5月24日(金)
現代俳句(抜粋:後藤)(54)
著者:山本健吉(角川書店)
発行:昭和39年5月30日
原 石鼎(7)
大いなる花の 菫 に夜明け 来 し
昭和十六年作。
花のたたえた紫色に訪れた夜明けのほの明りが意識される。おおきな菫をぽっかり浮出させた朝の光に、この病者は一抹の心のなぐさめを見出している。
蜘蛛 消えて只大空の 相模灘
昭和二十六年作。
昨日までありどころに蜘蛛の姿を求めようとしてさまよった所在ない病者の眼が、その一点の黒を見失って、ただ虚空と融け合った輝かしい夏の海を見出した空虚さ。取り残されたのはうつろな空間ばかりではない。心の大きな空洞がぽっかりと埒もなく取り残されているのだ。裏にはやはり病者の心理が鋭く働いていると思える。
(つづく)
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