5月25日(土)
現代俳句(抜粋:後藤)(55)
著者:山本健吉(角川書店)
発行:昭和39年5月30日
原 石鼎(8)
鳴きわたる 鶯 も杖も雨の中
遺詠(昭和二十三年以降)より。
淡々として凝滞のない晩年の心境をうかがうことができる。病中の庭に杖にすがって、鶯の囀りを聞きとめたのである。「鳴きわたる」におおらかな感情がこもっている。「鶯も杖も」と言ったのが、無造作のようで、なかなか味わい深い。ことに「杖も」の三字が。この句の生活的な味わいが深くしみ出して来た。
寒 雁 のほろりとなくや 藁 砧
遺詠(昭和二十三年以降)より。
寒雁が一声二声、声を落として過ぎて行った。あとは農家で藁砧を打つ音が休みなしに聞えてくるだけ。雁の鳴く声を、「ほろりとなくや」のような形容は誰もしなかった。地上に声を落として行った感じである。その地上にはひっそりと冬ごもる農家のなりわいがあるのだ。声が重さのあるものとして、藁砧の上へおちてきたような感じ、乾いた冬空からの一滴のしずくのように。
(つづく)
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