なのは俺も知っている。部長に押し上げられて肩を張る気持ちや本来もっているコンプレックスが木下を意固地にさせているのもわかる。だが、それとこれとは話は別だ。「で、わざわざ出向いてやったんだ。お話をお伺いいようか?部長さん。俺の客演はなぜ許可できない?」不規則に動く木下の視線がより不安定になる。「ちょ、直接個人に頼むなんて筋が違います。しかも台本まで書かせて・・・」「じゃあなぜ俺が話した時にそう言わない?」「お、俺だけの意見じゃありませんよ。これは執行部で決めた事です」「・・・そうか、お前らの総意ってわけだな」俺は近くにいた三回生を見渡すと皆目を伏せる。「やっぱり個人が外の大学の依頼を受けるのはマズイですよ。クラブとして成り立ちません」「じゃあ俺がここと関係なければ問題ないわけだな」慌てる木下を無表情で見つめる。「問題ないだろ?どうせ俺は引退した身だ。後は卒業公演か追い出しコンパぐらいなもんだからな、お前らには迷惑かからん」「そんな事いってるんじゃ・・・」「なんだ?退部届けが必要か?」そう言って木下を見据えると、木下は俺の意思に気付いたようで言葉を失う「じゃあな」そのまま振り返りドアへと急ぐ「坂口さん・・・」三回生の一人が呼ぶが「世話になったな」とだけ言って外に出る。中庭に面した廊下を通り階段の手前まで来た時、ボギャンとサキエちゃんが階段を上がってきた。「あー坂口さんだー」「なんや、邪魔や言うてんのに、また来はったんですか」何もしらない二人はいつもの様に声を掛けてくるが、人間が出来ていない俺は顔が戻らない。いつもと様子が違う事にボギャンは気付き「・・・どうかしはったんですか?」サキエちゃんも心配そうな顔で俺を見ている。「いや何でもない」と階段を下りようとすると「もう帰るんですか?」「邪魔ですけど、たまになら我慢しますよ」こいつらに心配されるなんて俺もどうにかしている。俺はなんとか笑い「ちょっと用事があってな」「そうですか、また来てくださいね」心配そうなサキエちゃんの頭をポンポンと叩き「元気でな」と言って階段を下りた。今度はちゃんと笑えたのがせめてもの救いだ。俺は階段を下りて中庭に設置されている自販機の横を過ぎ、吹きざらしの守衛室の前を通ってクラブセンターの外に出た。ふと振り返り、守衛室の上にある練習場を見上げた。まだ誰も来ていなくて灯りの消えているその場所がやけに寂しそうに見えた。
June 3, 2010
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